説明

操舵装置

【課題】複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドルを用いて、操作性を向上させることのできる操舵装置を提供する。
【解決手段】操舵装置1は、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドル12を有する入力部3を備えているため、一つのステアリングハンドル12で第一入力、及び第一入力を除く動作における第二入力を出力することができる。一方、第一操舵部4は、第一入力に基づいて操舵を行うと共に、第二操舵部6は、第二入力に基づいて操舵を行うことができる。従って、運転者は、一つのステアリングハンドル12の操作によって、第一操舵部4及び第二操舵部6を同時に操舵することができる。すなわち、運転者はステアリングハンドルを保持した状態で、後側車輪T2も操舵することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵を制御する操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の操舵装置として、ステアリングシャフト回りの回転による操作のみならず、グリップ部分を回転することによっても操作可能なステアリングハンドルを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この操舵装置では、グリップを回転させると、操舵角及び車速から算出された規範となるヨーレートの調整が行われ、当該規範となるヨーレートとセンサによって検出された実際のヨーレートとが一致するように制御を行うことで、運転者の意思に従った車両制御を行うことができる。このとき、回転可能なグリップ部分がステアリングハンドルに設けられているため、ステアリングハンドルから手を離すことなく操作が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−174006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の操舵装置は、多自由度の操作入力系を有することで一つのステアリングハンドルで複数の入力を行うことができるにも関らず、そのメリットを十分に活かしきれていないという問題がある。また、例えば後退時や旋回時などの場面に応じて、運転者が所望する軌跡を一層簡単な操作で走行できるように操舵を行うことが求められていた。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドルを用いて、操作性を向上させることのできる操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る操舵装置は、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドルを有する入力手段と、車両前側における車輪の操舵を行う第一操舵手段と、車両後側における車輪の操舵を行う第二操舵手段と、を備え、第一操舵手段は、所定の動作におけるステアリングハンドルの操作による第一入力に基づいて操舵を行い、第二操舵手段は、第一入力を除く動作におけるステアリングハンドルの操作による第二入力に基づいて操舵を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る操舵装置は、車両前側における車輪の操舵を行う第一操舵手段と、車両後側における車輪の操舵を行う第二操舵手段とを備えているため、車両前側の車輪の操舵を行うのみならず、車両後方側の車輪も操舵することができる。従って、操舵装置は、一層運転者の意思に従った軌跡に沿って車両を走行させることができる。また、操舵装置は、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドルを有する入力手段を備えているため、一つのステアリングハンドルで第一入力、及び第一入力を除く動作における第二入力を出力することができる。一方、第一操舵手段は、第一入力に基づいて操舵を行うと共に、第二操舵手段は、第二入力に基づいて操舵を行うことができる。従って、運転者は、一つのステアリングハンドルの操作によって、第一操舵手段及び第二操舵手段を同時に操舵することができる。すなわち、運転者はステアリングハンドルを保持した状態で、車両後側の車輪も操舵することができる。以上によって、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドルを用いて、操作性を向上させることができる。
【0008】
また、本発明に係る操舵装置において、第一入力は、ステアリングシャフト回りにおけるステアリングハンドルの回転による入力であり、第二操舵手段は、車両の後退時において、第二入力に基づいて操舵を行うことが好ましい。第一入力がステアリングハンドルの主たる操作である回転による入力であるため、第二入力はその他の副次的な操作による入力となる。後退時に第二操舵手段が第二入力に基づいて操舵を行うため、運転者は、後退時においてステアリングハンドルの回転以外の操作によって、車両後側の車輪を操舵することができる。これによって、運転者は、ステアリングハンドルを保持した状態で、所望の軌跡に沿った後退走行を車両にさせることができる。
【0009】
