説明

可動光学部品をインパクト駆動する配光可変機構

【課題】 アクチュエータの出力部と可動光学部品の入力部との間の動力伝達部材を省き、全体を小型に構成するとともに、通電停止時に可動光学部品を摩擦力で停止保持し、省電力化を達成する。
【解決手段】 LEDアレイ光源3とレンズ4との間にシェード5を回動可能に備えた車両用前照灯1において、シェード5の腕部7に入力板8を固着する。アクチュエータ12は、入力板8に圧接する棒状または球状の出力部13と、出力部13を駆動する駆動部14とを備える。アクチュエータ12の通電時には、駆動部14がノコギリ波形の振動を出力部13に与え、出力部13が入力板8との間の予圧に抗してシェード5をインパクト駆動する。通電停止時には、出力部13が予圧に基づく摩擦力でシェード5を停止位置に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置の配光を変えるための可動光学部品と、可動光学部品を駆動するアクチュエータとを備えた配光可変機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用前照灯において、レンズ、シェード、反射鏡などの可動光学部品を駆動し、車両前方の配光を変化させる配光可変機構が知られている。例えば、図8に示す車両用前照灯1は光源3とレンズ4との間にシェード5を回動可能に備え、配光可変機構51がシェード5をステッピングモータ52によりギヤ列53を介して駆動するように構成されている。
【0003】
なお、特許文献1には、ロービームおよびハイビームの配光パターンを形成する複数のシェードをモータによりリンクを介して駆動する配光可変機構が記載されている。特許文献2には、シェード駆動用モータに加え、光軸を水平方向に旋回するスイブル用アクチュエータと、光軸を垂直方向に調整するレベリング用アクチュエータとを備えた配光可変機構が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−257909号公報
【特許文献2】特開2011−063070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の配光可変機構によると、アクチュエータの動力を可動光学部品に伝えるためにギヤやリンク等の動力伝達部材が必要になり、配光可変機構の全体が大型化する不都合があった。また、光源を点灯させているときには、可動光学部品の停止中でも、その位置を保持するためにアクチュエータを通電状態にしておく必要があり、電力消費量が嵩むという問題点もあった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、小型化および省電力化を達成できる配光可変機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、次のような配光可変機構を提供する。
(1)照明装置の配光を変えるための可動光学部品と、可動光学部品を駆動するアクチュエータとを備え、アクチュエータが可動光学部品の入力部に圧接する出力部と、通電時に出力部と入力部との間の予圧に抗して出力部を変位させる駆動部とを含み、駆動部への通電が停止したときに、出力部が予圧に基づく摩擦力で可動光学部品を停止位置に保持することを特徴とする配光可変機構。
【0008】
(2)アクチュエータの駆動部が、通電時にノコギリ波形の振動を出力部に与える振動素子を含むことを特徴とする(1)に記載の配光可変機構。
【0009】
(3)アクチュエータの駆動部が、出力部の変位方向へ直列に接合された少なくとも2つの振動素子を含むことを特徴とする(2)に記載の配光可変機構。
【0010】
(4)可動光学部品の入力部が、アクチュエータの出力部に弾性接触する部材を含むことを特徴とする(1),(2)または(3)に記載の配光可変機構。
【0011】
(5)弾性接触する部材が、アクチュエータの出力部を挟持する一対の板バネを含むことを特徴とする(4)に記載の配光可変機構。
【発明の効果】
【0012】
本発明の配光可変機構によれば、アクチュエータの出力部を可動光学部品の入力部に接触させたので、出力部と入力部との間の動力伝達部材を省き、全体を小型に構成できる。また、出力部が入力部に予圧をかけた状態で接触しているため、アクチュエータへの通電を停止したときに、出力部と入力部との摩擦力で可動光学部品を停止位置に保持でき、この間の電力を節約できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1を示す車両用前照灯の斜視図である。
【図2】図1の前照灯の配光可変機構を示す立面図である。
【図3】図2の配光可変機構におけるアクチュエータの出力を示す波形図である。
【図4】アクチュエータの変更例を示す斜視図である。
【図5】アクチュエータの別の変更例を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施例2を示す車両用前照灯の斜視図である。
【図7】図6の前照灯の配光可変機構を示す立面図である。
【図8】従来の配光可変機構を示す車両用前照灯の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を照明装置としての車両用前照灯に具体化した実施例を図面に基づいて説明する。図1〜図5に示す実施例1の配光可変機構11は、前照灯1のシェード5をアクチュエータ11の棒状出力部13によって駆動している。図6、図7に示す実施例2の配光可変機構21は、シェード5をアクチュエータ22の球状出力部23によって駆動している。各図において、同一の符号は同一または類似する構成要素を示す。
【実施例1】
【0015】
図1に示す車両用前照灯1は、灯具ハウジング(図示略)の内側にベース2を備え、ベース2の前面に複数のLEDを左右に配列したアレイ光源3が装着されている。アレイ光源3とレンズ4との間にはシェード5が配置され、水平軸6により上下に回動可能に支持されている。そして、シェード5の一端側にアクチュエータ12が設置され、アクチュエータ12とシェード5により車両用前照灯1の配光可変機構11が構成されている。
【0016】
シェード5は、車両前方の配光パターンを変える可動光学部品であり、アレイ光源3に沿って左右に長く形成されている。シェード5の両端には、水平軸6が貫通する腕部7が形成され、一方の腕部7の外面に入力板8が固着されている。アクチュエータ12は、入力板8に圧接する棒状出力部13と、棒状出力部13をその軸線方向へ変位させる駆動部14とを備え、駆動部14が取付板15(図2参照)によって灯具ハウジングに取り付けられている。
