説明

半導体レーザー励起固体レーザー装置

【課題】装置全体の構成が簡潔かつ小型であるとともに、レーザー出力の立ち上がり応答特性が優れた半導体レーザー励起固体レーザー装置を提供しようとするものである。
【解決手段】レーザー共振器内に配置された固体レーザー媒質に励起光を入射してレーザー発振させ、レーザー共振器からレーザー光を出力する半導体レーザー励起固体レーザー装置において、筐体内にレーザー媒質を保持するとともに熱伝導特性の優れた素材により構成される保持手段と、保持手段におけるレーザー媒質の近傍に位置するように配設される加熱手段と、保持手段におけるレーザー媒質と加熱手段との間に配置されるとともにレーザー媒質の近傍の温度を計測する測温手段と、測温手段によるレーザー媒質近傍の温度の測温結果に基づいて加熱手段を制御する制御手段とを有し、保持手段における排熱と加熱手段による加熱によりレーザー媒質近傍の温度を一定に保つようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザー励起固体レーザー装置に関し、さらに詳細には、半導体レーザーから出射された半導体レーザー光を励起光として用い、当該励起光により固体レーザー媒質を励起する固体レーザー装置である半導体レーザー励起固体レーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体レーザーから出射された半導体レーザー光を励起光として用い、当該励起光により固体レーザー媒質を励起する固体レーザー装置である半導体レーザー励起固体レーザー装置が知られている。
【0003】
こうした半導体レーザー励起固体レーザー装置においては、励起光源たる半導体レーザーから出力された半導体レーザー光たる励起光が照射される固体レーザー媒質(以下、励起光が照射される固体レーザー媒質を、単に、「レーザー媒質」と適宜に称することとする。)として、Nd:YVO(Neodymium Doped Yttrium Orthovanadate)やNd:YAG(Neodymium Doped Yttrium Aluminum Garnet)などが一般的に使用される。
【0004】
ここで、Nd:YVOやNd:YAGなどをレーザー媒質として用いた小型の半導体レーザー励起固体レーザー装置においては、一般に、ファイバーカップルされた半導体レーザーを用いて、ファイバーを介してレーザー媒質の端面から励起光を照射する手法が採用されている。
【0005】
こうした励起の手法を採用する理由としては、ファイバーカップルされた半導体レーザーを用いてファイバーを介してレーザー媒質の端面から励起光を照射すると、半導体レーザーによる励起光の照射によりレーザー媒質内に作られる励起ボリュームと共振器のモードボリュームとの重なりが良好になり、効率良くレーザーエネルギーを得ることができるようになるからである。
【0006】
そして、その結果、半導体レーザーが出力する励起光の励起パワーが小さくてすみ、レーザー媒質における熱の発生を小さく抑えることができるようになるため、半導体レーザー励起固体レーザー装置の出力が10Wを超えるものであっても、レーザー媒質を空冷により冷却することが可能となるものであった。
【0007】

ここで、レーザー媒質における冷却あるいは排熱が十分に行われない場合には、レーザー媒質が高温になり、レーザー媒質が高温になることにより、熱レンズ効果が強く発生し、レーザー媒質の端面における球面収差の影響により、レーザー出力に限界を生じさせてしまう。
【0008】
さらに、レーザー媒質における冷却あるいは排熱が十分に行われない場合には、レーザー媒質により生じる歪みによりレーザー媒質自体が損傷してしまう。
【0009】
このため、こうした半導体レーザー励起固体レーザー装置においては、レーザー媒質の冷却あるいは排熱を十分に行えるような構成を備えている。
【0010】
具体的には、低出力の半導体レーザー励起固定レーザー装置においては、レーザー媒質と緊密に接触し、筐体内部において当該レーザー媒質を保持する金属部品たるレーザー媒質ホルダーを利用して伝熱することにより、レーザー媒質に生じた熱の排熱を実現している。
【0011】
なお、こうした金属部品たるレーザー媒質ホルダーには、例えば、フィンや熱拡散プレートなどが取り付けられており、効率良く排熱することができるように工夫されている。
【0012】

ところで、半導体レーザーが出力する励起光の励起パワーが10Wを超えるような高出力励起による半導体レーザー励起固体レーザー装置においては、レーザー媒質と緊密に接触しているレーザー媒質ホルダーが熱的な平衡に達するまでに時間がかかるため、当該半導体レーザー励起固体レーザー装置のウォームアップに長い時間を必要とすることが指摘されていた。
【0013】
また、レーザー媒質の排熱は筐体外部に向けて行われるものであるが、筐体の周囲の温度が変化するような場合には、その変化に伴って筐体の温度が変化することによりレーザー媒質ホルダーを介してレーザー媒質の温度も変化し、半導体レーザー励起固体レーザー装置のレーザー出力自体が変動してしまうものであった。
【0014】
このため、従来の半導体レーザー励起固体レーザー装置においては、レーザー媒質を緊密に接触して保持するレーザー媒質ホルダーの恒温化を図る必要があり、レーザー媒質ホルダーの恒温化のため、筐体に水冷ヒートシンク、TEクーラー、ファンあるいはヒーターなどを配設して、筐体を介してレーザー媒質ホルダーの温度を一定に保つような工夫がなされていた。
【0015】
具体的には、例えば、特許文献1として提示する特開2000−164958号公報に開示された技術や特許文献2として提示する特表2002−530899号公報に開示された技術によれば、レーザー媒質の近傍に放熱フィンなどの冷却ユニットや水冷ヒートシンク、TEクーラー、ファンなどの構成を設けることにより、筐体外部から能動的に熱的な制御を行って、レーザー媒質における熱レンズ効果を安定化して、安定したレーザー発振を行うようにしている。
【0016】
また、特許文献2に開示された技術によれば、レーザー媒質と緊密に接触する金属部品をフィンまたは熱拡散プレートに取り付けることにより、フィンや熱拡散プレートが配設された筐体の外部に排熱を行うことで、受動的に熱的な制御を行って、レーザー媒質における熱レンズ効果を安定化して、安定したレーザー発振を行うようにしている。
【0017】

