説明

振動型モータの駆動装置およびその駆動方法

【課題】振動子と接触子との間の摩耗の進行により振動型モータの駆動特性が変化しても振動型モータを安定的に駆動する。
【解決手段】駆動装置は、振動型モータ206の駆動速度を検出する速度検出手段208と、駆動速度が所定速度になるように周波電圧の周波数を制御する周波数制御手段210と、第1の時点において駆動速度を所定速度とする周波電圧の周波数である第1の周波数を記憶する記憶手段213と、第1の時点よりも後の第2の時点において駆動速度を所定速度とする周波電圧の周波数である第2の周波数を取得し、該第2の周波数と第1の周波数を用いて設定された参照周波数との差に応じて周波電圧の振幅を制御する振幅制御手段212とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子と接触子との摩擦により両者が相対移動する振動型モータの駆動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
振動型モータは、電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される弾性体としての振動子と、該振動子に接触する接触子とを有する。振動する振動子と接触子との間の摩擦によって、振動子と接触子とが相対移動する。
【0003】
このような振動型モータにおいて、振動子と接触子との摩擦面(実際には振動子と接触子に設けられた摺動部材との接触面)が摩耗すると、振動型モータの駆動特性が変動する。このことを、図3を用いて説明する。図3(a),(b)において、13は振動子(弾性体)としてのステータであり、16は回転可能な接触子としてのロータである。17はロータ16におけるステータ側の面に貼り付けられた樹脂製の摺動部材であり、ステータ13の表面に加圧接触している。
【0004】
図3(a)に示すように、ステータ13に振動を励起すると、ステータ13の表面に山と谷が交互に現れる。摺動部材17のうち、ステータ13の山に接触している部分は、該摺動部材17の弾性によって図中にδで示す量だけ沈み込む。このとき、ステータ13の表面の点の移動速度(周速度)は、山の頂点A(以下、A点という)の方が山の中間点B(以下、B点という)よりも速い。ロータ16の周速度は、A点の周速度とB点の周速度との間の値となる。
【0005】
一方、トルクは、A点とB点との間の距離、すなわちステータ13が摺動部材17と接する距離(以下、接触長さという)に依存して決まる。すなわち、接触長さが長いほど、回転するロータ16のトルクが大きくなり、接触長さが短いとトルクが小さくなる。
【0006】
例えば、図3(b)に示すように、摺動部材17が摩耗すると、ステータ13の表面の山に対する摺動部材17の沈み込み量δが減少してδ′となる。このときの接触長さは、A点と、B点よりも周速度が速いB′点との間の距離となる。このため、ステータ13の振動の変位が変わらなくても、ロータ16のトルクは低下し、かつロータ16の周速度は増加する。したがって、摺動部材17が摩耗にかかわらずロータ16の周速度とトルクを一定に維持するためには、ステータ13の振動の変位を変化させる必要がある。
【0007】
電気−機械エネルギ変換素子に印加される周波電圧の周波数を駆動周波数とし、ロータ16の周速度を駆動速度とするとき、図4には、摩耗が生じる前(初期状態)における駆動周波数と駆動速度との関係を実線グラフで示している。また、摩耗が生じた状態(劣化状態)での駆動周波数と駆動速度との関係を破線グラフで示している。
【0008】
図4から分かるように、劣化状態において所定の駆動速度(例えば、120rpm)でロータ16を回転させる際の駆動周波数は、初期状態において同じ所定の駆動速度でロータ16を回転させる際の駆動周波数に対して低くなる。しかも、劣化状態では、駆動周波数を制御するだけでは、速度むらが大きくなり、制御性が低下する。
【0009】
特許文献1には、周波電圧の振幅を制御する振動型モータの駆動方法が開示されている。この駆動方法では、ステータとロータとが湿気により吸着してロータが回転(起動)できなかったことを検出したときに、周波電圧の振幅を通常よりも大きくして振動子に通常より大きな振動を発生させる。これにより、回転開始に十分なトルクを発生させ、モータを確実に起動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−154352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1にて開示された駆動方法では、モータが回転しないという動作不良の発生を検出することに応じて周波電圧の振幅を通常よりも大きくするため、そのような動作不良の発生を未然に防ぐことができない。
【0012】
本発明は、振動子と接触子との間の摩耗の進行により振動型モータの駆動特性が変化しても振動型モータを安定的に駆動でき、動作不良の発生を未然に防止できるようにした振動型モータの駆動装置およびその駆動方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、振動子および接触子が相対移動する振動型モータの駆動装置および駆動方法に関する。
【0014】
本発明の一側面としての駆動装置は、振動型モータの駆動速度を検出する速度検出手段と、該速度検出手段により検出される駆動速度が所定速度になるように周波電圧の周波数を制御する周波数制御手段と、第1の時点において駆動速度を所定速度とする周波電圧の周波数である第1の周波数を記憶する記憶手段と、第1の時点よりも後の第2の時点において駆動速度を所定速度とする周波電圧の周波数である第2の周波数を取得し、該第2の周波数と第1の周波数を用いて設定された参照周波数との差に応じて周波電圧の振幅を制御する振幅制御手段とを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の他の一側面としての駆動装置は、振動型モータの駆動速度を検出する速度検出手段と、該速度検出手段により検出される駆動速度が所定速度になるように周波電圧の周波数を制御する周波数制御手段と、第1の時点において振動型モータが所定速度で駆動されている間の速度変動量である第1の速度変動量を記憶する記憶手段と、第1の時点よりも後の第2の時点において振動型モータが所定速度で駆動されている間の速度変動量である第2の速度変動量を取得し、該第2の速度変動量と第1の速度変動量を用いて設定された参照速度変動量との差に応じて周波電圧の振幅を制御する振幅制御手段とを有することを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の他の一側面としての駆動装置は、振動型モータの駆動速度を検出する速度検出手段と、該速度検出手段により検出される駆動速度が所定速度になるように周波電圧の周波数を制御する周波数制御手段と、振動型モータの積算駆動量をカウントするカウント手段と、該積算駆動量に応じて周波電圧の振幅を制御する振幅制御手段とを有することを特徴とする。
【0017】
なお、振動型モータと、上記駆動装置と、振動型モータからの駆動力により移動する光学素子を含む光学系とを有する光学機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【0018】