【0017】
図2に示すように、シェード5の腕部7は板バネ材料で形成され、シェード5にアクチュエータ12を組み付けた状態で、腕部7が弾性変形して入力板8と棒状出力部13との間に所定量の予圧Pを発生させる。アクチュエータ12の棒状出力部13はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等の軽量な耐摩耗性材料で形成され、棒状出力部13の基端が駆動部14の端面に結合されている。
【0018】
アクチュエータ12の駆動部14は、圧電素子や磁歪素子からなる大小2つの振動素子14A,14Bを棒状出力部13の軸線方向へ直列に接合させて構成されている。そして、アクチュエータ12の通電時に、駆動部14が棒状出力部13を入力板7との間の予圧Pに抗して変位させ、アクチュエータ12への通電が停止したときに、棒状出力部13が予圧Pに基づく摩擦力でシェード5を停止位置に保持するようになっている。
【0019】
図2に示すアクチュエータ12では、通電時に大型振動素子14Aが小型振動素子14Bよりも大きな変位量で振動し、駆動部14がノコギリ波形の振動を棒状出力部13に付与する。例えば、図3(a)に示すように、振動素子A,B共にsin波の駆動信号を入力し、入力波形の周期と振幅をそれぞれ素子Aが素子Bの2倍となるように設定した場合、素子A,Bの合成変位量は図に太線で示すようなノコギリ波形を形成する。
【0020】
従って、駆動部14はノコギリ波形の振動を棒状出力部13に与え、棒状出力部13と入力板8との摩擦力並びにシェード5の慣性を利用し、可動光学部品であるシェード5をインパクト駆動することができる。また、図3(b)に示すように、振動素子Bの入力波形の位相をずらすことにより、駆動部14が発生するノコギリ波形を逆転させ、シェード5を逆方向に回動することもできる。
【0021】
図4に示すアクチュエータ12では、駆動部14の全体が一つの振動素子で構成されている。駆動部14の下部14aおよび上部14bには、表面と裏面に電極16A,16B(裏面側は図示略)が設けられている。そして、各電極16A,16Bに位相を例えば90°ずらした駆動信号が入力され、駆動部14の下部14aと上部14bがそれぞれ異なる波形で変位し、全体としてノコギリ波形の振動を棒状出力部13に付与して、シェード5をインパクト駆動できるようになっている。
【0022】
図5に示すアクチュエータ12では、棒状出力部13および駆動部14の取付手段として錘17が用いられている。錘17は、駆動部14の振動素子14A,14Bと比較して質量が十分に大きく、棒状出力部13の振動を安定させる作用を発揮する。なお、錘17として磁石を使用することも可能である。
【実施例2】
【0023】
次に、本発明の実施例2を図6、図7に基づいて説明する。実施例2の配光可変機構21は、実施例1と同様、車両用前照灯1のシェード5と、シェード5を水平軸6の周りで駆動するアクチュエータ22とから構成されている。水平軸6には、挟持板26がシェード5の腕部7に外側から対向するように支持され、腕部7と挟持板26との間にアクチュエータ22の球状出力部23が挟持されている。
【0024】
腕部7および挟持板26は、共に板バネ材料で形成され、シェード5の入力部として機能する。アクチュエータ12の組付状態では、腕部7と挟持板26がそれぞれ弾性変形し、球状出力部23との間に所定量の予圧Pを発生させる。アクチュエータ22は、球状出力部23を予圧Pの作用方向と直角の方向へ変位させる駆動部24を備え、駆動部24が取付板25または錘によって灯具ハウジングに取り付けられている。
【0025】
そして、実施例1と同様、アクチュエータ22の通電時に、駆動部24がノコギリ波形の振動を球状出力部23に付与し、球状出力部23が腕部7および挟持板26による予圧Pに抗して変位し、シェード5をインパクト駆動する。また、アクチュエータ22への通電が停止したときには、球状出力部23が予圧Pに基づく摩擦力でシェード5を停止位置に保持する。従って、前照灯1の配光可変機構21を小型かつ省電力に構成することができる。
【0026】
なお、上記実施例では、車両用前照灯1のシェード5を例示したが、シェード以外の可動光学部品、例えば、LED光源基板、リフレクタ、レンズ等に本発明を適用することができ、また、前照灯以外の照明装置、例えば、尾灯、標識灯、警告灯等に本発明を適用することもできる。その他、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の形状や構成を適宜に変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 車両用前照灯
5 可動光学部品としてのシェード
7 シェードの腕部
8 シェードの入力板
11 配光可変機構(実施例1)
12 アクチュエータ
13 棒状出力部
14 駆動部
21 配光可変機構(実施例2)
22 アクチュエータ
23 球状出力部
24 駆動部
26 挟持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明装置の配光を変えるための可動光学部品と、可動光学部品を駆動するアクチュエータとを備え、アクチュエータが可動光学部品の入力部に圧接する出力部と、通電時に出力部と入力部との間の予圧に抗して出力部を変位させる駆動部とを含み、駆動部への通電が停止したときに、出力部が前記予圧に基づく摩擦力で可動光学部品を停止位置に保持することを特徴とする配光可変機構。
【請求項2】
前記アクチュエータの駆動部が、通電時にノコギリ波形の振動を出力部に与える振動素子を含む請求項1記載の配光可変機構。
【請求項3】
前記アクチュエータの駆動部が、出力部の変位方向へ直列に接合された少なくとも2つの振動素子を含む請求項2記載の配光可変機構。
【請求項4】
前記可動光学部品の入力部が、アクチュエータの出力部に弾性接触する部材を含む請求項1,2または3記載の配光可変機構。
【請求項5】
前記部材が、アクチュエータの出力部を挟持する一対の板バネを含む請求項4記載の配光可変機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−65504(P2013−65504A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204371(P2011−204371)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】