説明

履物用底部材及び健康履物

【課題】歩行が楽で履脱動作が容易な反面、歩行中に勝手に脱げてしまわず、衛生的な状態を保てる履物用底部材等を提供する。
【解決手段】表面が足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備え、底部材の後方部では表面周縁部沿いに踵の下半部を包摂する堤防状の壁部を立上げ形成し、壁部の前方端部は、内側前方では履物装着時に親指MP関節の側方まで至り、外側前方では履物装着時に小指MP関節の側方まで至る履物用底部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は履物用底部材及び健康履物に関する。更に詳しくは、本発明は、健常者向けの履物としても使用感が良好で健康に良く、足骨格や足に関連する疾患や不具合を持つ者、特に入院患者や高齢者等の室内生活者に対する治療・リハビリテーション用装具としても好適な、履物用底部材及び健康履物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的な意味での足まわりの健康の維持・増進を目的として、あるいは偏平足、O脚やX脚、リウマチ足等の足関連の多様な疾患・不具合に対する足底装具療法的な効果又はリハビリテーション効果等を期待して、多様なインソール(履物用の中敷)や、健康増進用の履物が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−198084号公報
【特許文献2】特開2007−175532号公報 例えば上記の特許文献1は、第2中足骨頭部と第3中足骨頭部に対応する部位に窪み状の除圧部を設けた履物の本底と、これを履物本体の内部に挿入した履物を提案している。そしてこれらを使用すると、立ち仕事などで立位姿勢を保持する場合に足裏の疼痛等を発生し難く、とりわけヒールの高い履物に好適である、としている。
【0004】
又、上記の特許文献2は、表面が装着者の足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備える履物用中敷と、この履物用中敷を履物本体の上部に備えてなる履物を提案している。この履物用中敷の表面は、足の骨格のアーチである横アーチ、内側縦アーチ、外側縦アーチを整える凸形状や、第2/第3中足骨頭部に対応する部位における凹形状等を備えており、これによって足骨格の矯正を行い、腰から下の整形外科疾患に対して治療的・予防的効果が得られる、としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、履物を装着すること自体に一定の健康・治療上の効果を期待する場合には、その装着者が入院患者や高齢者等である場合が多いことに留意すべきである。そのような履物にとしては、何よりも(1)歩行が楽であることが要求され、しかも(2)履いたり脱いだりする履脱動作が容易であり、反面、(3)歩行中には装着者の意に反して脱げてしまうようでは困る、という並立し難い要求に同時に応える必要がある。
【0006】
上記した(1)の要求に関しては、親指から小指に至る5本の足指のMP関節(足指の付け根の関節、即ち、中足骨と基節骨との継ぎ目の関節)を結ぶMP関節ラインに沿って履物が撓み易いことが重要である。そうでなければ歩行動作が滑らかに行われず、歩行者の足に余計な負担を与える。次に、上記の(2)の要求に関しては、履脱動作の容易なスリッパ状の履物が最適である。更に、上記した(3)の要求に関しては、歩行時に後足の踵部が上がった際、その踵部に履物の後方部が追従しないと、歩行感が悪く、履物が装着者の意に反して脱げ易くなる。これら(1)〜(3)の要求に対応できない履物は歩行者に精神的ストレスを与える。
【0007】
前記特許文献1に係る履物の本底はMP関節線沿いに屈曲し易くなっており、上記の(1)の要求に対する一つの解決策を提示するが、それ自体は本質的に平坦なインソールに過ぎず、上記の(2)や(3)の要求に対する解決策を提示しない。前記特許文献2に係る履物用中敷が足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備える点は、一般論として有益な構成であるが、上記の(1)〜(3)の要求に対する解決策にはならない。
【0008】
