説明

半導体装置

【課題】所望のブレークダウン電圧を確保し、大きな放電電流を流せるESD保護特性の良好なESD保護素子を実現する。
【解決手段】適切な不純物濃度のN+型埋め込み層2とP+型埋め込み層3からなるPN接合ダイオード35と、P+型拡散層6と繋がるP+型引き出し層5aをエミッタ、N−型エピタキシャル層4をベース、P型半導体基板1をコレクタとする寄生PNPバイポーラトランジスタ38とでESD保護素子を構成する。P+型埋め込み層3はアノード電極10に接続され、P+型拡散層6と、それと接続され、取り囲むN+型拡散層7とはカソード電極9に接続される。カソード電極9に正の大きな静電気が印加されるとPN接合ダイオード35がブレークダウンし、そのときの放電電流I1によりP+型引き出し層5aよりN−型エピタキシャル層4の電位が下がり寄生PNPバイポーラトランジスタ38がオンし、大きな放電電流I2が流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特にESD保護特性のすぐれたESD保護素子からなる半導体装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ESD対策として半導体装置の保護回路が組み込まれた種々の半導体装置が提案されている。例えば、典型的には図5に示すように、入出力端子50と電源ライン51間にPN接合ダイオード52を接続し、入出力端子50と接地ライン53間にPN接合ダイオード54を接続し、電源ライン51と接地ライン53の間にPN接合ダイオード55を接続することにより、内部回路56の保護が行われていた。
【0003】
しかしながら、高速化の要求等から構成素子の微細化が進展するにつれ半導体装置の静電破壊耐性が弱くなり、より適切なESD保護素子の採用が不可欠になってきた。高耐圧素子としてのMOS型トランジスタと低耐圧素子としてのNPNバイポーラトランジスタを内蔵するBiCMOS型集積回路において、低耐圧NPNトランジスタをESD保護素子とする内容とその問題点及び解決方法が以下の特許文献1に開示されている。
【0004】
また、電源ラインと接地ライン間にPN接合ダイオードの代わりにベース・エミッタ間を抵抗で接続したNPNバイポーラトランジスタをESD保護素子として使用する内容が特許文献2に開示されている。MOS型トランジスタをESD保護素子とした場合、そのスナップバック電圧を低下させ、ESD保護特性を改善する内容が特許文献3に開示されている。
【0005】
なお、スナップバック電圧については後述するが、大きな静電気サージが入出力端子等に印加されたとき、該静電気を接地ラインに逃がし始めるトリガー電圧である。保護素子のスナップバック電圧が被保護素子のスナップバック電圧より低ければ、保護素子を通して静電気を接地ラインに逃がせるので被保護素子は静電気から保護される。また、ESDとはElectro−Static Dischargeの略称で静電気放電を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−128293号公報
【特許文献2】特開平05−90481号公報
【特許文献3】特開平06−177328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2には、図6に示すように、図5と同様の構成で電源ライン51となる最高電位端子と接地ライン53となる最低電位端子間に静電気が印加された場合の新たなESD保護素子59が開示されている。従来はN型エピタキシャル層をカソード、P型半導体基板をアノードとする点線で示す寄生PN接合ダイオード55aが、両端子間に印加される静電気の放電経路となり内部回路56を保護していた。図5のPN接合ダイオード55が寄生PN接合ダイオード55aで代替されている。
【0008】
しかし、微細化の進展等による静電気の放電経路のインピーダンスの増加等により、該寄生PN接合ダイオード55aが有効に動作せず内部回路56のいずれかの接合を介して静電気の放電経路が生じ、内部回路56の接合部が破壊される場合が生じていた。そこで、該寄生PN接合ダイオード55aと並列にベースとエミッタ間が抵抗58でシャントされたNPNバイポーラトランジスタ57を接続した新たなESD保護素子59で静電気に対処する内容が開示されている。
【0009】
静電気による正の電圧が、電源ライン51から該電源ライン51に接続されたNPNバイポーラトランジスタ57のコレクタに印加され、接地ライン53から該接地ライン53に接続されたエミッタに負の電圧が印加された場合、該NPNバイポーラトランジスタ57のベース・エミッタ間に抵抗58を接続した状態でのコレクタ・エミッタ間ブレークダウン電圧BVCER以上の電圧に達した時点で該NPNバイポーラトランジスタ57はブレークダウンする。
