説明

回路基板用金属付きポリイミドフィルム及びその製造方法

【課題】 特殊な材料を使用することなく、しかも比較的少ない工程数で、ポリイミドフィルムに高密着強度に導体層が密着した金属付きポリイミドフィルムを安価に作製できる、回路基板用金属付きポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 無機充填材含有ポリイミドフィルムをアルカリ性過マンガン酸溶液で処理した後、無電解銅メッキを行うか、または、無電解銅メッキ及び電解銅メッキを順次行う。好ましくは、アルカリ性過マンガン酸溶液として、過マンガン酸カリウム溶液または過マンガン酸ナトリウム溶液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路基板用金属付きポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。詳しくは、テープオートメイティッドボンディング(TAB)用フィルム、フレキシブル回路基板(FPC)等に特に有用な金属付きポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは優れた耐熱性のみならず、優れた寸法安定性、耐溶剤性及び電気的・機械的特性を有していることから、電子機器等の絶縁材料として広く利用されている。特にポリイミドフィルム上に導体層を形成したCCL(Copper Clad Lamination)は、テープオートメイティッドボンディング(TAB)などのフレキシブル回路基板(FPC)に多用されている。
【0003】
従来CCLとしては、ポリイミドフィルムと銅箔をエポキシ樹脂などの接着剤を用いて貼り合わせた3層CCLポリイミドフィルムが広く用いられてきた。しかしながら、用いる接着剤がCCLの電気絶縁性、耐熱性、機械強度などに悪影響を及ぼし、本来のポリイミドの特性が損なわれるという問題があった。
【0004】
従って、接着剤を用いずに、銅箔にポリイミドワニスまたはポリアミック酸ワニスをコートし、これを乾燥してフィルムを形成する方法(キャスト法)により作製される2層CCLが現在主流となっている。しかし、かかるキャスト法2層CCLでは、例えば12〜35μm程度の厚みを有する銅箔が使用されているが、12μm以上の厚みの銅箔では、サブトラクティブ法により40μmピッチ未満の微細な回路形成が困難となるため、12μm厚の銅箔を用いて製造した2層CCLの導体層をハーフエッチングして薄くする手法や、5μm以下の特殊な銅箔を使用する手法が取られている。しかし、ハーフエッチングの場合、厚さの制御が容易ではなく、また薄い銅箔を用いる場合、取り扱いが容易ではなく、更に何れの手法ともコスト面で不利になるという問題がある。
【0005】
そこで、このような問題を解消する為に、ポリイミド樹脂フィルム上に、スパッタリングでコバルト、ニッケル、クロムといった下地となる金属層を直接形成した後、無電解銅メッキ、更には電解銅メッキにより導体層を形成し2層CCLを作製する方法(スパッタ法)も試みられている。しかし、スパッタ法には特殊な装置が必要であり、またピンホールなどの不具合も生じやすく、コスト面で不利である。また回路形成時に下地の金属層がエッチングで取り除きにくいという問題がある。更に、スパッタ法CCLは耐熱性に問題があり高温下の長時間の使用で接着性が低下する傾向にある。
【0006】
一方、スパッタ法によらずにポリイミドフィルム上にメッキにより導体層を形成する方法も試みられ、例えば、以下の(1)〜(8)の方法が報告されている。
【0007】
(1)特開平3−6382号公報(特許文献1)
ポリイミドフィルムをアルカリ水溶液で処理して厚さ100〜1500Åの改質層を形成し、該改質層上に1μm以下の無電解メッキ金属層を形成し、加熱により金属を50Å以上かつ改質層全体厚さの範囲内で拡散させ、無電解メッキ、電解メッキにより導体層を所望の厚さにして導体層を形成する方法。
(2)特開平6−21157号公報(特許文献2)
ポリイミドフィルムを過マンガン酸塩または次亜塩素酸塩の水溶液で親水化し、不純物含有量が10質量%以下で厚みが0.01〜0.1μmであるニッケルメッキ層、コバルトメッキ層又はニッケル・コバルトメッキ層を無電解メッキで形成し、さらに無電解銅メッキ及び電解銅メッキにより導体層を形成する方法。
(3)特開平8−031881号公報(特許文献3)
ポリイミドフィルムを、ヒドラジン及びアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液で処理し、触媒付与後、ニッケル、コバルト又は合金を無電解メッキにより設け、不活性雰囲気下で熱処理し、無電解銅メッキ及び電解銅メッキにより導体層を形成する方法。
(4)特開2000−289167号公報(特許文献4)
ポリイミド前駆体にパラジウム化合物を添加し加熱処理して得られたフィルムを希硫酸で活性化処理し、無電解銅メッキ及び電解銅メッキにより導体層を形成する方法。
(5)特開2002−208768号公報(特許文献5)
ポリイミドフィルムを、1級アミン含有有機ジスルフィド化合物又は1級アミン含有有機チオール化合物を含むアルカリ水溶液で処理し、洗浄、乾燥後、触媒を付与し、無電解銅メッキ及び電解銅メッキにより導体層を形成する方法。
(6)特開2002−256443号公報(特許文献6)
ポリイミドフィルムを、膨潤処理、アルカリ性過マンガン酸溶液による粗化処理、中和処理、脱脂処理、アルカリ処理によるイミド環を開環、銅イオン溶液処理による銅イオン吸着、還元処理による銅析出、無電解銅メッキ及び電解銅メッキにより導体層を形成する方法。
(7)特開2003−013243号公報(特許文献7)
ポリイミドフィルムを、アルカリ水酸化物水溶液で処理しイミド結合を加水分解、低分子の加水分解生成物を除去、触媒付与、無電解金属メッキ(強い密着強度が必要な場合無電解ニッケルメッキ後に無電解銅メッキを行うことが必要)を行う方法。
(8)特開2003−136632号公報(特許文献8)
アルコキシシラン変性ポリイミドによりポリイミドフィルムを作製し、パラジウム触媒溶液で処理後、無電解銅メッキ及び電解銅メッキにより導体層を形成する方法。
【0008】
乾式プロセスによらずに導体層(銅メッキ層)を形成する方法としては、上記(1),(3),(5),(7)のように、アルカリ溶液でポリイミド表面を処理し、イミド環の開環反応によりカルボキシル基を導入し、金属と親和性を高める方法が主として試みられてきた。しかし、(1)では各工程の制御が容易ではなく汎用性に欠けるという問題があり、(3)では銅メッキに先立ってニッケルやコバルトメッキが必要であり、(7)も導体層の強い密着強度を得るためにはやはり銅メッキに先立ってニッケルメッキが必要であり、ニッケルメッキ、コバルトメッキは、回路形成のためのエッチング工程で取り除きにくいという問題がある。また(3)及び(5)は特殊なアルカリ溶液が必要であることから、汎用性に欠け、コスト面でも不利である。
【0009】
また、ポリイミドフィルムをアルカリ性過マンガン酸溶液で処理する方法((2)、(6))の場合、(2)の方法では、銅メッキに先だってニッケルメッキやコバルトメッキが必要であり、また、(6)の方法は工程数が多く、操作が複雑で、いずれの方法も汎用性に欠け、コスト面でも不利である。また、一般にポリイミドフィルムはアルカリ溶液により化学的に損傷を受けやすい傾向にあり、特により活性の高いアルカリ性過マンガン酸溶液については、処理時における表面制御の困難性などから、実際にはほとんど用いられてこなかった。
【0010】
また、アルカリ溶液等の処理を行わずに導体層を形成する方法((4)、(8))の場合、(4)の銅メッキ触媒を含むポリイミドフィルムを使用する方法では、高価なパラジウム化合物を相当量使用する必要があり、また(8)のアルコキシシラン変性ポリイミドを使用する方法では、特殊なポリイミドを使用する必要があるため、何れも汎用性に欠け、コスト面でも不利である。
【0011】
このように、従来のポリイミドフィルムに銅メッキにより導体層を形成する方法は、密着強度の高い導体層を得るためには、工程数が多く操作が煩雑になる、特殊な材料や工程制御が必要になる等から、汎用性に欠け、コスト増が避けられないという問題があった。
【0012】
従って、ポリイミドフィルム上に密着強度の高い導体層を形成するための、より簡便で安価な方法が求められている。
【特許文献1】特開平3−6382号公報
【特許文献2】特開平6−21157号公報
【特許文献3】特開平8−031881号公報
【特許文献4】特開2000−289167号公報
【特許文献5】特開2002−208768号公報
【特許文献6】特開2002−256443号公報
【特許文献7】特開2003−013243号公報
