説明

半導体装置の製造方法及び半導体装置

【目的】配線抵抗の上昇を抑制したまま、EM特性を改善させる半導体装置或いはその製造方法を提供することを目的とする。
【構成】本発明の一態様の半導体装置の製造方法は、基体上に絶縁膜を形成する工程(S104)と、絶縁膜に開口部を形成する工程(S106)と、開口部内に、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属含有膜を形成する工程(S108)と、前記金属含有膜が形成された開口部内に銅(Cu)膜を埋め込む工程(S112)と、Cu膜上に、300℃未満の温度でCuとSiとを含有する化合物膜を選択的に形成する工程(S120)と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(LSI)の高集積化、及び高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。特に、最近はLSIの高速性能化を達成するために、配線材料を従来のアルミ(Al)合金から低抵抗の銅(Cu)或いはCu合金(以下、まとめてCuと称する。)に代える動きが進んでいる。Cuは、Al合金配線の形成において頻繁に用いられたドライエッチング法による微細加工が困難であるので、溝加工が施された絶縁膜上にCu膜を堆積し、溝内に埋め込まれた部分以外のCu膜を化学機械研磨(CMP)により除去して埋め込み配線を形成する、いわゆるダマシン(damascene)法が主に採用されている。Cu膜はスパッタ法などで薄いシード層を形成した後に電解めっき法により数100nm程度の厚さの積層膜を形成することが一般的である。
【0003】
ここで、半導体集積回路(LSI)中に、上述したダマシン法等で多層配線を形成するにあたって、配線材料となるCuが上層のlow−k膜中へと拡散することを防止すると共にlow−k膜との密着性を上げるためにCu配線上に選択的にメタルキャップ膜が形成される場合がある。多層配線の高性能化に向けて、今後、かかるメタルキャップ技術が必要になることが予想される。メタルキャップ膜の材料の有力候補のひとつとして、Cuと珪素(Si)と窒素(N)の化合物膜となるCuSiN膜、或いは、Cuのシリサイド膜となるCuSix膜が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。これらCuSiN膜、或いは、CuSix膜は、Cu配線と上層の層間絶縁膜界面との密着性を向上し、Cu配線と層間絶縁膜界面でのCu原子輸送を抑制する効果がある。これにより、エレクトロマイグレーション(EM)特性を改善させる。しかし、Cu配線のバリアメタル(BM)として一般的なタンタル(Ta)を用いた場合、エレクトロマイグレーション特性の改善効果はCuSiN膜、或いは、CuSix膜がない場合と比べて、Mean−time−to failure(MTF)で2〜3倍程度と小さく、さらなる改善が必要である。
これらの改善のため、種々検討が行われているが、例えば、特許文献3に示すように、この界面化合物形成、およびSiの拡散によってEM特性改善の効力を得られるのは、CuSiNのプロセス温度として300℃以上であり、300℃〜400℃でのプロセスを提案している。
【0004】
しかしこのCuSiNx膜形成のプロセスでは、EMは改善するもののCuSiN膜、或いは、CuSix膜を形成した場合、配線抵抗が上昇してしまうという問題が発生している。CuSiN又はCuSixを形成した際の余剰Si、またはCuシリサイドを形成しなかったSiは、Cu配線表面に存在する結晶粒界からCu配線内に進入拡散する。そして、結晶粒界を通って拡散したSiはCuの結晶粒界上からCu粒内へとさらに拡散し得る。また粒界経路からの進入だけでなく、当然Si供給を行っているCu表面からも拡散進行する。その結果、CuSiN膜またはCuSix膜を形成しないCu配線と比べて配線抵抗を上昇させてしまう。よって、配線抵抗を上昇させないまま、EM特性を改善させる技術が必要となっている。
【0005】
その他のEM特性改善方法として、チタン(Ti)をバリアメタルとして適用することが検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−192739号公報
【特許文献2】特開2006−229207号公報
【特許文献3】特開2003-347302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、配線抵抗の上昇を抑制したまま、EM特性を改善させる半導体装置或いはその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の半導体装置の製造方法は、基体上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜に開口部を形成する工程と、前記開口部内に、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する膜を形成する工程と、前記金属を含有する膜が形成された前記開口部内に銅(Cu)膜を埋め込む工程と、前記Cu膜上に、300℃未満の温度でCuとSiとを含有する化合物膜を選択的に形成する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の他の態様の半導体装置の製造方法は、基体上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜に開口部を形成する工程と、前記開口部内に、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する膜を形成する工程と、前記金属を含有する膜が形成された前記開口部内に銅(Cu)膜を埋め込む工程と、前記Cu膜表面の少なくとも一部に、前記金属を含有する膜とは異なる材料であって前記Cu膜内へのSiの拡散を防止する材料を有するSi拡散障害体を形成する工程と、前記Si拡散障害体が形成されている状態で、前記Cu膜上に、CuとSiとを含有する化合物膜を選択的に形成する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様の半導体装置は、銅(Cu)配線と、前記Cu配線の結晶粒界に形成された、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する金属含有体と、前記Cu配線の側面側に形成された絶縁膜と、300℃未満の温度で前記Cu配線上に選択的に形成された、CuとSiとを含有する化合物膜と,備えることを特徴とする。
【0011】
また本発明の他の態様の半導体装置は、銅(Cu)配線と、前記Cu配線の結晶粒界に形成された、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する金属含有体と、前記Cu配線表面の少なくとも一部に形成された、前記金属含有体中の金属原子とは異なる材料であって前記Cu配線内へのSiの拡散を防止するSi拡散障害体と、前記Cu配線の側面側に形成された絶縁膜と、前記Cu配線上に選択的に形成された、CuとSiとを含有する化合物膜と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配線抵抗の上昇を抑制したまま、EM特性を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施の形態1における半導体装置の製造方法の要部を表すフローチャートである。
【図2】図1のフローチャートに対応して実施される工程を表す工程断面図である。
【図3】図1のフローチャートに対応して実施される工程を表す工程断面図である。
【図4】実施の形態1におけるキャップ膜の形成温度と配線抵抗上昇率との関係を示すグラフである。
【図5】実施の形態1におけるCu膜表面でのTiの拡散状態の一例を示す概念図である。
【図6】キャップ膜を形成しなかった場合のCu膜表面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。
【図7】図6で示したCu膜表面でのSiとTiの量を分析した結果を示すグラフである。
【図8】キャップ膜を形成した場合のCu膜表面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。
【図9】図8で示したCu膜表面でのSiとTiの量を分析した結果を示すグラフである。
【図10】実施の形態1におけるCu膜断面でのTiの拡散状態の一例を示す概念図である。
【図11】キャップ膜を形成しなかった場合のCu膜断面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。
【図12】図11で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。
【図13】キャップ膜を形成した場合のCu膜断面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。
【図14】図13で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。
【図15】実施の形態1におけるキャップ膜を形成したCu膜断面でのTiとSiの量を分析した結果を示すグラフである。
【図16】Cu中のSi量を二次イオン質量分析(SIMS分析)で検出した結果を示す図である。
【図17】Cu中のSi量を二次イオン質量分析(SIMS分析)で検出した別の結果を示す図である。
【図18】図17(a)と同じサンプルについて、XPS分析から得られた結果をもとにCu表面でのSiピーク量、つまりCu表面部でのSi量を算出した結果を示す図である。
【図19】実施の形態1におけるキャップ膜を形成したCu膜断面でのTiとSiの拡散状態の一例を示す概念図である。
【図20】実施の形態2における半導体装置の製造方法の要部を表すフローチャートである。
【図21】実施の形態2におけるCu膜断面でのTiとTiとは別のSi拡散障害体との分布の状態の一例を示す概念図である。
【図22】実施の形態2におけるCu膜断面でのTiとTiとは別のSi拡散障害体との分布の状態の一例を示す概念図である。
【図23】実施の形態2におけるキャップ膜の形成温度と配線抵抗上昇率との関係を示すグラフである。
【図24】Cu表面にSi拡散障害体を形成せずにキャップ膜を350℃で形成した場合のCu膜断面写真である。
【図25】図24で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。
【図26】Cu表面に酸素のSi拡散障害体を形成した後にキャップ膜を形成した場合のCu膜断面の写真である。
【図27】図26で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。
【図28】図24と図26において示したCu膜表面にキャップ膜を形成したサンプルについて、Cu配線中粒界部のSi検出量を配線底部の粒界と、配線中の粒界に分けてBoxプロットしたものである。
【図29】350℃でキャップ形成工程を行った場合の配線幅と配線抵抗上昇率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来,Tiをバリアメタルとして用いた場合,Tiは、Cu粒内に導入した場合、1.6μΩcm/at%抵抗をあげ、最も抵抗上昇を引き起こす元素であることは知られているが、実際の配線工程で使用される温度領域では粒界に拡散することが知られており、それほど抵抗上昇は生じず、その拡散によりEMが改善する。しかし微細化により、Ti拡散起因の抵抗上昇が見え始めており、このTi拡散の制御による抵抗上昇抑制と両立するEM改善率の確保が問題となっている。
実施の形態1.
