説明

加工シミュレーション装置及び方法

【課題】切削加工シミュレーションにおいて、加工傷の発生状況とその発生メカニズムとに関する定量的な分析を支援する各種の特性量をより直感的に把握できる加工シミュレーション装置及び方法を得ること。
【解決手段】工具の種別及び形状を示す工具データ6及び工具の移動軌跡を示す工具移動軌跡データ7に基づいて切削加工をシミュレートして被加工物の形状を示す被加工物形状データ8を生成する切削形状処理部2と、切削加工の過程における被加工物の加工面上の着目点について、着目点の創成に関与した特性量を、被加工物形状データ8、工具データ6及び工具移動軌跡データ7に基づいて算出する工具移動特性量算出部4と、被加工物形状データ8に基づいて生成された、予め定められた視線方向に沿った被加工物の投影イメージに、特性量を重畳してディスプレイデバイス9に表示させる切削形状表示部3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工シミュレーション、特にNC工作機械を用いた切削加工による被加工物の形状変化をシミュレートする切削加工シミュレーション装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CAM(Computer Aided Manufacturing)システム等で作成されたNC(Numerical Control)加工プログラム(以下、加工プログラム)を用いる加工では、加工設計者の意図とは異なる仕上がり結果となる加工不具合が生じることがある。
【0003】
切削加工の場合、加工不具合の多くは、被加工物の本来削られるべき箇所が削られずに残ってしまう「削り残し」、又は目標とする仕上がり面を超えて被加工物が削り込まれる「削りすぎ」となって現れるが、これらは主に加工プログラム自体に問題があるために生じる。
【0004】
こうした加工不具合を回避するために、加工プログラムの作成準備に用いられるCAMシステムには、通常、加工シミュレーション機能が搭載されており、加工プログラムを事前に検証してこの種の加工不具合を回避することができる。
【0005】
また、削り残しや削りすぎのように加工プログラム側に明らかな問題があって生じる加工不具合の他にも、被加工物の表面に縞状又は引っ掻き状の加工傷が残るような加工不具合もある。
【0006】
特に、金型加工などで曲面を多用した意匠性の高い部品を加工する場合には、仕上がり面が滑らかであることが重視され、加工傷の発生が問題となることが多い。
【0007】
こうした加工傷が生じる原因は、加工条件の設定や工作機械の機械的精度、制御パラメータの調整が適切ではないために加工プログラムの指示通りに工作機械が追随していない場合や、加工プログラム内の微小な誤差が加工条件の特定や工作機械の機械誤差の影響を受けて拡大されて現れる場合など様々考えられ、原因を特定して対策を講じるのは一般的に困難であり、かつ時間を要する。
【0008】
加工傷の発生原因を特定する作業を支援する方法は、特許文献1〜3に開示されている。これらのはいずれも工具移動軌跡の特性量に応じて決定された色やマーカ図形又は半径線図形などのデータを表示属性とし、工具移動軌跡データをこれらの表示属性と組み合わせて表示し、その表示パターンの特徴から、加工傷が発生しやすい箇所を特定したり、実際の加工結果で生じた加工傷と比較照合することで加工傷の原因の特定を支援する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3834268号公報
【特許文献2】特許第3878516号公報
【特許文献3】特許第3920144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
工具移動軌跡に表示属性を組み合わせる上記技術では、表示属性が組み合わされた工具移動軌跡の表示パターンと加工傷の現れ方との間には単純な対応関係がないために、加工傷の発生原因を明確に切り分けできない。
【0011】
一般に、工具移動軌跡は加工面から工具半径だけ離れた位置を通過する。逆に、加工面は工具移動軌跡から工具半径分だけ離れた位置に創成される。このとき加工面と工具との接触状態での相対位置関係は(特に曲面加工の場合には)工具移動途上の各箇所で変化するため、必ずしも工具移動軌跡跡の表示パターンが加工面の微細な形状パターンを表しているとは言えない。
【0012】
その結果、工具移動軌跡の表示パターンと実際に加工したときに生じた加工傷の観察結果との比較照合は定性的なものとなり、発生原因の明確な切り分けが行えない可能性がある。
【0013】