【特許文献8】特開2003−136632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、特殊な材料を使用することなく、しかも比較的少ない工程数で、ポリイミドフィルムに高密着強度の導体層が密着した回路基板用の金属付きポリイミドフィルムを安価に作製できる、金属付きポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
特に、ポリイミドフィルム層の少なくとも片面に密着強度の高い導体層を有し、かつ、耐熱性にも優れ、それを用いることで、電気絶縁性、耐熱性及び機械強度に優れた回路基板を実現できる、回路基板用の金属付きポリイミドフィルム、及びそのような金属付きポリイミドフィルムを、特殊な材料を使用することなく、しかも比較的少ない工程数で製造することがきる、金属付きポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意研究した結果、汎用の無機充填材を含有させたポリイミドフィルムの表面をアルカリ性過マンガン酸溶液で粗化処理することで、ポリイミドフィルムの表面に容易に適度な凹凸面を形成することができ、さらに該粗化されたポリイミドフィルムの表面に銅メッキを施すと高い密着強度の導体層(銅メッキ層)が得られることを知見し、該知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに到った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の内容を含むものである。
(1)無機充填材含有ポリイミドフィルムを、アルカリ性過マンガン酸溶液で処理し、無電解銅メッキを行うことを特徴とする、回路基板用金属付きポリイミドフィルムの製造方法。
(2)ポリアミック酸及び/又はポリイミド、並びに無機充填材を含有する樹脂組成物ワニスを加熱乾燥して得られる無機充填材含有ポリイミドフィルムを、アルカリ性過マンガン酸溶液で処理し、無電解銅メッキを行うことを特徴とする、上記(1)記載の方法。
(3)ポリアミック酸及び/又はポリイミド、並びに無機充填材を含有する樹脂組成物ワニスを支持体上に塗布し、加熱乾燥して得られる無機充填材含有ポリイミドフィルムに対して、アルカリ性過マンガン酸溶液処理及び無電解銅メッキを順次行うことを特徴とする、上記(1)記載の方法。
(4)支持体が銅箔であることを特徴とする、上記(3)記載の方法。
(5)支持体がポリイミドフィルムであることを特徴とする、上記(3)記載の方法。
(6)アルカリ性過マンガン酸溶液処理の前に、無機充填材含有ポリイミドフィルムをアルカリ溶液で膨潤処理することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法。
(7)無電解銅メッキの後、さらに電解銅メッキを行うことを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の方法。
(8)無電解銅メッキの前に、無機充填材含有ポリアミドフィルム表面に触媒を付与することを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法。
(9)触媒がパラジウムであることを特徴とする、上記(8)記載の方法。
(10)無機充填材が、シリカ、シリコン粒子及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の方法。
(11)無機充填材がシリカであることを特徴とする、上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の方法。
(12)無機充填材の平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする、上記(1)〜(11)のいずれか一つに記載の方法。
(13)ワニス中の無機充填材の配合量がポリアミック酸及び/又はポリイミドに対して2〜100質量%であることを特徴とする、上記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の方法。
(14)アルカリ性過マンガン酸溶液が過マンガン酸カリウム溶液又は過マンガン酸ナトリウム溶液であることを特徴とする、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の方法。
(15)無機充填材含有ポリイミドフィルムの厚みが5〜125μm、無電解銅メッキ層の厚みが0.1〜3μmであることを特徴とする、上記(1)〜(6)、(8)〜(14)のいずれか一つに記載の方法。
(16)無機充填材含有ポリイミドフィルムの厚みが5〜125μm、無電解銅メッキ層の厚みが0.1〜3μmであり、無電解銅メッキ層と電解銅メッキ層の合計厚みが3〜35μmである、上記(7)〜(14)のいずれか一つに記載の方法。
(17)銅箔からなる支持体の厚みが3〜35μmである、上記(4)、(6)〜(16)のいずれか一つに記載の方法。
(18)ポリイミドフィルムからなる支持体の厚みが10〜125μmである、上記(5)〜(16)のいずれか一つに記載の方法。
(19)無電解銅メッキ又は電解銅メッキの後に、アニール処理を行うことを特徴とする、上記(1)〜(18)のいずれか一つに記載の方法。
(20)無機充填材含有ポリイミドフィルムが、さらにポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾオキサゾールおよびポリベンゾイミダゾールからなる群から選択される1種以上の耐熱性樹脂を30質量%以下で含むことを特徴とする、上記(1)〜(19)のいずれか一つに記載の方法。
(21)耐熱性樹脂が分子骨格中にフェノール性水酸基を有する耐熱性樹脂である、上記(20)記載の方法。
(22)ポリイミドフィルム層と、該ポリイミドフィルム層の少なくとも片面に形成された導体層とを含む金属付きポリイミドフィルムであって、
ポリイミドフィルム層が無機充填材を含有し、かつ導体層が形成されているポリイミドフィルム層の表面が粗化されていることを特徴とする回路基板用金属付きポリイミドフィルム。
(23)無機充填材を含有するポリイミドフィルム層が支持体上に形成されていることを特徴とする、上記(22)記載の金属付きポリイミドフィルム。
(24)支持体が銅箔層であることを特徴とする、上記(23)記載の金属付きポリイミドフィルム。
(25)支持体がポリイミドフィルム層であることを特徴とする、上記(23)記載の金属付きポリイミドフィルム。
(26)無機充填材がシリカ、シリコン粒子及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、上記(22)〜(25)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(27)無機充填材がシリカであることを特徴とする、上記(22)〜(25)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(28)無機充填材の平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする、上記(22)〜(27)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(29)無機充填材を含有するポリイミドフィルム層中の無機充填材の含有量がポリイミドに対し2〜100質量%であることを特徴とする、上記(22)〜(28)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(30)無機充填材を含有するポリイミドフィルム層と該層の片面又は両面に形成された導体層とを含む積層体を構成し、無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の厚みが5〜125μm、導体層の厚みが3〜35μmであることを特徴とする、上記(22)、(26)〜(29)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(31)銅箔層/無機充填材を含有するポリイミドフィルム層/導体層の順に積層した積層体を構成し、銅箔層の厚みが3〜35μm、無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の厚みが5〜125μm、導体層の厚みが3〜35μmであることを特徴とする、上記(24)、(26)〜(29)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(32)ポリイミドフィルム層/無機充填材を含有するポリイミドフィルム層/導体層の順に積層した積層体を構成し、ポリイミドフィルム層の厚みが10〜125μm、無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の厚みが5〜125μm、導体層の厚みが3〜35μmであることを特徴とする、上記(25)〜(29)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(33)無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の粗化された面の表面粗さが100〜1500nmであることを特徴とする、上記(22)〜(32)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(34)導体層が銅メッキ層であることを特徴とする、上記(22)〜(33)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(35)ポリイミドフィルム層の粗化された表面がアルカリ性過マンガン酸溶液処理により粗化されたものであることを特徴とする、上記(22)〜(34)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(36)アルカリ性過マンガン酸溶液が過マンガン酸カリウム溶液又は過マンガン酸ナトリウム溶液であることを特徴とする、上記(35)記載の金属付きポリイミドフィルム。