しかしながら、半導体レーザー励起固体レーザー装置において、特許文献1および特許文献2に記載されているような、レーザー媒質ホルダーを能動的な制御によって冷却する構成では、装置全体が複雑かつ大型化しまっていた。
【0018】
また、特許文献1および特許文献2に開示された技術においては、レーザー媒質ホルダーを能動的あるいは受動的な制御によって冷却するため、レーザー媒質に入出する熱量が変化した場合には、レーザー媒質が熱的に平衡状態になるまで時間を要することとなり、平衡状態になるまでのレーザー媒質の温度変化に伴ってレーザーの出力が変動してしまっていた。
【0019】

さらに、半導体レーザー励起固体レーザー装置において、冷却装置などのアクティブな付帯設備を用いて筐体外部から能動的に熱的な制御を行うことなく、フィンや熱拡散プレートなどを使用して受動的に熱的な制御を行う場合には、冷感時にレーザー発振を開始すると、図1(a)に示すように、半導体レーザー励起固体レーザー装置からのレーザー出力が、予め設定した所望の値αを一度大きく超えた後に所望の値αに徐々に移行したり、あるいは、図1(b)に示すように、半導体レーザー励起固体レーザー装置からのレーザー出力が、予め設定した所望の値αより著しく低い値から徐々に所望の値αに移行したりするなどの現象が見られていた。
【0020】
即ち、半導体レーザー励起固体レーザー装置において、受動的な制御により冷却が行われる場合には、冷感時にレーザー発振を開始した際、レーザー発振開始直後に所望のレーザー出力が得られず、レーザー発振開始後に徐々に所望のレーザー出力が得られるようになるという立ち上がり応答特性が現出することになる。
【0021】
従って、こうした半導体レーザー励起固体レーザー装置をレーザー加工などに応用した場合には、レーザー加工開始部分において加工が浅くなったり深くなったりするという不具合が生じる恐れがあった。
【0022】
なお、こうした現象は、レーザー発振時とレーザー非発振時とでレーザー媒質の温度が異なることにより、レーザー媒質内で生じる熱レンズ効果が変化することに起因するものであった。
【0023】
つまり、レーザー非発振時には、レーザー媒質が吸収した半導体レーザーによる励起光のエネルギーは、ほとんど光エネルギーに変化しないため熱に変化し、レーザー媒質およびレーザー媒質ホルダーの温度を上昇させるように作用する。
【0024】
これに対し、レーザー発振時には、レーザー媒質が吸収した半導体レーザーによる励起光のエネルギーは、光エネルギーとなってレーザー出力されるため、レーザー非発振時に比べてレーザー媒質およびレーザー媒質ホルダーの温度は下がることとなる。
【0025】
こうしたレーザー媒質およびレーザー媒質ホルダーの温度変化が、半導体レーザー励起固体レーザー装置のレーザー出力変動の主な原因であると認識されている。
【0026】
また、レーザー媒質の周辺の温度が変化する、つまり、半導体レーザー励起固体レーザー装置の周辺環境温度が変化すると、レーザー媒質およびレーザー媒質ホルダーの温度も周辺環境温度と連動して変化してしまい、その結果、半導体レーザー励起固体レーザー装置におけるレーザー出力が変化してしまっていた。
【0027】
さらに、半導体レーザー励起固体レーザー装置において、受動的な制御により冷却が行われる場合には、励起光たる半導体レーザー光の出力を変更するなどの設定を変更したときには、当該設定の変化に伴ってレーザー媒質ホルダーの温度が変化してしまい、冷感時と同様に、設定変更直後に所望のレーザー出力が得ることができず、設定変更後に徐々に所望の出力が得られるようになるという立ち上がり応答特性が現出することになってしまっていた。
【0028】

