説明

振動判別方法、及び振動判別装置

【課題】従来よりもびびり振動の種類を精度良く判別することができる振動判別方法、及び振動判別装置を提供する。
【解決手段】時間領域の振動加速度を高速フーリエ解析して周波数領域の振動加速度を求めた際に現れる複数のピーク値を対象としてびびり振動の判別を行う。したがって、周波数領域の振動加速度の最大値のみを用いて判別していた従来と比較すると、特に低回転速度での加工や刃数の少ない工具による加工において、発生したびびり振動の種類を正確に判別することができる上、工具とワークとの間での摩擦や加工による衝撃力に起因して生じる「固有振動型強制びびり振動」についても判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを回転させながら加工を行う工作機械において、加工中に発生するびびり振動の種類を判別するための振動判別方法、及び該振動判別方法を実行する振動判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸を回転させて加工を行う工作機械では、切り込み量や回転軸の回転速度などの加工条件が適切でない等に起因して加工中に所謂びびり振動が生じるおそれがある。そして、びびり振動が生じると、加工面の仕上げ精度が悪化したり工具が破損してしまうといった問題が生じることから、びびり振動の抑制が求められている。
【0003】
このびびり振動としては、工具とワークとの間に生じる自励振動である「再生びびり振動」と、工作機械自身が振動源となる「強制びびり振動」との2つのびびり振動がある。そして、本件出願人は、この2種類のびびり振動を区別するとともに、びびり振動の種類に応じて夫々対応可能とした振動抑制装置(特許文献1)を本件出願に先立ち考案している。この特許文献1に記載の振動抑制装置では、振動センサで検出した時間領域の振動加速度をFFT解析して周波数領域の振動加速度を求め、その周波数領域の振動加速度が最大値をとる周波数をびびり周波数fcとして求めるとともに、下記式(1)〜(3)からk’値、k値、及び位相差εを算出し、位相差εが0に近い(たとえば0.1以内である)場合、すなわちk’値が整数に近い場合を「強制びびり振動」と判別し、それ以外を「再生びびり振動」として判別していた。つまり、たとえば図7に示すような振動特性を有する工具を用いて回転軸の回転速度Saで加工を行ったとすると、「強制びびり振動」が発生した場合、図6のグラフに示すように、基本周波数の整数倍の値(実加工においては整数倍に近い値)がびびり周波数として検出される。そこで、位相差εが基本周波数の整数倍の値に近い数値をとると「強制びびり振動」と判別していた。
k’=60×fc/(Z×S) ・・・(1)
k=|k’」 ・・・(2)
ε=k’−k ・・・(3)
尚、式(1)におけるZは工具刃数であり、Sは回転軸の1分あたりの回転速度である。また、式(2)における|x」は、xよりも小さい最大の整数を表す床関数である(つまり、式(2)ではk’値の整数部を求めている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転軸の回転速度が低い場合や刃数の少ない工具を用いて加工する場合では、たとえば図6のグラフにおける領域a(回転速度が低い領域)に示されるように、基本周波数の整数倍であるびびり周波数の間隔が密になる。つまり、そのような加工条件においては「強制びびり振動」と「再生びびり振動」とでびびり周波数に差がでにくい。したがって、特許文献1に記載されているように、周波数領域の振動加速度において最大値のみを用いて判別していると、上述したような加工条件において「強制びびり振動」であるか「再生びびり振動」であるかの判別精度に乏しくなるという問題がある。
【0006】
また、「強制びびり振動」についても、上述したようにびびり周波数が基本周波数の整数倍の値をとる「回転同期型強制びびり振動」の他に、工具とワークとの間での摩擦や加工による衝撃力によって、工作機械本体や工具、ワーク等の固有振動数付近の周波数で生じる「固有振動型強制びびり振動」がある。このような「固有振動型強制びびり振動」のびびり周波数は安定していない。すなわち、時間領域の振動加速度をFFT解析して周波数領域の振動加速度を求めた際、その最大値は工作機械本体や工具系の固有振動数付近において現れる上、最大値をとる周波数も一定ではない。したがって、特許文献1に記載されているように周波数領域の振動加速度の最大値のみを対象としていたのでは、「固有振動型強制びびり振動」を判別できないという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、従来よりもびびり振動の種類を精度良く判別することができる振動判別方法、及び振動判別装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じるびびり振動の種類を判別する振動判別方法であって、回転中の前記回転軸の時間領域での振動及び前記回転軸の回転速度を検出する第1工程と、前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得する第2工程と、各前記ピーク値毎に、前記びびり振動の種類を判別するための