説明

可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ

【課題】可視光・赤外光撮影用レンズアダプタにおいて、1つの撮影レンズを通して被写体の可視光像および赤外光像を互に異なる位置に結像させるときの結像品質の低下を抑制する。
【解決手段】撮影レンズ10を通った被写体1からの光を可視光と赤外光とに分離する色分離光学系Pと、この光を撮影レンズ10のみを通して結像させてなる第1の光学像をリレーするための、色分離光学系Pに至るまでの光路中に配された入射側リレーレンズRL1と、第1の光学像を、入射側リレーレンズRL1を介してリレーして可視光像Mkを結像させる、可視光の光路中に配された可視光用リレーレンズRL2と、第1の光学像を、入射側リレーレンズRL1を介してリレーして赤外光像Msを結像させる、赤外光の光路中に配された赤外光用リレーレンズRL3とを備え、被写体1を表す可視光像Mkおよび赤外光像Msを互に異なる位置に結像させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一の撮影レンズを通った光を可視光と赤外光とに分離して、被写体を表す可視光像と赤外光像とを互に異なる位置に結像させる可視光・赤外光撮影用レンズアダプタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、撮影レンズを通して被写体を撮影する監視カメラが知られている。このような監視カメラに使用される撮影素子は赤外光に対しても感度を有してはいるが、昼間の可視光による監視と夜間の赤外光による監視とを1つの撮像素子が兼ねることは難しい。
【0003】
夜間における監視能力を向上させる方式として、例えば、撮影レンズを通った光を可視光と赤外光とに分離して、可視光と赤外光とを個別の専用の撮影素子、すなわち可視光撮影用の撮影素子と赤外光撮影用の撮影素子とを用いて撮影する方式が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、既存の撮影装置に装着して撮影レンズを通った光を可視光と赤外光とに分離して撮影するレンズアダプタも知られている(特許文献2参照)。このレンズアダプタは、撮像素子が配された撮像部と撮影レンズとの間に装着されて使用されるものであり、撮影レンズを通った光を可視光と赤外光とに分離して、被写体を表す赤外光像とこの同じ被写体を表す可視光像とを異なる位置に結像させるものである。なお、レンズアダプタを通して結像される可視光像および赤外光像は、それぞれ専用の撮影素子上に結像されて個別に撮影される。
【0005】
なお、このレンズアダプタは、光路長延長光学系と色分離光学系とを備えたものである。すなわち、既存の撮影装置は、撮影レンズとこの撮影レンズを通して結像される光学像との間隔(撮影レンズのバックフォーカス)が小さいので、撮影レンズを通ってから光学像が結像されるまでの光路中に色分離光学系を挿入することはできない。そのため、このレンズアダプタでは、レンズアダプタの前段に、撮影レンズのバックフォーカスを長くして撮影レンズを通ってから光学像が結像されるまでの光路長を長くする光路長延長光学系を配置するとともに、レンズアダプタの後段に色分離光学系を配置して、可視光像および赤外光像を互に異なる位置に結像させるようにしている。
【0006】
なお、光路長延長光学系には、光束を発散させるパワーが大きい凹レンズが配置されており、この凹レンズによる光束を発散させるパワーを利用して、撮影レンズのバックフォーカスを長くしている。
【特許文献1】特開2003−69865号公報
【特許文献2】特開2005−309072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、撮影レンズと、光路長延長光学系を備えたレンズアダプタとを通して光学像を結像させると、光路長延長光学系を構成するパワーの大きい凹レンズの影響により、結像される光学像の品質が低下するという問題がある。すなわち、撮影レンズを通った光が、パワーの大きい凹レンズにより強く曲げられた光路を通るため、結像される光学像に大きな収差が生じてしまう。
【0008】