また、上記特許文献において、表示属性としての色や補助的な図形は、工具移動軌跡の傾きやその変化量、基準位置からの変位量、曲率半径など各種の特性量に対応するが、上記のように工具移動軌跡の表示パターンと加工面の微細な形状パターン(加工傷を含む)との間の単純な対応関係が無いために、加工傷の幅、長さ、深さ、方向といった発生原因の定量的な分析や加工傷解消のための対策立案が困難である。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、切削加工シミュレーションにおいて、加工傷の発生状況とその発生メカニズムとに関する定量的な分析を支援する各種の特性量をより直感的に把握できる加工シミュレーション装置及び方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、工具の種別及び形状を示す工具データ及び工具の移動軌跡を示す工具移動軌跡データに基づいて切削加工をシミュレートして被加工物の形状を示す形状データを生成する手段と、切削加工の過程における被加工物の加工面上の着目点について、着目点の創成に関与した特性量を、形状データ、工具データ及び工具移動軌跡データに基づいて算出する手段と、形状データに基づいて生成された、予め定められた視線方向に沿った被加工物の投影イメージに、特性量を重畳して表示する手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被加工物の加工面の創成にかかわった工具移動に関する特性量を被加工物形状に重畳して表示できるため、工具移動と加工面の創成との因果関係を視覚的に把握可能になり、表示内容及び重畳表示された特性量のパターンから加工不具合の発生原因の推定や加工不具合外回避のための対策立案が容易になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施の形態1に係る加工シミュレーション装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、工具移動軌跡データをなす移動軌跡セグメントに沿って工具が移動することで着目点を含む加工面が創成される状態を示す図である。
【図3】図3は、工具基準点から見た着目点の方向を工具移動特性量として算出する動作を説明する図である。
【図4】図4は、実施の形態2に係る加工シミュレーション装置の構成を示す図である。
【図5】図5は、工具基準点の位置を特性量とした場合の工具移動特性量差分算出部における動作の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかる加工シミュレーション装置及び方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る加工シミュレーション装置の構成を示す図である。加工シミュレーション装置中核部1は、切削形状処理部2、切削形状表示部3、工具移動特性量算出部4、及びシミュレーションデータ格納部5を有する。
【0020】
シミュレーションデータ格納部5は、工具データ6、工具移動軌跡データ7、被加工物形状データ8の各データを格納する。
【0021】
加工シミュレーション装置全体としては、これらの他、被加工物形状の表示出力先であるディスプレイデバイス9、ユーザがシミュレーション装置の実行操作を行ったり表示の視線方向を指示したりするための入力デバイス10としてのキーボードやマウス等を備えている。
【0022】
工具データ6には、シミュレーション対象の切削加工に用いられる工具に関して、ボールエンドミルなどの工具種別、及び工具径や工具長など工具形状に関する情報が記述される。
【0023】
工具移動軌跡データ7には、シミュレーション対象の切削加工における工具基準点の移動軌跡に関する情報が記述される。工具基準点は、例えば、金型加工などに使われるボールエンドミル工具では工具先端部の半球形状の中心点が用いられる。また、一般に、工具移動軌跡データ7は複数に区画された移動軌跡セグメントの連なりによって表現され、個々の移動軌跡セグメントは工具移動の始点と終点との位置及び始点から終点までの移動モード(工具のどのように移動するか(直線状、円弧状など)を示す)に関する情報を含んでいる。
【0024】
被加工物形状データ8は、切削対象の被加工物のシミュレーション開始から終了までの時々刻々の形状を表す3次元形状データである。
【0025】
切削形状処理部2は、シミュレーションデータ格納部5に格納された工具データ6と工具移動軌跡データ7とを入力とし、工具データ6で記述された工具を工具移動軌跡データ7で記述された工具移動軌跡に沿って移動させ、シミュレーションデータ格納部5に格納された被加工物形状データ8を切削変形することで切削加工をシミュレートする。
【0026】
切削形状表示部3と工具移動特性量算出部4とは、互いに協調しながら動作する。切削形状表示部3は、その基本処理として、シミュレーションデータ格納部5に格納された被加工物形状データ8を入力とし、指定の視線方向に沿った被加工物形状の投影イメージをディスプレイデバイス9へ出力する。この過程で、切削形状表示部3は、被加工物形状データ8の各加工面上の各点に対応する投影イメージ上の画素点のデータに重畳して表示すべき特性量を、工具移動特性量算出部4に問い合わせる。
