説明

多段式植物栽培装置における空調方法

【課題】 閉鎖型構造物内に人工照明装置と複数台の空調装置とを備えた多段式植物栽培装置において、個々の空調装置の運転を独立してきめ細かく制御することによって、明期と暗期を通じて閉鎖型構造物の内部空間の湿度の上昇を抑制し、空調装置内部のカビ発生を抑制することができる空調方法を提供する。
【解決手段】 植物生育の暗期に人工照明装置を消灯して閉鎖型構造物の内部の冷房負荷が低下した際に、複数台の空調装置のうちの1台で暖房運転を行うことによって冷房負荷を高め、残りの空調装置で冷房運転を行うことで、除湿効果を維持し、閉鎖型構造物の内部空間の湿度の上昇を抑制する。暖房運転を行う1台の空調装置を、複数の空調装置において順次切り替えていくことが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工照明装置や空調装置を装備した外部環境の影響を受けない安定した閉鎖空間内で、植物を効率よく栽培することができる多段式植物栽培装置における空調方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
閉鎖空間内に多段式の植物栽培棚を設置し、人工照明装置や空調装置を装備した多段式植物栽培装置としては、特許文献1で提案されているような育苗装置がある。この育苗装置は、図1および図2を参照して説明すると、断熱性壁面で囲まれた遮光性の閉鎖型構造物1を有し、この閉鎖型構造物1の内部には、前面が開放している箱形の育成モジュール2、3、4、5が配置されている。育成モジュールの内部は複数の育苗棚6を上下方向に多段に配置することによって上下の育苗棚間に育苗空間が形成されており、各育苗棚6には植物生育用培地を入れる複数のセルトレイ7を載置するとともに各セルトレイ7に潅水する潅水装置(図示せず)が設けられている。各育苗棚6の裏面には人工照明装置8を設けて、その下方のセルトレイに光を照射するようになっている。さらに、閉鎖型構造物1の内部には、閉鎖型構造物内の空気を調温調湿する空調装置9、10、11、12が設置され、育成モジュールの各育苗棚6の背面壁にはファン13が取り付けられている。
かような構成とすることによって、空調装置9〜12により調温調湿された空気が育成モジュール2〜5開放前面からファン13により吸引されて育成モジュール2〜5背面壁後方へ排出され、再び空調装置9〜12へ送風される図2の矢印で示したような循環流が閉鎖型構造物1内で形成され、閉鎖型構造物1の内部空間を植物の生育に最適な温度湿度環境に保つことができる。なお、特許文献1は、かような装置を育苗装置と称しているが、育苗のみならず、植物体全般の栽培にも使用することができるものである。
【0003】
上述したような閉鎖空間内での多段式植物栽培装置においては、人工照明装置を点灯したり消灯することで、植物生育に必要とされる明期(植物が光合成を行う時間)と暗期(植物が呼吸を行う時間)を作り出している。明期には、照明装置からの発熱を除熱する必要があるため、空調装置の冷房運転が行われている。
また、冷房運転時の除湿効果によって、閉鎖空間内の湿度上昇も効果的に防止することができる。しかしながら、長期の冷房運転により空調装置内部のフィン部分に結露水が付着し、カビの発生や冷房能力の低下の原因となりやすい。冷房運転時の結露を除去するために、冷房運転を一時的に停止して送風運転のみを行わせたり、時々暖房運転に切り替えて、空調装置内部のフィン部分の結露を乾燥させることも行われる。
【0004】
一方、暗期には、照明装置からの発熱が無くなり、閉鎖空間内の発熱物はファンなどのごくわずかとなるため、明期に比べて冷房負荷が小さくなり、空調装置の冷房運転が停止したり、あるいは冷房運転と停止とが繰り返し行われることになる。その結果、空調装置の冷房運転時の副次的作用である除湿が効果的に行われなくなって、閉鎖空間内の湿度が上昇しやすくなるため、空調装置内部の結露によってカビの発生がみられることがある。また、閉鎖空間内の湿度の上昇は、植物の徒長を招くという問題も生じる。
