説明

工具先端点の加速度または加加速度の表示部を備えた工具軌跡表示装置

【課題】駆動軸または工具の指令位置に対する実位置の形状誤差の分析を容易に行う。
【解決手段】工具軌跡表示装置(20)は、複数の駆動軸の位置指令の指令値時系列データ、複数の駆動軸の位置検出値の検出値時系列データおよび工作機械の構成に基づいて工具指令座標値および工具実座標値を算出する工具座標値算出部(22)と、工具指令座標値および工具実座標値における工具の先端点の加速度を算出する加速度算出部(23)と、工具指令座標値および工具実座標値の加速度の表示形式を選択する表示形式選択部(24)と、を具備し、表示形式選択部は、加速度の向きと大きさとに応じて工具の先端点の軌跡を色分けする色表示と、加速度を加速度ベクトルとして工具の先端点の軌跡上に表示するベクトル表示と、隣接する加速度ベクトルの終点を互いに接続する結線を表示する結線表示とのうちの少なくとも一つを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具先端点の加速度または加加速度の表示部を備えた工具軌跡表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている工作機械を制御する数値制御装置は、位置指令軌跡を表示する機能、工具が実際に移動した軌跡を表示する表示機能を有する場合がある。具体的には、工作機械の駆動軸の指令位置の時系列データおよび/または実位置の時系列データから工具の先端点の座標を算出して表示している。これにより、工具先端点の指令軌跡と実軌跡との間の形状誤差が視覚的に分析される。
【0003】
このような従来技術の例として、特許文献1には、工作機械の各駆動軸の各時刻における位置情報と工作機械の機械構成の情報とに基づいて工具の先端部の三次元座標を算出してその軌跡を求めることが開示されている。さらに、特許文献1には、工具先端点の軌跡と工作機械の各駆動軸の加速度を対応づけて表示することが開示されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、ワークの形状データから算出された工具送り軸の加速度をグラフ表示すること、および加速度の閾値以上の特異点となる加速度を閾値以下になるように補正することにより、補正工作物形状データを求めることが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、加工前に工具軌跡や工具移動速度を正確にシミュレーションし、シミュレーションした工具軌跡上に速度、加速度および加加速度を表示することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4648471号
【特許文献2】特許第3517909号
【特許文献3】特開2009−98982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ワークを工作機械で加工する際に、ワーク上に所望の加工面を得るためには、駆動軸または工具の指令位置に対する実位置の形状誤差を小さくする必要がある。そして、形状誤差が生じる原因を分析するためには、位置の情報だけでなく、加速度等の情報がさらに必要になる。
【0008】
特に、ワークが多数の曲面を含んでいる場合には、工具が曲面を移動する速度に応じて、接線方向の加速度および法線方向の加速度も変化する。このため、工具からワークの加工面に作用する力も、このような加速度の変化に応じて変化する。そして、加工面に作用する力は、ワークの外観(縞目や痕等)に影響を与える。従って、形状誤差を分析するためには、駆動軸または工具の加速度、加加速度等の物理情報が必要とされる。
【0009】
また、特許文献1の手法では、駆動軸毎に個別に加速度を確認する必要があり、加速度と加工面との対応関係を視覚的に捉えることは困難である。また、特許文献2における加速度は、閾値以上の特異点を抽出するのに使用されているので、特許文献2では、形状誤差を分析するために加速度を算出しているわけではない。
【0010】