以下、図面を用いて、実施の形態1について説明する。
【0015】
図1は、実施の形態1における半導体装置の製造方法の要部を表すフローチャートである。図1において、本実施の形態における半導体装置の製造方法は、エッチングストッパ膜形成工程(S102)と、層間絶縁膜形成工程(S104)と、開口部形成工程(S106)と、バリアメタル(BM)膜形成工程(S108)と、シード膜形成工程(S110)と、めっき及びアニール工程(S112)と、研磨工程(S114)と、キャップ膜形成工程(S120)という一連の工程を実施する。尚、エッチングストッパ膜形成工程(S102)は無くても良い。一連の実施例中では、エッチングストッパ膜形成工程(S102)があるケースについて述べるが、これに限るものではない。
【0016】
図2〜図3は、図1のフローチャートに対応して実施される工程を表す工程断面図である。図2では、図1のエッチングストッパ膜形成工程(S102)からバリアメタル膜形成工程(S108)までを示している。それ以降の工程は後述する。
【0017】
図2(a)において、エッチングストッパ膜形成工程(S102)として、基板200の表面にCVD(化学気相成長)法によって、例えば、膜厚50nmのエッチングストッパ膜210を形成する。エッチングストッパ膜210の材料として、窒化シリコン(SiN)、炭窒化シリコン(SiCN)、炭化シリコン(SiC)、或いは炭酸化シリコン(SiOC)等を用いると好適である。また、基板200として、例えば、直径300ミリのシリコンウェハを用いる。ここでは、デバイス部分の図示を省略している。また、基板200には、さらに配線やその他の回路が形成されていても構わない。
【0018】
図2(b)において、層間絶縁膜形成工程(S104)として、基板200の上に形成されたエッチングストッパ膜210の上に配線層の層間絶縁膜220を例えば150nmの厚さで形成する。層間絶縁膜220として、SiO膜やlow−k膜を用いると好適である。特に、層間絶縁膜220に多孔質の低誘電率絶縁性材料を用いたlow−k膜を用いると、比誘電率kが3.5よりも低い層間絶縁膜を得ることができる。例えば、一例として、比誘電率が2.5未満の低誘電率絶縁材料となるポリメチルシロキサンを成分とした膜を用いてlow−k膜を形成する。low−k膜の材料としては、ポリメチルシロキサンの他に、例えば、ポリシロキサン、ハイドロジェンシロセスキオキサン、メチルシロセスキオキサンなどのシロキサン骨格を有する膜、ポリアリーレンエーテル、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾシクロブテンなどの有機樹脂を主成分とする膜、および多孔質シリカ膜などのポーラス膜からなる群から選択される少なくとも一種を用いて形成しても構わない。かかるlow−k膜の材料では、比誘電率が2.5未満の低誘電率を得ることができる。形成方法としては、例えば、溶液をスピンコートし熱処理して薄膜を形成するSOD(spin on dielectric coating)法を用いることができる。例えば、スピナーで成膜し、このウェハをホットプレート上で窒素雰囲気中でのベークを行った後、最終的にホットプレート上で窒素雰囲気中ベーク温度よりも高温でキュアを行なうことにより形成することができる。low−k材料や形成条件などを適宜調節することにより、所定の物性値を有する多孔質の絶縁膜が得られる。或いは、low−k膜をCVD法により形成しても構わない。層間絶縁膜220として、SiO膜を形成する場合にはCVD法により形成すると好適である。
【0019】
また、層間絶縁膜220として、low−k膜を形成する場合には、図示しないキャップ絶縁膜を形成して、2層構造とすると好適である。例えば、CVD法によりキャップ絶縁膜を形成すればよい。キャップ絶縁膜を形成することで、機械的強度の弱いlow−k膜を保護することができる。キャップ絶縁膜の材料として、炭酸化シリコン(SiOC)、TEOS(テトラエトキシシラン)、SiC、炭水化シリコン(SiCH)、炭窒化シリコン(SiCN)、SiOCHからなる群から選択される少なくとも一種の比誘電率2.5以上の絶縁材料を用いて形成すると好適である。形成方法として、CVD法以外の方法を用いても構わない。
【0020】
図2(c)において、開口部形成工程(S106)として、リソグラフィー工程とドライエッチング工程でダマシン配線を作製するための配線溝(トレンチ)或いはヴィアホールとなる開口部150を層間絶縁膜220内に形成する。図示していないレジスト塗布工程、露光工程等のリソグラフィー工程を経て層間絶縁膜220の上にレジスト膜が形成された基板200に対し、露出した層間絶縁膜220を、エッチングストッパ膜210をエッチングストッパとして異方性エッチング法により除去して開口部150を形成すればよい。異方性エッチング法を用いることで、基板200の表面に対し、略垂直に開口部150を形成することができる。例えば、一例として、反応性イオンエッチング法により開口部150を形成すればよい。
【0021】
図2(d)において、バリアメタル(BM)膜形成工程(S108)として、開口部形成工程により形成された開口部150及び層間絶縁膜220表面にバリアメタル材料を用いたバリアメタル(BM)膜240を形成する。物理気相成長法(physical vapor deposition:PVD)法の1つであるスパッタ法を用いるスパッタリング装置内でチタン(Ti)膜を例えば膜厚10nm堆積し、バリアメタル膜240を形成する。バリアメタル材料の堆積方法としては、PVD法に限らず、原子層気相成長(atomic layer deposition:ALD、あるいは、atomic layer chemical vapor deposition:ALCVD)法やCVD法などを用いることができる。PVD法を用いる場合より被覆率を良くすることができる。実施の形態1において、バリアメタル膜240の材料には、ケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ化物の形成エネルギーより小さい金属を少なくとも1つ以上含む膜を用いる。よって、実施の形態1において、バリアメタル膜240は、上記ケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ化物の形成エネルギーより小さい金属を少なくとも1つ以上含む膜の一例となる。また、実施の形態1における第1の材料としては、Tiの他、と、コバルト(Co)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo),ハフニウム(Hf)などがあげられ、そのうちの少なくとも1つを用いると好適である。
【0022】
実施の形態1における第1の金属となる一部の元素のケイ化物の形成エネルギーを表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、Ti、Co、及びNiといった元素はCuよりもケイ化物(シリサイド)形成の材の反応エネルギー(−ΔH)の絶対値がCuに比べて大きく、Cuより安定した反応物を作ると言える。
【0025】
なお、バリアメタル膜240を形成する際には、事前に開口部150が形成された状態で、例えば200℃以上350℃以下の温度で、真空中あるいは水素(H)ガス等の還元雰囲気中でアニールを行うと好適である。このアニールにより、層間絶縁膜220中に含まれるHO、あるいは開口部150の形成時に結合が切れて、層間絶縁膜220中に残っている炭素系の残留物等の酸化種が除去される。
【0026】
図3では、図1のシード膜形成工程(S110)からキャップ膜形成工程(S120)までを示している。
【0027】
図3(a)において、シード膜形成工程(S110)として、スパッタ等の物理気相成長(PVD)法により、次の工程であるめっき工程のカソード極となるCu薄膜をシード膜250としてバリアメタル膜240が形成された開口部150内壁と底面、及び基板200表面に堆積(形成)させる。ここでは、シード膜250を例えば膜厚50nm堆積させる。
【0028】