そのため、このような色分離光学系を備えたレンズアダプタを使用するときに生じる結像性能の低下を抑制したいという要請がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、同一の撮影レンズおよび色分離光学系を通して互に異なる位置に可視光像および赤外光像を結像させるときの結像品質の低下を抑制することができる可視光・赤外光撮影用レンズアダプタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタは、1つの撮影レンズを通して入射させられた被写体からの光を可視光と赤外光とに分離する色分離光学系を備え、色分離光学系を通して分離された可視光および赤外光それぞれからなる被写体を表す可視光像および赤外光像を互に異なる位置に結像させるための可視光・赤外光撮影用レンズアダプタであって、被写体から発せられた光を撮影レンズのみを通して結像させてなる被写体を表す第1の光学像をリレーするための入射側リレーレンズと、第1の光学像を、入射側リレーレンズを介してリレーして前記可視光像を結像させるための可視光用リレーレンズと、第1の光学像を、入射側リレーレンズを介してリレーして前記赤外光像を結像させるための赤外光用リレーレンズとを備え、入射側リレーレンズが、撮影レンズを通ってから色分離光学系に入射するまでの光の光路中に配され、可視光用リレーレンズが、色分離光学系で分離された可視光の光路中に配され、赤外光用リレーレンズが、色分離光学系で分離された赤外光の光路中に配されていることを特徴とするものである。
【0011】
前記可視光・赤外光撮影用レンズアダプタは、撮像レンズ、可視光像を撮像するための可視光撮像装置、および赤外光像を撮影するための赤外光撮像装置それぞれに対して着脱可能となるように構成されているものとすることが望ましい。
【0012】
前記第1の光学像をリレーして可視光像を結像させるときの結像倍率の絶対値、および前記第1の光学像をリレーして赤外光像を結像させるときの結像倍率の絶対値は、両方共に1倍とすることが望ましい。
【0013】
なお、結像倍率の絶対値が1倍とは、正立等倍像または倒立等倍像が結像される場合を意味する。
【0014】
前記入射側リレーレンズ、可視光用リレーレンズ、および赤外光用リレーレンズは、同一のレンズ構成からなるものとすることが望ましい。
【0015】
前記同一のレンズ構成とは、同じ設計値からなるレンズ構成を意味するものである。より具体的には、レンズ枚数、各レンズの屈折率および分散、各レンズ面の曲率半径等が一致する同じ設計値を持つレンズ構成を意味するものである。
【0016】
前記色分離光学系における最も撮影レンズの側に位置する光学面、最も可視光像の形成される側に位置する光学面、および最も赤外光像の形成される側に位置する光学面は、いずれも曲面を成すものとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタによれば、撮影レンズのみを通して被写体からの光を結像させてなる第1の光学像をリレーして可視光像を形成するとともに、この第1の光学像をリレーして赤外光像を形成するようにしたので、可視光像および赤外光像の結像品質の低下を抑制することができる。
【0018】
すなわち、従来のように、撮像レンズのバックフォーカスを長くする光学系を配して色分離光学系を配置するスペースを確保する方式では、光路長延長光学系を構成するためのパワーが大きい凹レンズの作用により強く曲げられた光路を通して可視光像や赤外光像を結像せるので結像品質が大きく低下する。これに対して、本発明の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタは、リレー光学系を配置して色分離光学系を配置するスペースを確保するので、強く曲げられた光路を通すことなく可視光像や赤外光像を結像せることができる。これにより、可視光像および赤外光像の結像品質の低下を抑制することができる。
【0019】
また、第1の光学像をリレーして可視光像を結像させるときの結像倍率の絶対値、および第1の光学像をリレーして赤外光像を結像させるときの結像倍率の絶対値を両方共に1倍とすれば、可視光像および赤外光像の結像品質の低下をさらに抑制することができる。
【0020】
すなわち、例えば、入射側リレーレンズを通して射出させた光をミラーで反射させてこの入射側リレーレンズ中を逆行させると、入射側リレーレンズを順行させたときに生じた収差をこの入射側リレーレンズの逆行によりキャンセルすることができる。これと同様に、第1の光学像をリレーして可視光像を結像させるときの結像倍率の絶対値を1倍にすると、入射側リレーレンズを通して発生した収差を可視光用リレーレンズを通してキャンセルすることができる。このように設計した各リレーレンズの適用により、可視光像の結像品質の低下をより確実に抑制することができる。
【0021】
上記と同様に、第1の光学像をリレーして赤外光像を結像させるときの結像倍率の絶対値を1倍にすれば、入射側リレーレンズを通して発生した収差を赤外光用リレーレンズを通してキャンセルすることができるので、このように設計した各リレーレンズの適用により、赤外光像の結像品質の低下をより確実に抑制することができる。
