説明

半導体光素子、及び、その製造方法

【課題】メサストライプ構造に含まれるZnとの相互拡散を抑制しつつ、安定的に形成される高抵抗な埋め込み層を備える半導体光素子、及び、その製造方法の提供。
【解決手段】メサストライプ構造の両側部に隣接して配置される、ルテニウムを含む1以上の不純物が添加される半導体を含む埋め込み層には、メサストライプ構造に接して形成されるルテニウムが添加される半導体層からなる第1埋め込み層と、ルテニウムと前記半導体の禁制帯のディープレベルに不純物準位を付与する他の金属が添加される半導体層からなる第2埋め込み層と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子に関する。特に、半導体光素子の活性領域の両側が、半絶縁半導体によって埋め込まれる、埋め込みヘテロ構造を有する半導体光素子の特性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光素子の活性領域などを含むメサストライプ構造の両側が、埋め込み層によって埋め込まれている構造を、埋め込みヘテロ構造という。埋め込み層を半絶縁性半導体からなる埋め込みヘテロ構造は、大容量光伝送系半導体光素子として、例えば、光変調器集積型レーザなどにおいて用いられている。埋め込み層が半絶縁性半導体からなる構造は、従来の埋め込み層がpn接合となる構造よりも、素子容量を小さく、より高速変調などが可能となるからである。
【0003】
埋め込み層として、高抵抗となる半絶縁性半導体が用いられ、従来より、鉄(Fe)が不純物として添加された半導体が用いられている。しかし、Feと亜鉛(Zn)は相互拡散しやすいため、埋め込み層のFeと、メサストライプ構造に含まれるp型クラッド層やp型コンタクト層に添加されたZnとが、界面において相互拡散するという問題がある。その結果、埋め込み層にFeが不純物として添加された半導体が用いられると、Znが埋め込み層に拡散し、素子特性の劣化、特に、変調特性の劣化を引き起こす要因となっている。
【0004】
Znの埋め込み層への拡散が抑制される不純物として、ルテニウム(Ru)が添加されたインジウム燐(InP)を埋め込み層に用いた半導体光素子が特許文献1に開示されている。特許文献1には、Ruが不純物として添加されたInP層の成長温度は、580℃から640℃の間であり、典型的には600℃であるとの記載がある。この成長温度は、Feが不純物として添加されたInP層の成長温度として知られている温度と同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−114407号公報
【特許文献2】特開2003−78212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らが研究を重ねた結果、添加するRuの濃度と、形成される埋め込み層の抵抗率は、単に比例関係となっておらず、成長温度が重要な要因となることが明らかとなった。すなわち、Ruが不純物として添加された半導体を埋め込み層として形成される半導体光素子は、埋め込み層の成長温度によって、作製された半導体光素子の特性が異なってしまう。
【0007】
例えば、Ruが不純物として添加されたInP層が、異なる成長温度によって形成された場合に、作製されたInP層の抵抗率と、InP層に含まれるRu原子の濃度について測定をした結果を、以下に記す。成長温度が570℃である場合、作製されたInP層の抵抗率は2×10Ωcmであり、InP層に含まれるRu原子の濃度は7×1017atom/cmであった。また、成長温度610℃である場合、作製されたInP層の抵抗率は5×10Ωcmであり、InP層に含まれるRu原子の濃度は2×1018atom/cmであった。このように、抵抗率とRu原子の濃度は、比例関係になく、成長温度が重要な要因となっている。なお、参考のために記すと、Feが不純物として添加されたInP層が、成長温度が610℃で形成された場合、InP層の抵抗率は2×10Ωcmであった。
【0008】
このため、特許文献1に記載されるような高い成長温度によって、当該埋め込み層が形成されると、Ruが添加されたInP層自体の抵抗率が低下してしまう。その場合、本来、埋め込み層として必要とされる高抵抗という特性を満たしておらず、その結果、当該埋め込み層にリーク電流が発生してしまい、閾値電流が増大するなど、半導体光素子としての特性に不具合が生じる。
【0009】
これに対して、前述の成長温度より低い、例えば、550℃から590℃の間となる成長温度で、当該埋め込み層が形成されると、Ruが添加されたInP層の抵抗率は上昇し、その抵抗率は、半導体光素子として十分な特性を満たし得る。
【0010】