ここで、上述した例では、バリアメタル膜240にまた、適用は上記金属の単層膜でもよいし、それらを1種以上含む膜でもよい。またそれぞれの元素は窒化物を形成した膜を適用してもよく、たとえば、TiN、CoN、などがあげられる。さらに、合金のバリアメタルを適用する場合、TiWx、TiTax、TiRux、TiCox、TaCoxなども適用可能で、所望の金属が、Cu膜中へ拡散可能な組成・構造を選択すればよい。さらにTa窒化物、あるいはTa膜の上にTiの膜を積層した積層膜でもよい。ここで上述した例では、バリアメタル膜240に、ケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ化物の形成エネルギーより小さい金属を少なくともが含有された場合を説明したが、これに限るものではなく、シード膜250中に上述した金属を含有させても構わない。そして、かかる場合には、バリアメタル膜240の材料に、Ta、TaN、W、もしくはWN等を用いてもよい。または、前述のようなかかる場合、シード膜250が、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーより小さい金属を含有した膜の一例となる。或いは、バリアメタル膜240とシード膜250の両方に、上述したケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ物の形成エネルギーより小さい金属を含有させても構わない。例えば前記金属を含むバリアメタル、たとえばTiNとCuMnを併用してもよい。この際、前記金属をバリアメタル膜に適用した場合とは異なり、バリアメタル膜中から前記金属が拡散される条件を必ずしも選択しなくてもよい。
【0029】
図3(b)において、めっき及びアニール工程(S112)として、シード膜250をカソード極として、電解めっき等の電気化学成長法によりCu膜260を開口部150及び基板200表面に堆積させる。ここでは、開口部150が全部埋まるようにCu膜260を埋め込む。例えば、開口部150の深さの2倍の膜厚のCu膜260を形成すると好適である。めっき後、例えば、250℃でアニール処理(熱処理)を行なう。かかるアニール処理により、上述したバリアメタル膜240の材料であるTiをCu膜260内の結晶粒界上に拡散させることができる。
【0030】
図3(c)において、研磨工程(S114)として、基板200の開口部150からはみ出た、余分なCu膜260と余分なバリアメタル膜240をCMP法により研磨して、平坦化する。これにより、図3(c)に示したCu配線を形成することができる。
【0031】
図3(d)において、キャップ膜形成工程(S120)として、Cuが露出した部分に選択的にキャップ膜270を形成する。キャップ膜270として、例えば、Cuと珪素(Si)と窒素(N)の化合物膜となるCuSiN膜或いはCuケイ化物(シリサイド)膜となるCuSixを形成すると好適である。(CuSiNやCuSixの組成比は必要に応じて可変であることは言うまでもない)。以下のようにCuSiN或いはCuxを形成することができる。シラン(SiH)ガスと水素(H)ガス或いはアンモニア(NH)ガスを基板200が配置された圧力制御が可能且つRF電源及び電極を備え、供給したガスを放電可能な反応容器内に供給することで露出したCu膜260の表面を選択的に改質処理することで形成することができる。具体的には、Cu配線形成後、基板200を前記反応容器内の温度制御可能なステージ上に配置しH或いはNHプラズマ、又はH或いはNHを用いた熱反応にて露出したCu膜260の表面のC含有保護膜や酸化膜(Cu−O)を熱分解及び還元して除去する。その後、SiHガス等のSi含有ガスを含む雰囲気下で露出したCu膜260の表面を曝し、SiをCu中に拡散させる。これにより、CuSixを形成することができる。そして、かかる状態からさらに、NHガスに晒す或いはNHプラズマに晒すことによりSi−Nの結合を露出したCu膜260の表面に形成することでCuSiNを形成してもよい。例えば、5nmの膜厚で形成される。CuSiN或いはCuSixを形成することで絶縁膜中へのCu拡散を抑制することができる。ここで、キャップ膜270の形成の際、基板温度を300℃未満に設定すると好適である。より好ましくは250〜275℃に設定すると良い。
【0032】
図4は、実施の形態1におけるキャップ膜の形成温度と配線抵抗上昇率との関係を示すグラフである。図4に示すように、キャップ膜270の形成温度が高いと形成後の配線抵抗上昇率が大きくなってしまうことがわかる。300℃未満に設定することで、配線抵抗上昇率を5%程度以下に抑えることができる。また、250〜275℃に設定することで配線抵抗の上昇を無くすことができる。図4の測定温度は,250℃,275℃,300℃,325℃,350℃である。
【0033】
また、表2は、実施の形態1におけるEM特性の改善効果を示す。
【0034】
【表2】

【0035】
CuSiN或いはCuSixを従来の手法で形成する場合、EM特性の改善と配線抵抗の上昇抑制はトレードオフの関係にあり、例えば、TaをBM膜240として用いた場合、EM特性の改善効果を得るためにはキャップ膜を300℃以上で形成する必要があった。しかし、図4に示したように、300℃以上で形成すると配線抵抗上昇率が加速的に上昇してしまう。しかしながら、実施の形態1では、TiをBM膜240として用いることにより300℃未満でキャップ膜を形成してもEM特性の改善を図ることができる。表2では、275℃でキャップ膜270を形成した場合とキャップ膜270を形成しなかった場合とについて、BM膜240をTaにした場合とTiにした場合におけるMTFの結果を示している。275℃でキャップ膜270を形成した場合に、TiをBM膜240として用いることによりMTFが310時間となり、TaをBM膜240として用いた場合より100倍近くEM特性を改善できる。また、キャップ膜270を形成しない場合でもTiをBM膜240として用いることによりMTFが31時間となり、TaをBM膜240として用いた場合より10倍近くEM特性を改善できる。逆にTaでは、300℃未満でキャップ膜を形成してもキャップ膜が無い場合と比べてEM特性の改善が成されないことがわかる。言い換えれば、TaをBM膜240として用いた場合、従来の手法のままではキャップ膜を300℃以上で形成しないとEM特性が改善されないことがわかる。
【0036】
以上のように、Tiと300℃未満で形成されたキャップ膜270との組み合わせにより、配線抵抗の上昇を抑制したまま、EM特性を大幅に改善させることができる。
【0037】
図5は、実施の形態1におけるCu配線表面でのTiの拡散状態の一例を示す概念図である。キャップ膜270を形成しなかった場合、図5(a)に示すように、BM膜240のTi14は、Cu膜10表面の結晶粒界12上に大きな塊となって偏析する。これに対し、キャップ膜270を形成した場合、図5(b)に示すように、BM膜240のTi24は、Cu膜20表面の結晶粒界22上に実質的に均一に分布する。
【0038】
図6は、キャップ膜を形成しなかった場合のCu膜表面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。図6(a)〜(c)はSTEM写真、図6(d)は、図6(a)に対応するHAADF−STEM写真、図6(e)は、図6(b)に対応するHAADF−STEM写真、図6(f)は、図6(c)に対応するHAADF−STEM写真である。HAADF−STEM像は元素の原子量と密度の関数で、散乱電子線の強度差のコントラストをみたものである。これらの観察、および分析は、Cu膜上に上層の配線層を形成する際に形成されるSiC等のCu拡散防止膜越しに行ったものである。これらのSTEM像(a)の番号2、図6(b)の番号7のポイント近傍では、HAADF−STEM写真の粒界部のコントラストが濃くなっていることがわかる。EDXにより分析した結果を図7に示すが、Tiが析出したものであることを確認している。キャップ膜を形成しなかった場合、Tiは、Cu膜表面の結晶粒界上に局部的に偏析していることがわかる。
【0039】
