振動型駆動装置
【課題】振動型駆動装置において、弾性体にクラックの発生を抑えられる形状を与えることで、最大回転数をより高くする。
【解決手段】振動型駆動装置は、弾性体7および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、弾性体との摩擦により回転する回転子を有する。弾性体において振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部7eを有する。凹部のうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面7e1,7e2が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜しており、かつ凹部の内周側の部分における該2つの面の間に、凹曲面7e3が形成されている。
【解決手段】振動型駆動装置は、弾性体7および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、弾性体との摩擦により回転する回転子を有する。弾性体において振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部7eを有する。凹部のうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面7e1,7e2が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜しており、かつ凹部の内周側の部分における該2つの面の間に、凹曲面7e3が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−機械エネルギ変換素子により励起した振動を用いて駆動力を得る振動波モータ等と称される振動型駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような振動型駆動装置は、例えば特許文献1にて開示されている。振動型駆動装置は、弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、振動する弾性体との摩擦により回転する回転子とにより構成されている。
【0003】
図9には、従来の一般的な振動型駆動装置の構成を示している。この図において、回転子16a,16bの回転中心軸が延びる方向を軸方向という。図10には、図9に示す振動型駆動装置に用いられている弾性体107の一部の断面を示している。弾性体107は、軸方向両側に振動部107a,107bを有するとともに、これら振動部107a,107bの間に圧電素子保持部107c,107dを有する。この弾性体107は、振動部107aおよび圧電素子保持部107cを有する第1の弾性体と、振動部107bおよび圧電素子保持部107dを有する第2の弾性体とが、圧電素子保持部側で接合されて一体化されている。
【0004】
2つの圧電素子保持部107c,107dの間には、電気−機械エネルギ変換素子としての圧電素子9が挟み込まれて保持されている。圧電素子9に、フレキシブル基板8を介して互いに位相が異なる2つの周波信号が入力される。2つの周波信号が入力された圧電素子9には、軸方向に伸長する部分と圧縮する部分とが周方向にて発生し、かつこれらの部分が周方向に順次移動する。これにより、弾性体107には、軸方向に対して屈曲し、該屈曲の方位が周方向にて順次変化するような振動が励起される。
【0005】
弾性体107における振動部107aと圧電素子保持部107cとの間および振動部107bと圧電素子保持部107dとの間には、該弾性体107の周方向に延びる凹部107eが形成されている。該凹部107eは、弾性体の周方向に直交する断面(軸方向に沿った断面)にて矩形の形状を有し、弾性体107の径方向外側に向かって開口している。弾性体107における凹部107eが形成された部分は他の部分に比べて剛性が低くなる。また、凹部107eは弾性体107に励起される振動の節となる位置に形成される。これらにより、振動部107a,107bの振幅が、凹部107eが形成されない場合に比べて拡大される。
【0006】
弾性体107および圧電素子9により構成される振動子27は、支持部材10によって不図示のケースに固定される。
【0007】
回転子16a,16bはそれぞれ、回転盤12a,12bと、該回転盤12a,12bに固定された摺動部材11a,11bとにより構成されている。回転盤12a,12bがそれぞれ加圧ばね13a,13bから軸方向の付勢力を受けることにより、摺動部材11a,11bが振動子27の振動部107a,107bに圧接される。振動する振動部107a,107bと摺動部材11a,11bとの接触摩擦によって回転子16a,16bが回転され、さらに回転盤12a,12bと一体回転する出力軸1が回転する。この出力軸1からギア等により駆動力を取り出すことができる。
【0008】
このように構成される振動型駆動装置の圧電素子9に印加される周波信号の周波数(Hz)と該振動型駆動装置の回転数(r/min)との関係を図11に示す。振動型駆動装置の回転数の最大値は、振動子の共振周波数に相当する。実際に圧電素子に印加される周波信号の周波数は、この共振周波数より高い回転数域に対応する周波数域で設定され、周波数を低くする(共振周波数に近づける)と回転数が高くなり、周波数を高くする(共振周波数から遠ざける)と回転数が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−23780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、振動型駆動装置の最大回転数は、弾性体107の機械的特性によって制限される。すなわち、回転数が、図11に示す限界回転数を超えると、図10に示すように、弾性体107における各凹部107eの最深部分(最内周部分)の角部にクラックCが発生するおそれがある。このため、回転数がこの限界回転数を超えないように最大回転数が制限される。
【0011】
したがって、弾性体107における上記のようなクラックCの発生を抑えることができれば、モータの最大回転数をより高く設定することができる。
【0012】
本発明は、弾性体にクラックの発生を抑えられる形状を与えることで、最大回転数をより高くすることができるようにした振動型駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面としての振動型駆動装置は、弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する。弾性体において振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有する。そして、凹部のうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜しており、かつ凹部の内周側の部分における該2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の他の一側面としての振動型駆動装置は、弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する。弾性体において振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有する。そして、凹部のうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、径方向に平行に延びており、かつ凹部の内周側の部分における該2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする。