また、本発明に係る操舵装置において、第一入力は、ステアリングシャフト回りにおけるステアリングハンドルの回転による入力であり、第二操舵手段は、車両の後退時において、第一入力に基づいて操舵を行うことが好ましい。第一入力がステアリングハンドルの主たる操作である回転による入力であるため、第二入力はその他の副次的な操作による入力となる。後退時に第二操舵手段が第一入力に基づいて操舵を行う。従って、後退時において、運転者は、主たる操作であるステアリングハンドルの回転操作によって車両後側の車輪を操舵することができる。これによって、後退時において運転者の意思に従った操舵が行いやすくなり、後退時における操作性を一層向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る操舵装置において、第二入力は、通常のステア入力軸(回転軸)以外の軸による動作であり、具体的には、ステアリングシャフトと交差する軸線回りにおけるステアリングハンドルの回動による入力、あるいはステアリングシャフトの延在方向におけるステアリングハンドルの進退による入力である。
【0011】
また、本発明に係る操舵装置において、少なくとも変速機が後退の位置に設定されているとき、車両の後退時であると判定する後退判定手段を更に備えることが好ましい。後退判定手段は、少なくとも変速機が後退の位置に設定されていることを後退判定の条件としているため、例えば、変速機がニュートラルの位置に設定されている状態で坂道をずり落ちている場合に、誤って後退判定されることを防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る操舵装置において、牽引車両に被牽引車両が接続されていることを判定する接続判定手段を更に備え、第二操舵手段は被牽引車両に設けられ、接続判定手段によって被牽引車両が接続されていると判定された場合、車両の後退時において、第二操舵手段は、第二入力に基づいて操舵を行うことが好ましい。また、本発明に係る操舵装置において、牽引車両に被牽引車両が接続されていることを判定する接続判定手段を更に備え、第二操舵手段は被牽引車両に設けられ、接続判定手段によって被牽引車両が接続されていると判定された場合、車両の後退時において、第二操舵手段は、第一入力に基づいて操舵を行うことが好ましい。接続判定手段が設けられていることによって、操舵装置は、被牽引車両が接続されている場合、当該被牽引車両の第二操舵手段を制御することができ、被牽引車両が接続されていない場合、第一入力及び第二入力を他の用途に用いることができる。例えば、操舵装置は、第一入力及び第二入力を用いて第一操舵手段を制御することができる。あるいは、牽引車両に更に操舵手段が設けられている場合、第一入力あるいは第二入力を牽引車両における他の操舵手段に用いることができる。
【0013】
また、本発明に係る操舵装置において、ステアリングハンドルの操作に対して反力を付与する反力付与手段を更に備え、反力付与手段は、第二入力が入力された場合、反力を付与すると共に、第二操舵手段による操舵量が大きいほど反力を大きくすることが好ましい。反力を付与することによって、ステアリングハンドルの操作感を向上させることができる。また、第二操舵手段による操舵量が大きいほど反力が大きくなるため、運転者はヒッチ角や第二操舵手段による舵角が上限値に近づいていることを気付き易くなる。
【0014】
また、本発明に係る操舵装置において、第二操舵手段は、車両の最後部に設けられた車輪の操舵を行うことが好ましい。最後部における車輪は、後退時には最前部における車輪となる。従って、後退時において所望の軌跡を走行させやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る操舵装置を搭載した車両を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る操舵装置のブロック構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る操舵装置のステアリングハンドルを示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る操舵装置の後退時における制御処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る操舵装置の反力付与時における制御処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図6】変形例に係る操舵装置を搭載した車両を示す図である。
【図7】変形例に係る操舵装置を搭載した車両を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明に係る操舵装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
まず、図1に示すように、本発明の実施形態に係る操舵装置1を搭載した車両MT1は、メイン車両(牽引車両)M1と当該メイン車両M1によって牽引されるトレーラ(被牽引車両)M2とを備えている。メイン車両M1とトレーラM2とは、各々車輪を有しており、ヒッチHを介して互いに接続されている。メイン車両M1は、車両MT1の最前部における前側車輪T1を備え、トレーラM2は、車両MT1の最後部における後側車輪T2を備えている。図1に示すように、操舵装置1は、制御部2と、運転者が操作を行うことのできる入力部(入力手段)3と、入力部3からの入力に基づいて前側車輪T1の操舵を行う第一操舵部4と、入力部3からの入力に基づいて後側車輪T2の操舵を行う第二操舵部6とを備えて構成されている。
【0018】
