説明

密閉型リチウム二次電池の製造方法

【課題】電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池であって、過充電防止剤の添加量を増やさずに(即ち、電池特性を維持しつつ)該電池の安全性を向上し得る技術を提供する。
【解決手段】正極と負極を有する電極体と、電解質と、所定の電池電圧を超えた際にガスを発生させる添加剤とが電池ケース内に収容され、かつ該電池ケースの内圧が上昇した際に作動する電流遮断機構が備えられた密閉型リチウム二次電池を製造する方法であって、
かかる電池に対して充電処理を行い4.2V以上であって上記電解質の酸化電位以下に調整する工程と、上記充電処理した電池を40℃〜70℃の高温域で少なくとも15時間以上保持してエージング処理する工程とを包含する、密閉型リチウムイオン二次電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)に関し、詳しくは、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池に関する。また本発明は該電池のエージング処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池その他のリチウム二次電池は、既存の電池に比べ軽量かつエネルギー密度が高いという特徴から、近年、車両搭載用高出力電源あるいはパソコンや携帯端末の電源等に好ましく利用されている。
【0003】
かかる電池の一形態として、密閉型リチウムイオン二次電池が挙げられる。該電池は、典型的には、活物質を含む合材層を備えた正負極からなる電極体が、電解質(典型的には、電解液)とともに電池ケースに収容された後、蓋体が装着されて封口(密閉)されることにより構築される。そして、構築された電池は、実際に使用可能な状態に調整するために所定の条件で充放電処理(コンディショニング処理)が施される。また、電池性能の安定化等を目的として、所定の条件下で電池を保持(放置)する処理(以下、「エージング処理」ともいう。)が施される場合もある。
【0004】
リチウム二次電池は、一般に電圧が所定の領域(例えば3.0V以上4.2V以下)に収まるよう制御された状態で使用されるが、誤操作等により電池に通常以上の電流が供給されると、所定の電圧を超えて過充電となる場合がある。そこで、過充電の進行を停止する安全機構として、電池ケース内の圧力が所定値以上になると充電電流を遮断する電流遮断機構を備えた電池が広く用いられている。一般に、電池が過充電状態になると、電解液の非水溶媒等が電気分解されてガスが発生する。上記電流遮断機構は、このガス発生に基づいて電池の充電経路を切断することで、それ以上の過充電を防止し得るようになっている。
【0005】
また、上記電流遮断機構を用いる際に、あらかじめ電解液の非水溶媒よりも酸化電位(即ち、酸化分解反応の始まる電圧)の低い化合物(以下、「過充電防止剤」ともいう。)を、電解液中に含有させておく手法が知られている。該過充電防止剤の典型的な例としては、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等の芳香族化合物が挙げられる。かかる過充電防止剤は、電池が過充電状態になると正極(典型的には、正極合材層中の正極活物質や導電材)の表面において速やかに酸化分解され、ガスが発生する。この発生したガスが電池の内圧上昇を生みだすことにより、電流遮断機構をより迅速に作動させることができる。
この種の従来技術として、例えば特許文献1には過充電防止剤としてシクロヘキシルベンゼン化合物やケトン化合物等を添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−063367号公報
【特許文献2】特開2000−340262号公報
【特許文献3】特開2004−030939号公報
【特許文献4】特開2004−095463号公報
【特許文献5】特開2008−010337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1で用いられたシクロヘキシルベンゼン化合物等の過充電防止剤は酸化電位が凡そ4.6V以上であり、少々添加しても過充電に対する効果が低いことが課題として挙げられる。即ち、4.2Vで満充電となるリチウム二次電池に該過充電防止剤を添加した場合、該電池が過充電状態の電位に至ってから分解ガスが発生し始めるまでに時間を要し、電流遮断機構の作動が遅れる虞がある。
さらに近年、リチウム二次電池は高容量化、高出力化される傾向にある。かかる電池においては、正極合材層の密度が高く、過充電防止剤との接触面積が減少するため、過充電時において分解ガスの発生が少量かつ緩やかになる虞がある。とりわけ大電流充電時に過充電となった場合には、上記分解反応が遅れることで電流遮断機構が迅速に機能しない虞がある。かかる場合でも迅速に電流遮断機構を作動させるためには、ガス発生量を増加させることが必要である。このため過充電防止剤の添加量を増やさざるを得ないが、過充電防止剤は電池の抵抗成分として働くため、添加量が増すと電池性能に悪影響(典型的には、サイクル特性や高温保存特性の悪化)があり好ましくない。特許文献1に記載される技術では、かかる課題に対処することは困難である。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電池ケース内の圧力上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池の製造方法であって、過充電防止剤の添加量を増やさずに(即ち、電池特性を維持しつつ)、該電池の安全性を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現すべく、正極と負極を有する電極体と、電解質と、所定の電池電圧を超えた際にガスを発生させる添加剤(過充電防止剤)とが電池ケース内に収容され、かつ該電池ケースの内圧が上昇した際に作動する電流遮断機構が備えられた密閉型リチウム二次電池を製造する方法が提供される。かかる製造方法は、上記電極体と上記電解質と上記添加剤とが上記電池ケース内に収容され構築された密閉型リチウムイオン二次電池に対して充電処理を行い、4.2V以上であって上記電解質の酸化電位以下に調整すること、および上記充電処理した電池を40℃以上70℃以下の高温域で少なくとも15時間以上保持(即ち、エージング処理)すること、を包含する。
