説明

内燃機関の動弁駆動装置

【課題】動弁駆動装置における第二の作動弁に異常を生じた場合においても、内燃機関の破損を防止することが可能となると共に、通常のエンジンサイクルを成立させ、少なくとも必要最低限の運転の継続を可能とする。
【解決手段】加圧された作動流体が貯留される高圧室2に接続された制御室18と、制御室18と高圧室2との間に設けられ、バルブ11を開弁させるときに開かれ、作動流体を高圧室2から制御室18に導入するための第一の作動弁20と、制御室18に接続された排出通路19に設けられ、バルブ11を閉弁させるときに開かれ、作動流体を制御室18から排出するための第二の作動弁30とを備え、制御室18に逃がし通路45を接続し、逃がし通路45に所定圧力でバーストする破裂板46を設け、第二の作動弁30が閉じている状態における破裂板46のバースト部開口面積を破裂板46のバースト後もバルブ11を開閉駆動できるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の動弁駆動装置に係り、特にカム機構を有さず、流体圧を利用して動弁系の開閉を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン制御の自由度を高めるため、カムによるバルブ駆動を廃止し、これに代わってバルブを電磁駆動又は油圧駆動とする、所謂カムレス方式の動弁駆動装置が有望視されている。特許文献1等にはこのような技術が開示され、当該装置によるとバルブの開閉タイミングやリフト量を自由に設定できる。
【0003】
【特許文献1】国際公開第02/079614号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1に記載の油圧駆動の動弁駆動装置は、加圧された作動流体が貯留される高圧室に接続された制御室と、制御室と高圧室との間に設けられ、バルブを開弁させるときに開かれ、作動流体を高圧室から制御室に導入するための第一の作動弁(高圧制御弁)と、制御室に接続された排出通路に設けられ、バルブを閉弁させるときに開かれ、作動流体を制御室から排出するための第二の作動弁(排出弁)とを備える。
【0005】
当該装置では、第二の作動弁のソレノイドコイル断線や可動部分の固着等により、第二の作動弁を開弁することが出来なくなり、その結果、制御室の圧力を解放することが出来ず、バルブが開弁したままとなる場合がある。
【0006】
バルブが開弁したままとなった場合、エンジンサイクル(4サイクル機関の場合、吸気行程〜圧縮行程〜膨張行程〜排気行程)が成立しなくなり、動力を発生することが不可能となる。また、エンジンピストンの上昇によってバルブとエンジンピストンとの干渉が生じ、最悪の場合、バルブの折損、エンジンピストンの破損等が生じ、内燃機関の破損につながることとなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、流体圧を利用してバルブを開閉駆動する装置における第二の作動弁に異常を生じた場合においても、内燃機関の破損を防止することが可能となると共に、通常のエンジンサイクルを成立させ、少なくとも必要最低限の運転の継続を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の吸気弁又は排気弁をなすバルブを開閉駆動するための装置であって、加圧された作動流体が貯留される高圧室に接続された制御室と、該制御室と上記高圧室との間に設けられ、上記バルブを開弁させるときに開かれ、作動流体を上記高圧室から上記制御室に導入するための第一の作動弁と、上記制御室に接続された排出通路に設けられ、上記バルブを閉弁させるときに開かれ、作動流体を上記制御室から排出するための第二の作動弁とを備え、上記制御室に逃がし通路を接続し、その逃がし通路に所定圧力でバーストする破裂板を設け、上記第二の作動弁が閉じている状態における上記破裂板のバースト部開口面積を上記破裂板のバースト後も上記バルブを開閉駆動できるように設定することを特徴とする内燃機関の動弁駆動装置である。
【0009】
請求項2に係る発明は、上記破裂板のバースト部開口面積は、次式から決定される請求項1に記載の内燃機関の動弁駆動装置である。
Aout≦Ain√(PhiApis/Fvlv−1)
Aout;破裂板のバースト部開口面積、Ain;第一の作動弁の開口面積、Phi;高圧室の作動流体圧力、Apis;バルブの受圧面面積、Fvlv;目標リフトにおいてバルブに作用する力