図3は、従来技術に係る半導体光素子の断面図である。当該半導体光素子は、埋め込みヘテロ構造を有しており、埋め込み層にはRuが添加されたInPが用いられている。図3は、後述する本発明の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子の断面図である図2に対応している。550℃から590℃の間となる低い成長温度で、Ruが添加されたInPからなる埋め込み層100が形成され、かつ、同一ウェハ上に作製される複数の半導体光素子のうち、ウェハ端部から10mm近傍といったウェハ外周部に位置する半導体光素子について、図3は示している。
【0011】
このような低い成長温度で、Ruが添加されたInPからなる埋め込み層100が形成されると、インジウム(In)原子の移動(マイグレーション)が十分にされなくなる。その結果、図3に示すように、ウェハ外周部に位置する半導体光素子において、埋め込み層100の上面に、突起形状101が出現してしまう。また、メサストライプ構造の上方にも、Ruが添加されたInPが異常結晶成長される異常結晶成長層102が形成されることとなる。すなわち、異常結晶成長層102により、メサストライプ構造が埋没してしまう。
【0012】
このような問題が生じてしまうと、メサストライプ構造の上部に、レジスト被覆を行うことが不十分となり、埋め込み層100の一部がエッチングされるというプロセス上の不具合が生じて、1個のウェハで作製される半導体光素子の歩留まりが低下する。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みて、メサストライプ構造に含まれるZnとの相互拡散を抑制しつつ、安定的に形成される高抵抗な埋め込み層を備える半導体光素子、及び、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る半導体光素子は、半導体基板上方に、少なくとも、第1の導電型の光ガイド層、活性領域、第2の導電型の光ガイド層が、順に積層されたメサストライプ構造と、前記メサストライプ構造の両側部に隣接して配置される、ルテニウムを含む1以上の不純物が添加される半導体を含む埋め込み層と、を、備える半導体光素子であって、前記埋め込み層には、前記メサストライプ構造に接して形成されるルテニウムが添加される半導体層からなる第1埋め込み層と、前記第1埋め込み層の、前記メサストライプ構造側とは反対側に、ルテニウムと、前記半導体の禁制帯のディープレベルに不純物準位を付与する他の金属が添加される半導体層からなる第2埋め込み層と、を含むことを特徴とする。
【0015】
(2)上記(1)に記載の半導体光素子であって、前記他の金属とは、鉄、若しくは、オスミウム、又は、鉄とオスミウムの両方、であってもよい。
【0016】
(3)上記(2)に記載の半導体光素子であって、前記埋め込み層に含まれる前記半導体は、インジウム燐であってもよい。
【0017】
(4)上記(3)に記載の半導体光素子であって、前記第1埋め込み層のうち、前記メサストライプ構造の両側部に隣接して位置する領域の厚みは、0.5μm以上1μm以下であってもよい。
【0018】
(5)また、上記課題を解決するために、本発明に係る半導体光素子の製造方法は、半導体基板上方に、少なくとも、第1の導電型の光ガイド層、活性領域、第2の導電型の光ガイド層が、順に積層されたメサストライプ構造と、前記メサストライプ構造の両側部に隣接して配置される、不純物が添加される半導体を含む埋め込み層と、を、備える半導体光素子の製造方法であって、前記メサストライプ構造を形成する工程と、第1成長温度により、前記メサストライプ構造の両側に接し、ルテニウムが不純物として添加される半導体を含む第1埋め込み層を形成する工程と、前記第1成長温度より高温となる第2成長温度により、ルテニウムを含む1以上の不純物が添加される半導体を含む第2埋め込み層を形成する工程とを、含む、ことを特徴とする。
【0019】
(6)上記(5)に記載の半導体光素子の製造方法であって、前記第2埋め込み層の少なくとも一部には、前記半導体の禁制帯のディープレベルに不純物準位を付与する他の金属が添付されてもよい。
【0020】
(7)上記(6)に記載の半導体光素子の製造方法であって、前記他の金属とは、鉄、若しくは、オスミウム、又は、鉄とオスミウムの両方、であってもよい。
【0021】
(8)上記(7)に記載の半導体光素子の製造方法であって、前記埋め込み層に含まれる前記半導体は、インジウム燐であってもよい。
【0022】
(9)上記(8)に記載の半導体光素子の製造方法であって、前記第1埋め込み層のうち、前記メサストライプ構造の両側部に隣接して位置する領域の厚みは、0.5μm以上1μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、メサストライプ構造に含まれるZnとの相互拡散を抑制しつつ、安定的に形成される高抵抗な埋め込み層を備える半導体光素子、及び、その製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子の構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子の断面図である。