また、本発明の他の一側面としての駆動方法は、振動型モータの駆動速度を検出し、該駆動速度が所定速度になるように周波電圧の周波数を制御するステップと、第1の時点において駆動速度を所定速度とする周波電圧の周波数である第1の周波数を記憶するとともに、第1の時点よりも後の第2の時点において駆動速度を所定速度とする周波電圧の周波数である第2の周波数を取得し、該第2の周波数と第1の周波数を用いて設定した参照周波数との差に応じて周波電圧の振幅を制御するステップとを有することを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の他の一側面としての駆動方法は、振動型モータの駆動速度を検出し、該駆動速度が所定速度になるように周波電圧の周波数を制御するステップと、第1の時点において振動型モータが所定速度で駆動されている間の速度変動量である第1の速度変動量を記憶するとともに、第1の時点よりも後の第2の時点において振動型モータが所定速度で駆動されている間の速度変動量である第2の速度変動量を取得し、該第2の速度変動量と第1の速度変動量を用いて設定した参照速度変動量との差に応じて周波電圧の振幅を制御するステップとを有することを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の他の一側面としての駆動方法は、振動型モータの駆動速度を検出し、該駆動速度が所定速度になるように周波電圧の周波数を制御するステップと、振動型モータの積算駆動量をカウントし、該積算駆動量に応じて周波電圧の振幅を制御するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、振動子と接触子との間の摩耗に起因した、所定速度で駆動するための周波電圧の周波数の変化や所定周波数の周波電圧を印加したときの速度変動量の変化に応じて周波電圧の振幅を制御する。また、振動型モータの積算駆動量に応じて周波電圧の振幅を制御する。これにより、振動子と接触子との間の摩耗の進行により振動型モータの駆動特性が変化しても振動型モータを安定的に駆動することができ、動作不良の発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1である駆動装置により駆動される振動型モータの構造を示す断面図。
【図2】上記振動型モータの圧電素子群の構成を示す分解斜視図。
【図3】従来の振動型モータにおける振動子(ステータ)と接触子(ロータ)との接触部での摩耗による影響を示す図。
【図4】図3に示した振動型モータの駆動周波数と駆動速度(回転数)との関係を示す図。
【図5】実施例1の駆動装置の構成を示すブロック図。
【図6】実施例1の駆動装置におけるドライブ部の構成を示すブロック図。
【図7】実施例1の駆動装置における駆動周波数の算出のタイミングを示す図。
【図8】実施例1の駆動装置にて実行される駆動制御の手順を示すフローチャート。
【図9】実施例1の駆動装置にて実行される駆動周波数算出処理の手順を示すフローチャート。
【図10】実施例1の駆動装置にて実行される振幅決定処理の手順を示すフローチャート。
【図11】本発明の実施例2である駆動装置にて実行される駆動制御の手順を示すフローチャート。
【図12】実施例2の駆動装置にて実行される速度むら算出処理の手順を示すフローチャート。
【図13】実施例2の駆動装置にて実行される振幅決定処理の手順を示すフローチャート。
【図14】本発明の実施例3である駆動装置にて実行される駆動制御の手順を示すフローチャート。
【図15】実施例1〜3の駆動装置が搭載された交換レンズの構成を示す図。
【図16】実施例1〜3の駆動装置が搭載されたデジタルカメラの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0024】
図1には、本発明の実施例1である駆動装置により駆動が制御される振動型モータの構造を示している。この振動型モータは、後述する振動子が軸方向に直交する方向(径方向)に屈曲運動(振動)することで振動子と接触子とが相対移動する、いわゆる棒状振動型モータである。
【0025】
22は振動子(ステータ)であり、金属等の弾性材料により形成された弾性体13,14と、該弾性体13,14の間に加圧状態で挟み込まれた電気−機械エネルギ変換素子としての圧電素子群11とにより構成されている。
【0026】
リング状の弾性体14は、振動型モータの骨格部材であるボルト状の支持棒15の周囲に配置されて、該支持棒15の頭部に当接している。また、中空の弾性体13は、支持棒15に形成された大径ねじ部15aにねじ込まれ、弾性体14との間に圧電素子群11を加圧しながら挟み込んでいる。
【0027】
16は弾性体13の先端面に対向するように配置された接触子(回転子)としてのロータであり、該ロータ16の先端面には、ばね部16bが形成されている。ばね部16bは、弾性体13の先端面に形成されたばね部13bに圧接している。
【0028】
17はばね部16bの先端面に固着された(貼り付けられた)摩擦部材としての摺動部材であり、18はロータ16を弾性体13に圧接させるための加圧ばねである。19はロータ16に固定され、ロータ16とともに回転可能な出力ギアである。20は支持棒15の先端に形成された小径ねじ部15bにねじ込まれたフランジである。21は出力ギア19を回転可能に支持するベアリングである。
【0029】
図2には、振動子22に設けられている圧電素子群11における複数の圧電素子の配置と分極パターンを示している。圧電素子群11は、第1の周波電圧であるA相駆動電圧が印加されるA相圧電素子11a,11bと、第2の周波電圧であるB相駆動電圧が印加されるB相圧電素子11c,11dとを含む。周波電圧には、交流電圧やパルス電圧が含まれる。
【0030】
また、圧電素子群11は、共振検出用のS相圧電素子11eを含む。リング状に形成された複数の圧電素子11a〜11eはそれぞれ、周方向の半分ずつが互いに極性が反転するように分極されている。A相圧電素子11a,11bとB相圧電素子11c,11dは、それらの位相が互いに90度異なるように配置されている。また、S相圧電素子11eは、A相圧電素子11a,11bに対して位相が180度異なるように、B相圧電素子11c,11dに対して位相が90度異なるように配置されている。また、複数の圧電素子11a〜11eの間には、不図示の電極板が配置される。
【0031】
図1に示すように、弾性体13の先端部の外周面には、周方向に延びる溝13aが形成されており、この溝13aの形成によって弾性体13の先端面に、軸方向に撓むことが可能なフランジ状のばね部13bが形成される。
【0032】
一方、弾性体13の先端面に対向するロータ16の先端面のうち外周縁近傍には、周方向に延びる溝16aが形成されており、該溝16aとロータ16の外周面との間に、径方向の厚みが薄い円筒状のばね部16bが形成されている。ばね部16bは、径方向に撓むことが可能である。前述したように、ばね部16bの先端面には摺動部材17が固着されており、該摺動部材17が弾性体13のばね部13bに圧接されている。
【0033】
このように、振動子22の先端に軸方向に撓むことができるばね部13bが形成され、ロータ16の先端には径方向にたわみ得るばね部16bが形成され、ばね部16bが摺動部材17を介してばね部13bに圧接している。したがって、本実施例の振動型モータは、ロータ16と振動子22との接触部において互いに直交する2方向(軸方向および径方向)のばね定数を有したばねが摺動部材17を間に介在させて配置された構造を有する。
【0034】