【0005】
また、明期であっても、照明装置の光量を少なくしたり、空の棚段があるため一部の照明装置しか使用していない場合がある。さらには、外気温が著しく低下した結果、閉鎖空間内の温度も低下する場合もある。これらの場合にも、閉鎖空間内の冷房負荷は明期に比べて低下するため、空調装置の冷房運転が停止したり、あるいは冷房運転と停止の繰り返しが行われ、その結果、暗期と同様に閉鎖空間内の湿度が上昇しやすくなり、空調装置内部の結露によってカビの発生がみられたり、植物の徒長を招くことがある。
【0006】
照明装置を消灯している暗期や、外気温の低下などによって空調装置の冷房運転が停止し、閉鎖空間内の湿度が上昇する問題を解決するために、空調装置とは別に、電熱ヒーター等の加温装置を設置して、閉鎖空間内を補助的に加温することによって、冷房負荷を高め、空調装置の冷房運転の頻度を高めることも行われている。しかしながらこの場合、空調装置の他に加温装置が必要となるため、装置構成が煩雑になるだけでなく、加温装置の設置場所によっては閉鎖空間内部に加温ムラが生じるといった問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2002−291349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
閉鎖型構造物の内部空間を調温調湿するための空調方法としては、1台の業務用大型空調装置を使用して明期と暗期の空調を行う場合もあるが、空調装置が故障した際には植物の育成が停止してしまうという根本的な問題が生じる。
そのため、比較的小型の家庭用空調装置を複数台設置した図1に示したような空調方法が提案されている。複数台の小型空調装置を使用する場合に必要とされる空調装置全体の冷房能力は、明期中に点灯する照明器具全体の発熱を除熱できる冷房負荷により決定される。
しかしながら、複数台(図1では4台)の空調装置を使用する場合にも、各空調装置の冷房運転と暖房運転の切り替えと目標温度の指示は、制御装置から一括して行われているのが実情である。
【0009】
そこで本発明は、閉鎖型構造物内に人工照明装置と複数台の空調装置とを備えた多段式植物栽培装置において、個々の空調装置の運転を独立してきめ細かく制御することによって、明期と暗期を通じて閉鎖型構造物の内部空間の湿度の上昇を抑制し、空調装置内部のカビ発生を抑制ことができる空調方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、断熱性壁面で囲まれた遮光性の閉鎖型構造物の内部に前面が開放している箱形の育成モジュールを配置し、前記育成モジュールの内部には複数の植物栽培棚を上下方向に多段に配置することによって上下の栽培棚間に植物育成空間を形成し、前記各栽培棚には植物生育用培地を入れる複数のセルトレイを載置するとともに各セルトレイに潅水する潅水装置を設け、各栽培棚裏面にはその下方のセルトレイに光を照射する人工照明装置を設け、前記閉鎖型構造物の内部に閉鎖型構造物内の空気を調温調湿する複数台の空調装置を設置し、前記育成モジュールの各栽培棚の背面壁にファンを取り付けてなる多段式植物栽培装置における空調方法であって、前記閉鎖型構造物の内部の冷房負荷が低下した際に、前記複数台の空調装置のうちの1台で暖房運転を行い、残りの空調装置で冷房運転を行うことを特徴とするものである。
上述した本発明においては、前記暖房運転を行う1台の空調装置を、複数台の空調装置において順次切り替えていくことが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、人工照明装置のすべてを点灯する植物生育の明期においては、複数の空調装置のすべてを冷房運転することにより、照明装置からの発熱を効果的に除熱することができるとともに、閉鎖空間内の湿度の上昇も抑制することができる。一方、照明装置のすべてを消灯する植物生育の暗期や、照明装置の一部のみ点灯させた場合や、外気温が著しく低下して閉鎖型構造物内部空間内の温度が低下した場合など、閉鎖空間内の冷房負荷が低下したときには、複数台の空調装置の1台のみを暖房運転し、残りの空調装置を冷房運転することによって、閉鎖空間内の冷房負荷の低下を防いで安定的に冷房運転を継続することができる。その結果、冷房運転時の除湿効果によって、閉鎖空間内の湿度の上昇を効果的に抑制でき、これによって、閉鎖空間内の結露やカビの発生、さらには植物の徒長を防止することができる。