【図3】従来技術に係る半導体光素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る半導体光素子について、図面に基づいて、以下に説明する。
【0026】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る半導体光素子は、半導体レーザの前方に変調器をモノリシックに集積した変調器集積型半導体レーザ素子1である。すなわち、変調器集積型半導体レーザ素子1は、レーザ部11と変調器部12を備えている。レーザ部11は、例えば、回折格子層を有する分布帰還型レーザ(Distributed Feedback Laser:以下、DFBレーザと記す)である。また、変調器部12は、例えば、電界吸収(Electro-Absorption)型変調器(以下、EA変調器と記す)である。
【0027】
図1は、当該実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1の構造を示す斜視図である。図1には、変調器集積型半導体レーザ素子1のレーザ部11の中心部から、光導波路方向に対して垂直となる断面と、光導波路方向に平行に延び、メサストライプ構造の積層方向に対して垂直となる断面とが、示されている。
【0028】
当該変調器集積型半導体レーザ素子1には、活性領域、及び、活性領域の上下に位置する光ガイド層などにより、多層構造となっており、さらに、多層構造の両側が、光導波路となる領域の外方で除去されたメサストライプ構造となっている。当該変調器集積型半導体レーザ素子1は、埋め込みヘテロ構造を有しており、前述の通り、メサストライプ層の両側が、埋め込み層によって埋め込まれている。
【0029】
図2は、当該実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1の断面図である。図2は、図1に示す当該実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1のA−A断面図である。すなわち、変調器集積型半導体レーザ素子のレーザ部11の中心部から、光導波路方向に対して垂直となる断面である。
【0030】
当該変調器集積型半導体レーザ素子1は、レーザ部11及び変調器部12に、それぞれ多層構造を備えている。ここでは、レーザ部11の多層構造を第1多層構造、変調器部12の多層構造を第2多層構造とする。
【0031】
なお、図1及び図2には、変調器集積型半導体レーザ素子1の構造を理解するために、図示されていなかったり、実際の縮尺とは異なり誇張されて図示されている部位がある。
【0032】
図1及び図2に示す通り、第1多層構造には、n型InP基板20上に、n型InPバッファ層(図示せず)、n型InGaAsP光ガイド層25(図1には図示せず)、活性層22、p型InGaAsP光ガイド層26(図1には図示せず)、p型InPスペーサ層(図示せず)、p型InGaAsP回折格子層(図示せず)、p型InPクラッド層23、p型InGaAsPノッチ低減層(図示せず)、p型InGaAsコンタクト層24が積層されている。
【0033】
ここで、活性層22は、アンドープInGaAsP系の材料によって形成され、たとえば多重量子井戸を構成している。レーザ部11において、活性層22が活性領域となっている。
【0034】
同様に、図1に示す通り、第2多層構造には、n型InP基板20上に、n型InPバッファ層(図示せず)、n型InGaAsP光ガイド層25(図1には図示せず)、光吸収層32、p型InGaAsP光ガイド層26(図1には図示せず)、p型InPクラッド層23、p型InGaAsPノッチ軽減層(図示せず)、p型InGaAsコンタクト層24が積層されている。
【0035】
ここで、光吸収層32は、アンドープInGaAsP系の材料によって形成され、たとえば多重量子井戸を構成している。変調器部12において、光吸収層32が活性領域となっている。
【0036】
レーザ部11の第1多層構造から変調器部12の第2多層構造に渡って、光導波路領域の外側が、多層構造の上面からn型InP基板20の上表面から約1μmの深さまで除去されており、メサストライプ構造となっている。メサストライプ構造のメサストライプ幅は、1〜2.5μm程度である。
【0037】
当該変調器集積型半導体レーザ素子1は、メサストライプ構造の両側が、埋め込み層によって埋め込まれており、埋め込みヘテロ構造を有している。当該変調器集積型半導体レーザ素子1の埋め込み層は、図2に示す通り、メサストライプ構造の両側と、メサストライプ構造の両脇に位置するn型InP基板20の上面とを覆う第1埋め込み層41と、第1埋め込み層41のメサストライプ構造側とは反対側に配置される第2埋め込み層42とで、構成されている。