【0022】
また、上記構成に加えて入射側リレーレンズ、可視光用リレーレンズ、および赤外光用リレーレンズを、互いにレンズ構成が一致したものとすれば、結像させる可視光像および赤外光像の結像品質の低下をさらに確実に抑制することができる。
【0023】
すなわち、入射側リレーレンズ、可視光用リレーレンズ、および赤外光用リレーレンズの構成を一致させて、それぞれを等倍の結像光学系とすれば、入射側リレーレンズを通して発生した収差を可視光用リレーレンズや赤外光用リレーレンズを通してキャンセルする設計をより確実に行うことができる。このように設計した各リレーレンズの適用により、可視光像および赤外光像の結像品質の低下をさらに確実に抑制することができる。
【0024】
また、色分離光学系における、最も撮影レンズの側に位置する入射側の光学面、最も可視光像の形成される側に位置する可視光側の光学面、および最も赤外光像の形成される側に位置する赤外光側の光学面を、いずれも曲面を成すものとすれば、入射側の光学面、可視光側の光学面、赤外光側の光学面で反射して形成された可視光像のゴースト像や赤外光像のゴースト像の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る可視光・赤外光撮影用レンズアダプタを適用した撮影システムの全体構成を示す図である。この撮影システムは、監視等の用途で使用されるものであり、同一被写体を表す可視光像と赤外光像とを同じ撮影レンズを通して撮影可能とするものである。図2はダイクロイックプリズムの波長分離特性を示す図、図3はカラー撮影用の撮像素子を拡大して示した図である。
【0027】
図示の撮影システム200は、撮影レンズ10と、撮影レンズ10を制御する制御系20と、主に可視光に感度を有する撮像素子DAを搭載した可視光撮影部14と、主に赤外光に感度を有する撮像素子DBを搭載した赤外光撮影部16と、本発明に係る可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ100(以下、単にアダプタ100という)とから構成されている。
【0028】
なお、撮像素子DA、撮像素子DBには、CCD素子、CMOS素子、あるいは撮像管等を適用することができる。
【0029】
撮影レンズ10、可視光撮影部14、および赤外光撮影部16には、本撮影システム200を構成するために製造したものでなくてもよく、例えば、監視用、テレビ放送用、民生用等に市販されている既存の撮影レンズや撮像部を採用することができる。
【0030】
すなわち、撮影レンズと可視光撮影部とを備えた一般に市販されている監視用カメラや、撮影レンズと赤外光撮影部とを備えた一般に市販されている監視カメラ等を、本撮影システム200に適用することができる。
【0031】
アダプタ100は、詳細は後述するが、1つの撮影レンズ10を通って入射した光を可視光と赤外光に分離するための色分離光学系であるダイクロイックプリズムPを備えており、撮影レンズ10およびダイクロイックプリズムPを通って分離された可視光および赤外光により形成される同一の被写体を表す可視光像および赤外光像それぞれを互に異なる位置に同時に結像させる。すなわち、アダプタ100は、同一の撮影レンズ10を通して可視光の撮影と赤外光の撮影とを行えるようにするものである。
【0032】
ここで、例えば、撮影レンズ10のみを通して結像される被写体1を表す可視光像の結像位置と赤外光像の結像位置との位置ずれが少ない場合には、撮影システム200の設定を変更することなく可視光像と赤外光像との撮影を同時に行い、上記位置ずれが大きい場合には、可視光像の撮影と赤外光像の撮影とで撮影システム200の設定を変更してそれぞれの撮影を個別に行うようにすることができる。
【0033】
このアダプタ100は、撮影レンズ10と可視光撮影部14との間、および撮影レンズ10と赤外光撮像部16との間に着脱可能に構成されている。アダプタ100の入射側には、可視光撮影部14や赤外光撮影部16を撮影レンズ10に装着するために設けられているものと同一のマウント101Aが設けられている。また、アダプタ100における可視光の射出側および赤外光の射出側には撮影レンズ10の射出側に設けられているものと同一のマウント101Bおよび101Cが設けられている。
【0034】
従って、撮影レンズ10の射出側のマウント10Aにアダプタ100の入射側のマウント101Aを接続し、アダプタ100における可視光の射出側のマウント101Bに可視光撮影部14の入射側のマウント14Aを接続することによって撮影レンズ10がアダプタ100を介して可視光撮影部14に装着される。
【0035】
