説明

同期モータ駆動装置およびそれを備えた冷凍サイクルを有する機器

【課題】簡易な構成で、精度の良い有効電力の計算および入力交流電流の推定が可能な同期モータ駆動装置およびそれを備えた冷凍サイクルを有する機器を提供する
【解決手段】マイクロコンピュータ(A1)により、3相のインバータを有するインバータ回路(3)の直流電流(Idc)を、同期モータ(4)の機械的一回転の周期に亘って測定し、3相の各インバータの瞬時電力を計算する。3相の各インバータの瞬時電力から同期モータ駆動装置(MD1)の有効電力を算出し、さらに、商用交流入力電流(Iac)の実効値を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータ駆動装置およびそれを備えた冷凍サイクルを有する機器に関し、特に、インバータ回路で生成した3相交流電力を同期モータへ供給する、同期モータ駆動装置およびそれを備えた冷凍サイクルを有する機器に関する。
【背景技術】
【0002】
同期モータを駆動する同期モータ駆動装置は、一例として、圧縮機、蒸発器、および凝縮器による冷凍サイクルを有する機器で使用されている。冷凍サイクルを有する機器として、冷凍装置や空調装置(以下、冷凍・空調装置、とも記載する。)が例示される。冷凍・空調装置では、圧縮機やファンモータとして、同期モータ駆動装置でその動作が制御される同期モータが採用される場合が多い。
【0003】
同期モータ駆動装置は、商用交流電源から供給される交流電力(以下、交流電圧および交流電流をも意味する。)をコンバータ回路で直流電力(以下、直流電圧および直流電流をも意味する。)に変換し、その直流電力をインバータ回路で交流電力(交流電流)に変換して、同期モータを駆動する。インバータ回路は、コンバータ回路が出力する直流電圧を、IPM(Intelligent Power Module)等でチョッピングすることにより、周波数可変の交流電流を生成する。
【0004】
冷凍・空調装置は、商用交流電源から供給される入力交流電流が、ブレーカを作動させる電流を超えないように、交流回路部にヒューズを備えている。しかしながら、冷凍・空調装置の連続性および快適性を維持するため、入力交流電流が所定の値以上になると、冷凍・空調装置は、圧縮機のモータ回転数を低下させる制御を行っている。この入力交流電流の検出には、一般的に、高価なカレントトランス(以下、CTとも記載する。)等の電流センサが採用されている。
【0005】
特許第4505932号公報(特許文献1)には、CTを使わずに、インバータ4への出力電流を検出するシャント抵抗12を利用して、3相交流電源2からの入力交流電流を推定する構成が開示されている。特開平8−19263号公報(特許文献2)には、PWMインバータの主回路11の直流側電流を電流センサ12で検出し、各相別の電流に分配する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4505932号公報
【特許文献2】特開平8−19263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、シャント抵抗12に流れる電流を積分回路19で積分し、その積分値と、予め実験により求めておいた入力交流電流との相関関係に基づき、入力交流電流を推定している。このため、積分回路が必要となり、インバータ回路の構成が複雑となる。さらに、空調装置の入力交流電流は、圧縮機のみではなく、たとえば、ファンモータやその他パワーモジュール部での熱損失等でも消費される。特許文献1の構成では、それらに起因する入力交流電流を検出することが出来ない。
【0008】
本発明の目的は、簡易な構成で、精度の良い有効電力の計算および入力交流電流の推定が可能な同期モータ駆動装置およびそれを備えた冷凍サイクルを有する機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、商用交流電力を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、直流電圧を3相交流電流に変換し同期モータへ出力する、3相のインバータを有するインバータ回路と、3相のインバータのスイッチングを制御するPWM信号を出力するマイクロコンピュータと、インバータ回路の直流電流を検出する電流検出回路と、を備え、マイクロコンピュータは、同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時刻で直流電流を検出し、複数の検出時刻で検出した直流電流を、3相の各インバータの瞬時電流に分配し、直流電圧と瞬時電流とに基づき、3相の各インバータの瞬時電力を算出する、同期モータ駆動装置である。
【0010】
本発明において、マイクロコンピュータは、PWM信号を生成するPWM信号生成部と、インバータ回路の直流電流を、PWM信号に基づき、3相の各インバータの瞬時電流に分配する瞬時電流分配部と、直流電圧および各瞬時電流に基づき、3相の各インバータの瞬時電力を算出する瞬時電力計算部、とを有することが好ましい。
【0011】
本発明において、電流検出回路は、コンバータ回路とインバータ回路との電源配線間に設けられた抵抗の両端の電圧から、インバータ回路の直流電流を検出することが好ましい。
【0012】
本発明は、商用交流電力を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、直流電圧を3相交流電流に変換し同期モータへ出力する、3相のインバータを有するインバータ回路と、3相のインバータのスイッチングを制御するPWM信号を出力するマイクロコンピュータと、3相の各インバータの直流電流を検出する電流検出回路と、を備え、マイクロコンピュータは、同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時刻で3相の各インバータの直流電流を検出し、複数の検出時刻で検出した3相の各インバータの直流電流を、3相の各インバータの瞬時電流として出力し、直流電圧、瞬時電流、およびPWM信号に基づき、3相の各インバータの瞬時電力を算出する、同期モータ駆動装置である。
【0013】