さらに、特許文献3では、シミュレーションされた工具軌跡に加速度を表示することが開示されているものの、実際の工具軌跡上に加速度などを表示しているわけではない。このため、特許文献3では、実際の加工面と対応付けて形状誤差を分析することはできない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、駆動軸または工具の指令位置に対する実位置の形状誤差の分析を容易に行ってワークの外観不良を低減することのできる、工具軌跡表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、数値制御装置を用いて複数の駆動軸によって工具および被加工物のうちの少なくとも一方の位置および姿勢を制御する工作機械の前記工具の先端点の軌跡を表示する工作機械の工具軌跡表示装置において、前記複数の駆動軸に対する所定の制御周期毎の位置指令を作成する指令作成部と、前記複数の駆動軸のそれぞれに取付けられていて前記複数の駆動軸のそれぞれの位置を前記所定の制御周期毎に検出する位置検出器と、前記指令作成部により作成された前記所定の制御周期毎の位置指令を指令値時系列データとして取得すると共に、前記位置検出器により前記所定の制御周期毎に検出された位置検出値を検出値時系列データとして取得する位置データ取得部と、前記指令値時系列データおよび前記工作機械の構成に基づいて前記工具の先端点の工具指令座標値を前記指令値時系列データに対応させて算出すると共に、前記検出値時系列データおよび前記工作機械の構成に基づいて前記工具の先端点の工具実座標値を前記検出値時系列データに対応させて算出する工具座標値算出部と、前記工具指令座標値における少なくとも三つのデータを用いて前記工具の先端点の加速度または加加速度を算出すると共に、前記工具実座標値における少なくとも三つのデータを用いて前記工具の先端点の加速度または加加速度を算出する加速度算出部と、前記工具の先端点の軌跡をそれぞれ形成する前記工具指令座標値および前記工具実座標値の前記加速度または前記加加速度の表示形式を選択する表示形式選択部と、を具備し、該表示形式選択部は、前記加速度または前記加加速度の向きと大きさとに応じて前記工具の先端点の軌跡を色分けする色表示と、前記加速度または前記加加速度を加速度ベクトルまたは加加速度ベクトルとして前記工具の先端点の軌跡上に表示するベクトル表示と、隣接する前記加速度ベクトルまたは前記加加速度ベクトルの終点を互いに接続する結線を表示する結線表示とのうちの少なくとも一つを行うようになっており、さらに、前記表示形式選択部により選択された表示形式に従って、前記工具の先端点の軌跡と共に、前記加速度または前記加加速度を表示する表示部と、を備えたことを特徴とする工具軌跡表示装置が提供される。
【0013】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記加速度算出部は、前記工具指令座標値および前記工具実座標値の連続する少なくとも三つのデータを用いて接線方向または法線方向の加速度を算出する。
3番目の発明によれば、1番目の発明において、前記加速度算出部は、前記工具指令座標値および前記工具実座標値の連続する少なくとも四つのデータを用いて接線方向または法線方向の加加速度を算出する。
4番目の発明によれば、1番目の発明において、前記表示形式選択部は、前記加速度または前記加加速度の向きまたは大きさに応じて、前記工具先端点の指令軌跡、前記工具先端点の実軌跡、前記加速度ベクトル、前記加加速度ベクトル、前記加速度ベクトルの結線、および前記加加速度ベクトルの結線のうち、少なくとも1つの色を変更するか、もしくは該色の濃淡を変化させて前記表示部に表示するようにした。
5番目の発明によれば、1番目の発明において、前記表示形式選択部は、前記工具指令座標値または前記工具実座標値の互いに隣接するデータを結ぶ直線または曲線における所定の複数の点を始点とすると共に、該所定の複数の点のそれぞれにおける接線に対して垂直で所定の点を通る直線と前記法線方向の加速度ベクトルの結線または前記法線方向の加加速度ベクトルの結線との交点を終点とする前記法線方向の加速度ベクトルまたは前記法線方向の加加速度ベクトルを前記表示部に表示する。6番目の発明によれば、1番目の発明において、前記表示形式選択部は、前記加速度ベクトルまたは前記加加速度ベクトルと前記結線と前記工具先端点の軌跡とが囲む面の色を変更するか、もしくが該色の濃淡を変化させて前記表示部に表示する。
7番目の発明によれば、1番目の発明において、前記表示形式選択部は、前記加速度または前記加加速度の大きさに応じて、前記加速度ベクトル、前記加加速度ベクトル、前記加速度ベクトルの結線、および前記加加速度ベクトルの結線のうち、少なくとも一つを前記加速度ベクトルまたは前記加加速度ベクトルの方向に任意の倍率で拡大または縮小する。
【発明の効果】
【0014】
