説明

工作機械の制御方法および工作機械の制御装置

【課題】回転工具の異常摩耗および折損を防止できる工作機械の制御方法およびその制御装置を提供する。
【解決手段】加工プログラムに基づく基本加工において加工負荷が第一設定値Paを超えた時における被加工物Wに対する回転工具Tの第一位置Aを記憶する。そして、加工負荷が第一設定値Paを超えた後に加工負荷が第一設定値Pa以下となるように、被加工物Wに対して回転工具Tを加工プログラムによる工具移動経路Lから回避移動させながら被加工物Wを加工する(2)(5)。回避加工の後に、被加工物Wに対する回転工具Tの位置を第一位置Aに復帰する(3)(6)。第一位置Aに復帰した後に、第一位置Aから加工プログラムに基づく加工を再開する(4)(7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具を用いた加工を行う工作機械の制御方法およびその制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2001−105280号公報(特許文献1)には、エンドミルなどの回転工具により被加工物を加工する場合、回転工具の異常摩耗および折損を防止するために、加工負荷が設定値以下となるように、主軸回転数や送り速度を制御することが記載されている。また、特開2000−105606号公報(特許文献2)には、加工負荷に基づいて、回転工具の送り移動方向の切込量を変更することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−105280号公報
【特許文献2】特開2000−105606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被加工物の表面形状によっては、回転工具の深さ方向の切込量が変化することがある。このような場合には、回転工具のうち被加工物との接触面積が増大し、特許文献1,2に記載の方法を適用したとしても、回転工具が異常摩耗または折損するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、回転工具の異常摩耗および折損を防止できる工作機械の制御方法およびその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(工作機械の制御方法)
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、回転工具により被加工物を加工する工作機械の制御方法において、予め記憶された加工プログラムに基づいて前記被加工物に対して前記回転工具を移動させて前記被加工物を加工する基本加工工程と、加工負荷を検出する加工負荷検出工程と、前記基本加工工程において、前記加工負荷が設定値を超えた時における前記被加工物に対する前記回転工具の第一位置を記憶する第一位置記憶工程と、前記加工負荷が前記設定値を超えた後に前記加工負荷が前記設定値以下となるように、前記被加工物に対して前記回転工具を前記加工プログラムによる工具移動経路から回避移動させながら前記被加工物を加工する回避加工工程と、前記回避加工工程の後に、前記被加工物に対する前記回転工具の位置を前記第一位置に復帰する復帰工程と、前記復帰工程の後に、前記第一位置から前記加工プログラムに基づく加工を再開する加工再開工程と、を備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、前記回避加工工程が、前記加工プログラムによる工具移動方向成分に、前記回転工具の回転軸の一方方向成分を加えた方向へ、前記被加工物に対して前記回転工具を回避移動させることである。
請求項3に係る発明の特徴は、前記回避加工工程が、前記加工負荷によるフィードバック制御を行うことで前記回転工具を回避移動させることである。
請求項4に係る発明の特徴は、前記回避加工工程が、前記回転工具により前記被加工物を非加工とする非加工移動と、前記回転工具により前記被加工物を加工する加工移動とを交互に行うことである。
【0008】
請求項5に係る発明の特徴は、前記復帰工程が、前記回避加工工程の後における前記被加工物に対する前記回転工具の位置から前記第一位置に向かって、前記被加工物を加工する際の前記回転工具の送り速度より早い送り速度にて前記被加工物に対して前記回転工具を移動することである。
【0009】
請求項6に係る発明の特徴は、前記復帰工程は、前記第一位置に到達した時点において前記加工再開工程における前記回転工具の送り速度となるように、前記被加工物に対して前記回転工具を移動することである。
【0010】
(工作機械の制御装置)