【0038】
第1埋め込み層41は、Ruが不純物として添加されたInP層であり、550℃から590℃の間であり、典型的には570℃である第1成長温度で形成されている。このような成長温度で、第1埋め込み層41が形成されたことにより、レーザ部11における活性層22、変調器部12における光吸収層32など、光導波路を形成している活性領域の両側を、高抵抗の半導体層で埋め込むことが可能となる。また、第1埋め込み層41には、Ruが不純物として添加されており、メサストライプ構造に位置するp型InPクラッド層23やp型InGaAsコンタクト層24などに含まれるZnとの相互拡散が抑制されるので、第1埋め込み層41の抵抗率の低下が抑制され、半導体光素子として十分な特性を維持することが出来る。
【0039】
第2埋め込み層42は、Ruが不純物として添加されたInP層であり、580℃から640℃の間であり、典型的には610℃である第2成長温度で形成されている。第2成長温度は、第1成長温度よりも高温に設定されることが望ましい。
【0040】
第2埋め込み層42は、Ruが添加されたInP層であり、第1成長温度より高温となる第2成長温度で形成されると、前述の通り、第2埋め込み層42の抵抗率が低下する。しかし、この場合であっても、第1埋め込み層41が十分に高抵抗に維持されるので、電流のリークは抑制されている。そして、第2埋め込み層42は、第1成長温度より高温となる第2成長温度で形成されているので、埋め込み層が結晶成長する際に、III族元素であるIn原子のマイグレーションが促進される。それゆえ、図3に示す従来技術に係るRuが不純物として添加されたInP層とは異なり、埋め込み層上面に突起形状101が出現したり、異常結晶成長層102によってメサストライプ構造が埋没したりすることが抑制される。その結果、従来において問題となっていたプロセス上の不具合は抑制され、1個のウェハで作製される半導体素子の歩留まりを向上することが可能となる。
【0041】
第2埋め込み層42を、Ruのみならず、Feが不純物としてさらに添加されたInP層とするのが、望ましい。第2埋め込み層42がRuのみを不純物として添加されたInP層の場合、第1成長より高温となる第2成長温度で形成される場合、前述の通り、第2埋め込み層42の抵抗率が低下する。しかし、第2埋め込み層42が、RuとFeと複数の不純物が添加されたInP層である場合、第2埋め込み層42の抵抗率が高めることが可能である。これにより、埋め込み層へのリーク電流をさらに抑制することが可能となり、半導体光素子の特性が向上することが出来る。
【0042】
特許文献2に、埋め込みヘテロ構造を有する半導体光素子において、埋め込み層が2層構造をしており、メサストライプ構造の両側に対して、Ruが添加されたInP層、Feが添加されたInP層が、順に形成されている構造について、記載がある。
【0043】
しかし、特許文献2には、Feが添加されたInP層について開示しているのに対して、当該実施形態に係る第2埋め込み層42のように、RuとFeなど複数の不純物が添加されたInP層についての記載はなく、構造的に異なっている。また、特許文献2には、Feが添加されたInP層自体の抵抗率が低いという問題点について言及はなく、前述したような、複数の不純物を添加することにより、第2埋め込み層42の抵抗率を高めるという技術的思想に対する示唆もない。
【0044】
さらに、特許文献2に開示されているように、埋め込み層として、Ruが不純物として添加されたInP層に重ねて、Feが不純物として添加されたInPを形成した場合、界面において、Fe原子の偏析が生じてしまう。それゆえ、埋め込み層の抵抗率が、膜厚方向に対して、局所的に不均一となってしまうという問題が生じる。しかし、当該実施形態に係る埋め込み層のように、第2埋め込み層42に、第1埋め込み層と同じ不純物であるRuが含まれており、第2埋め込み層42が、RuとFeが同時に添加されて形成されることにより、そのような偏析は抑制されると考えられるので、半導体光素子の特性の低下が抑制される。
【0045】
なお、ここで、レーザ部11の活性層22及び変調器部12の光吸収層32は、InGaAsP系の材料によって形成されるとしているが、InGaAlAs系の材料によって形成されてもよいし、InGaAsP系の材料とInGaAlAs系の材料との組み合わせによって形成されてもよい。
【0046】
次に、当該実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1の製造方法について、説明する。
【0047】
