説明

振動板エッジの製造方法

【課題】薄肉の振動板エッジを製造するに当り、厚みの薄さによる破損の発生を防止するとともに、音響特性を大きく向上させた振動板エッジの製造方法を提供する。
【解決手段】成形キャビティ4の周方向の複数箇所に形成した深さ増大域7に、射出ゲート6を配設し、該射出ゲート6からエッジ材料を射出して、エッジ材料を、成形キャビティ4内の周方向に向けて流動させることにより、製造される振動板エッジ10の配向方向を前記周方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動板の外周部分に取付けられて、スピーカに用いられる振動板エッジの製造方法に関するものであり、とくには、製造された振動板エッジによる、音の忠実なる再生を可能にするとともに、製造時の振動板エッジの破損等を防止して、材料歩留まりを向上させる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の振動板エッジとしては、たとえば特許文献1、2に記載されたものがある。
振動板エッジは一般に、型締めした金型内に画成される成形キャビティ内に、熱可塑性エラストマーなどからなる溶融状態のエッジ材料を、射出ゲートから注入し、その成形キャビティ内にエッジ材料を充満させた後に、これを冷却硬化させることにより製造される。
このようにして製造される振動板エッジは、振動板の外周部分に固着等しスピーカに用いることで、振動板の円滑なる振動、ひいては、スピーカによる音の再生に寄与するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−270196号公報
【特許文献2】特開平7−15793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、スピーカは、オーディオ機器のみならず、携帯電話や携帯型ゲーム機などの小型電子機器にも幅広く利用されており、かかる状況の下で、上述した振動板エッジ自体を小型化かつ薄肉化することが希求されている。
この場合において、とくに、振動板エッジを、0.2mm程度の薄肉なものとしたときは、先に述べたような、振動板エッジの成形に際して、射出ゲートから射出されたエッジ材料の、成形キャビティ内での流動の向きに起因する、振動板エッジの樹脂の配向方向が、振動板エッジを具えたスピーカによる音の再生に影響を及ぼすことがある。
【0005】
すなわち、特許文献1、2などに示されるような、たとえば円環状をなす成形キャビティの外周縁側に射出ゲートを設けた金型では、製品エッジで湾曲形状をなすロール形状部を形成するキャビティ領域よりも外周側に、射出ゲートが存在することから、射出ゲートから注入されたエッジ材料が、成形キャビティの外周側から内周側へ向かって流動して成形キャビティ内に充填され、冷却硬化後の振動板エッジの樹脂の配向方向が半径方向となるので、円環状の振動板エッジの弾性率が、周方向よりも半径方向で大きいものとなる。
そして、この結果として、製造された薄肉の振動板エッジでは、半径方向の高い弾性率の故に、内周側に固着等させた振動板の前後方向への円滑な動きを実現することができず、十分優れた音響特性を発揮することができなかった。
なお、上記の金型において、エッジ材料を、成形キャビティの周方向に流動させるべく、成形キャビティに設ける射出ゲートの数を減少させた場合は、成形される振動版エッジに、いわゆるショートショット現象が生じるおそれがあるので、成形キャビティの周方向に、多数個の射出ゲートを点在させて配設することが必要である。
【0006】
また、このことに加えて、上述したような薄肉の振動板エッジを、従来の方法で製造した場合には、熱可塑性エラストマーなどからなる振動板エッジの厚みの薄さの故に、冷却硬化したものを成形キャビティ内から取出すために型開きするに際して、第2スプルーに残留したエッジ材料との連結部で、振動板エッジに、たとえば貫通穴が形成される等の破損が生じるおそれがあり、材料歩留まりが低下するという問題もあった。
【0007】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、薄肉の振動板エッジを製造するに当り、厚みの薄さによる破損の発生を防止するとともに、音響特性を大きく向上させた振動板エッジの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の振動板エッジの製造方法は、型締めした金型の内部に画成される成形キャビティ内に、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマーまたはポリエステル系熱可塑性エラストマーから選択される一種類以上のエラストマーからなるエッジ材料を射出し、該成形キャビティ内にエッジ材料を充満させた後に冷却硬化させて、振動板を囲繞する振動板エッジを製造するに当り、成形キャビティの周方向の複数箇所に形成した深さ増大域に、射出ゲートを配設し、該射出ゲートからエッジ材料を射出して、エッジ材料を、成形キャビティ内の周方向に向けて積極的に流動させることにより、製造される振動板エッジの配向方向を前記周方向とするにある。