請求項7に係る発明の特徴は、回転工具により被加工物を加工する工作機械の制御装置において、予め記憶された加工プログラムに基づいて前記被加工物に対して前記回転工具を移動させて前記被加工物を加工する基本制御手段と、前記加工プログラムに基づく加工を行っている際において、加工負荷が設定値を超えた時における前記被加工物に対する前記回転工具の第一位置を記憶する第一位置記憶手段と、前記加工負荷が前記設定値を超えた後に前記加工負荷が前記設定値以下となるように前記被加工物に対して前記回転工具を前記加工プログラムによる工具移動経路から回避移動させながら前記被加工物を加工する回避加工を行い、前記回避加工の後に前記被加工物に対する前記回転工具の位置を前記第一位置に復帰し、前記第一位置に復帰した後に前記第一位置から前記加工プログラムに基づく加工を再開させる回避制御手段と、を備えることである。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、回転工具の深さ方向の切込量が増加する場合であっても、回避加工工程により、回転工具のうち被加工物との接触面積が増加することを低減できる。さらに、回避加工工程において加工負荷が設定値より大きくならないように被加工物を加工している。そのため、加工再開工程において加工する時に回転工具のうち被加工物との接触面積は、回避加工工程の開始時点における接触面積に比べると、小さくなる。つまり、回転工具の深さ方向の切込量が増加する場合において、回転工具の異常摩耗および折損を防止できる。さらに、回避加工工程の後には、回避加工工程を開始した第一位置に工具を戻して、加工プログラムに基づく加工を再開している。従って、回避加工工程により被加工物の削り残しが発生した部位を、確実に削り取ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、回転工具の回転軸の一方方向成分を逃がし成分としている。これにより、簡単に、かつ、回転工具と被加工物のさらなる衝突もなく安全に、回転工具を回避させることができる。
請求項3に係る発明によれば、被加工物の加工を継続させながら回避加工工程を行うことになる。これにより、可能な限り多くの量を加工できる。つまり、回避加工工程における加工効率を高くすることができる。
請求項4に係る発明によれば、非加工移動と加工移動とを交互にすることで、加工負荷によるフィードバック制御を行うことなく、容易に回避加工を行うことができる。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、復帰工程における被加工物に対する回転工具の移動を早送り移動とすることで、回避加工工程を実行したとしても、可能な限りサイクルタイムの長期化を抑制することができる。
【0014】
請求項6に係る発明によれば、回転工具が第一位置に到達した時点には、回転工具が被加工物に接触する。このとき、第一位置において、回転工具の相対移動速度は、加工再開工程における回転工具の送り速度となっている。これにより、加工再開工程において、回転工具の送り速度を確実に所望の送り速度とすることができる。その結果、第一位置付近において、加工精度を良好にすることができる。
【0015】
請求項7に係る発明によれば、上述した請求項1に係る発明による効果と同様の効果を奏する。また、工作機械の制御方法における他の特徴について、工作機械の制御装置に、実質的同様に適用することができる。この場合、同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】工作機械の制御ブロック図を示す。
【図2】加工プログラムにおける被加工物に対する回転工具Tの移動経路Lを示す。
【図3】X−Z断面において、被加工物Wの断面形状および被加工物Wに対する回転工具Tの移動経路を示す。
【図4】制御装置の処理(制御方法)を示すフローチャートである。
【図5】第一実施形態における回避加工の処理を示すフローチャートである。
【図6】第一実施形態の制御方法を実行した場合における被加工物Wに対する回転工具Tの移動経路を示す。
【図7】第二実施形態における回避加工の処理を示すフローチャートである。
【図8】第二実施形態の制御方法を実行した場合における被加工物Wに対する回転工具Tの移動経路を示す。
【図9】第三実施形態の制御方法を実行した場合における被加工物Wに対する回転工具Tの移動経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の工作機械の制御方法および制御装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
<第一実施形態>
(制御装置の構成)
