説明

密封構造

【課題】低圧から高圧まで使用可能であって、ロッド摺動抵抗が小さく寿命の長い密封構造を提供する。
【解決手段】往復動ロッド1が挿通される孔部の内周面に形成された凹溝4に装着される内径リップ13と外径リップ14を備えたゴム製の弾性シール10、及び弾性シール10の背面15を受持するバックアップリング16とを具備した密封構造に於て、低圧側端部25がバックアップリング16に当接すると共に弾性シール10のシール内周面10Cを背面15寄りにて受持する薄肉壁部20Bと、薄肉壁部20Bに連設されてシール内周面10Cの軸心方向中間部に凹設された小凹溝部19に嵌合する丸山形膨出部20Aとを、一体に有する合成樹脂製ガイドリング20を設け、受圧の際に、弾性シール10の内径リップ13の付け根部近傍のゴムを、丸山形膨出部20Aによって外径方向へ誘導するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧等の往復動の密封構造として、最近、次のような強い要望がある。即ち、 (i)
機器のコンパクト化と高圧化に寄与できること。(ii)シールを装着する溝を、一体加工溝として部品点数を減少すること。
上記要望(i)に応える密封構造としては、シール自体のコンパクト化、シール剛性のアップ、シール形状の複雑化が必要であるが、上記一体加工溝から成るシール溝(凹溝)内に、シールを装着する作業性(シール装着性)が極めて悪くなって、上記要望(ii)に対応できなくなる。
また、上記要望(i)に於て、高圧に使用可能な密封構造として、2本のシール溝(凹溝)を形成して、各々に、シールを装着する2重密封構造が採用される。例えば、特許文献1に記載の発明では、図13に示すような2本のシール溝(凹溝)40,41にゴム製のU字状の第1シール46・第2シール47を夫々装着し、かつ合成樹脂製バックアップリング42を第2シール47の背面47a側に装着する2重密封構造が提案されている。
【0003】
ピストンロッド43が往復動自在に挿通されたシリンダヘッド44に直接的に2本のシール溝40,41を形成した一体加工溝構造であり、第1シール46と第2シール47を弾性に富んだゴム製とすることで装着性を確保し、かつ、バックアップリング42もその横断面積をできるだけ小さく設定して、薄片状受け片(変形規制片)42Aを内径端縁から流体収納室45側へ延設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−337440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の図13に示した密封構造では、図14に示した圧力Pが作用した受圧状態下で、ゴム製の第2シール47は、バックアップリング42の受け片42Aによって、間隙48Bへのはみ出しが防止されるが、第1シール46は間隙48Aにはみ出して、噛み込み49を発生し、第1シール46が局部的に破損するという問題がある。
さらに、圧力Pが上昇すると、図14に示す如く、変形し易いゴム製の第1シール46・第2シール47は、矢印f1 ,f2 にて示す大きな圧接面圧をもって、ピストンロッド43の外周面に圧接し、ピストンロッド43の往復作動抵抗が過大となり、かつ、第1シール46・第2シール47の圧接部位の摩耗も過大となる。
【0006】
従って、図13と図14に示した構成の密封構造は、多大な問題を有し、高圧使用条件下では実用性を欠くものである。
そこで、仮に、第1シール46・第2シール47を合成樹脂製とすると、往復作動抵抗が減少して比較的良好な結果が得られ、間隙48Aへのはみ出し(噛み込み49)も防止できる。しかし、低圧時のシール性に劣り、かつ、シール溝40,41への装着性が悪くなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、一体加工溝への装着が可能で、しかも、その装着の作業性に優れると共に、高圧仕様に十分に耐えて、噛み込み等の変形を生ずることがなく、また、往復動ロッドへの摩擦抵抗力も低く、耐久性にも優れ、かつ、低圧時にも十分なシール性(密封性)を発揮できる密封構造の提供を目的とする。