1番目の発明においては、工具の先端点の指令軌跡および実軌跡に対応させて、加速度または加加速度を一緒に表示している。従って、工作機械の操作者は、ワークの加工面における形状誤差の原因、または指令軌跡と実軌跡との間の差異の原因を加速度と対応付けて分析できる。その結果、操作者は、ワークの加工面における工具の送り速度を最適化して、ワークの外観不良を低減することができる。
【0015】
2番目の発明においては、三つのデータを使用して、短い処理時間で加速度を算出できる。
3番目の発明においては、四つのデータを使用して、短い処理時間で加加速度を算出できる。
4番目の発明においては、色を部分的に変更するかまたは濃淡を変化させるのみで、操作者にとって加速度の状態が容易に認識できるようになる。
5番目の発明においては、工具の先端点の軌跡の隣接するデータ間の法線加速度ベクトル、および法線加加速度を補間して表示することで、操作者は法線加速度ベクトルまたは法線加加速度ベクトルを視覚的により容易に認識しやすくなる。
6番目の発明においては、軌跡、ベクトルおよび結線で囲まれる面を色表示するので、操作者が極めて容易に認識できるようになる。
【0016】
7番目の発明においては、操作者が表示部における変化を読みとれない場合には拡大機能により操作者の読取りを助勢すると共に、表示部内にベクトルや結線などの全体が表示できない場合には縮小機能によりベクトルや結線などの全体を表示部内に表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に基づく工具軌跡表示装置が搭載される工作機械の斜視図である。
【図2】本発明に基づく工具軌跡表示装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明に基づく工具軌跡表示装置の動作を示す第一のフローチャートである。
【図4】本発明に基づく工具軌跡表示装置の動作を示す第二のフローチャートである。
【図5】加速度の算出を説明するための図である。
【図6】表示形式選択部における色表示を説明するための図である。
【図7】表示形式選択部におけるベクトル表示を説明するための図である。
【図8】表示形式選択部における結線表示を説明するための図である。
【図9】表示形式選択部の他の機能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づく工具軌跡表示装置が搭載される工作機械の斜視図である。図1に例として示される工作機械1は5軸加工機である。工作機械1は、ワーク(図示しない)が載置されるテーブル2と、テーブル2に対して互いに垂直な三方向(X軸、Y軸、Z軸)に相対的に移動する支柱3とを含んでいる。図示されるように、ヘッド4が支柱3から横方向に延びており、ヘッド4はテーブル2の表面に対して平行なB軸回りに回転する。さらに、B軸およびテーブル2の表面の両方に対して垂直なA軸回りに回転可能な工具5がヘッド4に取付けられている。
【0019】
従って、工作機械1は三つの直動軸(X軸、Y軸およびZ軸)ならびに二つの回動軸(A軸およびB軸)によって工具5の位置および姿勢を制御してテーブル2上のワークを加工する。ただし、工具5がテーブル2に固定されていて、ワーク(図示しない)がヘッド4の先端に取付けられている場合であっても、本発明の範囲に含まれるものとする。また、X軸、Y軸、Z軸、A軸およびB軸を「駆動軸」と呼ぶ場合がある。
【0020】
図2は本発明に基づく工具軌跡表示装置の機能ブロック図である。図2に示されるように、工具軌跡表示装置20は数値制御装置16を介して工作機械1に接続されている。工作機械1は各駆動軸を駆動するモータM1〜M5を含んでいる。これらモータM1〜M5のそれぞれには、駆動軸の実際の位置を所定の制御周期毎に検出する位置検出器11〜15がそれぞれ備え付けられている。
【0021】
また、数値制御装置16は各駆動軸に対する所定の制御周期毎の位置指令を作成する指令作成部17を含んでいる。なお、実際には、指令作成部17は工作機械1の動作プログラムを読取って各駆動軸の位置指令を作成するものとする。
【0022】
図2に示されるように、工具軌跡表示装置20は位置データ取得部21を含んでいる。位置データ取得部21は、指令作成部17により作成された所定の制御周期毎の位置指令を指令値時系列データとして取得する。さらに、位置データ取得部21は、位置検出器11〜15により検出された各駆動軸の位置検出値を検出値時系列データとして取得する。これらの時系列データは一時的に工具軌跡表示装置20に記憶されるものとする。
【0023】
