説明

多数個取り配線基板

【課題】 隣り合う配線基板領域の間で、メタライズ層に被着されるめっき層の癒着を抑制してメタライズ層の剥がれが発生することを抑制することが可能な多数個取り配線基板を提供すること。
【解決手段】 搭載部103を有する配線基板領域102の境界108に分割溝109が形成され、配線基板領域102外周から搭載部103の周辺にかけて枠状のメタライズ層110が形成されており、メタライズ層110に、配線基板領域102の角部分から隣接する辺部分にかけて、配線基板領域102の外周から一定の幅で帯状の非形成部111が設けられているとともに、非形成部111の辺部分における端部分に、母基板101を厚み方向に貫通する貫通孔107が形成されている多数個取り配線基板である。隣り合う配線基板領域102の間でメタライズ層110やめっき層同士が癒着することを抑制して、分割時に個片の配線基板におけるばりや欠け、およびメタライズ層110の剥がれを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広面積の母基板中に各々が半導体素子や圧電振動子等の電子部品を搭載するための小型の配線基板となる多数の配線基板領域を縦横の並びに配列してなる多数個取り配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体素子や圧電振動子等の電子部品を搭載して電子装置を作製するために用いられる配線基板は、酸化アルミニウム質焼結体等のセラミック材料からなる四角平板状の絶縁層を複数層、上下に積層し、その積層体の表面に電子部品と電気的に接続される配線導体を設けた構造である。
【0003】
このような配線基板は、近年の電子装置の小型化に伴い、その大きさが数mm角程度の極めて小さなものとなってきている。そして、このような小さな配線基板および電子装置の作製を効率よく行なうために、1枚の母基板から多数個の配線基板を得るようにした、いわゆる多数個取り配線基板の形態で配線基板や電子装置が作製されている。
【0004】
従来の多数個取り配線基板の一例を図5に示す。図5(a)は従来の多数個取り配線基板の一例における要部を示す要部平面図であり、図5(b)は図5(a)のY1−Y1’線における断面図であり、図5(c)は図5(a)のY2−Y2’線における断面図である。図5に示す個片の配線基板となる配線基板領域202が縦横の並びに配列されて、多数個取り配線基板が構成されている。
【0005】
多数個取り配線基板は、酸化アルミニウム質焼結体等のセラミック材料からなる複数の絶縁層(符号なし)が積層されてなる四角板状の母基板201に複数の配線基板領域202が縦横の並びに配列され、各配線基板領域202(個片の配線基板となる領域)の上面に電子部品(図示せず)を搭載するための搭載部203が形成されている。
【0006】
また、図5に示す例では、配線基板領域202の上面に設けた凹部(符号なし)の内側を搭載部203として、この凹部の内側面に段差部204が形成されている。この段差部204の表面から絶縁層の層間にかけて配線導体205が形成され、配線導体205の一部は配線基板領域202の下面まで延びて形成されている。配線導体205は、電子部品と外部電気回路(図示せず)とを電気的に接続するためのものであり、例えば、タングステンやモリブデン,マンガン,銅,銀,パラジウムまたは金等の金属材料からなる。
【0007】
そして、搭載部203に電子部品を搭載するとともに、電子部品の電極をボンディングワイヤや半田等の導電性の接続材を介して配線導体205に電気的に接続し、しかる後、搭載部203を塞ぐように蓋体(図示せず)を個々の配線基板領域202の上面にそれぞれ接合して封止することによって、電子装置となる領域が母基板201に多数個作製される。
【0008】
その後、この母基板201を配線基板領域202の境界208において分割すれば、多数個の電子装置(図示せず)が作製される。電子部品の搭載は、母基板201を個片に分割した後、個片の配線基板(図示せず)の状態で行なわれる場合もある。母基板201の分割は、例えば境界208に沿って母基板201の上面等の主面に分割溝209を形成しておき、この分割溝209に沿って母基板201を破断させて行なう。
【0009】
また、配線基板領域202の主面(図5に示す例では上面)の外周部に、搭載部203を取り囲むように枠状のメタライズ層210が形成されている。このメタライズ層210は、溶接やろう付け等の方法で金属製の蓋体を接合する際の下地金属層である。
【0010】
また、配線導体205およびメタライズ層210の酸化腐食の防止等のために、配線導体205およびメタライズ層210の表面にニッケルめっき層や金めっき層等のめっき層(図示せず)が被着されている。
【0011】