図7は、図6で示したCu膜表面でのSiとTiの量を分析した結果を示すグラフである。図6(a)〜(c)で示したCu膜表面での結晶粒内と結晶粒界と結晶粒界の中で特に暗いコントラスト部分とでのSiとTiの量を分析した。図7(a)では、SiとTiの量を棒グラフで並べて示している。図7(b)では、SiとTiの量を分けてそれぞれを示している。検出されているSi量の一部は上層絶縁膜のSiを含んだものであり、想定される上層絶縁膜のSi量をバックグラウンドとして点線で記載している。これらの結果からも結晶粒界の中で特に暗いコントラスト部分にTiが偏析していることがわかる。また、Tiの多いところにSiも多く存在していることがわかる。キャップ膜を形成しなかった場合に検出されるSiは、Cu膜上に上層の配線層を形成する際に形成されるSiC等の拡散防止膜形成時の、一部結合をもたない余剰Siを示している。
【0040】
図8は、キャップ膜を形成した場合のCu膜表面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。図8(a)〜(b)はSTEM写真、図8(c)は、図8(a)に対応するHAADF−STEM写真、図8(d)は、図8(b)に対応するHAADF−STEM写真である。図6と比較すると、濃いTiのコントラストが局部的に析出しているのは観察されていない。これらのSTEM写真からもキャップ膜を形成した場合、Tiは、Cu膜表面の結晶粒界上に広く分布していることがわかる。
【0041】
図9は、図8で示したCu膜表面でのSiとTiの量を分析した結果を示すグラフである。図8(a)〜(b)で示したCu膜表面では、結晶粒界の中で特に暗いコントラスト部分が存在しないので、結晶粒内と結晶粒界とでのSiとTiの量を分析した。図9(a)では、SiとTiの量を棒グラフで並べて示している。検出されているSi量の一部は上層絶縁膜のSiを含んだものであり、想定される上層絶縁膜のSi量をバックグラウンドとして点線で記載している。図9(b)では、SiとTiの量を分けてそれぞれを示している。これらの結果からも結晶粒界に実質的に均一にTiが分布していることがわかる。また、Tiの多いところにSiも多く存在していることがわかる。キャップ膜を形成した場合に検出されるSiは、キャップ膜270形成時に供給されたSiを示している。
【0042】
この現象について、以下に述べる。
CuSiN膜270を形成する工程のCuSixを形成する際には,SiがCu表面に比較的均質に供給される。このSiはCuとの結合を持った状態あるいは、結合を持たないSiの状態で存在する。一方、Tiは、めっき後アニール、あるいはキャップSi形成の温度でも、Cu中を粒界拡散する。Tiのシリサイドは550℃以上で化合物が形成されるが、それよりも低い温度でも、Siと接した部分では、相互拡散した微結晶領域を形成することが知られている。一般的に、その反応の初期層は、安定なシリサイド形成温度の約200〜250℃以下近傍から相互拡散反応を開始する。一方、表1に示したように、CuSixよりもTiSixが安定であるため、Cu表面に均一に形成されたSi領域、及びSiが存在する場所にTiSixが主として形成される。キャッププロセスを通さず、Cu配線上に形成される絶縁膜(エッチングストッパ膜)であるSiCを形成する場合は、キャップ成膜プロセス中に結合をもたないSiが十分でなく、Cu表面に反応可能な均一なSiが存在しない。そのため、Tiが局在析出し、そのTi濃度が高い部分にSiC形成時、その後の熱工程によりSiが集中し、TiもSi濃度も高い領域が形成されると考えられる。つまり、Tiの均一な分布形成のためには、Tiと反応可能な十分なSiの供給プロセスが必要であることがわかる。
【0043】
図10は、実施の形態1におけるCu膜断面でのTiの拡散状態の一例を示す概念図である。図10(a)は、キャップ膜270の形成を行っていない場合、図10(b)は膜270を形成した場合を示す。これまでに述べたように、キャップ膜270の形成を行っていない場合は粒界に局部的に偏析するため、偏析部とそうでない部位を平均化すると深さ方向になだらかに分布する。しかし、キャップ膜270を形成した場合、図10(b)に示すように、Cu配線上のSi領域にTi24が分布し安定化するため、BM膜240のTi24は、Cu膜260の上部の結晶粒界22上に相対的に多く集まっていることがわかる。これにより、EMの改善が有効に行われる。TiをBMとして適用した場合に、低抵抗化を行うことを目的とし、例えばTi−rich なTiNなどを適用し、配線内のTiの供給量を抑制した場合でも、Si領域にTiが集まることにより、EM改善に必要なTiを有効に活用することが可能になる。なお、Cu膜260の下部や中央部の結晶粒界22上に拡散したTi24が存在しないのではなく、Cu膜260の上部の結晶粒界22上に相対的に多く集まっていることを示している。
【0044】
次に本実施の形態の深さ方向の拡散元素分布を調べた結果を示す。図11は、キャップ膜を形成しなかった場合のCu膜断面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。図11(a)〜(b)はSTEM写真を示す。図11(c)は、図11(a)に対応する分析点の部分を、図11(d)は、図11(b)に対応するHAADF−STEM写真を示す。
【0045】
図12は、図11で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。図12(a)では、分析点でのTiの量を棒グラフで並べて示している。図12(b)では、Cu膜表面粒上とCu膜表面の結晶粒界とCu膜内部の結晶粒界とCu膜内部の結晶粒内とで全ての分析点でのTiの量をまとめた量を棒グラフで並べて示している。Cu膜表面の結晶粒界とCu膜内部の結晶粒界の分析点は、Tiが表面上偏析した位置としている。かかる結果からCu膜表面の結晶粒界の位置にBM膜240からCu膜260へと拡散されたTiのほとんどが集まっていることがわかる。
【0046】
図13は、キャップ膜を形成した場合のCu膜断面でのTiの拡散状態の一例を示す写真である。図13(a)〜(b)はSTEM写真を示す。図13(c)は、図13(a)に対応する分析点の部分を、図13(d)は、図13(a)に対応するHAADF−STEM写真を示す。
【0047】
図14は、図13で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。図14(a)では、分析点でのTiの量を棒グラフで並べて示している。図14(b)では、Cu膜表面粒上とCu膜表面の結晶粒界とCu膜内部の結晶粒界とCu膜内部の結晶粒内とで全ての分析点でのTiの量をまとめた量を棒グラフで並べて示している。かかる結果からもCu膜表面の結晶粒界の位置にBM膜240からCu膜260へと拡散されたTiのほとんどが集まっていることがわかる。キャップ膜を形成した場合の分析点でのTiの量が、Tiが偏析している図12の例よりも少ないことからも、キャップ膜を形成した場合、TiがCu膜表面の結晶粒界上に実質的に均一に分布していると言える。
【0048】
図15は、図13に示すCu膜断面でのTiとSiの分析した結果をあわせて示すグラフである。図15中のSi量は一部分析のバックグランドを含むため、想定されるバックグランド量を点線で示す。図15に示すように、Siは配線上に形成されており、Cu粒界にも、比較的配線深さの深い方向にも分布していることがわかる。一方、Tiは、バリアメタルとして配線したから供給されるにもかかわらず、配線上部のSi領域が最も多く、深さ方向に対して減少しているように観察されている。
【0049】
以下に、キャップ膜270の形成温度を300℃未満にした方が好ましいことについてさらに説明する。
【0050】
図16は、Cu中のSi量を二次イオン質量分析(SIMS分析)で検出した結果を示す図である。測定に用いたサンプルは、図16(a)に示すようなパターンのないCu膜表面にキャップ膜を形成し、図16(a)中の矢印のようにSi基板の裏面側から分析を行ったものである。図16(a)では、基板上にSiO膜、バリアメタル膜240、Cu膜260、キャップ膜270の順に形成したサンプルを示している。また、ここでは、バリアメタル膜240として、Ti−rich TiN膜(以下、Ti(N)と記載する場合もある。)を用いている。Ti−rich TiN膜は、まず、Tiを形成後、同一チャンバー中にて、Nガスを50から200sccmの流量にて導入することで、Ti膜表面にTiNが形成される。例えば、Tiが80%程度でTiNが20%程度に形成されると好適である。