【0010】
ここで開示される製造方法は、4.2V以上の高電位(典型的には、4.2Vで満充電となるリチウム二次電池においてSOCが100%を上回る状態)まで充電された該電池を、高温域(40℃以上70℃以下)でエージング処理することを特徴とする。上記エージング処理によると正極近傍に存在する過充電防止剤が酸化分解され、より反応性の高い(即ち、酸化電位の低い)化合物に転換され得る。そのため過充電時におけるガスの発生がより迅速になる。また分解ガスの発生に係る正極の近傍において過充電防止剤の反応性を高めることができるため、ガスの発生効率を高め得る。よって該電池作製時に大量の過充電防止剤を添加せずとも、過充電時において迅速に大量のガスを発生させることができ、より早い段階での電流遮断装置の作動を可能にし得る。
なお、「SOC」とは、充電深度(State of Charge)を意味し、可逆的に充放電可能な稼動電圧の範囲において、その上限となる電圧が得られる充電状態(即ち、満充電状態)を100%とし、下限となる電圧が得られる充電状態(即ち、充電されていない状態)を0%としたときの充電状態を示す。
【0011】
ところで、エージング処理に関する従来技術としては、特許文献2〜5が挙げられる。しかし、これら従来のエージング処理は、電極表面の不活性化等により初期容量やサイクル特性等の改善を目指したものであり、本発明の目的とするような過充電防止剤の反応効率を高めるという観点での検討は行われていない。
【0012】
ここで開示される製造方法の好適な一態様として、上記過充電防止剤として少なくとも一種類は4.6V以上に酸化電位を有する芳香族化合物を含んでいることが挙げられる。過充電防止剤としては、酸化電位がリチウム二次電池の稼動電圧以上(例えば、現在広く用いられているリチウム二次電池の場合では4.2V以上)であって、酸化されると大量のガスを発生するような化合物であれば特に限定なく用いることができる。しかし該過充電防止剤の酸化電位がすでに電池の稼動電圧上限と近接している場合は、かかる発明の効果は薄い。従って、例えば4.2Vで満充電状態となるリチウム二次電池においては、酸化反応電位が4.6V以上のものが好適に用いられる。
【0013】
ここで開示される製造方法の他の好適な一態様として、上記過充電防止剤として少なくとも一種類は、以下の化学式(I)で示されるシクロヘキシルベンゼン(CHB)もしくは4−アルキルシクロヘキシルベンゼンを含んでおり、かつ上記充電処理において上記電池の電圧値を4.2V以上4.4V以下に調整することが挙げられる。
例えば下記化学式(I)のRが水素原子(H)で表されるシクロヘキシルベンゼン(CHB)は、かかるエージング処理により酸化分解され、ビフェニル(BP)に転換され得る。ビフェニル(BP)の酸化電位は凡そ4.5Vであるため、上記充電処理は、生成されたビフェニル(BP)が酸化分解されない電圧(即ち、4.2V以上4.4V以下)に調整することが好ましい。
【0014】
【化1】

(ただし、Rは水素原子もしくは炭素数1〜6の直鎖、分岐、または環状のアルキル基である。)
【0015】
上記化学式においてRで表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基が挙げられる。中でも炭素数が1〜4のアルキル基が好ましく、例えばn−ブチル基を備えたtrans−4−ブチルシクロヘキシルベンゼンが好適例として挙げられる。
【0016】
ここで開示される製造方法の好適な他の一態様として、上記添加剤の添加量が、上記電解質(典型的には、電解液)に対し0.1質量%以上5質量%以下であることが挙げられる。添加量が極端に少なすぎる場合は、過充電時におけるガス発生量が少なくなり、電流遮断機構が正常に作動しない虞がある。また上述の通り、過充電防止剤を大量に添加すると電池性能の低下を引き起こすため好ましくない。
【0017】
ここで開示される製造方法の好適な他の一態様として、上記正極は、正極集電体上に形成された正極活物質を含む正極合材層を備えており、該正極合材層の密度が、2.5g/cm以上の場合が挙げられる。かかる構成の正極によれば、正極合材層が高密度化し過充電防止剤と正極との接触面積(即ち、反応場)が減少した場合であっても、過充電防止剤の反応効率が高いため過充電時に迅速に分解反応を生じ、大量のガスを発生させることができる。その結果、上記電流遮断機構を迅速に作動させることができる。
【0018】
また、ここで開示される製造方法により構築された密閉型リチウム二次電池を備える車両が提供される。かかる製造方法は、高容量、高出力の電池が大電流充電時に過充電となった場合に有効であるため、特に車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機)のモーター駆動のための動力源(電源)として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池を備えた車両(自動車)を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池(若しくはリチウムイオン二次電池)、リチウムポリマー電池等と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。また、本明細書において「活物質」とは、電荷単体となる化学種(リチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出し得る材料をいう。
【0021】
以下、ここで開示される製造方法により構築される密閉型リチウム二次電池の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。かかる構造のリチウム二次電池は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0022】
