説明

手術用マニピュレータ及び手術用マニピュレータシステム

【課題】 少ないアクチュエータの数でワイヤの張力調整を行うこと。
【解決手段】 手術用マニピュレータ11は、その先端側でピッチ方向に回転可能な支持体19と、ヨー方向にそれぞれ独立して回転可能となるように支持体19に支持された第1及び第2の先端プーリ21,22と、プーリ21,22にそれぞれ一体化された第1及び第2のブレード24,25と、第1のプーリ21に固定された第1及び第2のワイヤ51,52と、第2のプーリ22に固定された第3及び第4のワイヤ53,54と、第1〜第4のワイヤ51〜54を押し引きする第1〜第4のモータ56〜59とを備えている。第1及び第2のワイヤ51,52は、引張力が作用したときに、相反する方向に第1の先端プーリ21を回転させ、第3及び第4のワイヤ53,54は、引張力が作用したときに、相反する方向に第1の先端プーリ22を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤの牽引によって先端側が動作する手術用マニピュレータ及び手術用マニピュレータシステムに係り、更に詳しくは、少ないアクチュエータで前記ワイヤの張力調整が可能になる手術用マニピュレータ及び手術用マニピュレータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者の精神的負担や身体的負担を軽減する低侵襲手術が注目されている。この低侵襲手術は、内視鏡と、メスや鉗子等の手術器具とを皮膚組織に開けられた穴から体内の患部に向けて挿入し、手術者である医師が内視鏡画像をモニターで見ながら、体外側から前記手術器具を遠隔操作することにより、患部の処置を行う手術である。近時においては、ロボット技術を駆使して前記手術器具を高精度に動作させるマニピュレータが研究開発されている。
【0003】
ここで、前記マニピュレータとしては、ワイヤを使って先端側の手術器具に所定動作を行わせるワイヤ式の伝達機構を備えたものが知られている(特許文献1参照)。この伝達機構は、鉗子として機能する先端側のエンドエフェクタと、エンドエフェクタに連なる筒体と、エンドエフェクタの動力源となるモータと、当該モータの駆動軸に連動して回転するプーリと、前記筒体及びプーリに掛け回されるワイヤとからなる。この伝達機構では、モータが回転すると、プーリの回転によりワイヤを介して筒体が回転する。従って、当該筒体の回転に連動してエンドエフェクタが所定の動作をすることになる。ここで、エンドエフェクタの1自由度の動作につきモータ1個が必要となり、前記特許文献1のマニピュレータは、エンドエフェクタが3自由度で動作可能になっていることから、ワイヤ3本の動作をモータ3個の駆動で行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−50288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1のマニピュレータにあっては、エンドエフェクタで硬いものを把持したような場合等、ワイヤに強い引張力が作用すると、当該ワイヤが弾性により伸長変形してしまうという不都合がある。このようにワイヤが伸長変形すると、当該ワイヤが当初よりも弛みが生じた状態でプーリ及び筒体に掛け回されることになるため、所望の出力でモータを駆動させても、予め設定されたエンドエフェクタの目標動作量が得られず、エンドエフェクタを高精度に動作させられなくなる。従って、このような場合には、マニピュレータを分解して新たなワイヤに交換する煩雑な作業が必要になる。
【0006】
ところで、モータに連動するプーリにワイヤを掛け回さずに、エンドエフェクタが連なる筒体に掛け回されたワイヤの両端それぞれに、モータを取り付ければ、当該モータでワイヤを直接引っ張ることができ、ワイヤを交換することなくワイヤの張力調整が可能になる。しかしながら、このようにすると、エンドエフェクタの1自由度の動作につき、2個のモータが必要になり、エンドエフェクタが3自由度で動作する前記マニピュレータでは、モータが合計6個必要になる。従って、当該モータが前記特許文献1の構造に対して倍増してしまい、装置全体の大型化及び機構の複雑化を招来することになる。