第一実施形態の工作機械の制御装置の構成について、図1を参照して説明する。本実施形態の対象である工作機械は、例えば、マシニングセンタなどであって、回転工具Tにより被加工物Wを加工する工作機械である。マシニングセンタに限らず、回転工具Tにより被加工物Wを加工する工作機械であれば、全て適用可能である。
【0019】
この工作機械は、図1に示すように、制御装置100と、モータ60と、位置検出センサ70と、加工負荷検出センサ80とを備えている。制御装置100は、基本制御部10(本発明の「基本制御手段」に相当する)と、回避制御部20(本発明の「回避制御手段」に相当する)と、加工負荷監視部30と、切替器40と、記憶部50(本発明の「第一位置記憶手段」に相当する)を備えている。ここで、基本制御部10、回避制御部20、加工負荷監視部30および切替器40は、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0020】
基本制御部10は、予め記憶された加工プログラムにおける被加工物Wに対する回転工具Tの指令位置(X,Y,Z)に基づいて、被加工物Wに対して回転工具Tを移動させて、被加工物Wを加工する。具体的には、基本制御部10は、被加工物Wに対して回転工具Tを相対的に移動するモータ60を制御する。このモータ60を制御することによって、被加工物Wに対して回転工具Tが相対移動して、回転工具Tにより被加工物Wを加工する。ここで、基本制御部10による行う加工を基本加工と称する。
【0021】
回避制御部20は、基本制御部10による加工を行っている際に加工負荷が第一設定値Paを超えた場合に、被加工物Wに対する回転工具Tの移動を、加工プログラムとは異なる動作とすることによって、加工負荷が第一設定値Paを超えないようにする制御部である。この回避制御部20は、被加工物Wに対して回転工具Tを移動させて、被加工物Wに対して回避加工を行う。さらに、回避制御部20は、回避加工の後に、回避加工の開始位置である第一位置Aまで復帰させる復帰動作を行う。そして、回避制御部20は、回避加工を行っている際には、基本制御部10と同様に、モータ60を制御することによって、被加工物Wに対して回転工具Tが相対移動して、回転工具Tにより被加工物を加工する。なお、復帰動作においては、回転工具Tによる被加工物の加工は行わない。ここで、回避制御部20による行う加工を回避加工と称する。この回避制御部20の詳細は、後述する。
【0022】
加工負荷監視部30は、加工負荷検出センサ80により検出される加工負荷を常時監視している。加工負荷監視部30は、加工負荷検出センサ80により検出される加工負荷が第一設定値Paを超えたか否かを監視すると共に、加工負荷が第二設定値Pb未満となったか否かを監視する。
【0023】
切替器40は、基本制御部10をモータ60に接続する場合と、回避制御部20をモータ60に接続する場合とを切り替える。この切替器40は、基本制御部10側に接続して基本加工を行っている際に、加工負荷監視部30により加工負荷が第一設定値Paを超えたと判定されると、回避制御部20側に接続するように切り替える。また、切替器40は、回避制御部20側に接続して回避加工を行った後に、回避制御部20により回転工具Tを第一位置A(Xa,Ya,Za)に復帰した場合に、基本制御部10側に接続するように切り替える。
【0024】
記憶部50は、入力された加工プログラム、回避加工において第一位置Aおよびその他種々の情報を記憶する。そして、上述した基本制御部10および回避制御部20に対して情報の授受を行う。
【0025】
モータ60は、例えば、マシニングセンタの主軸(図示せず)をベッド(図示せず)に対して移動させるモータ、被加工物Wが載置されたテーブルを、ベッドに対して移動させるモータなどである。これらのモータ60が基本制御部10または回避制御部20により制御されることにより、被加工物Wに対する回転工具Tの相対的な位置が制御される。
【0026】
位置検出センサ70は、被加工物Wに対する回転工具Tの位置を検出するセンサである。例えば、ベッドに対する主軸の位置を検出するセンサや、ベッドに対するテーブルの位置を検出するセンサなどを用いる。この位置検出センサ70としては、例えば、モータ60の回転角を検出するエンコーダ、主軸やテーブルなどの移動体のベッドに対する位置を直接的に検出するリニアスケールなどが適用できる。そして、本実施形態においては、位置検出センサ70により検出する情報は基本制御部10へ出力し、基本制御部10から出力される指令位置に基づいて位置フィードバック制御を行っている。
【0027】
加工負荷検出センサ80は、被加工物Wを回転工具Tにより加工を行っている際における加工負荷を検出する。加工負荷検出センサ80としては、例えば、回転工具Tを回転可能に支持する主軸の駆動力、当該主軸に組み込んだ変位センサ、回転工具Tおよび被加工物Wを相対移動するための送り軸の駆動電流などを適用して、加工負荷を推定することができる。