【0027】
工具移動特性量算出部4は、切削形状表示部3からの問い合わせに応答して、被加工物の指定の加工面上の指定の点を着目点とし、シミュレーションデータ格納部5の被加工物形状データ8、工具データ6及び工具移動軌跡データ7を参照して、着目点の創成に関与した工具移動に関する特性量を工具移動軌跡データ7から算出して切削形状表示部3に出力する。
【0028】
切削形状表示部3は、工具移動特性量算出部4によって算出された特性量を処理中の画素点に重畳して表示する。本実施の形態においては、当該画素点への特性量の重畳には、特性量の大きさや符号の正負に基づいて定められた色を当該画素点の画素値とする方法を用いる。特性量を色情報で重畳表示するため、特徴量のパターンを視覚的に把握することが容易となる。
【0029】
本実施の形態においては、工具移動特性量算出部4によって算出される特性量として、工具基準点の位置、工具の移動方向及び工具基準点から見た着目点の方向の三つを用いる。
【0030】
以下、それぞれの特性量について、工具移動特性量算出部4における算出処理の動作の詳細を説明する。
【0031】
まず、工具基準点の位置について説明する。図2は、工具移動軌跡データ7をなす移動軌跡セグメント21に沿って工具26が移動することで着目点24を含む加工面25が創成される状態を示す図である。図2に示すように、工具移動軌跡データ7をなす移動軌跡セグメント21のいずれかに沿って工具26が移動することで着目点24を含む加工面25が創成されるとき、工具26の刃先面が着目点24を通過する瞬間が必ず存在する。その瞬間における工具基準点27の座標値又はそのいずれかの座標成分が工具移動に関する特性量となる。
【0032】
工具移動特性量算出部4は、切削形状表示部3から要求のあった指定の加工面25の指定の点(着目点24)に対し、被加工物形状データ8、工具データ6及び工具移動軌跡データ7を参照して指定加工面を創成した移動軌跡セグメント21を特定する。次に、特定した移動軌跡セグメント21に記述された工具移動の始点、終点及びその間の移動モードの情報と工具データ6に記述された工具形状の情報とから工具26の刃先面が着目点24を通過する瞬間の工具基準点27の位置を求め、着目点24に対する工具移動の特性量として切削形状表示部3へ出力する。
【0033】
次に、工具の移動方向について説明する。図2において、工具26の刃先面が着目点24を通過する瞬間における工具の移動方向ベクトル28又はそのいずれかの成分が工具移動に関する特性量となる。これは、その瞬間における工具基準点27の位置での工具移動軌跡の接線ベクトルに他ならない。
【0034】
工具移動特性量算出部4は、上記と同じ方法で特定した移動軌跡セグメント21に記述された移動の情報と工具データ6に記述された工具形状の情報とから通過の瞬間の工具基準点27の位置を求め、その位置での工具移動軌跡の接線ベクトルを算出して、指定点(着目点24)に対する工具移動の特性量として切削形状表示部3へ出力する。なお、特定した移動軌跡セグメントの移動モードが直線移動である場合には、指定点を通過する瞬間の工具基準点27の位置を求めるまでもなく、移動の始点から終点に向かう方向ベクトルが求めるべきベクトルとなる。
【0035】
次に、工具基準点から見た着目点の方向について説明する。工具26の刃先面が着目点24を通過する瞬間における工具基準点27の位置から着目点24への方向ベクトル又はそのいずれかの成分が工具移動に関する特性量となる。図3は、工具基準点から見た着目点の方向を工具移動特性量として算出する動作を説明する図である。この時の方向ベクトルは、図3に示すように、工具26の進行方向31に相対の座標成分(工具26の進行方向、工具26の軸方向、及びこれらの両方に直交する方向の3方向を軸とする座標系での座標成分)又は経度32及び緯度33などによる角度成分で記述する。
【0036】
工具移動特性量算出部4は、同様にして特定した移動軌跡セグメントに記述された移動の情報と工具データ6に記述された工具形状の情報とから通過の瞬間の工具基準点の位置を求めて工具基準点から指定点への方向ベクトルを算出し、工具の進行方向を基準とした座標系での成分に変換するか、又は工具の進行方向を基準とした経度緯度等による角度成分に変換し、指定点に対する工具移動の特性量として切削形状表示部3へ出力する。
【0037】
以上のように、本実施の形態によれば、シミュレーション表示画面において、被加工物の加工面の創成にかかわった工具移動に関する特性量が被加工物形状に重畳して表示されるため、工具移動と加工面の創成との因果関係を視覚的に把握できる。これにより、例えば加工面上に加工傷が生じた場合には、加工傷とその周辺部分に重畳表示された特性量又はその表示パターンを定量的に分析することで工具移動に関するどのような特性が加工傷の発生に大きく影響したのかが推定でき、加工傷回避のための対策の立案が容易となる。したがって、切削加工によって製造する製品の歩留まりを向上させることが可能となる。
