説明

建設機械

【課題】原動機の出力駆動軸に結合される可変容量型ピストンポンプの回転軸に作用する吸収トルクを電気的に検出して斜板傾転角位置を制御して効率的運転を可能にする建設機械を提供する。
【解決手段】ポンプPMは、ケーシング16内部に形成された回転軸14を含む回転機構と、この回転機構の回転量を指定する斜板18および同斜板の傾転角を制御するパワーピストンユニットPWと、同パワーピストンユニットに対し所定の圧油を供給する油圧サーボユニットSVとを備える。油圧サーボユニット内にはスリーブ20内で軸方向に摺動可能に配置されたスプール22が設けられ、スプール22の左端側は、電磁ソレノドSLの駆動ピンSPにより押圧され得る。PAは、前記電磁ソレノドSLへの駆動電力を供給する電力増幅部である。回転軸の吸収トルクは非接触で電気信号として検出するセンサーSにより検出され、この信号により斜板が直接サーボ制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械に係り、特に原動機の出力軸に結合される油圧ポンプの効率的運転を可能にする建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械において、原動機出力軸に直結配置された可変容量型ピストンポンプは、当該建設機械の作動中、各種の油圧アクチュエータの動作状態に応じて圧油を供給している。その場合、アクチュエータ(1つに限定されない)の負荷が大きくなると前記ポンプの吐出側圧力が上昇する。そして、圧力が上昇するに従い油圧ポンプの吸収トルクも比例して上昇し、原動機の最大出力トルクを上回ると油圧ポンプ内の斜板を駆動して吐出量が減少し、前記負荷の増大に対応させている。また、前記アクチュエータの負荷が小さくなる場合はこの逆の操作が行われる。一般に、油圧ポンプの理論吸収トルクTthの特性は次式(1)で表される。
th(Nm)=P(MPa)×Vth(ml/rev)/2π・・・(1)
ここで、Vthは、1回転あたりの吐出量である。
【0003】
しかし、実際の吸収トルクTactは、次式(2)、すなわち、
act(Nm)=Tth/η・・・(2)
で表され、ここで、機械効率ηは、吐出圧P、理論吸収トルクTth、回転速度、作動油の粘度および温度により変化するものであり、これらを正確な式の形で表すことは困難であり、概略の式で表すようになっている。
【0004】
したがって、概略の式による計算で得られた値と実際のトルクには差がある。しかも、Vthをポンプの斜板角センサー等を用いて検出しておればまだしも、検出器のコスト、信頼性の点から、センサー等を使用していないことが多い。その場合は、VthをPの関数として算出している。図8は、この様子を説明する一般的な可変ポンプの特性の線図を示す。すなわち、一般に可変ポンプの制御は、図8に示すように、双曲線の定トルク線図Qを2本の接線l1、l2で近似したものが用いられている。
【0005】
そして、これら2本の接線をスプリングで製作している。この線図を基にして圧力PからVthを決定している。前記の制御線図L1、L2は理論値であるため、実際には効率を加えて算出するが、量産時には構成部品の寸法のばらつきもあるため、そのばらつきも考慮してVthは安全側に決定している。したがって、実際のトルクとの差はさらに大きくなっているという難点がある。
【0006】
特許文献1の図6には、斜板の制御のためにポンプの自己圧(吐出側圧力)による油圧サーボ機構が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、油圧式建設機械の作業環境及び作業特性によって要求される使用馬力に対してポンプの吸収馬力とエンジンの出力馬力を最大にマッチングしてエンジン−ポンプシステムの最適出力特性を得るための油圧式建設機械のエンジン−ポンプ制御方法において、ポンプ吐出圧力検出器で検出されたポンプ吐出圧力に基づいてポンプの吸収トルクを演算し、マイクロコンピューター内部に設定された基準馬力とポンプの吸収馬力を用いる所定の制御演算を遂行して馬力調整器に出力する過程を遂行する技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、その段落0025において、「図6に示す本実施例のエンジン回転数制御装置では、前述した第1実施例の場合に比べて、油圧ポンプ4の吸収トルクを検出するトルク検出手段として、油圧ポンプ4から吐出される作動油の圧力を測定する圧力センサ14、および油圧ポンプ4の傾転角を測定する傾転角センサ15を備えた点と、マイコン12に、該測定した作動油の圧力Pおよび油圧ポンプ4の傾転角に基づき油圧ポンプ4の吸収トルクTpを演算し、該吸収トルクTpが所定トルクT1より大きいか否かを判断する判断手段を備えた点と、図7に示すエンジン1の出力特性データをマイコン12で予め記憶する点とが主に異なっており、その他の構成は第1実施例の場合と基本的に同等である。なお、前記判断手段では、演算式Tp=f(P,Q)を用いて吸収トルクTpを演算するようになっている。該演算式において、Pは作動油の圧力、Qは作動油の流量で該流量は油圧ポンプ4の傾転角に比例している。」と記載されているように、ポンプ吐出圧を検出しマイコンで演算する技術が開示されている。