【0010】
逆に、電源ライン51を負、接地ライン53を正とする静電気が印加された場合は、前記抵抗58を介してベース・コレクタ間接合が順方向のためクランプされる。
【0011】
従って電源ライン51と接地ライン53との間は、従来の寄生的に存在していたESD保護PN接合ダイオード55aと並列に、より低いブレークダウン電圧を有する、NPNバイポーラトランジスタ57と前記抵抗58で構成される新たなESD保護素子59により静電気から保護される。静電気の放電経路は一部が半導体基板内で一部は半導体基板の表面となる。
【0012】
しかし、より低電圧動作を追及する携帯機器等に使用される半導体装置においては、静電気が印加された場合、更に低い電圧でブレークダウンするESD保護素子であって、且つ、放熱の関係から静電気放電経路が出来るだけ半導体基板の内部に形成される新たなESD保護素子が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の半導体装置は、第1導電型の半導体基板上に堆積された第2導電型のエピタキシャル層と、前記半導体基板と前記エピタキシャル層の間に離間領域を介して形成された2つの第2導電型の第1の埋め込み層と、前記離間領域と反対側の前記第1の埋め込み層の周辺領域と接続され前記半導体基板内から前記エピタキシャル層内に延在する第1導電型の第2の埋め込み層と、前記エピタキシャル層の表面から前記エピタキシャル層内に延在し前記第2の埋め込み層と一体となる第1導電型の第1の引き出し層と、前記第2の埋め込み層と前記第1の引き出し層とに囲まれた前記エピタキシャル層の表面から前記離間領域上に向かって延在して形成された第1導電型の第2の引き出し層と、前記第2の引き出し層を含む前記エピタキシャル層の表面に形成された第1導電型の第2の拡散層と、前記第2の拡散層と接続され該第2の拡散層を取り囲んで形成された第2導電型の第1の拡散層と、前記第1の拡散層及び前記第2の拡散層に接続されたカソード電極と前記第1の引き出し層と接続されたアノード電極と、を具備し、前記第1の埋め込み層と前記第2の埋め込み層で形成されるPN接合ダイオードと、前記第2の引き出し層と前記エピタキシャル層と前記半導体基板又は前記第2の埋め込み層で形成される寄生バイポーラトランジスタとで構成されるESD保護素子を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の半導体装置は、第1導電型の半導体基板上に堆積された第2導電型のエピタキシャル層と、前記半導体基板と前記エピタキシャル層の間に離間領域を介して形成された2つの第2導電型の第1の埋め込み層と、前記離間領域と反対側の前記第1の埋め込み層の周辺領域と接続され前記半導体基板内から前記エピタキシャル層内に延在する第1導電型の第2の埋め込み層と、前記エピタキシャル層の表面から前記エピタキシャル層内に延在し前記第2の埋め込み層と一体となる第1導電型の第1の引き出し層と、前記第2の埋め込み層と前記第1の引き出し層とに囲まれた前記エピタキシャル層の表面に形成された第2導電型の第1の拡散層と、前記第1の拡散層と接続され該第1の拡散層を取り囲み、前記エピタキシャル層の表面から前記離間領域上に向かって延在して形成された第1導電型の第2の引き出し層と、前記第1の拡散層及び前記第2の拡散層に接続されたカソード電極と前記第1の引き出し層と接続されたアノード電極と、を具備し、前記第1の埋め込み層と前記第2の埋め込み層で形成されるPN接合ダイオードと、前記第2の引き出し層と前記エピタキシャル層と前記半導体基板又は前記第2の埋め込み層で形成される寄生バイポーラトランジスタとで構成されるESD保護素子を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の半導体装置は、前記寄生バイポーラトランジスタは、前記第2の引き出し層がエミッタ、前記エピタキシャル層がベース、前記半導体基板又は前記第2の埋め込み層がコレクタとなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の半導体装置は、前記PN接合ダイオードが、前記第1の埋め込み層の不純物濃度が少なくとも前記第2の埋め込み層に隣接する領域で前記エピタキシャル層の不純物濃度より高く前記第2の埋め込み層の不純物濃度より低いことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の半導体装置は、前記カソード電極が電源ラインに、前記アノード電極が接地ラインに接続されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の半導体装置は、前記第1の埋め込み層の不純物濃度が前記PN接合ダイオードの耐圧を決定する前記第2の埋め込み層近傍以外の領域で該埋め込み層近傍より高濃度であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の半導体装置は、前記ESD保護素子が並列に格子状に複数形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の半導体装置によれば、所望の耐圧でブレークダウンし、大きな放電電流を流すことが可能なESD保護特性のすぐれたESD保護素子を有する半導体装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態におけるESD保護素子の平面図及びその製造方法並びに静電気の放電経路を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるESD保護素子を利用したESD保護回路の回路図及びESD保護素子に印加された静電気電圧と放電電流の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態におけるESD保護素子の製造方法を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態におけるESD保護素子の製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態の変形例におけるESD保護素子の平面図及びその製造方法並びに静電気の放電経路を模式的に示す断面図である。
【図6】従来のESD保護素子として一般的なPN接合ダイオードを利用したESD保護回路の回路図である。
【図7】従来のESD保護素子である一般的なPN接合ダイオードに加え、NPNバイポーラトランジスタと抵抗からなる新たなESD保護素子を採用したESD保護回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態の半導体装置に使用されるESD保護素子37の特徴について、図1、図2に基づいて、以下に説明する。図1(A)は本実施形態のESD保護素子37の平面図である。図1(B)は図1(A)のA−A線での断面図であり、また静電気の放電経路を示す模式図である。なお、図1(A)では、図1(B)に示すカソード電極9、アノード電極10は記載を省略している。
【0023】
図2(A)は本実施形態のESD保護素子37を電源ライン31と接地ライン33間に接続したESD保護回路の回路図である。電源ライン31と接地ライン33の間に内部回路36が接続される。内部回路36から入出力端子30が引き出され、入出力端子30と電源ライン31間にはPN接合ダイオード32が、入出力端子30と接地ライン33間にはPN接合ダイオード34がESD保護素子として接続される。
【0024】
ESD保護素子37は、図1(B)に示すように、PN接合ダイオード35と抵抗39及び寄生PNPバイポーラトランジスタ38並びに抵抗42及び寄生PNPバイポーラトランジスタ41とで構成される。図2(A)においては、点線で示す寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41等は2個書くべき所を1個に省略して表示している。なお、PN接合ダイオード32、34についてもESD保護素子37の構成と置き換えてもよい。
【0025】
図1(B)に示されるように、PN接合ダイオード35はN+型埋め込み層2とP+型埋め込み層3で構成される。抵抗39、42はN−型エピタキシャル層4の抵抗で構成される。寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41は、それぞれP+型拡散層6と接続されるP+型引き出し層5aをエミッタ、N−型エピタキシャル層4をベース、P型半導体基板1、P+型埋め込み層3等をコレクタとして構成される。
【0026】
図1(A)、図1(B)に基づいて、更に詳細にESD保護素子37の構成について説明し、その後、該ESD保護素子37に静電気が印加されたときに流れる静電気の放電経路について説明する。図1(B)に示すように、P型半導体基板1上の離間領域で分断されたN+型埋め込み層2のそれぞれが、離間領域と反対側のそれらの端部で別々のP+型埋め込み層3と互いに接続され、それぞれがPN接合ダイオード35を構成する。
【0027】