回転同期型振動判別範囲を自身のピーク周波数を用いて夫々求める第3工程と、各前記ピーク値毎における前記自身のピーク周波数と前記自身のピーク周波数を用いて求めた前記回転同期振動判別範囲との関係にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する第4工程とを実行することを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項2に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じるびびり振動の種類を判別する振動判別方法であって、回転中の前記回転軸の時間領域での振動及び前記回転軸の回転速度を検出する第1工程と、前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得する第2工程と、複数の前記ピーク周波数をもとに、前記びびり振動の種類を判別するための固有型振動判別範囲を求める第3工程と、前記固有型振動判別範囲内に前記ピーク周波数が含まれる前記ピーク値の数にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する第4工程とを実行することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記第3工程において、前記ピーク値同士の周波数間隔を求めるとともに、前記ピーク値のうち、前記周波数間隔が下記式(7)及び/又は式(8)で求められる周波数となる、若しくは、その整数倍となる前記ピーク値を判別対象から除外した上で、前記固有型振動判別範囲を求めることを特徴とする。
回転周波数 = 回転軸の回転速度/60 ・・・(7)
刃通過周波数 = 回転軸の回転速度×工具刃数/60 ・・・(8)
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項4に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動の種類を判別するための振動判別装置であって、回転中の前記回転軸による時間領域の振動及び前記回転軸の回転速度を検出するための検出手段と、該検出手段により検出された前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得するFFT演算部と、各前記ピーク値毎に、前記びびり振動の種類を判別するための回転同期型振動判別範囲を自身のピーク周波数を用いて夫々求めるとともに、各前記ピーク値毎における前記自身のピーク周波数と前記自身のピーク周波数を用いて求めた前記回転同期型振動判別範囲との関係にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する判別部と、判別した前記びびり振動の種類を表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項5に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動の種類を判別するための振動判別装置であって、回転中の前記回転軸による時間領域の振動及び前記回転軸の回転速度を検出するための検出手段と、該検出手段により検出された前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得するFFT演算部と、複数の前記ピーク周波数をもとに、前記びびり振動の種類を判別するための固有型振動判別範囲を求めとともに、前記固有型振動判別範囲内に前記ピーク周波数が含まれる前記ピーク値の数にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する判別部と、判別した前記びびり振動の種類を表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得し、取得した複数のピーク値及びピーク周波数をもとに、上述したような回転同期型振動判別範囲(請求項1)や固有型振動判別範囲(請求項2)を求めてびびり振動の種類を判別する。したがって、周波数領域の振動加速度の最大値のみを用いて判別していた従来と比較すると、特に低回転速度での加工や刃数の少ない工具による加工において、発生したびびり振動の種類を正確に判別することができるし、工具とワークとの間での摩擦や加工による衝撃力に起因して生じる「固有振動型強制びびり振動」についても判別することもできる。
また、特に請求項3に記載の発明によれば、ピーク値同士の周波数間隔を求めるとともに、ピーク値のうち、周波数間隔が回転周波数及び/又は刃通過周波数となる、若しくは、その整数倍となるピーク値を判別対象から除外した上で、固有型振動判別範囲を求めるため、より正確な固有型振動判別範囲を求めることができ、一層精度の高い「固有振動型強制びびり振動」の判別が可能となる。
さらに、請求項4及び5に記載の発明によれば、判別したびびり振動の種類を表示する表示装置を備えている。したがって、作業者は発生しているびびり振動の種類を容易に把握することができ、その種類に応じた効果的な対応を迅速にとることができ、ひいては加工面精度の向上、工具摩耗の抑制、工具欠損の防止、製品の製造効率の向上等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】振動抑制装置のブロック構成を示した説明図である。