【0009】
これら特許文献1、2、3はいずれも、ポンプの吸収トルクを制御するため、ポンプの吐出圧力を制御信号として用いるものであり、多かれ少なかれ、上述した難点を有する。
【0010】
一方、軸の捩りや歪を電気的に測定することによりトルクを直接検出するため、ポンプの駆動軸外周面に、従来からの技術であるストレンゲージを貼り付けることも考えられるが、当該駆動軸は回転するので軸中心部に孔を形成しその中に導線を挿通しその端部からスリップリングを介して電気信号を取り出さなければならず、全体の構成が複雑となり、軸の加工やスリップリング等のコスト上昇を伴うという難点がある。
【0011】
また、特許文献4には、鋼材の外周面にリング状にレーザ光線を照射してそのリング状照射部を非磁性体化し、その場合リングを軸方向に等間隔で多数形成することで、鋼材表面の軸方向に位置測定用のスケールを形成する技術が開示されている。この例では、軸方向における磁場の変化を非接触で検出するものであり、したがって、軸の捩りに対する検出はできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−232307号公報
【特許文献2】特開平10−141110号公報
【特許文献3】特開平09−273183号公報
【特許文献4】特公平06−76894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、上述した点に鑑み、鋭意調査、検討した結果、ポンプ駆動軸表面の一部に磁気的変質部を形成し、非接触でこの磁気的変質部を検出することにより回転する駆動軸に作用する捩り、すなわち、トルクが直接検出できることに着眼した。
【0014】
従って、本発明の目的は、原動機の出力駆動軸に結合される可変容量型ピストンポンプの回転軸に作用する吸収トルクを、当該回転軸に作用するトルクとして電気的に直接検出し、それにより斜板の傾転角位置を制御し、もって、効率的運転を可能にする建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明による建設機械は、原動機に結合された可変容量型ピストンポンプの回転軸に作用する捩りを吸収トルクに対応する物理量として直接検出し作業効率を高める建設機械であって、前記回転軸表面の一部に形成された磁気的変質部と、同磁気的変質部に所定間隔をもって対向配置され、前記建設機械の運転中、前記回転軸に作用する吸収トルクを電気信号として検出するセンサーを含む検出ユニットと、前記検出ユニットからの信号に基づいて前記ポンプの斜板傾転角位置を制御する油圧サーボユニットと、からなることを特徴とする。
【0016】
その場合、前記油圧サーボユニットは、前記検出ユニットからの電気信号を増幅する電力増幅部と、同増幅部出力に応答して前記サーボユニットのスプールの一端部を押圧変位させる電磁比例ソレノイドと、からなることができる。
【0017】
またその場合、前記磁気的変質部は、前記ポンプのケーシング内側に配置することができる。
【0018】
またその場合、前記磁気的変質部は、前記回転軸の軸方向所定長さでその円周全体に強磁性体領域として形成されることができる。
【0019】
またその場合、前記磁気的変質部は、レーザ光線の照射により所定幅で前記回転軸の軸方向に所定長さの筋状非磁性体領域として形成することができる。
【0020】
さらにまた、前記筋状非磁性体領域は、回転軸の外周に等間隔で複数形成されることができる。
【0021】
また、前記検出ユニットのセンサーは、前記回転軸の回転方向に通過する前記筋状非磁性体領域の有無をパルス波形として検出するものであって回転軸方向に所定間隔を設けて第1のセンサーと第2のセンサーとが配置されており、前記検出ユニットには前記第1および第2のセンサーの前記パルス波形の位相差を、前記回転軸に作用する吸収トルクに対応した回転軸の捩り量として検出する手段を備えて構成することができる。