【0007】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、少ないアクチュエータの数でワイヤの張力調整を行うことができる手術用マニピュレータ及び手術用マニピュレータシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、先端側に位置して所定の動作をする先端部と、当該先端部を支持する本体と、前記先端部を動作させる駆動手段とを備えた手術用マニピュレータにおいて、
前記先端部は、ピッチ方向に回転可能となるように前記本体に連結された支持体と、ヨー方向にそれぞれ独立して回転可能となるように前記支持体に支持された第1及び第2の回転体と、前記第1の回転体に一体化された第1のブレードと、前記第2の回転体に一体化された第2のブレードとを備え、
前記駆動手段は、前記第1の回転体に固定された第1及び第2のワイヤと、前記第2の回転体に固定された第3及び第4のワイヤと、前記第1のワイヤをその延出方向に移動させる第1のアクチュエータと、前記第2のワイヤをその延出方向に移動させる第2のアクチュエータと、前記第3のワイヤをその延出方向に移動させる第3のアクチュエータと、前記第4のワイヤをその延出方向に移動させる第4のアクチュエータとを備え、
前記第1及び第2のワイヤは、何れか一方に引張力が作用したときと、何れか他方に引張力が作用したときとで、前記第1の回転体を相互に逆方向に回転させるように配置され、
前記第3及び第4のワイヤは、何れか一方に引張力が作用したときと、何れか他方に引張力が作用したときとで、前記第2の回転体を相互に逆方向に回転させるように配置され、
前記第1〜第4のアクチュエータが、前記第1〜第4のワイヤを選択的に押し引きするように駆動することで、前記第1及び第2のブレードが相互に離間接近する開閉動作と、前記第1及び第2のブレードが一体的にヨー方向に回転する横回転動作と、前記第1及び第2のブレードが一体的にピッチ方向に回転する縦回転動作とからなる動作のうちの何れが生じる構造を有する、という構成を採っている。
【0009】
(2)また、引張力が、前記第1及び第4のワイヤのみに作用し、若しくは、前記第2及び第3のワイヤのみに作用すると、前記開閉動作が生じ、
引張力が、前記第1及び第3のワイヤのみに作用し、若しくは、前記第2及び第4のワイヤのみに作用すると、前記横回転動作が生じ、
引張力が、前記第1及び第2のワイヤのみに作用し、若しくは、前記第3及び第4のワイヤのみに作用すると、前記縦回転動作が生じる構造を有する、という構成を採っている。
【0010】
(3)更に、本発明は、前記手術用マニピュレータを用いた手術用マニピュレータシステムであって、
前記手術用マニピュレータと、当該手術用マニピュレータの動作を制御する制御装置とを備え、
前記駆動手段は、前記第1〜第4のワイヤと前記第1〜第4のアクチュエータとの間にそれぞれ設けられて前記各ワイヤの張力を測定する張力センサを更に備え、
前記制御装置は、前記張力センサで測定された各ワイヤの張力値が不適切な場合に、前記アクチュエータの駆動を制御して、前記各ワイヤを適切な張力値に調整する張力調整部を含む、という構成を採っている。
【0011】
(4)また、本発明は、前記手術用マニピュレータを用いた手術用マニピュレータシステムであって、
前記手術用マニピュレータと、当該手術用マニピュレータの動作を制御する制御装置とを備え、
前記駆動手段は、前記第1〜第4のワイヤと前記第1〜第4のアクチュエータとの間にそれぞれ設けられて前記各ワイヤの張力を測定する張力センサを更に備え、
前記制御装置は、前記先端部の動作の目標値が入力される入力部と、当該入力部からの目標値に応じて前記第1〜第4のアクチュエータの駆動を制御する動作制御部とを備え、
