説明

半導体電力変換装置

【課題】冷却能力の低下を的確に判断し、運転時に冷却異常が生じても、素子が許容最高温度に達するまで運転を継続させる。
【解決手段】予め、風速をパラメータとして、冷却体(チップ直下)と第1温度センサA間の熱抵抗Rth(f−f1)を格納しておき、運転時に、風速に基づいて格納されたデータから、前記熱抵抗Rth(f−f1)を推定する。また、半導体電力変換装置1の出力電流検出値Ioutから素子損失Pを推定する。そして、接合部の許容最高温度Tjmax,素子損失P,熱抵抗Rth(f−f1)に基づき、第1温度センサAの測定点における温度許容値Tf1maxを推定する。第1温度センサAの温度検出値Tf1と、温度許容値Tf1maxとを比較し、温度検出値Tf1が温度許容値Tf1maxを超えた時は装置を停止する。また、ファンの風速が閾値よりも低い時は、警報を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体電力変換装置に係り、特に冷却異常が生じても半導体素子が許容最高温度に達するまで運転を継続する半導体電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、一般的な半導体電力変換装置の内部構造の一例を示す断面図,図8は一般的な半導体電力変換装置の構成を示す斜視図である。通常、半導体電力変換装置1aは、IGBTなどの半導体素子(以下、IGBTと称する)3を有し、当該IGBT3は、冷却体(例えば、冷却フィン:以下、冷却フィンと称する)2上に設置される。IGBT3の発生熱は冷却フィン2に伝達され、冷却ファン(図示省略)により排熱される。前記冷却フィン2には温度センサAが設けられ、冷却フィン2の温度を検出している。また、前記IGBT3は、絶縁基板4と、その絶縁基板4上に設置された半導体チップ(例えば、Siチップ)5と、その半導体チップ5の外周を覆うケース6と、ケース6内に充填されたシリコンゲルと、を備えている。
【0003】
IGBT3内部における半導体チップ5と絶縁基板4との接合部の温度は、接合温度Tjと呼ばれている。接合温度Tjには、熱的安全を確保するための許容最高温度Tjmaxが設定されており、Tj≦Tjmaxとなるように半導体電力変換装置1aの運転を行い、IGBT3の温度破壊を抑制している。
【0004】
前記接合温度Tjを求める熱計算は、周囲温度Ta,冷却フィン2の熱抵抗,IGBT3の熱抵抗,IGBT3の素子損失Pから求められることは周知の技術である。IGBT3と冷却フィン2を含めた熱計算を行う際の熱抵抗モデルを図6(a)に示す。ここで、IGBT3の熱抵抗は順方向と逆方向があるが、ここでは一方の方向のみの記述としている。
【0005】
図6(a)において、Tjは接合温度,Tcはケース温度,Tfはフィン(チップ直下)温度,Taは周囲温度を示す。そして、接合部とケース6との間には接合部‐ケース間熱抵抗Rth(j−c),ケース6と冷却フィン(チップ直下)2との間にはケース‐フィン(チップ直下)間熱抵抗Rth(c−f),冷却フィン(チップ直下)2と周囲との間にはフィン(チップ直下)‐周囲熱抵抗Rth(f−a)が存在する。この熱抵抗モデルを用い、接合部の許容最高温度Tjmaxから、温度センサAの検出点における温度異常値Tthmaxの熱計算を行っている。
【0006】
図9に、従来の一般的な温度異常制御部のブロック図を示す。温度異常判定部7は、周囲温度Taまたはフィン(チップ直下)温度Tfのどちらか一点を検出する。そして、図6(a)の熱抵抗モデルを用いて許容最高温度Tjmaxおよび周囲温度Taまたはフィン(チップ直下)温度Tfから求めた温度異常値Tthmax(一定値)と、温度センサAの温度検出値Tthと、を比較器8により比較し、温度検出値Tthが温度異常値Tthmaxを超えた場合、温度異常として半導体電力変換装置1aが故障停止となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−233832号公報
【特許文献2】特開2002−95155号公報
【特許文献3】特開2004−274903号公報
【特許文献4】WO2007−34544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、熱設計を行う際には、下記(1),(2)の傾向がある。
(1)IGBT3の製造者が許容温度(例えば、150℃)よりも低い温度(例えば、125℃)を許容最高温度として薦める
(2)最悪の周囲温度条件で設定する
すなわち、減定格かつ最悪の条件で熱設計を行っているため、通常は熱的に余裕があることが多い。
【0009】