(37)無機充填材含有ポリイミドフィルムが、さらにポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾオキサゾールおよびポリベンゾイミダゾールからなる群から選択される1種以上の耐熱性樹脂をポリイミドに対して30質量%以下で含むことを特徴とする、上記(22)〜(36)のいずれか一つに記載の金属付きポリイミドフィルム。
(38)耐熱性樹脂が分子骨格中にフェノール性水酸基を有する耐熱性樹脂である、上記(37)記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属付きポリイミドフィルムの製造方法によれば、特殊な材料を使用せず、しかも比較的少ない工程数で、ポリイミドフィルムに高密着強度に導体層が密着した、特に回路基板用に好適な、金属付きポリイミドフィルムを製造することができ、従来のこの種の金属付きポリイミドフィルムの製造方法に比べて、製造効率の向上及び製造コストの削減を図ることができる。
【0017】
また、本発明の金属付きポリイミドフィルムによれば、ポリイミドフィルム層の少なくとも片面に密着強度の高い導体層を有し、しかも、導体層とポリイミドフィルム層間には、接着剤や下地層を有していないため、耐熱性に優れ、かつ、回路形成の際の煩雑な工程を必要としない回路基板用材料となる。従って、本発明の金属付きポリイミドフィルムを使用することで、安価で、電気絶縁性、耐熱性、機械強度等に優れた回路基板の作製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の金属付きポリイミドフィルムの製造方法は、無機充填材を含有するポリイミドフィルムを、アルカリ性過マンガン酸溶液で処理し、無電解銅メッキを行うことを主たる特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明は、ポリアミック酸及び/又はポリイミド、並びに無機充填材を含有する樹脂組成物ワニスを用いて成膜した無機充填材を含有するポリイミドフィルム(以下、「無機充填材含有ポリイミドフィルム」とも略称する。)に、アルカリ性過マンガン酸溶液処理を行うことで、当該ポリイミドフィルムの表面が無電解銅メッキに好適な粗面となり、該粗化されたポリイミドフィルムの表面に無電解銅メッキを行うと、高密着強度の銅メッキ層による導体層を形成できることを見出したものであり、好ましくは、無電解銅メッキ後に電解銅メッキを行うことで、さらに密着強度の高い銅メッキ層による導体層を形成することができる。また、ポリイミドフィルムに無機充填材が含まれることにより、アルカリ性過マンガン酸溶液でポリイミドフィルム表面を処理した場合でも表面制御を容易に行うことができ、メッキにより導体層を形成するための好適な粗面を容易に形成することができる。
【0020】
かかる本発明の金属付きポリイミドフィルムの製造方法では、特殊な材料を使用する必要がなく、ポリイミドフィルム層(無機充填材含有ポリイミドフィルムの層)の少なくとも一方の表面が粗化されて、その粗化されたポリイミドフィルム層の表面に銅メッキ層による導体層が高密着強度で密着した積層体からなる金属付きポリイミドフィルムを比較的少ない工程数で得ることができる。そして、こうして得られる金属付きポリイミドフィルムは、接着剤や銅メッキ層形成のための下地層をスパッタやメッキによって形成する必要がないことから、耐熱性に優れ、かつ、回路形成の際の煩雑な工程を必要としない回路基板用材料となり、該金属付きポリイミドフィルムを使用することによって、安価で、電気絶縁性、耐熱性、機械強度等に優れた回路基板の作製が可能となる。
【0021】
本発明で使用するポリアミック酸及び/又はポリイミド、並びに無機充填材を含有する樹脂組成物ワニス(以下、「無機充填剤含有樹脂組成物ワニス」とも略称する。)とは、キャスト法等でポリイミドフィルムを製造する際に使用するポリアミック酸ワニス、ポリイミドワニス、又はポリアミック酸とポリイミドを含むワニス(以下、これらをまとめて「ポリアミック酸ワニス等」ともいう。)にさらに無機充填材を配合したものである。ポリアミック酸ワニス等は、フィルムを形成可能であれば、従来公知のものを制限なく使用できるが、本発明で製造する金属付きポリイミドフィルムは、主にフレキシブル回路基板(FPC)等の回路基板用を目的としており、耐熱性、機械的強度等に優れたフレキシブル回路基板を得るためには、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類との縮重合体であるポリアミック酸及び/又は該ポリアミック酸のイミド化物(即ち、ポリイミド)を含むワニスが好適である。
【0022】
ポリアミック酸等を形成する芳香族テトラカルボン酸類の具体例としては、例えば、ピロメリット酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,3’,4,4’−テトラカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸およびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられ、ポリアミック酸等の製造にあたっては、これら芳香族テトラカルボン酸類の酸無水物が好ましく使用され、1種又は2種以上の化合物が使用される。
【0023】
また、ポリアミック酸等を形成する芳香族ジアミン類の具体例としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジ(m−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,4−ジアミノベンゼン、2,5−ジアミノトルエン、イソホロンジアミン、4−(2−アミノフェノキシ)−1,3−ジアミノベンゼン、4−(4−アミノフェノキシ)−1,3−ジアミノベンゼン、2−アミノ−4−(4−アミノフェニル)チアゾール、2−アミノ−4−フェニル−5−(4−アミノフェニル)チアゾール、ベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、オクタフルオロベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,2−ビス(アニリノ)エタン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,6−ジアミノナフタレン、ジアミノベンゾトリフルオライド、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノアントラキノン、1,3−ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(アニリノ)オクタフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパンおよびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上が使用される。
【0024】
なお、ポリアミック酸等の形成において、芳香族テトラカルボン酸類の一部に換えて、シクロペンタンテトラカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物等の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸類を使用してもよい。ただし、その際の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸類の使用量は芳香族テトラカルボン酸類に対して50モル%以下であるのが好ましい。