このため、装置全体の構成が簡潔かつ小型であるとともに、レーザー出力の立ち上がり応答特性に優れ、周辺の温度の変動に対して影響を受け難い半導体レーザー励起固体レーザー装置の実現が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2000−164958号公報
【特許文献2】特表2002−530899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、従来の技術の有する上記したような要望に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、装置全体の構成が簡潔かつ小型であるとともに、レーザー出力の立ち上がり応答特性に優れた半導体レーザー励起固体レーザー装置を提供しようとするものである。
【0031】
また、本発明の目的とするところは、周辺環境の温度の変動に対して影響を受け難い半導体レーザー励起固体レーザー装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記目的を達成するために、本発明は、半導体レーザーより出射された半導体レーザー光を励起光として、該励起光をレーザー共振器内に配置された固体レーザー媒質に入射してレーザー発振させ、上記レーザー共振器からレーザー光を出力する半導体レーザー励起固体レーザー装置において、筐体内に固体レーザー媒質を保持するとともに、熱伝導特性の優れた素材により構成されるレーザー媒質保持手段と、上記レーザー媒質保持手段における上記固体レーザー媒質の近傍に位置するように配設される加熱手段と、上記レーザー媒質保持手段における上記固体レーザー媒質と上記加熱手段との間に配置されるとともに、上記固体レーザー媒質の近傍の温度を計測する測温手段と、上記測温手段による上記固体レーザー媒質近傍のレーザー媒質保持手段の温度の測温結果に基づいて、上記加熱手段を制御する制御手段とを有し、上記レーザー媒質保持手段における排熱と上記加熱手段による加熱とにより上記固体レーザー媒質近傍の温度を一定温度に保つようにしたものである。
【0033】
また、本発明は、上記した発明において、上記レーザー媒質保持手段は、略直方体の下端部が左右方向に突出して凸部を形成した略T字状体を逆さまにした形状の基台部と、所定の空間を形成するようにして上記基台部に融着されてネジにより上記基台部に固定された略直方体の接合部材とを有し、上記固体レーザー媒質は、上記所定の空間において、上記基台部および上記接合部材との当接面において融着して固定的に配設されるようにしたものである。
【0034】
また、本発明は、上記した発明において、上記加熱手段は、保持板によって上記基台部と挟持されるようにして上記固体レーザー媒質の近傍に位置するように配設されるようにしたものである。
【0035】
また、本発明は、上記した発明において、上記制御手段は、半導体レーザーから出射される半導体レーザー光による熱量の減少分を補完するようにして、最小限のエネルギーによって上記加熱手段を制御するようにしたものである。
【0036】
また、本発明は、上記した発明において、上記制御手段は、上記レーザー媒質保持手段の温度を40℃〜100℃の範囲内の所望の温度で、精度±2℃以下に維持するように制御するようにしたものである。
【0037】
また、本発明は、上記した発明において、上記レーザー共振器内にQスイッチを有するようにしたものである。
【0038】
また、本発明は、上記した発明において、上記レーザー共振器内に非線形光学結晶を有するようにしたものである。
【0039】
また、本発明は、上記した発明において、上記固体レーザー媒質は、Nd:YVO4であり、上記レーザー共振器から出力されるレーザー光は、波長が1064nmであり、レーザー出力が8W以上であるようにしたものである。
【0040】
また、本発明は、上記した発明において、上記固体レーザー媒質は、Nd:YVO4であり、上記レーザー共振器から出力されるレーザー光は、波長が532nmであり、レーザー出力が5W以上であるようにしたものである。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、以上説明したように構成されているので、装置全体の構成を簡潔かつ小型化することができるとともに、レーザー出力の立ち上がり応答特性を向上することができるという優れた効果を奏する。
【0042】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、周辺環境の温度の変動に対して影響を受け難いという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1(a)(b)は、従来技術を用いた際の半導体レーザー励起固体レーザー装置におけるレーザー出力の立ち上がり応答特性を示したグラフであり、また、図1(c)は、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置におけるレーザー出力の立ち上がり応答特性を示したグラフである。
【図2】図2(a)は、上面から見た状態において筐体のみを破断して示した本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置の実施の形態の一例の概略構成説明図であり、また、図2(b)は、右側面から見た状態において筐体のみを破断して示した本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置の実施の形態の一例の概略構成説明図である。
【図3】図3(a)は、レーザー媒質を保持したレーザー媒質ホルダーの正面図であり、また、図3(b)は、レーザー媒質を保持したレーザー媒質ホルダーの右側面図であり、また、図3(c)は、レーザー媒質を保持したレーザー媒質ホルダーの平面図である。
【図4】図4は、実験に用いたレーザー媒質ホルダーの温度を変化させたときのレーザー出力を測定した結果を示し、レーザー媒質ホルダーの温度変化に対するレーザー出力の変動を示すグラフである。
【図5】図5は、ヒーターによる加熱を行わないときのレーザー発振時における周辺環境温度の変化に対するレーザー媒質ホルダーの温度の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、ヒーターによる加熱を行わないときのレーザー発振時における周辺環境温度の変化に対するレーザー出力の変化を示すグラフである。
【図7】図7は、レーザー媒質ホルダーの温度が常に35℃ならびに40℃になるよう温度制御されたときのレーザーの入出力特性を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、従来の技術による半導体レーザー励起固体レーザー装置におけるレーザー媒質ホルダーの温度と出力との関係を示すグラフであり、また、図8(b)は、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置におけるレーザー媒質ホルダーの温度と出力との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置においてレーザー共振器内にQスイッチを配置した状態を示すものであって、筐体のみを破断して平面から見た状態の概略構成説明図である。
【図10】図10は、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置においてレーザー共振器内に非線形光学素子を配置した状態を示すものであって、筐体のみを破断して平面から見た状態の概略構成説明図である。
【図11】図11は、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置における基本波と第2高調波とについて、実験に用いたレーザー媒質ホルダーの温度を変化させてレーザー出力を測定した測定結果を示し、レーザー媒質ホルダーの温度の変化に対するレーザー出力の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置の実施の形態の一例について詳細に説明するものとする。
【0045】

図2(a)には、上面から見た状態において筐体のみを破断して示した本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置の実施の形態の一例の概略構成説明図が示されており、また、図2(b)には、右側面から見た状態において筐体のみを破断して示した本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置の実施の形態の一例の概略構成説明図が示されている。
【0046】
この半導体レーザー励起固体レーザー装置10は、後述する出力ミラー20aと高反射ミラー20bとによりレーザー共振器が構成されており、このレーザー共振器内にレーザー媒質16が配置されている。
【0047】
より詳細には、半導体レーザー励起固体レーザー装置10は、ファイバー28をカップルされた半導体レーザー12と、半導体レーザー12より生成されてファイバー28を介して出射される半導体レーザー光たる励起光を平行光とするためのコリメーターレンズ14aと、コリメーターレンズ14aで平行光とされた励起光を集光するための集光レンズ14bと、集光レンズ14bにより集光された励起光によりレーザー発振するレーザー媒質16と、レーザー媒質16を保持するレーザー媒質ホルダー18と、レーザー媒質16から誘導放出されたレーザー光の波長に対して所定の透過率を持つ出力ミラー20aと、ファイバー28を介して出射された励起光の波長を透過するとともにレーザー媒質16から誘導放出されたレーザー光の波長を高反射率で反射する高反射ミラー20bと、ファイバー28から出力される励起光をレーザー共振器内に入射するための入射ウインドウ22aおよび出力ミラー20aからレーザー共振器の外部へ出力されたレーザー光を出射するための出射ウインドウ22bが設けられた筐体24とを有して構成されている。
【0048】
なお、筐体24は、レーザー媒質ホルダー18などが配置される筐体底部24a−1と筐体底部24a−1から立設された筐体側壁部24a−2とよりなる筐体基部24aと、筐体基部24aの上面を閉塞するための筐体蓋部24bとより構成されている。
【0049】
入射ウインドウ22aならびに出射ウインドウ22bは、対向して配置される筐体側壁部24a−2にそれぞれ形成されている。
【0050】