これらの特許文献に開示されたインソールとは別に、通常の靴やシューズ等で見られるように、履物を脱げ難くするため、装着者の踵部全体を包摂するヒールカバー部を設けることは一般的である。しかし、そのようなヒールカバー部を設けると、上記(3)の要求には対応できるが、スリッパのような履脱動作の容易性が失われ、上記(2)の要求には対応できないというトレード・オフの関係がある。逆に、通常のスリッパの場合、履脱動作が容易であるが、上記(3)の要求には対応できず、歩行時に踵部に履物の後方部が追従しないため履物が脱げ易い。即ち、従来のインソールや履物は上記の(1)〜(3)の要求に同時に対応できるものではなかった。
【0009】
更に、以上の問題とは別に、健康の維持・増進を目的とし又は足底装具療法的な効果を狙う従来の履物において、保健・衛生的な見地から洗濯の便宜を考慮したものは殆んど見られない。即ち、これらの履物の利用者には入院患者や室内生活を主体とする高齢者が含まれるので、履物が過度に汚れる前に洗濯して衛生的な状態を保つことは重要である。
【0010】
従来のこの種のインソールを用いた履物においては、インソール自体を履物の本体から取り外して洗浄することはできる。しかし、床面や地面に接するために特に汚れ易い履物本体は、ゴム、エラストマー、スポンジ状の樹脂材料等の厚みのある材料からなり、しかも足の甲部を覆う袋状又はアーチ状の被甲部材を一体的に備えているため、洗濯し難いものであった。そのため、過度に汚れた履物をそのまま装着し続けるという不衛生な状態が見られた。
【0011】
そこで本発明は、以上に述べた種々の問題を解決することにより、装着者が入院患者や高齢者等である場合にも好適な、歩行が楽で、履脱動作が容易な反面、歩行中に勝手に脱げてしまわず、しかも洗濯して衛生的な状態を保ち易い履物用底部材と健康履物とを提供することを、解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、履物本体としての厚さを備えた可撓性材料からなり、以下の1)〜3)の構成を備えている、履物用底部材である。
1)履物用底部材の表面が装着者の足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備え、
2)履物用底部材の後方部においては、表面周縁部沿いに装着者の踵部の下半部を包摂する堤防状の壁部を立上げ形成し、
3)上記壁部の前方端部は履物装着時におけるMP関節ラインまで至る。
【0013】
上記の第1発明において、履物用底部材は履物本体としての厚さを備えた可撓性材料からなる。即ち、通常のインソールとは異なり、それ自体が装着者の足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備え、かつ、薄い部分でも、例えば5mm程度又はそれ以上の厚さを持つ。履物用底部材の構成材料は、装着者の歩行動作に伴い撓むことができる可撓性材料からなる限りにおいて限定されないが、従来の通常のスリッパと同様の材料、例えば、エラストマー、ゴム、装着者の体重を支え得る程度の剛性を備えた可撓性の発泡樹脂等を用いることができる。
【0014】
「装着者の足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状」とは、足裏の凹凸形状にフィットした凹凸形状をいう。例えば、足の骨格の3つのアーチである横アーチ、内側縦アーチ、外側縦アーチを整えた凹凸形状を例示することができる。更に、「壁部の前方端部が、履物装着時におけるMP関節ラインまで至る」とは、装着時において、堤防状の壁部が、内側(足の親指側)においては足の親指MP関節の側方まで至り、外側(足の小指側)においては足の小指MP関節の側方まで至ることをいう。
【0015】
第1発明の履物用底部材においては、(a)底部材の表面が装着者の足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備えるので、快適な装着感と、装着者の足に対する一定の治療効果又はリハビリテーション効果を期待できる。次に、(b)底部材の後方部において、表面周縁部沿いに装着者の踵部の下部を包摂する堤防状の壁部を立上げ形成したので、堤防状の壁部が後足の踵部を幾分拘束し、歩行時に後足の踵部に履物の後方部が追従し易い。そのため、歩行時に履物が脱げ難い。しかも堤防状の壁部は、通常の靴やシューズにおけるような装着者の踵部全体を包摂するヒールカバー部ではないため、履脱動作の容易性が失われず、「履脱動作の容易なスリッパ状の履物」としての特質を維持する。更に(c)履物用底部材が可撓性材料からなると共に、堤防状の壁部の前端が親指MP関節と小指MP関節とを結ぶMP関節ラインまで至るので、歩行時において、MP関節ラインに沿って履物が撓み易く、装着者が入院患者や高齢者等である場合にも、歩行は楽である。即ち、堤防状の壁部は、前記(1)〜(3)のいずれの要求にも関連するという、極めてユニークな作用・効果を発揮する。