まず、n型InP基板20上に、レーザ部11の第1多層構造の一部の形成を行う。すなわち、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いて、n型InP基板20上に、n型InPバッファ層(図示せず)、n型InGaAsP光ガイド層25、活性層22、p型InGaAsP光ガイド層26、p型InPスペーサ層(図示せず)、p型InGaAsP回折格子層(図示せず)、p型InPキャップ層(図示せず)が形成される。ここで、活性層22とは、前述の通り、アンドープInGaAsP層である。
【0048】
そして、p型InPキャップ層の上面に、酸化膜や窒化膜などの絶縁膜を用いてパターンを形成し、これをマスク材料として、ドライエッチング若しくはウェットエッチングを施し、レーザ部11以外の部分の多層構造が、n型InPバッファ層表面まで除去される。
【0049】
次に、n型InP基板20上に、変調器部12の第2多層構造の一部の形成を行う。すなわち、MOCVD法を用いて、n型InGaAsP光ガイド層25、光吸収層32、p型InGaAsP光ガイド層26、p型InPキャップ層(図示せず)が形成される。ここで、光吸収層32とは、前述の通り、アンドープInGaAsP層である。
【0050】
なお、ここでは、レーザ部11の第1多層構造と、変調器部12の第2多層構造とが、この順に形成されると説明したが、もちろん逆の順に、形成されるとしても構わない。
【0051】
続いて、変調器部12の多層構造の上面を酸化膜や窒化膜などの絶縁膜により覆い、レーザ部11に対してのみ、ホトリソグラフィとエッチングを施すことにより、光軸と垂直方向に短冊状を為した回折格子が形成される。
【0052】
この絶縁膜を除去した後、MOCVD法を用いて、レーザ部11及び変調器部12に渡る多層構造の上面に、さらに、p型InPクラッド層23、p型InGaAsPノッチ低減層(図示せず)、p型InGaAsコンタクト層24、アンドープInPキャップ層(図示せず)が形成される。
【0053】
レーザ部11及び変調器部12に形成された多層構造に対して、光導波路領域の上方に対して、絶縁膜により幅1〜2.5μm程度のストライプパターンを形成し、これをマスク材料として、ドライエッチングを施し、ストライプパターンの両側の多層構造が、n型InP基板20の上面から1μm程度の深さまで、除去される。これにより、メサストライプ構造が形成される。
【0054】
なお、当該実施形態においては、活性領域の下側には、第1の導電型となるn型InGaAsP光ガイド層25が、活性領域の上側には、第2の導電型となるp型InGaAsP光ガイド層26が、それぞれ配置されている。
【0055】
次に、ストライプ構造の両側に、埋め込み層が形成される。MOCVD法を用いて、メサストライプ構造の両側、及び、上記InP基板20の上面に対して、第1成長温度である570℃で、第1埋め込み層41が形成される。第1埋め込み層41は、Ruが不純物として添加されたInP層である。メサストライプ構造の両側が十分に被膜されるよう、第1埋め込み層41の層厚は0.5〜1.0μm程度が望ましい。
【0056】
そして、第2成長温度である610℃まで温度を上げた後、この温度で、第2埋め込み層42が形成される。第2埋め込み層42は、例えば、Ru及びFeが不純物として添加されたInP層である。第2埋め込み層42の層厚は、メサストライプ構造の多層成長方向に沿って5μm程度である。
【0057】
さらに、レーザ部11及び変調器部12に、それぞれp型電極51が形成される。そのために、絶縁膜のストライプパターンが除去され、酸化膜や窒化膜などの絶縁膜が、基板表面全体に形成される。そして、ホトリソグラフィとエッチングを施すことにより、メサストライプ構造の上面を中心に、絶縁膜が除去され、幅が5μm程度で光導波路方向に延伸するスルーホールが形成される。
【0058】
メサストライプ構造の上面のうち、スルーホール内に位置するアンドープInPキャップ層がエッチングにより除去され、p型InGaAsコンタクト層24が露出する。続いて、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)の順に、電極材料がメサストライプ構造の上方に形成される。所望の電極形状にパターン化されることで、レーザ部11及び変調器部12それぞれに、p型電極51が形成される。
【0059】
この後、n型InP基板20の裏面が厚さ100μm程度になるまで研磨され、その裏面に、n型電極52が形成され、ウエハ工程が完了する。続いて、素子の前方後方が露出されるように、ウェハが劈開され、前方及び後方の面に、それぞれ、低反射膜及び高反射膜が、スパッタリングにより形成される。さらに、チップ化することにより、変調器集積型半導体レーザ素子1が完成する。
【0060】