【0025】
本発明における好適な芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられ、また本発明における好適な芳香族ジアミン類としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、5(6)−アミノ−1−(4’アミノフェニル)−1,3−トリメチルインダンなどが挙げられる。本発明に好適なポリアミック酸および/またはポリイミドとしては、例えば、上記好適な芳香族テトラカルボン酸類から選択される1種以上と上記好適な芳香族ジアミン類との縮重合体を挙げることができる。
【0026】
ワニスにおける有機溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−,m−,またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素系溶媒の使用も可能である。
【0027】
ポリアミック酸ワニス等は、例えば、上記の有機溶媒中、テトラカルボン酸類とジアミン類を加熱、縮重合してポリアミック酸を合成することによりポリアミック酸ワニスが得られ、さらにこうして得られたポリアミック酸ワニスを昇温するか、或いは該ポリアミック酸ワニスに無水酢酸/ピリジン混合液等を添加して、ポリアミック酸をイミド化することによって、ポリイミドワニス又はポリアミック酸とポリイミドを含むワニスが調製される。またポリイミドワニスは、テトラカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とを反応させる方法によっても製造することができる。
この方法によりポリイミドワニスを形成するときの芳香族テトラカルボン酸無水物の具体例としては、例えば、ピロメリット酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,3’,4,4’−テトラカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸などの酸無水物が好ましく使用され、1種又は2種以上の化合物が使用される。また、芳香族テトラカルボン酸無水物の一部に換えて、シクロペンタンテトラカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物等の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸類の酸無水物を使用してもよい。ただし、その際の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸類の使用量は芳香族テトラカルボン酸類に対して50モル%以下であるのが好ましい。
中でも、特にピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などが好適である。
ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジイソシアネート、(1,1’−ビフェニル)−3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、2,7−ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。中でも、芳香族ジイソシアネートが好適である。これらはいずれか一種が単独で使用されるか、二種以上が併用される。
なおワニスとするためには、ポリイミドが溶剤可能性である必要があるが、用いる溶剤によりジカルボン酸無水物およびジイソシアネート化合物を適宜選択して溶剤可溶性のポリイミドを調製することができる。また次に記載するように市販品を用いることもできる。
ポリアミック酸またはポリイミドは2種以上を混合して用いることもできる。
【0028】
本発明において、ポリアミック酸ワニス等は、市販品をそのまま用いることができる。ポリアミック酸ワニスの具体例としては、例えば「UイミドJM−A」、「UイミドJM−C」(いずれもユニチカ社製)、「KAYAFLEX KPI−100」(日本化薬社製)等が挙げられる。また、ポリイミドワニスの具体例としては、例えば、「リカコートSN−20」(新日本理化社製)等が挙げられ、さらには「マトリミド5218」(バンティコ社製)等の溶剤可溶性ポリイミドを有機溶剤に溶解させてワニスにしたもの等も挙げられる。
【0029】
また、当該樹脂組成物ワニスには、ポリアミック酸及び/又はポリイミド以外の他の耐熱性樹脂を若干量含有させてもよく、該他の耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール等が挙げられ、中でも、ポリアミドが好ましい。耐熱性樹脂は1種であっても、2種以上を混合して用いてもよい。このような他の耐熱性樹脂を適量含有させると、相分離構造が形成されることにより、ポリイミドフィルムを粗化処理する際、微細な凹凸面が形成されやすくなる傾向にある。かかる耐熱性樹脂を含む樹脂組成物ワニスの調製は、耐熱性樹脂をポリアミック酸ワニス等にそのまま溶解させる、或いは、該耐熱性樹脂を上記の有機溶媒に溶解させて溶液調製後、該溶液(ワニス)とポリアミック酸ワニス等とを混合した後、無機充填材を混合・分散させる等して行うことができる。なお、耐熱性樹脂は、金属層や支持体となるポリイミドフィルムとの親和性を向上させるため、分子骨格中にフェノール性水酸基を有するものが好ましく、フェノール性水酸基当量が100〜1500g/eqの範囲のものが特に好適である。耐熱性樹脂の配合量は、用いる耐熱性樹脂の種類によっても異なるが、一般にポリアミック酸及び/又はポリイミドに対して30質量%以下であり、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは5〜30質量%である。30質量%を超えると、相分離が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0030】
本発明において、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと無機充填材とを含有する樹脂組成物ワニスは、上記のポリアミック酸ワニス等に無機充填材を混合・分散させることで調製されるが、溶剤可溶性ポリイミドの市販品を前記の有機溶媒に溶解させて、溶液を得た後、該溶液に無機充填材を混合・分散して調製してもよい。混合・分散は、ホモジナイザー、自転・公転方式ミキサー、3本ロールミル、ボールミル等を使用して行うことができるが、ホモジナイザーまたは自転・公転方式ミキサーを使用して行うのが好ましい。3本ロールミル等のロールミルを使用した場合、樹脂組成物ワニスが吸湿しやすい傾向となり、吸湿が著しいと、溶剤可溶性ポリイミドワニスを使用している場合、ロール上で樹脂が析出することがあり、また、ポリアミック酸を使用している場合、分子量の低下を引き起こすことがある。なお上記の任意に配合可能な耐熱性樹脂を配合する場合、吸湿による析出や分子量低下などの問題を起さないものを選択し、ロール分散機を用いて予め該耐熱性樹脂に無機充填材を分散させておき、これをポリアミック酸ワニス及び/又はポリイミドワニスに混合して調製することで良好に混合・分散させることが可能である。また、予め無機充填材を前記有機溶媒に分散させてスラリーとし、このスラリー中で上記縮重合反応を行い、ポリアミック酸ワニス及び/又はポリイミドワニスを調製することもできる。
また該スラリーをポリアミック酸ワニス及び/又はポリイミドワニスに混合して調製することもできる。
【0031】
本発明において、無機充填材としては、種々のプラスチック成形品等の充填材として使用されている汎用の無機充填材を使用でき、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、シリコン粒子、などが挙げられ、これらの中でも優れたメッキピール強度を得る等の点から、シリカ、シリコン粒子、炭酸カルシウムが好ましく、シリカが特に好ましい。なお、これらの無機充填材は、製造する金属付きポリイミドフィルム(回路基板)の耐湿性向上のために、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理したものを使用してもよい。無機充填材は1種を用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明で使用する無機充填材は、平均粒径が0.01〜5μmであるものが好ましく、平均粒径0.05〜2μmがより好ましい。平均粒径が5μmを超える場合、粗化後メッキにより形成した導体層に回路パターンを形成する際にファインパターンの形成を安定に行うことが困難になる場合がある。また、平均粒径が0.01μm未満の場合、粗化により凹凸面が十分に形成されず十分なメッキピール強度が得られないおそれがあり、好ましくない。また、無機充填材は、最大粒径が10μm以下であるものが好ましく、最大粒径5μm以下がより好ましく、最大粒径3μm以下がさらに好ましい。無機充填材の最大粒径を制御する方法は、無機充填材に風を当てて重量差で分級する風力分級や、無機充填材を水に分散させてろ過により分級するろ過分級などが挙げられる。無機充填材の配合量は、ワニス中のポリアミック酸及び/又はポリイミド(固形分)に対して(但し、耐熱性重樹脂を含む場合は、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと耐熱性重樹脂との合計量(固形分)に対して)、2〜100質量%が好ましく、5〜45質量%がより好ましい。100質量%を超えると、粗化処理の際、樹脂表面の劣化が顕著となり十分なメッキピール強度が得られ難くなる傾向にある。また2質量%未満では、粗化により凹凸面が十分に形成されず十分なメッキピール強度が得られない傾向にある。