【0016】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る履物用底部材が予め採取した装着者の個人足型データに基づいて製造されたものである、履物用底部材である。
【0017】
履物用底部材は、第2発明のように、予め採取した装着者の個人足型データに基づいて製造することができる。この場合、上記した第1発明の効果が特に顕著に発揮される。第2発明の履物用底部材の製造にあたり、例えばCAD/CAM等と呼ばれるコンピュータ・エイデッドの設計・製造システムを採用することもできる。
【0018】
(第3発明)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、第1発明又は第2発明に記載された履物用底部材と、これに組付けた装着者の足甲部を覆う被甲部材とを備えたスリッパ状の履物である、健康履物である。
【0019】
本発明に係る健康履物は、前記第1発明又は第2発明に係る履物用底部材に対して装着者の足甲部を覆う被甲部材を組付けたスリッパ状の履物である。被甲部材そのものは、通常のスリッパやサンダル等に見られる一般的な被甲部材と同様の材料を用いて同様の形状に構成することができる。
第3発明のスリッパ状の履物は、通常のスリッパと同様に履脱が容易であり、かつ装着者の踵部の下部を包摂する堤防状の壁部を備えるため、歩行中に勝手に脱げない。
【0020】
(第4発明)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第3発明の健康履物における被甲部材が、その内外側の端部を履物用底部材の前方部の内外側の側縁に対して固定的に又は着脱可能に組付けたものである、健康履物である。
【0021】
健康履物における被甲部材は、履物用底部材の前方部の内外側の側縁に対して固定的に組付けることもできるし、着脱可能に組付けることもできる。履物用底部材に対して被甲部材を着脱可能に組付ける態様は限定されないが、例えば、多数の微細なフック部材を密に着生させたシート状の基材と、多数の微細なループ部材を密に着生させたシート状の基材とを着脱可能に接着させる方式のマジックテープ(登録商標)と俗称される接着テープを利用して組付けることができる。より具体的には、被甲部材と履物用底部材とに、それぞれマジックテープの一方のシート材を接合しておくことができる。被甲部材に関しては、その所定部の表面自体を、マジックテープの一方のシート材として構成することもできる。
【0022】
(第5発明)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第3発明の健康履物における被甲部材が柔軟なシート状材料からなると共に、履物用底部材の底面を被覆するベース部と、このベース部の前方部の内外側の側縁から延設された被甲部とを有しており、被甲部材のベース部と被甲部との間に前記履物用底部材をインソールとして着脱可能に挿入した、健康履物である。
【0023】
上記の第5発明に係る健康履物において、被甲部材のベース部と被甲部との間に挿入された履物用底部材は、その底面において被甲部材のベース部と着脱可能に接着されるものであり、被甲部材の被甲部は、履物用底部材の前部の上方をアーチ状に跨って架設された状態となる。履物用底部材と被甲部材のベース部との接着の態様は限定されないが、例えば、履物用底部材の底面側と、ベース部の上面側とに、前記したマジックテープ方式の接着構造を構成することができる。
【0024】
第5発明の健康履物においては、被甲部材のベース部と被甲部との間に履物用底部材をインソールとして着脱可能に挿入したので、ベース部が床面や地面に接し特に汚れ易い部分となる。従って、汚れたベース部を含む被甲部材から履物用底部材を取り外し、柔軟なシート状材料からなる被甲部材を容易に洗濯することができる。その結果、入院患者や高齢者が過度に汚れた履物をそのまま装着し続けるという不衛生な状態を回避することができる。
【0025】