【0009】
ここで好ましくは、成形キャビティの深さ増大域に配設した前記射出ゲートを、該深さ増大域の幅中央部に位置させ、該射出ゲートのそれぞれから振動板エッジ材料を射出する。
【発明の効果】
【0010】
この発明の振動板エッジの製造方法によれば、成形キャビティの周方向の複数箇所に深さ増大域を設け、それらの深さ増大域に配設した射出ゲートから、エッジ材料を射出することにより、射出ゲートから注入されたエッジ材料が、前記深さ増大域に一定量溜まった後、エッジ材料に対する加圧力の作用の下で、深さ増大域の、キャビティ周方向の両側部から、成形キャビティ内の周方向に向かって流動することになるので、エッジ材料の、成形キャビティの周方向への流動性が高まって、製造した振動板エッジの、樹脂の配向方向の大部分を周方向とすることができ、これがため、振動板エッジの、周方向と直交する方向である幅方向での弾性率の低下をもたらして、内周側に支持させた振動板の前後方向への、柔軟にして十分に円滑な動きを可能として、振動板エッジに、優れた音響特性を発揮させることができる。
【0011】
また、射出ゲートの配設位置を、製造された振動板エッジに肉厚部分が形成される、成形キャビティの深さ増大域に対応させたことから、振動板エッジを、成形キャビティ内から取出す際の、ゲートバリの発生箇所が、振動板エッジの、強度の大きい肉厚部分となるので、振動板エッジへの不測の破損の発生を効果的に防止して、材料歩留まりを向上させることができる。
【0012】
ここにおいて、成形キャビティ内の射出ゲートを、深さ増大域の幅中央部に対応させて位置させたときは、射出されたエッジ材料が、幅中央部から放射状に広がって流動して、少ない流動抵抗の下で、周方向により円滑に流動することになるので、振動板エッジの、周方向への樹脂の配向がより一層強く表れて、製造された振動板エッジの幅方向の弾性率をさらに低減させることができ、振動板の前後方向への振動をより一層円滑なものとすることができる。
これをいいかえれば、成形キャビティの内もしくは外周縁に近接する位置に射出ゲートを配設する場合は、キャビティ壁面が、射出されたエッジ材料に及ぼす流動抵抗が大きくなるので、周方向への円滑な流動が妨げられることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一の実施形態に用いる射出成形金型の要部を示す部分拡大断面図である。
【図2】図1に示す金型の下型平面図である。
【図3】図2に示す金型の、III―III線に沿う断面図である。
【図4】図2に示す金型の、IV―IV線に沿う断面図および、その変形例の同様の断面図である。
【図5】深さ増大域からのエッジ材料の流動態様を例示する図である。
【図6】この発明の方法によって製造した振動板エッジの平面図、ならびに、b―b線およびc―c線のそれぞれに沿う部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施形態について説明する。
図1に例示する金型1は、図では上方側に位置して、下方側への突出箇所を有する上型2と、図では下方側に位置して、上型2の突出箇所を受け入れる溝を設けた下型3とを具えてなり、この金型1では、上型2と下型3とを型締めした状態で、両者間に円環状の成形キャビティ4が画成される。
【0015】
ここで、図に示す上型2は、熱可塑性エラストマーからなるエッジ材料を、図示しない第1スプルーを経た後に、成形キャビティ4に送給する第2スプルー5および、エッジ材料を成形キャビティ4内に注入するための、図では断面積を細く絞った射出ゲート6を有する。
なお、図示は省略するが、第2スプルーおよび射出ゲートは、下型3に形成することもできる。
【0016】
そしてここでは、図2に、下型凹部を平面図で示すように、成形キャビティ4の一部をなす、下型3の、環状溝部4aの周方向の複数箇所、図では八箇所に、下型3の溝深さを深くしてなる深さ増大域7を形成するとともに、図1に示すように、これらの深さ増大域7と対応する位置に、前述した射出ゲート5を設けてなる。
このように、図3に断面図で示す他の箇所に比して、図1に示すような深さ増大域7の形成箇所で、下型3の溝深さを深くしたことにより、環状成形キャビティ4の上下方向の空間が、深さ増大域7の各形成箇所で広くなる。
【0017】
ここで、深さ増大域7に対応させて配設した射出ゲート5は、必ずしも、各個の深さ増大域7の全てに対応させて配設する必要はなく、たとえば、成形キャビティ4の周方向で、互いに隣り合う深さ増大域7の、いずれか一方のみに対応させて配設することもできる。