また、撮影レンズ10の射出側のマウント10Aにアダプタ100の入射側のマウント101Aを接続し、アダプタ100における赤外光の射出側のマウント101Cと赤外光撮影部16の入射側のマウント16Aとを接続することによって撮影レンズ10がアダプタ100を介して赤外光撮影部16に装着される。
【0036】
このように各部の接続により撮影レンズ10、アダプタ100、可視光撮影部14、赤外光撮影部16の互いの位置関係が固定されて一体化される。
【0037】
上記のように、アダプタ100は、撮像レンズ10、可視光像を撮像するための可視光撮像部14、および赤外光像を撮影するための赤外光撮像部16それぞれに対して着脱可能となるように構成されている。
【0038】
撮影レンズ10は、光軸Cに沿って対物側から順にフォーカスレンズ(群)FCL、ズームレンズ(群)ZL、絞り(絞り機構)IS、撮影レンズ用のリレーレンズ(群)RLX等を内蔵している。
【0039】
この撮影レンズ10には、例えば既存の、監視用に製作された撮影レンズ等を適用することができる。
【0040】
なお、撮影レンズ用のリレーレンズRLXは、被写体1の光学像を結像するレンズ群であり、その一部に配置されたトラッキング調整(フランジバック調整)用のトラッキングレンズ(群)TLが光軸C方向に移動可能となっており、このトラッキングレンズTLの移動によりフランジバックの位置が変更される。したがって、トラッキングレンズTLの位置は、例えば撮影開始前などに調節されるものであり、撮影中に頻繁に調節されるものではない。
【0041】
制御系20は、フォーカスレンズFCL、ズームレンズZL、トラッキングレンズTL、絞りISそれぞれを駆動するためのモータFM、ZM、TM、IMおよび各モータFM、ZM、TM、IMを制御してフォーカスレンズFCL、ズームレンズZL、トラッキングレンズTLそれぞれの位置や、絞りISの開口を定めるための制御回路22を有している。
【0042】
なお、制御回路22には、撮影システム200の操作部(図示は省略)から入力された命令等に応じてフォーカスレンズFCL、ズームレンズZL、トラッキングレンズTLそれぞれの位置や、絞りISの開口に関する指令信号が与えられると共に、各位置センサFP、ZP、TP、IPからフォーカスレンズFCL、ズームレンズZL、トラッキングレンズTLそれぞれの現在位置や、絞りISの開口度合いを示す検出信号が与えられ、制御回路22はこれらの信号に基づいて各モータFM、ZM、IM、IPを駆動して、フォーカスレンズFCL、ズームレンズZL、トラッキングレンズTLの位置や、絞りISの開口を制御する。
【0043】
フォーカスレンズFCLは、モータFMによって光軸C方向に前後動するようになっており、フォーカスレンズFCLの位置が変わるとピントが合う被写体までの距離(撮影距離)が変更される。
【0044】
ズームレンズZLも、モータZMによって光軸C方向に前後動するようになっており、ズームレンズZLの位置が変わると撮影レンズ10の焦点距離が変更される。
【0045】
また、トラッキングレンズTLは、モータTMによって光軸C方向に前後動するようになっており、トラッキングレンズTLの位置が変わるとフランジバックの位置が変更される。
【0046】
絞りISは、モータIMによって開閉動作するようになっており、絞りISの開口度合いが変わると像の明るさが変更される。
【0047】
なお、撮影レンズ10の制御は任意の手段によるものでよく、例えば、フォーカスレンズFCL、ズームレンズZL、トラッキングレンズTL、絞りISを電動ではなく手動で操作するようにしてもよい。
【0048】
撮影レンズ10に入射した光は、上述のフォーカスレンズFCL、ズームレンズZL、絞りIS、撮影レンズ用のリレーレンズRLXをこの順に通過してアダプタ100に入射する。
【0049】
アダプタ100には、撮影レンズ10のみを通して被写体1から発せられた光を結像させてなるこの被写体1を表す第1の光学像M1をリレーするための入射側リレーレンズRL1と、上述の色分離光学系であるダイクロイックプリズムPと、上記第1の光学像M1を、入射側リレーレンズRL1を通しリレーして可視光像Mkを形成するための可視光用リレーレンズRL2と、上記第1の光学像M1を、入射側リレーレンズRL1を通しリレーして赤外光像Msを形成するための赤外光用リレーレンズRL3とを備えている。
【0050】
なお、入射側リレーレンズRL1は、撮影レンズ10通ってダイクロイックプリズムPに入射する光の光路中に配置されている。
【0051】
可視光用リレーレンズRL2は、ダイクロイックプリズムPで分離された可視光の光路中に配置されている。
【0052】