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、動弁駆動装置における第二の作動弁に異常を生じた場合においても、内燃機関の破損を防止することが可能となると共に、通常のエンジンサイクルを成立させ、少なくとも必要最低限の運転の継続を可能とすることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る動弁駆動装置の概略図である。
【0013】
本実施形態は、車両用等のコモンレールディーゼルエンジンに適用したものである。
【0014】
まず、コモンレール式燃料噴射装置について説明すると、エンジンの各気筒毎に燃料噴射を実行するインジェクタ1が設けられ、インジェクタ1にはコモンレール2に貯留されたコモンレール圧Pc(数10〜数100MPa)の高圧燃料が常時供給されている。コモンレール2への燃料圧送は高圧ポンプ3によって行われ、燃料タンク4の燃料が燃料フィルタ5を通じてフィードポンプ6によって吸引吐出された後、高圧ポンプ3に送られる。フィードポンプ6のフィード圧Pfは、リリーフ弁からなる圧力調整弁7によって調整され、一定に保たれる。フィード圧Pfは当然コモンレール圧Pcより低い値で、例えば0.5MPa程度である。
【0015】
図示する装置全体を総括的に制御する制御装置としての電子制御ユニット(以下、ECUという)8が設けられ、ECU8にはエンジンの運転状態(エンジンのクランク角、エンジン回転速度、エンジン負荷等)を検出するセンサ(図示せず)が接続される。ECU8は、これらセンサの信号に基づいてエンジン運転状態を把握し、且つこれに基づいた駆動信号をインジェクタ1の電磁ソレノイドに送ってインジェクタ1を開閉制御する。電磁ソレノイドのON/OFFに応じて燃料噴射が実行・停止される。噴射停止時にはインジェクタ1から常圧程度の燃料がリターン回路9を通じて燃料タンク4に戻される。ECU8は、エンジン運転状態に基づいて実際のコモンレール圧を目標圧に向けてフィードバック制御する。このため、実際のコモンレール圧を検出するためのコモンレール圧センサ10が設けられる。
【0016】
次に、本実施形態に係る動弁駆動装置について説明する。11がエンジンの吸気弁又は排気弁をなすバルブである。バルブ11はシリンダヘッド12に昇降自在に支持され、バルブ11の上端部は一体のピストン13となっている。即ち、バルブ11にピストン13が一体に連結される。バルブ11の上部に本装置の主要部をなすアクチュエータAが設けられ、アクチュエータボディ14がシリンダヘッド12に固設され、ピストン13はアクチュエータボディ14内を摺動昇降可能である。なお、図示例は一気筒の一個のバルブについてのみのものであるが、多気筒或いは複数のバルブについて開閉制御したい場合は同じ構成を当該バルブに与えれば良い。また、本実施形態ではバルブ11とピストン13とを一体的に形成したが、別体として構成しても構わない。
【0017】
バルブ11には鍔部15が設けられ、鍔部15とシリンダヘッド12との間にバルブ11を閉弁方向(図の上側)に付勢するバルブスプリング16が圧縮状態で配設される。本実施形態では、バルブスプリング16がコイルスプリングで構成される。アクチュエータボディ14内に鍔部15を吸引する磁石17が埋設され、この磁石17によってもバルブ11が閉弁方向に付勢される。本実施形態では、磁石17はバルブ11を囲繞するようなリング状の永久磁石である。ピストン13は少なくともバルブ11の上端の部分であり、アクチュエータボディ14に軸シールをなしつつ挿入される。
【0018】
アクチュエータボディ14内に、ピストン13の上端面(即ち、受圧面43)に面した制御室18が区画形成される。制御室18は、バルブ11を開作動するための加圧された作動流体が供給されるもので、その底面部分が受圧面43によって区画形成される。本実施形態では、作動流体にはエンジンの燃料と共通の軽油を用いる。制御室18に高圧燃料が導入されるとバルブ11が開弁方向(図の下側)に押され、この押圧力がバルブスプリング16及び磁石17の付勢力を上回るとバルブ11が下方に開弁(リフト)する。一方、制御室18には排出通路19が接続され、この排出通路19を通じて燃料が制御室18から排出されると、バルブ11が閉弁する。
【0019】