前記動作制御部は、前記張力センサで測定した前記各ワイヤの張力値から当該各ワイヤの伸長変形量を求め、当該伸長変形量に基づき、前記目標値に応じて決定された前記各アクチュエータの出力を補正する補正機能を含む、という構成を採っている。
【0012】
なお、本明細書及び本特許請求の範囲において、「ピッチ軸」とは、図4の姿勢におけるブレード24,25が同図中上下方向に回転運動するための支点となる軸を意味し、当該軸回りの回転方向を「ピッチ方向」と称する。「ヨー軸」とは、図4の姿勢におけるブレード24,25が同図中紙面直交方向に回転運動するための支点となる軸を意味し、当該軸回りの回転方向を「ヨー方向」と称する。
【0013】
また、本明細書及び本特許請求の範囲において、特に明記しない限り、「前」若しくは「先」とは、患部の処置をする器具が存在する手術用マニピュレータの一端側を意味し、「後」とは、その反対側を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の手術用マニピュレータの構造では、第1及び第2のブレードを動作させるための第1及び第2の回転体にワイヤがそれぞれ2本ずつ固定されており、そのうちの1本を動かさずに他の1本をアクチュエータで引っ張ることで、各ワイヤの張力調整を行うことができる。従って、4個のアクチュエータで、先端部の3自由度の動作と各ワイヤの張力調整とを行うことができ、ワイヤの張力調整を実現するために増加させるアクチュエータ数を抑えることができ、装置全体の大型化や機構の複雑化を回避することが可能になる。
【0015】
特に、前記(4)の構成によれば、先端部の動作中にワイヤが伸長変形した場合でも、当該ワイヤの変形量を考慮して各アクチュエータの出力が補正されるため、ワイヤの伸長変形に拘らず、操作者が操作した通りに先端部を正確に動作させることができ、当該動作精度を均一に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る手術用マニピュレータシステムの概略構成を表すブロック図。
【図2】手術用マニピュレータの概略斜視図。
【図3】前記手術用マニピュレータの先端側部位の拡大斜視図。
【図4】前記先端側部位の一部断面側面図。
【図5】前記先端側部位の一部断面平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1には、本実施形態に係る手術用マニピュレータシステムの概略構成を表すブロック図で示されている。この図において、前記手術用マニピュレータシステム10は、操作者からの指令に基づいて先端側部位が動作する手術用マニピュレータ11と、この手術用マニピュレータ11の動作を制御する制御装置12とを備えて構成されている。
【0019】
本実施形態において、前記手術用マニピュレータ11は、先端側部位が鉗子として動作可能な鉗子ロボットとして機能する。この手術用マニピュレータ11は、図2に示されるように、先端側に位置して所定の動作をする先端部14と、当該先端部14を支持する本体15と、先端部14を動作させる駆動手段17とを備えて構成されている。
【0020】
前記先端部14は、図3〜図5に示されるように、ピッチ方向に相対回転可能となるように本体15の先端側に連結された支持体19と、ヨー方向にそれぞれ独立して回転可能となるように支持体19に支持された第1及び第2の回転体としての第1及び第2の先端プーリ21,22と、第1の先端プーリ21に一体化されて当該第1の先端プーリ21に連動する第1のブレード24と、第2の先端プーリ22に一体化されて当該第2の先端プーリ22に連動する第2のブレード25とを備えている。
【0021】
前記支持体19は、図4中側面視ほぼコ字状のフレーム27と、当該フレーム27に固定され、各先端プーリ21,22及び各ブレード24,25を支持する支持軸28とからなる。
【0022】
前記フレーム27は、図4中上下両側に相対配置された一対の自由端部30,30と、これら自由端部30,30の後端間に連なる基端部31とからなる。
【0023】