なお、図5において、206は、表面に導体層(いわゆるキャスタレーション導体)(図示せず)が被着された開口部であり、例えば、このキャスタレーション導体を介して隣り合う配線基板領域202の配線導体205同士が電気的に接続される。この場合には、上記のめっき用の電流を、このキャスタレーション導体により順次隣り合う配線基板領域202の配線導体205およびメタライズ層210に供給することができる。
【0012】
このような多数個取り配線基板は、一般に、セラミックグリーンシート積層法により製作されている。すなわち、各絶縁層となる複数のセラミックグリーンシート(図示せず)を作製し、このセラミックグリーンシートに配線導体205やメタライズ層210となる金属ペーストを印刷した後に積層して積層体とし、この積層体の上面等に、配線基板領域202の境界に沿ってカッター刃等で切り込みを入れて縦横に分割溝209を形成した後、所定の温度で焼成することによって製作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−179731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このような多数個取り配線基板においては、分割溝の幅を十分に確保することが難しい。これは、母基板201となるセラミックグリーンシートがある程度の弾性を有しているため、積層体に分割溝209を入れた際に分割溝209の幅を広く確保することが難しく、いったん形成した分割溝209の幅を狭くする(分割溝209を閉じる)方向にセラミックグリーンシートが変形(弾性変形)しやすいためである。
【0015】
また、近年、配線基板の小型化に対応して、蓋体との接合面積を十分に確保するためにメタライズ層210が、各配線基板領域202の外周から、つまり分割溝209に接する位置から搭載部203の周辺にかけて設けられるようになってきている。
【0016】
そして、上記のように分割溝209の幅が狭くなると、隣接する配線基板領域202のメタライズ層210同士の間隔が狭くなってしまい、このメタライズ層210同士、またはメタライズ層210に被着されためっき層同士が癒着する(互いに金属結合し合ってくっつく)ことがあるという問題点があった。そのような癒着が発生すると、この癒着した部分を引き離すために余計な応力が必要になり、母基板201を分割溝209に沿って分割することが難しくなる。また、無理に母基板201を分割したときには、得られる個片の配線基板にばりや欠けが発生しやすくなり、さらに、分割時の応力によりメタライズ層210が母基板201の表面から剥がれてしまう可能性がある。
【0017】
このようなメタライズ層210やめっき層の癒着は、特に、配線基板領域201の角部分および角部分に隣接した辺部分で発生しやすい。これは、セラミックグリーンシートの積層体に縦(横)方向に分割溝209を形成する際に、搭載部203に隣り合う辺の中央部分に比べて、交差する横(縦)方向の他の枠部が隣り合う角部分および角部分に隣接した辺部分においては積層体の弾性が高く、分割溝109の幅が狭くなる変形が発生しやすいためである。
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、隣り合う配線基板領域のメタライズ層同士、およびメタライズ層に被着されるめっき層同士の癒着を抑制して、ばりや欠けを抑制することができるとともに、メタライズ層の剥がれを抑制することが可能な多数個取り配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の多数個取り配線基板は、配線基板領域の外周から搭載部の周辺にかけて枠状のメタライズ層が形成されており、該メタライズ層に、前記配線基板領域の角部分から隣接する辺部分にかけて、前記配線基板領域の外周から一定の幅で帯状の非形成部が設けられているとともに、該非形成部の前記辺部分における端部分に、前記母基板を厚み方向に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の多数個取り配線基板は、上記構成において、前記メタライズ層の一部が前記貫通孔の内側面まで延びて被着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多数個取り配線基板によれば、配線基板領域の外周から搭載部の周辺にかけて枠状のメタライズ層が形成されており、メタライズ層に、配線基板領域の角部分から隣接する辺部分にかけて、配線基板領域の外周から一定の幅で帯状の非形成部が設けられているとともに、非形成部の辺部分における端部分に、母基板を厚み方向に貫通する貫通孔が形成されていることから、特に分割溝の幅が狭くなりやすい配線基板領域の角部分および角部分に隣接した辺部分において、非形成部の分、隣り合う配線基板領域のメタライズ層同士およびメタライズ層に被着されためっき層同士の間の距離を広くすることができる。また、非形成部の配線基板領域の辺部分における端に貫通孔が形成されていることから、メタライズ層が癒着しやすい辺部分の端において、隣り合う配線基板領域のメタライズ層同士を確実に離間させることができる。そのため、隣り合う配線基板領域の間で(分割溝を越えて)メタライズ層やめっき層同士が癒着してしまうことを抑制することができる。