また、冷房負荷低下時に、1台の空調装置で暖房運転を行うことで、専用の加温装置を設置する必要が無くなり、装置構成も単純化できる。
【0012】
さらに、暗期時間帯は通常1日8〜12時間程度とされるが、たとえば数時間毎に暖房運転を行う空調装置を順次入れ替えるように動作させることにより、1日の暗期時間帯中に複数台の空調装置のいずれかで順番に暖房運転を行うことができる。この暖房運転時に、空調装置内に生じた結露を蒸発、乾燥することができ、すべての空調装置において結露とカビの発生を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1および図2を参照して、本発明で使用する多段式植物栽培装置の好ましい実施形態を説明する。
本発明で使用する多段式植物栽培装置は、断熱性壁面で囲まれた遮光性の閉鎖型構造物1の内部空間に、箱形の複数個(図示の例では4個)の育成モジュール2、3、4、5を配列してなる。代表的な閉鎖型構造物は、鉄筋、スレート板および断熱材を組み合わせた箱形の六面体が挙げられる。構造物の外形は特に箱形に限られるものではなく、蒲鉾形、半円筒形、半球形などであってもよい。
閉鎖型構造物1の内部空間の大きさは、その内部に配置する育成モジュールの個数に応じて適宜の寸法とすればよい。図1に図示した例では、2個の育苗モジュール2、3をそれらの開放前面が同方向を向くように配列して1列とし、2個の育苗モジュール4、5もそれらの開放前面が同方向を向くように配列して1列とし、開放前面が互いに対向するように二つの列を閉鎖型構造物1の内部空間に配置している。また、これら二つの列の間に、一人または複数の作業者が作業できる程度の作業空間を設ける。閉鎖型構造物1の内部空間の面積利用率、空間利用率を高めるために、作業空間はできるだけ小さく、狭くするのが好ましい。閉鎖型構造物1の内部に育成モジュール2〜5を配置する際には、閉鎖型構造物の壁面と育成モジュールの背面壁との間に、5〜30cm程度の幅の空隙を設けて、育成モジュールを通過して育成モジュール背面に排出された空気の通路を形成する。
【0014】
閉鎖型構造物1には、内部空間の空気を調温調湿し、設定条件に調温調湿した空気を循環させる機能を備えた複数台の空調装置を装備する。空調装置の室内機9、10、11、12は各育成モジュールの背面後方の閉鎖型構造物1の側壁内面上部に取り付け、屋外機(図示せず)は閉鎖型構造物1の外に設置する。
【0015】
閉鎖型構造物1の内部空間に配置される育苗モジュール2は、図3および図4に示したように、側面と背面に側面壁2aと背面壁2bを設け、前面は開放されている箱形の外形を有し、内部は複数の栽培棚6を上下方向に一定間隔で多段に配置されてなり、これにより栽培空間の面積利用効率を高めている。個々の育成モジュール2の高さは、作業者が作業できる程度の高さである200cm程度とし、栽培棚6の幅は、数十から数百個のセル(小鉢)を格子状に配列させた樹脂製のセルトレイ7を複数枚並べて載置できるとともに、各棚の温度・湿度を一定に調節できる幅、例えば100cm〜200cm程度とし、栽培棚6の奥行きは50cm〜100cmとするのが好ましい。
【0016】
育成モジュール2内に多段(図3の実施例では4段)に配置する複数の栽培棚6はほぼ水平とし、各栽培棚6の間に植物栽培空間が形成される。隣り合う栽培棚の間隔を小さくして棚数を増やすことで、空間利用率を高めることができるが、栽培棚間の間隔が小さすぎるとセルトレイ7の出し入れなどの作業性が悪くなり、植物の最大長を確保できないなどの欠点があるので、最低30cm程度とするのが好ましい。栽培棚6は、金属板、金属網、金属棒などによって形成することができる。