前記支持軸28は、その両端側が各自由端部30,30の相対面となる内面に相対回転しないように固定されており、各自由端部30,30間に形成される空間内において、図4中上下方向に延びるヨー軸Yに沿って配置される。
【0024】
前記第1及び第2の先端プーリ21,22は、それぞれ各自由端部30,30に近接する図4中上下位置で支持軸28に相対回転可能に支持されている。
【0025】
前記第1のブレード24は、長片状の先端部分24Aと、先端部分24Aの後端側に連なる円盤状の基端部分24Bとからなる。基端部分24Bは、第1の先端プーリ21の図4中下端側に相対回転しないように固定されるとともに、支持軸28に相対回転可能に支持されている。従って、第1の先端プーリ21が支持軸28を中心に回転すると、第1のブレード24の先端部分24Aは、支持軸28(ヨー軸Y)回りに回転動作し、図4中紙面直交方向となるヨー方向に回転変位することになる。
【0026】
前記第2のブレード25は、図5に示されるように、第1のブレード24の先端部分24Aと同一形状で並列に対称配置された先端部分25Aと、先端部分25Aの後端側に連なる円盤状の基端部分25Bとからなる。基端部分25Bは、図4に示されるように、第1のブレード24の基端部分24Bと第2の先端プーリ22との間に配置され、当該第2の先端プーリ22に対して回転しないように固定されるとともに、支持軸28に相対回転可能に支持されている。従って、第2の先端プーリ22が支持軸28を中心に回転すると、第2のブレード25の先端部分25Aは、第1のブレード25と同様に、ヨー方向に回転変位することになる。
【0027】
前記本体15は、図2及び図3に示されるように、丸棒状のロッド33と、当該ロッド33の先端側に設けられ、前記先端部14に動力を伝達するための伝達機構34とを備えている。
【0028】
前記ロッド33は、内部空間Sが形成された中空の筒状となっており、その先端側には、相対する一対の連結片36,36が先端部14に向かって突出するように設けられている。
【0029】
前記伝達機構34は、連結片36,36の間における図5中左右2箇所に掛け渡された2本の軸部材38,39と、先端側に位置する軸部材38に相対回転しないように固定支持された4個の中間プーリ41,42,43,44と、後側の軸部材39に相対回転しないよう固定支持された不能に支持された4個の後側プーリ46,47,48,49とを備えている。
【0030】
各軸部材38,39は、図5中上下方向に延びるピッチ軸Pに沿って配置されている。ここで、先端側の軸部材38には、中間プーリ41,42と中間プーリ43,44との間に、支持体19の基端部31が相対回転可能に支持されている。このため、支持体19は、先端側の軸部材38の軸線となるピッチ軸Pの回りに回転動作可能に本体15に連結されることになり、当該回転運動により、先端部14全体が、本体15に対して図5中紙面直交方向すなわちピッチ方向に回転変位するようになっている。
【0031】
前記駆動手段17は、第1の先端プーリ21に固定された第1及び第2のワイヤ51,52と、第2の先端プーリ22に固定された第3及び第4のワイヤ53,54と、第1のワイヤ51に繋がる第1のアクチュエータとしての第1のモータ56と、第2のワイヤ52に繋がる第2のアクチュエータとしての第2のモータ57と、第3のワイヤ53に繋がる第3のアクチュエータとしての第3のモータ58と、第4のワイヤ54に繋がる第4のアクチュエータとしての第4のモータ59と、第1〜第4のワイヤ51〜54と第1〜第4のモータ56〜59との間にそれぞれ設けられ、各ワイヤ51〜54の張力を測定する張力センサ62とを備えている。
【0032】
前記第1〜第4のワイヤ51〜54は、先端部14から内部空間Sを通って各モータ56〜59に繋がっている。
【0033】
前記第1及び第2のワイヤ51,52は、その一端側が第1の先端プーリ21の最先端側に位置する固定部66で固定されている。また、前記第3及び第4のワイヤ53,54は、その一端側が第2の先端プーリ22の最先端側に位置する固定部67で固定されている。
【0034】