【0022】
また、その場合、前記第1のセンサーと第2のセンサーは、円周方向においてずらして配置されて構成されることができる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の本発明による建設機械によれば、可変容量型ピストンポンプの回転軸表面の一部に形成された磁気的変質部と、同磁気的変質部に所定間隔をもって対向配置され、前記建設機械の運転中、前記回転軸に作用する吸収トルクを電気信号として検出するセンサーを含む検出ユニットと、前記検出ユニットからの信号に基づいて前記ポンプの斜板傾転角位置を制御する油圧サーボユニットとを備えているので、吸収トルクを直接且つ非接触で電気信号として検出でき、従来のようにポンプ吐出圧から理論吐出量Vthを導きさらに構成部品のばらつきを考慮して安全側に選択・決定することによる理論双曲線との乖離を可級的に少なくすることができる。
【0024】
また、請求項2に記載の本発明による建設機械によれば、前記油圧サーボユニットは、前記検出ユニットからの電気信号を電流増幅する増幅器と、同増幅器出力に応答して前記サーボユニットのスプールの一端部を押圧変位させる電磁比例ソレノイドとを備えているので、請求項1の効果に加え、さらに、油圧サーボユニットの油圧回路構成を簡単にすることができる。さらに、請求項3に記載の本発明による建設機械によれば、前記磁気的変質部は、前記ポンプのケーシング内側に配置されているので、前記ポンプの軸方向長さを従来の装置に比べ長くなることがない。
【0025】
さらにまた、請求項4に記載の本発明による建設機械によれば、前記磁気的変質部は、前記回転軸の軸方向所定長さでその円周全体に強磁性体領域として形成されているので、前記強磁性体領域に対向配置された一対のセンサーは当該軸に作用する吸収トルクを磁束変化として非接触で直接検出し電気信号として取り出すことが可能であり、また、前記強磁性体領域の強磁性特性は使用により変化がなく、半永久的なセンサーを構成するものである。
【0026】
また、請求項5に記載の本発明による建設機械によれば、前記磁気的変質部は、レーザ光線の照射により所定幅で前記回転軸の軸方向に所定長さの筋状非磁性体領域として形成されているので、同筋状非磁性体領域に対向配置される一対のセンサーは、回転方向に通過する筋状非磁性体領域の有無を検出するだけでよく、前記強磁性体領域に対向配置された一対のセンサーよりも検出構造が簡単であり、また、前記筋状非磁性体領域は単にレーザ光線を軸方向に沿って照射するだけでよいので、前記強磁性体領域を形成する場合に比べ製造が簡単であり、且つ高精度に形成することができる。
【0027】
また、請求項6に記載の本発明による建設機械によれば、前記筋状非磁性体領域は、前記回転軸の外周に等間隔で複数形成されているので、各筋状非磁性体領域の検出時間間隔から回転軸の回転速度を算出することができ、それにより回転速度が変化した場合でも、一対のセンサーからのパルス波形の位相差を正しく検出することができる。
【0028】
また、請求項7に記載の本発明による建設機械によれば、前記検出ユニットのセンサーは、前記回転軸の回転方向に通過する前記筋状非磁性体領域の有無をパルス波形として検出するものであって回転軸方向に所定間隔を設けて第1のセンサーと第2のセンサーとが配置されており、前記検出ユニットには前記第1および第2のセンサーの前記パルス波形の位相差を、前記回転軸に作用する吸収トルクに対応した回転軸の捩り量として検出する手段を備えているので、第1センサーと第2センサーとの前記軸方向の間隔は適宜な距離を隔てることが可能であり、その距離を大きくすることで検出精度・分解能を向上することが可能であり、また、軸受け等の存在により一対のセンサーの隣接配置が制約される場合でも容易に対処できる。
【0029】
また、請求項8に記載の本発明による建設機械によれば、前記第1のセンサーと第2のセンサーは、円周方向においてずらして配置されているので、回転停止状態での前記回転軸に与えられる捩り量を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】原動機によって回転駆動される可変容量型ピストンポンプの軸方向断面を示す図である。
【図2】油圧サーボユニットSVとパワーピストンユニットPWの部分を拡大して示す図である。
【図3】油圧サーボユニットのスプール位置に応じた自己圧ポートおよびパワーシリンダピストン室への連通状態を説明する図であって、(a)は平衡状態のスプール位置を示し、(b)は設定トルクを超えたときのスプール位置を示し、(c)は、設定トルク過小のときのスプール位置をそれぞれ示す。