【0038】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2に係る加工シミュレーション装置の構成を示す図である。本実施の形態では、加工シミュレーション装置中核部40は、第1の工具移動軌跡データ11と、第1の被加工物形状データ12と、第2の工具移動軌跡データ41と、第2の被加工物形状データ42とをシミュレーションデータ格納部5に格納する点で、図1に示した実施の形態1に係る加工シミュレーション装置とは相違する。また、本実施の形態に係る加工シミュレーション装置は、第1の工具移動特性量算出部14、第2の工具移動特性量算出部43、工具移動特性量差分算出部44を備える。本実施の形態においては、切削形状処理部2は、シミュレーションデータ格納部5に格納された工具データ6と第1の工具移動軌跡データ11又は第2の工具移動軌跡データ41とを入力とし、工具データ6で記述された工具を第1の工具移動軌跡データ11又は第2の工具移動軌跡データ41で記述された工具移動軌跡に沿って移動させ、シミュレーションデータ格納部5に格納された第1の被加工物形状データ12又は第2の被加工物形状データ42を切削変形することで切削加工をシミュレートする。なお、第1の移動軌跡データ11、第1の被加工物形状データ12及び第1の工具移動特性量算出部14は、実施の形態1での工具移動軌跡データ7、被加工物形状データ8及び工具移動特性量算出部4に相当する。
【0039】
実施の形態1と同様に、加工シミュレーション装置全体としては、被加工物形状の表示出力先であるディスプレイデバイス9、ユーザがシミュレーション装置の実行操作を行ったり表示の視線方向を指示したりするための入力デバイス10としてのキーボードやマウス等を備えている。
【0040】
シミュレーションデータ格納部5に格納される第1の工具移動軌跡データ11及び第2の工具移動軌跡データ41は、(a)加工プログラムでの記述から抽出された工具移動軌跡データ、(b)NC工作機械への工具移動指令から抽出された工具移動軌跡データ、(c)NC工作機械の制御軸モータ端又は機械端のセンシングデータから抽出された工具移動軌跡データのいずれかである。なお、第1の工具移動軌跡データ11と第2の工具移動軌跡データ41とは、同一の加工プログラムの同一の加工条件設定の下での加工プログラムでの記述から抽出された異なる種類の工具移動軌跡データであるか、同一の加工プログラムでの異なる二つの加工条件設定の下での同種の工具移動軌跡データという関係にある。
【0041】
本実施の形態に係る加工シミュレーション装置は、シミュレーションデータ格納部5の第1の工具移動軌跡データ11に基づき、切削形状処理部2を用いて切削シミュレーションの形状処理を行い、被加工物のシミュレーション途中形状及び最終形状を第1の被加工物形状データ12としてシミュレーション格納部5に格納する。
【0042】
また同様に、シミュレーションデータ格納部5の第2の工具移動軌跡データ41に基づき、切削形状処理部2を用いて切削加工シミュレーションの形状処理を行い、被加工物のシミュレーション途中形状及び最終形状を第2の被加工物形状データ42としてシミュレーションデータ格納部5に格納する。
【0043】
切削形状表示部3は、第1の被加工物形状データ12を入力とし、被加工物形状の指定の視線方向に沿った投影イメージをディスプレイデバイス9に出力する。この過程で、第1の被加工物形状データ12の各加工面の各点に対応する投影イメージ上の画素点のデータを確定する際、その点に重畳して表示すべき特性量の差分を工具移動特性量差分算出部44に問い合わせる。
【0044】
まず、工具移動特性量算出部44は、切削形状表示部3からの問い合わせに応答して、第1の被加工物形状データ12の指定の加工面上の指定の点を着目点とし、第1の工具移動特性量算出部14に問い合わせて着目点の創成に関与した工具移動の特性量を取得する。
【0045】
次に、工具移動特性量差分算出部44は、同じ着目点について、着目点から最短距離の位置にある第2の被加工物形状データ42の加工面上の点を特定する。そして、特定した加工面上の点について、第2の工具移動特性量算出部43に問い合わせて当該点の創成に関与した工具移動の特性量を取得する。こうして算出取得された二つの特性量の間の差分を計算し、切削形状表示部3に出力する。
【0046】
