説明

内視鏡の先端部

【課題】照明窓から放射される照明光軸の向きを、挿入部の先端を大型化することなく可変に構成して、内視鏡観察像にハレーションが発生した場合にそれを抑制して観察能を向上させることができる内視鏡の先端部を提供すること。
【解決手段】照明窓6の内側に、対向面が軸線方向に対して傾いた斜面状に形成された一対の透明部材8を軸線方向に間隔を可変に配置して、一対の透明部材8の軸線方向間隔を変化させることにより照明窓6から放射される照明光の光軸6xの向きが変わるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内視鏡の先端部に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の挿入部の先端には一般に、被写体に向かって照明光を放射するための照明窓と、その照明光が照射された被写体の光像を取り込むための観察窓とが配置されており、照明窓から放射される照明光の光軸方向は固定的なものである(例えば、特許文献1)。
【0003】
ただし、観察窓からの観察方向を可変にしたいわゆる視野変換式内視鏡等においては、観察方向に合わせて照明方向も可変にしたものがあり、挿入部先端に配置されたライトガイドファイババンドルの射出端を手元側からの遠隔操作で揺動させることができるように構成している(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−60985
【特許文献2】特開昭52−71888
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9は、従来の内視鏡の挿入部の先端部分を示しており、挿入部91の先端に連結された先端部本体92の先端面に配置された観察窓93内には、対物光学系94と、その対物光学系94により投影された被写体の像を撮像するための固体撮像素子95等が内蔵されている。
【0005】
そして、観察窓93と並んで先端部本体92の先端面に配置された照明窓95内にはライトガイドファイババンドル97の射出端面が配置されて、そのライトガイドファイババンドル97から射出される照明光の配光角を広げるための凹レンズ98が照明窓95に嵌め込まれている。
【0006】
図10に示されるように、体内粘膜面を内視鏡観察している時には反射光の具合により強いハレーションが発生する場合があり、そのような状況下ではモニタ画面99においてハレーション部100が部分的に明るく輝くため、その付近に患部が存在すると見落としが発生するおそれがある。
【0007】
そこで、特許文献2に記載されているように、ライトガイドファイババンドルの射出端を揺動させて照明光軸の向きを変えることができるようにすれば、ハレーションが抑制されて患部の見落としを防止できる場合があるが、ライトガイドファイババンドルの射出端を揺動させるような構成をとると内視鏡の挿入部の先端が極めて大きくなってしまうため、患者の受ける苦痛が増大してしまう。
【0008】
そこで本発明は、照明窓から放射される照明光軸の向きを、挿入部の先端を大型化することなく可変に構成して、内視鏡観察像にハレーションが発生した場合にそれを抑制して観察能を向上させることができる内視鏡の先端部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の先端部は、内視鏡の挿入部の先端に、被写体に向かって照明光を放射するための照明窓と、照明光が照射された被写体の光像を取り込むための観察窓とが配置された内視鏡の先端部において、照明窓の内側に、対向面が軸線方向に対して傾いた斜面状に形成された一対の透明部材を軸線方向に間隔を可変に配置して、一対の透明部材の軸線方向間隔を変化させることにより照明窓から放射される照明光の光軸の向きが変わるようにしたものである。
【0010】
なお、一対の透明部材より照明窓寄りの位置に凹レンズが配置されていてもよく、照明窓内の一対の透明部材の奥側に、ライトガイドの射出端面又は電気的光源が配置されていてもよい。
【0011】