【図4】磁気的変質部の他のとして、回転軸表面の軸方向に形成した筋状非磁性体領域を示す図である。
【図5】図4に示す回転軸の円周面を平面状に展開した一部の筋状非磁性体領域を示し、(a)は、回転軸に捩りモーメント、すなわち、トルクが作用していない状態、(b)は、回転軸に捩りモーメント、すなわち、トルクが作用している状態を示す。
【図6】回転軸が矢視の方向へ回転している場合、筋状非磁性体領域が各センサーを通過するとき検出される磁束の変化をパルス状の電気信号として示す波形図である。
【図7】回転軸を回転させないで捩りを与えた場合のトルクとの関係を測定する場合の例を説明する図であって、(a)は、トルクがない状態で、各センサーが回転方向に距離dずらして配置した場合で、且つ筋状非磁性体領域の幅の間に両センサーの検知部が存在するように設けられた例であり、(b)は、(a)においてトルクがある状態での検知部を示す。
【図8】一般的な可変容量型ポンプの特性を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態に基づく実施例について添付図面の図1乃至図7を参照して詳細に説明する。
【0032】
図1は、原動機10によって回転駆動される可変容量型ピストンポンプPMの軸方向断面図を示す。原動機10には、通常、ディーゼルエンジンを用いたものが使用されるが、電動機であってもよい。参照符号12は原動機10の駆動軸、参照符号12aはカップリング部であって、前記ポンプPMの回転軸(被駆動軸)14とスプライン結合されている。前記ポンプPMは、機能的に分けると、ケーシング16とその左端側の前蓋16aおよび右端側の後蓋16bにより囲まれた内部に形成された前記回転軸14を含む回転機構と、この回転機構の回転量を指定する斜板18および同斜板18の傾転角を制御するパワーピストンユニットPWと、同パワーピストンユニットPWに対し所定の圧油を供給する油圧サーボユニットSVとを備えている。
【0033】
前記回転機構の詳細は、当該分野ではよく知られているが、ここではその主要部分について説明する。すなわち、斜板18の右側で、回転軸14の外周面にはスプライン38が形成されており、このスプライン38と係合するメスのスプラインを形成したシリンダケース40が配置されている。このシリンダケース40内には複数のピストンPSが円周状に等配置されており、各ピストンPSの右端部の油室CHには給排プレート108を介して作動油が給排されるようになっている。
【0034】
各ピストンPSの左端頭部は、斜板18と摺動可能に接するシュー110内で摺接可能に嵌まり込んでおり、したがって、シュー110はシリンダケース40と共に回転するようになっている。なお、参照符号BR1,BR2は回転軸14の軸受けである。
【0035】
前記斜板18は、その上下部分において左端頭部が嵌まり込んだロッドrd1、rd2と結合されている。下側のロッドrd2の右端部は、蓋16bに形成された孔内で摺動可能なピストンRE36と接触しており、またこのピストンRE36は右端面をばね36aで左方へ付勢されている。ばね36aの配置された孔にはポンプPMの吐出口である自己圧ポート34からの圧油が破線通路104を介して供給されている為、斜板18は常に時計方向に傾転、すなわち吐出量が常に最大となるように構成されている。
【0036】
一方、上側のロッドrd1の右端部は蓋16bに形成された孔内で摺動可能なパワーピストン32と接触しており、またこのパワーピストン32の右端面はピストン室30に臨んでおり、同室内の圧力に応じた油圧力で左方へ付勢される。
なお、パワーピストン32の断面積は、下側のピストンRE36の断面積より大きくされている為、ピストン室30の圧力が吐出圧より低い制御圧においても充分制御可能となるよう構成されている。
【0037】
前記後蓋16bの上面には油圧サーボユニットSVが搭載されている。この油圧サーボユニットSVにはドレン用の破線で示す通路100と、自己圧ポート34からの破線で示す通路102、および前記ピストン室30と連通する通路106が設けられている。
【0038】
油圧サーボユニットSV内にはスリーブ20内で軸方向に摺動可能に配置されたスプール22が設けられ、同スプール22の右端側にはばね24が配置され、スプール22を常時左方へ付勢している。また、スプール22の左端側は、電磁ソレノドSLの駆動ピンSPにより押圧されるようになっている。
【0039】
参照符号PAは、前記電磁ソレノドSLへの駆動電力を供給する電力増幅部であって配線L3を介して必要とする電力が供給される。