ロータ16のばね部16bは、径方向においては弾性を有し、軸方向には剛性を有する。一方、振動子22(弾性体13)のばね部13bは、軸方向においては弾性を有し、径方向に剛性を有する。このため、軸方向と径方向のそれぞれに対して、最適なばね硬さを設定することができる。
【0035】
次に、本実施例の振動型モータの駆動原理について説明する。A相圧電素子11a,11bにより構成されるA相のみに第1の周波電圧(A相駆動電圧)を印加すると、A相圧電素子11a,11bの伸縮によって、振動子22に、図1の紙面に水平な方向の屈曲運動としての1次曲げ固有振動が励起される。また、B相圧電素子11c,11dにより構成されるB相のみに第2の周波電圧(B相駆動電圧)を印加すると、B相圧電素子11c,11dの伸縮によって、振動子22に、図1の紙面に垂直な方向の屈曲運動としての1次曲げ固有振動が励起される。
【0036】
そして、A相による水平方向の振動の励起タイミングとB相による垂直方向の振動の励起タイミングとを時間的に90度位相が異なるようにずらすと、振動子22には軸回りの円運動が発生する。弾性体13は、その変位を拡大するための周溝13aを有するため、弾性体13の先端には、首振り運動が生ずる。
【0037】
振動子22におけるロータ16(摺動部材17)との接触面において、この首振り振動は1波の進行波に相当する。この振動子22に、ロータ16のばね部16bを圧接させると、ばね部16bは波頭付近の1か所のみで弾性体13と接触し、ロータ16は、首振り運動の回転方向とは逆方向に回転する。そして、ロータ16の回転は、これと一体回転する出力ギア19を介して取り出される。
【0038】
ロータ16のばね部16bは、その固有振動数が振動子22の加振周波数よりも十分に高く、振動子22の振動に追従できるように設計されている。また、ロータ16は、慣性質量が十分大きく、振動子22の加振によって振動が励起されないように設計されている。
【0039】
以上のように構成された振動型モータは、振動子22とロータ16(摺動部材17)との間の摩耗に起因したモータ駆動特性の変動を抑制するために、以下のような駆動装置によって駆動が制御される。
【0040】
図5には、本実施例の駆動装置の構成を示している。202はシステム制御部であり、周波数制御部210に対して目標速度を設定するとともに、ドライブ部204に対して駆動開始を指令する。
【0041】
図6にはドライブ部204の構成を示している。ドライブ部204は、A相用とB相用の2つのチャンネルのHブリッジ回路を含む。A相用およびB相用のHブリッジ回路のそれぞれの一方の出力は、インダクタを介して振動型モータ206のA相圧電素子およびB相圧電素子にA相およびB相駆動電圧を印加するための一方の電極板に接続されている。また、A相用およびB相用のHブリッジ回路のそれぞれの他方の出力は、インダクタを介さずに、A相圧電素子およびB相圧電素子にA相およびB相駆動電圧を印加するための他方の電極板に接続されている。
【0042】
システム制御部202が駆動開始を指令すると、記憶部213に格納された又は周波数制御部210によって設定された駆動周波数と振幅決定部212によって決定されたパルスデューティとに応じて生成されるパルス波形に従ってHブリッジ回路が駆動される。駆動周波数とパルスデューティ(パルス幅)については後述する。Hブリッジ回路から出力されたパルス電圧(以下、駆動パルスともいう)は、Hブリッジ回路の一方の出力に接続されたインダクタによって昇圧されるとともに鈍らされて擬似的な正弦波状の電圧に変換される。これにより、振動型モータ206(A相およびB相圧電素子)に印加されるA相およびB相駆動電圧としての交流電圧が生成される。
【0043】
周波数制御部210によって設定される駆動周波数は、A相およびB相駆動電圧としての交流電圧の周波数に相当する。また、振幅決定部212によって決定されるパルスデューティは、該交流電圧の振幅に相当する。
【0044】
208は速度検出手段としてのエンコーダであり、振動型モータ206(ロータ16)の回転に伴って該回転の速度に比例した周波数を有する2相のパルス信号を生成し、該パルス信号のパルス周期を計測して周波数制御部210に出力する。
【0045】
周波数制御部(周波数制御手段)210は、エンコーダ208から得られたパルス周期、つまりは振動型モータ206の回転速度と、システム制御部202が設定した目標速度との差が小さくなる(望ましくは零となる)ようにPI(比例・積分)制御演算を行う。そして、周波数制御部210は、振動型モータ206を一定の速度(所定速度)で駆動できるように駆動周波数を決定して、ドライブ部204に出力する。
【0046】
213は記憶部であり、第1の時点である初期時点(工場出荷時点、ユーザーによる使用開始時点およびその他の任意の時点)において、振動型モータ206が所定速度で駆動されるときの駆動周波数(第1の周波数)を記憶(格納)する。初期時点での駆動周波数を、以下の説明では初期駆動周波数という。なお、記憶部213には、システム制御部202が目標速度として設定する複数の指令速度(所定速度)に対応する複数の初期駆動周波数が格納されている。
【0047】
211は特性変化判断部であり、初期時点よりも後の現在時点(第2の時点)において振動型モータ206が所定速度で駆動されるときの駆動周波数(第2の周波数)を取得する。この現在時点での駆動周波数を、以下の説明では現在駆動周波数という。そして、特性変化判断部211は、現在駆動周波数と、記憶部213に格納された初期駆動周波数から所定値を差し引いた(初期駆動周波数を用いて設定した)周波数である参照周波数との差の大きさを判断する。これにより、振動型モータ206を所定速度で駆動するための駆動周波数が、振動子22とロータ16との接触部の摩耗に起因して、初期駆動周波数から現在駆動周波数へとどの程度変化したかを判断(検出)する。言い換えれば、初期時点に対する現在時点の振動型モータ206の駆動特性の変化を判断する。初期駆動周波数から差し引く所定値は、例えば、後述する温度周波数オフセット量である。
【0048】
振幅決定部212は、特性変化判断部211での判断結果に応じて振幅を決定し、該振幅をドライブ部204に出力する。特性変化判断部211および振幅決定部212により振幅制御手段が構成される。
【0049】
215は振動型モータ206の周囲温度(環境温度)を検出する温度センサ(温度検出手段)である。温度センサ215により検出された周囲温度の情報は、振幅決定部212に入力される。
【0050】
エンコーダ208による振動型モータ206の回転に応じたパルス信号の生成タイミングと、特性変化判断部211での判断タイミングについて、図7を用いて説明する。時刻tは、エンコーダ208から出力される2相のパルス信号のうち一方(エンコーダパルスA)のパルスエッジが到来した時刻である。該時刻tにおいて、その直前のパルス周期を検出して特性変化判断部211に出力すると、周波数制御部210は、期間Sにおいて制御演算を行い、駆動周波数fを決定する。パルスエッジが到来するごとにこれを繰り返すことで、最新のパルス周期 Tに基づいて駆動周波数fが決定される。
【0051】
次に、本実施例の駆動装置において行われる振動型モータ206の駆動を制御するための処理について、図8〜10のフローチャートを用いて説明する。この駆動制御処理は、一体又は別体のコンピュータにより構成されるシステム制御部202、ドライブ部204、周波数制御部210、特性変化判断部211および振幅決定部212が、コンピュータプログラム(駆動制御プログラム)に従って実行する。図8には、駆動制御処理のメインフローを示している。