入力部3は、第一操舵部4に接続されたステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の端部に接続されたステアリングハンドル12とを備えている。ステアリングハンドル12は、複数の異なる動作で操作することが可能であり、各動作に応じて複数の入力を行うことができる。図3に示すように、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフトの軸線LS回りに回転することができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の回転と称する。また、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11の軸線LSに対して車幅方向に直交する軸線LD回りに回動することができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の傾きと称する。また、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11の軸線LSに対して上下方向に直交する軸線LR回りに回動することができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の揺動と称する。また、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11の軸線LSの延在方向に進退させることができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の押し引きと称する。なお、ステアリングハンドル12の操作による入力のうち、回転による入力を第一入力とし、それ以外の操作、すなわち揺動、押し引き、傾きによる入力を第二入力として以下の説明を行う。第二入力は、揺動、押し引き、傾きのうち任意の二つを用いてもよく、一つのみを用いてもよい。
【0019】
図1に戻り、第一操舵部4は、メイン車両M1の前側車輪T1に取り付けられており、ステアリングハンドル12の複数の入力に基づく操舵制御によって、前側車輪T1の操舵を行うことができる。第一操舵部4は、シャフトを介して前側車輪T1を操舵する操舵機構21と、操舵機構21のアシストを行うアシスト機構23と、ステアリングハンドル12の回転の伝達比を変える伝達比可変機構22とを備えて構成されている。第一操舵部4は、前進時において、ステアリングハンドル12からの入力を伝達比可変機構22の伝達比に応じて操舵機構21へ伝達し、操舵機構21で前側車輪T1の操舵を行う。また、アシスト機構23は、この入力を補助する。一方、第一操舵部4は、後退時において、伝達比可変機構22によってステアリングハンドル12からの入力を制限し、主にアシスト機構23の出力によって操舵がなされる。
【0020】
第二操舵部6は、トレーラM2の後側車輪T2に取り付けられており、ステアリングハンドル12の複数の入力に基づく操舵制御によって、後側車輪T2の操舵を行うことができる。第二操舵部6は、シャフトを介して後側車輪T2を操舵する操舵機構24と、操舵機構24のアシストを行うアシスト機構26とを備えて構成されている。第二操舵部6は、ステアリングハンドル12からの入力に基づいたアシスト機構26の出力によって操舵がなされる。
【0021】
また、操舵装置1は、ステアリングハンドル12の操作に対して反力を付与する反力アクチュエータ28と、各種センサ29とを備えている(図2参照)。反力アクチュエータ28は、ステアリングハンドル12の揺動、傾き、押し引きなどの第二入力が入力された場合に、当該操作に対して反力を付与する機能を有している。また、反力アクチュエータ28は、制御部2の制御信号に基づいて、反力の大きさを増減させることができる。各種センサ29は、具体的に、ステアリングハンドル12の回転操作のステアリング角、ステアリングハンドル12の揺動操作の揺動角や傾き操作の傾き角、ステアリングハンドル12の押し引き操作のストローク、前側車輪T1及び後側車輪T2の車輪速度、ヒッチHでのヒッチ角、第一操舵部4や第二操舵部6による舵角などを検出することができる。
【0022】
制御部2は、操舵装置1全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPUを主体として構成され、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などを備えている。図2に示すように、制御部2は、各種センサ29と接続されて検出結果を入力されると共に、第一操舵部4、第二操舵部6、及び反力アクチュエータ28と接続されて制御信号を出力する機能を有する。更に、制御部2は、図示されない変速機、警告灯、ブレーキ、スロットル等にも接続されており、信号の入出力を行う機能を有している。
【0023】
制御部2は、入力部3からの第一入力及び第二入力に基づいて、第一操舵部4及び第二操舵部6を制御する機能を有している。また、制御部2は、車両MT1の走行状態に応じて制御モードを切り替えることによって、第一操舵部4及び第二操舵部6をそれぞれどの操作に基づいて制御するかを変更することができる。すなわち、第一入力は、ステアリングハンドル12の主な操作である回転操作に基づく入力であり、第二入力は、ステアリングハンドル12の副次的な操作である揺動操作、傾き操作、押し引き操作に基づく入力である。従って、走行状態に応じて第一入力及び第二入力の入力先を変更することで、操作性を向上することができる。本実施形態では、制御モードは、車両MT1が前進しているときに設定される前進モードと、車両MT1が後退しているときに設定される後退モードに切り替えることができる。具体的に、制御部2は、前進モードにおいて、第一入力に基づいて第一操舵部4の制御を行うと共に第二入力に基づいて第二操舵部6の制御を行い、後退モードにおいて、第一入力に基づいて第二操舵部6の制御を行うと共に第二入力に基づいて第一操舵部4の制御を行うことができる。あるいは、制御部2は、前進モードにおいて、第一入力及び第二入力(あるいは第一入力のみ)に基づいて第一操舵部4の制御を行い、後退モードにおいて、第一入力に基づいて第一操舵部4の制御を行うと共に第二入力に基づいて第二操舵部6の制御を行うことができる。
【0024】