また、冷却ファンの劣化等によって定格風速よりも減速して運転している状態や、装置の吸気口が目詰まりしている状態では、冷却フィン2の冷却能力が低下することとなる。しかしながら、冷却フィン2の熱抵抗は想定外の冷却能力低下を考慮せずに、所定の一定な風速値での値を用いているため、周囲温度Taを測定している場合は、ファンの冷却能力が低下して、冷却フィン2の温度(Tf)および接合温度Tjが大きく上昇しても、周囲温度Taが温度異常値Tthmaxよりも低ければ、装置としては異常であるのにもかかわらず、正常運転を継続してしまうことがある。この事象が継続すると冷却フィン2の冷却能力がさらに低下し、IGBT3が破損する恐れがある。
【0010】
一方、冷却フィン2の温度Tfを測定している場合は、冷却フィン2の温度Tfは冷却能力も含まれているため、前記周囲温度Ta測定時よりも冷却異常の判断の確度は高いが、上記と同様に熱的余裕があることが多い。また、フィン(チップ直下)温度Tfは検出が困難であるため、実際には、図8に示すように冷却フィン2上におけるIGBT3の直近に温度センサAを設けることが一般的である。この場合における熱抵抗モデルは、図6(a)とは異なるため、正確な熱計算を行うことはできなかった。
【0011】
以上示したようなことから、冷却能力の低下を的確に判断し、運転時に冷却異常が生じても、半導体素子が許容最高温度に達するまで運転を継続できる半導体電力変換装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記従来の問題に鑑み案出されたもので、その一態様は、絶縁基板と、その絶縁基板上に設置された半導体チップと、を有する半導体素子と、半導体素子で発生した熱が伝達され、その発生熱をファンにより排熱する冷却体と、冷却体上における半導体素子の直近に設けられた第1温度センサと、半導体チップと絶縁基板との接合部の接合温度が高温となることを抑制する温度異常制御部と、を有する半導体電力変換装置であって、前記温度異常制御部は、予め、前記ファンの風速をパラメータとして、冷却体のチップ直下部と第1温度センサ間の熱抵抗を測定して制御部に格納しておき、運転時に、風速に応じて前記制御部に格納されたデータから、前記冷却体のチップ直下部と第1温度センサ間の熱抵抗を推定し、半導体電力変換装置の出力電流検出値から素子損失を推定し、半導体チップと絶縁基板との接合部の許容最高温度,素子損失,前記冷却体のチップ直下部と第1温度センサ間の熱抵抗に基づいて、第1温度センサの測定点における温度許容値を推定し、前記第1温度センサの温度検出値と、前記温度許容値とを比較して、温度検出値が温度許容値を超えた時は装置を停止し、前記ファンの風速が閾値よりも低い時は、警報を出力することを特徴とする。
【0013】
また、前記風速は、冷却体の吸気部に設けられた風速センサにより検出しても良い。
【0014】
また、前記冷却体の第1温度センサとは異なる箇所に第2温度センサを設け、前記温度異常制御部は、予め前記ファンの風速をパラメータとして、第1温度センサと第2温度センサ間の熱抵抗を測定して制御部に格納しておき、運転時に、2つの温度センサの温度検出値と、素子損失から2つの温度センサ間の熱抵抗を算出し、この2つの温度センサ間の熱抵抗に基づいて、制御部に格納されたデータより風速を推定しても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷却能力の低下を的確に判断し、運転時に冷却異常が生じても、半導体素子が許容最高温度に達するまで運転を継続でき、信頼性の高い半導体電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1における半導体電力変換装置の一例を示す斜視図である。
【図2】実施形態1における温度異常制御部のブロック図である。
【図3】冷却フィンにおける熱抵抗と風速の関係を示すグラフである。
【図4】実施形態2における半導体電力変換装置の一例を示す斜視図である。
【図5】実施形態2における温度異常制御部のブロック図である。
【図6】半導体電力変換装置の熱抵抗モデルを示す図である。
【図7】一般的な半導体電力変換装置の内部構造を示す断面図である。
【図8】一般的な半導体電力変換装置の一例を示す斜視図である。
【図9】従来における温度異常制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態1]