さらに、工具軌跡表示装置20は工具座標値算出部22を含んでいる。工具座標値算出部22は、指令値時系列データおよび工作機械1の構成に基づいて工具5の先端点の工具指令座標値を前記指令値時系列データに対応させて算出する。さらに、工具座標値算出部22は、検出値時系列データおよび工作機械1の構成に基づいて工具5の先端点の工具実座標値を検出値時系列データに対応させて算出する。これら工具指令座標値および工具実座標値は、工具5の先端点の指令軌跡および実軌跡をそれぞれ表すものとする。なお、工作機械1の構成は、主に工作機械1の寸法を意味する。
【0024】
さらに、工具軌跡表示装置20は加速度算出部23を含んでいる。加速度算出部23は工具指令座標値における少なくとも三つのデータを用いて工具5の先端点の加速度および/または加加速度を算出すると共に、工具実座標値における少なくとも三つのデータを用いて工具5の先端点の加速度および/または加加速度を算出する。
【0025】
さらに、工具軌跡表示装置20は表示形式選択部24を含んでいる。表示形式選択部24は、工具指令座標値および工具実座標値のうちの少なくとも一方の加速度および/または加加速度の表示形式を選択する。
【0026】
具体的には、表示形式選択部24は、加速度または加加速度の向きと大きさとに応じて工具5の先端点の軌跡を色分けする色表示と、加速度または加加速度を加速度ベクトルまたは加加速度ベクトルとして工具5の先端点の軌跡(指令軌跡または実軌跡)に表示するベクトル表示と、隣接する前記加速度ベクトルまたは前記加加速度ベクトルの終点を互いに接続する結線を表示する結線表示とのうちの少なくとも一つを行う。
【0027】
操作者が表示形式選択部24の表示形式を選択するのが好ましい。もしくは加速度または加加速度の向きと大きさとに応じて表示形式が自動的に定まるようにしてもよい。選択された表示形式に従って、工具5の先端点の軌跡に対応させて加速度または加加速度が表示部25に表示される。
【0028】
図3および図4は本発明に基づく工具軌跡表示装置の動作を示すフローチャートである。以下、図3および図4を参照しつつ、本発明に基づく工具軌跡表示装置20の動作について説明する。はじめに、ステップS1でt=0、n=1、N=0を設定する。ここで、tは所定の制御周期を単位とする時間であり、nは座標値の番号を示す値であり、Nは座標値の総数を示している。
【0029】
次いで、ステップS2において、位置データ取得部21は時刻tにおける各駆動軸の指令位置Pc(t)を指令作成部17から取得する。そして、ステップS3においては、位置検出器11〜15が検出した時刻tにおける各駆動軸の実位置Pf(t)を取得する。
【0030】
次いで、ステップS4において、工具座標値算出部22が各駆動軸の指令位置Pc(t)と工作機械1の構成(機械構成情報)とに基づいて、時刻tにおける工具指令座標値Pcnを算出する。同様に、ステップS5においては、工具座標値算出部22が各駆動軸の実位置Pf(t)と工作機械1の構成(機械構成情報)とに基づいて、時刻tにおける工具実座標値Pfnを算出する。これら工具指令座標値Pcnおよび工具実座標値Pfnは工具軌跡表示装置20の記憶部(図示しない)に記憶される(ステップS6、ステップS7)。
【0031】
ここで、工具指令座標値Pcnおよび工具実座標値Pfnの算出手法について説明する。図1を再び参照し、五つの駆動軸の座標をそれぞれx(t)、y(t)、z(t)、a(t)、b(t)とする。
【0032】
そしてA軸とB軸との交点をMとすると、交点Mの座標は(x(t)、y(t)、z(t))で表される。交点Mから工具5の先端までの長さをLとし、工具5が真下を向いた位置をA軸およびB軸の基準位置(原点)とすると、工具5先端の座標は以下のように示される。
Px(t)=x(t)+L×cos(a(t))×sin(b(t))
Py(t)=y(t)+L×sin(a(t))
Pz(t)=z(t)−L×cos(a(t))×cos(b(t))
このようにして、五つの駆動軸の位置情報と機械構成の条件とによって工具5の先端の座標を算出することができる。
【0033】
次いで、図3のステップS8において、時刻tが所定の終了時間を越えたか否かが判定される。そして、NO判定である場合には、ステップS9において、サンプリング時間Δt(制御周期に対応)が経過したか否かがさらに判定される。サンプリング時間Δtが経過していない場合には、サンプリング時間Δtが経過するまで待機し、サンプリング時間Δtが経過すると、ステップS10に進む。
【0034】