【0033】
なお、上記無機充填材の平均粒径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置により、無機充填材の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填材を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、株式会社堀場製作所製 LA−500等を使用することができる。
【0034】
本発明におけるポリアミック酸及び/又はポリイミドと無機充填材とを含有する樹脂組成物ワニスには、フレキシブル回路基板として用いるために要求されるポリイミドフィルムの特性や、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上述した以外の他の成分を配合することができる。例えば、カップリング剤、着色剤、チキソトロピック剤、帯電防止剤、可塑剤などを挙げることできる。なお、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は、一般にポリイミドフィルム製造に必要な耐熱性が得られにくい傾向にあり、さらにポリイミドフィルムの寸法変化率が増大する傾向にあるため、本発明におけるポリイミドワニスには実質的に含まれないのが好ましい。
【0035】
本発明において、無機充填材含有ポリイミドフィルムは、通常、上記のポリアミック酸及び/又はポリイミドと無機充填材とを含有する樹脂組成物ワニスを支持体上に塗布し、加熱乾燥することで形成する。こうして作製する無機充填材含有ポリイミドフィルムの厚みは、目的の回路基板の積層構造、具体的用途等によっても異なるが、5〜125μm程度とするのが一般的であり、5μm未満では、回路基板の絶縁層としての機械強度が十分に得られなくなる場合があり、125μmを超えるとコスト高となる上、ワニスの塗工・乾燥が困難となる傾向となる。次に、こうして作製した無機充填材含有ポリイミドフィルムをアルカリ性過マンガン酸溶液で処理した後、該ポリイミドフィルムのアルカリ性酸化剤溶液処理で粗化された面に銅メッキを施す。上記の支持体には、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと無機充填材とを含有する樹脂組成物ワニスを塗布し、加熱乾燥して無機充填材含有ポリイミドフィルムを作製する間、その性状及び形態変化を実質的に起さない材料よりなるものであれば制限なく使用できるが、最終製品の金属付きポリイミドフィルムを、支持体上に無機充填材含有ポリイミドフィルムの層が積層した構造物とする場合、支持体には、一般に、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム等の耐熱フィルム(好ましくはポリイミドフィルム)、銅箔、アルミ箔、ステンレス箔等の金属箔(好ましくは銅箔)等が使用される。すなわち、本発明において、支持体は、製造する金属付きポリイミドフィルムの積層構成に応じて、予めアルカリ性過マンガン酸溶液処理の前に無機充填材含有ポリイミドフィルムから剥離するか(製造すべき金属付きポリイミドフィルムが支持体を含まない積層構成の場合)、無機充填材含有ポリイミドフィルムに積層したまま(製造すべき金属付きポリイミドフィルムが支持体を含む積層構成の場合)にするかが決定される。なお、支持体に銅箔を使用する場合、該銅箔の厚みは3〜35μm程度が好ましく、12〜35μm程度がより好ましい。厚みが3μm未満の場合、ワニスの塗工、乾燥等における作業性を低下させ、厚みが35μmを超えると、該銅箔から微細回路を形成することが困難な傾向となる(すなわち、銅箔は最終製品(回路基板用金属付きポリイミドフィルム)において導体層として使用されるものであり、該導体層への微細回路の形成が困難な傾向となる。)。一方、支持体にポリイミドフィルムを使用する場合、該ポリイミドフィルムの厚みは10〜125μm程度が好ましく、25〜75μm程度がより好ましい。厚みが10μm未満の場合、ワニスの塗工、乾燥時の支持性に劣り、125μmを超えると、最終製品(金属付きポリイミドフィルム)の折り曲げ性が低下する。なお、ポリイミドフィルムは最終製品(回路基板用金属付きポリイミドフィルム)において絶縁層として使用される。
なお、本発明の金属付きポリイミドフィルム(最終製品)の具体的な積層構成は後述の通りである。
【0036】
無機充填材含有樹脂組成物ワニスの加熱乾燥は、溶媒を揮散させてフィルム状物に成形する初期加熱工程と、溶媒の完全除去が行われる中〜後期加熱工程に分けられる。ポリアミック酸を用いた場合は中〜後期加熱工程においてポリアミック酸のイミド化も行われる。例えば、初期加熱工程は、溶剤の沸点の違いや、支持体と樹脂組成物の接着性等を考慮しながら、作業性に応じて適宜決定することができるが、一般的には、75〜150℃で1分〜30分程度の範囲から適宜選択することができる。また中〜後期加熱工程も、当業者が適宜好ましい条件を設定することができるが、例えば160〜370℃で1〜40時間の範囲から選択できる。なお、かかる中〜後期加熱工程は、一定温度で所定時間加熱する一段階の加熱でもよいが、無機充填材含有ポリイミドフィルムの反りを防止する等の点から、例えば、低温域(160〜220℃の範囲から選択される一定温度)で5分〜12時間程度加熱し、続いて中温域(220〜300℃の範囲から選択される一定温度)で30〜18時間程度加熱し、さらに高温域(300〜370℃の範囲から選択される一定温度)で1〜24時間程度加熱する3段階加熱等の、多段階加熱を行うのが好ましい。
【0037】
本発明において、無機充填材含有ポリイミドフィルムの表面を粗化するために使用するアルカリ性過マンガン酸溶液としては、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムを溶解した溶液を挙げることができる。該アルカリ性過マンガン酸溶液による処理方法は特に制限されず、例えば、支持体から剥離した無機充填材含有ポリイミドフィルムを40〜80℃に加熱したアルカリ性過マンガン酸溶液に浸漬する、或いは、支持体上に形成された無機充填材含有ポリイミドフィルムを支持体とともに40〜80℃に加熱したアルカリ性過マンガン酸溶液に浸漬する等として行えばよい。処理時間は特に限定されないが、5〜20分程度が好ましい。また、アルカリ性過マンガン酸溶液における過マンガン酸塩の濃度は80〜150g/l程度が好ましく、110〜120g/l程度がより好ましい。
【0038】
また、アルカリ性過マンガン酸溶液処理に先立って、ポリイミドフィルムを膨潤させる処理を行うのが好ましい。該膨潤処理にはアルカリ溶液、界面活性剤溶液等を用いることができ、好ましくはアルカリ溶液であり、該アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等を挙げることができる。また、市販されている膨潤液を使用してもよく、例えば、アトテックジャパン株式会社製のスウェリング・ディップ・セキュリガンスP(Swelling Dip Securiganth P)、スウェリング・ディップ・セキュリガンス SBU(Swelling Dip Securiganth SBU)等を挙げることができる。該膨潤処理の方法は特に制限されず、例えば、支持体から剥離した無機充填材含有ポリイミドフィルムを40〜80℃に加熱した膨潤液に浸漬する、或いは、支持体上に形成された無機充填材含有ポリイミドフィルムを支持体とともに40〜80℃に加熱した膨潤液に浸漬する等として行えばよい。処理時間は特に限定されないが、好ましくは5〜20分程度である。
【0039】