【0015】
なお、上記振動型駆動装置と、これにより駆動される被駆動部材とを有する機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弾性体に振動の振幅を拡大するために設けた凹部を上記のような形状に形成することで、該弾性体におけるクラックの発生を抑えることができ、振動型駆動装置の最大回転数をより高くすることができる。そして、このような振動型駆動装置を用いることで、弾性体におけるクラック発生による動作不良が生じにくく、かつ被駆動部材をより高速で駆動することが可能な機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1である振動型駆動装置の全体構成を示す断面図。
【図2】実施例1の振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す断面図および部分拡大断面図。
【図3】本発明の実施例2である振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す断面図および部分拡大断面図。
【図4】実施例1,2の弾性体における応力分布を示す図。
【図5】実施例1,2にて説明した弾性体の変形例(実施例3)を示す部分拡大断面図。
【図6】本発明の実施例4である振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す部分拡大断面図。
【図7】本発明の実施例5における弾性体の製作方法を示す図。
【図8】本発明の実施例6である振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す断面図および部分拡大断面図。
【図9】従来の振動型駆動装置の全体構成を示す断面図。
【図10】従来の振動型駆動装置に用いられている弾性体の断面図。
【図11】従来の振動型駆動装置における周波信号の周波数と回転数との関係を示す図。
【図12】実施例1における弾性体の振動を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0019】
図1には、本発明の実施例1である振動型駆動装置の構成を示している。この図において、回転子16a,16bの回転中心軸が延びる方向を軸方向という。振動型駆動装置の基本的な構成は、図9に示した従来の振動型駆動装置の構成と同じである。図2には、図1に示す振動型駆動装置に用いられている弾性体7の一部の断面を示している。
【0020】
弾性体7は、軸方向両側に振動部7a,7bを有するとともに、これら振動部7a,7bの間に圧電素子保持部7c,7dを有する。この弾性体7は、振動部7aおよび圧電素子保持部7cを有する第1の弾性体と、振動部7bおよび圧電素子保持部7dを有する第2の弾性体とが、圧電素子保持部側で接合されて一体化されている。
【0021】
2つの圧電素子保持部7c,7dの間には、電気−機械エネルギ変換素子としての圧電素子9が挟み込まれて保持されている。圧電素子9には、フレキシブル基板8を介して互いに位相が異なる2つの周波信号が入力される。2つの周波信号が入力された圧電素子9には、軸方向に伸長する部分と圧縮する部分とが周方向にて発生し、かつこれらの部分が周方向に順次移動する。これにより、弾性体7には、軸方向に対して屈曲し、該屈曲の方位が周方向において順次変化するような振動が励起される。
【0022】
弾性体7における振動部7aと圧電素子保持部7cとの間および振動部7bと圧電素子保持部7dとの間には、弾性体7の周方向に延びる凹部7eが形成されている。該凹部7eは、弾性体7の径方向外側に向かって開口している。弾性体7における凹部7eが形成された部分は他の部分に比べて剛性が低くなる。また、凹部7eは弾性体7に励起される振動の節となる位置に形成される。これらにより、振動部7a,7bの振幅が、凹部7eが形成されない場合に比べて拡大される。
【0023】
図12には、弾性体7(第1の弾性体)が振動により屈曲する様子を示している。振動部7aは、弾性体7における凹部7eの近傍部分を中心(節)として、圧電素子保持部7cに対して大きく屈曲する。
【0024】
弾性体7および圧電素子9により構成される振動子17は、支持部材10によって不図示のケースに固定される。
【0025】
回転子16a,16bはそれぞれ、回転盤12a,12bと、該回転盤12a,12bに固定された摺動部材11a,11bとにより構成されている。回転盤12a,12bは、出力軸1に固定された回転係合部材14a,14bに周方向にて係合しており、これにより、回転盤12a,12bと回転係合部材14a,14bと出力軸1とが一体となって回転する。出力軸1は、ケースにおける軸方向両側に取り付けられた不図示の軸受けにより回転可能に支持されている。
【0026】
回転盤12a,12bがそれぞれ加圧ばね13a,13bから軸方向の付勢力を受けることにより、摺動部材11a,11bが振動子17の振動部7a,7bに圧接される。振動する振動部7a,7bと摺動部材11a,11bとの接触摩擦によって回転子16a,16bが回転駆動され、回転盤12a,12bおよび回転係合部材14a,14bを介して出力軸1が回転する。この出力軸1からギア等により駆動力を取り出すことができ、該駆動力を用いて、ギア、プーリ、レバー、アーム、シャフト等の被駆動部材30を駆動することができる。被駆動部材30は、振動型駆動装置を駆動源として備える各種機器の構成要素である。
【0027】
このように構成される振動型駆動装置の圧電素子9に印加される周波信号の周波数(Hz)と該振動型駆動装置の回転数(r/min)との関係は、図11に示した従来の振動型駆動装置における関係と基本的に同じである。ただし、本実施例では、最大回転数を従来よりも高くするために、以下に説明するように凹部7eの形状に特徴を持たせている。
【0028】
従来では、図10に示すように、弾性体107に設けられた凹部107eが周方向に直交する断面(軸方向に沿った断面であり、以下、周方向断面という)にて矩形の形状を有し、角部に応力集中によるクラックが発生し易かった。
【0029】
これに対して、本実施例では、周方向断面において、凹部7eのうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面(図1(A)に符号7e1,7e2で示す)が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜している。言い換えれば、上記2つの面(以下、上傾斜面7e1および下傾斜面7e2という)が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0030】