【0018】
なお、この射出ゲート6は、図1に示すように、深さ増大域7の幅中央部に配置することが好ましい。
【0019】
ところで、図1〜3に示す金型1では、図2のIV―IV線に沿う断面図である図4(a)に示すように、成形キャビティ4の周方向で、下型3の溝深さを、段差8を介して変化させているが、溝深さは、図4(b)に示すように、滑らかな曲面18を介して変化させることもできる。
またここで、図示は省略するが、深さ増大域は、上型側に設けることができ、この場合には、たとえば、上型の、下型への突出箇所2aの突出高さを低くすることにより、成形キャビティの周方向の複数箇所に、深さ増大域を形成することができる。
【0020】
以上に述べたような金型1を用いて、振動板エッジを製造するには、成形キャビティ4内の深さ増大域7に対応させて配設した射出ゲート6から、型締め姿勢の金型1内に画成される成形キャビティ4内に、第2スプルー5を経て送給された溶融状態のエッジ材料を射出する。
このとき、深さ増大域7では、上下方向に広い空間の故に、エッジ材料が金型1の内面から受ける流動抵抗が、他の箇所に比して小さくなるので、射出されたエッジ材料は、図4(a)に示すように、深さ増大域7に溜まることになる。
なお、深さ増大域7に代えて、図4(b)に示す深さ増大域17を形成した場合であっても、このことは同様である。
【0021】
そして、深さ増大域7の深溝部分がエッジ材料である程度充填された後は、エッジ材料に対する加圧力の作用下で、エッジ材料は、図5に流動方向を例示するように、射出ゲート6を配設した深さ増大域7のそれぞれの周方向端部7aから、図に矢印で示す如く、周方向に向けて均等に流動することになる。
このことによって、エッジ材料を、成形キャビティ4の全体に充満させた後、これを冷却硬化させ、金型1を型開きして、成形品を金型1から取出すことにより、図6に示すような薄肉の振動板エッジ10を製造することができる。
【0022】
このようにして製造された振動板エッジ10では、製造時に、エッジ材料を、上述したように、成形キャビティ4の周方向に向けて積極的に流動させることにより、樹脂の配向方向が周方向となることから、周方向の弾性率に比して幅方向の弾性率を十分に小さくすることができる。
その結果として、スピーカへの配設姿勢で、振動板エッジ10の内周側に支持される図示しない振動板を、振動板エッジ10による柔軟なる支持の下で、前後方向に円滑に振動させることができ、振動板エッジ10に、優れた音響特性を発揮させることができる。
【0023】
なお、ここで製造される振動板エッジ10には、図6に例示するように、成形キャビティ4内に形成した深さ増大域7と対応する位置に、ロール形状部11が全周にわたって形成されるとともに、そのロール形状部11の周方向の複数個所で、図6(b)に断面図で示すような肉厚部分11aが形成されることになる。
そして、この肉厚部分11aの存在の故に、型開き時に第2スプレーを引抜き、ゲートカットするに際し、あるいは、取出し後に、強度が高い肉厚部分11に対応して位置することになるゲートバリ等を切除するに当っての、振動板エッジへの破損等の発生を有効に防止することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 金型
2 上型
2a 突出箇所
3 下型
4 成形キャビティ
4a 溝部
5 第2スプルー
6 射出ゲート
7、17 深さ増大域
7a 周方向端部
8 段差
18 曲面
10 振動板エッジ
11 ロール形状部
11a 肉厚部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締めした金型の内部に画成される成形キャビティ内に、エラストマー製のエッジ材料を射出し、該成形キャビティ内にエッジ材料を充満させた後に冷却硬化させて、振動板を囲繞する振動板エッジを製造するに当り、
成形キャビティの周方向の複数箇所に形成した深さ増大域に、射出ゲートを配設し、該射出ゲートからエッジ材料を射出して、エッジ材料を、成形キャビティ内の周方向に向けて流動させることにより、製造される振動板エッジの配向方向を前記周方向とする振動板エッジの製造方法。
【請求項2】
成形キャビティの深さ増大域に配設した前記射出ゲートを、該深さ増大域の幅中央部に位置させ、該射出ゲートからエッジ材料を射出する請求項1に記載の振動板エッジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−169887(P2012−169887A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29439(P2011−29439)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】