こうして粗化されるポリイミドフィルムの表面の粗化の程度(表面粗さ)は、日本工業規格(JIS)B0601に記載の算術平均粗さ(Ra)で規定される。具体的には、例えば、ビーコ社(Veeco Instruments)製の表面形状測定システム WYCO NT3300により測定することができる。該表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))は100〜1500nmであるのが好ましく、100〜1200nmであるのがより好ましく、200〜800nmであるのがさらに好ましい。100nm未満の場合、十分なメッキピール強度が得られない傾向となり、1500nmを超えると、微細回路の形成が困難になる傾向となるため、好ましくない。
【0040】
粗化された無機充填材含有ポリイミドフィルムの表面への銅メッキ層、すなわち、銅メッキによる導体層の形成は、無電解銅メッキと電解銅メッキを組み合わせた方法、又は導体層とは逆パターンのメッキレジストを形成し、無電解銅メッキのみで導体層を形成する方法により行うことができる。
【0041】
無電解銅メッキは、一般的にプリント配線板のアディティブ法あるいはセミアディティブ法で通常用いられる方法で行うことができる。すなわち、まず、前記のアルカリ性過マンガン酸溶液処理で粗化された無機充填材含有ポリイミドフィルムの表面に触媒付与を行った後、所定の無電解銅メッキ液に所定の条件の元に浸漬することで実施することができる。粗化表面に付与する触媒としては、無電解銅メッキで汎用されているパラジウム金属が好ましい。無電解銅メッキ液は、錯化剤や還元剤等の浴構成成分の違いで種々のものが市販されているが、特に限定されるものではない。
【0042】
無電解銅メッキ表面に、電解銅メッキを行なう方法も公知の方法に従って行うことができ、電解銅メッキ液についても、浴構成成分の違いで種々のものが使われるが、特に通常一般に用いられている硫酸銅メッキ浴が好ましい。
【0043】
無電解銅メッキ層の厚みは、一般に0.1〜3μmであり、好ましくは0.3〜2μmである。一方、電解銅メッキ層の厚みは、無電解銅メッキ層の厚みとの合計厚みが一般に3〜35μm、好ましくは5〜20μmとなる厚みである。すなわち、厚みが0.1〜3μm(好ましくは0.3〜2μm)の無電解銅メッキ層を形成後、無電解銅メッキ層と電解銅メッキ層のトータル厚みが3〜35μm(好ましくは5〜20μm)となるように電解銅メッキ層の形成を行う。
【0044】
こうして得られる銅メッキ層による導体層は、無機充填材含有ポリイミドフィルムの粗化された表面に高い密着強度をもって形成されるが、無電解銅メッキの後、または、無電解銅メッキと電解銅メッキを順次行ったの後に、150〜200℃で30分〜100時間程度アニール(aneal)処理することにより、導体層の無機充填材含有ポリイミドフィルムへの密着強度をさらに向上、安定化させることができる。
【0045】
このようなアニール処理を行うことで、本発明の金属付きポリイミドフィルムにおける、銅メッキ層による導体層の無機充填材含有ポリイミドフィルムとの密着強度は、例えば、以下の測定方法で測定されるピール強度が0.6kgf/cm以上、好ましくは0.7kgf/cm以上を達成する。
【0046】
[ピール強度の測定方法]
JIS C6481に準拠して行った。測定サンプルの導体メッキ厚は約30μmとした。
【0047】
本発明の金属付きポリイミドフィルムは回路基板用であり、最終的には、例えば、下記の(1)〜(5)の積層体に作製される。
(1)導体層(銅メッキ層)/無機充填材含有ポリイミドフィルム層
(2)銅箔層(支持体)/無機充填材含有ポリイミドフィルム層/導体層(銅メッキ層)
(3)導体層(銅メッキ層)/無機充填材含有ポリイミドフィルム層/導体層(銅メッキ層)
(4) ポリイミドフィルム層(支持体)/無機充填材含有ポリイミドフィルム層/導体層(銅メッキ層)
(5)導体層(銅メッキ層)/無機充填材含有ポリイミドフィルム層/ポリイミドフィルム層(支持体)/無機充填材含有ポリイミドフィルム層/導体層(銅メッキ層)
【0048】
(1)の積層体は、支持体上に無機充填材含有ポリイミドフィルムを作製後、アルカリ性過マンガン酸溶液処理及び無電解銅メッキ処理を順次行って無電解銅メッキ層を形成する、或いは、当該無電解銅メッキ層の形成後、さらに電解銅メッキ層を形成し、その後、無機充填材含有ポリイミドフィルムから支持体を剥離することで作製される。
該(1)の積層体を特にフレキシブル回路基板(FPC)用とする場合、無機充填材含有ポリイミドフィルム層の厚みは10〜75μm程度とするのが好ましい。
【0049】
(2)の積層体は、銅箔上に無機充填材含有ポリイミドフィルムを作製後、アルカリ性過マンガン酸溶液処理及び無電解銅メッキ処理を順次行って無電解銅メッキ層を形成する、或いは、当該無電解銅メッキ層の形成後、さらに電解銅メッキ層を形成することで作製される。
該(2)の積層体を特にフレキシブル回路基板(FPC)用とする場合、無機充填材含有ポリイミドフィルム層の厚みは10〜75μm程度とするのが好ましく、10〜50μm程度が特に好ましい。
【0050】
(3)の積層体は、支持体上に無機充填材含有ポリイミドフィルムを作製後、支持体を剥離し、無機充填材含有ポリイミドフィルムの両面にアルカリ性過マンガン酸溶液処理及び無電解銅メッキ処理を順次行って無電解銅メッキ層を形成する、或いは、当該無電解銅メッキ層の形成後、さらに電解銅メッキ層を形成することで作製される。
該(3)の積層体を特にフレキシブル回路基板(FPC)用とする場合、無機充填材含有ポリイミドフィルム層の厚みは10〜75μm程度とするのが好ましい。
【0051】
(4)の積層体は、ポリイミドフィルム(支持体)の片面に無機充填材含有ポリイミドフィルムを作製後、該無機充填材含有ポリイミドフィルムにアルカリ性過マンガン酸溶液処理及び無電解銅メッキ処理を順次行って無電解銅メッキ層を形成する、或いは、当該無電解銅メッキ層の形成後、さらに電解銅メッキ層を形成することで作製される。
該(4)の積層体を特にフレキシブル回路基板(FPC)用とする場合、ポリイミドフィルム(支持体)の厚みは10〜75μm程度とするのが好ましく、無機充填材含有ポリイミドフィルム層の厚みは10〜75μm程度とするのが好ましく、10〜25μm程度が特に好ましい。
【0052】
(5)の積層体は、ポリイミドフィルム(支持体)の両面に無機充填材含有ポリイミドフィルムを作製後、該両面の無機充填材含有ポリイミドフィルムにアルカリ性過マンガン酸溶液処理及び無電解銅メッキ処理を順次行って無電解銅メッキ層を形成する、或いは、当該無電解銅メッキ層の形成後、さらに電解銅メッキ層を形成することで作製される。
該(5)の積層体を特にフレキシブル回路基板(FPC)用とする場合、ポリイミドフィルム(支持体)の厚みは10〜50μm程度とするのが好ましく、無機充填材含有ポリイミドフィルム層の厚みは10〜25μm程度とするのが特に好ましい。
【0053】
本発明の金属付きポリイミドフィルムを用いて回路基板を作製する場合、導体層(銅メッキ層)に回路形成する方法としては、回路基板の技術分野において当業者に公知のサブトラクティブ法やセミアディティブ法などを用いることができる。サブトラクティブ法の場合、無電解銅メッキ層の上に電気メッキ層を形成した後、エッチングレジストを形成し、塩化第二鉄、塩化第二銅等のエッチング液でエッチングすることにより導体パターンを形成した後、エッチングレジストを剥離することにより、回路形成をすることが出来る。また、セミアディティブ法の場合には、無電解銅メッキ層上にパターンレジストを施し、所望の厚みの電解銅メッキ層(パターンメッキ層)を形成後、パターンレジストを剥離し、無電解銅メッキ層をフラッシュエッチで除去することにより、回路基板を得ることができる。
【0054】
銅箔に回路形成する方法としては、例えば、銅箔上にエッチングレジストを形成し、塩化第二鉄、塩化第二銅等のエッチング液でエッチングすることにより導体パターンを形成した後、エッチングレジストを剥離することにより、回路形成することが出来る。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の記載で「部」は「質量部」である。
【0056】
(実施例1)
まず、ポリアミック酸ワニス「UイミドJM−A」(固形分14.5w%、ユニチカ(株)社製)70部にシリカ粒子(平均粒径:0.22μm)を2.5部混合し、自転・公転方式ミキサー(あわとり練太郎AR250、株式会社シンキー製)で12分間分散させ、樹脂組成物ワニス(a)を作成した。
続いて、この樹脂組成物ワニス(a)を、厚さ18μmの銅箔のマット面上に、乾燥後の樹脂厚みが30μmとなるようにバーコートにて塗布し、まず、75〜130℃(平均110℃)で約20分間乾燥させ、さらに、180℃で30分、260℃で1時間、350℃で2時間の順に段階的に乾燥を行った。
【0057】