赤外光用リレーレンズRL3は、ダイクロイックプリズムPで分離された赤外光の光路中に配置されている。
【0053】
ここで、可視光像Mkは、撮影レンズ10を通して結像された第1の光学像M1を、入射側リレーレンズRL1、ダイクロイックプリズムP、可視光用リレーレンズRL2を通してリレーし結像させたものである。
【0054】
また、赤外光像Msは、撮影レンズ10を通して結像された第1の光学像M1を、入射側リレーレンズRL1、ダイクロイックプリズムP、赤外光用リレーレンズRL3を通してリレーし結像させたものである。
【0055】
ここでは、ダイクロイックプリズムPは光束を収束させたり発散させたりするパワーを持たないので、アダプタ100は、例えば、入射側リレーレンズRL1を前群、可視光用リレーレンズRL2を後群とするリレー光学系と、入射側リレーレンズRL1を前群、赤外光用リレーレンズRL3を後群とするリレー光学系とを有するものとみなすことができる。
【0056】
なお、アダプタ100は、例えば、撮影レンズ10のみを通して結像させてなる被写体を表す第1の光学像M1をリレーして、この被写体1を表す第2の光学像を結像させるための入射側リレーレンズRL1(リレー光学系)と、上記第2の光学像をリレーして可視光像Mkを結像させるための可視光用リレーレンズRL2(リレー光学系)と、上記第2の光学像をリレーして赤外光像Msを結像させるための赤外光用リレーレンズRL3(リレー光学系)とを有するものとすることもできる。
【0057】
ダイクロイックプリズムPは、撮影レンズ10を通過してアダプタ100に入射した光を、ダイクロイック面PMで可視光と赤外光とに分光する。可視光はダイクロイック面PMを透過して光軸C方向にそのまま進行する。一方、赤外光はダイクロイックPMで反射して光軸Cに対してほぼ直交する光軸C′方向に進行する。
【0058】
図2にダイクロイックプリズムPの波長特性を示す。同図に示すように700nmを境にそれより短い波長を持つ光は約90パーセントの透過率でダイクロイックプリズムPを透過し、700nmより長い波長を持つ光は約90パーセントの反射率でダイクロイックプリズムPで反射させられる。
【0059】
なお、上記ダイクロイックプリズムPの代わりにダイクロイックミラー等を用いてもよい。
【0060】
上記のようにダイクロイックプリズムPによって分離され光軸C方向に進行した可視光は、アダプタ100から射出され可視光撮影部14に入射する。可視光撮影部14には、可視光撮影用の撮像素子DAが配置されており、可視光撮影部14に入射した可視光は撮像素子DAの撮像面上に結像される。すなわち、撮像素子DAの撮像面上に可視光像Mkが結像される。
【0061】
可視光撮影部14には信号処理回路が搭載されており、撮像素子DAにより光電変換され出力された信号はこの信号処理回路によって映像信号に変換され外部に出力される。このようにして、撮影システム200は、被写体1の可視光像Mkを表す映像信号を得る。
【0062】
なお、可視光撮影部14は、カラー映像を撮影するものであってもよいし、白黒映像を撮影するものであってもよい。また、可視光撮影部14がカラー映像用の場合には、カラー映像用の1つの撮像素子のみを搭載した単板式のものであってもよいし、例えばR、G、Bの各色ごとの撮像素子を搭載した3板式のもの(又はそれ以上の撮像素子を有するもの)であってもよい。
【0063】
一方、上記のようにダイクロイックプリズムPによって分離され光軸C′方向に進行した赤外光は、アダプタ100から射出され赤外光撮影部16に入射する。赤外光撮影部16には、赤外光撮影用の撮像素子DBが配置されており、赤外光撮影部16に入射した赤外光はこの撮像素子DBの撮像面上に結像される。すなわち、撮像素子DBの撮像面上に赤外光像Msが結像される。
【0064】
可視光撮影部14と同様に、赤外光撮影部16にも信号処理回路が搭載されており、撮像素子DBにより光電変換され出力された信号はその信号処理回路によって映像信号に変換され外部に出力される。このようにして、撮影システム200は、被写体1の赤外光像Msを表す映像信号を得る。
【0065】
このように、可視光撮影部14と赤外光撮影部16とにより可視光を記録した映像と赤外光を記録した映像とを同時に取得することができる。さらに、これらの映像は共通の撮影レンズ10を通して撮影したものなので、撮影距離や画角が一致している。
【0066】
上記のように、撮影レンズ10、入射側リレーレンズRL1、ダイクロイックプリズムP、可視光用リレーレンズRL2を通して撮像素子DAに結像された被写体1を表す可視光像Mkが、可視光撮影部14によって撮像される。
【0067】