本発明において、マイクロコンピュータは、PWM信号を生成するPWM信号生成部と、3相の各インバータの直流電流を、3相の各インバータの瞬時電流として出力する瞬時電流検出部と、直流電圧および各瞬時電流に基づき、3相の各PWMインバータの瞬時電力を算出する瞬時電力計算部、とを有することが好ましい。
【0014】
本発明において、電流検出回路は、3相の各インバータと電源配線との間に各々設けられた抵抗の両端の電圧から、3相の各インバータの直流電流を検出することが好ましい。
【0015】
本発明において、マイクロコンピュータは、さらに、複数の検出時刻における3相のインバータの瞬時電力の加算結果を、複数の検出時刻の設定数で除算した有効電力を出力する有効電力計算部を有することが好ましい。
【0016】
本発明において、マイクロコンピュータは、さらに、同期モータの極数の値を保持する同期モータ極数格納部を有することが好ましい。
【0017】
本発明において、マイクロコンピュータは、さらに、複数の検出時刻を等間隔に設定するモータの電気角度を保持する検出周期格納部を有することが好ましい。
【0018】
本発明において、マイクロコンピュータは、さらに、有効電力に対する熱損失分の電力の比率の値を格納する比例定数格納部を有することが好ましい。
【0019】
本発明において、マイクロコンピュータは、さらに、有効電力および熱損失分の電力の和とコンバータ回路に入力される商用交流電流と交流電圧との力率との関係を示す力率テーブル、または、同期モータの回転速度と力率との関係を示す力率テーブルを有することが好ましい。
【0020】
本発明において、マイクロコンピュータは、さらに、有効電力、熱損失分の電力、力率テーブルおよびコンバータの入力に印加される交流電圧の実効値に基づき、コンバータの入力に印加される交流電流の実効値の推定値を出力する入力電流計算部を有することが好ましい。
【0021】
本発明は、商用交流電力を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、直流電圧を3相交流電流に変換し第1の同期モータへ出力する、3相のインバータを有する第1のインバータ回路と、直流電圧を3相交流電流に変換し第2の同期モータへ出力する、3相のインバータを有する第2のインバータ回路と、第1の3相のインバータのスイッチングを制御する第1のPWM信号および第2の3相のインバータのスイッチングを制御する第2のPWM信号を出力するマイクロコンピュータと、第1のインバータ回路の第1の直流電流を検出する第1の電流検出回路と、第2のインバータ回路の第2の直流電流を検出する第2の電流検出回路とを備え、マイクロコンピュータは、第1の同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時刻で第1の直流電流を検出し、第2の同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時間で第2の直流電流を検出し、複数の検出時刻で検出した第1の直流電流を、第1の3相の各インバータの瞬時電流に分配し、複数の検出時刻で検出した第2の直流電流を、第2の3相の各インバータの瞬時電流に分配し、直流電圧および第1の3相の各インバータの瞬時電流に基づき、第1の3相の各インバータ別の瞬時電力を算出し、直流電圧および第2の3相の各インバータの瞬時電流に基づき、第2の3相の各インバータの瞬時電力を算出する同期モータ駆動装置である。
【0022】
本発明は、以上に記載の同期モータ駆動装置を備えた冷凍サイクルを有する機器である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、簡易な構成で、精度の良い有効電力の計算および入力交流電流の推定が可能な同期モータ駆動装置およびそれを備えた冷凍サイクルを有する機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施の形態1に係る同期モータ駆動装置MD1の全体構成を示す回路ブロック図である。
【図2】図1に示されたマイクロコンピュータA1の具体的な構成を示す回路ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る同期モータ駆動装置における、インバータ回路が出力する3相交流電流の波形を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る同期モータ駆動装置における、総合有効電力と力率との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る同期モータ駆動装置における、同期モータの単位時間あたりの回転数と力率との対応関係を示す図である。
【図6】実施の形態1の変形例に係る同期モータ駆動装置MD11の全体構成を示す回路ブロック図である。
【図7】図6に示されたマイクロコンピュータA21の具体的な構成を示す回路ブロック図である。
【図8】実施の形態2に係る同期モータ駆動装置MD2の全体構成を示す回路ブロック図である。
【図9】図8に示されたマイクロコンピュータA3の具体的な構成を示す回路ブロック図である。
【図10】本発明の各実施の形態に係る同期モータ駆動装置において、電流検出回路5Aを内部に取り込んだマイクロコンピュータAの具体的な構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載ある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態の図面において、同一の参照符号や参照番号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、実施の形態の説明において、同一の参照符号等を付した部分等に対しては、重複する説明は繰り返さない場合がある。
<実施の形態1>
図1を参照して、本発明の実施の形態1における、同期モータ駆動装置MD1の構成および動作を説明する。
【0026】
同期モータ駆動装置MD1は、コンバータ回路2、インバータ回路3、電流検出抵抗(シャント抵抗)R1、電流検出回路5、およびマイクロコンピュータA1より構成される。
【0027】