図5は、工具基準点の位置を特性量とした場合の工具移動特性量差分算出部44における動作の例を示す図である。図5(a)に示すように、工具移動特性量差分算出部44は、第1の工具移動特性量算出部14から加工面25上の着目点24を工具26の刃先面が通過する瞬間の工具基準点27の位置を取得する。次に、図5(b)に示すように、着目点24から最短距離にある第2の被加工物形状データ42の加工面52上の点51を特定する。そして、図5(c)に示すように、第2の工具移動特性量算出部43から加工面52上の点51を工具53の刃先面が通過する瞬間の工具基準点54の位置を取得する。最後に、工具基準点27及び54間の差分を算出する。
【0047】
切削形状表示部3は、工具移動特性量差分算出部44によって算出された特性量の差分を処理中の画素点に重畳して表示する。実施の形態1と同様に、当該画素点への特性量の差分の重畳には、特性量の差分の大きさや正負の符号に基づいて定められた色を当該画素点の画素値とする方法を用いる。特性量の差分を色情報で重畳表示するため、特徴量のパターンを視覚的に把握することが容易となる。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、シミュレーション表示画面において、被加工物の加工面の創成に関わった工具移動に関する特性量の差分が被加工物形状に重畳して表示されるため、加工プログラム自身の特性、NC制御部における工具移動指令生成アルゴリズムの特性、工具移動指令に対するNC工作機械の応答の特性のそれぞれによって生じた移動軌跡の差が加工面の創成に及ぼす影響を視覚的に把握できる。これにより、例えば被加工面上に加工傷が生じた場合には、加工傷とその周辺部分に重畳表示された特性量の差又はその表示パターンを定量的に分析することで、工具移動指令情報を生成するどの処理過程が加工傷の発生の主たる原因となったのかを容易に切り分けられる。また、加工条件を変化させて重畳表示された特性量の差やその表示パターンの変化を観察することで、加工傷回避のための適正な加工条件を導くことが容易となる。したがって、切削加工によって製造する製品の歩留まりを向上させることが可能となる。
【0049】
本実施の形態では2種類の工具加工軌跡データが必要となるが、工具の移動の仕方と特性量の差分の大きさとの間に因果関係(工具が特定の方向や特定の移動モードで移動する場合に特性量の差分が大きくなる)などが表れ易くなる。このため、加工傷の発生原因を特定しやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明にかかる加工シミュレーション装置は、切削加工時の加工傷の発生原因を分析し、加工傷の発生を回避するのに有用である。
【符号の説明】
【0051】
1、40 加工シミュレーション装置中核部
2 切削形状処理部
3 切削形状表示部
4 工具移動特性量算出部
5 シミュレーションデータ格納部
6 工具データ
7 工具移動軌跡データ
8 被加工物形状データ
9 ディスプレイデバイス
10 入力デバイス
11 第1の工具移動軌跡データ
12 第1の被加工物形状データ
14 第1の工具移動特性量算出部
21 移動軌跡セグメント
24 着目点
25、52 加工面
26、53 工具
27、54 工具基準点
28 移動方向ベクトル
41 第2の工具移動軌跡データ
42 第2の被加工物形状データ
43 第2の工具移動特性量算出部
44 工具移動特性量差分算出部
51 加工面上の点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具の種別及び形状を示す工具データ及び前記工具の移動軌跡を示す工具移動軌跡データに基づいて切削加工をシミュレートして被加工物の形状を示す形状データを生成する手段と、
前記切削加工の過程における前記被加工物の加工面上の着目点について、前記着目点の創成に関与した特性量を、前記形状データ、前記工具データ及び前記工具移動軌跡データに基づいて算出する手段と、
前記形状データに基づいて生成された、予め定められた視線方向に沿った前記被加工物の投影イメージに、前記特性量を重畳して表示する手段とを有することを特徴とする加工シミュレーション装置。
【請求項2】
工具の種別及び形状を示す工具データ及び前記工具の移動軌跡を示す第1、第2の工具移動軌跡データに基づいて切削加工をシミュレートして被加工物の形状を示す第1、第2の形状データを生成する手段と、
前記第1の形状データが示す前記切削加工の途中又は終了後の前記被加工物の加工面上の第1の着目点の創成に関与した第1の特性量を、前記第1の形状データ、前記工具データ及び前記第1の工具移動軌跡データに基づいて算出する手段と、
前記第2の形状データが示す前記切削加工の途中又は終了後の前記被加工物の加工面上の第2の着目点の創成に関与した第2の特性量を、前記第2の形状データ、前記工具データ及び前記第2の工具移動軌跡データに基づいて算出する手段と、
前記第1の特性量と前記第2の特性量との差分を算出する手段と、