【0052】
システム制御部202から駆動開始を指令する駆動指令信号が出力されると(ステップS102)、特性変化判断部211および振幅決定部212は、後に図10を用いて説明する振幅決定処理を行う(ステップS104)。また、周波数制御部210およびドライブ部204は、記憶部213に格納された初期駆動周波数と振幅決定処理により決定されたパルスデューティに従ってA相およびB相駆動電圧を生成する。そして、これらA相およびB相駆動電圧を振動型モータ206に印加し、該振動型モータ206の駆動を開始する(ステップS106)。
【0053】
次に、特性変化判断部211は、後に図9を用いて説明する駆動周波数算出処理を行う(ステップS108)。そして、駆動周波数算出処理が終了することにより、システム制御部202およびドライブ部204は、振動型モータ206の駆動を停止する(ステップS110)。
【0054】
図9を用いて、図8のステップS108にて行われる駆動周波数算出処理について説明する。特性変化判断部211は、エンコーダ208からの2相のパルス信号の立ち上がりおよび立ち下がりエッジ(パルスエッジ)が到来するごとに(ステップS202)、振動型モータ206の回転位置が目標位置に到達したか否かを判定する(ステップS204)。目標位置に到達したときは、特性変化判断部211は、駆動周波数算出処理を終了する。
【0055】
一方、目標位置に到達していないときは、特性変化判断部211は、エンコーダ208が検出するパルス周期とシステム制御部202が設定した目標速度とに基づいて駆動周波数 fを取得する(ステップS206)。そして、ステップS202〜S206をn回繰り返して駆動周波数f〜fを取得する(ステップS208)。特性変化判断部211は、該n回の駆動における駆動周波数f〜fの平均値である平均駆動周波数fave_jを計算する(ステップS210)。
【0056】
さらに、ステップS202〜S210をm回繰り返すことによって平均駆動周波数fave_1〜fave_mを取得する(ステップS212)。特性変化判断部211は、fave_1〜fave_mの平均値を現在駆動周波数fcurrentとして算出する(ステップS214)。そして、特性変化判断部211は、振動型モータ206の駆動特性の変化を判断する際に参照するために、現在駆動周波数fcurrentを特性変化判断部211内の記憶領域Aに格納し(ステップS216)、ステップS202へと戻る。
【0057】
なお、ステップS202〜S210の処理は、パルスエッジをn回検出するごとの移動平均として平均駆動周波数fave_jを算出してもよい。
【0058】
次に、図10を用いて、図8のステップS104にて行われる振幅決定処理について説明する。まず、特性変化判断部211は、温度センサ215を通じて振動型モータ206の周囲温度(環境温度)を検出する(ステップS300)。周囲温度が0℃未満であるときは、特性変化判断部211は、周囲温度に応じた駆動周波数のオフセット量(以下、温度周波数オフセット量という)ftemp_ofsetを、ftemp_offset_aに決定する(ステップS302)。一方、周囲温度が0℃以上で40℃未満であるときは、特性変化判断部211は、温度周波数オフセット量ftemp_ofsetを、ftemp_offset_bに決定する(ステップS304)。さらに、周囲温度が40℃以上であるときは、特性変化判断部211は、温度周波数オフセット量ftemp_ofsetをftemp_offset_cに決定する(ステップS306)。
【0059】
なお、ftemp_offset_a,ftemp_offset_b,ftemp_offset_cはそれぞれテーブルデータとして特性変化判断部211内の記憶領域に格納されている。また、ftemp_offset_aは正の値であり、ftemp_offset_cは負の値である。ステップS302,S304,S306からはステップS308に進む。
【0060】
本実施例では、上述した3つの周囲温度範囲にて温度周波数オフセット量を異ならせるが、より細かい周囲温度範囲にて温度周波数オフセット量を異ならせるようにしてもよい。また、必要に応じて、振動型モータ206の回転速度の範囲ごとに、初期駆動周波数から差し引く所定値としての駆動周波数のオフセット量を変更して、さらに判定の精度を上げるようにしてもよい。
【0061】
ステップS308では、特性変化判断部211は、システム制御部202がどの駆動速度での振動型モータ206の駆動を指令しているのかを判定し、該指令された駆動速度(指令速度)に応じた初期駆動周波数を記憶部213から読み出す。本実施例では、指令速度として、遅い順に速度VL、速度VMおよび速度VHの中から選択される。
【0062】
指令速度が最も遅い速度VLである場合は、特性変化判断部211は、速度VLに対応する初期駆動周波数finit_L から温度オフセット量ftemp_ofsetを差し引いて参照周波数を設定する。そして、特性変化判断部211は、該参照周波数と、記憶領域Aに格納された現在駆動周波数fcurrentとの差Δfを算出する(ステップS310)。
【0063】
さらに、特性変化判断部211は、その差Δf、つまりは温度変化の影響ではなく摩耗に起因した現在駆動周波数fcurrentの初期駆動周波数finit_Lに対する変化の大きさを判定する(ステップS312)。具体的には、ステップS310にて算出したΔfが第1の閾値VL_Limit1以下か、第1の閾値VL_Limit1より大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2(>VL_Limit1)以下かおよび第2の閾値VL_Limit2より大きいかを判定する。
【0064】
Δfが第1の閾値VL_Limit1以下であるときは、特性変化判断部211は、ドライブ部204により生成される駆動パルスのデューティー(つまりはパルス幅)を第1のデューティーに決定する(ステップS314)。Δfが第1の閾値VL_Limit1よりも大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2以下であるときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第2のデューティーに決定する(ステップS316)。Δfが第2の閾値VL_Limit2よりも大きいときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定する(ステップS318)。第1〜第3のデューティーは、
第1のデューティー<第2のデューティー<第3のデューティー
という関係を有する。この第1〜第3のデューティーの大小関係は、指令速度が速度VMや速度VHである場合も同じである。
【0065】
速度VLに対する第1のデューティー、第2のデューティーおよび第3のデューティーはそれぞれ、例えば25%、30%および35%である。
【0066】
このように本実施例では、現在駆動周波数と参照周波数との差が大きいほど、振動子22とロータ16間でのトルク伝達効率が低下しているものとみなし、駆動パルスのパルス幅、つまりは振動型モータ206に印加する交流電圧の振幅を増加させる。これにより、振動子22とロータ16との接触面の摩耗の進行により振動型モータ206の駆動特性が変化しても、振動型モータ206を安定的に駆動することができる。そして、振動型モータ206の動作不良の発生を未然に防止することができる。
【0067】