また、一対の透明部材の中の照明窓寄りに配置された透明部材の照明光入射面又は照明光射出面の少なくとも一方に凹面が形成されていてもよく、一対の透明部材の軸線方向間隔が、挿入部内に挿通配置された操作ワイヤ又は挿入部の先端に配置されたモータにより制御されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、照明窓の内側に、対向面が軸線方向に対して傾いた斜面状に形成された一対の透明部材を軸線方向に間隔を可変に配置して、一対の透明部材の軸線方向間隔を変化させることにより照明窓から放射される照明光の光軸の向きが変わるようにしたので、照明窓から放射される照明光軸の向きを、挿入部の先端を大型化することなく可変に構成して、内視鏡観察像にハレーションが発生した場合にそれを抑制して観察能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
内視鏡の挿入部の先端に、被写体に向かって照明光を放射するための照明窓と、照明光が照射された被写体の光像を取り込むための観察窓とが配置された内視鏡の先端部において、照明窓の内側に、対向面が軸線方向に対して傾いた斜面状に形成された一対の透明部材を軸線方向に間隔を可変に配置して、一対の透明部材の軸線方向間隔を変化させることにより照明窓から放射される照明光の光軸の向きが変わるようにする。
【実施例】
【0014】
図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図3は内視鏡の全体構成を示しており、可撓性の挿入部1の基端には操作部2が連結されていて、挿入部1の先端部分に形成された湾曲部3は、操作部2に配置された湾曲操作ノブ4を回転操作することにより任意の方向に任意の角度だけ屈曲させることができる。
【0015】
挿入部1の最先端部に連結された先端部本体5には照明窓6等が配置されており、被写体を照明する照明光を伝達するためのライトガイドファイババンドル7の射出端面と照明窓6との間に一対の透明部材8が配置されている。
【0016】
そして、挿入部1内に配置された操作ワイヤ9を操作部4に配置された操作レバー10で進退操作することにより、一対の透明部材8間の間隔を変化させ、それによって照明窓6から放射される照明光の光軸の向きを変えることができる。
【0017】
図4は、挿入部1の先端部分を示しており、先端部本体5の先端面に配置された照明窓6には、照明光の配光角を広げるための凹レンズ60が嵌め込まれて水密に接合固定されている。
【0018】
一対の透明部材8は、対向面が軸線方向に対して傾いた斜面状に形成された光学ガラス製の断面形状が正円形のロッド状の部材であり、一対の透明部材8の中の先寄りに配置された固定ロッド81は凹レンズ60の後側に隣接して先端部本体5に固定されている。
【0019】
一方、後寄りに配置された可動ロッド82は、軸線方向に進退自在な可動枠14に取り付けられてライトガイドファイババンドル7の射出端面と固定ロッド81との間に配置されている。可動枠14には操作ワイヤ9の先端が連結されている。
【0020】
なお、透明部材8と凹レンズ60は各々、軸線(光軸)がライトガイドファイババンドル7の射出端部の軸線の延長線上に位置するよう一直線上に配置されている。このような構成なので、照明窓6内に大きなスペースを必要とせず先端部本体5を小型に構成することができる。
【0021】
照明窓6と並んで先端部本体5の先端面に配置された観察窓11の内側には、対物光学系12と、照明窓6から放射された照明光が照射されて対物光学系12により投影された被写体の投影像を撮像するための固体撮像素子13等が配置されている。
【0022】
そのような構成により、図4に示されるように可動ロッド82が先端側に位置していて固定ロッド81と密着した状態においては、ライトガイドファイババンドル7の射出端面から射出された照明光が途中で曲げられず、照明窓6から放射される照明光の光軸6xが真っ直ぐ前方に向かっている。
【0023】
そして、操作ワイヤ9が操作部2側から牽引操作されて、図1に示されるように、可動ロッド82が固定ロッド81との間に隙間ができる状態に後退すると、照明窓6から放射される照明光の光軸6xが観察窓11から遠ざかる外方向に曲がる。
【0024】
図2は、その状態を詳細に図示しており、固定ロッド81と可動ロッド82との間が空気層になることにより、その間で照明光軸が元の光軸X(以下、「基準軸線X」という)に対して偏角し、その結果固定ロッド81への入射位置Aが基準軸線Xから偏位して、固定ロッド81内においては照明光軸が基準軸線Xに対して平行に偏位した状態になる。
【0025】
すると、凹レンズ60の凹面61に対する入射位置Bにおいて照明光軸が外方向に曲がり、さらに凹レンズ60の外面位置Cにおいても照明光軸がさらに外方向に曲がるので、照明窓6から放射される照明光の光軸6xが観察窓11から遠ざかる外方向に曲がった状態になる。