制御室18は、主にアクチュエータボディ14内に形成された断面円形且つ一定径のピストン挿入孔44からなり、このピストン挿入孔44にピストン13が摺動可能に挿入される。そしてバルブ11が全閉から全開になるまでの間、ピストン13がピストン挿入孔44から外れる(抜ける)ことはなく、ピストン13は常にピストン挿入孔44の内面に接している。言い換えれば、バルブ11が全閉から全開になるまでの間、ピストン13の移動量に対する制御室18の容積の増大量の比は一定に保たれる。
【0020】
制御室18の上方に、制御室18への高圧燃料の供給又は供給停止を切り換えるための第一の作動弁(高圧制御弁)20が設けられる。本実施形態では、第一の作動弁20に圧力バランス式制御弁を採用している。
【0021】
第一の作動弁20は、バルブ11と同軸に配されたニードル状のバランス弁21を有する。バランス弁21の上端部に軸シール部40が形成され、軸シール部40の下方に供給通路22が、軸シール部40の上方に弁制御室23がそれぞれ区画形成されている。バランス弁21の上端面は弁制御室23内の燃料圧力が作用される受圧面となっている。これら供給通路22と弁制御室23とは、アクチュエータボディ14内に形成された分岐通路42と、外部の配管とを介して、高圧作動流体供給源(高圧室)としてのコモンレール2に接続され、コモンレール圧Pcの高圧燃料が供給通路22及び弁制御室23に常時供給されている。後に分かるが、バルブ11のリフトはこのコモンレール圧Pcの高圧燃料によって生じるものである。
【0022】
供給通路22は、バランス弁21の下部側に面して制御室18に連通されると共に、その途中にバランス弁21の下端円錐面が線接触又は面接触される弁シート24を有する。弁シート24の下流側に供給通路22の出口41(即ち、制御室18への高圧燃料の入口)が設けられる。この出口41は、バルブ11と同軸に位置されると共に、ピストン13の受圧面43に指向され、出口41から排出或いは噴出される高圧燃料を制御室18に導入するようになっている。また、出口41はバルブ11又はピストン13の移動方向又は軸方向と同方向に指向され、受圧面43はその軸方向に垂直な円形の面である。
【0023】
弁制御室23には、バランス弁21を閉弁方向(図の下側)に付勢するバネ25が設けられる。バネ25はコイルスプリングからなり、圧縮状態で弁制御室23に挿入配置される。また弁制御室23は、燃料の出口であるオリフィス26を介してリターン回路9に連通される。オリフィス26の上方にはこれを開閉する開閉弁としてのアーマチュア27が昇降可能に設けられ、アーマチュア27の上方にこれを昇降(開閉)駆動するための電気アクチュエータとしての電磁ソレノイド28と、アーマチュアスプリング29とが設けられる。電磁ソレノイド28はECU8に接続され、ECU8から与えられる制御信号即ちコマンドパルスによりON/OFF制御される。
【0024】
電磁ソレノイド28がOFFのときは、アーマチュアスプリング29によりアーマチュア27が下方に押しつけられ、このアーマチュア27によりオリフィス26が閉じられる共に、バランス弁21が弁シート24に着座しており、閉弁状態にある。
【0025】
一方、電磁ソレノイド28がONされると、アーマチュアスプリング29の付勢力に抗じてアーマチュア27が上昇され、オリフィス26が開かれる。オリフィス26が開かれると、弁制御室23が燃料排出により低圧となり、これによりバランス弁21に対する上向きの力が下向きの力を上回ってバランス弁21が上昇する。これによって、供給通路22の出口41が開かれ、供給通路22の出口41を通じて高圧燃料が制御室18に勢いよく供給される。
【0026】
次に、電磁ソレノイド28がOFFされアーマチュア27が下降してオリフィス26が閉じられると、弁制御室23からの燃料排出が停止されて弁制御室23が次第に高圧となる。この過程で、バランス弁21が弁シート24に着座する前は、弁制御室23の高圧燃料からバランス弁21が受ける下向き圧力と、供給通路22の高圧燃料からバランス弁21が受ける上向き圧力とが釣り合っており、バランス弁21はバネ25による下向きの力のみによって下降される。しかし、一旦バランス弁21が弁シート24に着座してしまえば、前述の閉弁時と同じ状態が作られ、バランス弁21は弁シート24に強力に押し付けられ、供給通路22の出口41を閉じることとなる。
【0027】