【0017】
各栽培棚6には、自動による底面潅水装置あるいは手動による灌水装置(図示せず)が設られ、複数のセルトレイ7が載置される。さらに、各栽培棚6の裏面には、人工照明装置8が取り付けられ、すぐ下の栽培棚のセルトレイで生育する植物に光を照射する。最上段の栽培棚は、育苗モジュールの頂壁2c裏面に取り付けた人工照明装置8により照射がなされる。
【0018】
人工照明装置8の光源としては蛍光灯が好ましく、蛍光灯の燭光、長さなどは、一個の栽培棚6の幅、長さ、栽培棚6相互の間隔などに応じて適宜選ぶことができる。例えば、幅120cm×長さ60cmの栽培棚で、栽培棚相互の間隔が35cmの場合には、長さが120cmの45Wの蛍光灯を4〜8本、各栽培棚裏面に平行に設置すればよい。
【0019】
図3からわかるように、栽培棚6の各段背面壁2bには、複数個のファン13が取り付けられている。ファン13を稼働させることにより、閉鎖型構造物1の内部空間で図2の矢印で示したような空気の循環流を生じさせることができる。すなわち、空調装置の室内機9〜12によって調温調湿された空気は、育成モジュール2〜5の開放前面側より栽培棚6各段の栽培空間内にファン13により吸引され、育成モジュール背面壁2b後方へ排出される。育成モジュール背面後方に排出された空気は、空調装置の室内機9〜12に吸い込まれ、調温調湿されたのち、再び育成モジュール2〜5開放前面側に吹き出される。図1および図2に図示した実施例のように、2列の育成モジュール2、3と4、5をそれらの間に作業空間が形成されるように配列した場合には、この作業空間が空気の循環路としても機能するため、効果的な循環流をもたらすことができる。
循環流が育成モジュール2〜5の各栽培棚6を通過する際に、潅水装置、培土、植物体などから蒸発した水蒸気や人工照明装置8から放出される熱が循環流に同伴され、この循環流を空調装置の室内機9〜12によって調温調湿して絶えず循環させることによって、閉鎖型構造物1の内部空間を植物体生育に最適な温度湿度環境に保つことができる。
【0020】
なお、図1に示したように、閉鎖型構造物には出入口14を設け、作業者や諸装置の出し入れができるようにされている。また、閉鎖型構造物1の内部空間は密閉度が高いため、通常の換気条件とした場合には育成中の植物が光合成で消費する炭酸ガスを人為的に供給する必要があるため、閉鎖型構造物の外部に液化炭酸ガスボンベ15を設置し、閉鎖構造物内部に炭酸ガス濃度センサー(図示せず)を設けてある。
【0021】
上述したことき構造を備えた多段式植物栽培装置における本発明の空調方法の実施例を以下に詳述する。
ただし、本実施例で使用した多段式植物栽培装置は、長辺450cm、短辺360cmの底面床が、高さ240cmの断熱性かつ遮光性壁で囲まれた閉鎖型構造物の内部に、育成モジュールを6台配置した装置を使用した。各育成モジュールの寸法は、高さ180cm、幅128cm、奥行70cmとし、上下方向に4段の栽培棚を設けてある。育成モジュールは3台ずつ連結し、開放前面が互いに対向するように2列に配列した。育成モジュールの背面壁と閉鎖型構造物側壁との間隙は約20cmとした。
【0022】
各栽培棚には、植物体をセルトレイ内に培地とともに収納して載置し、自動による底面潅水を行った。各栽培棚裏面には人工照明装置として蛍光灯(HF32型、消費電力45W)6本を設置し、その下方の栽培棚を照射するようにした。また、各栽培棚の背面壁にはファン(DC24V、消費電力6W)4個を設置し、各棚段の栽培空間内の空気を吸引し、育成モジュール背面へ排出するようにした。各栽培棚背面へ排出された空気流は、育成モジュール背面壁と閉鎖型構造物側壁との狭い間隙を上昇して空調装置へ吸い込まれ、調温調湿がなされる。
【0023】