【0028】
(被加工物Wと回転工具Tの移動経路Lについての説明)
次に、被加工物Wと回転工具Tの移動経路Lについて、図2および図3を参照して説明する。図2は、被加工物Wの斜視図を示しており、回転工具Tの移動経路Lは、走査送り加工を行う移動経路としている。この回転工具Tの移動経路Lは、X軸方向を走査送り方向とし、Y軸方向をピックフィード方向とし、Z軸方向を回転工具Tの回転軸方向とし且つ切込方向としている。
【0029】
本実施形態の工作機械の制御方法を容易に説明するために、被加工物Wの形状を、図3に示すような、+Z軸方向の表面に凸状部を有する形状とし、回転工具Tの移動経路LはX軸方向に直線に移動するものとする。また、回転工具Tの移動経路Lは、回転工具Tの先端点の移動経路として示している。そして、図3において、回転工具Tが加工開始点に位置する図として示している。なお、本実施形態は、回転工具Tの移動経路Lが直線状に限られるものではなく、曲線状である場合にも適用できる。
【0030】
(制御方法の処理)
次に、工作機械の制御方法について、図4〜図6を参照して説明する。図4に示すように、基本制御部10により、加工プログラム(X,Y,Z)に基づく加工(以下、「基本加工」と称する)を開始する(S1、「基本加工工程」)。図6(a)の太実線にて示すように、回転工具Tの先端点が加工プログラム(X,Y,Z)に位置するように、被加工物Wに対して回転工具Tを移動させる。
【0031】
続いて、加工負荷監視部30において加工負荷が予め設定された第一設定値Paを超えたか否かを判定する(S2)。そして、加工負荷が第一設定値Paを超えていない場合には(S2:N)、加工プログラムが全て終了したか否かを判定し(S3)、加工プログラムが終了していれば処理を終了する。一方、加工プログラムが全て終了していないのであれば(S3:N)、ステップS1に戻り、基本制御部10により加工プログラム(X,Y,Z)に基づく基本加工を継続する。つまり、加工負荷が第一設定値Paを超えなければ、加工プログラム(X,Y,Z)に基づく基本加工を継続して行う。
【0032】
一方、ステップS2において、加工負荷監視部30にて加工負荷が第一設定値Paを超えたと判定された場合には(S2:Y)、切替器40にて基本制御部10から回避制御部20に切り替えて、回避制御部20による回避加工復帰処理を割込実行する。回避加工復帰処理として、まず、加工負荷が第一設定値Paを超えた時の位置A(Xa,Ya,Za)(以下、「第一位置」と称する)を記憶する(S4、「第一位置記憶工程」)。図6(a)には、加工負荷が第一設定値Paを超えた時を示している。従って、図6(a)に示す回転工具Tの位置Aを記憶する。
【0033】
続いて、回避加工復帰処理における回避加工を実行する(S5、「回避加工工程」)。回避加工とは、加工負荷が第一設定値Paを超えた後において、被加工物Wに対して回転工具Tを加工プログラムによる移動経路Lから回避移動させながら行う被加工物Wの加工である。例えば、回避加工は、加工負荷が第一設定値Paを超えた後において、加工負荷が第一設定値Paに達するまで切込逃がし量を漸増させ、加工負荷が第一設定値Paに達した後においては、その時点の切込逃がし量で加工を進める。
【0034】
この回避加工については、図5および図6を参照して説明する。まず、加工負荷監視部30にて加工負荷が第一設定値Paより大きいか否かを判定する(S11)。最初の回避加工においては、図4に示すステップS2において、加工負荷が第一設定値Paを超えているため、当然にステップS11において、加工負荷は第一設定値Paより大きい。
【0035】
そして、加工負荷が第一設定値Paより大きい場合には(S11:Y)、切込逃がし量(+ΔZi+1)を算出する(S12)。切込逃がし量(+ΔZi+1)は、回転工具Tの回転軸の一方方向、すなわち「Z+」方向の成分である。ここで、iは、時刻に関するカウンタである。つまり、時間が経過すればiが増加する関係にある。ここで、切込逃がし量(+ΔZi+1)は、前回の切込逃がし量(+ΔZ)に予め設定された値αを加算した値として算出する。なお、回避加工初期における切込逃がし量(+ΔZ)は、ゼロ(0)と設定している。つまり、切込逃がし量(+ΔZ)は、αとなる。
【0036】
続いて、座標(Xi+1,Yi+1,Zi+1+ΔZi+1)へ、回転工具Tを移動する(S14)。つまり、回避加工においては、加工プログラムによる回転工具Tの送り方向成分に、回転工具Tの回転軸の+Z方向成分を加えた方向へ、被加工物Wに対して回転工具Tを回避移動させている。
【0037】