さらに、凹部7eの内周側の部分には、図1(B)に拡大して示すように、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2の内周端に段差なく繋がる凹曲面7e3が形成されている。つまり、2つの錐台(上傾斜面7e1および下傾斜面7e2)の間に、これらに滑らかに(角部が形成されないように)繋がる凹曲面7e3によって形成された内周端部を設けている。
【0031】
凹部7eの内面をこのように形成することで、図12に示すように、振動する弾性体7における凹部7eの周辺の応力を凹部7eに沿って滑らかに変化させ、応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる。このため、振動型駆動装置の最大回転数を従来に比べてより高くすることができる。
【0032】
そして、このような振動型駆動装置を各種機器における被駆動部材30の駆動源として用いることにより、弾性体におけるクラック発生による動作不良が生じにくく、かつ被駆動部材をより高速で駆動することが可能な機器を実現することができる。
【0033】
なお、傾斜面(7e1,7e2)は、周方向断面において曲率を持つ面(例えば、凸面)であってもよい。
【実施例2】
【0034】
図3(A)には、本発明の実施例2である振動型駆動装置に用いられる弾性体(第1および第2の弾性体)7′の周方向断面の形状を示している。
【0035】
本実施例の弾性体7′でも、実施例1と同様に、周方向断面において、凹部7eの内面であって軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面(上傾斜面7e1と下傾斜面7e2)が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜している。すなわち、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0036】
そして、本実施例では、凹部7eの内周側の部分の上下には、図3(B)に拡大して示すように、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e3,7e3′が形成されている。
【0037】
さらに、2つの凹曲面7e3,7e3′の間には、より内周側に凹み(外周側に開口し)、かつ周方向に延びる内周溝部7e4が形成されている。つまり、2つの錐面(上傾斜面7e1および下傾斜面7e2)の間に、これらに滑らかに(角部が形成されないように)繋がる凹曲面7e3,7e3′と該凹曲面7e3,7e3′の間に設けられた内周溝部7e4とを有する内周端部を設けている。内周溝部7e4は、矩形の周方向断面を有する。
【0038】
上傾斜面7e1および下傾斜面7e2から凹曲面7e3,7e3′にかけては角部が形成されていない。しかも、凹曲面7e3,7e3′と内周溝部7e4との間に角部が形成されることで、この周辺の応力が分散される。これにより、振動する弾性体7における凹部7eの周辺での応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる
図4(A)には、実施例1にて説明した弾性体7における凹部7eの周辺の応力分布を示している。実施例1でも、応力Sはある程度分散され、応力集中は生じていない。
【0039】
これに対して、図4(B)には、実施例2にて説明した弾性体7′における凹部7eの周辺の応力分布を示している。実施例2では、実施例1よりもさらに応力Sが分散され、応力集中の発生をより効果的に抑えている。
【実施例3】
【0040】
図5(A)〜(C)には、上述した実施例1,2における弾性体7,7′の変形例を実施例3として示している。これらの変形例でも、実施例1,2と同様に、凹部7eは、軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面であって、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜した上傾斜面7e1および下傾斜面7e2を有する。すなわち、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0041】
そして、図5(A)に示す変形例では、実施例2と同様に、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1および下傾斜面7e2のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e3,7e3′が形成されている。また、該2つの凹曲面7e3,7e3′の間に、より内周側に凹み(外周側に開口し)、かつ周方向に延びる内周溝部7e5が形成されている。つまり、2つの円錐面(上傾斜面7e1および下傾斜面7e2)の間に、これらに滑らかに(角部が形成されないように)繋がる凹曲面7e3,7e3′と、該凹曲面7e3,7e3′の間に形成された内周溝部7e5とを有する内周端部を設けている。
【0042】
内周溝部7e5は、この内周溝部7e5の開口の近くにおいて径方向に平行に延びて互いに対向する2つの平行面と、該2つの平行面よりも内周側において軸方向にて互いに対向する側に設けられ、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜した2つの傾斜面とを有する。すなわち、該2つの傾斜面が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。これらの錐面は、その内周端にて、90度又はこれよりも小さい角度で接している。これにより、内周凹部7e5が形成する角部の数を、実施例2に比べて増やし、応力の分散をより促している。
【0043】
また、図5(B)に示す変形例では、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1および下傾斜面7e2のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e6,7e7が形成されている。これら2つの凹曲面7e6,7e7は、それらの間に周方向に延びる稜線が形成されるように軸方向にて隣り合っている。このように、凹部7eの内周側の部分に、複数の凹曲面をそれらが隣り合って稜線を形成するように設けてもよい。本実施例では、実施例1に比べて、凹部7eの内周側の部分に形成される角部(稜線)の数を増やし、応力の分散をより促している。
【0044】
さらに、図5(C)に示す変形例では、実施例1と同様に、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2との間に凹曲面7e3が形成されているが、これら上傾斜面7e1,下傾斜面7e2および内周凹部7e3には、凹凸による粗さが設けられている。本実施例では、実施例1に比べて、凹部7eの内周側の部分に形成される角部(凹凸)の数を増やし、応力の分散をより促している。
【0045】
これらの変形例によっても、振動する弾性体における凹部7eの周辺での応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる。このため、振動型駆動装置の最大回転数を従来に比べてより高くすることができる。