さらに、背圧が蓄積せず、2重密封構造にも好適なものを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明に係る密封構造は、往復動ロッドが挿通される孔部の内周面に形成された凹溝に装着される内径リップと外径リップを備えたゴム製の弾性シール、及び、上記弾性シールの背面を受持するバックアップリングとを、具備した密封構造に於て;低圧側端部が上記バックアップリングに当接すると共に上記弾性シールのシール内周面を上記背面寄りにて受持する薄肉壁部と、該薄肉壁部に連設されて上記シール内周面の軸心方向中間部に凹設された小凹溝部に嵌合する丸山形膨出部とを、一体に有する合成樹脂製ガイドリングを設け;受圧の際に、上記弾性シールの内径リップの付け根部近傍のゴムを、上記丸山形膨出部によって外径方向へ誘導するように構成したものである。
【0009】
また、上記弾性シールが横断面U字状の弾性シールである。
また、上記弾性シールが横断面Y字状のYシールである。
また、上記弾性シールが横断面U字状乃至Y字状であって、上記外径リップの外周面の付け根部近傍に、小凹窪を形成した。
【0010】
また、上記ガイドリングは、上記弾性シールの内径リップの内周面に沿って、上記膨出部から密封流体側へ縮径テーパ状に延設された傾斜薄肉片を一体に備えている。
また、上記バックアップリングは、その外周端面に低圧側へ拡径する勾配誘導面を形成して、受圧の際に、上記弾性シールの背面基部のゴムを低圧側かつ外径方向へ誘導するように構成した。
また、上記凹溝は、一体加工溝であり、上記ガイドリングは切れ目の無い閉環状である。そして、2重密封構造体に於て、流体密封側又は低圧側に配設して成る。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る密封構造によれば、一体加工溝への装着が容易に行い得て、装着作業性に優れ、コンパクトであり、高圧使用条件にも対応でき、かつ、低圧時にも十分なシール性を発揮する。さらに、往復動ロッドの外周面に過大な接触面圧をもって張り付く(圧接)することを(軽減)防止し、摺動抵抗が低く、シールの耐久性に優れる。さらに、高圧化に対応して、2重密封構造にも好適であり、背圧が蓄積しない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の一形態を示す要部断面説明図である。
【図2】自由状態を示す要部拡大断面図である。
【図3】装着未受圧状態を示す要部拡大断面図である。
【図4】受圧状態を示す要部拡大断面図である。
【図5】弾性シールの一例の要部拡大断面図である。
【図6】ガイドリングの一例の要部拡大断面図である。
【図7】ガイドリングの一部破断斜視図である。
【図8】ガイドリングの他の例を示す図であって、(A)は一部破断斜視図、(B)は要部拡大断面図である。
【図9】ガイドリングの別の例を示す図であって、(A)は一部破断斜視図、(B)は要部拡大断面図である。
【図10】ガイドリングのさらに他の例を示す図であって、(A)は一部破断斜視図、(B)は要部拡大断面図である。
【図11】本発明の他の実施の形態を示す要部断面説明図である。
【図12】自由状態を示す要部拡大断面図である。
【図13】従来例を示す要部拡大断面図である。
【図14】受圧状態の従来例の要部拡大断面図である。
【図15】別の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図16】さらに他の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図17】組立て前の状態の一例を示すガイドリングの拡大断面図である。
【図18】変形例を示す要部拡大断面図である。