続いて、座標(Xi+1,Yi+1,Zi+1+ΔZi+1)へ回転工具Tを移動した後には、加工負荷監視部30にて加工負荷が第二設定値Pb未満であるか否かを判定する(S15)。そして、加工負荷が第二設定値Pb未満でない場合には(S15:N)、時間カウンタiに1を加算して(S16)、再びステップS11に戻り処理を繰り返す。ここで、第二設定値Pbは、第一設定値Paよりも小さな値に設定されている。
【0038】
一方、加工負荷が第二設定値Pb未満に達すると(S15:Y)、回避加工を終了する。つまり、基本加工を行っている際に加工負荷が第一設定値Paを超えた場合には、回避加工において、加工負荷が第一設定値Paに達するまで切込逃がし量(+ΔZi+1)をαの分だけ漸増させながら加工を進めていく。
【0039】
そして、ステップS11において加工負荷が第一設定値Pa以下になった場合、すなわち加工負荷が第一設定値Paに達した場合には(S11:N)、今回の切込逃がし量(+ΔZi+1)は、前回の切込逃がし量(+ΔZ)と同値とする(S13)。
【0040】
続いて、座標(Xi+1,Yi+1,Zi+1+ΔZi+1)へ回転工具Tを移動する(S14)。続いて、加工負荷監視部30にて加工負荷が第二設定値Pb未満であるか否かを判定する(S15)。そして、加工負荷が第二設定値Pb未満でない場合には(S15:N)、時間カウンタiに1を加算して(S16)、再びステップS11に戻り処理を繰り返す。一方、加工負荷が第二設定値Pb未満に達すると(S15:Y)、回避加工を終了する。つまり、回避加工において、加工負荷が第一設定値Paに達した後には、加工負荷が第一設定値Paを超えなければ、加工負荷が第二設定値Pbに達するまで切込逃がし量を一定として加工を継続する。
【0041】
このステップS5の動作について、図6(b)を用いて説明する。図6(b)の第一位置Aから回避加工が開始される。このとき、加工負荷が第一設定値Paを超えているため、切込逃がし量(+ΔZi+1)だけ「+Z」軸方向成分を加工プログラムの指令位置に追加することで、回転工具Tが徐々に「+Z」軸方向に移動していく。そして、切込逃がし量(+ΔZi+1)は、加工負荷が第一設定値Paに達するまで所定値αずつ増加していく。
【0042】
そして、加工負荷が第一設定値Paに達すると、前回の切込逃がし量(+ΔZ)を今回の切込逃がし量(+ΔZi+1)として加工を続けるため、再び加工負荷が第一設定値Paを超えるおそれがある。この場合には、再び、加工負荷が第一設定値Paに達するように、切込逃がし量(+ΔZi+1)をαずつ増加させていく。このように、加工負荷が第一設定値Paを大きく超えないように、切込逃がし量(+ΔZi+1)を変更している。
【0043】
さらに加工を続けていくと、図6(b)において(2)で示す回転工具Tの移動経路のうち角部分を超えた位置においては、加工負荷が第一設定値Pa以下となるため、切込逃がし量(+ΔZi+1)は、直前の切込逃がし量(+ΔZ)と維持する。つまり、当該角部分以降は、加工プログラムによる回転工具Tの移動経路Lに対して、一定距離(+ΔZ)離れた位置を、回転工具Tが移動する。このまま続けると、加工負荷が第二設定値Pb未満に到達する。このようにして、回避加工を終了する。つまり、回避加工を継続して行っている間は、加工負荷によるフィードバック制御を行っていることになる。
【0044】
続いて、図4に戻り説明する。図4のステップS5の回避加工復帰処理における回避加工を終了すると、回避加工復帰処理における復帰動作を行う(S6、「復帰工程」)。すなわち加工負荷が第二設定値Pb未満に達すると(S15:Y)、回転工具Tを第一位置Aに向かって早送り移動で復帰させる。そして、回転工具Tが第一位置Aに到達した時点において加工再開工程の開始時点における回転工具Tの送り速度となるように、被加工物に対して回転工具Tを移動する。このときの回転工具Tの移動経路を、図6(c)の(3)にて示す。ここで、早送り移動とは、加工を行う際の回転工具Tの移動速度よりも早い送り速度を意味する。
【0045】
そして、回転工具Tを第一位置Aに復帰することで、回避加工復帰処理は終了する。つまり、回転工具Tを第一位置Aに復帰した後には、ステップS1に戻り、切替器40により回避制御部20から基本制御部10に切り替えて、基本制御部10により加工プログラムによる基本加工を再開する(加工再開工程)。その後、また、ステップS2以降の処理を繰り返す。
【0046】
ここで、図3に示す被加工物Wの形状で、回転工具Tの移動経路Lの場合に、上述した処理を行う場合において、回転工具Tの実際の移動経路について、図6(d)に示す。図6(d)において、移動経路(1)〜(7)は、回転工具Tの移動する順序を示す。移動経路(1)〜(3)は、図6(a)〜図6(c)に示したとおりである。その後、図6(d)の移動経路(4)にて示すように、加工負荷が第一設定値Paを超える位置Bに到達するまでの間、加工プログラムによる基本加工を行う。続いて、移動経路(5)にて示すように、再び回避加工を行い、その後に、移動経路(6)にて示すように、回転工具Tを位置Bへ早送り移動で復帰させる。続いて、移動経路(7)にて示すように、加工プログラムによる基本加工を再開し、最後の位置まで被加工物Wの加工を行う。