空調装置(定格2.8kWの冷房能力を備えたエアコン)は、各列の育成モジュール上方の閉鎖型構造物側壁面に2台ずつ、合計4台取り付けた。空調装置の能力と設置台数は、閉鎖空間内の冷房負荷によって決定され、冷房負荷は主として照明装置とファンに起因する。本実施例においては、照明装置の冷房負荷は、45W×6(本)×4(段)×6(育成モジュール台数)=約6.5kWであり、ファンの冷房負荷は、6W×4(個)×4(段)×6(育成モジュール台数)=約0.6kWであり、合計約7.1kWとなる。一方、例えば室温20℃の設定で安定的に空調装置の冷房運転が行われるのは、定格の70%程度での動作とされており、4台の空調装置の最大冷房能力は、2.8kW×4(台)×70%=7.84kWとなり、上記した照明装置とファンに起因する最大冷房負荷とほぼ一致している。
【0024】
植物の光合成が行われる明期には、照明装置とファンのすべてが稼働するため、空調装置の冷房運転が4台同時に行われる。空調装置の温度設定は、育成する植物によって異なるが、通常は20〜28℃の間である。その際に、植物や培地からの水分蒸発に対する空調装置の冷房運転による除湿効果により、閉鎖空間内の相対湿度は85%以下に維持される。
明期中には空調装置すべての冷房運転が行われるため、空調装置内部の熱交換フィンに結露水が付着する。結露水の多くは配管を通じて屋外へ排出されるが、フィン部分は冷房運転中は常に結露する状態となる。そのため、長期の冷房運転によって空調装置内部が湿潤状態となり、カビ発生によって冷房能力低下の原因となりやすい。そのため、すべての空調装置の冷房運転を時々、一時的に停止して、送風のみの運転、もしくは暖房運転に切り替えることで、フィン部分や周辺の結露を蒸発、乾燥させる。
【0025】
植物が呼吸を行う暗期には、照明装置を消灯するため、閉鎖空間内の冷房負荷はファンのみの約0.6kWに低下する。暗期中に発生する植物や培地からの水分蒸発量は、明期のそれに比べて1/2〜1/5程度とみられるが、この状態で4台の空調装置すべてが冷房運転をした場合には、冷房負荷が低いため冷房運転が十分に行われない結果、除湿が十分に行われず、閉鎖空間内の相対湿度が90〜100%となることがある。かような高湿度では、植物の生育が抑制され、室内の機器類の寿命低下や故障の原因となりやすい。
【0026】
そこで本発明においては、4台の空調装置のうちの1台を暖房運転する。これによって、閉鎖空間内の冷房負荷を0.5〜1kW程度上昇させることができ、その結果、残りの3台の空調装置の冷房運転を高めて除湿を十分に行わせることが可能となり、暗期においても閉鎖空間内の相対湿度を85%程度に抑えることができる。
【0027】
1台の空調装置だけ暖房運転させた場合、その1台については、空調装置内部の結露を蒸発、乾燥させることができ、カビ発生等を効果的に防止することができる。しかしながら、残りの3台の空調装置については、冷房運転を続けることによって、内部に結露が生じたままの状態となり、カビ発生等の原因となる。かような状態を発生させないためには、暖房運転を行わせる1台の空調装置を、4台の空調装置について順次切り替えていくことが望ましい。これによって、4台すべての空調装置に暖房運転を行わせる時間を与えることができ、冷房運転時に内部に生じた結露を暖房運転の時間に蒸発、乾燥させることができるため、4台すべての空調装置について内部に結露が生じたままの状態をなくし、カビ発生等を効果的に防止することが可能となる。
具体的に述べるならば、たとえば暗期中の1時間は第1の空調装置で暖房運転を行い、次の1時間のは第2の空調装置で暖房運転を行うようにすれば、4時間の間に4台すべての空調装置で必ず1時間の暖房運転を行うことができ、これによって、すべての空調装置の内部における結露を蒸発、乾燥させることができることになる。
【0028】