【図2】振動抑制の対象となる回転軸ハウジングを側方から示した説明図である。
【図3】回転軸ハウジングを軸方向から示した説明図である。
【図4】振動判別制御について示したフローチャート図である。
【図5】取得された複数の周波数領域の振動加速度のピーク値及びピーク周波数を示した説明図である。
【図6】回転同期型強制びびり振動が発生した際の回転速度と周波数との関係を示した説明図である。
【図7】工具の振動特性を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態となる振動判別方法、及び振動判別装置について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0013】
図1は、振動判別装置10のブロック構成を示した説明図である。図2は、振動監視の対象となる回転軸ハウジング1を側方から示した説明図であり、図3は、回転軸ハウジング1を軸方向から示した説明図である。
振動判別装置10は、回転軸ハウジング1にC軸周りで回転可能に備えられた回転軸3に生じているびびり振動の種類を判別するためのものであって、回転中の回転軸3に生じる振動に伴う特性値である時間領域の振動加速度(時間軸上の振動加速度を意味する)を検出するための振動センサ2a〜2cと、該振動センサ2a〜2cによる検出値を解析して「びびり振動」の種類を判別し、その判別結果を表示する制御装置5とを備えてなる。
【0014】
振動センサ2a〜2cは、図2及び図3に示す如く回転軸ハウジング1に取り付けられており、一の振動センサは、他の振動センサに対して直角方向への時間領域の振動加速度を検出するようになっている(たとえば、振動センサ2a〜2cにて、それぞれ直交するX軸、Y軸、Z軸方向での時間領域の振動加速度を検出するように取り付ける)。
【0015】
一方、制御装置5は、振動センサ2a〜2cから検出される時間領域の振動加速度をもとにした解析を行うFFT演算部11と、回転軸3の回転速度を検出する回転速度検出部12と、びびり振動の種類を判別するための各種値等を作業者が入力するための入力部13と、発生しているびびり振動の種類を判別するための判別部14と、NCプログラムや機械の現在位置に加えて判別部14での上述したような判別の結果等を表示するための表示部15と、入力部13を介して入力された各種値や判別部14における判別結果等を記憶する記憶部(図示せず)等とを備えている。
【0016】
ここで、本発明の要部となる振動判別制御について、図4のフローチャート図にもとづき詳細に説明する。
まず、加工を開始する前に、入力部13により後述するようなびびり振動の種類を判別するための値、工具刃数等の工具情報を入力し、記憶部に予め記憶させておく。そして、図示しないNC装置による制御のもと回転軸3の回転速度が指令されて加工が開始されると、振動センサ2a〜2cにより回転軸ハウジング1における時間領域の振動加速度を常時検出し、FFT演算部11においてその時間領域の振動加速度の高速フーリエ解析を行い(S1)、周波数領域の振動加速度のピーク値とその周波数(ピーク周波数)とを取得する(S2)。したがって、たとえば図5のグラフに示すように、複数のピーク値及びピーク周波数が取得されることになる。
【0017】
次に、判別部14では、各ピーク値毎に下記式(4)及び(5)を用いて回転同期型振動判別範囲の上限及び下限を夫々求め(S3)た後、自身のピーク周波数が自身のピーク周波数を用いて求めた回転同期型振動判別範囲内に含まれない(条件A)ピーク値の数をカウントし、その数が入力部13により予め設定された第1設定数よりも多いか否かを判別する(S4)。そして、条件Aを満たすピーク値の数が第1設定数以上である場合(S4でYESと判別)、「回転同期型強制びびり振動」が生じていると判別し、その旨を表示部15に表示する(S5)。
【数1】

尚、式(4)及び(5)における|X」とは、上記式(2)同様の床関数である。また、式(4)及び(5)におけるオフセット値とは、回転速度検出分解能及び周波数分解能を考慮し、下記式(6)により求められる値である。
【数2】

【0018】
一方、条件Aを満たすピーク値の数が第1設定数よりも少ない場合(S4でNOと判別)、ピーク値が所定の周波数範囲である固有型振動判別範囲内に密集しているか否かを判別することにより、「固有振動型強制びびり振動」を判別する。すなわち、まず「固有振動型強制びびり振動」以外の原因に起因して密集する場合を除外すべく、サイドバンドとして検出されたピーク値を除外する(S6)。つまり、加工振動のような断続的な振動を高速フーリエ解析すると断続周期の周波数間隔でピーク値が検出されることがある。この断続周期とは、回転軸の回転周期又は工具の刃通過周期に該当する。そこで、検出されたピーク値同士の周波数間隔が、下記式(7)及び(8)で求められる回転周波数又は刃通過周波数となるもの、若しくはそれらの整数倍となるものを除外する。
回転周波数 = 回転軸の回転速度/60 ・・・(7)
刃通過周波数 = 回転軸の回転速度×工具刃数/60 ・・・(8)