指令速度が中間の速度VMである場合は、特性変化判断部211は、速度VMに対応する初期駆動周波数finit_M から温度オフセット量ftemp_ofsetを差し引いて参照周波数を設定する。そして、特性変化判断部211は、該参照周波数と、記憶領域Aに格納された現在駆動周波数fcurrentとの差Δfを算出する(ステップS320)。
【0068】
さらに、特性変化判断部211は、その差Δf、つまりは現在駆動周波数fcurrentの初期駆動周波数finit_Mに対する変化の大きさを判定する(ステップS322)。具体的には、ステップS320にて算出したΔfが第1の閾値VM_Limit1以下か、第1の閾値VM_Limit1より大きく、かつ第2の閾値VM_Limit2(>VM_Limit1)以下かおよび第2の閾値VM_Limit2より大きいかを判定する。
【0069】
Δfが第1の閾値VM_Limit1以下であるときは、特性変化判断部211は、ドライブ部204により生成される駆動パルスのデューティーを第1のデューティーに決定する(ステップS324)。Δfが第1の閾値VM_Limit1よりも大きく、かつ第2の閾値VM_Limit2以下であるときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第2のデューティーに決定する(ステップS326)。Δfが第2の閾値VM_Limit2よりも大きいときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定する(ステップS328)。
【0070】
速度VMに対する第1のデューティー、第2のデューティーおよび第3のデューティーはそれぞれ、例えば30%、35%および40%である。
【0071】
指令速度が最も速い速度VHである場合は、特性変化判断部211は、速度VHに対応する初期駆動周波数finit_H から温度オフセット量ftemp_ofsetを差し引いて参照周波数を設定する。そして、特性変化判断部211は、該参照周波数と、記憶領域Aに格納された現在駆動周波数fcurrentとの差Δfを算出する(ステップS330)。
【0072】
さらに、特性変化判断部211は、その差Δf、つまりは現在駆動周波数fcurrentの初期駆動周波数finit_Hに対する変化の大きさを判定する(ステップS332)。具体的には、ステップS330にて算出したΔfが第1の閾値VH_Limit1以下か、第1の閾値VH_Limit1より大きく、かつ第2の閾値VH_Limit2(>VH_Limit1)以下かおよび第2の閾値VH_Limit2より大きいかを判定する。
【0073】
Δfが第1の閾値VH_Limit1以下であるときは、特性変化判断部211は、ドライブ部204により生成される駆動パルスのデューティーを第1のデューティーに決定する(ステップS334)。Δfが第1の閾値VH_Limit1よりも大きく、かつ第2の閾値VH_Limit2以下であるときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第2のデューティーに決定する(ステップS336)。Δfが第2の閾値VH_Limit2よりも大きいときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定する(ステップS338)。
【0074】
速度VHに対する第1のデューティー、第2のデューティーおよび第3のデューティーはそれぞれ、例えば30%、35%および40%である。
【0075】
このように本実施例では、指令速度に応じて駆動パルスのパルス幅、つまりは振動型モータ206に印加する交流電圧の振幅を変化させる。これにより、指令速度にかかわらず、振動型モータを安定的に駆動することができる。
【0076】
なお、本実施例では、振動型モータ206の摩耗による劣化を検出するための初期駆動周波数や現在駆動周波数として、振動型モータを同じ駆動区間(回転角度範囲)にて複数回駆動して求めた平均駆動周波数を用いている。これにより、同じ駆動区間を複数回駆動する間に振動型モータの負荷に変動が生じても、平均駆動周波数は該負荷変動による影響を受けにくいため、劣化の検出精度を向上させることができる。
【0077】
また、Δfの第1および第2の閾値に対する大小を判断する場合に、Δfが各閾値に対して所定の複数回大きい又は小さいと判断されたかを判断条件としてもよい。例えば、Δfが合計3回又は連続して2回、第2の閾値より大きいと判断されたときに、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定するようにしてもよい。
【実施例2】
【0078】
次に、本発明の実施例2である駆動装置において行われる振動型モータの駆動を制御するための処理について、図11〜13のフローチャートを用いて説明する。本実施例の駆動装置の構成は、実施例1の駆動装置の構成と同様であるため、共通する構成要素には実施例1と同符号を付す。
【0079】
実施例1では駆動周波数の変化に応じて交流電圧の振幅を制御するのに対して、本実施例では速度むらの変化に応じて交流電圧の振幅を制御する。この駆動制御処理は、一体又は別体のコンピュータにより構成されるシステム制御部202、ドライブ部204、周波数制御部210、特性変化判断部211および振幅決定部212が、コンピュータプログラム(駆動制御プログラム)に従って実行する。図11には、駆動制御処理のメインフローを示している。
【0080】
システム制御部202から駆動開始を指令する駆動指令信号が出力されると(ステップS402)、特性変化判断部211および振幅決定部212は、後に図13を用いて説明する振幅決定処理を行う(ステップS404)。また、周波数制御部210およびドライブ部204は、記憶部213に格納された初期駆動周波数と振幅決定処理により決定されたパルスデューティに従ってA相およびB相駆動電圧を生成する。そして、該A相およびB相駆動電圧を振動型モータ206に印加して、該振動型モータ206の駆動を開始する(ステップS406)。
【0081】
次に、特性変化判断部211は、後に図14を用いて説明する速度むら算出処理を行う(ステップS408)。そして、速度むら算出処理が終了することにより、システム制御部202およびドライブ部204は、振動型モータ206の駆動を停止する(ステップS410)。
【0082】
図12を用いて、図11のステップS408にて行われる速度むら算出処理について説明する。特性変化判断部211は、エンコーダ208からの2相のパルス信号の立ち上がりおよび立ち下がりエッジ(パルスエッジ)が到来するごとに(ステップS502)、振動型モータ206の回転位置が目標位置に到達したか否かを判定する(ステップS504)。目標位置に到達したときは、特性変化判断部211は、駆動周波数算出処理を終了する。
【0083】
一方、目標位置に到達していないときは、特性変化判断部211は、エンコーダ208が検出するパルス周期に相当する駆動速度Vを取得する(ステップS506)。そして、ステップS502〜S506をn回繰り返すことで駆動速度 V〜V を取得すると(ステップS508)、特性変化判断部211は、該駆動速度の最大値Vmax_jと最小値Vmin_jを取得する。さらに、式701によって、最大値Vmax_jと最小値Vmin_jの差に相当する速度変動幅WFjを算出する(ステップS510)。
WFj=Vmax_jm−Vmin_j (式701)
こうしてステップS502〜S510をm回繰り返すことで、特性変化判断部211は、該m回の駆動のそれぞれにおける駆動速度の最大値Vmax〜Vmax、最小値Vmin〜Vminおよび速度変動幅WF〜WFを取得する。