ステップS10においては、時刻t←t+Δt、n←n+1に設定して、ステップS2に戻る。そして、時刻tが所定の終了時間を越えるまでステップS2ステップS8の処理を繰返す。これにより、工具座標値算出部22は指令値時系列データおよび検出値時系列データを工具5の先端点の指令軌跡および実軌跡としてそれぞれ作成することができる。
【0035】
次いで、ステップS11およびステップS12においてはそれぞれN=n−1,n=2を設定する。そして、ステップS13において、加速度算出部23が、工具指令座標値Pcn−1、Pcn、Pcn+1を用いて加速度Acnを算出する。同様にステップS14において、加速度算出部23が、実座標値Pfn−1、Pfn、Pfn+1を用いて加速度Afnを算出する。このように三つの座標値から加速度を算出する場合には、短い処理時間で加速度を算出できるのが分かるであろう。なお、以下の演算についても加速度算出部23が行うものとする。
【0036】
次いで、ステップS15およびステップS16においては、表示形式選択部24において加速度Acn、Afnの表示形式がそれぞれ選択される。そして、ステップS17およびステップS18においては、選択された表示形式に従って加速度Acn、Afnを表示部25に表示する。
【0037】
次いで、図4のステップS19においては、nがN以上になったか否かが判定される。そして、NO判定である場合には、ステップS20においてn←n+1に設定して、ステップS13に戻る。そして、nがN以上になるまでステップS13〜ステップS19の処理を繰返す。
【0038】
次いで、ステップS21において、n=2、N←N−1を設定する。そして、ステップS22において、加速度Ac(n)、Ac(n+1)から工具指令座標値Pcnにおける加加速度Jcnを算出する。同様に、ステップS23においては、加速度Af(n)、Af(n+1)から実座標値Pfnにおける加加速度Jfnを算出する。
【0039】
本発明では、二つの加速度を用いて加加速度を算出しているので、少なくとも四つの工具の座標値が使用されることに留意されたい。四つの座標値から加加速度を算出する場合には、短い処理時間で加加速度を算出できるのが分かるであろう。
【0040】
次いで、ステップS24およびステップS25においては、表示形式選択部25において加加速度Jcn、Jfnの表示形式がそれぞれ選択される。そして、ステップS26およびステップS27においては、選択された表示形式に従って加加速度Jcn、Jfnを表示部26に表示する。なお、加加速度Jcn、Jfnは、加速度Acn、Afnに重畳しないように表示部25の別の場所に表示されるのが好ましい。
【0041】
その後、ステップS28において、n≧Nであると判定された場合には処理を終了する。n≧Nでないと判定された場合には、ステップS29においてn←n+1を設定され、n≧Nになるまで、ステップS22〜ステップS27を繰返すものとする。
【0042】
【数1】

【0043】
【数2】

【0044】
ところで、本発明における表示形式選択部24は、加速度および/または加加速度について、色表示、ベクトル表示、および結線表示のうちの少なくとも一つを実施する。図6〜図8はそれぞれ表示形式選択部における色表示、ベクトル表示および結線表示を説明するための図である。以下の図においては、説明を簡略にする目的で、工具指令座標値Pcnについての法線加速度を実施例として説明する。ただし、実座標値Pfnの場合、接線加速度を表示する場合および加加速度を表示する場合も概ね同様であることに留意されたい。
【0045】
はじめに、図6を参照して色表示について説明する。図6においては工具指令座標値Pcnと、それらを直線または曲線で結ぶ実線X1が示されている。この実線X1は工具5の先端点の指令軌跡を示している。図6の下方に示されるように、実線X1は、その法線加速度が実線X1よりも上側を向いている領域A1、A3と、法線加速度が実線X1よりも下側を向いている領域A2とを含んでいる。
【0046】
色表示においては、法線加速度が実線X1よりも上側を向いている領域A1、A3を第一の色、例えば青色で着色し、法線加速度が実線X1よりも下側を向いている領域A2を第二の色、例えば赤色で着色する。
【0047】
このとき、法線加速度の大きさに応じて第一および第二の色の濃淡を変更するのが好ましい。図6に示される例においては、実線X1の変曲点近傍は薄い色で表示され、実線X1の極値近傍は濃い色で表示されている。そして、変曲点と極値との間で色が徐々に変化するように濃淡が付けられている。色表示においては色を部分的に変更するかまたは濃淡を変化させるのみで、操作者は加速度の状態を容易に認識しやすくなる。なお、色表示においては、第一および第二の色を使用するだけでなく、さらに多数の色を用いて変曲点と極値との間を色分け表示するようにしてもよい。