少なくとも該PN接合部に近接する領域のN+型埋め込み層2の不純物濃度は、N−型エピタキシャル層4よりは高いが通常のNPNバイポーラトランジスタのコレクタ層となる高濃度のN+型埋め込み層、及びP+型埋め込み層3より低くなるように調整される。N+型埋め込み層2とP+型埋め込み層3で構成されるPN接合ダイオード35の耐圧を所望の値にするためである。
【0028】
図1(B)に示されるように、P+型埋め込み層3とP+型引き出し層5は、N−型エピタキシャル層4を貫通して一体となり、同図の左右2箇所で、それぞれが接地ライン33に連結するアノード電極10に接続される。また、同図の中心領域では、P型半導体基板1とN−型エピタキシャル層4とがN+型埋め込み層2を介在さず、その離間領域を介して直接接続される。
【0029】
図1(B)の左右のP+型埋め込み層3とP+型引き出し層5にとり囲まれたN−型エピタキシャル層4の表面からP+型拡散層6、及び該P+型拡散層6に隣接する構成でN+型拡散層7が形成される。
【0030】
同図(A)に示すように、P+型引き出し層5等に囲まれたN−型エピタキシャル層4にP+型拡散層6が形成され、該P+型拡散層6に隣接し、且つ、それを取り囲む構成でN+型拡散層7が形成される。N+型拡散層7は、N−型エピタキシャル層4の表面から内部に向かってP+型拡散層6と同程度の深さまで延在する。P+型拡散層6の下方には該P+型拡散層6と一体となりN−型エピタキシャル層4を、その内部のN+型埋め込み層2が形成されていない離間領域に向かって延在するP+型引き出し層5aが形成される。
【0031】
N+型拡散層7を含むP型半導体基板1の表面に形成されたシリコン酸化膜等からなる絶縁膜8の開口を介してP+型引き出し層5と接続するアノード電極10、N+型拡散層7及びP+型拡散層6と接続するカソード電極9が形成される。カソード電極9は電源ライン31に接続される。
【0032】
本実施形態のESD保護素子37に静電気が印加された場合の放電電流及びその放電経路について、図1(B)、図2(A)、図2(B)に基づいて以下に説明する。
【0033】
図2(A)に示す電源端子VDDに正の静電気によるサージ電圧が印加されたとき、図1(B)に示すように、電源端子VDDに接続する電源ライン31からカソード電極9、N+型拡散層7、N−型エピタキシャル層4を経由してN+型埋め込み層2に該正の静電気によるサージ電圧が印加されることになる。一方、接地ライン33に接続されたアノード電極10、アノード電極10と接続されたP+型引き出し層5、P+型埋め込み層3は接地電位となる。
【0034】
従って、正の静電気によるサージ電圧がN+型埋め込み層2とP+型埋め込み層3で構成されるPN接合ダイオード35の耐圧以上の大きさのとき、PN接合ダイオード35がブレークダウンする。PN接合ダイオード35の耐圧は、内部回路を構成するデバイスの耐圧より小さくなるように、N+型埋め込み層2の不純物濃度をN−型エピタキシャル層4の不純物濃度より高く、且つ隣接するP+型埋め込み層3の不純物濃度より低い値に設定しているからである。
【0035】
その結果、図1(B)に示すように、N+型拡散層7から抵抗成分を持つN−型エピタキシャル層4、N+型埋め込み層2、P+型埋め込み層3、P+型引き出し層5を経由してアノード電極10に放電電流I1が流れる。図2(B)で言えば、電圧aでPN接合ダイオード35がブレークダウンし、放電電流I1が電圧bの位置までN−型エピタキシャル層4の抵抗等に応じた勾配で流れる。
【0036】
抵抗39、42となるN−型エピタキシャル層4を放電電流I1が流れると、N−型エピタキシャル層4に電位勾配ができ、高電位のカソード電極9とP+型拡散層6を介して接続されたP+型引き出し層5aの電位がN−型エピタキシャル層4の電位より高くなる。
【0037】
その結果、P+型拡散層6と接続されたP+型引き出し層5aをエミッタ、N−型エピタキシャル層4をベース、P型半導体基板1をコレクタとする寄生PNPバイポーラトランジスタ38及びP+型埋め込み層3等をコレクタとする寄生PNPバイポーラトランジスタ41がオン状態になる。
【0038】
P+型引き出し層5aとその近傍のN−型エピタキシャル層4間の電位差はP+型引き出し層5aの先端領域で最大となり、その領域でベース幅となるN−型エピタキシャル層の幅も最小になる。従って、P+型引き出し層5aの先端領域をエミッタとする寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41に大きなオン電流が流れるが、それより浅い領域のP+型引き出し層5aをエミッタとする寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41も、その近傍のN−型エピタキシャル層4との電位差が所定の電位差以上であればオン状態になるのでオン電流を大きくできる。