【図19】他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図20】別の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図21】さらに他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図22】本発明のさらに別の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1に示す密封構造の実施の一形態に於て、1は矢印A,Bのように往復作動する往復ロッドであり、2はシリンダヘッド等のシール取付部材であって、ロッド1が挿通される孔部3が貫設されると共に、この孔部3には、流体収納室側(高圧側)5から大気側(低圧側)7に、第1凹溝4と第2凹溝6とスクレーパ凹溝8が、独立したシール溝として、かつ、一体加工溝(一体溝という場合もある)として、形成されている。
第1・第2凹溝4,6は断面矩形状であり、スクレーパ凹溝8は低圧側7へ開口状である。
第1凹溝4内には第1シール、第2凹溝6には第2シール12、そして、スクレーパ凹溝8にはスクレーパ9が、各々内装される。
【0014】
図1では、第2シール12は、Oリング12Aとキャップシール12Bと、2枚のバックアップリング12C,12Cとから成る。また、スクレーパ9は、低圧側7に向いて開口するコの字型断面のスクレーパ本体9Aと、その開口溝に内装されたOリング9Bとから成る。なお、図1では、第1シール,第2シール12及びスクレーパ9は、自由状態を示すと共に、往復ロッド1及び取付部材2は2点鎖線をもって示すように、仮想位置を示している。
【0015】
そして、高圧側5の第1シールに、本発明に係る密封構造が適用され、10はゴム製の弾性シールであり、図1〜図5では、U字状のUシールを例示し、EPDM,フッ素系ゴム,ニトリルゴム等のゴムが好ましい。この弾性シール10は、内径リップ13と外径リップ14を有し、両リップ13,14によって形成されたU字溝11は、高圧側5へ向いて開口し、さらに、図1、及び、その拡大図を示す図2と、未加圧装着状態を示す図3に示すように、弾性シール10の背面15をPTFE等の合成樹脂製のバックアップリング16にて受持し、かつ、弾性シール10の内周面の中間乃至背面寄りを、PTFE等の合成樹脂製のガイドリング20にて、受持している。
【0016】
図1〜図3、及び、圧力Pが作用した受圧状態を示した図4と、分解した状態の単品を示す図5・図6に示したように、ガイドリング20は、横断面が丸山形(半円形乃至半楕円形)の膨出部20Aと、横断面一文字形の薄肉壁部20Bとを、一体に有し、軸心Lと平行方向に偏平な横断面であって、(このガイドリング20は切れ目の無い閉環状であるが、)一体加工溝の凹溝4への装着作業は容易である。上記膨出部20Aは、その横断面に於て、直線状底辺17がロッド1の外周面に当接(摺接)し、所定小半径R20の弯曲凸部18は、弾性シール10の小凹溝部19に嵌合する。
【0017】
薄肉壁部20Bは、ロッド1との間に0.05mm〜0.20mm程度の微小間隙21を形成するように、前記底辺よりも僅かに外径方向位置に配設する。言い換えれば、丸山形膨出部20Aの低圧側7の側面に、底辺17より0.05mm〜0.20mm程度だけ外径方向位置にずらせて、薄肉壁部20Bが軸心L方向に突出状に形成されている。
【0018】
また、図5に於て、内径側の2点鎖線Cは通常のUシール(Uパッキン)の横断面形状の一部を示し、この2点鎖線Cを基準とすると、本発明の弾性シール10は、盗みEが切欠形成されていると言える。この盗みEに対して、ガイドリング20が嵌め込まれると言うこともできる。さらに、後述のような形状のバックアップリング16の一部も、この盗みEの一部に嵌め込まれる。
【0019】
バックアップリング16は、厚さ寸法T16が比較的に大きく設定され、その外周端面に、低圧側7へしだいに拡径する勾配誘導面22が形成されている。さらに、このバックアップリング16の外径寸法D16は、凹溝4の底面の内径寸法D4 よりも十分に小さく設定して、図2と図3に示すような(変形ゴム流入用)空間部23を、凹溝4の低圧側隅部に形成する。(後述するように)図4に矢印Kにて示すゴムの流れを、受圧の際に生じさせて、弾性変形した弾性シール10の背面基部のゴム24を、空間部23内へ流入させる。前記勾配誘導面22は、図4に示すような受圧状態下で、弾性シール10の背面基部のゴム24を低圧側から外径方向へ誘導する。