【0046】
図5(C)に示した凹凸による粗さを、図3(実施例2)および図5(A),(B)に示した弾性体7,7′に適用してもよい。
【実施例4】
【0047】
図6には、本発明の実施例4である振動型駆動装置に用いられる弾性体の凹部7eを拡大して示している。本実施例でも、実施例1〜3と同様に、周方向断面において、凹部7eの内面であって軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面(上傾斜面7e1と下傾斜面7e2)が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜している。すなわち、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0048】
そして、本実施例では、凹部7eの内周側の部分(最内周部分から上傾斜面7e1と下傾斜面7e2の内周端付近までの部分)に、該凹部7eの内周側から外周側に向かって複数の凹曲面7e8が形成されている。そして、該複数の凹曲面7e8の曲率半径は、凹部7eの内周側から外周側に向かって大きくなっている。各凹曲面7e8は、弾性体の径方向外側に向かって凹となる曲面として形成され、かつ周方向に延びている。また、互いに隣り合う曲面7e8の間には周方向に延びる稜線が形成されている。
【0049】
このように、凹部7eの最内周部分から離れるほど大きな曲率半径を有する複数の凹曲面7e8を形成することで、凹部7eの周辺にて応力を効率的に分散させることができ、凹部7eの周辺での応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる。
【0050】
なお、本実施例にて説明した上傾斜面7e1および下傾斜面7e2における複数の凹曲面7e8を、図3および図5(A)〜(C)に示した実施例2,3の弾性体7,7′に適用してもよい。
【実施例5】
【0051】
図7には、実施例1〜4にて説明した弾性体に凹部7eを形成する方法の例を実施例5として示している。図7には、代表として実施例1にて説明した弾性体を示している。
【0052】
20は旋盤に取り付けられたバイト20である。弾性体を旋盤のチャックに保持して回転させ、かつチャックを軸方向に移動させる。そして、バイト20のノーズRを径方向に移動させながら弾性体を切削加工することで、凹部7eの上傾斜面7e1、下傾斜面7e2および凹曲面7e3を形成することができる。
【0053】
さらに、実施例2,3,4の弾性体の凹部も、バイト20の形状やノーズ半径を変更することで、同様にして形成することができる。
【0054】
また、実施例1〜4の弾性体の凹部7eは、旋盤に限らず、フライス盤や研削盤等の加工機械を用いて形成することもできる。
【実施例6】
【0055】
図8(A)〜(C)には、本発明の実施例6である振動型駆動装置に用いられる弾性体7″を示している。
【0056】
この弾性体7″に設けられた凹部7eは、実施例1〜3と異なり、それぞれ軸方向にて互いに対向し、かつ径方向に平行に延びる上面7e1″および下面7e2″を有する。そして、該凹部7eの内周側の部分における上面7e1″と下面7e2″との間には、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上面7e1″と下面7e2″のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e3,7e3′が形成されている。
【0057】
さらに、2つの凹曲面7e3,7e3′の間には、実施例2で説明した内周溝部7e4又は実施例3で説明した内周溝部7e5が形成されている。
【0058】
このように、凹部7eの上面7e1″と下面7e2″を錐面としなくても、凹部7eの内周側の部分に凹曲面7e3,7e3′や内周溝部7e4,7e5を形成することで、これらを形成しない場合に比べて凹部7eの周辺での応力集中の発生をある程度抑えることが可能である。
【0059】
なお、本実施例における凹部7eの内周側の部分における上面7e1″と下面7e2″との間に、内周溝部7e4,7e5を形成せず、図2(実施例1)に示したように凹曲面7e3のみを形成したり、図5(B)(実施例3)に示したように2つの凹曲面7e6,7e7のみを形成したりしてもよい。
【0060】
また、本実施例における上面7e1、下面7e2および凹曲面7e3(7e3′,7e6,7e7)に、図5(C)(実施例3)および図6(実施例4)にて説明した凹凸による粗さや内周側から外周側に向かって曲率半径が大きくなる複数の凹曲面を形成してもよい。
【0061】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
最大回転数が高い振動型駆動装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 出力軸
4 軸受け
7,7′,7″ 弾性体
7e 凹部
9 圧電素子
10 支持部材
11 摺動部材
12 回転盤
13 加圧ばね
16a,16b 回転子
17 振動子
20 バイト
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−機械エネルギ変換素子により励起した振動を用いて駆動力を得る振動波モータ等と称される振動型駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような振動型駆動装置は、例えば特許文献1にて開示されている。振動型駆動装置は、弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、振動する弾性体との摩擦により回転する回転子とにより構成されている。
【0003】
図9には、従来の一般的な振動型駆動装置の構成を示している。この図において、回転子16a,16bの回転中心軸が延びる方向を軸方向という。図10には、図9に示す振動型駆動装置に用いられている弾性体107の一部の断面を示している。弾性体107は、軸方向両側に振動部107a,107bを有するとともに、これら振動部107a,107bの間に圧電素子保持部107c,107dを有する。この弾性体107は、振動部107aおよび圧電素子保持部107cを有する第1の弾性体と、振動部107bおよび圧電素子保持部107dを有する第2の弾性体とが、圧電素子保持部側で接合されて一体化されている。
【0004】
2つの圧電素子保持部107c,107dの間には、電気−機械エネルギ変換素子としての圧電素子9が挟み込まれて保持されている。圧電素子9に、フレキシブル基板8を介して互いに位相が異なる2つの周波信号が入力される。2つの周波信号が入力された圧電素子9には、軸方向に伸長する部分と圧縮する部分とが周方向にて発生し、かつこれらの部分が周方向に順次移動する。これにより、弾性体107には、軸方向に対して屈曲し、該屈曲の方位が周方向にて順次変化するような振動が励起される。
【0005】