コンバータ回路2は、交流電圧および交流電流の実効値が、各々、VacおよびIacである商用交流電源1から供給される入力交流電力を直流電圧Vdcに変換し、正極直流ラインPL1と負極直流ラインPL2間に出力する。インバータ回路3は、正極直流ラインPL1と負極直流ラインPL2間に接続される3相(U相/V相/W相)のインバータ(Qu/Qx、Qv/Qy、Qw/Qz)を有する。3相の各インバータは、直流電圧Vdcを3相の交流電流(U相/V相/W相)に変換して、同期モータ4に供給する。
【0028】
マイクロコンピュータA1は、PWM(Pulse Width Modulation)信号を生成し、3相の各インバータのスイッチングを制御する。このスイッチング制御により、インバータ回路3は、直流電圧Vdcから3相の交流電流を生成する。
【0029】
コンバータ回路2の出力側とインバータ回路3の入力側とは、正極直流ラインPL1および負極直流ラインPL2で接続され、両回路間の負極直流ラインPL2上には、電流検出抵抗R1が設けられている。電流検出回路5は、電流検出抵抗R1の両端に発生する電圧に基づき、インバータ回路3を流れる直流電流Idcを検出し、増幅して直流電流信号Idc_sigとしてマイクロコンピュータA1に出力する。
【0030】
図2を参照して、本発明の実施の形態1における、マイクロコンピュータA1の構成および動作を説明する。
【0031】
(構成)
マイクロコンピュータA1は、PWM信号生成部7と、入力電流推定部6とを有する。PWM信号生成部7は、PWM信号を生成してインバータ回路3へ出力する。入力電流推定部6は、電流検出回路5から出力される直流電流信号Idc_sigおよびPWM信号生成部7から出力されるPWM信号に基づき、商用交流電源1から同期モータ駆動装置MD1に供給される入力交流電流の推定電流実効値Iac_estを計算し、PWM信号生成部7に出力する。
【0032】
入力電流推定部6は、瞬時電流分配部61、瞬時電力計算部62、有効電力計算部63、および入力電流計算部64を有する。さらに、同期モータ駆動装置MD1が駆動する同期モータ4の極数を格納する同期モータ極数格納部612、インバータ回路3の直流電流Idcの検出周期を格納する検出周期格納部613、直流電流Idcを検出するモータの電気角度のピッチを設定する検出電気角度設定部611、および直流電流Idcを検出した時刻におけるコンバータ回路2が出力する直流電圧Vdcの値を格納する瞬時直流電圧格納部621を有する。
【0033】
入力電流推定部6は、さらに、商用交流電源1の交流電圧の実効値Vacの値を格納する電圧実効値格納部641、入力交流電圧および入力交流電流間の力率を格納する力率テーブル642、および同期モータ駆動装置MD1の熱損失エネルギーを消費電力に換算する比例定数格納部643を有する。
【0034】
(瞬時電流の検出)
瞬時電流分配部61は、所定の時刻tで検出した直流電流信号Idc_sigに基づき、時刻tにおいてインバータ回路3に流れる直流電流Idcを、3相(U相/V相/W相)の各インバータに流れる瞬時電流Iu(t)、Iv(t)、およびIw(t)に分配する。インバータ回路3の直流電流Idcは、3相の各インバータから負極直流ラインPL2に流れる電流の合計である。その3相の各インバータに流れる電流は、マイクロコンピュータA1に含まれるPWM信号生成部7が出力するPWM信号で制御される。
【0035】
瞬時電流分配部61は、3相の各インバータのスイッチング直前と直後のタイミングで、直流電流信号Idc_sigの変化分を求める。その変化分をPWM信号のスイッチング情報に基づき3相の各インバータに分配することで、インバータ回路3を流れる直流電流Idcを、3相の各インバータに分配する。
【0036】
(有効電力の計算)
瞬時電力計算部62は、3相の瞬時電流Iu(t)、Iv(t)、およびIw(t)に基づき、所定の時刻tにおける瞬時電力p(t)を計算する。瞬時直流電圧格納部621は、コンバータ回路2が出力する、時刻tにおける直流電圧Vdcの値を格納している。瞬時電力p(t)は、瞬時電流Iu(t)、Iv(t)、およびIw(t)と瞬時直流電圧格納部621に格納されている直流電圧Vdcに基づき、以下の式で計算される。なお、以降の式で、記号”*”は乗算記号を、記号”/”は除算記号を、各々意味する。
【0037】
p(t)=pu(t)+pv(t)+pw(t)
ここで、pu(t)、pv(t)およびpw(t)は、各々、U相、V相、およびW相の瞬時電力であり、下記の式により求められる。
pu(t)=Vdc*U相PWMデューティ比*Iu(t)
pv(t)=Vdc*V相PWMデューティ比*Iv(t)
pw(t)=Vdc*W相PWMデューティ比*Iw(t)
PWMデューティ比とは、PWM波形のデューティ比である。
【0038】
有効電力計算部63は、瞬時電力計算部62から出力される瞬時電力p(t)を所定の周期Tに亘り積算し、その積算結果を周期Tで除算して、有効電力Pを計算する。モータの場合は、まず、モータが機械的に1回転する時間を周期Tとし、この周期Tに亘り複数の時刻t1〜tnを設定する。同期モータ4で消費される有効電力Pは、各時刻における瞬時電力p(t1)〜p(tn)の総和を周期Tで除算して得られる。
P=(p(t1)+p(t2)+ … +p(tn))/T
有効電力Pは、上記の計算式により求められる。
【0039】
(瞬時電力の検出タイミング)
図3を参照して、同期モータ4の機械的1回転の周期Tで設定する瞬時電力p(t)の検出時刻t1〜tnについて説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る同期モータ駆動装置MD1において、インバータ回路3が出力する3相交流電流の波形を示す模式図である。横軸は、同期モータ4の機械的1回転、つまり機械角度360°に対応する範囲を示す。縦軸は、インバータ3の相別(U相/V相/W相)の出力電流波形を模式的に示す。
【0040】
4極3相の構造を有する同期モータの場合、機械的1回転の間に、電気的には2回転する。つまり、機械角度360°は、電気角度720°に対応する。図3では、同期モータの機械的1回転の周期Tにおいて、電気角度30°の時刻をt1とし、以降、電気角度60°毎(電気角度60°のピッチ)に検出時刻を設定する。周期Tにおける最後の検出時刻tnは、電気角度690°に対応する時刻となり、検出回数は総計12回となる。
【0041】