このように、履物本体としての厚さを備えた可撓性材料からなる履物用底部材によって履物の本体を構成すると共に、これを柔軟なシート状材料からなる被甲部材中にインソールとして挿入することにより、洗濯時において被甲部材を履物用底部材から分離して洗濯できる構成とした履物は、従来に見られないものである。
【0026】
(第6発明)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第5発明に係る健康履物における被甲部材のベース部の後方部と履物用底部材の後方部との間に、装着時の踵部の高さ,及び/又は、傾斜角度を調節できる薄板状のヒールインソールを着脱可能に介在させた、健康履物である。
【0027】
ヒールインソールとしては、履物用底部材の後方部とほぼ同等の平面形状とサイズを備え、その後方端部から前方端部に向かって次第に厚さを減ずるシート状又は板状の部材が好ましい。ヒールインソールの上面には履物用底部材の底面に対して、ヒールインソールの底面には被甲部材のベース部の上面に対して、それぞれ着脱可能な接着機構を構成することができる。その接着機構の種類は限定されないが、例えば、前記したマジックテープ方式の接着構造を構成することができる。
【0028】
第6発明の健康履物においては、ヒールインソールの挿入又はその取替えによって、装着者の足型や体型上の特徴に応じた踵部の高さや傾斜を任意にかつ容易に調節することができる。
【0029】
(第7発明)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、第4発明〜第6発明のいずれかに係る健康履物において、第4発明の被甲部材又は第5発明、第6発明のいずれかの被甲部が、足の甲部を被覆できる開閉式の被甲カバーによって構成されている、健康履物である。
【0030】
上記の「開閉式の被甲カバー」には、両開き式の被甲カバーと片開き式の被甲カバーとが包含される。
【0031】
両開き式の被甲カバーとは、一対のウイング状の被甲カバー片の先端部同士が、例えば前記マジックテープ方式の機構により上下重ね状に着脱できるように構成されたものである。被甲カバー片の先端部同士が接着され「閉」状態となると被甲カバーが足の甲部を被覆し、被甲カバー片の先端部同士が解放され「開」状態となると被甲カバーによる足の甲部に対する拘束が解除される。
【0032】
片開き式の被甲カバーとは、被甲カバーを構成することができる単一のウイング状の被甲カバーの一方の基部が固定され、その先端部が、例えば前記マジックテープ方式の機構により、他方の基部となるべき部分に着脱可能に接着できる構成とされたものである。その作用・効果は、両開き式の被甲カバーの場合と同様である。
【0033】
又、これらの開閉式の被甲カバーの基部とは、第4発明の被甲部材においては履物用底部材の前方部の内外側の側縁部であり、第5発明、第6発明のいずれかの被甲部においては、被甲部材におけるベース部の前方部の内外側の側縁である。
【0034】
第7発明の健康履物においては、被甲部材又は被甲部が両開き式の被甲カバーによって構成されているので、装着者の足のサイズに応じて両開き式の被甲カバーのサイズを自由に調整できる。
【0035】
(第8発明)
上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、前記第3発明〜第7発明に係る被甲部材に、健康履物の装着時に足の踵部後方を包囲するヒールカバーを着脱可能に取付けた、健康履物である。
【0036】
被甲部材にヒールカバーを着脱可能に取付ける態様は限定されないが、例えば前記のマジックテープ方式の接着構造を構成することができる。ヒールカバーは、柔軟な材料で構成することが好ましい。
【0037】
第8発明の健康履物においては、必要に応じてヒールカバーを取付けることにより、歩行時における後足の踵部に対する履物の後方部の追従性を高めることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の履物用底部材及び健康履物によれば、装着者が入院患者や高齢者等である場合にも好適な、歩行が楽で、履脱動作が容易な反面、歩行中に勝手に脱げてしまわず、洗濯して衛生的な状態を保ち易い履物用底部材と健康履物とを提供することができる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施形態および実施例を図面に基づいて説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態および実施例によって限定されない。
【0040】
〔履物用底部材〕