ここで、第1のワイヤ51は、図5に示されるように、第1の先端プーリ21における第1のブレード24側の周面に掛け回された上で、図5中上から3番目の中間プーリ43における同図中表側の周面に相対移動可能に掛け回されるとともに、同図中上から3番目の後側プーリ48における同図中裏側の周面に相対移動可能に掛け回されて、他端側が第1のモータ56に繋がる。
【0035】
また、第2のワイヤ52は、第1の先端プーリ21における第2のブレード25側の半周面に掛け回された上で、図5中上から1番目の中間プーリ41における同図中表側の半周面に相対移動可能に掛け回されるとともに、同図中上から1番目の後側プーリ46における同図中裏側の周面に相対移動可能に掛け回されて、他端側が第2のモータ57に繋がる。
【0036】
更に、第3のワイヤ53は、図5中裏側の第2の先端プーリ22における第1のブレード24側の周面に掛け回された上で、図5中上から4番目の中間プーリ44の同図中裏側の周面に相対移動可能に掛け回されるとともに、同図中上から4番目の後側プーリ49の同図中表側の周面に相対移動可能に掛け回されて、他端側が第3のモータ58に繋がる。
【0037】
また、第4のワイヤ54は、第2の先端プーリ22における第2のブレード25側の周面に掛け回された上で、図5中上から2番目の中間プーリ42における同図中裏側の周面に相対移動可能に掛け回されるとともに、同図中上から2番目の後側プーリ47における同図中表側の周面に相対移動可能に掛け回されて、他端側が第4のモータ59に繋がる。
【0038】
前記第1〜第4のモータ56〜59は、直動式モータであり、図2に示されるように、手術用マニピュレータ11の後端側にまとめて設けられている。これらモータ56〜59は、制御装置12による駆動制御に基づき、各ワイヤ51〜54を延出方向に移動させるようになっている。
【0039】
なお、各ワイヤ51〜54を押し引きできる限りにおいて、第1〜第4のモータ56〜59の代わりに、他のアクチュエータを採用することもできる。
【0040】
前記張力センサ62は、使用前に各ワイヤ51〜54の張力を測定し、当該測定値を制御装置12に送るようになっている。
【0041】
前記制御装置12は、ハードウェア及びソフトウェアによって構成され、CPU等の演算処理装置、メモリやハードディスク等の記憶装置、及びこれら各装置を機能させるプログラムモジュール等から成り立っている。具体的に、制御装置12は、先端部14の動作の目標値が入力される入力部69と、当該入力部69からの目標値に応じて各モータ56〜59の駆動を制御する動作制御部70と、各張力センサ62で測定された各ワイヤ51〜54の張力値が不適切な場合に、各モータ56〜59の駆動を制御することで、各ワイヤ51〜54を適切な張力値に調整する張力調整部71とを備えている。
【0042】
次に、前記手術用マニピュレータ10の動作について説明する。
【0043】
第1及び第2のモータ56,57により、第1及び第2のワイヤ51,52が同速度で後側に引かれると、当該各ワイヤ51,52がそれぞれ固定された図4中上側の第1の先端プーリ21が同図中右下方向への引張力が作用する。これにより、先端部14は、先端側の軸部材38を支点として図4中時計回りに回転変位する。なお、この際、第3及び第4のワイヤ53,54は、第3及び第4のモータ58,59により、同速度で前側に押される。
【0044】
逆に、第3及び第4のモータ58,59により、第3及び第4のワイヤ53,54が同速度で後側に引かれると、当該各ワイヤ53,54が固定された図4中下側の第2の先端プーリ22が同図中右上方向への引張力が作用する。これにより、先端部14は、前述と逆に、軸部材38を支点として図4中半時計回りに回転変位する。なお、この際、第1及び第2のワイヤ51,52は、第1及び第2のモータ56,57により、同速度で前側に押される。
【0045】
すなわち、引張力が、第1及び第2のワイヤ51,52のみに作用し、若しくは、第3及び第4のワイヤ53,54のみに作用すると、第1及び第2のブレード24,25が一体的にピッチ方向に回転する縦回転動作が生じることになる。