以上、本実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1の製造方法について、説明した。埋め込み層の形成をする際に、第1埋め込み層を形成するための第1成長温度から、第2埋め込み層を形成するための第2成長温度まで、温度を上昇させている。第1成長温度から第2成長温度まで変化する間、埋め込み層の結晶成長が中断されてもよいし、そのまま続行されてもよい。
【0061】
埋め込み層の結晶成長が中断される場合、第1埋め込み層41に重ねて、第2埋め込み層42が形成される。成長温度が高いほど、InP層に添加されるRu原子の濃度は高いので、埋め込み層のそれぞれの位置におけるRu原子の濃度を測定すると、第1埋め込み層41と第2埋め込み層42との界面において、第1埋め込み層41から第2埋め込み層42に、Ru原子の濃度が不連続に(ステップ状に)増加する。
【0062】
これに対して、埋め込み層の結晶成長が続行される場合、第1埋め込み層41と第2埋め込み層42の間にも、埋め込み層が位置することとなる。この場合、この領域において、第1埋め込み層41側から第2埋め込み層42側にかけて、Ru原子の濃度が連続的に(グラデーション状に)増加している。なお、層内の位置に対するRu原子の濃度の変化を測定したものは、Ru原子濃度デプスプロファイルと呼ばれている。
【0063】
なお、前述の通り、第1埋め込み層41は、550℃から590℃の間であり、典型的には570℃である第1成長温度で形成されるのが、第1埋め込み層41の抵抗率の上昇の観点から望ましい。しかし、プロセス工程の簡略化の観点からは、第1埋め込み層41が形成される第1成長温度を、第2埋め込み層42が形成される第2成長温度と同じ580℃から640℃の間であり、典型的には610℃である成長温度としてもよい。一定の成長温度で、第1埋め込み層41と第2埋め込み層42がともに形成されることにより、プロセス工程が簡略化される。この場合、前述の通り、第1埋め込み層41の抵抗率は低下してしまうものの、第2埋め込み層42が十分に高い抵抗率で形成される場合、埋め込み層全体として高抵抗に維持される。第1埋め込み層には、Ruが不純物として添加されており、メサストライプ構造に含まれるZnとの相互拡散を抑制し、なおかつ、図3に示す突起形状101や異常結晶成長層102の出現を抑制しつつ、半導体光素子として十分な特性が得られる。
【0064】
また、ここで、MOCVD法を用いて埋め込み層が形成される場合について説明したが、MOCVD法に限定されることはない。例えば、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法や、有機金属による分子線エピタキシー(MOMBE:Metal-organic Molecular Beam Epitaxy)法など、他の方法を用いて埋め込み層が形成されてもよい。
【0065】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る半導体光素子は、第1の実施形態に係る半導体光素子と同様に、変調器集積型半導体レーザ素子1であり、基本的な構成は、第1の実施形態に係る半導体光素子と同じである。
【0066】
第2の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1は、第2埋め込み層42の構成が異なる。第2埋め込み層42を、Ruとオスミウム(Os)、又は、RuとFeとOsが、不純物として添加されたInP層とする。
【0067】
半導体に不純物を添加すると、価電子帯上端と伝導帯下端の間にあるバンドギャップ(禁制帯)の中に、不純物によるエネルギー準位が出現する場合がある。不純物によるエネルギー準位が、価電子帯上端近傍に位置する場合、不純物によるエネルギー準位と価電子帯との間で、熱によって電子の遷移が起こり得る。同様に、不純物によるエネルギー準位が、伝導帯下端近傍に位置する場合、不純物によるエネルギー準位と伝導帯との間で、熱によって電子の遷移が起こり得る。このような場合、半導体に不純物が添加されると、電気伝導性が高くなる。すなわち、抵抗率が低下する。
【0068】
これに対して、不純物によるエネルギー準位が、バンドギャップの中央付近、すなわち、価電子帯上端からも、伝導体下端からも離れているエネルギーに位置する場合、不純物によるエネルギー準位と価電子帯の間や、不純物によるエネルギー準位と伝導帯の間のいずれとも、熱によって電子が遷移されることがほとんどない。すなわち、電子が不純物によるエネルギー準位に捕獲されるので、このような場合、半導体に不純物が添加されると、電気伝導性が低下し、抵抗率が上昇する。このようなエネルギー準位は、ディープレベル(深い準位)と呼ばれている。ここで、ディープレベルとは、バンドギャップ内に位置しており、価電子帯上端より、素子の使用環境温度(0℃〜95℃)の熱エネルギー以上高く、伝導帯下端より、素子の使用環境温度(0℃〜95℃)の熱エネルギー以上低い準位であるとする。