【0022】
また、貫通孔により、分割溝が形成されている部分において、非形成部の上記辺部分における端にメタライズ層が直接接することが防止される。そのため、分割溝に沿って母基板を分割する(破断させる)際の衝撃に伴う応力が、剥がれの起点となりやすいメタライズ層の端部分に作用することを抑制できる。
【0023】
したがって、分割時におけるばりや欠けを抑制すること、およびメタライズ層の剥がれを抑制することが可能な多数個取り配線基板を提供することができる。
【0024】
また、本発明の多数個取り配線基板によれば、メタライズ層の一部が貫通孔の内側面まで延びて被着されている場合には、メタライズ層の剥がれの基点となり易いメタライズ層の端部において、メタライズ層の一部が貫通孔の内側面まで延びて被着されることによりメタライズ層の母基板に対する被着の強度をより強くすることができる。そのため、さらに効果的にメタライズ層の剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の一例を示す平面図である。
【図2】(a)は図1に示す多数個取り配線基板の要部を示す要部平面図であり、(b)は(a)のX1−X1’線における断面図であり、(c)は(a)のX2−X2’線における断面図である。
【図3】本発明の多数個取り配線基板における貫通孔の効果を模式的に説明するための要部拡大平面図である。
【図4】本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図である。
【図5】(a)は従来の多数個取り配線基板の一例における要部を示す要部平面図であり、(b)は(a)のY1−Y1’線における断面図であり、(c)は(a)のY2−Y2’線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の多数個取り配線基板について、添付の図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1は本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の一例を示す平面図であり、図2(a)は図1に示す多数個取り配線基板の要部を示す要部平面図であり、図2(b)は図2(a)のX1−X1’における断面図であり、図2(c)は図2(a)のX2−X2’における断面図である。図1および図2において、101は母基板、102は配線基板領域、103は圧電振動子や半導体素子等の電子部品が搭載される搭載部、104は段差部、105は配線導体、106は開口部、107は貫通孔、108は配線基板領域102の境界、109は分割溝、110はメタライズ層、111はメタライズ層110の非形成部である。
【0028】
多数個取り配線基板は、主として母基板101,配線基板領域102,搭載部103,配線導体105,貫通孔107,分割溝109およびメタライズ層110から構成されている。また、この例では、多数個取り配線基板の取り扱いを容易とすること等のために、母基板101の外周部に枠状の捨て代領域(符号なし)が設けられている。
【0029】
母基板101は、例えば、酸化アルミニウム質焼結体や窒化アルミニウム質焼結体,ムライト質焼結体あるいはガラスセラミック焼結体等から成る複数の絶縁層(符合なし)が積層されて形成されている。母基板101が境界108において分割されたものが、個片の配線基板の絶縁基板になる。
【0030】
母基板101は、例えば、各絶縁層が酸化アルミニウム質焼結体からなる場合であれば、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化ケイ素や酸化カルシウム,酸化マグネシウム等を添加してなるセラミック粉末を有機溶剤およびバインダとともにシート状に成形して複数のセラミックグリーンシートを作製し、これらのセラミックグリーンシートを積層し、この積層体を焼成することにより作製される。
【0031】
母基板101は、例えば、厚みが0.4〜2mm程度であり、配列された配線基板領域102が、平面視で1辺の長さが2〜10mm程度の四角形状である。
【0032】
そして、配線基板領域102の上面中央部に電子部品を搭載するための搭載部103が設けられている。電子部品は、例えば、圧電振動子(水晶振動子等)の圧電素子や半導体メモリ素子等の半導体素子等である。なお、図1および図2に示す例では、配線基板領域102の上面中央部に凹部(符号なし)が設けられ、この凹部の内側が搭載部103とされているが、このような凹部を設けずに、平板状の母基板101における配線基板領域102の上面の中央部等を搭載部103としてもよい。