【0019】
上述したようにサイドバンドとして検出されたピーク値を除外した後、判別部14は、残りのピーク値の中から、ピーク値同士の周波数間隔が入力部13により予め設定された設定間隔以下となるピーク値を抽出し(S7)、それら抽出したピーク値のピーク周波数の平均値を求めるとともに、平均値を中央値とした所定の幅(入力部13により予め設定されている)の周波数帯となる固有型振動判別範囲を設定する(S8)。そして、上記抽出したピーク値のうち、ピーク周波数が固有型振動判別範囲内に含まれる(条件B)ピーク値の数をカウントし、その数が入力部13により予め設定された第2設定数よりも多いか否かを判別する(S9)。そして、固有型振動判別範囲内に含まれるピーク値の数が第2設定数以上であると、「固有振動型強制びびり振動」が発生しているとして、その旨を表示部15に表示する(S10)。一方、固有型振動判別範囲内に含まれるピーク値の数が第2設定数よりも少ない場合には、「再生びびり振動」が発生しているとして、その旨を表示部15に表示する(S11)。尚、S11において「再生びびり振動」が発生していると表示するに際し、ピーク値同士の間隔が上記式(7)で求められる回転周波数又はその整数倍に近い場合には「回転周期型再生びびり振動」と表示し、上記式(8)で求められる刃通過周波数又はその整数倍に近い場合には「刃通過周期型再生びびり振動」と表示するように構成してもよい。
【0020】
以上のような構成を有する振動判別装置10によれば、時間領域の振動加速度を高速フーリエ解析して周波数領域の振動加速度を求めた際に現れる複数のピーク値を対象とし、上述したような方法によりびびり振動の判別を行う。したがって、周波数領域の振動加速度の最大値のみを用いて判別していた従来と比較すると、特に低回転速度での加工や刃数の少ない工具による加工において、発生したびびり振動の種類を正確に判別することができる上、工具とワークとの間での摩擦や加工による衝撃力に起因して生じる「固有振動型強制びびり振動」についても判別することができる。
【0021】
また、「固有振動型強制びびり振動」を判別するに際して、S6においてピーク値同士の周波数間隔を求めるとともに、ピーク値のうち周波数間隔が回転周波数や刃通過周波数となる、若しくは、その整数倍となるピーク値を判別対象から除外するため、S8において固有型振動判別範囲を正確に求めることができ、一層精度の高い「固有振動型強制びびり振動」の判別が可能となる。
さらに、正確に判別したびびり振動の種類を表示部15に表示するため、作業者は、びびり振動の種類を容易且つ短時間で把握することができる。したがって、発生したびびり振動に効果的な対応(たとえば回転速度や切り込み量といった切削条件の変更等)を迅速にとることができ、ひいては加工面精度の向上、工具摩耗の抑制、工具欠損の防止、製品の製造効率の向上等を図ることができる。
【0022】
なお、本発明に係る振動判別装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、検出手段、及びびびり振動の種類の判別に係る制御や判別後の制御等に係る構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0023】
たとえば、上記実施形態では、振動センサにより回転軸の振動加速度を検出するよう構成しているが、振動による回転軸の変位や音圧を検出し、当該変位や音圧にもとづいて安定回転速度を算出するようにしてもよく、他には、回転軸の位置や回転を検出する検出器、回転軸モータや送り軸モータの電流を測定する電流測定器を検出手段として採用することも可能である。
また、振動判別装置に、回転軸の回転速度を制御するための回転速度制御手段(NC装置)を含め、びびり振動の種類を判別した後、夫々の種類に対応した演算式(たとえば、特許文献1に記載されているような演算式)を用いて当該びびり振動を抑制可能な安定回転速度を算出し、回転速度制御手段が自動的に安定回転速度へと回転速度を変更するようにすることも可能である。
【0024】
さらに、S2において取得した周波数領域の振動加速度のピーク値のうち、その最大値と所定の閾値とを比較し、最大値が閾値以上となった場合にのみ、S3以降を実行するように構成してもよく、その際、閾値を超えたピーク値のみを判別対象としてもよいし、全てのピーク値を判別対象としてもよい。また、工作機械や工具等の固有振動数が既知である場合には、該固有振動数を中央値とした所定の幅の周波数帯を固有型振動判別範囲とし、該固有型振動判別範囲内にピーク周波数が含まれるピーク値の数をカウントすることにより「固有振動型強制びびり振動」を判別するように構成してもよく、このような固有型振動判別範囲を用いることで判別精度の一層の向上を期待することができる。
さらにまた、上記実施形態では、条件Aによる判別を行った後に、条件Bによる判別を行っているが、条件Bによる判別を行った後に条件Aによる判別を行ってもよい(すなわち、S3〜S4と、S6〜S9との順序を入れ替えてもよい)し、どちらか一方の判別のみを行うようにしてもよい。