ここで、半導体レーザー励起固体レーザー装置10におけるレーザー媒質ホルダー18の構成ならびにレーザー媒質ホルダー18を筐体24の筐体底部24a−1へ取り付けるための構成を除く他の構成については、従来より公知の技術を援用することができるものであるので、その詳細な構成ならびに作用の説明は省略し、以下においては、レーザー媒質ホルダー18の構成ならびにレーザー媒質ホルダー18を筐体24の筐体底部24a−1へ取り付けるための構成を中心に詳細に説明する。
【0051】

まず、図3(a)には、レーザー媒質16を保持したレーザー媒質ホルダー18の正面図が示されており、また、図3(b)には、レーザー媒質16を保持したレーザー媒質ホルダー18の右側面図が示されており、また、図3(c)には、レーザー媒質16を保持したレーザー媒質ホルダー18の平面図が示されている。
【0052】
このレーザー媒質ホルダー18は、略直方体の下端部が左右方向に突出して凸部18d、18eを形成した略T字状体を逆さまにした形状の基台部18aと、所定の空間18cを形成するようにして基台部18aに融着され、さらに、ネジ18ba、18bbにより基台部18aに固定された略直方体の接合部材18bとを有して構成されている。
【0053】
そして、基台部18aと接合部材18bとにより形成された空間18cに、レーザー媒質16が配設されている。レーザー媒質16の側面と基台部18aならびに接合部材18bとの当接面は融着されていて、レーザー媒質16は空間18cの高さ方向における所定の位置に固定的に配設されている。
【0054】
具体的には、空間18c内において、レーザー媒質16は上下方向ではレーザー媒質ホルダー18に接することなしに左右方向でのみ固定され保持されている。
【0055】
また、凸部18d、18eには、高さ方向に貫通する楕円形状の長孔18da、18eaが穿設されている。そして、この長孔18da、18eaの任意の位置にそれぞれネジ18db、18ebを挿通して、そのネジを筐体底部24a−1に形成されたネジ穴24a−1aにネジ結合することにより、レーザー媒質ホルダー18を位置調整可能に筐体底部24a−1に固定することができるように構成されている。
【0056】
さらに、この半導体レーザー励起固体レーザー装置10においては、レーザー媒質16の近傍に位置するようにヒーター30が配設されており、ヒーター30とレーザー媒質16との間に温度を計測する温度センサー32が設けられている。
【0057】
具体的には、ヒーター30は、基台部18aの左側面18aaに設けられた凹部18abに、その一部を嵌め込むようにして配設されるとともに、ネジ34a、34bにより基台部18aに固定される保持板34によって、保持板34と基台部18aとにより挟持されるようにして固定的に配設される。
【0058】
また、温度センサー32は、基台部18aの上面18acに設けられた孔18adに差し込まれるとともに、保持板34により基台部18aに固定的に配設されたヒーター30とレーザー媒質16との間にセンサー部32aが位置するようにして配設される。
【0059】
なお、こうしたヒーター30および温度センサー32は図示しない温度コントローラーに接続されており、温度センサー32で計測した温度に基づいて、当該温度コントローラーによりヒーター30が制御されるようになされている。
【0060】
こうした温度コントローラーは、例えば、温度センサー32により計測される温度が、後述するように、レーザー出力が10W以上となる40℃〜100℃の範囲の所望の温度で、精度±2℃以下となるように、ヒーター30を制御する。
【0061】
また、レーザー媒質ホルダー18を構成する基台部18a、接合部材18bおよびネジ18ba、18bb、18db、18ebは、熱伝導特性の優れた材料、具体的には、金属、例えば、銅により構成し、さらに、筐体24については、熱伝導特性が高い材料、例えば、金属などにより構成する。
【0062】
例えば、銅の熱伝導率は「398W/(m・K)」であるが、銅や銅と同程度の熱伝導率の材料であるならば、レーザー媒質ホルダー18を構成する基台部18a、接合部材18bおよびネジ18ba、18bb、18db、18ebや筐体24に用いて好適である。
【0063】
なお、銀の熱伝導率は「420W/(m・K)」であり、金の熱伝導率は「320W/(m・K)」であり、アルミニウムの熱伝導率は「236W/(m・K)」であるので、こうした材料や銅を含むこれらの材料の合金などを用いるようにしてもよい。
【0064】

以上の構成において、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10を用いてレーザーを発振するには、まず、ファイバー28にカップリングされた半導体レーザー12より、入射ウインドウ22aからファイバー28を介して筐体24内に半導体レーザー光たる励起光を入射し、コリメーターレンズ14aにおいて入射された励起光を平行光にする。
【0065】
そして、平行光とされた励起光を集光レンズ14bにおいて集光し、集光した励起光をレーザー媒質16に入射する。
【0066】
このレーザー媒質16への励起光の入射によりレーザー媒質16からレーザー光が誘導放出される。
【0067】
この誘導放出されたレーザー光は、出力ミラー20aと高反射ミラー20bとからなるレーザー共振器において増幅され、増幅されたレーザー光は透過性のある出力ミラー20aからレーザー共振器の外部へ出力され、出射ウインドウ22bを通って半導体レーザー励起固体レーザー装置10の外部へ出力される。
【0068】