【0051】
図16(b)において、横軸は、図16(a)で示したサンプルのCu最表面をゼロとして、深さ方向の距離を示している。縦軸は、各位置でのSi濃度を示している。そして、図16(b)に示す各グラフの温度はキャップ膜の形成温度を示している。キャップ膜の形成方法については、温度以外は同一条件にて形成しており、表面側からCuへのSi供給量は一定である。
【0052】
図16(b)が示すようにキャップ膜の成膜温度を上げるとCu中のSi量が増加する。このようにCu中に拡散したSiが配線抵抗を上昇させてしまうことになる。これは,キャップ膜の成膜温度が高いと,Cuの粒界に存在したSiが,Cuの粒内に進入しやすくなり,Cuの粒内に存在するSiが配線抵抗を上昇させてしまうからであると考えられる。よって、図16(b)において示されるようにキャップ膜の成膜温度を300℃まで下げるとCu中のSi量は減少し、275℃まで下げるとさらにSiの拡散が低減される。これは,キャップ膜の成膜温度を300℃未満にすると,Cuの粒界に存在したSiが,キャップ膜の成膜温度を300℃以上のときに比べてCuの粒内に侵入しにくくなるからであると考えられる。このように、キャップ膜の形成温度を300℃未満にすることで、キャップ膜形成よる配線抵抗の上昇が抑えられる(抵抗値は図4参照)。
【0053】
また、図16(b)において示されるように、Si量はバリアメタル膜とCu膜の界面部付近にピークを持つ。Cu膜とバリアメタルの界面部のSiのピークはCu配線の粒界に存在するものであることが、後述するその他の分析結果(図28)から証明されている。Cu膜とバリアメタル界面部のSiのピークは300℃未満でキャップ膜を形成した場合にも存在する。ここで、配線抵抗はSiなどの他元素がCu内の粒界中に存在しても配線抵抗の上昇の影響は無い、或いは、少ないが、Cuの粒内に入り込んだときに上昇する。図4にて示したように、300℃未満でキャップ膜270を形成した場合には、キャップ膜形成による配線抵抗の上昇は見られない。つまり、SiはCuの粒内に入り込んでいないということになる。図16(b)に示すCu膜とバリアメタルの界面部のSiは、Cu配線中の粒界を通ってCu膜とバリアメタルの界面部に移動してきたため、配線抵抗値に影響を及ぼしていない。つまり、図16(b)に示すように、Cu膜260におけるバリアメタル膜240との界面部にはバリアメタル膜240であるTiによって引き寄せられたSiの蓄積領域(高濃度領域)があり、この蓄積領域で、Siは、Tiのケイ化物としてCu膜の中央部よりも高濃度に存在する。Siの蓄積領域が満たされるまではCu粒内へのSiの拡散が抑制される。一方で、バリアメタル膜240をTaにするとCu膜とキャップ膜の界面部に図16(b)に示したようなピークは見られない。言い換えれば、バリアメタル膜240をTaにするとCu中の粒界に進入したSiがTaによって引き寄せられない。そのため、SiはCuの粒内に入り込んでしまい配線抵抗の上昇につながることになる。実際のCu配線では、側面と底面にバリアメタル膜240が接触して存在するので、側面と底面におけるCu膜260のバリアメタル膜240と界面付近にかかるSiの蓄積領域が存在し、Cu膜260の中央部よりもSi濃度が濃い領域となる。そして、底面と同様、側面においてもかかる蓄積領域で、Siは、Tiのケイ化物としてCu膜の中央部よりも高濃度に存在する。
キャップ膜の形成温度を300℃未満にすることで、Siは,Cuの粒界から粒内に侵入しにくくなり,粒内を通って,Cu膜260のバリアメタル膜240と界面付近に蓄積されると考えられる。
【0054】
図17は、Cu中のSi量を二次イオン質量分析(SIMS分析)で検出した別の結果である。測定に用いたサンプルは、図17(a)に示すように図16(a)で示したものと同じものである。図16では、裏面(基板)側からの分析の結果であったが、図17では、表面(キャップ膜)側からの分析結果を示している。図17(b)において、横軸はCu最表面をゼロとして、深さ方向の距離を示している。縦軸は、各位置でのSi濃度を示している。そして、図17(b)に示す各グラフの温度はキャップ膜の形成温度を示している。キャップ膜の形成方法については、温度以外は同一条件にて形成しており、表面側からCuへのSi供給量は一定である。また、上述したように、バリアメタル膜240として、Ti−rich TiNを用いている。図16(b)で示した裏面からの分析の場合には最表面の検出感度が低下するために、図17(b)では最表面に注目して分析を再度行ったものである。
【0055】
また、図17(b)では、左側にCu膜の深さ0〜30nmの領域での結果の拡大図が示されている。最表面、例えば深さ5nm程度までの領域で、各温度のSi濃度を比較すると、300℃で最も最表面のSi量が多いことが分かる。350℃では、SiのCu中の深さ方向への拡散が進み、Cu中でのSi量が増えるため、最表面のSi量が300℃の場合に比べて少ない。また、275℃と300℃のサンプルは、深さ15nm付近までにSi量が安定する(Cu中と同じ一定の値になる)、つまり表面部のSi高濃度層の厚さが15nm以下であるのに対し、キャップ膜の形成温度を350℃まで上げるとSi高濃度層の厚さが20nm程度と厚くなる。SIMS分析の特性から、図17(b)で示すSi高濃度層の厚さが直接キャップ膜の厚さに一致する訳ではないが、キャップ膜の形成温度が350℃の場合には275℃または300℃の場合と比べて30%程度キャップ膜の厚さが増加している。また、後述する理由からも、Si高濃度層の厚さ(つまりキャップ膜の厚さ)が薄く、最表面でSi量が多い方が良い。まず、キャップ膜が厚いとそのキャップ膜厚分だけ伝導に寄与するCu膜厚が減ることになるので、最表面に薄くキャップ膜を形成できる方が良い。また、EM寿命の観点からは、Si濃度は高い方がCuやTiなどとシリサイド形成するのに寄与するSi量が多いことになり、EM試験中のCu原子輸送の抑制効果が上がる。
【0056】
図18は、図17(a)と同じサンプルについて、XPS分析から得られた結果をもとにCu表面でのSiピーク量、つまりCu表面部でのSi量を算出した結果を示す図である。図18からCu表面のSi量は300℃程度でピークを持つことがわかる。これは、図17(b)で示す結果と一致している。
【0057】
以上の結果からも、キャップ膜270の形成温度は300℃未満で、300℃に近い温度、例えば275℃程度で設定するのが良いことがわかる。
【0058】
図19に、実施の形態1におけるキャップ膜を形成したCu膜断面でのTiとSiの拡散状態の一例の概念図を示す。高温で求められた拡散係数をBEOLプロセスで使用する450℃近傍以下の温度領域へ外挿して検討した結果、Cu中のSiの拡散係数はTiよりも速い。そのため、キャッププロセスを施すと、Cu表面に多くSiが存在するものの、Cu配線内部方向へSiが拡散する。従来の手法のように、300℃以上でキャップ膜270を形成した場合、図19(a)に示すように、拡散エネルギーが大きくなっているキャップ膜270を形成した際の余剰のSi26は、粒界を取って拡散するだけでなく、Cu膜260表面からもSiが結晶内(粒内)に進入する。その結果、配線抵抗が上昇してしまう。また、めっき後のCu膜アニール、或いはキャップ成膜の熱工程により、Ti24の拡散も生じ、Si26との反応が促進され、抵抗が上昇する。そのため、まずSi26のCu粒内への拡散を抑制し、抵抗上昇が生じない程度の分布になるように、Cu配線表面付近にSiの高濃度領域を形成しておく必要がある。実施の形態1のように、300℃未満でキャップ膜270を形成した場合、図19(b)に示すように、抵抗が上昇しないSiの拡散分布をCu配線表面に形成することにより、Cu表面で多くのSi26がCu粒界上のTi24によって捕集され、Cu原子輸送が速いCu配線表面においてTiの分散・安定化が図れ、余剰Siの安定化も同時に生じる。その結果、多層配線形成工程での抵抗安定化も可能になり、EMの改善も図れる。また、Cu粒界中に進入してしまったSi26は、図19(b)に示すようにCu底面や図示しないCu膜の側面でのバリアメタル膜240の材料であるTiによって引き寄せられ、Cu粒界からCu粒内への進入を抑制できる。