本実施の形態1では、瞬時電力の検出を電気角度60°を周期と設定して説明した。有効電力の計算精度は、瞬時電力の検出時間(設定する電気角度のピッチ)を、より小さく設定することで向上可能となる。実際には、マイクロコンピュータA1の処理性能や他の演算処理との関係を考慮して、瞬時電力p(t)を検出する電気角度のピッチは、1°、10°、30°、または60°の周期から選択することが好ましい。但し、選択する電気角度のピッチが大きすぎると、有効電力計算部が出力する計算結果の精度が低下する。従って、設定する電気角度のピッチは、60°以下とすることが好ましい。
【0042】
図2に戻り、入力電流推定部6が有する、検出電気角度設定部611、同期モータ極数格納部612、検出周期格納部613、および有効電力計算部63の動作を説明する。
【0043】
同期モータ極数格納部612は、インバータ回路3が駆動する同期モータ4の極数を格納している。本実施の形態では、4極3相の構造を有する同期モータを一例として説明している。この場合、同期モータ極数格納部612には、同期モータの極数が4極であることを示す情報が格納される。本実施の形態に係る同期モータ駆動装置MD1は、同期モータ極数格納部612に書き込む情報を変更することで、容易に、他の構造を有する同期モータを制御することが可能となる。
【0044】
検出周期格納部613は、同期モータ4の機械的1回転の周期Tにおいて、瞬時電力p(t)を検出する電気角度のピッチを格納している。本実施の形態に係る同期モータ駆動装置MD1は、電気角度のピッチが変更可能であり、ユーザが必要とする精度で有効電力を計算することが可能となる。
【0045】
検出電気角度設定部611は、電流検出回路5が出力する直流電流信号Idc_sigを検出する時刻tを、瞬時電流分配部61に出力する。瞬時電流分配部61は、指定された時刻tにおける、インバータ回路3が有する3相の各インバータに流れる瞬時電流Iu(t)、Iv(t)、およびIw(t)を計算する。同期モータ極数格納部612および検出周期格納部613から出力される情報に基づき、検出電気角度設定部611は、検出時刻tとして、時刻t1から時刻tnを順次出力する。
【0046】
有効電力計算部63は、上記の通り、各時刻における瞬時電力p(t1)〜p(tn)の総和を周期Tで除算して、同期モータ4で消費される有効電力Pを算出する。以下に、具体的な同期モータ4の極数および検出する電気角度のピッチを例に、有効電力Pの計算式を説明する。
【0047】
同期モータ4が4極3相構造の場合は、機械的1回転は電気的2回転に対応する。従って、電気角度60°のピッチでインバータ回路3の瞬時電力p(t)を検出した場合、検出回数は12回となる。従って、有効電力Pは、次の通り計算される。
P=(p(t1)+ … +p(t12))/12
4極3相の同期モータの有効電力Pは、上記計算式により求められる。
【0048】
同期モータ4が6極3相構造の場合は、機械的1回転は電気的3回転に対応する。従って、電気角度60°のピッチでインバータ回路3の瞬時電力p(t)を検出した場合、検出回数は18回となる。その有効電力Pは、次の通り計算される。
P=(p(t1)+ … +p(t18))/18
6極3相の同期モータの有効電力Pは、上記計算式により求められる。
【0049】
(同期モータ駆動装置の総合有効電力)
図1において、商用交流電源1から同期モータ駆動装置MD1へ供給される入力交流電圧および入力交流電流の実効値は、各々、VacおよびIacである。入力交流電圧と入力交流電流との位相差を”θ”とすると、その有効電力は、Vac*Iac*cos(θ)となる。ここで、同期モータ駆動装置MD1が消費する総合有効電力をP_md1とすると、両者の有効電力の値には、
Vac*Iac*cos(θ)=P_md1
という関係が成立する。
【0050】
図1に示す同期モータ駆動装置MD1において、商用交流電源1からダイオードブリッジ等で構成されるコンバータ回路2へ供給される有効電力と、コンバータ回路2の出力電力とは、ほぼ等しいと考えられる。このコンバータ回路2の出力電力は、主に、インバータ回路3で駆動される同期モータ4で消費される。この同期モータ4の有効電力は、図2に示す有効電力計算部63が出力する有効電力Pとして求められる。図1に示す同期モータ4は、冷凍サイクルを有する機器に含まれる圧縮機で使用されているものとし、その同期モータ4の有効電力をP_compと記載する。
【0051】
さらに、コンバータ回路2の出力電力は、上記圧縮機用同期モータ4の有効電力P_compに加えて、インバータ回路3を制御するマイクロコンピュータA1部の熱損失に起因する消費電力が無視できない場合もある。インバータ回路3のチョッピング動作を制御するIPM(マイクロコンピュータA1)の熱損失分の電力をP_ipm1とする。このP_ipm1は、インバータ回路3が駆動する同期モータ4の有効電力P_compに比例する。その比例定数をk1とすると、以下の関係が成立する。
P_ipm1=k1*P_comp
なお、比例定数k1は実験等により得られる値であり、マイクロコンピュータA1に格納される。
【0052】
以上から、同期モータ駆動装置MD1が消費する総合有効電力P_md1は、同期モータ4の有効電力P_compおよびIPMの熱損失分の電力P_ipm1の和となる。以下に、商用交流電源1からコンバータ回路2へ供給される有効電力と同期モータ駆動装置MD1で消費される総合有効電力P_md1との関係を示す。
Vac*Iac*cos(θ)=P_md1 … 式1
P_md1=P_comp+P_ipm1=(1+k1)*P_comp … 式2
即ち、総合有効電力P_md1は、同期モータ4の有効電力と比例定数k1により求められる。
【0053】
(入力電流実効値の推定)
式1と式2から、入力交流電流の実効値Iacは、以下の式で求められる。
Iac=(1+k1)*P_comp/(Vac*cos(θ)) … 式3
以下に、入力交流電圧の実効値Vacと力率cos(θ)の算出方法を説明する。
【0054】
図1に示す商用交流電源1の入力交流電圧の実効値Vacの計算方法について説明する。同期モータ4(圧縮機)の停止期間中、コンバータ回路2が出力する直流電圧Vdc_offは、入力交流電圧の実効値Vacの√2(2の平方根)倍となる。従って、実効値Vacは、次の式により求められる。