この際に、温度コントローラー(図示せず。)により温度センサー32における計測温度に基づいて、ヒーター30を制御することによって、レーザー媒質ホルダー18を所定の温度で恒温化することで、変動率の小さいレーザー出力を得ることができる。
【0069】
即ち、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10においては、熱伝導特性の優れたレーザー媒質ホルダー18により排熱を行いながら、温度コントローラー(図示せず。)に接続されたヒーター30により、レーザー媒質ホルダー18を加温して恒温化するため、レーザー発振時、レーザー非発振時によらずレーザー媒質ホルダー18を恒温化することができるため、レーザー発振直後から安定したレーザー出力を得ることができるとともに、レーザー媒質ホルダー18が周辺環境温度の影響を受けにくくなり、周辺環境温度が変化しても安定したレーザー出力を得ることができる。
【0070】
また、ヒーター30をレーザー媒質16の近傍に位置するように配設したため、ヒーター30においてはレーザー媒質ホルダー18を温めるだけの最低限のパワーがあればよく、こうしたヒーター30のパワーは、筐体全体を恒温化するような従来の方法と比較して、はるかに小さいパワーでよい。
【0071】
例えば、半導体レーザー励起固体レーザー装置10を使用する際の周辺環境温度が常温付近であれば、ヒーター30のパワーは半導体レーザー12のパワーと同程度のワット数で良いこととなる。
【0072】

次に、本願発明者が上記した半導体レーザー励起固体レーザー装置10を用いて行った実験結果について詳細に説明する。なお、実験は、以下の条件において行った。
【0073】
1.材料
半導体レーザー12の材料 GaAs
レーザー媒質16の材料 Nd:YVO
レーザー媒質ホルダー18の材料 銅
筐体24の材料 アルミニウム合金
2.機器
ヒーター30 坂口電熱社製MS−3
温度センサー32 石塚電子社製103ET
3.半導体レーザー12により出力される励起光
ファイバー28のファイバーコア径 400μm
波長 808.5nm
エネルギー 50W
4.出力されるレーザー光
波長 1064nm

ここで、図4には、レーザー媒質ホルダー18の温度を変化させてレーザー出力を測定した測定結果が示されている。即ち、図4は、レーザー媒質ホルダー18の温度とレーザー出力との関係を示すグラフである。
【0074】
なお、上記したように、レーザー媒質16としては、Nd:YVOを用いており、レーザー出力されたレーザー光は基本波であってその波長は1064nmである。
【0075】
図4に示されているように、レーザー媒質ホルダー18の温度が変化すると、その変化に伴ってレーザー出力も変化し、レーザー媒質ホルダー18の温度が80℃のときにピークを迎えている。そして、レーザー媒質ホルダー18の温度が60℃〜100℃の間では、レーザー出力の変動が小さいことがわかる。
【0076】
ここで、レーザー媒質ホルダー18にヒーター30を配置することなしにレーザー媒質ホルダー18を筐体24に固定した場合では、周辺環境温度が25℃のときには、レーザー媒質ホルダー18の温度はレーザー非発振時に約65℃となり、レーザー発振時には約40度となる。
【0077】
これを図4にあてはめてみると、レーザー発振直後にはレーザー媒質ホルダー18の温度とレーザー出力との関係はAの状態にあり、レーザー発振が安定した後にはレーザー媒質ホルダー18の温度とレーザー出力との関係はBの状態にあることを示す。
【0078】
従って、レーザー発振する際には、レーザー出力はレーザー発振直後に11.9Wとなり徐々に低下して10.0Wで安定化する。
【0079】
つまり、この場合のレーザーの立ち上がり応答特性は、図1(a)に示すようになり、レーザー発振直後から安定した出力を得ることができない。
【0080】
これに対して、レーザー媒質ホルダー18にヒーター30を配置してレーザー媒質ホルダー18を筐体24に固定し、温度コントローラー(図示せず。)の制御によりレーザー媒質ホルダー18の温度が所定の温度になるように設定した場合では、当該所定の温度を65℃と設定すると、周辺環境温度が25℃のときは、レーザー非発振時には、レーザー媒質ホルダー18の温度が65℃となるため温度コントローラー(図示せず。)の制御によるヒーター30による加熱を行わず、レーザー発振時には、何もしないとレーザー媒質ホルダー18の温度が40℃まで低下してしまうので、温度センサー32によるレーザー媒質16近傍のレーザー媒質ホルダー18の温度の計測結果に基づく温度コントローラー(図示せず。)の制御により、ヒーター30による加熱が行われて、レーザー媒質ホルダー18の温度を常に65℃に保つようになされる。
【0081】
これを図4にあてはめてみると、レーザー発振直後にはレーザー媒質ホルダー18の温度とレーザー出力との関係はAの状態にあり、レーザー発振が安定した後にもレーザー媒質ホルダー18の温度とレーザー出力との関係はAの状態であることを示す。
【0082】
従って、レーザー発振する際には、レーザー出力はレーザー発振直後から11.9Wとなり、11.9Wで安定する。
【0083】

つまり、この場合には、レーザー出力がレーザー発振直後からほぼ一定の値を示すようになり、レーザー立ち上がり応答特性は、図1(c)に示すように、レーザー発振直後から安定した出力を得ることができる。
【0084】
即ち、半導体レーザー励起固体レーザー装置10においては、温度センサー32によるレーザー媒質16近傍のレーザー媒質ホルダー18の温度の計測結果に基づく温度コントローラー(図示せず。)の制御によって、ヒーター30によりレーザー媒質ホルダー18の温度を常に所定の温度に保つようにすることで、レーザー媒質ホルダー18のレーザー発振時、非発振時における温度が、常に所定の温度近傍の数値を示し、レーザー発振時とレーザー非発振時とにおけるレーザー媒質ホルダーの温度差が小さくなる。
【0085】
その結果、レーザー媒質ホルダー18にヒーター30を配設しない半導体レーザー励起固体レーザー装置に比べて、半導体レーザー励起固体レーザー10においては、レーザー出力の変動が抑制されて安定したレーザー出力を得ることができる。
【0086】