【0039】
P+型引き出し層5aとP型半導体基板1又はP+型埋め込み層3等に挟まれるN−型エピタキシャル層4の幅は、寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41のベース幅になるので、P+型引き出し層5aは耐圧が許す限りN−型エピタキシャル層4内の深い位置まで延在させるのが好ましい。ベース幅が狭くなり電流増幅率が高くなるのでオン電流を大きくすることができるからである。
【0040】
オン状態になった寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41には、図1(B)に示すように、そのエミッタとなるP+型引き出し層5aからコレクタとなるP型半導体基板1、P+型埋め込み層3等に向かってオン電流である大きな放電電流I2、I4が流れる。N−型エピタキシャル層4内の深い領域をP+型埋め込み層3等に向かって放電電流I4が流れ、半導体装置の底面側のP型半導体基板1に向かって放電電流I2が流れるため、放熱効果が高く、放電電流I2、I4を大きくすることができる。
【0041】
従って、寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41を流れる大きな放電電流I2、I4により、電源ライン31からカソード電極9を介してP+型拡散層6に入ってきた正の静電気は、エミッタとなるP+型引出し層5aからベースとなるN−型エピタキシャル層4、コレクタとなるP型半導体基板1、P+型埋め込み層3等を経由して接地ライン33に速やかに流出される。その結果、内部回路36は静電気から迅速に保護される。
【0042】
図2(B)で示すと、放電電流I1が流れてカソード電極9の電圧が電圧bに達した時点、即ち、P+型引き出し層5aとN−型エピタキシャル層4の電位差が所定の値に達した時点で寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41がオン状態になる。
【0043】
その時点でスナップバック現象が生じ、その後、寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41のコレクタ電圧が電圧cまで低下した後、寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41のコレクタ抵抗等に応じた勾配で放電電流I2、I4は増大する。電圧cは寄生バイポーラトランジスタ38のエミッタとベース間が抵抗Rでシャントされた場合の耐圧であるBVCERに相当する。
【0044】
電圧cの大きさは、寄生PNPバイポーラトランジスタ38と41とで異なる場合も有り同一の場合もある。その異同は、寄生PNPバイポーラトランジスタ38のベース幅を構成するP+型引き出し層5aとP型半導体基板1間のN−型エピタキシャル層4の幅と、寄生PNPバイポーラトランジスタ41のベース幅を構成するP+型引き出し層5aとP+型埋め込み層3等間のN―型エピタキシャル層4の幅の大小で決まる。
【0045】
寄生PNPバイポーラトランジスタ38と41のベース幅の違いは、両トランジスタ38、41の電流増幅率の差につながるため放電電流I2とI4の全体の放電電流に対する寄与率にも大きく影響する。電圧cの大きさが両トランジスタ38、41で異なれば図2(B)のスナップバック後に立ち上がる放電電流も2箇所の電圧から立ちあがることになる。
【0046】
図2(A)で示せば、ESD保護素子37において、先ず、電源ライン31からカソード電極9、抵抗39を介してPN接合ダイオード35に印加された正の静電気によるサージ電圧により、PN接合ダイオード35がブレークダウンし、電源ライン31と接地ライン33間を放電電流I1が流れる。
【0047】
その結果、抵抗39、42で電圧降下がおこり寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41のベース電位がエミッタ電位より低下するので寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41がオンして、電源ライン31から接地ライン33に大きな放電電流I2、I4を放出することができる。前述の如く、I2とI4の流れ初めのスナップバック後の電圧の大きさはそれぞれのベース幅に依存する。ベース幅は放電電流I2、I4の大きさにも関係する。
【0048】