【0055】
Vac=Vdc_off/√2−降下総合電圧値
ここで、降下総合電圧値とは、コンバータ回路2の直流出力電圧のリプル電圧やダイオードブリッジ等に起因する降下電圧の和であり、あらかじめマイクロコンピュータA1に設定値を格納しておく。
【0056】
この直流電圧Vdc_offの検出は、直流電圧Vdcの検出と同様に行う。即ち、コンバータ回路2が正極直流ラインPL1と負極直流ラインPL2間に出力する直流電圧Vdcを、同期モータ4の停止期間中に測定し、マイクロコンピュータA1に格納する。
【0057】
入力交流電圧の実効値Vacの、別の計算方法について説明する。まず、同期モータ4(圧縮機)が停止期間中のコンバータ回路2が出力する直流電圧を実験等で開発時に測定し、その値Vdc_refをマイクロコンピュータA1に記憶させる。そのVdc_refと、同期モータ4(圧縮機)停止期間中の直流電圧Vdc_offとの比から、現在の電源から供給される入力交流電圧の実効値Vacを、以下の式で算出してもよい。
【0058】
Vac=定格交流電圧*Vdc_off/Vdc_ref
ここで、定格交流電圧とは、同期モータ駆動装置MD1が動作する定格交流電圧の値である。この式によると、√2の除算が不要となり、マイクロコンピュータA1によるVacの計算が簡略化される。
【0059】
図4を参照して、入力交流電圧と入力交流電流の力率cos(θ)の計算方法を説明する。図4は、同期モータ駆動装置MD1の総合有効電力P_md1と力率との関係を予め実験等で求めたテーブルの一例であり、マイクロコンピュータA1に格納される。マイクロコンピュータA1で算出した総合有効電力P_md1を図4のテーブルに当てはめ、力率を求める。
【0060】
図5を参照して、力率を求める他の方法を説明する。図5は、同期モータ4の単位時間当たりの回転数(rpm)、即ち、回転速度と力率との関係を示すテーブルの一例であり、マイクロコンピュータA1に格納される。マイクロコンピュータA1で算出した総合有効電力P_md1を図5のテーブルに当てはめ、力率を求める。
【0061】
図2を参照して、入力電流計算部64、電圧実効値格納部641、力率テーブル642、および比例定数格納部643の動作を説明する。
【0062】
入力電流計算部64は、有効電力計算部63から出力される同期モータ4の有効電力Pに基づき、商用交流電源1から供給される入力交流電流の実効値Iacを推定し、推定電流実効値Iac_estとして出力する。同期モータ4が圧縮機用のものである場合、有効電力Pを、有効電力P_compと表記する。
【0063】
この推定電流実効値Iac_estの計算には、電圧実効値格納部641に格納されるVdc_off、力率テーブル642に格納される力率の値、および比例定数格納部643に格納される比例定数k1が各々引用される。推定電流実効値Iac_estの計算式は、以下の通りとなる。
Iac_est=(1+k1)*P_comp/(Vac*cos(θ))
推定電流実効値Iac_estの計算式は、上記の式3に対応する。
【0064】
PWM信号生成部7は、入力された推定電流実効値Iac_estが所定の値を越えた場合、インバータ回路3へ出力するPWM信号のデューティーを変更し、同期モータ4の回転数を低下させる。この回転数制御により、同期モータ駆動装置MD1は、冷凍・空調装置の連続運転を維持することができる。
【0065】
以上のように、実施の形態1の同期モータ駆動装置MD1は、IPMとして動作するマイクロコンピュータA1が備える汎用演算処理機能を使用することにより、複雑な構成の回路部品を追加することなく、冷凍サイクルを有する機器の連続運転を維持することができる。また、IPMの熱損失分の電力も同期モータ駆動装置MD1の有効電力に加えることにより、より正確に入力電流実効値を推定することができる。
<実施の形態1の変形例>
図6を参照して、本発明の実施の形態1の変形例に係る、同期モータ駆動装置MD11の構成および動作について説明する。
【0066】
図6に示す同期モータ駆動装置MD11は、交流電圧および交流電流の実効値が、各々、VacおよびIacである商用交流電源1から供給される入力交流電力を、直流電圧Vdcに変換し、正極直流ラインPL1と負極直流ラインPL2間に出力するコンバータ回路2を有する。図1に示す同期モータ駆動装置MD1と異なり、同期モータ駆動装置MD11は、正極直流ラインPL1および負極直流ラインPL2に並列に接続される、インバータ回路31およびインバータ回路32を有する。
【0067】
インバータ回路31および32は、直流電圧Vdcから3相交流電流を生成し、各々、冷凍・空調装置の圧縮機用同期モータ41および室外機のファン用同期モータ42に供給する。マイクロコンピュータA21は、PWM信号1およびPWM信号2を生成し、各々、インバータ回路31および32のスイッチング動作を制御する。
【0068】
コンバータ回路2とインバータ回路31間を接続する負極直流ラインPL21上には、電流検出抵抗R11が設けられている。コンバータ回路2とインバータ回路32間を接続する負極直流ラインPL22上には、電流検出抵抗R21が設けられている。電流検出抵抗R11およびR21の両端に発生する電圧に基づき、電流検出回路1(51)および電流検出回路2(52)は、各々、インバータ回路31および32を流れる直流電流Idc1およびIdc2を検出し、増幅して、直流検出信号Idc1_sigおよびIdc2_sigをマイクロコンピュータA21に出力する。
【0069】
図7を参照して、マイクロコンピュータA21の構成および動作を説明する。マイクロコンピュータA21は、第1の入力電流推定部6M、第2の入力電流推定部6FM、PWM信号生成部1(7M)、およびPWM信号生成部2(7FM)を有する。PWM信号生成部1(7M)およびPWM信号生成部2(7FM)は、各々、PWM信号1および2を生成し、インバータ回路31および32へ出力する。
【0070】