【0048】
次いで、図7を参照して、表示形式選択部におけるベクトル表示を説明する。図7の中央においては、法線加速度を実線X1における工具指令座標値Pcnのそれぞれから延ばしてベクトル表示している。これら法線加速度のベクトルY1の向きは法線加速度の方向を示しており、ノルムは法線加速度の大きさを示している。
【0049】
さらに、ベクトル表示する場合には、図7の下方に示されるように、隣接する二つのベクトルY1の間に一つまたは複数の法線加速度のベクトルY2を表示してもよい。このよなベクトルY2は隣接する二つの工具指令座標値Pcnの間における実線X1から延びている。ベクトルY2はベクトルY1および実線X1から容易に算出できるのが当業者であれば分かるであろう。ベクトル表示において、工具の先端点の軌跡の隣接するデータ間の法線加速度ベクトルまたは法線加加速度ベクトルを補間して表示することで、操作者は法線加速度ベクトルまたは法線加加速度ベクトルを視覚的により容易に認識しやすくなる。
【0050】
次いで、図8を参照して、表示形式選択部における結線表示を説明する。図8の中央においては工具指令座標値Pcnのそれぞれから延びる加速度ベクトルの終点のみを表示し、これらを直線または曲線で結んだ実線X2が示されている。図から分かるように、実線X1はその変曲点において実線X2に交差する。
【0051】
さらに、図8の下方に示されるように、色表示をさらに組合わせることにより、領域A1、A3においては第一の色、例えば青色で濃淡表示すると共に、領域A2においては第二の色、例えば赤色で濃淡表示される。また、加速度ベクトルおよび加加速度ベクトルならびに結線を実線X1の色とは別の色で着色したり、その濃淡を変化させたりしてもよい。このように二つ以上の表示形式を選択することにより、多様な表示形式を提供でき、操作者がさらに容易に識別できるようになるのが分かるであろう。
【0052】
ところで、図9は表示形式選択部の他の機能を説明するための図である。実線X2等の変化が比較的小さい場合には、操作者が表示部25上での変化を読みとれない場合がある。そのような場合には、拡大縮小機能により実線X2を縦方向に拡大するのが好ましい。図9においては実線X2を縦方向に1.5倍拡大した破線X21が示されている。これにより、操作者が変化を読取るのを助勢する。
【0053】
あるいは、実線X2等の変化が比較的大きい場合には、表示部25内に実線X2全体が表示できない可能性もある。そのような場合には、拡大縮小機能により実線X2を縦方向に縮小するのが好ましい。図9においては実線X2を縦方向に0.5倍縮小した破線X22が示されている。このような場合には、破線X22全体を表示部25内に表示することが可能となる。
【0054】
このように本発明においては、指令値および実位置の両方に関して工具5の先端の軌跡を表示すると共に、各座標値において加速度(法線加速度、接線加速度)または加加速度を各種の表示形式で表示部25上に表示している。従って、工作機械1の操作者は、ワークの加工面における形状誤差の原因、または指令値の軌跡と実位置の軌跡との間の差異の原因を加速度と対応付けて分析することができる。
【0055】
さらに、加工面における形状誤差と法線加速度とを対応させて分析できるので、操作者はワークの湾曲加工面における工具5の送り速度を最適化できる。その結果、ワークの加工面を平滑にすることが可能となる。
【0056】
なお、位置検出器11〜15および指令作成部17が工具軌跡表示装置20に含まれる場合であっても、本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0057】
1 工作機械
2 テーブル
3 支柱
4 ヘッド
5 工具
11〜15 位置検出器
16 数値制御装置
17 指令作成部
20 工具軌跡表示装置
21 位置データ取得部
22 工具座標値算出部
23 加速度算出部
24 表示形式選択部
25 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御装置を用いて複数の駆動軸によって工具および被加工物のうちの少なくとも一方の位置および姿勢を制御する工作機械の前記工具の先端点の軌跡を表示する工作機械の工具軌跡表示装置において、
前記複数の駆動軸に対する所定の制御周期毎の位置指令を作成する指令作成部と、