本実施形態のESD保護素子37は、上述のように、PN接合ダイオード35を所定の不純物濃度からなるN+型埋め込み層2と、P+型埋め込み層3とで構成することにより所望の耐圧を実現し、そのブレークダウンによる放電電流I1により寄生PNPバイポーラトランジスタ38、41をオンさせ、大きな放電電流I2、I4を流すことができる。
【0049】
放電電流I2は半導体装置の底面となるP型半導体基板1に向かって流れ、放電電流I4はN−型エピタキシャル層4の深い領域をP+型埋め込み層3等に向かって流れるため、放熱効果が大きくなり、より大きな放電電流I2、I4を流すことができる。従って、本実施形態のESD保護素子は、内部回路36を静電気から速やかに保護できることに特徴がある。
【0050】
以下に本実施形態のESD保護素子の製造方法について、図1(B)、図3、図4に基づいて簡単に説明する。基本的にはバイポーラ集積回路の製造方法と同じである。
【0051】
先ず、図3(A)に示すように、P型半導体基板1を準備し、その表面にシリコン熱酸化膜等からなる絶縁膜20を形成する。次に、絶縁膜20に所定のフォトエッチングにより所定の大きさで所定の間隔をあけて開口20aを2箇所に形成し、該開口20aを含むP型半導体基板1上を被覆するアンチモン(Sb)ドープ塗布膜21を、通常のバイポーラプロセスのN+型埋め込み層の形成条件と同条件で形成する。
【0052】
その後、熱処理を行うことによりP型半導体基板1内にN+型埋め込みデポ層2aを形成する。塗布膜21の代わりアンチモン(Sb)をイオン注入してN+型埋め込みデポ層2aを形成しても良い。
【0053】
次に、図3(B)に示すように、塗布膜21を除去した後、1100℃前後の温度で熱処理を行い、N+型埋め込みデポ層2aをP型半導体基板1内の横方向及び下側のより深い領域まで拡散させ、2箇所に離間領域を挟んで、それぞれN+型埋め込み層2を形成する。その際、N+型埋め込み層2を含むP型半導体基板1上にシリコン酸化膜22が形成される。N+型埋め込み層2のP型半導体基板1内の形状は、この段階の熱処理によりほぼ決定される。
【0054】
次に、図3(C)に示すように、シリコン酸化膜22に所定のフォトエッチングにより開口22aを形成し、シリコン酸化膜22等をマスクにして開口22a内に露出するP型半導体基板1等にボロン(B)等をイオン注入等して、P+型埋め込みデポ層3aを形成する。
【0055】
次に、図4(A)に示すように、シリコン酸化膜22を除去してからN+埋め込み層2等を含むP型半導体基板1上に、所定のエピタキシャル法によりN−型エピタキシャル層4を堆積する。その後、N−型エピタキシャル層4の表面に形成されたシリコン酸化膜等をマスクとして、N−型エピタキシャル層4の所定の位置にボロン(B)等をイオン注入等し、所定の熱処理を行うことで同図(A)に示すように、N−型エピタキシャル層4を貫通し一体となるP+型埋め込み層3とP+型引き出し層5の連続体が形成される。
【0056】
この際同時に、左右のP+型引き出し層5に挟まれたN−型エピタキシャル層4の表面から、2箇所のN+型埋め込み層2に挟まれたN+型埋め込み層2の形成されていない離間領域方向に向かって延在するP+型引き出し層5aを形成する。P+型引き出し層5とP+型引き出し層5aとはN−型エピタキシャル層4内の同じ深さまで延在する。P+型引き出し層5aはP+型引き出し層5より深い位置まで延在させてもよい。
【0057】
N+型埋め込み層2は、上述のN−型エピタキシャル層4の堆積、その後の熱処理により該N−型エピタキシャル層4内を、其の上方及び横方向に対して熱拡散により若干延在する。但し、その拡散量は、N+型埋め込み層2の不純物がアンチモン(Sb)等の拡散係数の小さな元素であるため小さい。
【0058】
そのため、離間領域を挟んで2箇所に形成されたN+型埋め込み層2は離間したままで、両N+型埋め込み層2に挟まれた離間領域はN−型エピタキシャル層4とP型半導体基板1とが直接接続された領域になる。P+型引き出し層5を含むN−型エピタキシャル層4上にはシリコン酸化膜等からなる絶縁膜23が形成される。
【0059】
遅くともN−型エピタキシャル4の堆積時またはその後の前記熱処理時にN―型エピタキシャル層4内等を横方向に拡散したP+型埋め込み層3は、図3(A)の開口部20aからP型半導体基板1内等を横方向に拡散したN+型埋め込み層2の不純物濃度の低い先端領域と互いに接触し、所望の耐圧を有するPN接合ダイオード35を形成する。
【0060】
即ち、PN接合ダイオード35は、図3(A)に示す開口部20aの端部と図3(C)に示す開口部22aの端部との距離を適切に調整することにより、PN接合部近傍のN+型埋め込み層2の不純物濃度を適切なものとして、逆バイアスされたとき空乏層が低不純物濃度のN+型埋め込み層2側に、より大きく延在して所望の耐圧を実現する。