弾性体107における振動部107aと圧電素子保持部107cとの間および振動部107bと圧電素子保持部107dとの間には、該弾性体107の周方向に延びる凹部107eが形成されている。該凹部107eは、弾性体の周方向に直交する断面(軸方向に沿った断面)にて矩形の形状を有し、弾性体107の径方向外側に向かって開口している。弾性体107における凹部107eが形成された部分は他の部分に比べて剛性が低くなる。また、凹部107eは弾性体107に励起される振動の節となる位置に形成される。これらにより、振動部107a,107bの振幅が、凹部107eが形成されない場合に比べて拡大される。
【0006】
弾性体107および圧電素子9により構成される振動子27は、支持部材10によって不図示のケースに固定される。
【0007】
回転子16a,16bはそれぞれ、回転盤12a,12bと、該回転盤12a,12bに固定された摺動部材11a,11bとにより構成されている。回転盤12a,12bがそれぞれ加圧ばね13a,13bから軸方向の付勢力を受けることにより、摺動部材11a,11bが振動子27の振動部107a,107bに圧接される。振動する振動部107a,107bと摺動部材11a,11bとの接触摩擦によって回転子16a,16bが回転され、さらに回転盤12a,12bと一体回転する出力軸1が回転する。この出力軸1からギア等により駆動力を取り出すことができる。
【0008】
このように構成される振動型駆動装置の圧電素子9に印加される周波信号の周波数(Hz)と該振動型駆動装置の回転数(r/min)との関係を図11に示す。振動型駆動装置の回転数の最大値は、振動子の共振周波数に相当する。実際に圧電素子に印加される周波信号の周波数は、この共振周波数より高い回転数域に対応する周波数域で設定され、周波数を低くする(共振周波数に近づける)と回転数が高くなり、周波数を高くする(共振周波数から遠ざける)と回転数が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−23780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、振動型駆動装置の最大回転数は、弾性体107の機械的特性によって制限される。すなわち、回転数が、図11に示す限界回転数を超えると、図10に示すように、弾性体107における各凹部107eの最深部分(最内周部分)の角部にクラックCが発生するおそれがある。このため、回転数がこの限界回転数を超えないように最大回転数が制限される。
【0011】
したがって、弾性体107における上記のようなクラックCの発生を抑えることができれば、モータの最大回転数をより高く設定することができる。
【0012】
本発明は、弾性体にクラックの発生を抑えられる形状を与えることで、最大回転数をより高くすることができるようにした振動型駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面としての振動型駆動装置は、弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する。弾性体において振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有する。そして、凹部のうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜しており、かつ凹部の内周側の部分における該2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の他の一側面としての振動型駆動装置は、弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する。弾性体において振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有する。そして、凹部のうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、径方向に平行に延びており、かつ凹部の内周側の部分における該2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする。
【0015】
なお、上記振動型駆動装置と、これにより駆動される被駆動部材とを有する機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弾性体に振動の振幅を拡大するために設けた凹部を上記のような形状に形成することで、該弾性体におけるクラックの発生を抑えることができ、振動型駆動装置の最大回転数をより高くすることができる。そして、このような振動型駆動装置を用いることで、弾性体におけるクラック発生による動作不良が生じにくく、かつ被駆動部材をより高速で駆動することが可能な機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1である振動型駆動装置の全体構成を示す断面図。
【図2】実施例1の振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す断面図および部分拡大断面図。
【図3】本発明の実施例2である振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す断面図および部分拡大断面図。
【図4】実施例1,2の弾性体における応力分布を示す図。
【図5】実施例1,2にて説明した弾性体の変形例(実施例3)を示す部分拡大断面図。
【図6】本発明の実施例4である振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す部分拡大断面図。
【図7】本発明の実施例5における弾性体の製作方法を示す図。
【図8】本発明の実施例6である振動型駆動装置に用いられている弾性体の形状を示す断面図および部分拡大断面図。
【図9】従来の振動型駆動装置の全体構成を示す断面図。
【図10】従来の振動型駆動装置に用いられている弾性体の断面図。
【図11】従来の振動型駆動装置における周波信号の周波数と回転数との関係を示す図。
【図12】実施例1における弾性体の振動を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0019】
図1には、本発明の実施例1である振動型駆動装置の構成を示している。この図において、回転子16a,16bの回転中心軸が延びる方向を軸方向という。振動型駆動装置の基本的な構成は、図9に示した従来の振動型駆動装置の構成と同じである。図2には、図1に示す振動型駆動装置に用いられている弾性体7の一部の断面を示している。
【0020】
弾性体7は、軸方向両側に振動部7a,7bを有するとともに、これら振動部7a,7bの間に圧電素子保持部7c,7dを有する。この弾性体7は、振動部7aおよび圧電素子保持部7cを有する第1の弾性体と、振動部7bおよび圧電素子保持部7dを有する第2の弾性体とが、圧電素子保持部側で接合されて一体化されている。
【0021】