まず、図1に基づいてMP関節ラインを説明する。図1は、ヒトの左足の平面図をその骨格の一部と共に示す。足の親指から小指に至る5本の足指には、それぞれ、図中の番号1〜5で示すMP関節と呼ばれる部分がある。これらの関節は、いずれも各足指の付け根の関節である。これらのMP関節1〜5を結ぶ仮想線がMP関節ラインである。前記したように、履物は、歩行時においてMP関節ラインに沿って撓み易いことが重要である。
【0041】
本実施例に係る履物用底部材6の斜視図を図2に、そのX−X線に沿う断面図を図3に示す。履物用底部材6は、その表面が装着者の足裏の凹凸形状に好適に対応した凹凸形状を備え、その本体7の最も薄い凹形状部分でも5mm以上の厚さを持つ。本体7は、ある程度の剛性を備えた可撓性材料、例えばゴム材又はスポンジ材からなるが、本体7の表面には、更に緩衝用の軟質のエラストマーを上貼りしても良い(図示省略)。
【0042】
履物用底部材6において、図の一点鎖線で示すMP関節ラインの後方部分においては、足裏のいわゆる「土踏まず」に対応した凸形状部分8と足の踵部に対応した凹形状部分9が形成されると共に、履物用底部材6の表面周縁部沿いには、装着者の踵部の下半部を包摂することができる高さに、堤防状の壁部10を立上げ形成している。この壁部10は、その前方端部がMP関節ラインまで至って終わるように形成されている。又、履物用底部材6の本体7の底面の全面に、薄いマジックテープ11が接合されている。
【0043】
このように構成された履物用底部材6は、後述の図5及び図6に示すように履物として構成された場合において、(a)履物用底部材6の表面が装着者の足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備えるので、快適な装着感と、装着者の足に対する一定の治療効果又はリハビリテーション効果を期待できる。次に、(b)履物用底部材6の後方部において、表面周縁部沿いに装着者の踵部の下部を包摂する堤防状の壁部10を立上げ形成したので、壁部10が後足の踵部を幾分拘束し、歩行時に後足の踵部に履物の後方部が追従し易い。そのため、歩行時に履物が脱げ難い。しかも壁部10は、通常の靴やシューズにおけるような装着者の踵部全体を包摂するヒールカバー部ではないため、履脱動作の容易性が失われず、「履脱動作の容易なスリッパ状の履物」としての特質を維持する。更に(c)履物用底部材6が可撓性材料からなると共に、壁部10の前端がMP関節ラインまで至るので、歩行時において、MP関節ラインに沿って履物が撓み易く、装着者が入院患者や高齢者等である場合にも、歩行は楽である。
【0044】
履物用底部材6は、より好ましくは、適宜な方法で装着者の個人足型データを事前に採取し、このデータに基づいてオーダーメイドで製造することができる。その際、例えばCAD/CAM等のコンピュータ・エイデッドの設計・製造システムを採用することもできる。
【0045】
〔被甲部材〕
上記の履物用底部材6は、図4に展開状態の平面図を示す被甲部材12と組付けて、スリッパ状の健康履物として使用される。被甲部材12は、履物装着者の足甲部を覆う部材であり、足甲部を覆う部分は通常のスリッパやサンダル等に見られる一般的な被甲部材と同様の形状に構成することができる。
【0046】
この被甲部材12は柔軟なシート状材料からなり、履物用底部材の底面を被覆するベース部13と、このベース部13の前方部の内外側の側縁から延設された1対のウイング状の被甲カバー14からなる。
【0047】
このベース部13の上面の全面には、前記した履物用底部材6のマジックテープ11と着脱可能に接合できるマジックテープが貼付又は形成されている(図示省略)。なお、履物用底部材6とベース部13との間に、前記した第6発明に係るヒールインソールを着脱可能に介在させる構成としても良い。
【0048】
1対の被甲カバー14は、それぞれの先端部の互いの重ね面における対応する位置にフック側とループ側との開閉用マジックテープ15を取り付けており、この接着手段により開閉可能な両開き式の被甲カバーを構成している。従って、被甲カバー14の先端部同士が重ね状に接着され「閉」状態になると足の甲部を被覆し、その先端部同士が解放され「開」状態になると足の甲部に対する拘束が解除される。
【0049】
又、被甲カバー14には、両端をマジックテープ方式により各被甲カバー14に着脱可能に接着できるテープ状(帯状)のヒールカバー16が付設されている。このヒールカバー16は、図6に示すように、使用時において装着者の足の踵部後方を包囲することができる。