このようにして得られた樹脂組成物層/銅箔複合フィルムを、まず、「Swelling Dip Securiganth P」(アトテックジャパン(株)社製)を用いた膨潤液に60℃で5分間浸漬し、続いてアルカリ性過マンガン酸溶液に80℃で20分間浸漬して樹脂組成物層の表面の粗化を行い、最後に表面に残ったマンガンを還元除去した(表面粗さ:610nm)。
さらに引き続き、前記粗化処理を施した樹脂組成物層表面に無電界銅メッキの触媒付与を行ない、続いて無電解銅メッキ液に32℃で30分浸漬して1.5μmの無電解銅メッキ被膜を形成した。このものを150℃で30分乾燥後、酸洗し、続いて、含リン銅板をアノードとし陰極電流密度2.0A/dmで12分間電気銅メッキを行い、厚さ5μmの銅メッキ被膜を形成させた。180℃で30分間アニールを行なった後、このメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、0.66kgf/cmであった。また、このものをさらに、150℃、100時間アニール処理を行ってからメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、0.68kgf/cmであった。
【0058】
(実施例2)
まず、ポリアミック酸ワニス「UイミドJM−C」(固形分14.5w%、ユニチカ(株)社製)70部にシリカ粒子(平均粒径:0.22μm)を2.5部混合し、自転・公転方式ミキサー(あわとり練太郎AR250、株式会社シンキー製)で12分間分散させ、樹脂組成物ワニス(b)を作製した。
続いて、この樹脂組成物ワニス(b)を、厚さ18μmの銅箔のマット面上に、乾燥後の樹脂厚みが30μmとなるようにバーコーターにて塗布し、まず、75〜130℃(平均110℃)で約20分間乾燥させ、さらに、180℃で30分、260℃で1時間、350℃で2時間の順に段階的に乾燥を行った。
【0059】
このようにして得られた樹脂組成物層/銅箔複合フィルムを、まず、「Swelling Dip Securiganth P」(アトテックジャパン(株)社製)を用いた膨潤液に60℃で5分間浸漬し、続いてアルカリ性過マンガン酸溶液に80℃で20分間浸漬して樹脂組成物層の表面の粗化を行い、最後に表面に残ったマンガンを還元除去した(表面粗さ:678nm)。
さらに引き続き、粗化処理を施した樹脂組成物層表面に無電界銅メッキの触媒付与を行ない、続いて無電解メッキ液に32℃で30分浸漬して1.5μmの無電解銅メッキ被膜を形成した。このものを150℃で30分乾燥後、酸洗し、続いて、含リン銅板をアノードとし陰極電流密度2.0A/dmで12分間電気銅メッキを行い、厚さ5μmの銅メッキ被膜を形成させた。180℃で30分間アニールを行なった後、このメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、0.91kgf/cmであった。また、このものをさらに、150℃で100時間アニール処理を行ってからメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、1.02kgf/cmであった。
【0060】
(実施例3)
まず、ポリアミック酸ワニス「KPI−100」(固形分15.0w%、日本化薬(株)社製)67部にシリカ粒子(平均粒径:1.1μm)を2.5部混合し、自転・公転方式ミキサー(あわとり練太郎AR250、株式会社シンキー製)で12分間分散させ、樹脂組成物ワニス(c)を作成した。
続いて、この樹脂組成物ワニス(c)を、厚さ18μmの銅箔のマット面上に、乾燥後の樹脂厚みが30μmとなるようにバーコートにて塗布し、まず、75〜130℃(平均110℃)で約20分間乾燥させ、さらに、180℃で30分、260℃で1時間、350℃で2時間の順に段階的に乾燥を行った。
【0061】
このようにして得られた樹脂組成物層/銅箔複合フィルムを、まず、「Swelling Dip Securiganth P」(アトテックジャパン(株)社製)を用いた膨潤液に60℃で5分間浸漬し、続いてアルカリ性過マンガン酸溶液に80℃で20分間浸漬して樹脂組成物層表面の粗化を行い、最後に表面に残ったマンガンを還元除去した(表面粗さ:1110nm)。
さらに引き続き、粗化処理を施した樹脂組成物層表面に無電界銅メッキの触媒付与を行ない、続いて無電解メッキ液に32℃で30分浸漬して1.5μmの無電解銅メッキ被膜を形成した。このものを150℃で30分乾燥後、酸洗し、続いて、含リン銅板をアノードとし陰極電流密度2.0A/dmで12分間電気銅メッキを行い、厚さ5μmの銅メッキ被膜を形成させた。180℃で30分間アニールを行なった後、このメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、0.98kgf/cmであった。また、このものをさらに、150℃100時間アニール処理を行ってからメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、1.04kgf/cmであった。
【0062】
(実施例4)
まず、可溶性ポリイミド「マトリミド5218」(バンティコ(株)社製)をN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、25w%の溶液を調製した。また、フェノール性OH基含有ポリアミド樹脂「CPAM702」(フェノール水酸基当量677g/eq、日本化薬(株)社製)をN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、40w%の溶液を調製した。続いて、このマトリミド5218の25w%溶液32部とCPAM702溶液5部を混合し、さらにシリカ粒子(平均粒径:1.1μm)を2.5部混合して、自転・公転方式ミキサー(あわとり練太郎AR250、株式会社シンキー製)で12分間分散させ、樹脂組成物ワニス(d)を作成した。
続いて、この樹脂組成物ワニス(d)を、厚さ18μmの銅箔のマット面上に、乾燥後の樹脂厚みが30μmとなるようにバーコートにて塗布し、まず、75〜130℃(平均110℃)で約20分間乾燥させ、さらに、180℃で30分、240℃で20時間、260℃で5時間の順に段階的に乾燥を行った。
【0063】
このようにして得られた樹脂組成物層/銅箔複合フィルムを、まず、「Swelling Dip Securiganth P」(アトテックジャパン(株)社製)を用いた膨潤液に60℃で5分間浸漬し、続いてアルカリ性過マンガン酸溶液に80℃で20分間浸漬して樹脂組成物層表面の粗化を行い、最後に表面に残ったマンガンを還元除去した(表面粗さ:1170nm)。
さらに引き続き、粗化処理を施した樹脂組成物層表面に無電界銅メッキの触媒付与を行ない、続いて無電解メッキ液に32℃で30分浸漬して1.5μmの無電解銅メッキ被膜を形成した。このものを150℃で30分乾燥後、酸洗し、続いて、含リン銅板をアノードとし陰極電流密度2.0A/dmで12分間電気銅メッキを行い、厚さ5μmの銅メッキ被膜を形成させた。180℃で30分間アニールを行なった後、このメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、0.67kgf/cmであった。また、このものをさらに、150℃で100時間アニール処理を行ってからメッキ被膜と樹脂組成物層間の接着強度(メッキピール強度)を測定したところ、0.8kgf/cmであった。
下記表1に実施例1〜4の結果を示す。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填材含有ポリイミドフィルムを、アルカリ性過マンガン酸溶液で処理し、無電解銅メッキを行うことを特徴とする、回路基板用金属付きポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリアミック酸及び/又はポリイミド、並びに無機充填材を含有する樹脂組成物ワニスを加熱乾燥して得られる無機充填材含有ポリイミドフィルムを、アルカリ性過マンガン酸溶液で処理し、無電解銅メッキを行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリアミック酸及び/又はポリイミド、並びに無機充填材を含有する樹脂組成物ワニスを支持体上に塗布し、加熱乾燥して得られる無機充填材含有ポリイミドフィルムに対して、アルカリ性過マンガン酸溶液処理及び無電解銅メッキを順次行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
支持体が銅箔であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
支持体がポリイミドフィルムであることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
アルカリ性過マンガン酸溶液処理の前に、無機充填材含有ポリイミドフィルムをアルカリ溶液で膨潤処理することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