2つの圧電素子保持部7c,7dの間には、電気−機械エネルギ変換素子としての圧電素子9が挟み込まれて保持されている。圧電素子9には、フレキシブル基板8を介して互いに位相が異なる2つの周波信号が入力される。2つの周波信号が入力された圧電素子9には、軸方向に伸長する部分と圧縮する部分とが周方向にて発生し、かつこれらの部分が周方向に順次移動する。これにより、弾性体7には、軸方向に対して屈曲し、該屈曲の方位が周方向において順次変化するような振動が励起される。
【0022】
弾性体7における振動部7aと圧電素子保持部7cとの間および振動部7bと圧電素子保持部7dとの間には、弾性体7の周方向に延びる凹部7eが形成されている。該凹部7eは、弾性体7の径方向外側に向かって開口している。弾性体7における凹部7eが形成された部分は他の部分に比べて剛性が低くなる。また、凹部7eは弾性体7に励起される振動の節となる位置に形成される。これらにより、振動部7a,7bの振幅が、凹部7eが形成されない場合に比べて拡大される。
【0023】
図12には、弾性体7(第1の弾性体)が振動により屈曲する様子を示している。振動部7aは、弾性体7における凹部7eの近傍部分を中心(節)として、圧電素子保持部7cに対して大きく屈曲する。
【0024】
弾性体7および圧電素子9により構成される振動子17は、支持部材10によって不図示のケースに固定される。
【0025】
回転子16a,16bはそれぞれ、回転盤12a,12bと、該回転盤12a,12bに固定された摺動部材11a,11bとにより構成されている。回転盤12a,12bは、出力軸1に固定された回転係合部材14a,14bに周方向にて係合しており、これにより、回転盤12a,12bと回転係合部材14a,14bと出力軸1とが一体となって回転する。出力軸1は、ケースにおける軸方向両側に取り付けられた不図示の軸受けにより回転可能に支持されている。
【0026】
回転盤12a,12bがそれぞれ加圧ばね13a,13bから軸方向の付勢力を受けることにより、摺動部材11a,11bが振動子17の振動部7a,7bに圧接される。振動する振動部7a,7bと摺動部材11a,11bとの接触摩擦によって回転子16a,16bが回転駆動され、回転盤12a,12bおよび回転係合部材14a,14bを介して出力軸1が回転する。この出力軸1からギア等により駆動力を取り出すことができ、該駆動力を用いて、ギア、プーリ、レバー、アーム、シャフト等の被駆動部材30を駆動することができる。被駆動部材30は、振動型駆動装置を駆動源として備える各種機器の構成要素である。
【0027】
このように構成される振動型駆動装置の圧電素子9に印加される周波信号の周波数(Hz)と該振動型駆動装置の回転数(r/min)との関係は、図11に示した従来の振動型駆動装置における関係と基本的に同じである。ただし、本実施例では、最大回転数を従来よりも高くするために、以下に説明するように凹部7eの形状に特徴を持たせている。
【0028】
従来では、図10に示すように、弾性体107に設けられた凹部107eが周方向に直交する断面(軸方向に沿った断面であり、以下、周方向断面という)にて矩形の形状を有し、角部に応力集中によるクラックが発生し易かった。
【0029】
これに対して、本実施例では、周方向断面において、凹部7eのうち軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面(図1(A)に符号7e1,7e2で示す)が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜している。言い換えれば、上記2つの面(以下、上傾斜面7e1および下傾斜面7e2という)が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0030】
さらに、凹部7eの内周側の部分には、図1(B)に拡大して示すように、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2の内周端に段差なく繋がる凹曲面7e3が形成されている。つまり、2つの錐台(上傾斜面7e1および下傾斜面7e2)の間に、これらに滑らかに(角部が形成されないように)繋がる凹曲面7e3によって形成された内周端部を設けている。
【0031】
凹部7eの内面をこのように形成することで、図12に示すように、振動する弾性体7における凹部7eの周辺の応力を凹部7eに沿って滑らかに変化させ、応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる。このため、振動型駆動装置の最大回転数を従来に比べてより高くすることができる。
【0032】
そして、このような振動型駆動装置を各種機器における被駆動部材30の駆動源として用いることにより、弾性体におけるクラック発生による動作不良が生じにくく、かつ被駆動部材をより高速で駆動することが可能な機器を実現することができる。
【0033】
なお、傾斜面(7e1,7e2)は、周方向断面において曲率を持つ面(例えば、凸面)であってもよい。
【実施例2】
【0034】
図3(A)には、本発明の実施例2である振動型駆動装置に用いられる弾性体(第1および第2の弾性体)7′の周方向断面の形状を示している。
【0035】
本実施例の弾性体7′でも、実施例1と同様に、周方向断面において、凹部7eの内面であって軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面(上傾斜面7e1と下傾斜面7e2)が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜している。すなわち、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0036】
そして、本実施例では、凹部7eの内周側の部分の上下には、図3(B)に拡大して示すように、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e3,7e3′が形成されている。
【0037】
さらに、2つの凹曲面7e3,7e3′の間には、より内周側に凹み(外周側に開口し)、かつ周方向に延びる内周溝部7e4が形成されている。つまり、2つの錐面(上傾斜面7e1および下傾斜面7e2)の間に、これらに滑らかに(角部が形成されないように)繋がる凹曲面7e3,7e3′と該凹曲面7e3,7e3′の間に設けられた内周溝部7e4とを有する内周端部を設けている。内周溝部7e4は、矩形の周方向断面を有する。
【0038】
上傾斜面7e1および下傾斜面7e2から凹曲面7e3,7e3′にかけては角部が形成されていない。しかも、凹曲面7e3,7e3′と内周溝部7e4との間に角部が形成されることで、この周辺の応力が分散される。これにより、振動する弾性体7における凹部7eの周辺での応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる
図4(A)には、実施例1にて説明した弾性体7における凹部7eの周辺の応力分布を示している。実施例1でも、応力Sはある程度分散され、応力集中は生じていない。
【0039】
これに対して、図4(B)には、実施例2にて説明した弾性体7′における凹部7eの周辺の応力分布を示している。実施例2では、実施例1よりもさらに応力Sが分散され、応力集中の発生をより効果的に抑えている。
【実施例3】
【0040】