ここで開示される製造方法により構築される密閉型リチウム二次電池の正極としては、粒状正極活物質を導電材やバインダ等とともに正極合材として正極集電体上に付着させて正極合材層(正極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
ここで正極集電体の素材としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。集電体の形状は、得られた電極を用いて構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。後述する捲回電極体を備えた電池では、主に箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜200μm(より好ましくは10μm〜50μm)程度を好ましく用いることができる。
【0023】
ここで用いられる正極活物質には、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩等が挙げられる。中でも、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)は、熱安定性に優れ、かつエネルギー密度も高いため好ましく用いることができる。
【0024】
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li、Ni、Co、Mnを構成金属元素とする酸化物のほか、Li、Ni、Co、Mn以外に他の少なくとも一種の金属元素(Li、Ni、Co、Mn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、Ceのうちの一種または二種以上の元素であり得る。リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、及びリチウムマンガン酸化物についても同様である。このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。例えば、平均粒径が凡そ1μm〜25μmの範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を正極活物質として好ましく用いることができる。
【0025】
ここで用いられる正極合材層には、一般的なリチウム二次電池において正極合材層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材やバインダが挙げられる。
該導電材としては、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB))、グラファイト粉末等の炭素材料や、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等が挙げられる。一次粒子の平均粒径が比較的小さいものほど接触面積が広いため、導電材としては有利である。カーボン粉末を導電材として使用する場合、該粉末を構成する一次粒子の平均粒径は、凡そ10nm〜200nm(典型的には凡そ15nm〜100nm)の範囲にあることが好ましい。例えば、一次粒子の平均粒径が15nm〜60nm(例えば20nm〜45nm)のカーボン粉末を好ましく採用し得る。特に限定するものではないが、正極活物質100質量%に対する導電材の使用量は、例えば1質量%〜20質量%(好ましくは5質量%〜15質量%)とすることができる。
該バインダとしては、各種のポリマー材料を用いることができる。例えば、水系のスラリーを用いて正極合材層を形成する場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、セルロース系ポリマー、フッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、ゴム類等が例示される。より具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等が挙げられる。あるいは、溶剤系のスラリー(分散媒の主成分が有機溶媒であるスラリー)を用いて正極合材層を形成する場合には、有機溶剤に分散または溶解するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が挙げられる。特に限定するものではないが、正極活物質100質量%に対するバインダの使用量は、例えば1〜10質量%(好ましくは2〜5質量%)とすることができる。また、過充電時においてガスを発生させる無機化合物(例えば、リン酸塩や炭酸塩)やその他の添加剤を含有させておいてもよい。
【0026】
そして、上記正極活物質および導電材等を含む粉末状材料を適当なバインダとともに適当な分散媒体(例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、キシレン、トルエンのような有機溶媒)に分散させて混練することによって、スラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の正極合材(以下、「正極合材スラリー」という。)を調製し、この正極合材スラリーを正極集電体の片面または両面に適量塗布して乾燥させる方法を好ましく採用することができる。この乾燥は、必要に応じて加熱下で行うことができる。
正極合材スラリーの乾燥後、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極合材層の厚みや密度を調整することができる。正極集電体上に形成された正極合材層の密度は、例えば2.0g/cm〜4.2g/cm(典型的には2.5g/cm〜3.2g/cm)とすることができる。通常は、2.5g/cm〜2.8g/cmとすることにより好適な結果が実現され得る。該正極合材層の密度が低い(即ち、正極合材層内の活物質量が少ない)と、電池の単位体積当たりの容量が低下する。また、密度が高すぎると、特に大電流充放電時や低温下での充放電時において内部抵抗が上昇する傾向にある。