【0047】
(効果)
以上説明したように、図3に示すような被加工物Wのように、回転工具Tの深さ方向の切込量が急激に増加する場合であっても、回避加工を行うことにより、回転工具Tのうち被加工物Wとの接触面積が増加することを低減できる。さらに、回避加工において加工負荷が第一設定値Paより大きくならないように被加工物Wを加工している。そのため、加工プログラムによる基本加工を再開した場合に、回転工具Tのうち被加工物Wとの接触面積は、前回の回避加工の開始時点における接触面積に比べると、小さくなる。つまり、回転工具Tの深さ方向の切込量が増加する場合において、回転工具Tの異常摩耗および折損を防止できる。
【0048】
特に、回避加工において、加工プログラムによる回転工具Tの送り方向成分に、回転工具Tの回転軸の+Z方向成分を加えた方向へ、被加工物Wに対して回転工具Tを回避移動させている。つまり、回転工具Tの回転軸の一方方向成分(Z+方向成分)を逃がし成分としている。これにより、簡単に、かつ、回転工具Tと被加工物のさらなる衝突もなく安全に、回転工具Tを回避させることができる。
【0049】
さらに、被加工物Wの加工を継続させながら回避加工を行っているため、回避加工において可能な限り多くの量を加工できる。つまり、回避加工における加工効率を高くすることができる。さらに、このことにより、加工プログラムに基づく基本加工を再開した場合に、加工負荷が第一設定値Paを超えて再び回避加工を行うことを、できる限り避けるようにできる。
【0050】
さらに、回避加工の後には、回避加工を開始した第一位置A,Bに工具を戻して、加工プログラムに基づく基本加工を再開している。従って、回避加工により被加工物Wの削り残しが発生した部位を、確実に削り取ることができる。また、復帰工程における被加工物Wに対する回転工具Tの移動を早送り移動とすることで、回避加工を実行したとしても、可能な限りサイクルタイムの長期化を抑制することができる。
【0051】
<第二実施形態>
第二実施形態における工作機械の制御方法について、図7〜図8を参照して説明する。ここで、第二実施形態における制御方法は、第一実施形態の制御方法に対して、回避加工(図4のステップS5)の処理が異なる。そこで、以下には、本実施形態の回避加工の処理と、本実施形態の制御方法を実行した場合の回転工具Tの移動経路について説明する。
【0052】
回避加工の前には、図8(a)に示すように、第一位置A(Xa,Ya,Za)まで加工プログラムに基づく基本加工が行われる。その後、回避加工が行われる。本実施形態における回避加工は、加工負荷が第一設定値Paを超えた後において、加工負荷が第一設定値Pa以下となるように、被加工物Wに対して回転工具Tを加工プログラムによる移動経路Lから回避移動させながら行う被加工物Wの加工である。
【0053】
具体的には、図7に示すように、現位置(X,Y,Z)から座標(X,Y,Z+ΔZ)へ、回転工具Tを移動させる(S21、「非加工移動」)。つまり、回転工具Tを、X軸位置およびY軸位置は変更せずに、回転工具Tの回転軸方向の+Z軸方向へ逃がす。このとき、回転工具Tにより被加工物Wの加工は行われていない。この切込逃がし量(+ΔZ)は、予め設定されている量である。
【0054】
続いて、現位置(X,Y,Z+ΔZ)から座標(Xi+1,Yi+1,Zi+1+ΔZ)へ、回転工具Tを移動させる(S22、「加工移動」)。つまり、回転工具Tを、加工プログラムのZ軸位置からの変化分+ΔZを一定としつつ、加工プログラムの指令位置に沿って回転工具Tを移動させる。このとき、回転工具Tにより被加工物Wの加工は行われる。
【0055】
続いて、加工負荷が第二設定値Pb未満に到達したか否かを判定し(S23)、加工負荷が第二設定値Pb未満に到達した場合には(S23:Y)、図4のステップS6へ進む。一方、加工負荷が第二設定値Pb未満に到達していない場合には(S23:N)、時間カウンタiに1を加算する(S24)。
【0056】
そして、加工負荷が第一設定値Paを超えたか否かを判定し(S25)、加工負荷が第一設定値Paを超えていない場合には(S25:N)、ステップS22に戻り処理を繰り返す。つまり、切込逃がし量(+ΔZ)を変更せずに、さらに次の位置へ、回転工具Tを移動する。一方、加工負荷が第一設定値Paを超えた場合には(S25:Y)、ステップS21に戻り処理を繰り返す。つまり、再び、さらに切込逃がし量(+ΔZ)だけ移動させる非加工移動を行い、続いてその切込逃がし量において加工移動を行う。