第1の入力電流推定部6Mは、直流検出信号Idc1_sigおよびPWM信号生成部1から出力されるPWM信号1に基づき、商用交流電源1から圧縮機用同期モータ41に供給される入力交流電流の推定電流実効値Iac1_estを計算し、PWM信号生成部1に出力する。第2の入力電流推定部6FMは、直流検出信号Idc2_sigおよびPWM信号生成部2から出力されるPWM信号2に基づき、商用交流電源1からファン用同期モータ42に供給される入力交流電流の推定電流実効値Iac2_estを計算し、PWM信号生成部2に出力する。
【0071】
第1の入力電流推定部6Mおよび第2の入力電流推定部6FMは、いずれもその構成は図2に示す入力電流推定部6と同一である。但し、同期モータ極数格納部1(612M)および同期モータ極数格納部2(612FM)には、各々、圧縮機用同期モータ41およびファン用同期モータ42が有するモータの極数を示す数値が格納される。検出周期格納部1(613M)および検出周期格納部2(613FM)には、瞬時電力を検出する電気角度のピッチが格納される。比例定数格納部1(643M)および比例定数格納部2(643FM)には、実験等で得られた同期モータの有効電力に対するマイクロコンピュータA21の熱損失分の電力の比率が格納される。
【0072】
図6において、商用交流電源1の入力交流電圧と入力交流電流との位相差を”θ”とすると、その有効電力は、Vac*Iac*cos(θ)となる。同期モータ駆動装置MD11が消費する総合有効電力をP_md11とすると、両者の有効電力の値には、
Vac*Iac*cos(θ)=P_md11
という関係が成立する。
【0073】
図7の第1の入力電流推定部6Mにおいて、比例定数格納部1(643M)にはk1が格納され、第2の入力電流推定部6FMにおいて、比例定数格納部2(643FM)にはk2が格納されているとする。入力電流推定部6Mで求めた圧縮機用同期モータ41の有効電力をP_compとし、入力電流推定部6FMで求めたfan用同期モータ42の有効電力をP_fanとする。
【0074】
インバータ回路31および32のチョッピング動作制御に起因するIPM(マイクロコンピュータA21)の熱損失分の電力P_ipm21は、以下の式により求められる。
P_ipm21=k1*P_comp+k2*P_fan
従って、P_compおよびP_fanをも加えた同期モータ駆動装置MD11の総合有効電力P_md11は、
Vac*Iac*cos(θ)=P_md11
P_md11=(1+k1)*P_comp+(1+k2)*P_fan
となる。
【0075】
図7の第1入力電流推定部6Mが出力する第1の推定電流実効値Iac1_est、および第2の入力電流推定部6FMが出力する第2の推定電流実効値Iac2_estは、
各々、以下の通りとなる。
Iac1_est=(1+k1)*P_comp/(Vac*cos(θ))
Iac2_est=(1+k2)*P_fan/(Vac*cos(θ))
なお、Vacおよび力率cos(θ)の値は、実施の形態1と同様に求める。
【0076】
マイクロコンピュータA21は、上記Iac1_estとIac2_estの和が、所定の値を超えた場合、インバータ31およびインバータ32を適宜制御して、圧縮機用同期モータ41およびfan用同期モータ42の回転数を低下させる。この回転数制御により、同期モータ駆動装置MD1は、冷凍・空調装置の連続運転を維持することができる。
【0077】
以上のように、実施の形態1の変形例に係る同期モータ駆動装置MD11は、圧縮機用同期モータとファン用同期モータの、IPMの熱損失分の電力も含めた総合有効電力を各々算出することが可能となる。これにより、冷凍サイクルを有する機器の総合的な有効電力をより高精度で把握することができる。
<実施の形態2>
図8を参照して、本発明の実施の形態2に係る、同期モータ駆動装置MD2の構成および動作について説明する。
【0078】
図8に示す同期モータ駆動装置MD2は、コンバータ回路2、インバータ回路3、シャント抵抗R1、電流検出回路53、およびマイクロコンピュータA3より構成される。
【0079】
コンバータ回路2は、交流電圧および交流電流の実効値が、各々、VacおよびIacである商用交流電源1から供給される入力交流電力を直流電圧Vdcに変換し、正極直流ラインPL1と負極直流ラインPL2間に出力する。インバータ回路3は、正極直流ラインPL1と負極直流ラインPL2間に接続される3相(U相/V相/W相)のインバータ(Qu/Qx、Qv/Qy、Qw/Qz)を有する。3相の各インバータは、直流電圧Vdcを3相の交流電流(U相/V相/W層)に変換して、同期モータ4に供給する。
【0080】
マイクロコンピュータA3は、PWM(Pulse Width Modulation)信号を生成し、3相の各インバータのスイッチングを制御する。このスイッチング制御により、インバータ回路3は、直流電圧Vdcから3相の交流電流を生成する。
【0081】
コンバータ回路2の出力側とインバータ回路3の入力側とは、正極直流ラインPL1および負極直流ラインPL2で接続され、両回路間の負極直流ラインPL2上には、シャント抵抗R1が設けられている。
【0082】
図8において、本発明の実施の形態2が、実施の形態1および実施の形態1の変形例と相違する点は、次の通りである。即ち、インバータ回路3を構成する3相(U相/V相/W層)の各インバータと負極直流ラインPL2と間に、各々に、電流検出抵抗Ru,Rv、Rwが配置されていることである。実施の形態1等では、インバータ回路3の直流電流Idcをシャント抵抗でもある抵抗R1で検出していた。実施の形態2では、抵抗R1は、シャント抵抗として使用し、インバータ回路3の過電流を検出するために使用する。
【0083】
3相の各インバータと電流検出抵抗Ru、Rv、Rwとの接続点の電位は、電流検出回路53に入力される。電流検出回路53は、各相の電位の値を各インバータに流れる直流電流信号Iru、Irv、およびIrwに変換して、マイクロコンピュータA3に出力する。
【0084】
図9を参照して、本発明の実施例の形態2に係る、マイクロコンピュータA3の構成および動作について説明する。
【0085】
(構成)
マイクロコンピュータA3は、入力電流推定部6AおよびPWM信号生成部7とを有する。PWM信号生成部7は、PWM信号を生成してインバータ回路3へ出力する。入力電流推定部6Aは、電流検出回路53から出力される直流電流信号Iru、Irv、IrwとPWM信号生成部7から出力されるPWM信号とに基づき、商用交流電源1から同期モータ駆動装置MD2に供給される入力交流電流の推定電流実効値Iac_estを計算し、PWM信号生成部7に出力する。