【0061】
なお、P+型埋め込み層3の近傍領域のN+型埋め込み層2を、その不純物濃度を通常のバイポーラプロセスのN+型埋め込み層より低く、かつP+型埋め込み層3の不純物濃度より低く設計し、イオン注入法等でP+型埋め込み層3と重畳して形成することにより、該低不純物濃度のN+型埋め込み層2とP+型埋め込み層3との間でPN接合ダイオード35を構成してもよい。PN接合ダイオード35の所望の耐圧は、係る領域のイオン注入法等で形成された低不純物濃度のN+型埋め込み層2の不純物濃度を所定の値にすることにより実現できる。
【0062】
この場合、P+型埋め込み層3と離間した領域に通常のバイポーラプロセスのN+型埋め込み層の不純物濃度と同等の高不純物濃度のN+型埋め込み層2を形成し、高不純物濃度のN+型埋め込み層2とP+型埋め込み層3との間の領域を上述の低不純物濃度のN+型埋め込み層2で連続させ、低不純物濃度のN+型埋め込み層2とP+型埋め込み層3でPN接合ダイオード35を形成することになる。
【0063】
本発明の実施形態では、開口20aと開口22aとのマスクずれが生じた場合、PN接合ダイオード35の耐圧がばらつく恐れがある。しかし、N+型埋め込み層2をイオン注入等によりP+型埋め込み層3と重畳して形成する場合、マスクずれに相当する現象が生じないのでPN接合ダイオード35の耐圧のばらつきは改善できる。
【0064】
次に、図4(B)に示すように、所定の方法により絶縁膜23やフォトレジスト膜をマスクとして、砒素(As)等やボロン(B)等をイオン注入して、N+型拡散層7及びP+型拡散層6を前述した構成で順次形成する。本工程も通常のバイポーラトランジスタのエミッタ層、ベースコンタクト層等形成と同時に行われる。N+型拡散層7等を含むP型半導体基板1上にはシリコン酸化膜等からなる絶縁膜8が形成される。
【0065】
次に、図1(B)に示すように、絶縁膜8に所定のフォトエッチングにより形成した開口を介して、スパッタ等により堆積したアルミニューム(Al)等からなる薄膜を所定のフォトエッチングすることによりP+型引き出し層5に接続するアノード電極10、N+型拡散層7及びP+型拡散層6に接続するカソード電極9を形成する。必要に応じ多層配線構造を形成し、最後にパッシベーション膜を形成することによりESD保護素子37を有する半導体装置が完成する。
【0066】
本実施形態の変形例についてESD保護素子について図5に基づいて簡単に説明する。同図(A)はその平面図、同図(B)は断面図である。本実施形態との相違点は、同図(A)に示すように、N+型拡散層7が、該N+型拡散層7の周辺と接続するP+型引き出し層6aに取り囲まれていることである。
【0067】
その結果、PN接合ダイオード35がブレークダウンしたときN+型拡散層7から流れ出る放電電流I1が、P+型引き出し層6aに取り囲まれたN+型拡散層7の直下のN−型エピタキシャル層4内を分散することなく集中的に流れる。
【0068】
そのため、当該領域のN−型エピタキシャル層4とP+型引き出し層5a間の電位差が大きくなり、P+型引き出し層5aの広い範囲で寄生PNPバイポーラトランジスタ38がオンすることになる。結果的に、放電電流I2を寄生PNPバイポーラトランジスタ41の放電電流I4より大きくすることができるので放熱特性が良くなる。
【0069】
本実施形態等では、図1(A)等に示すように、1つのESD保護素子について記載したが、同図等の前後、左右に同様の構成を格子状に形成する事により放電電流I2を更に増大させたESD保護素子を形成する事ができる。
【符号の説明】
【0070】
1 P型半導体基板 2 N+型埋め込み層 2a N+型埋め込みデポ層
3 P+型埋め込み層 3a P+型埋め込みデポ層 4 N−型エピタキシャル層 5,5a,6a P+型引き出し層 6 P+型拡散層 7 N+型拡散層
8 絶縁膜 9 カソード電極 10 アノード電極 20 絶縁膜
20a,22a 開口 21 アンチモン(Sb)ドープ塗布膜
22 シリコン酸化膜 23 絶縁膜 30 入出力端子 31 電源ライン 32,34 PN接合ダイオード 33 接地ライン 35 PN接合ダイオード 36 内部回路 37 ESD保護素子
38,41 寄生PNPバイポーラトランジスタ 39,40,42 抵抗
50 入出力端子 51 電源ライン 52,54,55 PN接合ダイオード
53 接地ライン 55a 寄生PN接合ダイオード 56 内部回路