【0020】
さらに追加説明すると、合成樹脂製のガイドリング20の低圧側端部25は、バックアップリング16に当接し、また、このガイドリング20は、弾性シール(Uシール)10のシール内周面10Cを受持(サポート)する。この受持(サポート)の状態について説明すると、薄肉壁部20Bは、弾性シール(Uシール)10のシール内周面10Cを、背面15寄りにて受持し、特に、弾性シール10の背面15側の内角部26を、薄肉壁部20Bとバックアップリング16にて受持(サポート)する。さらに、ガイドリング20の丸山形膨出部20Aは、シール内周面10Cの軸心方向中間部に凹設された小凹溝部19に嵌合して、底辺17がロッド1の外周面に摺動自在に当接することで、ゴム製の弾性シール10の軸心方向中間部が、往復ロッド1の外周面に直接的に接触することを防ぎ、高圧が作用した受圧状態での摩擦抵抗を著しく低減する。つまり、ガイドリング20は高圧負荷時には、低摺動抵抗のリングとして機能する。このとき、ガイドリング20の材質としては、前述のPTFE等の低摩擦材が好ましい。
図4に示すように、受圧の際には、弾性シール10の内径リップ13の付け根部近傍27のゴムを、丸山形膨出部20Aによって、矢印Gの如く、外径方向へ誘導する。
【0021】
図14にて述べたように、従来例では、矢印f1 ,f2 にて示すようにロッド43に強く圧接した張り付き状態となり、ロッド摺動抵抗が過大となっていたのに対し、本発明に於ては、図4に矢印Gにて示すように、ゴムの流れを生じさせて、内リップ13を外径方向へ誘導しつつロッド1から分離する方向へ案内して、矢印Fにて示すロッド圧接力を、減少させ、ロッド摺動抵抗を低減する。バックアップリング16の勾配誘導面22及び空間部23等の作用によって、図4の矢印J,Kのようなゴムの流れも付加されることにより、一層矢印G方向へのゴム流れが増加できる。本発明に係る密封構造では、このような作用によって、高圧負荷時(高圧Pの作用時)にも、弾性シール10のロッド1への摺接面圧が低く維持できて、ロッド1の摺動抵抗は小さくできる。
【0022】
なお、矢印G,J,K等のゴムの流れに伴って、ガイドリング20の底辺17、及び、バックアップリング16の底辺が、矢印f3 ,f4 にて示す摺動面圧をもってロッド1に接触する。しかし、PTFE等の低摩擦部材から成る上記ガイドリング18及びバックアップリング16と往復ロッド1との摩擦抵抗は小さくて済み、図14について述べた従来例の過大な摩擦抵抗の問題は、確実に解決できる。
【0023】
なお、圧力Pが低い時(低圧状態)、弾性シール10が弾性変形しやすいゴムシールであるため、十分なシール性(密封性能)を発揮する。
上述のように、高圧状態では、ガイドリング20は低摺動抵抗に大きく貢献し、さらに、このガイドリング20は弾性シール10に嵌合して、一体化した動きが期待でき、小型で剛性が小さくても、押し潰されたり、脱落の虞はない。
ところで、図2,図5に於て(外周側に)2点鎖線で示す如く、外径リップ14の外周側の付け根部近傍に、小凹窪50を(切欠状に)形成するも、好ましい場合がある。言い換えると、弾性シール10が、横断面U字状乃至Y字状であって、外径リップ14の外周面の付け根部近傍に、小凹窪50を凹設するも、好ましい。
【0024】
図7は、図6及び図2〜図4と同じ具体例のガイドリング20を一部破断にて示す斜視図であるが、段差(微小間隙)21を有している点に特徴があり、さらなる低摺動抵抗が期待できる。これに対し、図8に示す他の例では、軸心と平行な方向に多数本の潤滑小溝29を付設している。つまり、摺動面(下辺)17に潤滑小溝29を凹設することで、作動油が溜まって、ロッド1との摺動抵抗の一層の低減が図り得る。また、この小溝29によって、ガイドリング20の剛性が幾分低下して、一体加工凹溝4への装着性が更に改善できる。
また、図9又は図10は、各々別の例を示し、段差21を省略して、製作の容易化を図り、剛性を少々アップしている。そして、図10では、軸心と平行な方向に多数本の潤滑小溝29を凹設して、図9に対して摺動抵抗の一層の低減及び装着性の改善を図っている。
【0025】