また、撮影レンズ10、入射側リレーレンズRL1、ダイクロイックプリズムP、赤外光用リレーレンズRL3を通して撮像素子DBに結像された被写体1を表す赤外光像Msが、赤外光撮影部16によって撮像される。
【0068】
ここでは、撮影レンズ10のみを通して結像された被写体1を表す第1の光学像をリレーして可視光像Mkを結像させるときの結像倍率の絶対値は1倍である。また、上記第1の光学像をリレーして赤外光像Msを結像させるときの結像倍率の絶対値も1倍である。しかしながら必ずしも結像倍率の絶対値を1倍としなくても、本発明の効果を奏することができる。
【0069】
また、アダプタ100が備える入射側リレーレンズRL1、可視光用リレーレンズRL2、および赤外光用リレーレンズRL3は、互いにレンズ構成が一致するものを採用してもよい。
【0070】
すなわち、入射側リレーレンズRL1、可視光用リレーレンズRL2、および赤外光用リレーレンズRL3を、同一構成からなるものとすれば、各リレーレンズを同一の光学設計図面に基づいて製造することができるので、アダプタ100の製造コストを低減することができる。
【0071】
また、入射側リレーレンズRL1で発生した収差を可視光用リレーレンズRL2でキャンセルするとともに、入射側リレーレンズRL1で発生した収差を赤外光用リレーレンズRL3でキャンセルするように設計することが望ましい。
【0072】
なお、本撮影システムでは、撮影レンズ10の光軸C上のアダプタ100の後部に可視光撮影部14を装着し、光軸Cと直交する光軸C′上のアダプタ100の側部に赤外光撮影部16を装着するようにしたが、アダプタ100に対する可視光撮影部14と赤外光撮影部16の装着位置を入れ替えてもよい。
【0073】
なお、可視光と赤外光とでは波長が違うため撮影システム200を通る光路が多少異なる。そのため、さらに品質の高い画像を得ようとするときには、トラッキングレンズTLの微調整により、撮像レンズ10を通して結像される第1の光学像M1の位置を光軸Cの方向へ移動させて、可視光像Mkの結像位置を撮像素子DAの撮像面上へ正確に位置させたり、あるいは赤外光像Msの結像位置を撮像素子DBの撮像面上へ正確に位置させることもできる。
【0074】
例えば、制御系20の制御により、昼間は可視光像Mkを撮像素子DAの撮像面上へ正確に結像させ。夜間は赤外光像Msを撮像素子DBの撮像面上へ正確に結像させるように調節することもできる。
【0075】
図3に示すように、例えば、RGB(赤色、緑色、青色)の3種類の画素(赤色画素R、緑色画素G、青色画素B)を有するカラー撮影用の撮像素子においては、1つの赤色画素R,2つの緑色画素G,1つの青色画素Bからなる4画素を1単位(図中符号Taで示す)として撮像を行う。そのため、赤外光にも感度を有する赤色画素Rの画素数は撮像素子全体の画素数の1/4になる。一方、この撮影システム200のように赤外光撮影用に専用の撮像素子を設けた場合には、全画素数を赤外光の撮影に使用することができ、カラー撮影用の撮像素子に比して撮影画素数を実質的に4倍にすることができ、赤外光の撮影において優れた解像力で被写体1を表す赤外光によって形成された画像を得ることができる。
【0076】
なお、ダイクロイック面PMを透過して結像された可視光像Mkを撮像素子DAで撮像して得られる可視光画像は、ダイクロイック面PMで反射されて結像された赤外光像Msを撮像素子DBで撮像して得られる赤外光画像を反転させたものに対応する。このような場合には、撮像素子DBで撮像して得られた赤外光画像を表す画像信号を反転させて、すなわち鏡像を正像にするように赤外光画像を表す画像信号を反転させて、この赤外光画像の表示を撮像素子DAで撮像して得られる可視光画像の表示に合致させることができる。
【0077】
図4は、本発明の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタの第1の変形例を示す図である。
【0078】
図示の撮影システム210の備えている第1の変形例の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ110(以下、単にアダプタ110という)は、上述の撮影システム200のアダプタ100に対してフィールドレンズFLLを加えたものである。この撮影システム210の構成は、上記フィールドレンズFLLを加えたこと以外は上述の実施の形態の撮影システム200と同様であり、対応する図面の説明における同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明については省略する。
【0079】