【0086】
入力電流推定部6Aは、瞬時電流検出部61A、瞬時電力計算部62A、有効電力計算部63、および入力電流計算部64を有する。さらに、同期モータ駆動装置MD2が駆動する同期モータ4の極数を格納する同期モータ極数格納部612、インバータ回路3の直流電流Idcの検出周期を格納する検出周期格納部613、直流電流Idcを検出するモータの電気角度のピッチを設定する検出電気角度設定部611、および直流電流Idcを検出した時刻におけるコンバータ回路2が出力する直流電圧Vdcの値を格納する瞬時直流電圧格納部621を有する。
【0087】
(瞬時電流の検出)
入力電流推定部6Aは、さらに、商用交流電源1の交流電圧の実効値Vacの値を格納する電圧実効値格納部641、入力交流電圧および入力交流電流間の力率を格納する力率テーブル642、および同期モータ駆動装置MD2の熱損失エネルギーを消費電力に換算する比例定数格納部643を有する。
【0088】
瞬時電流検出部61Aは、所定の時刻tで検出した直流電流信号Iru、Irv、Irwに基づき、時刻tにおいて3相の各インバータに流れる瞬時電流Iu(t)、Iv(t)、およびIw(t)として出力する。実施の形態1と異なり、瞬時電流検出部61AへPWM信号を入力して3相の瞬時電流に分配する必要はない。
【0089】
(有効電力の計算)
瞬時電力計算部62Aは、3相の瞬時電流およびPWM信号生成部7から出力されるPWM信号に基づき、所定の時刻tにおける瞬時電力p(t)を計算する。瞬時直流電圧格納部621は、コンバータ回路2が出力する、時刻tにおける直流電圧Vdcの値を格納している。瞬時電力p(t)は、瞬時電流Iu(t)、Iv(t)、およびIw(t)と瞬時直流電圧格納部621に格納されている直流電圧Vdcに基づき、以下の式で計算される。なお、以下の式で、記号”*”は乗算記号を、記号”/”は除算記号を、各々意味する。
【0090】
p(t)=pu(t)+pv(t)+pw(t)
ここで、pu(t)、pv(t)およびpw(t)は、各々、U相、V相、およびW相の瞬時電力であり、下記の式により求められる。
pu(t)=Vdc*U相PWMデューティ比*Iu(t)
pv(t)=Vdc*V相PWMデューティ比*Iv(t)
pw(t)=Vdc*W相PWMデューティ比*Iw(t)
PWMデューティ比とは、PWM波形のデューティ比である。
【0091】
有効電力計算部63は、瞬時電力計算部62Aから出力される瞬時電力p(t)を所定の周期Tに亘り積算し、その積算結果を周期Tで除算して、有効電力Pを計算する。モータの場合は、モータの機械的1回転の周期Tに亘り、複数の時刻t1〜tnを設定する。同期モータ4で消費される有効電力Pは、各時刻における瞬時電力p(t1)〜p(tn)の総和を周期Tで除算して得られる。
P=(p(t1)+p(t2)+ …… +p(tn))/T
有効電力Pは、上記の計算式により求められる。
【0092】
瞬時電流の検出タイミングや、入力電流計算部64で必要となる、電圧実効値格納部641、力率テーブル642、および定数格納部643に格納されている情報やその設定方法は、実施例の形態1と同様であり、重複しての説明は省略する。
<実施の形態の変形例>
図10を参照して、本発明の各実施の形態に共通な変形例を説明する。
【0093】
図10に示すマイクロコンピュータAは、各実施の形態が有する電流検出回路5、51、52、53をマイクロコンピュータAの内部に電流検出回路5Aとして取り込んだ構成を有する。電流検出回路は、電流検出抵抗に流れる電流により発生する電圧を、その電流値に変換する機能を有する。電圧−電流変換回路である電流検出回路5Aを、マイクロコンピュータに内蔵される演算増幅器で構成した。
【0094】
図10に示すマイクロコンピュータAに含まれる他の回路、即ち、入力電流推定部6およびPWM信号生成部7の構成や動作は、他の実施の形態に係るものと同一であり、説明は省略する。
【0095】
以上のように、本発明の各実施の形態に共通な変形例の同期モータ駆動装置は、電流検出回路をマイクロコンピュータに内蔵させた。これにより、同期モータ駆動装置を、より一層小型かつ安価に提供することができる。
【0096】
また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
1 商用交流電源、2 コンバータ回路、3,31,32 インバータ回路、4,41,42 同期モータ、5,51,52,53 電流検出回路、R1,R11,R21,Ru,Rv,Rw 電流検出抵抗、A1,A21,A3,A マイクロコンピュータ、Iac 入力交流電流、Vac 入力交流電圧、PL1,PL11 正極直流ライン、PL2,PL22 負極直流ライン、MD1,MD11,MD2 同期モータ駆動装置、Idc_sig,Idc1_sig,Idc2_sig 直流電流信号、6,6M,6FM,6A 入力電流推定部、Iac_est,Iac1_est,Iac2_est 推定電流実効値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電力を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、
前記直流電圧を3相交流電流に変換し、同期モータへ出力する3相のインバータを有するインバータ回路と、
前記3相のインバータのスイッチングを制御するPWM信号を出力するマイクロコンピュータと、
前記インバータ回路の直流電流を検出する電流検出回路と、を備える同期モータ駆動装置であって、
前記マイクロコンピュータは、
前記同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時刻で前記直流電流を検出し、
前記複数の検出時刻で検出した前記直流電流を、前記3相の各インバータの瞬時電流に分配し、
前記直流電圧と前記瞬時電流とに基づき、前記3相の各インバータの瞬時電力を算出する、
同期モータ駆動装置。
【請求項2】
前記マイクロコンピュータは、
前記PWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記インバータ回路の直流電流を、前記PWM信号に基づき、前記3相の各インバータの瞬時電流に分配する瞬時電流分配部と、