【0069】
RuやFe,Osなどが、InPなどの半導体に添加されると、バンドギャップの中に、ディープレベルとなる不純物によるエネルギー準位を形成する。それゆえ、電気伝導性が低下し、抵抗率が上昇する。そして、このような不純物が複数添加されることにより、不純物によるエネルギー準位が増え、これらエネルギー準位に電子が捕獲されるので、電気伝導性がより低下し、抵抗率がより上昇する。
【0070】
それゆえ、第1の実施形態に係る第2埋め込み層42が、RuとFeが不純物として添加されたInP層とすることにより、Ruのみが不純物として添加されたInP層より抵抗率が上昇し、半導体光素子の特性が向上したのと同様に、第2埋め込み層42が、RuとOs、又は、RuとFeとOsが、不純物として添加されたInP層としてもよい。
【0071】
その他、ロジウム(Rh)やチタン(Ti)などのいずれかを、Ruに加えて添加する不純物としてもよいし、Fe、Os、Rh、Tiのうち複数の組み合わせをRuに加えて添加する不純物としてもよい。また、Ruを含まず、Fe,Os、Rh、Tiのうち、複数の組み合わせを添加する不純物としてもよい。
【0072】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る半導体光素子は、第1の実施形態に係る半導体光素子と同様に、変調器集積型半導体レーザ素子1であり、基本的な構成は、第1の実施形態に係る半導体光素子と同じである。
【0073】
第3の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1は、埋め込み層の構成が異なる。第1の実施形態や第2の実施形態に係る埋め込み層は、半導体としてInPが材料に用いられているが、当該実施形態に係る埋め込み層は、InAlAs、InGaAsP、InGaAlAsなどの半導体が材料に用いられる。このように、基板と異なる化合物半導体混晶であっても、基板と格子整合する材料であれば、埋め込み層の半導体として用いることが出来、Ruなどの不純物が添加されることにより、埋め込み層の抵抗率が上昇し、埋め込み層としての特性を満たす。
【0074】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係る半導体光素子は、直接電流変調型レーザ素子である。すなわち、第1の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1と異なり、変調器部12が形成されていない。当該直接電流変調型レーザ素子は、第1の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1と同様に、例えば、DFBレーザである。そして、直接電流変調型レーザ素子の活性層22は、InGaAsP系の材料によって構成されている。しかし、この材料に限定されることはなく、InGaAlAs系の材料のみに構成されていてもよいし、InGaAsP系の材料とInGaAlAs系の材料との組み合わせによって構成されていてもよい。
【0075】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態に係る半導体光素子は、半導体レーザ素子に、外部変調器を備える半導体光素子である。すなわち、第1の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1と異なり、変調器部12の代わりに、半導体レーザ素子の出力側に、外部変調器が設けられている。ここで、外部変調器とは、例えば、マッハツェンダー型変調器である。また、半導体レーザ素子は、第1の実施形態に係る変調器集積型半導体レーザ素子1と同様に、例えば、DFBレーザである。
【0076】
[第6の実施形態]
本発明の第6の実施形態に係る半導体光素子の基本的な構成は、第1の実施形態乃至第5の実施形態に係る半導体光素子のいずれかと同じである。当該実施形態に係る半導体光素子の特徴は、その製造方法にある。
【0077】
第1埋め込み層41及び第2埋め込み層42など、埋め込み層を形成する際に、総ガス流速を5.6〜6.0cm/sの範囲としている。ここで、総ガス流速とは、単位時間当たりの総ガス流量を、ガス供給時の石英治具断面積で割ったものである。
【0078】
従来において、総ガス流速が4.8cm/s程度であったが、総ガス流速を5.6〜6.0cm/sとすることにより、例えば、埋め込み層が不純物が添付されたInP層である場合は、In原子のマイグレーションがさらに促進される。これにより、ウェハ外周部
に位置する半導体光素子においても、図3に示す突起形状101や異常結晶成長層102が出現することがさらに抑制される。
【0079】