【0027】
ここで開示される製造方法により構築される密閉型リチウム二次電池の負極には、正極と同様、粒状負極活物質をバインダ等とともに負極合材として負極集電体上に付着させて負極合材層(負極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
ここで負極集電体の素材としては、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。なお、形態は特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。後述する捲回電極体を備えた電池では、箔状が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜200μm(より好ましくは10μm〜50μm)程度を好ましく用いることができる。
【0028】
ここで用いられる負極活物質には、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、非晶質炭素(カーボン粉末)、チタン酸リチウム(LTO)等の酸化物、スズ(Sn)やケイ素(Si)とリチウムの合金等が挙げられる。非晶質炭素としては、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、またはこれらを組み合わせたもの等を用いることができる。
【0029】
上述した負極合材層を構成する成分として、バインダが挙げられる。該バインダとしては、上記正極合材層用のバインダとして例示したポリマー材料から適当なものを選択することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が例示される。その他、負極合材層形成用スラリーの増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))や導電材なども使用することができる。
【0030】
そして、上記粒状負極活物質および必要に応じて導電材を含む粉末状材料を適当なバインダとともに適当な分散媒体(例えばN−メチルピロリドン(NMP)のような有機溶媒或いは水のような水性溶媒)に分散させて混練することによって、スラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の負極合材(以下、「負極合材スラリー」という。)を調製する。この負極合材スラリーを負極集電体上の片面または両面に適当量塗布し、乾燥させる方法を好ましく採用することができる。この乾燥は、必要に応じて加熱下で行うことができる。
負極合材スラリーの乾燥後、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、負極合材層の厚みや密度を調整することができる。
【0031】
上記正極および負極を積層した電極体を作製し、電解液と、過充電防止剤とともに適当な電池ケースに収容してリチウム二次電池が構築される。なお、ここに開示されるリチウム二次電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。
電池ケースとしては、従来のリチウム二次電池に用いられる材料や形状を用いることができる。材質としては、例えばアルミニウム、スチール等の比較的軽量な金属材や、PPS、ポリイミド樹脂等の樹脂材料が挙げられる。また、形状(容器の外形)としては特に限定されず、例えば、円筒型、角型、直方体型、コイン型、袋体型等の形状であり得る。
【0032】
ここで用いられる電解液には、従来のリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様の一種または二種以上のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に電解質(リチウム塩)を含有させた組成を有する。
該非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なかでもカーボネート類を主体とする非水溶媒が好ましく用いられる。例えば、非水溶媒として一種または二種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水電解液を好ましく用いられる。また、かかる液状電解液にポリマーが添加された固体状(ゲル状)の電解液であってもよい。
該電解質としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiCSO、LiC(SOCF、LiClO等が例示される。なかでもLiPFが好ましく用いられる。電解質の濃度は特に制限されないが、電解質の濃度が低すぎると、電解液に含まれるリチウムイオンの量が不足して、イオン伝導性が低下しやすくなる場合がある。また支持電解質の濃度が高すぎると、非水電解液の粘度が高くなりすぎてイオン伝導性が低下しやすくなる場合がある。このため、電解質を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(好ましくは、凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解液が好ましく用いられる。
【0033】