前記直流電圧および前記各瞬時電流に基づき、前記3相の各インバータの瞬時電力を算出する瞬時電力計算部、とを有する、請求項1記載の同期モータ駆動装置。
【請求項3】
前記電流検出回路は、前記コンバータ回路と前記インバータ回路との電源配線間に設けられた抵抗の両端の電圧から、前記インバータ回路の直流電流を検出する、請求項1または2に記載の同期モータ駆動装置。
【請求項4】
商用交流電力を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、
前記直流電圧を3相交流電流に変換し、同期モータへ出力する3相のインバータを有するインバータ回路と、
前記3相のインバータのスイッチングを制御するPWM信号を出力するマイクロコンピュータと、
前記3相の各インバータの直流電流を検出する電流検出回路と、を備える同期モータ駆動装置であって、
前記マイクロコンピュータは、
前記同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時刻で前記3相の各インバータの直流電流を検出し、
前記複数の検出時刻で検出した前記3相の各インバータの直流電流を、前記3相の各インバータの瞬時電流として出力し、
前記直流電圧、前記瞬時電流、および前記PWM信号に基づき、前記3相の各インバータの瞬時電力を算出する、
同期モータ駆動装置。
【請求項5】
前記マイクロコンピュータは、
前記PWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記3相の各インバータの直流電流を、前記3相の各インバータの瞬時電流として出力する瞬時電流検出部と、
前記直流電圧および前記各瞬時電流に基づき、前記3相の各PWMインバータの瞬時電力を算出する瞬時電力計算部、とを有する、請求項4記載の同期モータ駆動装置。
【請求項6】
前記電流検出回路は、前記3相の各インバータと電源配線との間に各々設けられた抵抗の両端の電圧から、前記3相の各インバータの直流電流を検出する、請求項4または5に記載の同期モータ駆動装置。
【請求項7】
前記マイクロコンピュータは、さらに、前記複数の検出時刻における前記3相のインバータの瞬時電力の加算結果を、前記複数の検出時刻の設定数で除算した有効電力を出力する有効電力計算部を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の同期モータ駆動装置。
【請求項8】
前記マイクロコンピュータは、さらに、前記同期モータの極数の値を保持する同期モータ極数格納部を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の同期モータ駆動装置。
【請求項9】
前記マイクロコンピュータは、さらに、前記複数の検出時刻を等間隔に設定する同期モータの電気角度を保持する検出周期格納部を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の同期モータ駆動装置。
【請求項10】
前記マイクロコンピュータは、さらに、前記有効電力に対する熱損失分の電力の比率の値を格納する比例定数格納部を有する、請求項7から9のいずれか一項に記載の同期モータ駆動装置。
【請求項11】
前記マイクロコンピュータは、さらに、前記有効電力および前記熱損失分の電力の和と前記コンバータ回路に入力される前記商用交流電流と交流電圧との力率との関係を示す力率テーブル、または、前記同期モータの回転速度と前記力率との関係を示す力率テーブルを有する、請求項10記載の同期モータ駆動装置。
【請求項12】
前記マイクロコンピュータは、さらに、前記有効電力、前記熱損失分の電力、前記力率テーブルおよび前記コンバータの入力に印加される交流電圧の実効値に基づき、前記コンバータの入力に印加される交流電流の実効値の推定値を出力する入力電流計算部を有する、請求項11に記載の同期モータ駆動装置。
【請求項13】
商用交流電力を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、
前記直流電圧を3相交流電流に変換し、第1の同期モータへ出力する3相のインバータを有する第1のインバータ回路と、
前記直流電圧を3相交流電流に変換し、第2の同期モータへ出力する3相のインバータを有する第2のインバータ回路と、
前記第1の3相のインバータのスイッチングを制御する第1のPWM信号および前記第2の3相のインバータのスイッチングを制御する第2のPWM信号を出力するマイクロコンピュータと、
前記第1のインバータ回路の第1の直流電流を検出する第1の電流検出回路と、
前記第2のインバータ回路の第2の直流電流を検出する第2の電流検出回路と、を備える同期モータ駆動装置であって、
前記マイクロコンピュータは、
前記第1の同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時刻で前記第1の直流電流を検出し、
前記第2の同期モータの機械的1回転周期に亘る複数の検出時間で前記第2の直流電流を検出し、
前記複数の検出時刻で検出した前記第1の直流電流を、前記第1の3相の各インバータの瞬時電流に分配し、
前記複数の検出時刻で検出した前記第2の直流電流を、前記第2の3相の各インバータの瞬時電流に分配し、
前記直流電圧および前記第1の3相の各インバータの瞬時電流に基づき、前記第1の3相の各インバータ別の瞬時電力を算出し、
前記直流電圧および前記第2の3相の各インバータの瞬時電流に基づき、前記第2の3相の各インバータの瞬時電力を算出する、同期モータ駆動装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の同期モータ駆動装置を備えた冷凍サイクルを有する機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−38855(P2013−38855A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171134(P2011−171134)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】