一方、排出通路19には、制御室18からの燃料の排出又は排出停止を切り換えるための第二の作動弁(排出弁)30が設けられる。第二の作動弁30はECU8に接続されると共に開度が可変な電磁絞り弁であり、ECU8から与えられる制御信号即ちコマンドパルスにより開閉制御される。ここで排出通路19の出口側は、圧力調整弁7の下流側且つ高圧ポンプ3の上流側のフィード回路33に接続される。
【0028】
また、制御室18には、アクチュエータボディ14内に形成された低圧通路31を介して、所定容積を有した低圧作動流体供給源としての低圧室32が直接的に連通接続されている。低圧室32は、圧力調整弁7の下流側且つ高圧ポンプ3の上流側のフィード回路33に接続され、フィード回路33からフィード圧Pfの低圧燃料を常時導入、貯留している。低圧通路31には、制御室18の圧力が低圧室32の圧力以下となったときのみ開となる第三の作動弁としての機械式逆止弁34が設けられる。
【0029】
更に、制御室18に逃がし通路45が接続され、この逃がし通路45に逃がし通路45を閉塞する破裂板(ラプチャーディスク)46が設けられる。この破裂板46は所定圧力でバースト(破裂)するものである。ここで逃がし通路45の出口側は、排出通路19と同じように、圧力調整弁7の下流側且つ高圧ポンプ3の上流側のフィード回路33に接続される。
【0030】
次に、本実施形態に係る動弁駆動装置の作動を説明する。
【0031】
ECU8は、第二の作動弁30の通常動作時には、通常モード用制御マップに従って、第一の作動弁20及び第二の作動弁30を制御する(図3参照)。
【0032】
具体的には、バルブ11を閉弁状態から開作動(リフト)させるときは、第二の作動弁30をOFF(閉)に保持すると共に、バルブ11の開弁初期の所定期間、第一の作動弁20を開(電磁ソレノイド28をON)にする。すると、高圧燃料がコモンレール2から第一の作動弁20を通じて制御室18へと導入される。制御室18へと導入された高圧燃料によりピストン13の受圧面43が押圧され、これによりバルブ11には初期エネルギが与えられ、その後、バルブ11はバルブスプリング16及び磁石17による力が作用する条件下で慣性運動し下方にリフトされる。
【0033】
このバルブ11の慣性運動の過程で制御室18の容積が次第に増加するが、バルブ11の運動が数10〜数100MPaもの高圧燃料による慣性運動であることに起因して、高圧燃料の供給量に応じた理論上の制御室18の容積増大量よりも、実際の制御室18の容積増大量が大きくなり、制御室18の圧力が低圧室32の圧力よりも低くなる。こうなると、第三の作動弁34が自動的に開弁し、低圧燃料が低圧室32から第三の作動弁34(低圧通路31)を通じて制御室18に導入される。つまり、制御室18には容積増加分を補うように燃料が補給される。これによりコモンレール2からの高圧燃料の供給量を越えて制御室18により多くの燃料が供給されるので、制御室18が負圧になることを回避し、バルブ11のリフト動作を安定化させると共に、バルブリフト量を、高圧燃料の導入により与えられた初期エネルギに応じた量に保持することができる。
【0034】
次に、制御室18に対する燃料(圧力)の出入りが無い場合、バルブ11は静止状態に維持される。この結果、任意の期間、バルブ11を開弁状態に保持することが可能となる。
【0035】
次に、バルブ11を閉弁させるときは、第一の作動弁20を閉(電磁ソレノイド28をOFF)に保持すると共に、第二の作動弁30を開(ON)とする。すると燃料が制御室18から第二の作動弁30(排出通路19)を通じてフィード回路33へと排出される。これにより制御室18の圧力が下がり、バルブ11がバルブスプリング16及び磁石17による力により上昇即ち閉弁される。
【0036】
これによれば、上記のように第一の作動弁20と第二の作動弁30とを制御することで、エンジンのクランク角に依存しない如何なるタイミングにおいてもバルブ11を開閉することができる。
【0037】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0038】
前述のように第二の作動弁30が異常により閉弁したままの状態となった場合、バルブ11は開弁したままの状態となることから、エンジンピストンがバルブ11に接触し、バルブ11がエンジンピストンによって押し上げられる。
【0039】
なお、ディーゼルエンジンでは、一般にバルブ11はシリンダボアと平行に延設されているため、エンジンピストンとの接触によりバルブ11に曲げ荷重は殆ど発生せず、バルブ11はエンジンピストンによって鉛直上向きに押し上げられる。これにより、制御室18内の作動流体は圧縮され、制御室18の圧力が上昇する。