なお、暗期だけでなく明期においても、照明装置の光量を少なくしたり、空の棚段があるため、照明装置の一部しか点灯しない場合がある。この場合、明期であっても閉鎖空間内の冷房負荷が低下するため、空調装置の冷房運転による除湿が適切に行われない可能性がある。また、閉鎖型構造物は断熱壁で遮断されているとはいえ、外気温が著しく低下すると閉鎖型構造物内部の温度も低下することがあり、この場合も閉鎖空間内の冷房負荷が低下するため、空調装置の目標設定温度よりも室温が下がってしまい、空調装置の冷房運転が十分に行われなくなる可能性もある。このように、暗期以外にも、閉鎖空間内の冷房負荷が低下した場合には、補助的な熱源として空調装置の1台のみを暖房運転することによって、冷房負荷の低下を防ぐことができ、残りの空調装置における冷房運転を適切に行わせることが可能となる。
【0029】
各空調装置には、制御装置からの制御信号により運転制御される。制御信号は、運転モードと設定温度があり、予め作成された制御プログラムに基づいて、明期と暗期別に各空調装置へ制御信号が送られる。1台の空調装置のみ暖房運転を行う必要がある場合には、制御プログラムが対象とする空調装置を選択し、その1台だけを暖房運転とさせる。なお、制御信号の空調装置への送信は、ケーブルを介して行う場合、赤外線リモコンによる場合、赤外線リモコンの信号を擬似的に作りLEDから送る場合などが採用できる。
【0030】
空調装置の制御装置には、閉鎖型構造物内の温度をモニターする温度センサーが接続されている。温度センサーの設置場所は、複数個を閉鎖型構造物内の複数カ所に設置し各温度センサーの平均値を求めてもよいが、1個の温度センサーを1カ所に設置する場合には、閉鎖型構造物内の空気流が混合されて均一化され、閉鎖型構造物内の平均的な温度が測定できる設置場所とする必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明で使用する多段式植物栽培装置の好ましい実施形態を示す概略平面図である。
【図2】図1に示した多段式植物栽培装置の内部空間における空気の流れを示す概略縦断面図である。
【図3】図1に示した多段式植物栽培装置に用いる育成モジュールの実施例を示す正面図である。
【図4】図3に示した育成モジュールの側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1:閉鎖型構造物
2〜5:育成モジュール
6:栽培棚
7:セルトレイ
8:人工照明装置
9〜12:空調装置
13:ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性壁面で囲まれた遮光性の閉鎖型構造物の内部に前面が開放している箱形の育成モジュールを配置し、前記育成モジュールの内部には複数の植物栽培棚を上下方向に多段に配置することによって上下の栽培棚間に植物育成空間を形成し、前記各栽培棚には植物生育用培地を入れる複数のセルトレイを載置するとともに各セルトレイに潅水する潅水装置を設け、各栽培棚裏面にはその下方のセルトレイに光を照射する人工照明装置を設け、前記閉鎖型構造物の内部に閉鎖型構造物内の空気を調温調湿する複数台の空調装置を設置し、前記育成モジュールの各栽培棚の背面壁にファンを取り付けてなる多段式植物栽培装置における空調方法であって、前記閉鎖型構造物の内部の冷房負荷が低下した際に、前記複数の空調装置のうちの1台で暖房運転を行い、残りの空調装置で冷房運転を行うことを特徴とする多段式植物栽培装置における空調方法。
【請求項2】
前記暖房運転を行う1台の空調装置を、複数の空調装置において順次切り替えていくことを特徴とする請求項1に記載の空調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−212078(P2008−212078A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55678(P2007−55678)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000204099)太洋興業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】