図5(A)〜(C)には、上述した実施例1,2における弾性体7,7′の変形例を実施例3として示している。これらの変形例でも、実施例1,2と同様に、凹部7eは、軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面であって、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜した上傾斜面7e1および下傾斜面7e2を有する。すなわち、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0041】
そして、図5(A)に示す変形例では、実施例2と同様に、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1および下傾斜面7e2のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e3,7e3′が形成されている。また、該2つの凹曲面7e3,7e3′の間に、より内周側に凹み(外周側に開口し)、かつ周方向に延びる内周溝部7e5が形成されている。つまり、2つの円錐面(上傾斜面7e1および下傾斜面7e2)の間に、これらに滑らかに(角部が形成されないように)繋がる凹曲面7e3,7e3′と、該凹曲面7e3,7e3′の間に形成された内周溝部7e5とを有する内周端部を設けている。
【0042】
内周溝部7e5は、この内周溝部7e5の開口の近くにおいて径方向に平行に延びて互いに対向する2つの平行面と、該2つの平行面よりも内周側において軸方向にて互いに対向する側に設けられ、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜した2つの傾斜面とを有する。すなわち、該2つの傾斜面が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。これらの錐面は、その内周端にて、90度又はこれよりも小さい角度で接している。これにより、内周凹部7e5が形成する角部の数を、実施例2に比べて増やし、応力の分散をより促している。
【0043】
また、図5(B)に示す変形例では、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上傾斜面7e1および下傾斜面7e2のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e6,7e7が形成されている。これら2つの凹曲面7e6,7e7は、それらの間に周方向に延びる稜線が形成されるように軸方向にて隣り合っている。このように、凹部7eの内周側の部分に、複数の凹曲面をそれらが隣り合って稜線を形成するように設けてもよい。本実施例では、実施例1に比べて、凹部7eの内周側の部分に形成される角部(稜線)の数を増やし、応力の分散をより促している。
【0044】
さらに、図5(C)に示す変形例では、実施例1と同様に、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2との間に凹曲面7e3が形成されているが、これら上傾斜面7e1,下傾斜面7e2および内周凹部7e3には、凹凸による粗さが設けられている。本実施例では、実施例1に比べて、凹部7eの内周側の部分に形成される角部(凹凸)の数を増やし、応力の分散をより促している。
【0045】
これらの変形例によっても、振動する弾性体における凹部7eの周辺での応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる。このため、振動型駆動装置の最大回転数を従来に比べてより高くすることができる。
【0046】
図5(C)に示した凹凸による粗さを、図3(実施例2)および図5(A),(B)に示した弾性体7,7′に適用してもよい。
【実施例4】
【0047】
図6には、本発明の実施例4である振動型駆動装置に用いられる弾性体の凹部7eを拡大して示している。本実施例でも、実施例1〜3と同様に、周方向断面において、凹部7eの内面であって軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面(上傾斜面7e1と下傾斜面7e2)が、内周側に向かって軸方向にて互いに近づくように径方向に対して傾斜している。すなわち、上傾斜面7e1と下傾斜面7e2が、互いに頂面を軸方向にて接近させた円錐台の錐面のように形成されている。
【0048】
そして、本実施例では、凹部7eの内周側の部分(最内周部分から上傾斜面7e1と下傾斜面7e2の内周端付近までの部分)に、該凹部7eの内周側から外周側に向かって複数の凹曲面7e8が形成されている。そして、該複数の凹曲面7e8の曲率半径は、凹部7eの内周側から外周側に向かって大きくなっている。各凹曲面7e8は、弾性体の径方向外側に向かって凹となる曲面として形成され、かつ周方向に延びている。また、互いに隣り合う曲面7e8の間には周方向に延びる稜線が形成されている。
【0049】
このように、凹部7eの最内周部分から離れるほど大きな曲率半径を有する複数の凹曲面7e8を形成することで、凹部7eの周辺にて応力を効率的に分散させることができ、凹部7eの周辺での応力集中の発生、つまりはクラックの発生を抑えることができる。
【0050】
なお、本実施例にて説明した上傾斜面7e1および下傾斜面7e2における複数の凹曲面7e8を、図3および図5(A)〜(C)に示した実施例2,3の弾性体7,7′に適用してもよい。
【実施例5】
【0051】
図7には、実施例1〜4にて説明した弾性体に凹部7eを形成する方法の例を実施例5として示している。図7には、代表として実施例1にて説明した弾性体を示している。
【0052】
20は旋盤に取り付けられたバイト20である。弾性体を旋盤のチャックに保持して回転させ、かつチャックを軸方向に移動させる。そして、バイト20のノーズRを径方向に移動させながら弾性体を切削加工することで、凹部7eの上傾斜面7e1、下傾斜面7e2および凹曲面7e3を形成することができる。
【0053】
さらに、実施例2,3,4の弾性体の凹部も、バイト20の形状やノーズ半径を変更することで、同様にして形成することができる。
【0054】
また、実施例1〜4の弾性体の凹部7eは、旋盤に限らず、フライス盤や研削盤等の加工機械を用いて形成することもできる。
【実施例6】
【0055】
図8(A)〜(C)には、本発明の実施例6である振動型駆動装置に用いられる弾性体7″を示している。
【0056】
この弾性体7″に設けられた凹部7eは、実施例1〜3と異なり、それぞれ軸方向にて互いに対向し、かつ径方向に平行に延びる上面7e1″および下面7e2″を有する。そして、該凹部7eの内周側の部分における上面7e1″と下面7e2″との間には、径方向外側に向かって凹の形状を有し、上面7e1″と下面7e2″のそれぞれの内周端に段差なく繋がる2つの凹曲面7e3,7e3′が形成されている。
【0057】
さらに、2つの凹曲面7e3,7e3′の間には、実施例2で説明した内周溝部7e4又は実施例3で説明した内周溝部7e5が形成されている。
【0058】