【0057】
この回避加工の動作について図8(b)を参照して説明する。図8(b)の第一位置Aから回避加工が開始される。そうすると、まずは、回転工具Tは、切込逃がし量(+ΔZ)だけ移動する(S21)。このときの加工負荷はゼロとなる。その後、加工プログラムによる回転工具Tの移動経路Lに対して、一定距離(+ΔZ)離れた位置を、回転工具Tが移動する(S22→S23→S24→S25→S22)。
【0058】
その後、図8(b)においては、再び加工負荷が第一設定値Paを超えるため、回転工具Tは、さらに切込逃がし量(+ΔZ)だけ移動する(S25→S21)。その後、再び、加工プログラムによる回転工具Tの移動経路Lに対して、一定距離(+ΔZ)離れた位置を、回転工具Tが移動する(S22→S23→S24→S25→S22)。このように、回避加工における回転工具Tの移動経路は、階段状になる。そして、加工負荷が第二設定値Pb未満となると、図8(c)に示すように、第一位置Aに復帰する(図4のステップS6)。
【0059】
ここで、図3に示す被加工物Wの形状で、回転工具Tの移動経路Lの場合に、上述した処理を行う場合において、回転工具Tの実際の移動経路について、図8(d)に示す。図8(d)において、移動経路(1)〜(7)は、回転工具Tの移動する順序を示す。移動経路(1)〜(3)は、図8(a)〜図8(c)に示したとおりである。その後、図8(d)の移動経路(4)にて示すように、加工負荷が第一設定値Paを超える位置Bに到達するまでの間、加工プログラムによる基本加工を行う。続いて、移動経路(5)にて示すように、再び回避加工を行い、その後に、移動経路(6)にて示すように、回転工具Tを位置Bへ早送り移動で復帰させる。続いて、移動経路(7)にて示すように、加工プログラムによる基本加工を再開し、最後の位置まで被加工物Wの加工を行う。
【0060】
本実施形態においても、回避加工を行うことで回転工具Tの異常摩耗および折損を防止できる。さらに、本実施形態における回避加工においては、非加工移動と加工移動とを交互に行っている。これにより、加工負荷によるフィードバック制御を行うことなく、容易に回避加工を行うことができる。
【0061】
<第三実施形態>
第一実施形態においては、平面上の回転工具Tの移動経路Lに対して凸状部を有する場合を対象として説明した。この他に、本発明は、凹状部を加工する際にも同様に適用できる。以下に、凹状部を加工する場合について図9を参照して説明する。
【0062】
例えば、図9(a)の実線にて示すような被加工物Wの加工前形状に対して、破線にて示すような加工後形状となるように加工する場合を例に挙げて説明する。つまり、加工プログラムによる回転工具Tの移動経路は、図9(a)に示すLとなる。この場合、図9(b)に示すように、移動経路(1)〜(7)の順に、回転工具Tが移動することになる。
【0063】
まず、図9(b)に示すように、移動経路(1)を回転工具Tが移動するとき、位置Aにおいて、加工負荷が第一設定値Paを超える(図4のステップS2)。そうすると、移動経路(2)に示す回避加工が行われる(図4のステップS5)。この移動経路(2)の回避加工において、最終的な加工後形状の深さが徐々に深くなっているが、この間、加工負荷がPaを超えないように切込逃がし量ΔZが変更されていく(図5のステップS12)。従って、移動経路(2)において、最終的な切込逃がし量ΔZは、図9(b)のΔZとして示す深さとなる。
【0064】
そして、移動経路(2)の回避加工を終了すると、移動経路(3)にて示すように、第一位置Aに早送り移動で復帰させる(図4のステップS6)。そして、第一位置Aからは、加工プログラムによる基本加工を再開する。そして、図4のステップS2以降の処理を繰り返す。その後は、移動経路(4)を進めると、加工負荷がPaを超えた位置Bに到達し、移動経路(5)(6)(7)の順に進み、被加工物Wの加工を終了する。
【0065】
このように、凹状部を加工する際にも、第一実施形態と同様の効果を発揮する。また、第三実施形態としては、第一実施形態における制御方法を凹状部の加工に適用した場合について説明したが、第二実施形態における制御方法を凹状部の加工に適用することもできる。
【0066】
<上記実施形態の変形態様>
第一実施形態および第三実施形態において、切込逃がし量ΔZを増加させる所定値αを一定として説明した。この所定値αは、加工負荷検出センサ80により検出された加工負荷に応じて変更してもよい。例えば、加工負荷が大きいほど、所定値αが大きくなるようにし、加工負荷が小さいほど、所定値αが小さくなるようにするとよい。
【0067】