57 NPNバイポーラトランジスタ 58 抵抗 59 ESD保護素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板上に堆積された第2導電型のエピタキシャル層と、
前記半導体基板と前記エピタキシャル層の間に離間領域を介して形成された2つの第2導電型の第1の埋め込み層と、
前記離間領域と反対側の前記第1の埋め込み層の周辺領域と接続され前記半導体基板内から前記エピタキシャル層内に延在する第1導電型の第2の埋め込み層と、
前記エピタキシャル層の表面から前記エピタキシャル層内に延在し前記第2の埋め込み層と一体となる第1導電型の第1の引き出し層と、
前記第2の埋め込み層と前記第1の引き出し層とに囲まれた前記エピタキシャル層の表面から前記離間領域上に向かって延在して形成された第1導電型の第2の引き出し層と、
前記第2の引き出し層を含む前記エピタキシャル層の表面に形成された第1導電型の第2の拡散層と、
前記第2の拡散層と接続され該第2の拡散層を取り囲んで形成された第2導電型の第1の拡散層と、
前記第1の拡散層及び前記第2の拡散層に接続されたカソード電極と前記第1の引き出し層と接続されたアノード電極と、を具備し、前記第1の埋め込み層と前記第2の埋め込み層で形成されるPN接合ダイオードと、前記第2の引き出し層と前記エピタキシャル層と前記半導体基板又は前記第2の埋め込み層で形成される寄生バイポーラトランジスタとで構成されるESD保護素子を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
第1導電型の半導体基板上に堆積された第2導電型のエピタキシャル層と、
前記半導体基板と前記エピタキシャル層の間に離間領域を介して形成された2つの第2導電型の第1の埋め込み層と、
前記離間領域と反対側の前記第1の埋め込み層の周辺領域と接続され前記半導体基板内から前記エピタキシャル層内に延在する第1導電型の第2の埋め込み層と、
前記エピタキシャル層の表面から前記エピタキシャル層内に延在し前記第2の埋め込み層と一体となる第1導電型の第1の引き出し層と、
前記第2の埋め込み層と前記第1の引き出し層とに囲まれた前記エピタキシャル層の表面に形成された第2導電型の第1の拡散層と、
前記第1の拡散層と接続され該第1の拡散層を取り囲み、前記エピタキシャル層の表面から前記離間領域上に向かって延在して形成された第1導電型の第2の引き出し層と、
前記第1の拡散層及び前記第2の拡散層に接続されたカソード電極と前記第1の引き出し層と接続されたアノード電極と、を具備し、前記第1の埋め込み層と前記第2の埋め込み層で形成されるPN接合ダイオードと、前記第2の引き出し層と前記エピタキシャル層と前記半導体基板又は前記第2の埋め込み層で形成される寄生バイポーラトランジスタとで構成されるESD保護素子を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記寄生バイポーラトランジスタは、前記第2の引き出し層がエミッタ、前記エピタキシャル層がベース、前記半導体基板又は前記第2の埋め込み層がコレクタとなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記PN接合ダイオードは、前記第1の埋め込み層の不純物濃度が少なくとも前記第2の埋め込み層に隣接する領域で前記エピタキシャル層の不純物濃度より高く前記第2の埋め込み層の不純物濃度より低いことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記カソード電極が電源ラインに、前記アノード電極が接地ラインに接続されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1の埋め込み層の不純物濃度が前記PN接合ダイオードの耐圧を決定する前記第2の埋め込み層近傍以外の領域で該埋め込み層近傍より高濃度であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記ESD保護素子が並列に格子状に複数形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−73991(P2013−73991A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210197(P2011−210197)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(300057230)セミコンダクター・コンポーネンツ・インダストリーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (119)
【Fターム(参考)】