【0046】
また、第1及び第2のモータ56,57により、第1又は第2のワイヤ51,52の何れか一方のみが後側に引かれると、第1のブレード24が支持軸28を支点としてヨー方向に回転動作する。すなわち、第1のワイヤ51が後側に引かれる一方で、第2のワイヤ52が第1のワイヤ51と同速度で前側に押されると(以下、これらワイヤ51,52の動きを「ワイヤ牽引パターンA」と称する。)、第1の先端プーリ21が図5中半時計回りに回転する。これにより、第1の先端プーリ21に連なる第1のブレード24も、同図中半時計回りに回転動作することになる。逆に、第1のワイヤ51が前側に押される一方で、第2のワイヤ52が第1のワイヤ51と同速度で後側に引かれると(以下、これらワイヤ51,52の動きを「ワイヤ牽引パターンB」と称する。)、第1のブレード24は、ワイヤ牽引パターンAの場合と逆回りとなる図5中時計回りに回転動作することになる。
【0047】
同様に、第3及び第4のモータ58,59により、第3又は第4のワイヤ53,54の何れか一方のみが後側に引かれると、第2のブレード25が支持軸28を支点としてヨー方向に回転動作する。すなわち、第3のワイヤ53が後側に引かれる一方で、第4のワイヤ54が第1のワイヤ51と同速度で前側に押されると(以下、これらワイヤ53,54の動きを「ワイヤ牽引パターンC」と称する。)、第2の先端プーリ22が図5中半時計回りに回転する。これにより、第2の先端プーリ22に連なる第2のブレード25も、同図中半時計回りに回転動作することになる。逆に、第3のワイヤ53が前側に押される一方で第4のワイヤ54が第3のワイヤ53と同速度で後側に引かれると(以下、これらワイヤ53,54の動きを「ワイヤ牽引パターンD」と称する。)、第2のブレード25は、ワイヤ牽引パターンCの場合と逆回りとなる図5中時計回りに回転動作することになる。
【0048】
従って、前記ワイヤ牽引パターンA及びDで、第1〜第4のワイヤ51〜54が動作すると、第1及び第2のブレード24,25は、それらの先端部分24A,25Aが接近する方向に回転変位することになり、各ブレード24,25による閉塞動作が行えることになる。逆に、前記ワイヤ牽引パターンB及びCで、第1〜第4のワイヤ51〜54が動作すると、第1及び第2のブレード24,25は、それら先端部分24A,25Aが離間する方向に回転変位することになり、各ブレード24,25による開放動作が行えることになる。つまり、引張力が、第1及び第4のワイヤ51,54のみに作用し、若しくは、第2及び第3のワイヤ52,53のみに作用すると、各ブレード24,25の開閉動作が生じることになる。
【0049】
更に、前記ワイヤ牽引パターンA及びCで、第1〜第4のワイヤ51〜54が相互に同速度で動作すると、第1及び第2のブレード24,25は、共に、支持軸28を支点として図5中半時計回りに回転変位する。逆に、前記ワイヤ牽引パターンB及びDで、第1〜第4のワイヤ51〜54が相互に同速度で動作すると、第1及び第2のブレード24,25は、共に、支持軸28を支点として図5中時計回りに回転変位する。つまり、引張力が、第1及び第3のワイヤ51,53のみに作用し、若しくは、第2及び第4のワイヤ52,54のみに引張力を作用すると、第1及び第2のブレード24,25が一体的にヨー方向に回転する横回転動作が生じることになる。
【0050】
先端部14における以上の動作は、制御装置12の入力部69に入力された目標値、すなわち、先端部14全体のピッチ軸P回りの回転角度の目標値、先端部14全体のヨー軸Y回りの回転角度の目標値、及び各ブレード24,25のヨー軸Y回りの回転角度の目標値から、動作制御部70で、各ワイヤ51〜54の動作方向が定められ、その動作量が算出され、当該動作が得られるように各モータ56〜59の駆動が制御される。
【0051】