加えて、上記実施形態では、工作機械の回転軸における振動を検出する構成としているが、回転しない側(固定側)の振動を検出し、びびり振動の発生の有無を検出してもよい。また、工具を回転させるマシニングセンタに限らず、ワークを回転させる旋盤等といった工作機械にも適用可能であるし、判別に係る第1設定数や第2設定数、固有型振動判別範囲を設定するための周波数帯等を、工作機械の種類、大きさ等に応じて適宜変更してもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0025】
1・・回転軸ハウジング、2a、2b、2c・・振動センサ(検出手段)、3・・回転軸、5・・制御装置、10・・振動判別装置、11・・FFT演算部、12・・回転速度検出部(検出手段)、13・・入力部、14・・判別部、15・・表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じるびびり振動の種類を判別する振動判別方法であって、
回転中の前記回転軸の時間領域での振動及び前記回転軸の回転速度を検出する第1工程と、
前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得する第2工程と、
各前記ピーク値毎に、前記びびり振動の種類を判別するための回転同期型振動判別範囲を自身のピーク周波数を用いて夫々求める第3工程と、
各前記ピーク値毎における前記自身のピーク周波数と前記自身のピーク周波数を用いて求めた前記回転同期型振動判別範囲との関係にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する第4工程と
を実行することを特徴とする振動判別方法。
【請求項2】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じるびびり振動の種類を判別する振動判別方法であって、
回転中の前記回転軸の時間領域での振動及び前記回転軸の回転速度を検出する第1工程と、
前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得する第2工程と、
複数の前記ピーク周波数をもとに、前記びびり振動の種類を判別するための固有型振動判別範囲を求める第3工程と、
前記固有型振動判別範囲内に前記ピーク周波数が含まれる前記ピーク値の数にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する第4工程と
を実行することを特徴とする振動判別方法。
【請求項3】
前記第3工程において、
前記ピーク値同士の周波数間隔を求めるとともに、前記ピーク値のうち、前記周波数間隔が下記式(7)及び/又は式(8)で求められる周波数となる、若しくは、その整数倍となる前記ピーク値を判別対象から除外した上で、前記固有型振動判別範囲を求めることを特徴とする請求項2に記載の振動判別方法。
回転周波数 = 回転軸の回転速度/60 ・・・(7)
刃通過周波数 = 回転軸の回転速度×工具刃数/60 ・・・(8)
【請求項4】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動の種類を判別するための振動判別装置であって、
回転中の前記回転軸による時間領域の振動及び前記回転軸の回転速度を検出するための検出手段と、
該検出手段により検出された前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得するFFT演算部と、
各前記ピーク値毎に、前記びびり振動の種類を判別するための回転同期型振動判別範囲を自身のピーク周波数を用いて夫々求めるとともに、各前記ピーク値毎における前記自身のピーク周波数と前記自身のピーク周波数を用いて求めた前記回転同期型振動判別範囲との関係にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する判別部と、
判別した前記びびり振動の種類を表示する表示部と
を備えたことを特徴とする振動判別装置。
【請求項5】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動の種類を判別するための振動判別装置であって、
回転中の前記回転軸による時間領域の振動及び前記回転軸の回転速度を検出するための検出手段と、
該検出手段により検出された前記時間領域の振動をもとに周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動におけるピーク値及び該ピーク値をとるピーク周波数を複数取得するFFT演算部と、
複数の前記ピーク周波数をもとに、前記びびり振動の種類を判別するための固有型振動判別範囲を求めとともに、前記固有型振動判別範囲内に前記ピーク周波数が含まれる前記ピーク値の数にもとづき、前記びびり振動の種類を判別する判別部と、
判別した前記びびり振動の種類を表示する表示部と
を備えたことを特徴とする振動判別装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−837(P2013−837A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134382(P2011−134382)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】