【0040】
参照符号Sは回転軸14の捩りに対応する吸収トルクとして配線L1を介して電気信号で検出するセンサー、参照符号CTは、その制御回路であり、同制御回路CTの出力信号は配線L2を介して前記電力増幅部PAに与えられる。本発明ではこれらセンサーSおよび制御回路CTを併せて吸収トルクの検出ユニットと称する。
【0041】
前記センサーSは、回転軸14の外周面に形成されている磁気的変質部MDに非接触で対向して配置されており、回転軸14に作用する吸収トルクが発生するとそれに対応した前記磁気的変質部MDの磁束の分布や密度の変化を検出するものである。
【0042】
回転軸に作用するトルクを電気的に検出するための、このような磁気的変質部MDの例が、特表2007−517205号公報で紹介されている。
【0043】
そこでは、センサー素子の長手方向に沿った第一方向に第一電流が流れるように加えられ、そして、第一電流パルスを加えることによって、センサー素子には、磁気的にエンコードされた強磁性体の領域が生成されるものである。
【0044】
また、回転軸に作用するトルクを検出するのに適したものとして、米国特許第5052232号明細書には、軸の円周方向表面に強磁性体の層を形成することが開示されている。これらにおいては、いずれも非接触で、当該強磁性体の層に対向するセンサーが配置され、トルクに対応する電気信号が生成されるようになっている。
【0045】
本発明では、これら特表2007−517205号公報、および米国特許第5052232号明細書に記載された内容をここに引用し、取り込むことにより、本発明における磁気的変質部MDの一例がそうした製造方法により製造されたものとする。したがって、その詳細な内容については、記載を省略する。
【0046】
図2は、油圧サーボユニットSVとパワーピストンユニットPWの部分を拡大して示す。
【0047】
同図において、参照符号20aはスリーブ20に形成された横穴、参照符号22aはスプール22の径小部である。
【0048】
図3は、油圧サーボユニットSVのスプール22の位置に応じた自己圧ポート34およびピストン室30への連通状態を説明する図である。同図で(a)は平衡状態のスプール位置を示し、(b)は設定トルクを超えたときのスプール位置を示し、(c)は、設定トルク過小のときのスプール位置を示す。
【0049】
同図3において、(a)は、回転軸14の吸収トルクTQと設定トルクが平衡状態のときのソレノイドピンSPの位置に対応してスプール22がばね24の左方への付勢力とバランスしており、この場合、自己圧ポート34からの通路102は径小部22aに達するがスリーブ20の横穴20aとは近接しているものの連通していないため、ピストン室30に圧油は供給されない。
【0050】
一方、(b)においては、吸収トルクTQが設定したトルクを超えて発生した状態であって、ソレノイドピンSPは(a)の状態よりも右方へ変位している。この状態では、自己圧ポート34からの通路102は径小部22aに達し、さらに、スリーブ20の横穴20aと連通し、ピストン室30に圧油が供給される。その結果、ロッドrd1はパワーピストン32により左方へ変位させられ、斜板18を傾転させる。そして、斜板18の傾転によりポンプPMの吐出口からの流量が減少することにより吸収トルクが減少されると、センサーSからの検出信号は低下し、設定したトルクとなるので、ソレノイドピンSPは(a)のバランス状態に戻り、前記横穴20aと径小部22aとの連通が阻止される。
【0051】
また、(c)においては、設定トルクよりも吸収トルクが過少となる場合であって、(b)とは逆に、ソレノイドピンSPは(a)のバランス状態のときの位置よりも左方へ引っ込む。この場合は、径小部22aは横穴20aとの連通が遮断されたままであり、さらに、ピストン室30の圧油が通路106を介して横穴20aからスプール22の中心部に設けられた小孔を通じ、ばね24が配置されドレンに通じている室24aに導かれる。したがって、ピストン室30の圧力は低下し、その結果、図1の下側のロッドrd2の付勢が優勢となり、その後、ソレノイドピンSPはバランス位置に戻る。
【0052】
図4は、図1で説明した磁気的変質部MDとして、強磁性体領域を回転軸の円周面に形成したもの(特表2007−517205号公報、および米国特許第5052232号明細書に開示されたもの)とは異なり、磁気的変質部MDの他の例として、非磁性体の筋状領域を回転軸の軸方向に形成するものである。
【0053】