なお、図1に示すように、2重密封構造体の流体密封側(高圧側)5に本発明の上述した密封構造を配設した場合、背圧も蓄積せず、かつ、ゴム製弾性シール10によって低圧にも優れたシール性を発揮するので、第2シール12としては、摺動抵抗の小さい、高圧に耐える図1に示したような構成が望ましい。なお、図1の第2シール12及びスクレーパ9は、これ以外に、設計変更自由であり、各種の他の構成のものも適用できる。また、図1の第1シールと第2シール12を入れ替えることも可能であり、さらには、図2〜図6の密封構造を第1シールと第2シールの両者に適用しても良い。
【0026】
次に、図11は他の実施の形態を示し、第1シールに適用した密封構造は、図12に示すように、ガイドリング20の形状が(図2と比較して)相違している。つまり、弾性シール10の内径リップ13の傾斜状の内周面に沿って、丸山形膨出部20Aから密封流体側(高圧側)5へ縮径テーパ状に延設された傾斜薄肉片30を一体に有する。
内径リップ13の最先端縁部13Aをも内径側から、傾斜薄肉片30が被覆しており、従って、ロッド1へは、この傾斜薄肉片30の最先端縁部30Aが摺接して、密封作用をなす。PTFE等の合成樹脂から成る傾斜薄肉片30は、摩擦係数が小さく、かつ、ゴムのようにロッド1の表面に張り付くこともなく、ロッド摺動抵抗が小さいという利点があり、高圧負荷時に特にその利点が顕著となるので、図12の密封構造は、一層の高圧使用条件に適応できる。
【0027】
また、図12ではバックアップリング36,37が図2等に示したバックアップリング16とは相違しており、勾配誘導面22の無い縦1文字形のものを2枚使用している。なお、バックアップリング36,37はバイアスカット等の切れ目31,32を有し、ガイドリング20には切れ目が無い(閉円環状である)。それ以外の構成は、既述の図2〜図6にて説明した実施の形態と同様であり、同一符号は同様の構成を示し、重複説明を省略する。
【0028】
ところで、図11に於て、第2シール12が、図1で述べたものとは相違している。図11と図12に示すように、合成樹脂製の傾斜薄肉片30がロッド1に摺接して、シール作用をなすため、図1の場合よりも高圧にも耐え得るのであるが、逆に、低圧受圧(使用)状態では、傾斜薄肉片30とロッド1との圧接力が弱く、僅かな流体洩れを生ずることが予測されるので、ゴム製のUシール(Uパッキン)33と、バックアップリングから成る密封構造のものを第2シール12として用いている。
【0029】
次に、図15と図16は、各々、別の実施の形態を示した自由状態の要部拡大断面図であって、ガイドリング20の膨出部20Aから延設された縮径テーパ状傾斜薄肉片30の延伸寸法が、図12よりも短く設定されている。即ち、弾性シール10の内径リップ13が往復ロッド1に摺接する密封先端縁部13Bに到達しないように短く設定されている。
前述の図12では、合成樹脂製の(ガイドリング20の)最先端縁部30Aがロッド1に摺接する構成であるが、図15,図16では、ゴム製の(弾性シール10の)密封先端縁部13Bがロッド1に摺接して、密封性能を向上させている。言い換えれば、図15,図16では、既述した図2〜図4、及び、図12の実施の形態についての僅かな弱点を、中間的に補って、高圧仕様で、かつ、摺動摩擦抵抗を低く抑えている、といえる。
【0030】
ところで、図11,図12、及び、図15,図16に例示した傾斜薄肉片30は、ゴム製弾性シール10と一体状に組み合わせた状態下でテーパ状であれば良く、図17に実線にて示す如く、自由状態に於て、ガイドリング20の傾斜薄肉片予定部30Zが、テーパ状ではなくストレート円筒状であって、ゴム製弾性シール10と組み合わせた状態下でゴム弾性力によって、図17の矢印N方向へ弾発的に付勢されて、2点鎖線に示したテーパ状となるように、構成するも自由である。これによって、加工が容易となる。
さらに、図17に実線にて示すガイドリング20の断面形状に於て、丸山形膨出部20Aの中心線L20に関して、左右対称形として、中心線L20から左右端までの寸法W1 ,W2 を同一とするのが望ましい場合もある。