次に、レーザー媒質ホルダー18にヒーター30を配置してレーザー媒質ホルダー18を筐体24に固定し、温度コントローラー(図示せず。)の制御によりレーザー媒質ホルダー18の温度が常に所定の温度になるようにヒーター30を制御する場合、つまり、レーザー媒質ホルダー18の温度制御が可能な場合において、レーザー媒質ホルダー18の温度制御を行わない際の、レーザー発振時(レーザーを連続運転して、定常状態になった時点)における周辺環境温度に対するレーザー媒質ホルダー18の温度の変化を図5に示す。
【0087】
なお、レーザー媒質ホルダー18の温度制御が可能な場合において、レーザー媒質ホルダー18の温度制御を行わない際とは、実質的に、レーザー媒質ホルダー18にヒーター30を配置することなしにレーザー媒質ホルダー18を筐体24に固定する場合に相当するものである。
【0088】
また、レーザー発振条件としては、
半導体レーザー12の電流値 50A固定
レーザー出力 周辺環境温度25℃で10.0W
である。
【0089】

図5に示すように、周辺環境温度が0℃〜50℃まで変化すると、レーザー媒質ホルダー18の温度は15℃〜65℃まで変化している。
【0090】
これは、周辺環境温度の変化に影響されてレーザー媒質ホルダー18の温度が連動して変化し、周辺環境温度の変化量50℃がそのままレーザー媒質ホルダー18の温度の変化量となっている。
【0091】
この条件において、周辺環境温度が15℃〜40℃まで変化すると、レーザー媒質ホルダー18の温度は30℃〜55℃まで変化することとなり、このときのレーザー出力は、図6に示すように、8.7W〜11.2Wまで変化してしまう。
【0092】

このため、レーザー媒質ホルダー18の温度制御が可能な場合において、レーザー媒質ホルダー18の温度制御を行わない際には、レーザー発振時において周辺環境温度の変化がレーザー出力に大きな影響を及ぼすことになる。
【0093】
つまり、レーザー媒質ホルダー18にヒーター30を配置することなしにレーザー媒質ホルダー18を筐体24に固定する場合においても、レーザー発振時において周辺環境温度の変化がレーザー出力に大きな影響を及ぼすということになる。
【0094】
しかしながら、温度センサー32によるレーザー媒質16近傍のレーザー媒質ホルダー18の計測温度が常に55℃になるように、温度コントローラー(図示せず。)によってヒーター30による加熱を制御すると、レーザー媒質ホルダー18の温度は周辺温度の影響に関わらず常に一定となるので、レーザー出力は11.2Wに保たれることとなる。
【0095】
仮に、レーザーをON−OFFさせる(レーザーの発振、非発振状態を切り替える)場合では、レーザーOFF時(非発振時)には、レーザー媒質ホルダー18の温度は周辺環境温度が25℃のときに最大65℃に達するため、温度コントローラー(図示せず。)によりヒーター30による加熱を制御して、レーザー媒質ホルダー18の温度を常に65℃になるように設定すると、周辺環境温度、レーザー発振直後であるか否かなどに関わらず、レーザー出力を常に11.9Wに保つことができるようになる。
【0096】
このように、レーザー出力を安定させる場合には、周辺環境温度、レーザー非発振状態のときに達する温度のうち、高い方の温度をレーザー媒質ホルダー18の温度となるように温度コントローラー(図示せず。)において設定すればよい。
【0097】

以上においては、半導体レーザー12の励起強度が一定の状態における半導体レーザー励起固体レーザー装置10のレーザー出力の変動について説明したが、次に、半導体レーザー励起固体レーザー装置10のレーザー出力をコントロールするために半導体レーザー12の励起強度を変化させる場合について、図7を参照しながら、詳細に説明することとする。
【0098】
この図7には、レーザー媒質ホルダー18にヒーター30を配設してレーザー媒質ホルダー18を筐体24に固定した場合において、レーザー媒質ホルダー18の温度が常に35℃になるように温度制御したときと、レーザー媒質ホルダー18の温度が常に40℃になるように温度制御したときのレーザーの入出力特性が示されている。
【0099】
即ち、この図7においては、レーザー媒質ホルダー18の温度を35℃および40℃に設定したときの、半導体レーザー12に供給する電流値に対する半導体レーザー励起固体レーザー装置10から出射されるレーザー出力が示されている。
【0100】
図7に示すように、レーザーの入出力特性はレーザー媒質ホルダー18の温度により、一般的には異なるものである。
【0101】
ここで、レーザー媒質ホルダー18の温度を制御しない場合、周辺環境温度が25℃で半導体レーザー12に50Aの電流を流し、連続発振させ続けるとレーザー出力は10Wとなり、レーザー媒質ホルダー18の温度は40℃で安定する。これは、図7のDに示す状態である。
【0102】
これに対し、周辺環境温度が25℃で半導体レーザー12に45Aの電流を流し、連続発振させ続けるとレーザー出力は4Wとなり、レーザー媒質ホルダー18の温度は35℃で安定する。これは、図7のEに示す状態である。
【0103】