【0033】
配線基板領域102には複数の配線導体105が形成されている。配線導体105は、一部が母基板101の内部を通って配線基板領域102の下面に延びて形成されている。この、配線導体105のうち配線基板領域102の下面に形成された部分は、個片の配線基板を外部電気回路に接続するときの接続端子等になる。そして、これらの配線導体105を介して、電子部品が外部電気回路(図示せず)と電気的に接続される。
【0034】
例えば、配線導体105の搭載部103に形成された部分に、搭載部103に搭載される電子部品の電極(図示せず)がボンディングワイヤや半田等の接続材(図示せず)を介して電気的に接続される。電子部品の電極と電気的に接続された配線導体105について、配線基板領域102の下面に形成された部分(接続端子等)を外部電気回路と半田等の導電性接続材を介して接続すれば、配線導体105を介して電子部品の電極と外部電気回路とを電気的に接続することができる。
【0035】
図1および図2に示す例においては、長方形状の搭載部103の対向し合う2つの内側面に段差部104が形成されており、この段差部104の上面から絶縁層の層間にかけて、例えば電子部品である半導体素子の電極が接続される配線導体105が形成されている。
【0036】
また、配線基板領域102は、その主面(図1および図2に示す例では上面)の外周から搭載部103の周辺(図1および図2に示す例では搭載部103を取り囲む枠状の部分の上面の内周)にかけて、搭載部103を取り囲む枠状のメタライズ層110が形成されている。このメタライズ層110には、例えば鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)合金等の金属からなる蓋体が金−錫ろう材等のろう材や半田等の封止材を介して接合される。つまり、メタライズ層110は、金属製の蓋体をろう付け等の方法で接合するための下地金属層である。
【0037】
そして、搭載部103内に電子部品を収容した後、配線基板領域102のメタライズ層110に蓋体(図示せず)をシーム溶接等の接合方法で接合することにより、電子部品が気密に封止されることとなる。
【0038】
このような蓋体との接合面積をできるだけ広く確保して接合の強度を高めるために、メタライズ層110は、後述する非形成部111を除いて、配線基板領域102の外周から搭載部103の周辺にかけて形成されている。つまり、隣り合う配線基板領域102のメタライズ層110同士は、非形成部111を除いて、分割溝109の幅程度の距離をおいて互いに隣り合っている。
【0039】
メタライズ層110は、例えば、幅が0.3〜0.7mm程度で、厚みが10〜50μm程度の枠状で、搭載部103を取り囲んで形成されている。
【0040】
配線導体105およびメタライズ層110は、タングステンやモリブデン,マンガン,銅,銀,パラジウム,金または,白金等の金属材料からなる。配線導体105およびメタライズ層110は、例えば、タングステンからなる場合であれば、タングステンの粉末を有機溶剤およびバインダと混練して作製した金属ペーストを、母基板101の絶縁層となるセラミックグリーンシートに所定のパターンで印刷しておき、セラミックグリーンシートの積層体と同時焼成することによって形成される。
【0041】
なお、メタライズ層110および配線導体105の露出した表面には、酸化腐食を防止するとともに、メタライズ層110に対する蓋体の接合を容易かつ強固なものとするために、また配線導体105に対する半田の濡れ性やボンディングワイヤのボンディング性等の特性を向上させるために、例えば1〜20μm程度の厚みのニッケルめっき層(図示せず)と、0.1〜3μm程度の厚みの金めっき層(図示せず)とが順次被着されている。ここで、ニッケルめっき層については、金めっき層をメタライズ層110および配線導体105に強固に被着させるための下地めっき層であることから、比較的厚く形成される。
【0042】
図1および図2に示す例では、母基板101には、配線基板領域102の四隅において母基板101を構成する絶縁層を厚み方向に全部、または部分的に貫通する開口部106が形成され、開口部106の内側面の一部に導体層(図示せず)が被着されている。この導体層は、配線導体105と電気的に接続され、隣り合う配線基板領域102の配線導体105を互いに電気的に接続している。このように、隣り合う配線基板領域102の配線導体105同士を電気的に接続しておけば、複数の配線基板領域102の配線導体105に、上記のようなニッケルや金等のめっき層を電解めっき法でまとめて被着させることができる。また、配線導体105の一部をメタライズ層110と電気的に接続しておけば、複数の配線基板領域102のメタライズ層110にまとめてめっき層を被着させることもできる。