以上、本発明の実施形態に係る半導体光素子について説明した。本発明は、埋め込みヘテロ構造の埋め込み層に特徴があり、埋め込みヘテロ構造を有する半導体光素子であれば、実施形態において説明した変調器型集積型レーザや直接電流変調型レーザ素子などに限定されないのは、言うまでもない。また、レーザ素子としても、DFBレーザに限定されることはなく、変調器についてもEA変調器に限定されず、他のレーザや他の変調器であってもよいのは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0080】
1 変調器集積型半導体レーザ素子、11 レーザ部、12 変調器部、20 n型InP基板、22 活性層、23 p型InPクラッド層、24 p型InGaAsコンタクト層、25 n型InGaAsP光ガイド層、26 p型InGaAsP光ガイド層、32 光吸収層、41 第1埋め込み層、42 第2埋め込み層、51 p型電極、52 n型電極、100 埋め込み層、101 突起形状、102 異常結晶成長層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上方に、
少なくとも、第1の導電型の光ガイド層、活性領域、第2の導電型の光ガイド層が、順に積層されたメサストライプ構造と、
前記メサストライプ構造の両側部に隣接して配置される、ルテニウムを含む1以上の不純物が添加される半導体を含む埋め込み層と、
を、備える半導体光素子であって、
前記埋め込み層には、
前記メサストライプ構造に接して形成されるルテニウムが添加される半導体層からなる第1埋め込み層と、
前記第1埋め込み層の、前記メサストライプ構造側とは反対側に、ルテニウムと、前記半導体の禁制帯のディープレベルに不純物準位を付与する他の金属が添加される半導体層からなる第2埋め込み層と、
を含むことを特徴とする、半導体光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体光素子であって、
前記他の金属とは、鉄、若しくは、オスミウム、又は、鉄とオスミウムの両方、である、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体光素子であって、
前記埋め込み層に含まれる前記半導体は、インジウム燐である、
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体光素子であって、
前記第1埋め込み層のうち、前記メサストライプ構造の両側部に隣接して位置する領域の厚みは、0.5μm以上1μm以下である、
ことを特徴とする半導体素子。
【請求項5】
半導体基板上方に、
少なくとも、第1の導電型の光ガイド層、活性領域、第2の導電型の光ガイド層が、順に積層されたメサストライプ構造と、
前記メサストライプ構造の両側部に隣接して配置される、不純物が添加される半導体を含む埋め込み層と、
を、備える半導体光素子の製造方法であって、
前記メサストライプ構造を形成する工程と、
第1成長温度により、前記メサストライプ構造の両側に接し、ルテニウムが不純物として添加される半導体を含む第1埋め込み層を形成する工程と、
前記第1成長温度より高温となる第2成長温度により、ルテニウムを含む1以上の不純物が添加される半導体を含む第2埋め込み層を形成する工程とを、含む、
ことを特徴とする半導体光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体光素子の製造方法であって、
前記第2埋め込み層の少なくとも一部には、前記半導体の禁制帯のディープレベルに不純物準位を付与する他の金属が添付される、
ことを特徴とする半導体光素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体光素子の製造方法であって、
前記他の金属とは、鉄、若しくは、オスミウム、又は、鉄とオスミウムの両方、である、
ことを特徴とする半導体光素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体光素子の製造方法であって、
前記埋め込み層に含まれる前記半導体は、インジウム燐である、
ことを特徴とする半導体光素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体光素子の製造方法であって、
前記第1埋め込み層のうち、前記メサストライプ構造の両側部に隣接して位置する領域の厚みは、0.5μm以上1μm以下である、
ことを特徴とする半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−124390(P2011−124390A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280938(P2009−280938)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】