このフィールドレンズFLLを加えたアダプタ110は、フィールドレンズFLLを配置したことにより、第1の光学像M1を結像させるための撮影レンズ10の射出瞳の位置と、このアダプタ110の入射瞳の位置とを合致させることができる。
【0080】
この第1の変形例におけるその他の構成および作用は、説明済みの上記実施の形態の撮影システム200の場合と同様である。
【0081】
図5は、本発明の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタの第2の変形例を示す図である。
【0082】
図示の撮影システム220の備えている第2の変形例の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ120(以下、単にアダプタ120という)は、上述の撮影システム200のアダプタ100に配されたダイクロイックプリズムPの代わりに色分離光学部Pxを採用したものである。この撮影システム220の構成は、上記色分離光学部Pxを採用したこと以外は上述の実施の形態の撮影システム200と同様であり、対応する図面の説明における同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明については省略する。
【0083】
このアダプタ120の色分離光学部Pxは、アダプタ100のダイクロイックプリズムPを変形させたものであり、このダイクロイックプリズムPと略同等の作用を奏するものである。ただし、この色分離光学部Pxにおいては、最も撮影レンズ10の側に位置する光学面H1、最も可視光像Mkの形成される側に位置する光学面H2、および最も赤外光像Msの形成される側に位置する光学面H3が、いずれも曲面を成すものである。
【0084】
このように、色分離光学部Pxにおける入射面(光学面H1)、可視光の射出面(光学面H2)、および赤外光の射出面(光学面H3)それぞれを曲面とすることにより、色分離光学部Pxの入射面や射出面で反射された光が可視光像Mkや赤外光像Msの結像位置の近傍に結像されることを防止することができる。
【0085】
例えば、色分離光学部Pxの入射面や射出面と撮像素子DAや撮像素子DBの撮像面との間で反射させられて結像された可視光像Mkや赤外光像Msを表すゴースト像が、可視光撮影部14や赤外光撮影部16によって得られた画像中に生じることを防止することができる。
【0086】
この第2の変形例におけるその他の構成および作用は、説明済みの上記実施の形態の撮影システム200の場合と同様である。
【0087】
上記のように、本発明による可視光・赤外光撮影用レンズアダプタを撮影システムに適用することにより、同一の撮影レンズを通して互に異なる位置に可視光像および赤外光像を結像させるときの結像品質の低下を抑制することができる。
【0088】
以下、上記第2の変形例のアダプタ120に関する具体的な設計値について説明する。
【0089】
図6は上記第2の変形例に対応する可視光・赤外光撮影用レンズアダプタであるアダプタ120Aのレンズ構成と光路を示す図、図7は第2の変形例に対応する可視光・赤外光撮影用レンズアダプタであるアダプタ120Bのレンズ構成と光路を示す図である。
【0090】
また、表1Aは上記アダプタ120Aのレンズデータを示し、表1Bは上記アダプタ120Bのレンズデータを示している。
【表1A】

【表1B】

なお、各表中において曲率半径が値0.0000で示される光学面は平面である。
【0091】
上記図6、7中に示す各レンズ面等に付した1〜29の符号は、表1A,1Bに示すレンズデータの面番号1〜29それぞれに対応している。
【0092】
面番号1は被写体を表す光学像M1に対応するものである。
【0093】
なお、入射側リレーレンズRL1、色分離光学部Px、可視光用リレーレンズRL2を通して形成される可視光像Mkを示す面番号は、表1A,1B中には表示されていない。入射側リレーレンズRL1、色分離光学部Px、赤外光用リレーレンズRL3を通して形成される赤外光像Msを示す面番号も表1A,1B中には表示されていない。
【0094】
また、色分離光学部Pxが有する曲面をなす光学面H1が面番号13に対応し、色分離光学部Pxが有する曲面をなす光学面H2、H3がいずれも面番号16に対応している。
【0095】
なお、色分離光学部Pxが有する、入射した光を可視光と赤外光とに分離するダイクロイック面PMに対応する面番号は表1A,1B中には表示されていない。
【0096】
面番号14は、上記光学面H1が形成された光学部材とダイクロイック面PMが形成された光学部材(キューブビームスプリッタ)との境界面(平面)を示している。
【0097】
面番号15は、上記光学面H2、H3それぞれが形成された各光学部材とダイクロイック面PMが形成された光学部材(キューブビームスプリッタ)との境界面(平面)それぞれを示している。