また、使用前においては、制御装置12の張力調整部71で各ワイヤ51〜54の張力調整が行われる。すなわち、図示しない治具等を使い、各ブレード24,25を閉塞状態にして先端部14を基準の姿勢を保持した上で、張力センサ62により各ワイヤ51〜54の張力がそれぞれ測定され、当該測定値が張力調整部71に送られる。すると、張力調整部71では、各ワイヤ51〜54の張力の測定値が予め設定した基準範囲内にないときに、該当するワイヤ51〜54の張力が前記基準範囲内になるように、対応するモータ56〜59の駆動が制御され、該当するワイヤ51〜54が前後方向に引っ張られ、或いは、弛められる。
【0052】
従って、このような実施形態によれば、先端部14を3自由度で動作させるための第1〜第4のモータ56〜59を使うことで、使用前に各ワイヤ51〜54の張力が適正になるように自動調整することができる。この結果、先端部14の動作に加え、ワイヤ51〜54の張力の自動調整を行うために増やすアクチュエータ数を抑制できるという効果を得る。
【0053】
なお、前記実施形態の制御装置12では、先端部14に大きな力が作用し、各ワイヤ51〜54が弾性により伸長変形したときに、各ワイヤ51〜54の張力を調整可能にしているが、制御装置12の変形例として、各ワイヤ51〜54の伸長変形量をフックの法則により求め、当該伸長変形量を考慮して、各モータ56〜59の出力を補正するようにしてもよい。
【0054】
すなわち、本変形例では、前記実施形態に対し、張力調整部71を省略し、動作制御部70に、次の補正機能を付加している。この補正機能は、張力センサ62で測定した各ワイヤ51〜54の張力値から、当該各ワイヤ51〜54の伸長変形量を求め、当該伸長変形量に基づき、入力部69からの目標値に対して求めた各ワイヤ51〜54の動作量を補正し、各モータ56〜59の出力を補正する機能となっている。すなわち、この補正機能では、張力センサ62からの張力値が逐次取得され、当該測定された張力値と当初設定した各ワイヤ51〜54の張力値との差分を、各ワイヤ51〜54それぞれに対して設定された弾性係数で除算することで、各ワイヤ51〜54の伸長変形量が求められる。そして、当該伸長変形量が、入力部69からの目標値に対して求めた各ワイヤ51〜54の動作量に加えられることで、当該動作量が補正され、補正後の各ワイヤ51〜54の動作量が得られるように、前記各モータ56〜59の駆動が制御される。
【0055】
なお、本発明は、先端側に位置する一対の部材が離間接近する開閉動作を行う手術器具、例えば、把持鉗子や止血鉗子等の鉗子類の他、剪刀、持針器等の機能を有する手術用マニピュレータにも適用可能である。
【0056】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 手術用マニピュレータシステム
11 手術用マニピュレータ
12 制御装置
14 先端部
15 本体
17 駆動手段
19 支持体
21 第1の先端プーリ(第1の回転体)
22 第2の先端プーリ(第2の回転体)
24 第1のブレード
25 第2のブレード
51 第1のワイヤ
52 第2のワイヤ
53 第3のワイヤ
54 第4のワイヤ
56 第1のモータ(第1のアクチュエータ)
57 第2のモータ(第2のアクチュエータ)
58 第3のモータ(第3のアクチュエータ)
59 第4のモータ(第4のアクチュエータ)
62 張力センサ
69 入力部
70 動作制御部
71 張力調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に位置して所定の動作をする先端部と、当該先端部を支持する本体と、前記先端部を動作させる駆動手段とを備えた手術用マニピュレータにおいて、
前記先端部は、ピッチ方向に回転可能となるように前記本体に連結された支持体と、ヨー方向にそれぞれ独立して回転可能となるように前記支持体に支持された第1及び第2の回転体と、前記第1の回転体に一体化された第1のブレードと、前記第2の回転体に一体化された第2のブレードとを備え、