ここで、半導体レーザー12に供給する電流値を50Aから45Aに変更して、レーザーの出力をコントロールする場合について説明する。
【0104】
即ち、半導体レーザー12を電流値50Aで連続発振させると、半導体レーザー励起固体レーザー装置10より出力されるレーザーは10W(図7のDで示す状態)で安定し、レーザー出力をコントロールするために電流値を急激に下げて電流値を45Aにした場合には、半導体レーザー12に供給する電流値の変更直後は、レーザー媒質ホルダー18の温度が40℃のままであるため、出力されるレーザーは5.4W(図7のFで示す状態)となる。
【0105】
その後、半導体レーザー12の励起強度が減少したためにレーザー媒質ホルダー18の温度が徐々に下がり、レーザー媒質ホルダー18の温度の低下に伴ってレーザー出力も徐々に低下し、最終的にレーザー出力が4W(図7のEで示す状態)となる。
【0106】
つまり、半導体レーザー12に供給する電流値を調整して半導体レーザー励起固体レーザー装置10のレーザー出力を調整する場合には、電流値を変更した後に徐々に所定のレーザー出力になるものであった。
【0107】
こうした場合において電流値を変更した後にレーザー出力を直ちに安定させるようにするには、レーザー媒質ホルダー18の温度を、変更前の電流値と変更後の電流値とでより高いレーザー出力を示す温度に設定すればよい。
【0108】
つまり、図7に示すような場合には、温度センサー32によるレーザー媒質16近傍のレーザー媒質ホルダー18の温度の計測結果に基づく温度コントローラー(図示せず。)の制御によって、ヒーター30によりレーザー媒質ホルダー18の温度を常に40℃以上になるように設定すればよい。
【0109】
さらに、レーザー発振停止(レーザー非発振時)を考慮するならば、レーザー媒質ホルダー18の温度を常に65℃以上になるように設定すればよい。
【0110】
レーザー媒質ホルダー18の温度を常に40℃以上になるように設定した場合には、レーザー非発振状態からレーザー発振状態に移行する際に、レーザー媒質16に入射される半導体レーザー12の光量が低下して半導体レーザー12からの熱量が低減しても、ヒーター30によりレーザー媒質ホルダー18を介してレーザー媒質16が加熱される。
【0111】
このため、半導体レーザー12に供給する電流値が50Aから45Aへと変更しても、常に、図7における◆印で示す曲線にしたがったレーザー出力となり、半導体レーザー12の電流値変更後に直ちにレーザー出力を安定化することができる。
【0112】

以上において説明したように、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10によれば、温度コントローラー(図示せず。)により温度センサー32における計測温度に基づいて、ヒーター30を制御することによって、レーザー媒質ホルダー18を所定の温度で恒温化して、変動率の小さいレーザー出力を得ることができる。
【0113】
即ち、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10によれば、熱伝導特性の優れたレーザー媒質ホルダー18によりレーザー媒質16の排熱を行いながら、温度センサー32の計測結果に基づいて温度コントローラー(図示せず。)により制御されたヒーター30によってレーザー媒質ホルダー18を加熱して恒温化するため、レーザー発振時、レーザー非発振時によらずレーザー媒質ホルダー18を恒温化することができる。
【0114】
このため、レーザー媒質16を恒温化することとなり、レーザー媒質16の熱レンズ効果を安定化することができ、これにより、レーザー発振直後から安定したレーザー出力を得ることができる。
【0115】
さらに、レーザー媒質ホルダー18を恒温化することにより、レーザー媒質ホルダー18が周辺環境温度の影響を受けにくくなり、レーザー媒質16の熱レンズ効果が安定化し、周辺環境温度が変化しても安定したレーザー出力を得ることができるようになる。
【0116】
また、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10によれば、ヒーター30をレーザー媒質16の近傍に位置するように配置したため、ヒーター30においてはレーザー媒質ホルダー18を温めるだけの最低限のパワーがあればよく、こうしたヒーター30のパワーは、筐体全体を恒温化するような従来の方法と比較して、はるかに小さいパワーでよい。
【0117】
具体的には、半導体レーザー励起固体レーザー装置10を使用する際の周辺環境温度が常温付近であれば、ヒーター30のパワーは半導体レーザー12のパワーと同程度のワット数で良いこととなる。
【0118】
つまり、ヒーター30による加熱は、半導体レーザーによる熱量の減少分を補うようにして、最小限のエネルギーによって制御されることになる。
【0119】
これにより、図8(a)(b)に示すように、従来の技術による半導体レーザー励起固体レーザー装置では、レーザー媒質ホルダーの温度変化が大きいためレーザー出力の変動が大きくなっているのに対し(図8(a)を参照する。)、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10では、レーザー媒質ホルダー18の温度が一定に制御されているためレーザー出力に変動がないようになる(図8(b)を参照する。)。
【0120】

さらに、従来の技術による半導体レーザー励起固体レーザー装置においては、長時間使用していない場合には、レーザー媒質が完全に冷却しているため、半導体レーザー照射後にレーザー媒質ホルダーが所定の温度に達するまでに時間、つまり、ウォームアップタイムが長くなり、安定的にレーザーを出射するまでに時間がかかっていた。
【0121】
しかしながら、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10においては、ヒーター30がレーザー媒質ホルダー18を加熱するため、ウォームアップタイムが従来の技術による半導体レーザー励起固体レーザー装置に比べて短縮することができるようになる。
【0122】

ここで、励起強度が大きいレーザー、つまり、半導体レーザー励起固体レーザー装置において、半導体レーザーにより出射される半導体レーザー光が10W以上の高出力レーザー光の場合、レーザー媒質における排熱を十分に実行することができないとレーザー媒質は熱膨張などにより結晶が損傷してしまう。
【0123】
こうした高出力レーザー光を励起光とする半導体レーザー励起固体レーザー装置においては、従来の技術によれば、ペルチェ素子などを使用することによって、レーザー媒質ホルダーの温度制御を行ってレーザー媒質の排熱を行っていた。
【0124】
しかしながら、こうしたレーザー媒質ホルダーを温度制御するためにペルチェ素子などを使用する場合には、レーザー媒質ホルダー全ての熱を吸収しながら温度制御を行う必要があるために、ペルチェ素子からの排熱を行うためのヒートシンクが大型化してしまっていた。
【0125】
これにより、従来の技術による半導体レーザー励起固体レーザー装置は、装置全体の構成が大型化してしまっていた。
【0126】
これに対し、本発明による半導体レーザー励起固体レーザー装置10においては、熱伝導特性の優れた材料により作製されたレーザー媒質ホルダー18を直接筐体に接続しているため、従来の技術による半導体レーザー励起固体レーザー装置と比べて、装置全体の構成が小型となる。
【0127】
さらに、レーザー媒質ホルダー18をヒートシンクを介して筐体に接続するようにしたとしても、使用するヒートシンクはペルチェ素子使用時に使用するヒートシンクよりも小さくて良いため、従来の技術による半導体レーザー励起固体レーザー装置と比べて、装置全体の構成が小型となる。
【0128】