このように、凹部7eの上面7e1″と下面7e2″を錐面としなくても、凹部7eの内周側の部分に凹曲面7e3,7e3′や内周溝部7e4,7e5を形成することで、これらを形成しない場合に比べて凹部7eの周辺での応力集中の発生をある程度抑えることが可能である。
【0059】
なお、本実施例における凹部7eの内周側の部分における上面7e1″と下面7e2″との間に、内周溝部7e4,7e5を形成せず、図2(実施例1)に示したように凹曲面7e3のみを形成したり、図5(B)(実施例3)に示したように2つの凹曲面7e6,7e7のみを形成したりしてもよい。
【0060】
また、本実施例における上面7e1、下面7e2および凹曲面7e3(7e3′,7e6,7e7)に、図5(C)(実施例3)および図6(実施例4)にて説明した凹凸による粗さや内周側から外周側に向かって曲率半径が大きくなる複数の凹曲面を形成してもよい。
【0061】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
最大回転数が高い振動型駆動装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 出力軸
4 軸受け
7,7′,7″ 弾性体
7e 凹部
9 圧電素子
10 支持部材
11 摺動部材
12 回転盤
13 加圧ばね
16a,16b 回転子
17 振動子
20 バイト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、前記弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する振動型駆動装置であって、
前記弾性体において前記振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有しており、
前記凹部のうち前記軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、内周側に向かって前記軸方向にて互いに近づくように前記径方向に対して傾斜し、
かつ前記凹部の内周側の部分における前記2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、前記弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する振動型駆動装置であって、
前記弾性体において前記振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有しており、
前記凹部のうち前記軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、径方向に平行に延びており、かつ前記凹部の内周側の部分における前記2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項3】
前記凹曲面が複数形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記凹部の内周側から外周側に向かって前記複数の凹曲面が形成されており、
該複数の凹曲面の曲率半径が、前記凹部の内周側から外周側に向かって大きくなっていることを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記2つの面の間に2つの前記凹曲面が形成され、かつ該2つの前記凹曲面の間に溝部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型駆動装置。
【請求項6】
前記2つの面および前記凹曲面が、凹凸による粗さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型駆動装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の振動型駆動装置と、
該振動型駆動装置により駆動される被駆動部材とを有することを特徴とする機器。
【請求項1】
弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、前記弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する振動型駆動装置であって、
前記弾性体において前記振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有しており、
前記凹部のうち前記軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、内周側に向かって前記軸方向にて互いに近づくように前記径方向に対して傾斜し、
かつ前記凹部の内周側の部分における前記2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
弾性体および該弾性体に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子により構成された振動子と、前記弾性体との摩擦により回転する回転子とを有する振動型駆動装置であって、
前記弾性体において前記振動の節となる軸方向の部分に、該弾性体の径方向の外側に向かって開口して該弾性体の周方向に延びる凹部を有しており、
前記凹部のうち前記軸方向にて互いに対向する側に設けられた2つの面が、径方向に平行に延びており、かつ前記凹部の内周側の部分における前記2つの面の間に、凹曲面が形成されていることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項3】
前記凹曲面が複数形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記凹部の内周側から外周側に向かって前記複数の凹曲面が形成されており、
該複数の凹曲面の曲率半径が、前記凹部の内周側から外周側に向かって大きくなっていることを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記2つの面の間に2つの前記凹曲面が形成され、かつ該2つの前記凹曲面の間に溝部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型駆動装置。
【請求項6】
前記2つの面および前記凹曲面が、凹凸による粗さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型駆動装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の振動型駆動装置と、
該振動型駆動装置により駆動される被駆動部材とを有することを特徴とする機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−227997(P2012−227997A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91090(P2011−91090)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
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