【0084】
次に、ステップS514において、特性変化判断部211は、駆動速度の最大値Vmax〜Vmax の平均値をVmaxとして算出し、駆動速度の最小値Vmin〜Vmin の平均値をVminとして算出する。さらに、特性変化判断部211は、式702によって最大値Vmaxと最小値Vminの差である速度変動幅WFcurrentを算出する(ステップS514)。
WFcurrent=Vmax−Vmin (式702)
そして、特性変化判断部211は、速度変動幅WFcurrentを、振動型モータ206の駆動特性の変化を判断する際に参照するために、現在駆動速度むら(第2の速度変動量)として特性変化判断部211内の記憶領域Aに格納する(ステップS516)。その後、ステップS502へと戻る。
【0085】
次に、図13を用いて、図11のステップS404にて行われる振幅決定処理について説明する。まず、特性変化判断部211は、システム制御部202がどの駆動速度での振動型モータ206の駆動を指令しているのかを判定し、該指令された駆動速度(指令速度)に応じた初期駆動速度むら(第1の速度変動量)を記憶部213から読み出す。初期駆動速度むらは、第1の時点である初期時点において、同じ周波数で同じ振幅の交流電圧を振動型モータ206に印加したときの振動型モータ206の駆動速度の変動量を意味する。なお、記憶部213には、システム制御部202が目標速度として設定する複数の指令速度(所定速度)に対応する複数の初期駆動速度むらが格納されている。
【0086】
本実施例でも、指令速度として、遅い順に速度VL、速度VMおよび速度VHの中から選択されるものとする。
【0087】
指令速度が最も遅い速度VLである場合は、特性変化判断部211は、速度VLに対応する初期駆動速度むらWFinit_L と記憶領域Aに格納された現在駆動速度むらWFcurrentとの差ΔWFを算出する(ステップS610)。本実施例では、初期駆動速度むらがそのまま参照速度変動量として用いられるが、初期駆動速度むらに対して所定値を加えたり減じたりした値を参照速度変動量として用いてもよい。
【0088】
そして、特性変化判断部211は、その差ΔWF、つまりは摩耗に起因した現在駆動速度むらWFcurrentの初期駆動速度むらWFinit_Lに対する変化の大きさを判定する(ステップS612)。具体的には、ΔWFが第1の閾値VL_Limit1以下か、第1の閾値VL_Limit1より大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2(>VL_Limit1)以下かおよび第2の閾値VL_Limit2より大きいかを判定する。
【0089】
ΔWFが第1の閾値VL_Limit1以下であるときは、特性変化判断部211は、ドライブ部204により生成される駆動パルスのデューティー(つまりはパルス幅)を第1のデューティーに決定する(ステップS614)。ΔWFが第1の閾値VL_Limit1よりも大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2以下であるときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第2のデューティーに決定する(ステップS616)。ΔWFが第2の閾値VL_Limit2よりも大きいときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定する(ステップS618)。第1〜第3のデューティーは、
第1のデューティー<第2のデューティー<第3のデューティー
という関係を有する。この第1〜第3のデューティーの大小関係は、指令速度が速度VMや速度VHである場合も同じである。
【0090】
速度VLに対する第1のデューティー、第2のデューティーおよび第3のデューティーはそれぞれ、例えば25%、30%および35%である。
【0091】
このように本実施例では、現在駆動速度むらと初期駆動速度むらとの差が大きいほど、振動子22とロータ16間でのトルク伝達効率が低下しているものとみなし、駆動パルスのパルス幅、つまりは振動型モータ206に印加する交流電圧の振幅を増加させる。これにより、振動子22とロータ16との接触面の摩耗の進行により振動型モータ206の駆動特性が変化しても、振動型モータ206を安定的に駆動することができる。そして、振動型モータ206の動作不良の発生を未然に防止することができる。
【0092】
指令速度が中間の速度VMである場合は、特性変化判断部211は、速度VMに対応する初期駆動速度むらWFinit_Mと記憶領域Aに格納された現在駆動速度むらWFcurrentとの差ΔWFを算出する(ステップS620)。そして、特性変化判断部211は、その差ΔWF、つまりは現在駆動速度むらWFcurrentの初期駆動速度むらWFinit_Mに対する変化の大きさを判定する(ステップS622)。具体的には、ΔWFが第1の閾値VL_Limit1以下か、第1の閾値VL_Limit1より大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2(>VL_Limit1)以下かおよび第2の閾値VL_Limit2より大きいかを判定する。
【0093】
ΔWFが第1の閾値VL_Limit1以下であるときは、特性変化判断部211は、ドライブ部204により生成される駆動パルスのデューティーを第1のデューティーに決定する(ステップS624)。ΔWFが第1の閾値VL_Limit1よりも大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2以下であるときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第2のデューティーに決定する(ステップS626)。ΔWFが第2の閾値VL_Limit2よりも大きいときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定する(ステップS628)。
【0094】
速度VMに対する第1のデューティー、第2のデューティーおよび第3のデューティーはそれぞれ、例えば30%、35%および40%である。
【0095】
指令速度が最も速い速度VHである場合は、特性変化判断部211は、速度VHに対応する初期駆動速度むらWFinit_Hと記憶領域Aに格納された現在駆動速度むらWFcurrentとの差ΔWFを算出する(ステップS630)。そして、特性変化判断部211は、その差ΔWF、つまりは現在駆動速度むらWFcurrentの初期駆動速度むらWFinit_Hに対する変化の大きさを判定する(ステップS632)。具体的には、ΔWFが第1の閾値VL_Limit1以下か、第1の閾値VL_Limit1より大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2(>VL_Limit1)以下かおよび第2の閾値VL_Limit2より大きいかを判定する。
【0096】
ΔWFが第1の閾値VL_Limit1以下であるときは、特性変化判断部211は、ドライブ部204により生成される駆動パルスのデューティーを第1のデューティーに決定する(ステップS634)。ΔWFが第1の閾値VL_Limit1よりも大きく、かつ第2の閾値VL_Limit2以下であるときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第2のデューティーに決定する(ステップS636)。ΔWFが第2の閾値VL_Limit2よりも大きいときは、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定する(ステップS638)。