同図4において、回転軸14の表面には、軸方向に筋状の磁気的変質部MD1、MD2・・・MD4が形成されている。磁気的変質部MDは1個でもよいが、後述のように、複数個が角度θで等配状に設けられていてもよく、また、MD4として例示するように、同一線上で且つ不連続であってもよい。
【0054】
一般に、ポンプPMの回転軸14の材質は磁性体の鋼材であり、前記磁気的変質部MDは、比較的高エネルギーを有するレーザ光線等を照射することによって磁気的な変質部を当該回転軸表面の照射部に形成する。この場合、照射された領域は、周辺の磁性体材質から、非磁性体となり、磁気的な変質部を生成するものである。
【0055】
こうした技術は、特公平6−76894号公報に開示されている。同特公平6−76894号公報では、軸方向の位置を検出するためのスケールを形成するため、軸外周面にリング状にレーザ光線を照射した例が示されているが、本発明では、軸方向表面に筋状の非磁性体領域を形成する。
【0056】
図5は、図4示す回転軸14の円周面を平面状に展開した一部の筋状非磁性体領域MD1、MD2を示す。同図(a)は、回転軸14に捩りモーメント、すなわち、トルクが作用していない状態であって、四角で示すものは、センサーS1、S2の磁束検知領域である。
【0057】
参照符号LはセンサーS1、S2の距離、参照符号Zは筋状非磁性体領域MD1、MD2の間隔である。同図(b)は、回転軸14に捩りモーメント、すなわち、トルクが作用している状態を示す。
【0058】
図6は、回転軸14が矢視Rの方向へ回転している場合、筋状非磁性体領域MD1が各センサーS1、S2を通過するとき検出される磁束の変化をパルス状の電気信号として示す。すなわち、同図において、センサーS1からは、時刻t1でMD1の到来を検知しパルス波形が立ち上がり、時刻t3で立ち下がる。一方、センサーS2では、トルクがないとき、鎖線で示すようにセンサーS1のパルス波形と同時てきであるが、トルクがあるときは、時刻t2で波形が立ち上がり、時刻t4で立ち下がる。
【0059】
この場合、時刻t1とt2との立ち上がりの時間差Tすなわち、波形位相差を高周波数のクロックパルスを内挿することによって、当該クロックパルスの数Nとして制御回路CT(図1参照)に設けられたカウンター等で計数することができる。なお、回転軸14の回転速度が変化する場合は、同一トルクでも前記個数Nは変化するので、Nは、回転速度に反比例する。回転速度は、時刻t5で次の筋状非磁性体領域MD2を検出するまでの時間間隔(t5−t1)に基づいて定めることができる。あるいは、波形間隔(t3−t2)に基づいて定めることができる。
【0060】
回転軸14に作用するトルクは、原動機10、ポンプPMが運転中であり、静止状態ではトルクの発生はないと考えられる。しかしながら、較正を行う場合や、回転軸14をポンプPMに組み付ける前に、予め回転軸の捩り特性としてテストしたい場合があり、そのような場合、すなわち、回転軸14を回転させないで捩りを与えた場合のトルクとの関係を測定する場合の例を図7に示す。
【0061】
図7において、(a)は、トルクがない状態で、センサーS1、S2が回転方向に距離dずらして配置した場合で、且つ筋状非磁性体領域MD1の回転方向の幅hの間に両センサーS1、S2の検知部S1a、S2aが存在するように設けられた例である。(b)は、(a)においてトルクがある状態で、検知部S1a、S2aを示す。
【0062】
前記(a)、(b)から分かるように、(a)では、S1a=S2aの場合、その差はゼロであるが、(b)ではS2a>S1aとなり、その差を磁束の変化として電気信号で取り出すことが可能である。
【0063】
以上を要約すれば、従来の建設機械の油圧パワーショベル等におけるディーゼルエンジンで駆動される油圧ポンプでは、油圧ポンプの吐出圧力を圧カセンサーでセンシングし、圧力に応じて油圧ポンプの斜板傾転角或いは軸傾転角を変化させ吸収トルクがエンジントルクを超えないように調整している。一般に圧力に応じた油圧ポンプの傾転角は同一形格品でも個々にバラツキが発生する。負荷の増大によるエンジンストールは致命的な機能欠陥となるため前述のバラツキを考慮し油圧ポンプの吸収トルクはエンジンの最大出力を下回ったところで設定されているため、当該エンジンの最大出力全てを油圧エネルギーに変換することができなかった。しかし、本発明によれば、吸収トルクを電気信号で直接検出することとなり、こうした問題が解決され、エンジンの最大出力全てを油圧エネルギーに変換することができるようになった。
【0064】
またエンジンは経年変化或いは環境条件により最大出力が変化し、出力が低下する場合ではエンジンストール回避の為油圧ポンプの吸収トルクを再設定する必要があった。