【0050】
〔健康履物〕
図5及び図6に示すように、本実施例に係る健康履物17は、前記被甲部材12のベース部13と、閉じた状態の1対の被甲カバー14との間に、前記の履物用底部材6をインソールとして着脱可能に挿入したものである。履物用底部材6と、被甲部材12のベース部13との間はマジックテープによって着脱可能に接着される。
【0051】
健康履物17の装着時、被甲部材12は足の甲部をアーチ状に跨って被覆する。ヒールカバー16は足の踵部を包囲し、歩行時における足の踵部に対する健康履物の後方部の追従性を一層高めることができる。ヒールカバー16は被甲カバー14に対して着脱可能なので、足の踵部から容易に外すことができる。
【0052】
このように構成された健康履物17を用いれば、装着者が入院患者や高齢者等である場合にも好適な、歩行が楽で、履脱動作が容易な反面、歩行中に勝手に脱げてしまわず、洗濯して衛生的な状態を保ち易い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の履物用底部材と健康履物を用いれば、歩行が楽で履脱動作が容易な反面で、歩行中に勝手に脱げてしまわず、衛生的な状態を保ち易い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】足の平面を骨格の一部と共に示す図である。
【0055】
【図2】履物用底部材の斜視図である。
【0056】
【図3】図2のX−X線に沿う断面図である。
【0057】
【図4】被甲部材の展開状態の平面図である。
【0058】
【図5】健康履物の斜視図である。
【0059】
【図6】健康履物の装着状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1〜5 MP関節
6 履物用底部材
10 壁部
12 被甲部材
13 ベース部
14 被甲カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物本体としての厚さを備えた可撓性材料からなり、以下の1)〜3)の構成を備えていることを特徴とする履物用底部材。
1)履物用底部材の表面が装着者の足裏の凹凸形状に対応した凹凸形状を備え、
2)履物用底部材の後方部には、表面周縁部沿いに装着者の踵部の下半部を包摂する堤防状の壁部を立上げ形成し、
3)上記壁部の前方端部は履物装着時におけるMP関節ラインまで至る。
【請求項2】
前記履物用底部材が、予め採取した装着者の個人足型データに基づいて製造されたものであることを特徴とする請求項1に記載の履物用底部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の履物用底部材と、これに組付けた装着者の足甲部を覆う被甲部材とを備えたスリッパ状の履物であることを特徴とする健康履物。
【請求項4】
前記被甲部材が、その内外側の端部を履物用底部材の前方部の内外側の側縁に対して固定的に又は着脱可能に組付けたものであることを特徴とする請求項3に記載の健康履物。
【請求項5】
前記被甲部材が柔軟なシート状材料からなると共に、履物用底部材の底面を被覆するベース部と、このベース部の前方部の内外側の側縁から延設された被甲部とを有しており、被甲部材のベース部と被甲部との間に前記履物用底部材をインソールとして着脱可能に挿入したことを特徴とする請求項3に記載の健康履物。
【請求項6】
前記健康履物における被甲部材のベース部の後方部と履物用底部材の後方部との間に、装着時の踵部の高さ及び/又は傾斜角度を調節できる薄板状のヒールインソールを着脱可能に介在させたことを特徴とする請求項5に記載の健康履物。
【請求項7】
請求項4に記載の被甲部材又は請求項5、6のいずれかに記載の被甲部が、足の甲部を被覆できる開閉式の被甲カバーによって構成されていることを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれかに記載の健康履物。
【請求項8】
前記被甲部材には、健康履物の装着時に足の踵部後方を包囲するヒールカバーを着脱可能に取付けたことを特徴とする請求項3〜請求項7のいずれかに記載の健康履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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