【0043】
母基板101の主面(図1および図2に示す例では上面および下面)には、配線基板領域102の境界108に沿って縦横に分割溝109が形成されている。この分割溝109に沿って母基板101を分割すれば、多数個取り配線基板を個片の配線基板に分割することができる。母基板101の分割は、分割溝109に沿って母基板101に応力を加え、機械的な強度が低い分割溝109が形成された部分において母基板101を厚み方向に破断させる方法で行なわれる。
【0044】
分割溝109は、隣り合う配線基板領域102の間でメタライズ層110を分けておくために、母基板101の主面(上面および下面)のうち、少なくともメタライズ層110が形成されているのと同じ側には形成する必要がある。
【0045】
分割溝109は、例えば、母基板101となるセラミックグリーンシートの積層体の上面および下面等の主面に、配線基板領域102同士の境界および配線基板領域102とダミー領域との境界に沿ってカッター刃等で切り込みを入れる方法で、形成することができる。
【0046】
なお、この分割溝109を形成する前に、前述したメタライズ層110となる金属ペーストの印刷を行なう場合であれば、後述する非形成部111を除いて、隣り合う配線基板領域102の境界108を越えて繋がるように金属ペーストの印刷を行なうようにしてもよい。この隣り合う配線基板領域102の間で繋がったメタライズ層110となる金属ペーストは、分割溝109を形成する際に配線基板領域102の境界108に沿って分断され、それぞれの配線基板領域102毎に形成されたメタライズ層110となる。
【0047】
カッター刃による分割溝109の形成は、例えば、まず縦横の分割溝109のうち縦または横の一方向に複数の分割溝109を形成し、次に、この一方向と直交する他の方向に複数の分割溝109を形成する方法で行なわれる。これは、セラミックグリーンシートの積層体またはカッター刃の方向を変える手間を抑えて、分割溝109を形成する工程における作業性および多数個取り配線基板の生産性を高めるためである。
【0048】
本発明の多数個取り配線基板においては、メタライズ層110に、配線基板領域102の角部分から隣接する辺部分にかけて、配線基板領域102の外周から一定の幅で帯状の非形成部111が設けられている。
【0049】
このように、特に隣接する配線基板領域102の間で、分割溝109の幅が狭くなりやすい配線基板領域102の角部分および角部分に隣接した辺部分においてメタライズ層110に非形成部111を設けたため、この非形成部111の幅に応じて、分割溝109を挟んだ両側の配線基板領域102の間で、互いのメタライズ層110やめっき層の間の距離を広くすることができる。
【0050】
また、非形成部111の配線基板領域102の辺部分における端に貫通孔107が形成されていることから、メタライズ層110が癒着しやすい辺部分の端において、隣り合う配線基板領域102のメタライズ層110同士を確実に離間させることができる。そのため、隣り合う配線基板領域102の間で(分割溝109を越えて)メタライズ層110やめっき層同士が癒着してしまうことを抑制することができる。
【0051】
また、貫通孔107により、分割溝109が形成されている部分において、非形成部111の上記辺部分における端にメタライズ層110が直接接することが防止される。そのため、分割溝109に沿って母基板101を分割する(破断させる)際の衝撃に伴う応力が、例えば図3(a)に示すように、剥がれの起点となりやすい部分である、メタライズ層110の分割溝109と接する端部分Bに作用することを抑制できる。これに対し、例えば図3(b)に示すように貫通孔107が形成されていないと、上記母基板101の分割時の応力がメタライズ層110の分割溝109と接する端部分B’に作用して、この端部分B’からメタライズ層110の剥がれが発生する可能性がある。なお、図3(a)および(b)は、本発明の多数個取り配線基板における貫通孔107の効果を模式的に説明するための要部拡大平面図である。図3において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。
【0052】
したがって、分割溝109に沿って母基板101を分割する(破断させる)際の衝撃で、メタライズ層110の端から剥がれが発生するようなことも効果的に防止することができる。
【0053】
つまり、配線基板領域102の角部分から隣接する辺部分にかけて、メタライズ層110に非形成部111を設けたことにより、配線基板領域102の角部分から隣接する辺部分では、隣り合う配線基板領域102のメタライズ層110同士が分割溝109を挟んで癒着することが抑制されるので、多数個取り配線基板を分割溝109に沿って、ばりや欠けを発生させることを抑制して、各々の配線基板領域102に容易かつ正確に分割することができる。