【0059】
以上のように、300℃未満でキャップ膜270を形成した場合、配線抵抗の上昇を抑制したまま、EM特性を改善させることができる。
【0060】
以上のように、実施の形態1の製造方法で製造される半導体装置は、銅(Cu)配線内に、ケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ物の形成エネルギーより小さい金属を少なくとも1つ以上含む金属含有膜と、Cu配線の側面側に形成された層間絶縁膜220と、300℃未満の温度でCu配線上に選択的に形成された、キャップ膜270(CuとSiとを含有する化合物膜)を備える。
【0061】
ここで、150〜450℃で熱処理することでTi等のケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ物の形成エネルギーより小さい金属をCu膜中に拡散させることができる。上述した例では、Cuめっき直後のアニール処理或いはキャップ膜270の形成時の加熱でTiを拡散させていたが、これに限るものではない。
【0062】
また、SiとTiとのシリサイド反応はキャップ膜270の形成時の反応に限るものではない。その後の熱処理による反応であっても構わない。よって、キャップ膜270の形成後に熱処理を行なってもよい。
【0063】
本実施例では、ケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ物の形成エネルギーより小さい金属として主としてTiについて述べたが、Co、Ni、Mn、Mo、Hfでも可能である。これは、Cu膜中への拡散がBEOL工程の約450℃以下の温度領域で生じることと、シリサイド反応の初期層がこの温度領域で形成されるものを選択する。また、一般的にシリサイドの安定化合物層の形成温度よりも約200−250℃以下が、約450℃以下の温度領域に入ればよく、その指標としてはシリサイド安定化合物形成層が600℃以下のものを選択する。
【0064】
また、本実施例の本質は、キャップ膜形成温度を300℃未満で形成し、望ましくは約250℃から280℃近傍で形成することにある。この温度で成膜することにより、Cu配線表面に均一なSiを形成し、配線内へのSi拡散を最小限に抑える。このSiの形成領域・拡散実現した中に、CuSix形成反応よりも安定な化合物を形成し、Siを安定化させるとともに、Cu配線上の拡散防止層との密着性を向上させられる元素を、バリアメタル、或いはCuシード膜中から拡散・分布させる。これにより、単にこれらの元素をCu配線中に拡散させただけよりも、効率的にこれらの元素をCu配線と拡散防止層界面上に分散させることが可能になる。
【0065】
なお、この元素を、第1の実施例中では、ケイ化物の形成エネルギーが、Cuケイ物の形成エネルギーより小さい金属が、目的に対して効果的であるため特に説明したが、他に望ましい実施様態として、たとえばSiと共晶を形成する元素などでも効果が発揮される。これらもSi中に拡散析出する性質をもつからである。たとえば、配線材料として一般的である、Al、Ag、Auなどがあげられる。
【0066】
実施の形態2.
実施の形態1では、Si分布を所望の分布にするための手法として、300℃未満でキャップ膜270を形成する場合について説明したが、これに限るものではない。実施の形態2では、300℃以上でキャップ膜270を形成する場合に、配線抵抗の上昇を抑制したまま、EM特性を改善させることができる半導体装置及びその製造方法について説明する。
【0067】
図20は、実施の形態2における半導体装置の製造方法の要部を表すフローチャートである。図20において、実施の形態2における半導体装置の製造方法は、研磨工程(S114)と、キャップ膜形成工程(S120)との間に、Si拡散障害体形成工程(S118)を追加した点以外は図1と同様である。エッチングストッパ膜形成工程(S102)から研磨工程(S114)までの各工程の内容は実施の形態1と同様である。尚、エッチングストッパ膜形成工程(S102)は実施の形態1と同様に有っても無くても良い。
【0068】
Si拡散障害体形成工程(S118)として、Cu膜260表面の少なくとも一部に、上述したTi等のケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属とは異なる材料であって膜260内へのSiの拡散を防止するSi拡散障害体を形成する。
【0069】
図21及び図22は、実施の形態2におけるCu膜断面でのTiとTiとは別のSi拡散障害体との分布の状態の一例を示す概念図である。
図21は,Si拡散障害体28の材料として,酸素(O)を用いた際のCu膜断面での概念図であり,図21(a)は、Si原子供給前に、Si拡散障害体28の材料となる酸素(O)を供給した後の概念図であり、図21(b)は、図21(a)の後、Si原子を供給したときの概念図である。
【0070】
図22は、Si拡散障害体29の材料として、炭素(C)を用いた際のCu膜断面での概念図であり、図22(a)は、Si原子供給前に、Si拡散障害体29の材料となる炭素(C)を供給した後の概念図であり、図22(b)は、図22(a)の後、Si原子を供給したときの概念図である。BM膜240のTi24は、Cu膜260の上部の結晶粒界22上に相対的に多く集まっていることは実施の形態1と同様である。ここでは、Cu膜260の表面にSi拡散障害体28(図21)及び29(図22)を形成する。Si拡散障害体28及び29は、少なくともCu膜260表面もしくは表面下近傍の結晶粒界22上に形成されればよい。Si拡散障害体28の材料としては酸素(O)、また、Si拡散障害体29の材料としては炭素(C)が好適である。
【0071】
図21に示すようにSi拡散障害体28の材料として、Oを用いる場合、以下のようにSi拡散障害体28を形成することができる。実施の形態1では、キャップ膜270を形成する際に、まず、Cu膜260上のC含有保護膜や酸化物を熱分解及び還元除去していたが、実施の形態2では、図21(a)に示すように,例えば、かかる還元処理を無くす、或いは、不完全の状態で還元処理を終了してOを残留させることで、Cu膜260表面或いは表面下近傍の少なくとも一部に、OをSi拡散障害体28として形成することができる。或いは、Cu膜260上のC含有保護膜や酸化物を還元した後に、Oを含むガスにさらすことによりCu膜260表面の少なくとも一部に、OをSi拡散障害体28として形成してからキャップ膜270を形成してもよい。或いはキャップ膜270を形成するガスにOを混ぜることでOをSi拡散障害体28として形成してもよい。
【0072】
そして、図21(b)に示すように,Si拡散障害体28を形成した後或いは同時に、キャップ膜形成工程(S120)を実施する。
【0073】
実施の形態2では、表面付近の結晶粒界に存在していたTi24の上部にさらにCといったSi拡散障害体28が存在するため、Si26がCu膜260内により進入しにくくなっている。そのため、300℃以上のキャップ膜形成工程を行っても、最適なSi分布を形成でき、そのSi領域にTiが分布可能になる。
【0074】