無電解銅メッキの後、さらに電解銅メッキを行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
無電解銅メッキの前に、無機充填材含有ポリアミドフィルム表面に触媒を付与することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
触媒がパラジウムであることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
無機充填材が、シリカ、シリコン粒子及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
無機充填材がシリカであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
無機充填材の平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
ワニス中の無機充填材の配合量がポリアミック酸及び/又はポリイミドに対して2〜100質量%であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
アルカリ性過マンガン酸溶液が過マンガン酸カリウム溶液又は過マンガン酸ナトリウム溶液であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
無機充填材含有ポリイミドフィルムの厚みが5〜125μm、無電解銅メッキ層の厚みが0.1〜3μmであることを特徴とする、請求項1〜6、8〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
無機充填材含有ポリイミドフィルムの厚みが5〜125μm、無電解銅メッキ層の厚みが0.1〜3μmであり、無電解銅メッキ層と電解銅メッキ層の合計厚みが3〜35μmである、請求項7〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
銅箔からなる支持体の厚みが3〜35μmである、請求項4、6〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
ポリイミドフィルムからなる支持体の厚みが10〜125μmである、請求項5〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
無電解銅メッキ又は電解銅メッキの後に、アニール処理を行うことを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
無機充填材含有ポリイミドフィルムが、さらにポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾオキサゾールおよびポリベンゾイミダゾールからなる群から選択される1種以上の耐熱性樹脂を30質量%以下で含むことを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
耐熱性樹脂が分子骨格中にフェノール性水酸基を有する耐熱性樹脂である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ポリイミドフィルム層と、該ポリイミドフィルム層の少なくとも片面に形成された導体層とを含む金属付きポリイミドフィルムであって、
ポリイミドフィルム層が無機充填材を含有し、かつ導体層が形成されているポリイミドフィルム層の表面が粗化されていることを特徴とする回路基板用金属付きポリイミドフィルム。
【請求項23】
無機充填材を含有するポリイミドフィルム層が支持体上に形成されていることを特徴とする、請求項22記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項24】
支持体が銅箔層であることを特徴とする、請求項23記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項25】
支持体がポリイミドフィルム層であることを特徴とする、請求項23記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項26】
無機充填材がシリカ、シリコン粒子及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項22〜25のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項27】
無機充填材がシリカであることを特徴とする、請求項22〜25のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項28】
無機充填材の平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする、請求項22〜27のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項29】
無機充填材を含有するポリイミドフィルム層中の無機充填材の含有量がポリイミドに対し2〜100質量%であることを特徴とする、請求項22〜28のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項30】
無機充填材を含有するポリイミドフィルム層と該層の片面又は両面に形成された導体層とを含む積層体を構成し、無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の厚みが5〜125μm、導体層の厚みが3〜35μmであることを特徴とする、請求項22、26〜29のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項31】
銅箔層/無機充填材を含有するポリイミドフィルム層/導体層の順に積層した積層体を構成し、銅箔層の厚みが3〜35μm、無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の厚みが5〜125μm、導体層の厚みが3〜35μmであることを特徴とする、請求項24、26〜29のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項32】
ポリイミドフィルム層/無機充填材を含有するポリイミドフィルム層/導体層の順に積層した積層体を構成し、ポリイミドフィルム層の厚みが10〜125μm、無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の厚みが5〜125μm、導体層の厚みが3〜35μmであることを特徴とする、請求項25〜29のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項33】
無機充填材を含有するポリイミドフィルム層の粗化された面の表面粗さが100〜1500nmであることを特徴とする、請求項22〜32のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項34】
導体層が銅メッキ層であることを特徴とする、請求項22〜33のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項35】
ポリイミドフィルム層の粗化された表面がアルカリ性過マンガン酸溶液処理により粗化されたものであることを特徴とする、請求項22〜34のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項36】
アルカリ性過マンガン酸溶液が過マンガン酸カリウム溶液又は過マンガン酸ナトリウム溶液であることを特徴とする、請求項35記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項37】
無機充填材含有ポリイミドフィルムが、さらにポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾオキサゾールおよびポリベンゾイミダゾールからなる群から選択される1種以上の耐熱性樹脂をポリイミドに対して30質量%以下で含むことを特徴とする、請求項22〜36のいずれか一項記載の金属付きポリイミドフィルム。
【請求項38】
耐熱性樹脂が分子骨格中にフェノール性水酸基を有する耐熱性樹脂である、請求項37記載の方法。

【公開番号】特開2006−108175(P2006−108175A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289165(P2004−289165)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】