【0065】
これに対し、本発明では、電力増幅部にエンジンからの信号を入力することで、ポンプの吸収トルクを容易に変更することがプログラム等により可能であり、さらにまた、エンジンの最大出力が低下し、エンジンストールの兆候が現れた段階で、油圧ポンプの吸収トルクを変更することも組み込みプログラムに学習機能を持たせることにより容易に可能となり、メンテナンスの向上を達成することとなる。
【0066】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、当業者であれば上述した実施例に基づいて種々の変形をすることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 原動機
12 駆動軸
12a カップリング部
14 回転軸
16 ケーシング
16a、16b 蓋
18 斜板
20 スリーブ
20a 横穴
22 スプール
22a 径小部
24 ばね
24a 室
30 ピストン室
32 スリーブ
34 自己圧ポート
36 スリーブ
36a ばね
38 スプライン
40 シリンダケース
100 ドレン
102 通路
104 通路
106 連通路
108 給排プレート
110 シュー
BR1、BR2 軸受
CH 室
CT 制御回路
PW パワーピストンユニット
L1、L2、L3 配線
MD 磁気的変質部
MD1、MD2、MD3、MD4 筋状非磁性体領域
PA 電力増幅部
PM 可変容量型ピストンポンプ
rd1、rd2 ロッド
S センサー
SL リニアソレノイド
SP ソレノイド駆動ピン
SV 油圧サーボユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機に結合された可変容量型ピストンポンプの回転軸に作用する捩りを吸収トルクに対応する物理量として直接検出し作業効率を高める建設機械であって、
前記回転軸表面の一部に形成された磁気的変質部と、
同磁気的変質部に所定間隔をもって対向配置され、前記建設機械の運転中、前記回転軸に作用する吸収トルクを電気信号として検出するセンサーを含む検出ユニットと、
前記検出ユニットからの信号に基づいて前記ポンプの斜板傾転角位置を制御する油圧サーボユニットと、からなる建設機械。
【請求項2】
前記油圧サーボユニットは、前記検出ユニットからの電気信号を増幅する電力増幅部と、同増幅部出力に応答して前記油圧サーボユニットのスプールの一端部を押圧変位させる電磁比例ソレノイドと、からなることを特徴とする請求項1に記載された建設機械。
【請求項3】
前記磁気的変質部は、前記ポンプのケーシング内側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載された建設機械。
【請求項4】
前記磁気的変質部は、前記回転軸の軸方向所定長さでその円周全体に強磁性体領域として形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載された建設機械。
【請求項5】
前記磁気的変質部は、レーザ光線の照射により所定幅で前記回転軸の軸方向に所定長さの筋状非磁性体領域として形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載された建設機械。
【請求項6】
前記筋状非磁性体領域は、回転軸の外周に等間隔で複数形成されていることを特徴とする請求項5に記載された建設機械。
【請求項7】
前記検出ユニットのセンサーは、前記回転軸の回転方向に通過する前記筋状非磁性体領域の有無をパルス波形として検出するものであって回転軸方向に所定間隔を設けて第1のセンサーと第2のセンサーとが配置されており、前記検出ユニットには前記第1および第2のセンサーの前記パルス波形の位相差を、前記回転軸に作用する吸収トルクに対応した回転軸の捩り量として検出する手段を備えていることを特徴とする請求項5または6に記載された建設機械。
【請求項8】
前記第1のセンサーと第2のセンサーは、円周方向においてずらして配置されていることを特徴とする請求項7に記載された建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−168974(P2010−168974A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11463(P2009−11463)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】