電解液に含有させる過充電防止剤には、酸化電位がリチウム二次電池の稼動電圧以上であって、過充電状態において分解され大量のガスを発生させるような物質であれば、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。しかし該過充電防止剤の酸化電位がすでに電池の稼動電圧上限と近接している場合は、かかる発明の効果は薄い。従って、例えば4.2Vで満充電状態となるリチウム二次電池においては、酸化反応電位が4.6V以上のものが好適に用いられる。かかる過充電防止剤としては、例えば、シクロアルキルベンゼン化合物、アルキルベンゼン化合物、アルキルビフェニル化合物、有機リン化合物、フッ素原子置換芳香族化合物、カーボネート化合物、環状カルバメート化合物、脂環式炭化水素等が挙げられる。より具体的には、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、trans−ブチルシクロヘキシルベンゼン、シクロペンチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミノベンゼン、ターフェニル、2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4,4’−ジフルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン、tris−(t−ブチルフェニル)ホスフェート、フェニルフルオライド、4−フルオロフェニルアセテート、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、ビスターシャリーブチルフェニルカーボネート、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等が挙げられる。特に、シクロヘキシルベンゼン(CHB)およびシクロヘキシルベンゼン誘導体が好ましく用いられる。使用する電解液100質量%に対する過充電防止剤の使用量は、例えば凡そ0.01質量%以上(好ましくは0.1質量%、より好ましくは1質量%以上)であって、10質量%以下(好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下)の範囲が好適例として挙げられる。
【0034】
ここで用いられるセパレータとしては、従来からリチウム二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。特に限定されるものではないが、セパレータ基材として用いられる好ましい多孔質シート(典型的には多孔質樹脂シート)の性状として、平均孔径が0.001μm〜30μm程度であり、厚みが5μm〜100μm(より好ましくは10μm〜30μm)程度である多孔質樹脂シートが例示される。該多孔質シートの気効率(空隙率)は、例えば凡そ20体積%〜90体積%(好ましくは30体積%〜80体積%)程度であり得る。なお、固体状の電解液を用いたリチウム二次電池(リチウムポリマー電池)では、上記電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。
【0035】
ここで用いられる電流遮断機構としては、内圧の上昇に応じて(即ち、内圧の上昇を作動のトリガーとして)電流を遮断し得るものであれば特に限定されず、この種の電池に設けられる電流遮断機構として従来知られているいずれかのものと同様の機構を適宜採用することができる。例えば、後述する図1に示すような構成が好ましく用いられる。かかる構成では、電池ケースの内圧が上昇した際、電極端子から電極体に至る導電経路を構成する部材が変形し、他方から離隔することにより導電経路を切断するように構成されている。
【0036】
ここで開示される製造方法は、電池ケースに電極体および電解液を収容した上記電池を用意(構築または調達)し、該用意した電池を充電処理し所定の電圧に調整する「電圧調整工程」と、該電圧調整した電池を所定の温度で一定時間保持してエージング処理を施す「エージング処理工程」とを含む。
【0037】
特に限定することを意図したものではないが、ここで開示される製造方法の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成として、扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と、非水電解液と、過充電防止剤とを扁平な箱型(直方体形状)の容器に収容した形態のリチウム二次電池を例とし、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
後述する「電圧調整工程」と「エージング処理工程」とを行う対象として、正極活物質を含む正極および負極活物質を含む負極を備える電極体と、リチウムイオンを含む電解質(典型的には、電解液)とを電池ケースに収容した電池を用意(構築または調達)する。図1、2に該電池の概略構成を示す。ここで開示される技術を適用し得る対象であるリチウム二次電池100は、捲回電極体80と電池ケース50とを備えている。また、図2は捲回電極体80を示す図である。
【0038】
図1に示すように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータ40Aおよび40Bを介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液と過充電防止剤とともに、扁平な箱型(直方体形状)の電池ケース50に収容された構成を有する。
【0039】
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。電池ケース50の上面(即ち、蓋体54)には、正極端子70および負極端子72が設けられている。上記正極端子70は正極10の捲回方向の端部に付設された正極集電板74と電気的に接続されている。また、負極端子72は負極20の捲回方向の端部に付設された負極集電板76と電気的に接続されている。
【0040】
電池ケース50の内部には、電池ケースの内圧上昇により作動する電流遮断機構30が設けられている。電流遮断機構30は、電池ケース50の内圧が上昇した場合に少なくとも一方の電極端子から電極体80に至る導電経路(例えば、充電経路)を切断するように構成されていればよく、特定の形状に限定されない。この実施形態では、電流遮断機構30は、蓋体54に固定した正極端子70と電極体80との間に設けられ、電池ケース50の内圧が上昇した場合に正極端子70から電極体80に至る導電経路を切断するように構成されている。
【0041】