なお、「レーザー非発振時」とする方法としては、例えば、レーザー共振器内に機械シャッターやスイッチなどを入れて、レーザー発振を止めることにより実現する方法などを用いることができる。
【0129】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(6)に示すように変形することができるものである。
【0130】
(1)上記した実施の形態においては、基台部12aの側面12aaに設けられた凹部12abに一部が埋め込まれるようにしてヒーター30を保持板34と基台部12aとで挟持するように保持していたが、これに限られるものではないことは勿論であり、凹部12abを設けることなく、単に、保持板34と基台部12aの側面12aaとによりヒーター30を挟持するようにして保持するようにしてもよい。
【0131】
(2)上記した実施の形態においては、特に記載しなかったが、筐体24の外側に放熱用フィンやファンを設けるようにしてもよいことは勿論である。
【0132】
(3)上記した実施の形態において、図9に示すように、レーザー共振器内にQスイッチを設けてパルス発光を可能とし、よりエネルギー密度の高いレーザー光を出力することができるようにしてもよい。
【0133】
(4)上記した実施の形態においては詳細な説明を省略したが、半導体レーザー励起固体レーザー装置10において、レーザー媒質16としてNd:YVO4を用いた場合には、その基本発振波長は1064nmの近赤外であるが、可視領域や紫外領域の波長を有するレーザー光を得るために、レーザー共振器内に非線形光学素子を配置してレーザー出力として高調波を得るようにしてもよい。
【0134】
例えば、図10に示すようにレーザー媒質16としてNd:YVO4を用いた場合に、高反射ミラー20bと高反射ミラー36とによりレーザー共振器を構成し、このレーザー共振器内に非線形光学素子を配置すればよい。
【0135】
符号38は出力ミラーであって、波長1064nmの光を反射するとともに波長532nmの光を透過し、波長532nmのレーザー光を出射ウインドウ22bから筐体24の外部へ出力する。
【0136】
なお、図11には、基本波と第2高調波とについて、レーザー媒質ホルダー18の温度を変化させてレーザー出力を測定した測定結果が示されている。
【0137】
第2高調波においても基本波と同様に、レーザー媒質ホルダー18の温度が80℃のときにピークを迎えるとともに、レーザー媒質ホルダー18の温度が60℃〜100℃の間ではレーザー出力の変動が小さいかった。
【0138】
(5)上記した実施の形態においては、レーザー媒質16として、Nd:YVO4やNd:YAGだけでなく、チタンサファイヤまたはYAGなどの各種レーザー媒質を用いるようにしてもよい。
【0139】
(6)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(5)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、レーザーマーキングおよびレーザー溶接といったの各種レーザー加工などの分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0141】
10 半導体レーザー励起固体レーザー装置
12 半導体レーザー
14a コリメーターレンズ
14b 集光レンズ
16 レーザー媒質
18 レーザー媒質ホルダー
18a 基台部
18b 接合部材
18ba、18bb、18db、18eb、34a、34b ネジ
20a、38 出力ミラー
20b、36 高反射ミラー
22a 入射ウインドウ
22b 出射ウインドウ
24 筐体
28 ファイバー
30 ヒーター
32 温度センサー
34 保持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザーより出射された半導体レーザー光を励起光として、該励起光をレーザー共振器内に配置された固体レーザー媒質に入射してレーザー発振させ、前記レーザー共振器からレーザー光を出力する半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
筐体内に固体レーザー媒質を保持するとともに、熱伝導特性の優れた素材により構成されるレーザー媒質保持手段と、
前記レーザー媒質保持手段における前記固体レーザー媒質の近傍に位置するように配設される加熱手段と、
前記レーザー媒質保持手段における前記固体レーザー媒質と前記加熱手段との間に配置されるとともに、前記固体レーザー媒質の近傍の温度を計測する測温手段と、
前記測温手段による前記固体レーザー媒質近傍のレーザー媒質保持手段の温度の測温結果に基づいて、前記加熱手段を制御する制御手段と
を有し、
前記レーザー媒質保持手段における排熱と前記加熱手段による加熱とにより前記固体レーザー媒質近傍の温度を一定温度に保つ
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記レーザー媒質保持手段は、
略直方体の下端部が左右方向に突出して凸部を形成した略T字状体を逆さまにした形状の基台部と、
所定の空間を形成するようにして前記基台部に融着されてネジにより前記基台部に固定された略直方体の接合部材と
を有し、
前記固体レーザー媒質は、前記所定の空間において、前記基台部および前記接合部材との当接面において融着して固定的に配設される
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記加熱手段は、保持板によって前記基台部と挟持されるようにして前記固体レーザー媒質の近傍に位置するように配設される
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記制御手段は、半導体レーザーから出射される半導体レーザー光による熱量の減少分を補完するようにして前記加熱手段を制御する
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項5】
請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記制御手段は、前記レーザー媒質保持手段の温度を40℃〜100℃の範囲内の所望の温度で、精度±2℃以下に維持するように制御する
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記レーザー共振器内にQスイッチを有する
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6のいずれか1項に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記レーザー共振器内に非線形光学結晶を有する
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記固体レーザー媒質は、Nd:YVO4であり、
前記レーザー共振器から出力されるレーザー光は、波長が1064nmであり、レーザー出力が8W以上である
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置において、
前記固体レーザー媒質は、Nd:YVO4であり、
前記レーザー共振器から出力されるレーザー光は、波長が532nmであり、レーザー出力が5W以上である
ことを特徴とする半導体レーザー励起固体レーザー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−33818(P2012−33818A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173706(P2010−173706)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(510057408)株式会社シングルモード (2)
【Fターム(参考)】