また、第二実施形態において、切込逃がし量ΔZを一定としたが、これも上記と同様に、加工負荷検出センサ80により検出される加工負荷に応じて変更してもよい。例えば、加工負荷が大きいほど、切込逃がし量ΔZが大きくなるようにし、加工負荷が小さいほど、切込逃がし量ΔZが小さくなるようにするとよい。
【0068】
また、上記実施形態においては、工作機械として直進軸3軸を有する工作機械を例に挙げて説明したが、本発明は、回転軸をさらに備える例えば5軸の工作機械に適用することもできる。
【符号の説明】
【0069】
10:基本制御部、 20:回避制御部、 30:加工負荷監視部、 40:切替器
60:モータ、 70:位置検出センサ、 80:加工負荷検出センサ
L:工具移動経路、 Pa,Pb:設定値
T:回転工具、 W:被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具により被加工物を加工する工作機械の制御方法において、
予め記憶された加工プログラムに基づいて前記被加工物に対して前記回転工具を移動させて前記被加工物を加工する基本加工工程と、
加工負荷を検出する加工負荷検出工程と、
前記基本加工工程において、前記加工負荷が設定値を超えた時における前記被加工物に対する前記回転工具の第一位置を記憶する第一位置記憶工程と、
前記加工負荷が前記設定値を超えた後に前記加工負荷が前記設定値以下となるように、前記被加工物に対して前記回転工具を前記加工プログラムによる工具移動経路から回避移動させながら前記被加工物を加工する回避加工工程と、
前記回避加工工程の後に、前記被加工物に対する前記回転工具の位置を前記第一位置に復帰する復帰工程と、
前記復帰工程の後に、前記第一位置から前記加工プログラムに基づく加工を再開する加工再開工程と、
を備えることを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記回避加工工程は、前記加工プログラムによる工具移動方向成分に、前記回転工具の回転軸の一方方向成分を加えた方向へ、前記被加工物に対して前記回転工具を回避移動させることを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記回避加工工程は、前記加工負荷によるフィードバック制御を行うことで前記回転工具を回避移動させることを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記回避加工工程は、前記回転工具により前記被加工物を非加工とする非加工移動と、前記回転工具により前記被加工物を加工する加工移動とを交互に行うことを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4において、
前記復帰工程は、前記回避加工工程の後における前記被加工物に対する前記回転工具の位置から前記第一位置に向かって、前記被加工物を加工する際の前記回転工具の送り速度より早い送り速度にて前記被加工物に対して前記回転工具を移動することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記復帰工程は、前記回転工具が前記第一位置に到達した時点において前記加工再開工程における前記回転工具の送り速度となるように、前記被加工物に対して前記回転工具を移動することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項7】
回転工具により被加工物を加工する工作機械の制御装置において、
予め記憶された加工プログラムに基づいて前記被加工物に対して前記回転工具を移動させて前記被加工物を加工する基本制御手段と、
前記加工プログラムに基づく加工を行っている際において、加工負荷が設定値を超えた時における前記被加工物に対する前記回転工具の第一位置を記憶する第一位置記憶手段と、
前記加工負荷が前記設定値を超えた後に前記加工負荷が前記設定値以下となるように前記被加工物に対して前記回転工具を前記加工プログラムによる工具移動経路から回避移動させながら前記被加工物を加工する回避加工を行い、前記回避加工の後に前記被加工物に対する前記回転工具の位置を前記第一位置に復帰し、前記第一位置に復帰した後に前記第一位置から前記加工プログラムに基づく加工を再開させる回避制御手段と、
を備えることを特徴とする工作機械の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−3515(P2012−3515A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137857(P2010−137857)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】