【0026】
したがって、照明窓6から放射される照明光の光軸6xが真っ直ぐの状態のときに内視鏡観察像に強いハレーションが発生する場合には、照明光の光軸6xを観察窓11から遠ざかる外方向に曲げることによりハレーションの発生を抑制し、患部の見落とし等を防止することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えば、照明窓6内に配置される一対の透明部材8として、固定ロッド81を後寄りに配置して可動ロッド82を先寄りに配置しても差し支えない。
【0028】
また、図5及び図6に示される第2及び第3の実施例のように、一対の透明部材8の中の照明窓6寄りに位置している固定ロッド81の照明光入射面又は照明光射出面の少なくとも一方に凹面81a,81bを形成することにより、照明窓6から放射される照明光の光軸6xをより大きく曲げることができる。
【0029】
また、図7に示される第4の実施例のように、可動ロッド82の駆動を操作ワイヤ9に代えてマイクロモータ20等で行ってもよく、図8に示される第5の実施例のように、照明源としてライトガイドファイババンドル7に代えてLED(発光ダイオード)7′等のような電気的光源を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施例の内視鏡の挿入部の先端部分の側面断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例の内視鏡の照明光学系の側面断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例の内視鏡の側面図である。
【図4】本発明の第1の実施例の内視鏡の挿入部の先端部分の側面断面図である。
【図5】本発明の第2の実施例の内視鏡の照明光学系の側面断面図である。
【図6】本発明の第3の実施例の内視鏡の照明光学系の側面断面図である。
【図7】本発明の第4の実施例の内視鏡の挿入部の先端部分の側面断面図である。
【図8】本発明の第5の実施例の内視鏡の挿入部の先端部分の側面断面図である。
【図9】従来の内視鏡の挿入部の先端部分の側面断面図である。
【図10】従来の内視鏡による内視鏡観察画像にハレーションが発生した状態の略示図である。
【符号の説明】
【0031】
6 照明窓
6x 照明光の光軸
7 ライトガイドファイババンドル
8 透明部材
81 固定ロッド
82 可動ロッド
9 操作ワイヤ
11 観察窓
14 可動枠
60 凹レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の挿入部の先端に、被写体に向かって照明光を放射するための照明窓と、上記照明光が照射された被写体の光像を取り込むための観察窓とが配置された内視鏡の先端部において、
上記照明窓の内側に、対向面が軸線方向に対して傾いた斜面状に形成された一対の透明部材を上記軸線方向に間隔を可変に配置して、上記一対の透明部材の軸線方向間隔を変化させることにより上記照明窓から放射される照明光の光軸の向きが変わるようにしたことを特徴とする内視鏡の先端部。
【請求項2】
上記一対の透明部材より上記照明窓寄りの位置に凹レンズが配置されている請求項1記載の内視鏡の先端部。
【請求項3】
上記照明窓内の上記一対の透明部材の奥側に、ライトガイドの射出端面又は電気的光源が配置されている請求項1又は2記載の内視鏡の先端部。
【請求項4】
上記一対の透明部材の中の上記照明窓寄りに配置された透明部材の照明光入射面又は照明光射出面の少なくとも一方に凹面が形成されている請求項1、2又は3記載の内視鏡の先端部。
【請求項5】
上記一対の透明部材の軸線方向間隔が、上記挿入部内に挿通配置された操作ワイヤ又は上記挿入部の先端に配置されたモータにより制御される請求項1、2、3又は4記載の内視鏡の先端部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−334043(P2006−334043A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160784(P2005−160784)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】