即ち、上記寸法W1 ,W2 を相等しくして、かつ、薄肉壁部20Bの肉厚寸法T2 と傾斜薄肉予定部30Zの肉厚寸法T1 とを相等しく設定することによって、ゴム製弾性シール10に組み合わせる際の組み間違いを防止できる。
なお、自由状態下で傾斜薄肉片30がテーパ状であることも望ましいことである。
また、図12,図15,図16、及び、後述の図18〜図21の横断面図に於て、外径リップ14の外周面の付け根部近傍に、2点鎖線で示す小凹窪50を形成するも、好ましい。このとき、弾性シール10の横断面形状は、U字状乃至Y字状であると言える。
【0031】
次に、図18〜図21は、各々異なった他の実施の形態を示し、弾性シール10の内径リップ13の断面形状が既述した実施の形態と相違しており、高圧側最先端縁部13Cが鋭角を成す三角山型であって、その角度βは90°未満とする。好ましくは、50°≦β≦85°である。
このように、鋭角の三角山型の高圧側最先端縁部13Cとすることによって、受圧状態下で圧力の相殺が期待でき、ラジアル内方向への受圧に伴うロッド接触圧力(接触抵抗)を、低減可能である。
なお、図18は図2〜図4の変形例に相当し、図19は図12の変形例に相当し、図21は図15の変形例に相当する。また、図20では、ガイドリング20が独自の断面形状の場合を示し、傾斜薄肉片30の最先端縁部30Aから、逆テーパとして延設した高圧側拡径テーパ部34を有する。
【0032】
そして、図18〜図21に示すように、周方向潤滑小溝29Aをガイドリング20の内周面に形成するのも望ましい。また、図8や図10で述べた軸心方向の潤滑小溝29は、図18及び図15,図16に適用するのが良いが、図19,図20ではシールパスを生ずるので上記軸心方向の潤滑小溝29は不可である。しかしながら、周方向潤滑小溝29Aは、いずれの実施の形態でも、適用できるという利点がある。
なお、図示省略するが、本発明に於ける弾性シール10としては、高圧側に分岐状の内径リップ13と外径リップ14の軸心方向寸法に対して、断面略矩形状のシール基部35の軸心方向長さが、上述の図例よりも、一層大きいものであっても、本発明の上述の構成を適用可能である。
【0033】
次に、図22に示すさらに別の実施の形態では、弾性シール10が横断面Y字状のYシールであり、外径リップ14の横断面積が十分に大きく、かつ、小凹窪50が外径リップ14の外周面形状から滑らかに連続形成されている。
【0034】
以上説明したように、本発明に係る密封構造は、ゴムと合成樹脂とを組み合わせたものであって、往復動シールとして高圧仕様に耐えうると共に、低圧時にも十分なシール性能を発揮し、また、高圧仕様として2重シール構造に好適であり、高圧側に使用した構造(図1,図11参照)が望ましいが、それ以外に、低圧側(第2シール)に使用したり、高圧・低圧の両方に使用することも可能である。
【0035】
そして、シール用の凹溝4が一体加工溝であっても、容易に装着が可能であり、ゴムの内径リップ13によって低圧から高圧まで優れた密封性能(シール性)を発揮し(図1〜図4参照)、しかも、従来の図14に示した噛み込み49及び矢印f1 ,f2 のような過大な接触面圧を確実に防止できる構造であって、摩擦抵抗及びロッド摺動抵抗を低減でき、かつ、ゴムの摩耗や破損も発生せず、寿命も長く優れた発明である。
特に、図4,図12に矢印Gにて示したように、合成樹脂の丸山形膨出部20Aによってゴムの流れが誘導(案内)され、内径リップ13が高圧時にロッド表面に張り付く(密着する)ことが、巧妙に避け得る構成を具備する。
【0036】
なお、バックアップリング16,36,37は、バイアスカット等の切れ目31を有し、一体加工溝への装着が容易であり、ガイドリング20はラジアル方向へは小寸法とした偏平型であって剛性が低く弾性変形しやすいので、一体加工溝への装着が容易であり、横断面U字状乃至Y字状の弾性シール10は弾性変形可能なゴム製であるから装着は当然に容易となっている。そして、ゴム製弾性シール10の小凹溝部19に、偏平小型のガイドリング20の丸山形膨出部20Aが嵌合していることによって、弾性シール10とガイドリング20は一体化した動きを期待でき、ガイドリング20が押し潰されたり、あるいは、脱落することもなく、装着性も向上できる。また、本発明では背圧が蓄積せず、2重密封(シール)構造としても好適である。