【0040】
ここで、第二の作動弁30の正常動作時において制御室18の圧力が到達し得る最高圧力は、以下の式(1)で表される。
Pcc_max=max〔Phi,Fvlv/Apis〕 ・・・(1)
但し、Pcc_max;制御室18の最高圧力、Phi;作動流体の圧力(高圧側)、Fvlv;開弁時にバルブ11に作用する力(バルブスプリング16及び磁石17の付勢力等)、Apis;流体圧ピストンの断面積(バルブ11の受圧面43の面積)である。
【0041】
式(1)において、Fvlv/Apisはバルブ11が開弁した状態における平衡圧力をしめており、一般にPhi及びFvlv/Apisの内Fvlv/Apisが第二の作動弁30の正常動作時における制御室18の最高圧力となる。
【0042】
一方、第二の作動弁30が異常により閉弁したままの状態でバルブ11がエンジンピストンにより押し上げられる場合には、制御室18内の作動流体は前述の平衡圧力から更に圧縮されるため、制御室18の圧力が上式(1)で示されるPcc_maxを超えることは明白である。従って、不慮のバースト(破裂)を避けるため、破裂板46の設定圧力(破裂圧力)は、第二の作動弁30の正常動作時において制御室18の圧力が到達し得る最高圧力Pcc_maxの1.5倍程度に設定されるのが望ましい。
【0043】
本実施形態では、制御室18に逃がし通路45が接続され、この逃がし通路45に逃がし通路45を閉塞する破裂板46が設けられるので、第二の作動弁30の故障時(即ち第二の作動弁30が異常により閉弁したままの状態となった場合)には、エンジンピストンによるバルブ11の押し上げによって制御室18の圧力が上昇して、制御室18の圧力が破裂板46の設定圧力(破裂圧力)を超えると破裂板46がバーストし、逃がし通路45を通じて燃料が制御室18から排出される(制御室18の圧力が解放される)。これにより、バルブ11が閉弁し、それ以降のバルブ11とエンジンピストンとの干渉は防止される。
【0044】
ここで、破裂板46がバーストした後、第一の作動弁20を開弁し、制御室18内に高圧燃料を導入した場合、制御室18に関し以下の連続の式(2)が成立する。
μinAin√(2(Phi−Pcc)/ρ)=μoutAout√(2(Pcc−Plow)/ρ) ・・・(2)
但し、μin;第一の作動弁20の流量係数、Ain;第一の作動弁20の開口面積、Phi;作動流体の圧力(高圧側);Pcc;制御室18の圧力、ρ;作動流体の密度、μout;破裂板46のバースト部流量係数、Aout;破裂板46のバースト部開口面積、Plow;作動流体の圧力(低圧側)である。
【0045】
ここで、低圧側の作動流体圧力Plow(フィード圧Pf)は高圧側の作動流体圧力Phi(コモンレール圧Pc)に対し十分に低いことから無視でき、上式(2)を制御室18の圧力Pccについて記述すると次式(3)となる。
Pcc=Ain2Phi/(Ain2+Aout2) ・・・(3)
また、バルブ11を開弁するには次式(4)が成立する必要がある。
ApisPcc≧Fvlv ・・・(4)
但し、Fvlv;目標リフトにおいてバルブ11に作用する力である。
【0046】
よって、破裂板46がバーストした後においてもバルブ11を開弁するには、式(3)及び式(4)から、次式(5)が成立する必要がある。
Aout≦Ain√(PhiApis/Fvlv−1) ・・・(5)
よって、第二の作動弁30が閉じている状態におけるバースト部開口面積(バースト時の開口面積)が上式(5)を満足する破裂板46を選択することで、破裂板46のバースト後もバルブ11を開弁することが可能となる。
【0047】
但し、破裂板46のバーストによって、第二の作動弁30の故障時に制御室18の燃料を排出することが本来の目的であることから、破裂板46のバースト部開口面積Aoutは可能な限り大きな面積であることが望ましい。従って、破裂板46のバースト部開口面積Aoutは上式(5)の右辺に近い面積であることが望ましい。
【0048】
ここで、本実施形態では、ECU8は、破裂板46のバーストを検知し且つ第二の作動弁30の異常を検出したとき、即ち第二の作動弁30の故障時には、故障モード用制御マップに従って、第一の作動弁20を制御する(図3参照)。例えば、破裂板46のバーストは破裂板46下流の逃がし通路45内の圧力変化に基づいて検知され、第二の作動弁30の異常は目標開度に対する第二の作動弁30の開度のずれに基づいて検出される。