前記形状データに基づいて生成された予め定められた視線方向に沿った前記被加工物の投影イメージに、前記第1の特性量と前記第2の特性量との差分を重畳して表示する手段とを有し、
前記第2の工具移動軌跡データと前記第1の工具移動軌跡データとは、同じ加工プログラムの同一の加工条件設定の下での前記加工プログラムの記述から得られた軌跡データ、前記加工プログラムに基づいて前記切削加工を行う工作機械への制御信号から得られた軌跡データ、及び、前記工作機械に設置されたセンサの出力に基づいて得られた軌跡データのいずれか2種類であるか、若しくは、同じ加工プログラムの異なる二つの加工条件の下での同種類の軌跡データであることを特徴とする加工シミュレーション装置。
【請求項3】
工具の種別及び形状を含む工具データと、前記工具の移動軌跡を示す工具移動軌跡データとに基づいて、前記切削加工による被加工物の形状の変化をシミュレートする加工シミュレーション方法であって、
前記工具データと前記工具移動軌跡データとを基に、前記切削加工の過程における前記被加工物の形状を示す形状データを生成するステップと、
前記被加工物の加工面上の着目点について、前記着目点の創成に関与した特性量を、前記形状データ、前記工具データ及び前記工具移動軌跡データに基づいて算出するステップと、
前記被加工物の形状データに基づいて生成された、予め定められた視線方向に沿った前記被加工物の投影イメージに、前記特性量を重畳して表示するステップとを有することを特徴とする加工シミュレーション方法。
【請求項4】
前記特性量は、前記工具に予め設定された工具基準点の位置、前記工具の移動方向及び前記工具基準点から見た前記着目点の方向の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項3記載の加工シミュレーション方法。
【請求項5】
前記特性量の大きさ及び符号に基づいて予め定められた色で、前記被加工物の投影イメージ上の前記着目点を表示することを特徴とする請求項3又は4記載の加工シミュレーション方法。
【請求項6】
工具の種別及び形状を含む工具データと、前記工具の移動軌跡を示す第1、第2の工具移動軌跡データとに基づいて、前記切削加工による被加工物の形状の変化をシミュレートする加工シミュレーション方法であって、
前記工具データと、前記第1の工具移動軌跡データとを基に、前記切削加工の過程における前記被加工物の形状を示す第1の形状データを生成するステップと、
前記第1の形状データが示す前記被加工物の加工面上の第1の着目点について、前記第1の着目点の創成に関与した第1の特性量を、前記第1の形状データ、前記工具データ及び前記第1の工具移動軌跡データに基づいて算出するステップと、
前記工具データと、前記第2の工具移動軌跡データとに基づいて、前記切削加工の過程における前記被加工物の形状を示す第2の形状データを生成するステップと、
前記第2の形状データが示す前記被加工物の加工面上の第2の着目点について、前記第1の特性量に対応する第2の特性量を、前記第2の形状データ、前記工具データ及び第2の工具移動軌跡データに基づいて算出するステップと、
前記第1の特性量と前記第2の特性量との差分を算出するステップと、
前記被加工物の形状データに基づいて生成された、予め定められた視線方向に沿った前記被加工物の投影イメージに、前記第1の特性量と前記第2の特性量との差分を重畳して表示するステップとを有し、
前記第2の工具移動軌跡データと前記第1の工具移動軌跡データとは、同じ加工プログラムの同一の加工条件設定の下での前記加工プログラムの記述から得られた軌跡データ、前記加工プログラムに基づいて前記切削加工を行う工作機械への制御信号から得られた軌跡データ、及び、前記工作機械に設置されたセンサの出力に基づいて得られた軌跡データのいずれか2種類であるか、若しくは、同じ加工プログラムの異なる二つの加工条件の下での同種類の軌跡データであることを特徴とする加工シミュレーション方法。
【請求項7】
前記第1、第2のデータは、前記工具に予め設定された工具基準点の位置、前記工具の移動方向及び前記工具基準点から見た前記着目点の方向の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項6記載の加工シミュレーション方法。
【請求項8】
前記第1の特性量と前記第2の特性量との差分の大きさ及び符号に基づいて予め定められた色で、前記被加工物の投影イメージ上の前記着目点を表示することを特徴とする請求項6又は7記載の加工シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−18472(P2012−18472A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154062(P2010−154062)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】