図1は、本実施形態1における半導体電力変換装置の一例を示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態1における半導体電力変換装置1bは、冷却フィン2と、その冷却フィン2上に設けられた2つの半導体素子(例えば、IGBT等:以下、IGBTと称する)3,3と、そのIGBT3の冷却フィン2上の直近に設けられた第1温度センサAと、冷却フィン2の吸気部に設けられた風速センサ9と、IGBT3の出力電流を検出する電流検出器(図示省略)と、を備えている。
【0018】
本実施形態1では、半導体電力変換装置1bの運転時において、前記冷却フィン2の吸気部に設けられた風速センサ9により、常時冷却フィン2におけるファンの風速を検出するようにしている。また、前記電流検出器により、半導体電力変換装置1bの出力電流Ioutも検出する。
【0019】
前記IGBT3は、絶縁基板と、その絶縁基板上に設置された半導体チップと、を有する。また、IGBT3の発生熱は冷却フィン2に伝達され、冷却ファンにより排熱される。なお、本実施形態1では、前記2つのIGBT3,3の損失は同一のものと仮定して、以下説明する。
【0020】
本実施形態1は、図6(b)に示す熱抵抗モデルを用いて熱計算を行う。図6(b)において、Tjは接合温度,Tcはケース温度,Tfはフィン(チップ直下)温度,Tf1は第1温度センサA測定点温度,Taは周囲温度を示す。そして、図6(b)に示す熱抵抗モデルは、接合部‐ケース間熱抵抗Rth(j−c),ケース‐フィン(チップ直下)間熱抵抗Rth(c−f)は、図6(a)に示す熱抵抗モデルと同様であるが、冷却フィン(チップ直下)2と周囲間の熱抵抗モデルが異なる。図6(b)に示す熱抵抗モデルは、冷却フィン(チップ直下)2と第1温度センサA間にフィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1),第1温度センサAと周囲との間に温度センサA‐周囲間熱抵抗Rth(f1−a)が存在する。すなわち、形式的にRth(f−f1)+Rth(f1−a)=Rth(f−a)となる。
【0021】
ここで、図6(b)において、フィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1),温度センサA‐周囲間熱抵抗Rth(f1−a)は、図3に示すように、風速をパラメータとした値となる。一方、接合部‐ケース間熱抵抗Rth(j−c),ケース‐フィン(チップ直下)間熱抵抗Rth(c−f)は素子固有の値となる。前記フィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1)は、仕様値が存在しないため、風速をパラメータとした測定が必要となり、試運転により導出することとなる。
【0022】
図2は、本実施形態1における温度異常制御部のブロック図である。図2に示すように、温度異常制御部11aは、順方向および逆方向の素子損失を推定する損失推定部12と、冷却フィン(チップ直下)2と温度センサA間の熱抵抗Rth(f−f1)を推定する熱抵抗推定部13と、第1温度センサAの測定点において許容できる温度(以下、温度許容値Tf1maxと称する)を演算する温度許容値演算部14と、温度許容値Tf1maxと第1温度センサAの温度検出値Tf1とを比較する比較器15と、冷却フィン2のファンにおける異常を検出するファン異常検出部16と、を備えている。
【0023】
前記熱抵抗推定部13は、予め、図3に示すように、風速をパラメータとして、フィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1)を測定し、半導体電力変換装置1bにおける制御回路(図示省略)のメモリ回路内等にデータを格納しておく。そして、運転時には風速センサ9により検出された風速に基づいて、現在のフィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1)の値を常時推定演算する。
【0024】
前記損失推定部12は、まず、IGBT3の出力電流検出値Ioutと、そのIGBT3のゲート信号と、を付き合わせ、出力電流検出値Ioutを順方向電流,逆方向電流に区別する。次に、順方向損失および逆方向損失を演算推定する。順方向損失はターンオン損失,ターンオフ損失,定常損失等から成り、前記順方向電流および素子特性等により算出できる。一方、逆方向損失は、定常損失(必要であれば順回復損失と逆回復損失も含む)から成り、逆方向電流,素子特性等により算出できる。各損失の具体的な推定方法としては、特許文献4に示すような方法が挙げられる。
【0025】