【0054】
ここで、本発明の多数個取り配線基板の効果を、具体例を挙げて説明する。
【0055】
すなわち、酸化アルミニウム質焼結体からなる、厚みが1mmで外辺の長さが50mmの正方形の母基板101に、平面視で外辺の長さが3.2×3.2mmの正方形状配線基板領域102を配列した多数個取り配線基板(いわゆる取り数が12×12で144個)において、配線基板領域102の外周から搭載部103(1辺の長さが2.7×2.7mmの正方形状で、深さが0.75mmの凹部の内側)の周辺にかけて、タングステンからなる枠状のメタライズ層110を形成した。メタライズ層110には、配線基板領域102の角部分から隣接する辺部分にかけて、それぞれの配線基板領域102内における幅が0.2mmの帯状の非形成部111を設けた。分割溝109は、幅が0.1mmであり、深さが0.5mmとなるように形成した。
【0056】
また、比較例として、非形成部111を設けないこと以外は上記の本発明の多数個取り配線基板の具体例と同様の条件で作製した多数個取り配線基板(図示せず)を準備した。
【0057】
これらの具体例および比較例の多数個取り配線基板について、それぞれ10枚ずつ、上下から無端ベルトで挟んで搬送しながら母基板101を厚み方向に加圧する方法で個片の配線基板への分割を行ない、ばり,欠けおよびメタライズ層110の剥がれ等の不具合の有無を、倍率20倍の双眼顕微鏡を用いた外観観察で確認した。
【0058】
その結果、具体例の多数個取り配線基板では、1440個の個片の配線基板において上記不具合の発生が見られなかったのに対し、比較例の多数個取り配線基板では、1440個の個片の配線基板において3個の配線基板でメタライズ層(図示せず)の剥がれが発生していた。以上のように、本発明の多数個取り配線基板における効果を確認することができた。
【0059】
また、図1および図2に示すような凹部の内側に搭載部103を設けた多数個取り配線基板の場合においては、非形成部111について、搭載部103を取り囲む枠状の部分(枠部)を越えて搭載部103に隣り合う程度の長さに形成すれば、メタライズ層110やめっき層が分割溝109を挟んで隣り合う配線基板領域102の間で癒着するようなことをより効果的に抑制することができる。
【0060】
これは、セラミックグリーンシートの積層体に縦(横)方向に分割溝109を形成する際に、搭載部103に隣り合う部分に比べて、交差する横(縦)方向に他の枠部が隣り合う部分においては弾性が高く、いったん形成した分割溝109が閉じるように変形しやすいためである。そして、このような分割溝109の幅が狭くなりやすい部分に十分な長さでメタライズ層110に非形成部111を設けるため、メタライズ層110やめっき層の癒着をより効果的に抑制することができる。
【0061】
また、図1で示した母基板101では、凹部(搭載部103)の内側面に段差部104が形成されている辺側において、メタライズ層110の非形成部111が設けられている。この場合には、以下のような効果が得られる。
【0062】
すなわち、このように段差部104が形成され、その段差部104の上面から絶縁層の層間にかけて配線導体105が形成された辺側においては、配線導体105が、この段差部104の上面から絶縁層の層間に形成されているため、この配線導体105を切断しないように分割溝109が比較的浅く(段差部104の表面より上側になるように)形成されている。このように分割溝109の深さが比較的浅いときには、分割溝109の幅を十分に確保することが難しくなりやすいため、隣り合う配線基板領域102のメタライズ層110やめっき層同士の癒着が発生しやすくなる傾向がある。したがって、このように非形成部111を、少なくとも、上面に配線導体105を有する段差部104が形成されている辺側において設けることは、メタライズ層110およびめっき層の癒着を抑制する上で有効である。
【0063】
また、縦横の分割溝109について、縦または横の一方向において他の方向よりも先に形成し、その後に他の方向において形成する場合には、少なくとも先に形成する分割溝109に沿った側において、メタライズ層110に非形成部111を形成することが好ましい。これは、先に形成した一方の分割溝109は、後に他方の分割溝109を形成するときのカッター刃の切り込みに伴って幅が狭くなる(閉じる)ように変形しやすいためである。この、少なくともより幅が狭くなりやすい方向において非形成部111を設けておけば、隣り合う配線基板領域102のメタライズ層110やめっき層同士の癒着をより効果的に抑制することができる。
【0064】