上記電流遮断機構30は、例えば第一部材32と第二部材34とを含み得る。そして、電池ケース50の内圧が上昇した場合に第一部材32および第二部材34の少なくとも一方が変形して他方から離隔することにより上記導電経路を切断するように構成されている。この実施形態では、第一部材32は変形金属板であり、第二部材34は上記変形金属板32に接合された接続金属板である。変形金属板(第一部材)32は、中央部分が下方へ湾曲したアーチ形状を有し、その周縁部分が集電リード端子35を介して正極端子70の下面と接続されている。また、変形金属板32の湾曲部分33の先端が接続金属板34の上面と接合されている。接続金属板34の下面(裏面)には正極集電板74が接合され、かかる正極集電板74が電極体80の正極10に接続されている。このようにして、正極端子70から電極体80に至る導電経路が形成されている。
【0042】
また、電流遮断機構30は、プラスチック等により形成された絶縁ケース38を備えている。絶縁ケース38は、変形金属板32を囲むように設けられ、変形金属板32の上面を気密に密閉している。この気密に密閉された湾曲部分33の上面には、電池ケース50の内圧が作用しない。また、絶縁ケース38は、変形金属板32の湾曲部分33を嵌入する開口部を有しており、該開口部から湾曲部分33の下面を電池ケース50の内部に露出している。この電池ケース50の内部に露出した湾曲部分33の下面には、電池ケース50の内圧が作用する。かかる構成の電流遮断機構30において、電池ケース50の内圧が高まると、該内圧が変形金属板32の湾曲部分33の下面に作用し、下方へ湾曲した湾曲部分33が上方へ押し上げられる。この湾曲部分33の上方への押し上げは、電池ケース50の内圧が上昇するに従い増大する。そして、電池ケース50の内圧が設定圧力を超えると、湾曲部分33が上下反転し、上方へ湾曲するように変形する。かかる湾曲部分33の変形によって、変形金属板32と接続金属板34との接合点36が切断される。このことにより、正極端子70から電極体80に至る導電経路が切断され、過充電電流が遮断されるようになっている。
【0043】
なお、電流遮断機構30は正極端子70側に限らず、負極端子72側に設けてもよい。また、電流遮断機構30は、上述した変形金属板32の変形を伴う機械的な切断に限定されない。例えば、電池ケース50の内圧をセンサで検知し、該センサで検知した内圧が設定圧力を超えると充電電流を遮断するような外部回路を電流遮断機構として設けることもできる。
【0044】
図2は、捲回電極体80を組み立てる前段階における長尺状のシート構造(電極シート)を示す図である。長尺状の正極集電体12の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って正極合剤層14が形成された正極シート10と、長尺状の負極集電体22の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って負極合剤層24が形成された負極シート20とを、二枚の長尺状セパレータ40Aおよび40Bとともに重ね合わせて長尺方向に捲回し、捲回電極体を作製する。かかる捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体80が得られる。
【0045】
ここで開示される製造方法における「電圧調整工程」では、上記用意した電池100に対して、該電池の正極(正極端子70)と負極(負極端子76)の間に外部電源を接続し、所定の電圧まで充電処理を行う。
かかる工程は、実際に使用され得る環境等に合わせて適宜変更することが可能であるが、一般的には室温域の下で行なわれる。なお、ここで室温域とは典型的には常温とされる温度領域をいい、20℃±15℃を指すものとする。即ち、リチウム二次電池100が曝される温度として、例えば5℃〜35℃の温度域から選択することができ、好ましくは10℃〜30℃、より好ましくは20℃〜30℃が挙げられる。
【0046】
かかる電圧範囲は、リチウム二次電池100のSOCが100%以上(好ましくは100%〜105%)の範囲にあるとき示し得る電圧の範囲である。SOCが100%未満で電圧調整した場合は、過充電防止剤の分解反応が進行せず、過充電時のガス発生効率が上昇しない。また電解液の酸化電位以上では電解液(典型的には、非水溶媒)が分解してしまい、電池性能が大きく低下する。例えば、4.2Vで満充電状態となるリチウム二次電池100の場合は、上記電圧範囲を4.2V以上であって上記電解質(典型的には、電解液)の酸化電位以下の範囲に調整する。特に4.2V〜4.4Vの範囲に調整することが好ましい。
上記「電圧調整工程」は、例えば、充電開始から正負極端子間電圧が所定値に到達するまで0.1C〜10C程度の定電流で充電し、次いでSOCが100%以上となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC−CV充電)により行うことができる。あるいは、充電開始から少なくともSOC20%に至るまでの間は1/3C以下(典型的には、1/20C〜1/3C)の低い充電レート(電流値)で行い、次いで正負極端子間電圧が所定値に到達するまで0.1C〜10C程度の定電流で充電し、さらにSOCが100%以上となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC−CV充電)してもよい。
なお、上記「電圧調整工程」は、例えば上記リチウムイオン二次電池100における正極端子70と負極端子72との間に電圧計を接続し、この電圧計により測定電圧値をモニタリングし、予め設定された所定の電圧値に到達した時点で終了すればよい。
【0047】
次に、ここで開示される製造方法における「エージング処理工程」では上記電圧調整した電池100を、40℃〜70℃の高温域で少なくとも15時間(好ましくは、15時間〜1週間)保持(放置)する。この工程により、正極近傍に存在する過充電防止剤が酸化分解され、より反応性の高い(即ち、酸化電位の低い)化合物に転換され得る。そのため過充電時におけるガスの発生がより迅速になる。また分解ガスの発生に係る正極の近傍において過充電防止剤の反応性を高めることができるため、ガスの発生効率を高め得る。よって該電池作製時に大量の過充電防止剤を添加せずとも、過充電時において迅速に大量のガスを発生させることができ、より早い段階(即ち、より安全な状態)での電流遮断装置の作動を可能にし得る。