次に、温度許容値演算部14による動作を説明する。フィン温度の上昇は、順方向損失と逆方向損失による。図6(b)に示す熱抵抗モデルを用いて、所定の接合温度Tjの許容最高温度Tjmaxから、素子固有の値である接合部‐ケース間熱抵抗Rth(j−c),ケース‐フィン(チップ直下)間熱抵抗Rth(c−f),前記熱抵抗推定部13で推定したフィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1)と、損失推定部12で算出した素子損失Pとを乗算して各部位の温度差を算出し、第1温度センサAの測定点における温度許容値Tf1maxを演算する。
【0026】
ただし、上記計算は許容値を基準としているため、順方向損失と逆方向損失との差異、および、素子内部における順方向の熱抵抗と逆方向の熱抵抗に差異がある場合は、共通部(ケース部)に温度差異が生じることがある。この時は、温度の低い方を採用して温度センサAの測定点における温度許容値Tf1maxを演算する。
【0027】
次に、比較器15は、実際に温度センサAで検出した温度検出値(IGBT直近のフィン温度)Tf1と温度許容値演算部14で演算した温度センサAの測定点における温度許容値Tf1maxとを比較し、実際の温度センサAの温度検出値Tf1が温度許容値Tf1maxを超えた場合、温度異常として、半導体電力変換装置1bを故障停止させる。この時、図6(b)の熱抵抗モデルに基づいて推定(順方向または逆方向により推定)された接合温度Tjが所定の許容最高温度Tjmaxとなっている。
【0028】
また、前記ファン異常検出部16は、風速センサ9により検出した冷却フィン2を通過する風速が、所定の閾値よりも低下した場合、冷却系異常の警報を発する。
【0029】
以上示したように、本実施形態1の半導体電力変換装置1bは、運転時に冷却異常が生じても、半導体素子の接合温度Tjが許容最高温度Tjmaxに達するまでは運転を継続することができる。また、冷却フィン2の風速が閾値よりも低下した時に冷却異常の警報を発することにより、状況を認識した信頼性の高い運用を行うことができる。また、半導体電力変換装置1bの保守も計画的に行うことが可能となる。
【0030】
[実施形態2]
図4は、本実施形態2における半導体電力変換装置の一例を示す斜視図である。図4に示すように、本実施形態2における半導体電力変換装置1cは、実施形態1における半導体電力変換装置1bの風速センサ9を省略し、第2温度センサBを追加したものである。第2温度センサBを追加することにより、冷却フィン2の異なる2箇所において温度を検出することが可能となる。本実施形態2の温度異常制御部11cは、図6(c)に示す熱抵抗モデルを用いて熱計算を行う。なお、実施形態1と同様に、冷却フィン2に固定されている2つのIGBT3,3の損失は同じものとして、以下説明する。
【0031】
図5は、本実施形態2における温度異常制御部のブロック図である。本実施形態2における温度異常制御部11cは、順方向および逆方向の損失を推定する損失推定部12と、風速,第1温度センサAの測定点における温度許容値Tf1max,フィン温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1),温度センサA‐温度センサB間熱抵抗Rth(f1−f2)を演算推定する演算部18と、温度センサAの温度検出値Tf1と温度許容値Tf1maxとを比較する比較回路15と、を備えている。
【0032】
前記損失推定部12の動作は実施形態1と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0033】
前記演算部18では、図3に示すように風速をパラメータとして、図6(c)におけるフィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1)と、温度センサA‐温度センサB間熱抵抗Rth(f1−f2)と、を予め測定し、半導体電力変換装置1cにおける制御回路(図示省略)のメモリ回路内等にデータを格納しておく。
【0034】
次に、演算部18における冷却系異常の判定について説明する。図4および図6(c)に示すように、本実施形態2では冷却フィン2の温度を2箇所で測定しており、素子損失P,第1温度センサAの温度検出値Tf1,第2温度センサBの温度検出値Tf2,温度センサA‐温度センサB間熱抵抗Rth(f1−f2)の関係は、下記(1)式で表すことができる。
【0035】
【数1】

【0036】
上記の(1)式から、第1温度センサAの検出温度Tf1,第2温度センサB検出温度Tf2,素子損失Pを用いて温度センサA‐温度センサB間熱抵抗Rth(f1−f2)を演算する。そして、予め素子損失Pと熱抵抗Rth(f1−f2)の関係を測定したデータ(メモリ回路内のデータ)から風速を推定する。この推定した風速が、所定の値以下の場合、冷却異常として警報を発する。