また、上記のように幅が狭くなりやすい方向においてのみメタライズ層110に非形成部111を設けるようにした場合には、メタライズ層110の非形成部111を設ける範囲をより小さくすることができるので、メタライズ層110と蓋体(蓋体を接合するためのろう材等)との接合面積の減少をより小さく抑えることができる。そのため、蓋体の接合強度を十分に確保する上で有効である。
【0065】
また、本発明の多数個取り配線基板において、例えば図4に示すように、メタライズ層110の一部が貫通孔107の内側面まで延びて被着されている場合には、以下のような効果を得ることができる。なお、図4は、本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の他の例における要部を示す要部拡大平面図である。図4において、図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。また、図4において112は、メタライズ層110のうち貫通孔107の内側面に延びて被着された部分(メタライズ層の延在部)である。
【0066】
すなわち、メタライズ層110の剥がれの基点となりやすいメタライズ層110の端部(図3に示した分割溝109と接する端部分B等)において、メタライズ層110の一部が貫通孔107の内側面まで延びて被着されているため、メタライズ層110と母基板101との接合をより強くすることができる。そのため、より一層効果的にメタライズ層110の剥がれを抑制することができる。
【0067】
このメタライズ層の延在部112が設けられるのは、貫通孔107の内側面の上端のうち非形成部111の端に接する部分以外の部分から下側であり、特に、非形成部111と反対側の内側面における分割溝109と接する部分、つまり母基板101の分割時に大きな応力が加わる部分に設けるのがよい。
【0068】
ここで、このようにメタライズ層110の一部が貫通孔107の内側面まで延びて被着された構造とするためには、メタライズ層110となる金属ペーストの一部が貫通孔107の内側面に垂れ込むようにすればよい。
【0069】
この金属ペーストを貫通孔107の内側面に垂れ込ませるには、例えば金属ペーストの粘度を低く調整して貫通孔107内に垂れ込みやすくしたり、金属ペーストの塗布量を多くして、貫通孔107の下側からエアーを吸引しながら塗布したりすればよい。このように金属ペーストを塗布した後に焼成すれば、メタライズ層110の端部が貫通孔107の内側面に延びて被着された構造となる。
【0070】
また、メタライズ層の延在部112の長さ(貫通孔107の深さ方向の寸法)は、貫通孔107の内側面に沿って同じ長さとする(つまり下端を直線状に揃える)必要はなく、貫通孔107の内側面の幅方向(貫通孔107が円形状であれば周方向)に沿って長さが変化するように(下端が波状等になるように)形成されていてもよい。なお、本発明の多数個取り配線基板は、以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えても何ら差し支えない。例えば、この例では四角形状の配線基板領域102の対向し合う2辺にメタライズ層110の非形成部111を設けたが、すべての辺にメタライズ層110の非形成部111を設けてもよい。
【符号の説明】
【0071】
101・・・母基板
102・・・配線基板領域
103・・・搭載部
104・・・段差部
105・・・配線導体
106・・・開口部
107・・・貫通孔
108・・・境界
109・・・分割溝
110・・・メタライズ層
111・・・非形成部
112・・・メタライズ層の延在部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の搭載部を有する四角形状の複数の配線基板領域がセラミック焼結体からなる母基板に縦横の並びに配列され、前記母基板の主面に前記配線基板領域の境界に沿って縦横に分割溝が形成された多数個取り配線基板であって、前記配線基板領域の外周から前記搭載部の周辺にかけて枠状のメタライズ層が形成されており、該メタライズ層に、前記配線基板領域の角部分から隣接する辺部分にかけて、前記配線基板領域の外周から一定の幅で帯状の非形成部が設けられているとともに、該非形成部の前記辺部分における端部分に、前記母基板を厚み方向に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする多数個取り配線基板。
【請求項2】
前記メタライズ層の一部が前記貫通孔の内側面まで延びて被着されていることを特徴とする請求項1記載の多数個取り配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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