前記複数の駆動軸のそれぞれに取付けられていて前記複数の駆動軸のそれぞれの位置を前記所定の制御周期毎に検出する位置検出器と、
前記指令作成部により作成された前記所定の制御周期毎の位置指令を指令値時系列データとして取得すると共に、前記位置検出器により前記所定の制御周期毎に検出された位置検出値を検出値時系列データとして取得する位置データ取得部と、
前記指令値時系列データおよび前記工作機械の構成に基づいて前記工具の先端点の工具指令座標値を前記指令値時系列データに対応させて算出すると共に、前記検出値時系列データおよび前記工作機械の構成に基づいて前記工具の先端点の工具実座標値を前記検出値時系列データに対応させて算出する工具座標値算出部と、
前記工具指令座標値における少なくとも三つのデータを用いて前記工具の先端点の加速度または加加速度を算出すると共に、前記工具実座標値における少なくとも三つのデータを用いて前記工具の先端点の加速度または加加速度を算出する加速度算出部と、
前記工具の先端点の軌跡をそれぞれ形成する前記工具指令座標値および前記工具実座標値の前記加速度または前記加加速度の表示形式を選択する表示形式選択部と、を具備し、該表示形式選択部は、前記加速度または前記加加速度の向きと大きさとに応じて前記工具の先端点の軌跡を色分けする色表示と、前記加速度または前記加加速度を加速度ベクトルまたは加加速度ベクトルとして前記工具の先端点の軌跡上に表示するベクトル表示と、隣接する前記加速度ベクトルまたは前記加加速度ベクトルの終点を互いに接続する結線を表示する結線表示とのうちの少なくとも一つを行うようになっており、
さらに、
前記表示形式選択部により選択された表示形式に従って、前記工具の先端点の軌跡と共に、前記加速度または前記加加速度を表示する表示部と、を備えたことを特徴とする工具軌跡表示装置。
【請求項2】
前記加速度算出部は、前記工具指令座標値および前記工具実座標値の連続する少なくとも三つのデータを用いて接線方向または法線方向の加速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の工具軌跡表示装置。
【請求項3】
前記加速度算出部は、前記工具指令座標値および前記工具実座標値の連続する少なくとも四つのデータを用いて接線方向または法線方向の加加速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の工具軌跡表示装置。
【請求項4】
前記表示形式選択部は、前記加速度または前記加加速度の向きおよび大きさに応じて、前記工具先端点の軌跡、前記加速度ベクトル、前記加加速度ベクトル、前記加速度ベクトルの結線、および前記加加速度ベクトルの結線うち、少なくとも1つの色を変更するか、もしくは該色の濃淡を変化させて前記表示部に表示するようにした、ことを特徴とする請求項1に記載の工具軌跡表示装置。
【請求項5】
前記表示形式選択部は、前記工具指令座標値または前記工具実座標値の互いに隣接するデータを結ぶ直線または曲線における所定の複数の点を始点とすると共に、該所定の複数の点のそれぞれにおける接線に対して垂直で所定の点を通る直線と前記法線方向の加速度ベクトルの結線または前記法線方向の加加速度ベクトルの結線との交点を終点とする前記法線方向の加速度ベクトルまたは前記法線方向の加加速度ベクトルを前記表示部に表示する、ことを特徴とする請求項1に記載の工具軌跡表示装置。
【請求項6】
前記表示形式選択部は、前記加速度ベクトルまたは前記加加速度ベクトルと前記結線と前記工具先端点の軌跡とが囲む面の色を変更するか、もしくが該色の濃淡を変化させて前記表示部に表示する、ことを特徴とする請求項1に記載の工具軌跡表示装置。
【請求項7】
前記表示形式選択部は、前記加速度または前記加加速度の大きさに応じて、前記加速度ベクトル、前記加加速度ベクトル、前記加速度ベクトルの結線、および前記加加速度ベクトルの結線のうち、少なくとも一つを前記加速度ベクトルまたは前記加加速度ベクトルの方向に任意の倍率で拡大または縮小する、ことを特徴とする請求項1に記載の工具軌跡表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−45332(P2013−45332A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183512(P2011−183512)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】