【0037】
第1温度センサAの温度検出値Tf1の温度許容値Tf1maxの演算方法は、実施形態1と同様であり、実施形態2では演算部18により演算される。演算部18では、前記推定された風速に基づいて、フィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1)を推定する。そして、接合部‐ケース間熱抵抗Rth(j−c),ケース‐フィン(チップ直下)間熱抵抗Rth(c−f),フィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗Rth(f−f1),素子損失P,許容最高温度Tjmaxに基づいて、温度許容値Tf1maxを算出する。この温度許容値Tf1maxと、実際に第1温度センサAで検出した温度検出値Tf1とを比較器15により比較し、温度検出値Tf1が温度許容値Tf1maxを超えた場合、装置は温度異常として停止する。この時、図6(c)に示す熱抵抗モデルに基づいて推定(順方向または逆方向により推定)された接合温度Tj(順方向または逆方向)が所定の値となっている。
【0038】
以上示したように、本実施形態のインバータ装置は、運転時に冷却異常が生じても、素子の温度が所定の温度に達するまでは、運転を継続することができる。また、同時に冷却異常の警報を発することにより、状況を認識した信頼性の高い運用ができる。また、保守も計画的に行うことが可能となる。
【0039】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0040】
1a,1b,1c…半導体電力変換装置
2…冷却フィン(冷却体)
3…IGBT(半導体素子)
4…絶縁基板
5…半導体チップ
7,11a,11b…温度異常制御部
8,15…比較器
9…風速センサ
12…損失推定部
13…熱抵抗推定部
14…温度許容値演算部
16…ファン異常検出部
18…演算部
A…第1温度センサ
B…第2温度センサ
Tj…接合温度
Tjmax…許容最高温度
Tf1…第1温度センサAの温度検出値
Tf1max…温度許容値
f…フィン(チップ直下)
Iout…出力電流検出値
Rth(f−f1)…フィン(チップ直下)‐温度センサA間熱抵抗
Rth(f1−f2)…温度センサA‐温度センサB間熱抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、その絶縁基板上に設置された半導体チップと、を有する半導体素子と、
半導体素子で発生した熱が伝達され、その発生熱をファンにより排熱する冷却体と、
冷却体上における半導体素子の直近に設けられた第1温度センサと、
半導体チップと絶縁基板との接合部の接合温度が高温となることを抑制する温度異常制御部と、を有する半導体電力変換装置であって、
前記温度異常制御部は、
予め、前記ファンの風速をパラメータとして、冷却体のチップ直下部と第1温度センサ間の熱抵抗を測定して制御部に格納しておき、
運転時に、風速に応じて前記制御部に格納されたデータから、前記冷却体のチップ直下部と第1温度センサ間の熱抵抗を推定し、
半導体電力変換装置の出力電流検出値から素子損失を推定し、
半導体チップと絶縁基板との接合部の許容最高温度,素子損失,前記冷却体のチップ直下部と第1温度センサ間の熱抵抗に基づいて、第1温度センサの測定点における温度許容値を推定し、
前記第1温度センサの温度検出値と、前記温度許容値とを比較して、温度検出値が温度許容値を超えた時は装置を停止し、
前記ファンの風速が閾値よりも低い時は、警報を出力することを特徴とする半導体電力変換装置。
【請求項2】
前記風速は、冷却体の吸気部に設けられた風速センサにより検出することを特徴とする請求項1記載の半導体電力変換装置。
【請求項3】
前記冷却体の第1温度センサとは異なる箇所に第2温度センサを設け、
前記温度異常制御部は、
予め、前記ファンの風速をパラメータとして、第1温度センサと第2温度センサ間の熱抵抗を測定して制御部に格納しておき、
運転時に、2つの温度センサの温度検出値と、素子損失から2つの温度センサ間の熱抵抗を算出し、この2つの温度センサ間の熱抵抗に基づいて、制御部に格納されたデータより風速を推定することを特徴とする請求項1記載の半導体電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−223062(P2012−223062A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89818(P2011−89818)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】