【0037】
そして、図22に実線にて示し、あるいは、図2,図5,図12,図15,図16,図18,図19,図20,図21に2点鎖線にて示したように、小周溝を形成するように(断面に於て)小凹窪50を凹設することによって、次のような作用・効果が発揮できる。
(i)高圧が密封流体側5に掛った際、U字状乃至Y字状の弾性シール10の外径リップ14が、凹溝4の溝底面に沿って低圧側7へ移動しつつ、凹窪部50に流れ込み(食い込み)、上記溝底面に強く圧接(高い圧接面圧を発生)して、いわばスクイーズシールの作用によって、流体の外部漏洩が防止できる。
(ii)図1や図11に例示した2重シールの場合、弾性シール10の背面15側に圧力(いわゆる背圧)が蓄積しない。これは、前述のスクイーズシールの作用により背圧が蓄積されるように見えるが、背圧が少しでも高圧側5よりも高くなると、直ちに、小凹窪50内に食い込んだゴム材が押し戻されて、背圧が解消すると、期待できる。
【0038】
本発明は、以上述べたように、往復動ロッド1が挿通される孔部3の内周面に形成された凹溝4に装着される内径リップ13と外径リップ14を備えたゴム製の弾性シール10、及び、上記弾性シール10の背面15を受持するバックアップリング16,36,37とを、具備した密封構造に於て;低圧側端部25が上記バックアップリング16に当接すると共に上記弾性シール10のシール内周面10Cを上記背面15寄りにて受持する薄肉壁部20Bと、該薄肉壁部20Bに連設されて上記シール内周面10Cの軸心方向中間部に凹設された小凹溝部19に嵌合する丸山形膨出部20Aとを、一体に有する合成樹脂製ガイドリング20を設け;受圧の際に、上記弾性シール10の内径リップ13の付け根部近傍27のゴムを、上記丸山形膨出部20Aによって外径方向へ誘導するように構成したので、所期目的を達成して、高圧時にゴム製の内径リップ13がロッド1に過大接触面圧をもって圧接することを有効防止して、摩擦抵抗を低減して、ロッド摺動抵抗が減少でき、また、ゴム製の内径リップ13の早期摩耗も防止できる。しかも、ゴム製内径リップ13によって密封作用をなすので、低圧時にも優れたシール性を発揮できる。さらに、ゴム製弾性シール10の背面15側の内角部の噛み込み(図14の符号49参照)も確実に防止でき、また、合成樹脂製のガイドリング20がロッド1に摺接する際の摺動抵抗が確実に低減可能である。
さらに、一体加工溝への装着性も優れている。かつ、背圧の蓄積も生じないので、2重シール(密封)構造用に好適である。
【0039】
また、上記弾性シール10が横断面U字状乃至Y字状であって、上記外径リップ14の外周面の付け根部近傍に、小凹窪50を形成した構成であるので、高圧が密封流体側5に掛った際、U字状乃至Y字状の弾性シール10の外径リップ14が、凹溝4の溝底面に沿って低圧側7へ移動しつつ、凹窪部50に流れ込み(食い込み)、上記溝底面に強く圧接(高い圧接面圧を発生)して、いわばスクイーズシールの作用によって、流体の外部漏洩が防止できる。しかも、図1や図11に例示した2重シールの場合、弾性シール10の背面15側に圧力(いわゆる背圧)が蓄積しない。これは、前述のスクイーズシールの作用により背圧が蓄積されるように見えるが、背圧が少しでも高圧側5よりも高くなると、直ちに、小凹窪50内に食い込んだゴム材が押し戻されて、背圧が解消すると、期待できる。
【0040】
また、上記ガイドリング20は、上記弾性シール10の内径リップ13の内周面に沿って、上記膨出部20Aから密封流体側5へ縮径テーパ状に延設された傾斜薄肉片30を一体に備えているので、一層の高圧使用条件にも耐えることが可能となる。即ち、ゴム製内径リップ13が内径側から合成樹脂製傾斜薄肉片30にてサポートされて、過大ゴム変形を防ぎ、ロッド1へは合成樹脂製傾斜薄肉片30が摺接して、ロッド1の表面への張り付き(密着)を防ぎ、ロッド摺動抵抗も小さい。
【0041】