【0098】
アダプタ120Aの色分離光学部Pxが有する光学面H1、H2、H3は凸面をなし、アダプタ120Bの色分離光学部Pxが有する光学面H1、H2、H3は凹面をなしている。
【0099】
アダプタ120A中の面番号6、7で示される2つのレンズ面の間隔は、アダプタ120B中の面番号6、7で示される2つのレンズ面の間隔よりも小さい。また、アダプタ120A中の面番号22、23で示される2つのレンズ面の間隔は、アダプタ120B中の面番号22、23で示される2つのレンズ面の間隔よりも小さい。
【0100】
このように設計された本発明による可視光・赤外光撮影用レンズアダプタを撮影システムに適用することにより、同一の撮影レンズを通して互に異なる位置に可視光像および赤外光像を結像させるときの結像品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明に係る可視光・赤外光撮影用レンズアダプタを使用した撮影システムの全体構成を示す図
【図2】ダイクロイックプリズムの波長分離特性を示した図
【図3】カラー撮影用の撮像素子を拡大して示した図
【図4】可視光・赤外光撮影用レンズアダプタの第1の変形例を示す図
【図5】可視光・赤外光撮影用レンズアダプタの第2の変形例を示す図
【図6】第2の変形例に対応するアダプタ120Aのレンズ構成と光路を示す図
【図7】第2の変形例に対応するアダプタ120Bのレンズ構成と光路を示す図
【符号の説明】
【0102】
10 撮影レンズ
14 可視光撮影部
16 赤外光撮影部
20 制御系
100 可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ
RL1 入射側リレーレンズ
P ダイクロイックプリズム
RL2 可視光用リレーレンズ
RL3 赤外光用リレーレンズ
PM ダイクロイック面、
DA 可視光用の撮像素子
DB 赤外光用の撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの撮影レンズを通して入射させられた被写体からの光を可視光と赤外光とに分離する色分離光学系を備え、前記色分離光学系を通して分離された前記被写体を表す可視光像および赤外光像を互に異なる位置に結像させるための可視光・赤外光撮影用レンズアダプタであって、
前記光を前記撮影レンズのみを通して結像させてなる前記被写体を表す第1の光学像をリレーするための、前記撮影レンズから前記色分離光学系に至るまでの光路中に配された入射側リレーレンズと、
前記第1の光学像を、前記入射側リレーレンズを介しリレーして前記可視光像を結像させるための、前記色分離光学系で分離された可視光の光路中に配された可視光用リレーレンズと、
前記第1の光学像を、前記入射側リレーレンズを介しリレーして前記赤外光像を結像させるための、前記色分離光学系で分離された赤外光の光路中に配された赤外光用リレーレンズとを備えたことを特徴とする可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ。
【請求項2】
前記第1の光学像をリレーして前記可視光像を結像させるときの結像倍率の絶対値、および前記第1の光学像をリレーして前記赤外光像を結像させるときの結像倍率の絶対値が両方共に1倍であることを特徴とする請求項1記載の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ。
【請求項3】
前記入射側リレーレンズ、可視光用リレーレンズ、および赤外光用リレーレンズが、同一のレンズ構成からなるものであることを特徴とする請求項2記載の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ。
【請求項4】
前記色分離光学系における最も前記撮影レンズの側に位置する光学面、最も前記可視光像の形成される側に位置する光学面、および最も前記赤外光像の形成される側に位置する光学面が、いずれも曲面を成すものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の可視光・赤外光撮影用レンズアダプタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−102281(P2010−102281A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312972(P2008−312972)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】