図22に示すように Si拡散障害体29の材料として、Cを用いる場合、以下のようにSi拡散障害体29を形成することができる。実施の形態1では、キャップ膜270を形成する際に、まず、Cu膜260上のC含有保護膜や酸化物を熱分解及び還元していたが、実施の形態2では、例えば、かかる熱分解及び還元処理を無くす、或いは、不完全の状態で熱分解処理を終了して残留させることで、Cu膜260表面或いは表面下近傍の少なくとも一部に、CをSi拡散障害体29として形成することができる。或いは、かかる還元処理用のガスにCを混ぜることでCをSi拡散障害体29として形成してもよい。例えば、還元性を有するNHガス或いはHに例えばエチレン(C)等の炭化水素基を含むガスを混合させて供給する。これにより、Cu膜260表面ではC含有保護膜の熱分解及び酸化物が除去されつつ炭化水素基が吸着することになり、キャップ膜270を形成する際にCu膜260内へのSiの進入がより困難となる。また、前記炭化水素基を含むガスとしてSiを含むガスを混合させて供給してもよい。例えば、SiHCHガス、H(CHガス、或いはSiH(CHガスを混合する。これにより、Cu膜260表面にはSi−CH結合といった分子量が大きい分子が吸着することになり、キャップ膜270を形成する際にCu膜260内へのSiの進入がより困難となる。或いは、キャップ膜270形成用のガスにCを混ぜることでOをSi拡散障害体29として形成してもよい。例えば、SiHCHガス、SiH(CHガス、或いはSiH(CHガスを混合する。これにより、同様に、Cu膜260表面にはSi−CH結合といった分子量が大きい分子が吸着することになり、Cu膜260内へのSiの進入がより困難となる。
【0075】
そして、かかるSi拡散障害体28或いは29の少なくとも一方を形成した後或いは同時に、キャップ膜形成工程(S120)を実施する。前者の場合にはキャップ膜270の形成手法は実施の形態1と同様であるが後者の同時に行う場合にはメチル基含有Siガスも一部熱分解によりCuシリサイドを形成する事が可能であるためSiH4ガスの代わりとしてメチル基含有Siガスを用いてもよいしSiH4ガスとメチル基含有Siガスとの混合でもよい。
【0076】
以上のように、実施の形態2の製造方法で製造される半導体装置は、Cu配線と、Cu配線の結晶粒界に形成されたケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属含有体と、Cu配線表面の少なくとも一部に形成された、前記金属含有膜とは異なる材料であってCu配線内へのSiの拡散を防止するSi拡散障害体と、Cu配線の側面側に形成された層間絶縁膜220と、Cu配線上に選択的に形成されたキャップ膜270(CuとSiとを含有する化合物膜)と、を備える。
【0077】
図22(b)に示すように,Si拡散障害体29を形成した後或いは同時に、キャップ膜形成工程(S120)を実施する。実施の形態2では、表面付近の結晶粒界に存在していたTi24の上部にさらにCといったSi拡散障害体29が存在するため、Si26がCu膜260内により進入しにくくなっている。そのため、300℃以上のキャップ膜形成工程を行っても、最適なSi分布を形成でき、そのSi領域にTiが分布可能になる。
【0078】
なお,図21,図22においては,Si拡散障害体の構成材料として,酸素のみ,炭素のみを模式的に示したが,Si拡散障害体の構成材料として,酸素と炭素とを有していても良い。
【0079】
図23は、実施の形態2におけるキャップ膜の形成温度と配線抵抗上昇率との関係を示すグラフである。実施の形態2では、O或いはCといったSi拡散障害体28又は29(或いは28及び29)がCu膜260表面の結晶粒界上に存在するため、実施の形態1での形成温度より高くしてもSiの進入を抑制することができる。図23では、350℃でキャップ膜を形成した場合でも配線抵抗の上昇がないことを示している。
【0080】
表3は実施の形態2におけるEM寿命を比で示したものである。用いたバリアメタル膜240は、上述したTi−rich TiNであり、酸素のSi拡散障害体28の上にキャップ膜270を形成した場合と公知の方法でキャップ膜を形成した場合とでのEM寿命の比較である。
【0081】
【表3】

【0082】
表3に示すようにSi拡散障害体28の上にキャップ膜270を形成すると、Si拡散障害体なしの場合と比べてEMの劣化が見られない。CMP後の還元処理が不十分、つまりCMP後のCu表面に酸素が残っているとEM寿命が劣化してしまうが、表3に示すようにCMP後のCu表面に酸素で出来たSi拡散障害体28があって、キャップ膜270を形成すれば、EM寿命が高いまま保てる。
【0083】
よって、図23に示した配線抵抗上昇率と表3に示すEM寿命を合わせて考えると下記の通りである。CMP後のCu表面にSi拡散障害体28を形成してからキャップ膜270を形成すると、キャップ膜形成による配線抵抗の上昇を抑制したままEM改善効果を保つことができる。
【0084】
Ti−rich TiN−BMの場合に、酸素でできたSi拡散障害体28があってもEM寿命が保てるメカニズムを次に説明する。
【0085】
図24は、Cu表面にSi拡散障害体を形成せずにキャップ膜を350℃で形成した場合のCu膜断面写真である。図24(a)〜(b)はSTEM写真を示す。図24(c)は図24(a)に対するHAADF−STEM写真を、図24(d)では図24(b)に対するHAADF−STEM写真を示す。
【0086】
図25は、図24で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。図25(a)では、図24(a)と図24(b)の図中に示す分析点でのTi量を棒グラフで並べて示している。図25(b)では、配線中の領域をCu膜表面粒上とCu膜表面の結晶粒界、Cu膜内部の結晶粒界、Cu膜内部の結晶粒内の4つに分け、各領域の分析点でのTi量をまとめてBoxプロットしたものである。ここで、Cu中最下部のポイント63と72は、Cu配線とバリアメタルの界面に図16で示されるようなSiの蓄積層が存在する可能性があるため、図25(a)、(b)でのCu配線中の粒界点から除外している。図25から、キャップ膜を高温(350℃)で形成すると、Cu膜表面の粒界ではTiが多く検出される点とほぼ検出されない点が存在し、Tiが偏析していると言える。Cu膜表面粒界でのTiの偏析は図12で示したキャップ膜がない場合ほど顕著でないが、図14で示したキャップ膜を低温(275℃)で形成した場合より顕著である。
【0087】
よって、実施の形態1で示したようにCu膜表面でTiが偏析していることによりキャップ膜を形成してもEM寿命改善効果が十分に得られない可能性がある。
【0088】
図26は、Cu表面に酸素のSi拡散障害体を形成した後にキャップ膜を形成した場合のCu膜断面の写真である。ここでのキャップ膜は350℃で形成したものである。図26(a)〜(b)はSTEM写真を示す。図26(c)は図26(a)に対するHAADF−STEM写真を、図26(d)は図26(b)に対するHAADF−STEM写真を示す。
【0089】
図27は、図26で示したCu膜断面でのTiの量を分析した結果を示すグラフである。図27(a)では、図26(a)と(b)の図中に示す分析点でのTiの量を棒グラフで並べて示している。図27(b)では、配線中の領域をCu膜表面粒上とCu膜表面の結晶粒界、Cu膜内部の結晶粒界、Cu膜内部の結晶粒内の4つに分け、各領域の分析点でのTi量をまとめてBoxプロットしたものである。ここで、Cu中最下部のポイント17、25、及び34はCu配線とバリアメタルの界面に図16で示されるようなSiの蓄積層が存在する可能性があるため、図27(a)、(b)でのCu配線中の粒界点から除外している。図27からTiはCu膜表面の粒界にほぼ均一に分布しており、Cu膜表面粒界部でのTi検出量のバラつきも小さい。これは、図14で示した低温(275℃)でキャップ膜を形成した場合とほぼ同様の傾向を示しており、Si拡散障害体をも持たない場合に比べて高いEM寿命改善効果が期待できるということになる。
【0090】
続いて、図28では、図24と図26において示したCu膜表面にキャップ膜を形成したサンプルについて、Cu配線中粒界部のSi検出量を配線底部の粒界(図24のポイント63と72、図26のポイント17と25と34)と、配線中の粒界に分けてBoxプロットしたものである。図28に示すグラフから、Cu配線中の粒界でのSi量はSi拡散障害体の有無によらず、検出限界程度であるが、Cu配線底部の粒界ではSi拡散障害体がない場合のSi検出量が多く、Si拡散障害体を持つことによって、配線底部に蓄積されるSi量が減っている、つまり、Cu配線中を拡散するSi量が減っているのが分かる。この結果からSi拡散障害体を持つ場合でも、配線底でのSi量が検出限界程度まで減少されているわけではないが、図23に示すようにキャップ膜形成による配線抵抗の上昇が見られない。
【0091】