また、上記バックアップリング16は、その外周端面に低圧側7へ拡径する勾配誘導面22を形成して、受圧の際に、上記弾性シール10の背面基部のゴム24を低圧側7かつ外径方向へ誘導するように構成したので、(図4に示すように)矢印J,Kのようにゴムが流れ(変形)して、空間部23へ流入し、内径リップ13のロッド1への接触面圧が過大とならないように作用し、内径リップ13の早期摩耗を防ぎ、かつ、ロッド摺動抵抗を低減できる。
また、上記凹溝4は、一体加工溝であり、上記ガイドリング20は切れ目の無い閉環状であるので、油圧機器等のコンパクト化・軽量化に寄与でき、密封性能(シール性)も十分良好である。
また、2重密封構造体に於て、流体密封側又は低圧側に配設して成ることによって、一層の高圧使用条件にも適用可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 (往復)ロッド
3 孔部
4 凹溝
5 高圧側(密封流体側)
7 低圧側
10 弾性シール
10C シール内周面
13 内径リップ
14 外径リップ
15 背面
16, 36, 37 バックアップリング
19 小凹溝部
20 ガイドリング
20A 丸山形膨出部
20B 薄肉壁部
22 勾配誘導面
24 背面基部のゴム
25 低圧側端部
26 内角部
27 付け根部近傍
30 傾斜薄肉片
50 凹窪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動ロッド(1)が挿通される孔部(3)の内周面に形成された凹溝(4)に装着される内径リップ(13)と外径リップ(14)を備えたゴム製の弾性シール(10)、及び、上記弾性シール(10)の背面(15)を受持するバックアップリング(16)(36)(37)とを、具備した密封構造に於て、
低圧側端部(25)が上記バックアップリング(16)(36)に当接すると共に上記弾性シール(10)のシール内周面(10C)を上記背面(15)寄りにて受持する薄肉壁部(20B)と、該薄肉壁部(20B)に連設されて上記シール内周面(10C)の軸心方向中間部に凹設された小凹溝部(19)に嵌合する丸山形膨出部(20A)とを、一体に有する合成樹脂製ガイドリング(20)を設け、
受圧の際に、上記弾性シール(10)の内径リップ(13)の付け根部近傍(27)のゴムを、上記丸山形膨出部(20A)によって外径方向へ誘導するように構成したことを特徴とする密封構造。
【請求項2】
上記弾性シール(10)が横断面U字状のUシールである請求項1記載の密封構造。
【請求項3】
上記弾性シール(10)が横断面Y字状のYシールである請求項1記載の密封構造。
【請求項4】
上記弾性シール(10)が横断面U字状乃至Y字状であって、上記外径リップ(14)の外周面の付け根部近傍に、小凹窪(50)を形成した請求項1,2又は3記載の密封構造。
【請求項5】
上記ガイドリング(20)は、上記弾性シール(10)の内径リップ(13)の内周面に沿って、上記膨出部(20A)から密封流体側(5)へ縮径テーパ状に延設された傾斜薄肉片(30)を一体に備えている請求項1,2,3又は4記載の密封構造。
【請求項6】
上記バックアップリング(16)は、その外周端面に低圧側(7)へ拡径する勾配誘導面(22)を形成して、受圧の際に、上記弾性シール(10)の背面基部のゴム(24)を低圧側(7)かつ外径方向へ誘導するように構成した請求項1,2,3,4又は5記載の密封構造。
【請求項7】
上記凹溝(4)は、一体加工溝であり、上記ガイドリング(20)は切れ目の無い閉環状である請求項1,2,3,4,5又は6記載の密封構造。
【請求項8】
2重密封構造体に於て、流体密封側又は低圧側に配設して成る請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の密封構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−163554(P2011−163554A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289197(P2010−289197)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】