【0097】
速度VHに対する第1のデューティー、第2のデューティーおよび第3のデューティーはそれぞれ、例えば30%、35%および40%である。
【0098】
このように本実施例では、指令速度に応じて駆動パルスのパルス幅、つまりは振動型モータ206に印加する交流電圧の振幅を変化させる。これにより、指令速度にかかわらず、振動型モータを安定的に駆動することができる。
【0099】
なお、本実施例では、振動型モータ206の摩耗による劣化を検出するための初期駆動速度むらや現在駆動速度むらとして、振動型モータを同じ駆動区間(回転角度範囲)にて複数回駆動して求めた平均駆動速度むらを用いている。これにより、同じ駆動区間を複数回駆動する間に振動型モータの負荷に変動が生じても、平均駆動速度むらは該負荷変動による影響を受けにくいため、劣化の検出精度が向上する。
【0100】
また、ΔWFの第1および第2の閾値に対する大小を判断する場合に、ΔWFが各閾値に対して所定の複数回大きい又は小さいと判断されたかを判断条件としてもよい。例えば、ΔWFが合計3回又は連続して2回、第2の閾値より大きいと判断されたときに、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定するようにしてもよい。
【実施例3】
【0101】
次に、本発明の実施例3である駆動装置において行われる振動型モータの駆動を制御するための処理について、図14のフローチャートを用いて説明する。本実施例の駆動装置の構成は、実施例1の駆動装置の構成と同様であるため、共通する構成要素には実施例1と同符号を付す。この駆動制御処理は、一体又は別体のコンピュータにより構成されるシステム制御部202、ドライブ部204、周波数制御部210、特性変化判断部211および振幅決定部212が、コンピュータプログラム(駆動制御プログラム)に従って実行する。図14には、駆動制御処理のメインフローを示している。
【0102】
システム制御部202から駆動開始を指令する駆動指令信号が出力されると(ステップS702)、特性変化判断部211および振幅決定部212は、ステップS704からの振幅決定処理を行う。カウント手段としての特性変化判断部211は、初期時点から、エンコーダ208から出力される2相のパルス信号のパルス数、つまりは駆動量をカウントしてこれを積算している。この積算駆動量としての駆動距離カウンタは、特性変化判断部211内の記憶領域に記憶される。
【0103】
そして、特性変化判断部211は、駆動距離カウンタの大きさを判断する(ステップS704)。具体的には、駆動距離カウンタが、第1の閾値Xより小さいか、第1の閾値X以上、かつ第2の閾値Y(>X)以下かおよび第2の閾値Yより大きいかを判定する。
【0104】
駆動距離カウンタが第1の閾値Xより小さい場合は、特性変化判断部211は、ドライブ部204により生成される駆動パルスのデューティーを第1のデューティーに決定する(ステップS706)。駆動距離カウンタが第1の閾値X以上、かつ第2の閾値Y以下である場合は、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第2のデューティーに決定する(ステップS708)。さらに、駆動距離カウンタが第2の閾値Yより大きい場合は、特性変化判断部211は、駆動パルスのデューティーを第3のデューティーに決定する(ステップS710)。
【0105】
第1〜第3のデューティーは、
第1のデューティー<第2のデューティー<第3のデューティー
という関係を有する。第1のデューティー、第2のデューティーおよび第3のデューティーはそれぞれ、例えば25%、30%および35%である。
【0106】
こうして、特性変化判断部211が駆動パルスのデューティー、つまりは振動型モータ206に印加する交流電圧の振幅を決定する。システム制御部202は、ステップS712へ進み、該決定された振幅を有する交流電圧による振動型モータ206の駆動を開始する。
【0107】
続いて、特性変化判断部211は、エンコーダ208から出力される2相のパルス信号のエッジ(パルスエッジ)が到来するごとに(ステップS714)、駆動距離カウンタを1カウントアップする(ステップS716)。そして、特性変化判断部211は、振動型モータ206の回転位置が目標位置に到達したか否かを判定する(ステップS718)。目標位置に到達していないときは、特性変化判断部211は、ステップS714に戻り、ステップS714〜S716の処理を繰り返す。また、目標位置に到達したときは、システム制御部202およびドライブ部204は、振動型モータ206の駆動を停止する(ステップS720)。
【0108】
このように本実施例では、振動型モータ206の積算駆動量をカウントし、該積算駆動量に対応する振動子22とロータ16との接触面の摩耗状態(劣化状態)に応じて、振動型モータ206に印加する交流電圧の振幅を決定する。すなわち、積算駆動量が増加するほど振幅を増加させる。このため、実施例1,2と比較して、劣化状態を判定するための計算が不要であり、負荷の少ない処理で振動型モータ206の駆動を安定的に行うことができる。
【実施例4】
【0109】
図15には、実施例1〜3にて説明した駆動装置のうちいずれかが搭載された光学機器としての交換レンズを示している。
【0110】
800は交換レンズであり、その内部には、第1のレンズ811および第2のレンズ(光学素子)812により構成される撮影光学系と、第2のレンズ812を光軸方向に移動させるアクチュエータとしての振動型モータ801とが収容されている。振動型モータ801は、図1に示した(図5中に符号206で示した)棒状振動型モータである。振動型モータ801の駆動力は、不図示の伝達機構を介して第2のレンズ812に伝達され、これを移動させる。
【0111】
また、交換レンズ800の内部には、該振動型モータ801の駆動を制御する実施例1〜3のいずれかにて説明した駆動装置802も収容されている。
【0112】
交換レンズ800は、デジタルカメラ850に装着される。デジタルカメラ850には、撮影光学系により形成された被写体像を光電変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子851が搭載されている。デジタルカメラ850は、撮像素子851からの出力に基づいて、撮影画像を生成する。
【0113】
また、図16には、実施例1〜3にて説明した駆動装置のうちいずれかが搭載された光学機器としてのレンズ格納式デジタルカメラを示している。900はデジタルカメラ本体であり、910はデジタルカメラ本体900に対して図に示した突出位置(ワイド位置〜テレ位置)と格納位置との間で伸縮可能なレンズ鏡筒である。レンズ鏡筒910の内部には、第1のレンズ911および第2のレンズ912により構成される撮影光学系が収容されている。レンズ鏡筒がワイド位置とテレ位置との間で伸縮することで、撮影光学系のズームが可能である。
【0114】
デジタルカメラ本体900の内部には、レンズ鏡筒910(つまりは光学素子である第1および第2のレンズ911,912)をワイド位置、テレ位置および格納位置間で伸縮(移動)させるアクチュエータとしての振動型モータ901が収容されている。振動型モータ901は、図1に示した(図5中に符号206で示した)棒状振動型モータである。振動型モータ901の駆動力は、不図示の伝達機構を介してレンズ鏡筒910に伝達され、これを伸縮させる。