つまり、Si拡散障害体を持つ場合は、キャップ膜の形成時にCu膜表面に供給されたSiは、そもそもSi拡散障害体によってCu粒界への進入を抑制される。そのため、抵抗上昇の原因となるCu粒内へ拡散しない。さらに、Si拡散障害体をすり抜けて、Cu粒界へと進入したSiは、粒界を通って配線底に蓄積されていると言える。以上のことから、図21,22で概念的に示したように、Si拡散障害体を持つ場合には余剰SiはCu膜表面で遮断されるかもしくは配線底にTi等のケイ化物として蓄積されるため、Cu粒内に拡散することなく、配線抵抗を上昇させないと考えられる。
【0092】
さらに、実施の形態2では、BM膜240の材料として、Ti、Ni、Co、Mo,Hf及びMnの他、Ta或いはジルコニウム(Zr)、W、およびそれらの窒化物を用いることができる。それぞれ窒化物は、メタルリッチの組成のように、金属元素を拡散させやすい組成を選択しても効果的である。O或いはCといったSi拡散障害体28又は29(或いは28及び29)をCu膜260表面の結晶粒界上に形成することで、300℃以上でキャップ膜を形成することができるため、Ta或いはZrを用いた場合でもSiの進入を抑制しながらEM特性を改善することができる。言い換えれば、配線抵抗の上昇を抑制しつつEM特性を改善することができる。
また、第1の実施例でも述べたが、ケイ化物を形成可能な金属の選択だけでなく、他に望ましい形態として、Si分布領域に拡散可能なSiと共晶を形成する金属、例えばAl、Ag、Auを選択することも可能である。望ましいSi分布の形成に、第2の実施例では、拡散障害体を形成することが特徴である。
【0093】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0094】
図29(a)は,350℃でキャップ形成工程を行った場合の、Cu配線被服率85%、図29(b)は、350℃でキャップ形成工程を行った場合の、Cu配線被服率50%のCu配線における、配線抵抗の上昇率の配線幅依存性を示す。用いたバリアメタルは、Ta、Ti、Ti−rich TiNの3種である。Ti−rich TiNは、種々の形成方法があるが、図29に示したプロセスは、Tiを形成後、同一チャンバー中にて、N2ガスを50から200sccmの流量にて導入し、Ti膜表面にTi−rich −TiNを形成したものである。Ti系材料では、約0.1nm幅近傍より以下で、Taバリアメタルを用いたときよりも抵抗上昇率が抑制されていることがわかる。また、Ti−rich TiN膜を用いた場合は、約1μm近傍以下までは、抵抗上昇率が非常に低減できる。また、1um以上の太幅についても、Taの上昇率よりも、抵抗が低減可能なことがわかる。
このように、ケイ化物の形成エネルギーよりも低い金属をバリアメタルに用いた場合でも、さらにその用いる構造により、300℃以下のCuSiNx,またはCuSixのキャップ形成工程によるSi形成工程を用いていなくても、より効果的な手法があることがわかる。ただし、特定の配線幅、被服率が限定されるため、配線幅によらず抵抗上昇を抑制するためには、本発明の300℃未満のキャップ形成工程が有効であることは言うまでもない。
【0095】
また、層間絶縁膜の膜厚や、開口部のサイズ、形状、数などについても、半導体集積回路や各種の半導体素子において必要とされるものを適宜選択して用いることができる。
【0096】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての半導体装置及び半導体装置の製造方法は、本発明の範囲に包含される。
【0097】
また、説明の簡便化のために、半導体産業で通常用いられる手法、例えば、フォトリソグラフィプロセス、処理前後のクリーニング等は省略しているが、それらの手法が含まれ得ることは言うまでもない。例えばキャップ膜270と、かかるキャップ膜270の上層に形成されるlow−k膜等の層間絶縁膜との間にSiN、SiC、SiCN膜等によるエッチストップ膜を形成してもよい。
【符号の説明】
【0098】
24 Ti、26 Si、28 Si拡散障害体(O)、29 Si拡散障害体(C)、150 開口部、200 基板、220 層間絶縁膜、240 バリアメタル膜、260 Cu膜、270 キャップ膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜に開口部を形成する工程と、
前記開口部内に、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する膜を形成する工程と、
前記金属を含有する膜が形成された前記開口部内に銅(Cu)膜を埋め込む工程と、
前記Cu膜上に、300℃未満の温度でCuとSiとを含有する化合物膜を選択的に形成する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属は、チタン(Ti)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、ハフニウム(Hf)とのうちの少なくとも1つが用いられることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
基体上に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜に開口部を形成する工程と、
前記開口部内に、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する膜を形成する工程と、
前記金属を含有する膜が形成された前記開口部内に銅(Cu)膜を埋め込む工程と、
前記Cu膜表面の少なくとも一部に、前記金属を含有する膜とは異なる材料であって前記Cu膜内へのSiの拡散を防止するSi拡散障害体を形成する工程と、
前記Si拡散障害体が形成されている状態で、前記Cu膜上に、CuとSiとを含有する化合物膜を選択的に形成する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
銅(Cu)配線と、
前記Cu配線の結晶粒界に形成された、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する金属含有体と、
前記Cu配線の側面側に形成された絶縁膜と、
300℃未満の温度で前記Cu配線上に選択的に形成された、CuとSiとを含有する化合物膜と、
を備えたことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
少なくとも前記Cu配線の底面側に、前記Cu配線と接触して形成されたバリアメタル膜と、
前記Cu配線における前記バリアメタル膜との界面部に、前記Cu配線の中央部に比べて高濃度に存在するケイ化物と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項4記載の半導体装置。
【請求項6】
銅(Cu)配線と、
前記Cu配線の結晶粒界に形成された、ケイ化物の形成エネルギーがCuケイ化物の形成エネルギーよりも小さい金属を含有する金属含有体と、
前記Cu配線表面の少なくとも一部に形成された、前記金属含有体中の金属原子とは異なる材料であって前記Cu配線内へのSiの拡散を防止するSi拡散障害体と、
前記Cu配線の側面側に形成された絶縁膜と、
前記Cu配線上に選択的に形成された、CuとSiとを含有する化合物膜と、
を備えたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図28】
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【図29】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図24】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−186977(P2010−186977A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130831(P2009−130831)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】