【0049】
故障モードにおける排気弁側の制御信号及びバルブ動作を図2に示す。
【0050】
破裂板46がバーストした後は、第二の作動弁30の通常動作時(破裂板46がバーストしていない状態)とは異なり、制御室18に接続された逃がし通路45内の破裂板46が常に開口しているため、制御室18の圧力は上昇し難い。このため、バルブ11(排気弁)の開弁速度は第二の作動弁30の通常動作時よりも低下する(図2(c)参照)。また、高圧燃料を制御室18に供給し続けなければ制御室18の圧力がバルブ11を開弁できる状態を維持することができないため、ECU8は開弁期間中は第一の作動弁20を開弁し続けるような制御信号(ON)を電磁ソレノイド28に与え、且つ第二の作動弁30の制御信号をOFFとする(図2(a)、(b)参照)。
【0051】
この場合、バルブ11の挙動が第二の作動弁30の通常動作時とは異なり、シリンダ内への充填効率の低下等を招き、排ガス性能悪化、燃費悪化を生じる。従って、第二の作動弁30に異常を生じたことをドライバへ通知し(図3参照)、同故障モードでの走行は必要最低限に留めることが望ましい。
【0052】
以上の動作によって、第二の作動弁30に異常を生じた場合においても、バルブ11の開閉が可能となり、通常のエンジンサイクルが成立するので、少なくとも必要最低限の距離の自走が可能となる。また、バルブ11とエンジンピストンとの干渉も一回のみに限定されるため、内燃機関の破損につながり難く、内燃機関の破損を防止することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0054】
例えば、内燃機関はコモンレールディーゼルエンジンに限らず、通常の噴射ポンプ式ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る動弁駆動装置の概略図である。
【図2】図2(a)は故障モードにおける第一の作動弁の制御信号を示す図であり、図2(b)は故障モードにおける第二の作動弁の制御信号を示す図であり、図2(c)は故障モードにおけるバルブ動作を示す図である。
【図3】図3は、ECUによる制御フローを示す図である。
【符号の説明】
【0056】
2 高圧室(コモンレール)
11 バルブ
18 制御室
19 排出通路
20 第一の作動弁(高圧制御弁)
30 第二の作動弁(排出弁)
45 逃がし通路
46 破裂板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気弁又は排気弁をなすバルブを開閉駆動するための装置であって、
加圧された作動流体が貯留される高圧室に接続された制御室と、該制御室と上記高圧室との間に設けられ、上記バルブを開弁させるときに開かれ、作動流体を上記高圧室から上記制御室に導入するための第一の作動弁と、上記制御室に接続された排出通路に設けられ、上記バルブを閉弁させるときに開かれ、作動流体を上記制御室から排出するための第二の作動弁とを備え、
上記制御室に逃がし通路を接続し、その逃がし通路に所定圧力でバーストする破裂板を設け、
上記第二の作動弁が閉じている状態における上記破裂板のバースト部開口面積を上記破裂板のバースト後も上記バルブを開閉駆動できるように設定することを特徴とする内燃機関の動弁駆動装置。
【請求項2】
上記破裂板のバースト部開口面積は、次式から決定される請求項1に記載の内燃機関の動弁駆動装置。
Aout≦Ain√(PhiApis/Fvlv−1)
Aout;破裂板のバースト部開口面積、Ain;第一の作動弁の開口面積、Phi;高圧室の作動流体圧力、Apis;バルブの受圧面面積、Fvlv;目標リフトにおいてバルブに作用する力

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−116851(P2010−116851A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290942(P2008−290942)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、革新的次世代低公害車総合技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】