【0115】
さらに、デジタルカメラ本体900の内部には、振動型モータ901の駆動を制御する実施例1〜3のいずれかにて説明した駆動装置902と、撮影光学系により形成された被写体像を光電変換する撮像素子915も収容されている。このように形成されたデジタルカメラは、撮像素子915からの出力に基づいて、撮影画像を生成する。
【0116】
実施例1にて説明した平均駆動周波数や実施例2にて説明した平均駆動速度むらを求めるための振動型モータの駆動区間として、格納位置とワイド位置の間の区間を選択してもよい。
【0117】
本実施例では、振動型モータおよび駆動装置を搭載した交換レンズやデジタルカメラについて説明したが、交換レンズ以外であっても、振動型モータによって駆動される光学素子を含む光学系を有する光学機器であれば、本発明の他の実施例として含まれる。
【0118】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
振動型モータを安定的に駆動する駆動装置およびこれを備えた光学機器を提供できる。
【符号の説明】
【0120】
202 システム制御部
204 ドライブ部
206 振動型モータ
208 エンコーダ
210 周波数制御部
211 特性変化判断部
212 振幅決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、前記振動子および前記接触子が相対移動する振動型モータを駆動する駆動装置であって、
前記振動型モータの駆動速度を検出する速度検出手段と、
該速度検出手段により検出される前記駆動速度が所定速度になるように前記周波電圧の周波数を制御する周波数制御手段と、
第1の時点において前記駆動速度を前記所定速度とする前記周波電圧の周波数である第1の周波数を記憶する記憶手段と、
前記第1の時点よりも後の第2の時点において前記駆動速度を前記所定速度とする前記周波電圧の周波数である第2の周波数を取得し、該第2の周波数と前記第1の周波数を用いて設定した参照周波数との差に応じて前記周波電圧の振幅を制御する振幅制御手段とを有することを特徴とする振動型モータの駆動装置。
【請求項2】
前記振幅制御手段は、前記差が大きいほど前記振幅を増加させることを特徴とする請求項1に記載の振動型モータの駆動装置。
【請求項3】
前記振動型モータの周囲温度を検出する温度検出手段を有しており、
前記振幅制御手段は、前記第1の周波数と前記温度検出手段により検出された前記周囲温度とを用いて前記参照周波数を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型モータの駆動装置。
【請求項4】
電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、前記振動子および前記接触子が相対移動する振動型モータを駆動する駆動装置であって、
前記振動型モータの駆動速度を検出する速度検出手段と、
該速度検出手段により検出される前記駆動速度が所定速度になるように前記周波電圧の周波数を制御する周波数制御手段と、
第1の時点において前記振動型モータが前記所定速度で駆動されている間の速度変動量である第1の速度変動量を記憶する記憶手段と、
前記第1の時点よりも後の第2の時点において前記振動型モータが前記所定速度で駆動されている間の速度変動量である第2の速度変動量を取得し、該第2の速度変動量と前記第1の速度変動量を用いて設定した参照速度変動量との差に応じて前記周波電圧の振幅を制御する振幅制御手段とを有することを特徴とする振動型モータの駆動装置。
【請求項5】
前記振幅制御手段は、前記差が大きいほど前記振幅を増加させることを特徴とする請求項4に記載の振動型モータの駆動装置。
【請求項6】
電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、前記振動子および前記接触子が相対移動する振動型モータを駆動する駆動装置であって、
前記振動型モータの駆動速度を検出する速度検出手段と、
該速度検出手段により検出される前記駆動速度が所定速度になるように前記周波電圧の周波数を制御する周波数制御手段と、
前記振動型モータの積算駆動量をカウントするカウント手段と、
前記積算駆動量に応じて前記周波電圧の振幅を制御する振幅制御手段とを有することを特徴とする振動型モータの駆動装置。
【請求項7】
前記振幅制御手段は、前記積算駆動量が増加するほど前記振幅を増加させることを特徴とする請求項6に記載の振動型モータの駆動装置。
【請求項8】
電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、前記振動子および前記接触子が相対移動する振動型モータと、
請求項1から7のいずれか一項に記載の駆動装置と、
前記振動型モータからの駆動力により移動する光学素子を含む光学系とを有することを特徴とする光学機器。
【請求項9】
電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、前記振動子および前記接触子が相対移動する振動型モータを駆動する駆動方法であって、
前記振動型モータの駆動速度を検出し、該駆動速度が所定速度になるように前記周波電圧の周波数を制御するステップと、
第1の時点において前記駆動速度を前記所定速度とする前記周波電圧の周波数である第1の周波数を記憶するとともに、前記第1の時点よりも後の第2の時点において前記駆動速度を前記所定速度とする前記周波電圧の周波数である第2の周波数を取得し、該第2の周波数と前記第1の周波数を用いて設定した参照周波数との差に応じて前記周波電圧の振幅を制御するステップとを有することを特徴とする振動型モータの駆動方法。
【請求項10】
電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、前記振動子および前記接触子が相対移動する振動型モータを駆動する駆動方法であって、
前記振動型モータの駆動速度を検出し、該駆動速度が所定速度になるように前記周波電圧の周波数を制御するステップと、
第1の時点において前記振動型モータが前記所定速度で駆動されている間の速度変動量である第1の速度変動量を記憶するとともに、前記第1の時点よりも後の第2の時点において前記振動型モータが前記所定速度で駆動されている間の速度変動量である第2の速度変動量を取得し、該第2の速度変動量と前記第1の速度変動量を用いて設定した参照速度変動量との差に応じて前記周波電圧の振幅を制御するステップとを有することを特徴とする振動型モータの駆動方法。
【請求項11】
電気−機械エネルギ変換素子に周波電圧が印加されることにより振動が励起される振動子および該振動子と接触する接触子を含み、前記振動子および前記接触子が相対移動する振動型モータを駆動する駆動方法であって、
前記振動型モータの駆動速度を検出し、該駆動速度が所定速度になるように前記周波電圧の周波数を制御するステップと、
前記振動型モータの積算駆動量をカウントし、該積算駆動量に応じて前記周波電圧の振幅を制御するステップとを有することを特徴とする振動型モータの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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