前記駆動手段は、前記第1の回転体に固定された第1及び第2のワイヤと、前記第2の回転体に固定された第3及び第4のワイヤと、前記第1のワイヤをその延出方向に移動させる第1のアクチュエータと、前記第2のワイヤをその延出方向に移動させる第2のアクチュエータと、前記第3のワイヤをその延出方向に移動させる第3のアクチュエータと、前記第4のワイヤをその延出方向に移動させる第4のアクチュエータとを備え、
前記第1及び第2のワイヤは、何れか一方に引張力が作用したときと、何れか他方に引張力が作用したときとで、前記第1の回転体を相互に逆方向に回転させるように配置され、
前記第3及び第4のワイヤは、何れか一方に引張力が作用したときと、何れか他方に引張力が作用したときとで、前記第2の回転体を相互に逆方向に回転させるように配置され、
前記第1〜第4のアクチュエータが、前記第1〜第4のワイヤを選択的に押し引きするように駆動することで、前記第1及び第2のブレードが相互に離間接近する開閉動作と、前記第1及び第2のブレードが一体的にヨー方向に回転する横回転動作と、前記第1及び第2のブレードが一体的にピッチ方向に回転する縦回転動作とからなる動作のうちの何れが生じる構造を有することを特徴とする手術用マニピュレータ。
【請求項2】
引張力が、前記第1及び第4のワイヤのみに作用し、若しくは、前記第2及び第3のワイヤのみに作用すると、前記開閉動作が生じ、
引張力が、前記第1及び第3のワイヤのみに作用し、若しくは、前記第2及び第4のワイヤのみに作用すると、前記横回転動作が生じ、
引張力が、前記第1及び第2のワイヤのみに作用し、若しくは、前記第3及び第4のワイヤのみに作用すると、前記縦回転動作が生じる構造を有することを特徴とする請求項1記載の手術用マニピュレータ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の手術用マニピュレータを用いた手術用マニピュレータシステムであって、
前記手術用マニピュレータと、当該手術用マニピュレータの動作を制御する制御装置とを備え、
前記駆動手段は、前記第1〜第4のワイヤと前記第1〜第4のアクチュエータとの間にそれぞれ設けられて前記各ワイヤの張力を測定する張力センサを更に備え、
前記制御装置は、前記張力センサで測定された各ワイヤの張力値が不適切な場合に、前記アクチュエータの駆動を制御して、前記各ワイヤを適切な張力値に調整する張力調整部を含むことを特徴とする手術用マニピュレータシステム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の手術用マニピュレータを用いた手術用マニピュレータシステムであって、
前記手術用マニピュレータと、当該手術用マニピュレータの動作を制御する制御装置とを備え、
前記駆動手段は、前記第1〜第4のワイヤと前記第1〜第4のアクチュエータとの間にそれぞれ設けられて前記各ワイヤの張力を測定する張力センサを更に備え、
前記制御装置は、前記先端部の動作の目標値が入力される入力部と、当該入力部からの目標値に応じて前記第1〜第4のアクチュエータの駆動を制御する動作制御部とを備え、
前記動作制御部は、前記張力センサで測定した前記各ワイヤの張力値から当該各ワイヤの伸長変形量を求め、当該伸長変形量に基づき、前記目標値に応じて決定された前記各アクチュエータの出力を補正する補正機能を含むことを特徴とする手術用マニピュレータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−220786(P2010−220786A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71051(P2009−71051)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜20年度、文部科学省 地域科学技術振興事業費補助金に係る委託研究(知的クラスター創成事業「岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター」)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】