【0048】
なお、エージング温度が上記範囲より高すぎると電解液(典型的には、非水溶媒)が分解するなどして該電池が劣化し、充放電サイクルに伴う容量維持率が低下することがある。逆に、上記範囲より低すぎると過充電防止剤の分解反応が進行せず、過充電時のガス発生効率が上昇しない。また、上記温度範囲内であっても、エージング時間が長すぎると、電解液が分解するなどして該電池が劣化することがあり、短すぎると上過充電防止剤の分解反応が十分でないことがある。また、かかる保持時間は、保持温度が高いほど短縮され、保持温度が低いと長期化され得るので、両者をバランスさせて上記エージング処理を行うことが好ましい。さらに、上記エージング処理は一回の処理時に連続して行ってもよく、または2回以上の複数回に分けて断続的に行ってもよい。その場合、保持時間の合計時間が少なくとも15時間(1週間以下)になるように各回の保持温度を設定することができる。
上記の高温域で保持する方法としては、加熱処理し得るものであれば特に限定されず、従来知られているいずれかのものと同様の手段を適宜採用することができる。例えば、赤外線ヒーター等の熱源(加熱装置)を上記リチウム二次電池100に直接接触させて所定の温度まで加熱してもよい。また、上記電池100を恒温装置等の加熱容器に収容し、該容器内を上記範囲内の所定温度に維持する(制御する)ことにより上記リチウム二次電池100を保持してもよい。
【0049】
かかるエージング処理の終了後は、上記充電処理と同じレートで放電処理を実施してもよく、次いで上記充電処理と同じレートで充放電サイクルを数回繰り返してもよい。あるいは、「エージング処理工程」の前後に、該充放電サイクルの充放電レートとは異なるレートでコンディショニング処理を行ってもよい。
【0050】
以下、具体的な実施例として、ここで開示される製造方法により密閉型リチウム二次電池(ここではリチウムイオン電池)を構築し、上記「エージング処理工程」の条件によって電池ケース内のガス発生および電流遮断機構の作動に相違があるか否かを評価した。なお、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0051】
[密閉型リチウム二次電池の構築]
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率が91:6:3となり、且つ固形分濃度(NV)が凡そ50質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極合材層形成用のスラリー状組成物(正極合材スラリー)を調製した。この正極合材スラリーを、厚み凡そ15μmの長尺状アルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗布して正極合材層を形成した。得られた正極を乾燥およびプレスし、シート状の正極(正極シート)を作製した。
【0052】
次に、負極活物質としての天然黒鉛(粉末)とスチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量比が98:1:1であり、且つNVが45質量%となるようにイオン交換水と混合して、水系の負極合材層形成用スラリー状組成物(負極合材スラリー)を調製した。この負極合材スラリーを、厚み凡そ10μmの長尺状銅箔(負極集電体)の片面に塗布して負極合材層を形成した。得られた負極を乾燥およびプレスし、シート状の負極(負極シート)を作製した。
【0053】
そして、上記で作製した正極シートと負極シートとを、2枚のセパレータ(ここでは多孔質ポリエチレンシート(PE)を用いた。)を介して重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形した。そして、該捲回電極体の正極集電体の端部に正極端子を、負極集電体の端部に負極端子を溶接によりそれぞれ接合した。
かかる電極体を非水電解液(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPFを凡そ1mol/Lの濃度で溶解し、さらに過充電防止剤としてのシクロヘキシルベンゼン(CHB)を2質量%の濃度で含有させた電解液を用いた。)とともに電池ケースに収容し、内圧を検知するセンサ(内圧センサ)および電流遮断機構を設置した。該電池ケースの開口部に蓋体を装着し、溶接して接合することによりリチウム二次電池を構築した。
【0054】
上記構築した電池に対して、25℃の温度下において、適当なコンディショニング処理(0.3Cの充電レートで4.2Vまで定電流定電圧で充電する(CC−CV充電)操作と、0.3Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧で放電する(CC−CV放電)操作を4回繰り返す初期充放電処理)を行った。後述するエージング処理条件の差異を検討するため、組成およびコンディショニング条件の同じ密閉型リチウム二次電池を合計5つ準備した。
【0055】
[エージング処理]
<実施例1>上記コンディショニング処理後の電池を充電し、電圧を4.3Vに調整した後、50℃で15時間エージング処理を行った。
<実施例2>本例では、上記コンディショニング処理後の電池を充電し、電圧を4.2Vに調整した後、60℃で15時間エージング処理を行った。
<比較例1>本例では、エージング処理を行わなかった。
<比較例2>本例では、上記コンディショニング処理後の電池を充電し、電圧を4.1Vに調整した後、50℃で15時間エージング処理を行った。
<比較例3>本例では、上記コンディショニング処理後の電池を充電し、電圧を4.5Vに調整した後、70℃で15時間エージング処理を行った。
【0056】
[過充電試験]
そして、上記エージング処理後の各電池を25℃に戻し、4.1Vまで放電させた。かかる電池に対して、25℃の温度下において、過充電試験(即ち、電池の充電が完了した後も強制的に充電電流を流し続ける試験)を行った。本例では、1Cの充電レートで定電流充電を行い、各電池のガス発生開始SOC(%)および電流遮断機構が正常に作動するか否かを確認した。なお、「ガス発生開始SOC(%)」は、該電池に設置した内圧センサにおいて内圧上昇が認められた時の電池の充電状態を表す。具体的には、((内圧上昇が開始されるまでの電流の積算量/電池容量)+100)(%)として算出した。本値が小さいほど、ガス発生が迅速であることを示す。
【0057】
本試験の結果を表1に示す。表1中の「電流遮断機構の作動」の欄は、過充電試験中の各電池の外観を観察し、電池の状態変化(具体的には、急速な温度上昇を伴う発熱やケースの変形等)がなく正常に電流遮断機構が作動した場合に、電流遮断機構が十分迅速に作動したものと判断し、「○」と評価した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示されるように、エージング処理をしなかった比較例1では、SOCが142%になるまでガスが発生せず、電流遮断機構が作動する前に外観上の不具合が確認された。一方、実施例1および2では、いずれもSOCが130%前後でガスが発生しはじめ、電池ケースに備えられた電流遮断機構が正常に作動した。これは、過充電防止剤として電解液に添加した、シクロヘキシルベンゼン(CHB)がかかる発明のエージング処理により、反応効率の良いビフェニル(BP)に転換されたためである。
また、比較例2では、エージング処理の際の電圧調整が4.1Vと低かったため、エージング処理をしなかった比較例1と同様にガスの発生開始が遅く、またガスの発生量も少なかったために電流遮断機構が作動する前に外観上の不具合が確認された。
比較例3では、エージング処理の際の電圧調整が4.5Vと高かったため、シクロヘキシルベンゼン(CHB)の分解により生じたビフェニル(BP)が、エージング処理中にさらに分解されてしまった。このため過充電試験の際にはすでにビフェニル(BP)が残っておらず、ガスの発生量が少なくなった。比較例3でも、比較例1および2と同様に電流遮断機構が作動する前に外観上の不具合が確認された。
本結果はここで開示される製造方法の技術的意義を裏付けるものであり、即ち、かかる製造方法により、過充電防止剤の添加量を増すことなく(即ち、電池特性を維持しつつ)過充電時における安全性と信頼性を向上させたリチウム二次電池を提供し得ることが示された。
【0060】
なお、本発明に係るリチウム二次電池(例えばリチウムイオン電池)は、大電流出力が可能であり、上記のとおり安全性と信頼性に優れることから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って、図3に示すように、リチウム二次電池(組電池の形態であり得る。)100を備えた車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機)が提供される。
【0061】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 自動車(車両)
10 正極シート(正極)
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極シート(負極)
22 負極集電体
24 負極合材層
30 電流遮断機構
32 変形金属板(第一部材)
34 接続金属板(第二部材)
38 絶縁ケース
40A、40B セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極集電板
76 負極集電板
80 捲回電極体
100 密閉型リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極を有する電極体と、電解質と、所定の電池電圧を超えた際にガスを発生させる添加剤とが電池ケース内に収容され、かつ該電池ケースの内圧が上昇した際に作動する電流遮断機構が備えられた密閉型リチウム二次電池を製造する方法であって:
前記電極体と前記電解質と前記添加剤とが前記電池ケース内に収容され構築された密閉型リチウムイオン二次電池に対して充電処理を行い、4.2V以上であって前記電解質の酸化電位以下に調整すること;および
前記充電処理した電池を40℃以上70℃以下の高温域で少なくとも15時間以上保持すること;
を包含する、密閉型リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記添加剤として、少なくとも一種類は芳香族化合物であって、4.6V以上に酸化電位を有する芳香族化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記添加剤として、少なくとも一種類は、以下の化学式(I):
【化1】

(ただし、Rは水素原子もしくは炭素数1〜6の直鎖、分岐、または環状のアルキル基である。)
で示されるシクロヘキシルベンゼン(CHB)もしくは4−アルキルシクロヘキシルベンゼンが含まれており、前記充電処理において前記電池の電圧値を4.2V以上4.4V以下に調整することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項4】
前記添加剤の添加量が、前記電解質に対し0.1質量%以上5質量%以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記正極は、正極集電体上に形成された正極活物質を含む正極合材層を備えており、該正極合材層の密度が、2.5g/cm以上であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法により製造された密閉型リチウム二次電池を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−69490(P2013−69490A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206195(P2011−206195)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】