また、制御部2は、車両MT1が後退しているか否かを判定する後退判定手段として機能することができる。制御部2は、変速機の設定位置、車輪の回転方向、速度などに基づいて車両MT1の後退を判定することができる。制御部2は、坂道で後方へずり落ちる場合を誤判定しないため、少なくとも変速機が「後退」の位置に設定されているとき、車両MT1の後退であると判定することが好ましい。
【0025】
また、制御部2は、反力アクチュエータ28の制御を行う機能を有している。制御部2は、反力アクチュエータ28に対して制御信号を出力し、ステアリングハンドル12の第二入力を発生する操作、すなわち、揺動操作、傾き操作、押し引き操作に対して反力を付与する反力付与手段として機能する。また、制御部2は、反力アクチュエータ28に対して制御信号を出力し、第二操舵部6による操舵量が大きいほど反力が大きくなるように制御することができる。制御部2は、ヒッチ角や第二操舵部6の舵角が上限値に近づくほど、反力が大きくなるように反力アクチュエータ28を制御することができる。具体的には、制御部2は、各種センサから出力される値に基づいて、指定時間経過後におけるヒッチ角や舵角を演算し、当該演算値が上限値を越えるか否かによって、反力の増減を制御することができる。あるいは、制御部2は、現実のヒッチ角や舵角が所定の閾値を越えるか否かによっても、反力の増減を制御してよい。
【0026】
次に、図4及び図5を参照して、本実施形態に係る操舵装置1の動作について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る操舵装置1の後退時における制御処理の処理内容を示すフローチャートである。図5は、本発明の実施形態に係る操舵装置1の反力付与時における制御処理の処理内容を示すフローチャートである。
【0027】
まず、操舵装置1の後退時における制御処理について、図4を参照して説明する。この処理の前提として、制御部2は、車両MT1の前進時において、ステアリングハンドル12の主な操作である回転操作による第一入力に基づいて第一操舵部4の制御を行っており、ステアリングハンドル12の副次的な操作である揺動操作による第二入力に基づいて第二操舵部6の制御を行っているものとする。図4は、車両MT1が前進を行っている途中で、後退を行い、後退が終了した後に再び前進を行う場合における、制御部2での制御処理の一例を示している。制御部2は、車両MT1が後退していると判定したときに、ステアリングハンドル12の主な操作である回転操作による第一入力に基づいて第二操舵部6の制御を行い、ステアリングハンドル12の副次的な操作である揺動操作による第二入力に基づいて第一操舵部4の制御を行う。図4の処理は、制御部2において所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0028】
図4に示すように、制御部2は、変速機から入力された信号に基づいて、変速機の位置が「後退」に設定されているか否かを判定する(ステップS10)。S10において、変速機の位置が「後退」以外の位置に設定されていると判定すると、制御部2は、車両MT1の後退時ではないと判断し、再びS10の処理を繰り返す。一方、S10において、変速機の位置が「後退」に設定されていると判定されると、制御部2は、車両MT1の後退時であると判断し、操舵機構フェイルの有無を判定する(ステップS12)。S12において、フェイルが有ると判定されると、制御部2は警告灯をONとして(ステップS14)、再びS10から処理を繰り返す。
【0029】
一方、S12において、フェイルが無いと判定されると、制御部2は、切替停止SWがOFFになっているか否かを判定する(ステップS16)。S16において、切替停止SWがONになっていると判定されると、制御部2は、前進モードから後退モードへの制御モードの切替が停止されていると判断し、再びS10から処理を繰り返す。一方、S16において、切替停止SWがOFFになっていると判定されると、制御部2は、前進モードから後退モードへの制御モードの切替が可能であると判断し、車両の速度(あるいは車輪速度)が0でないか否かの判定を行う(ステップS18)。S18において、速度が0でないと判定されると、制御部2は、再びS10から処理を繰り返す。
【0030】
一方、S18において、速度が0であると判定されると、制御部2は、ブレーキ及びスロットルに制御信号を出力し、ブレーキをONとするとともにスロットル制限をONとする(ステップS20)。次に、制御部2は、伝達比可変機構22へ制御信号を出力することによって、伝達比を0に設定する(ステップS22)。その後、制御部2は、制御モードを前進モードから後退モードへ切り替える(ステップS24)。具体的に後退モードは、制御部2がステアリングハンドル12の主な操作である回転操作による第一入力に基づいて第二操舵部6の制御を行い、ステアリングハンドル12の副次的な操作である揺動操作による第二入力に基づいて第一操舵部4の制御を行うモードである。
【0031】
次に、制御部2は、フェイルチェックがOKであるか否かの判定を行う(ステップS26)。S26において、フェイルチェックがNGであると判定されると、制御部2は、警告灯をONにして(ステップS28)、制御モードを前進モードへ切り替える(ステップS38)。S38については後述する。S26において、フェイルチェックがOKであると判定されると、制御部2は、ブレーキ及びスロットルに制御信号を出力し、ブレーキをOFFとするとともにスロットル制限をOFFとする(ステップS30)。そして、制御部2は、車両MT1が後退を行っているか否かの判定を行う(ステップS32)。制御部2は、車両の速度(あるいは車輪速度)が0なければ車両MT1が後退していると判定する。S32において、速度が0でないと判定されると、制御部2は、後退モードを引き続き維持し、S32を繰り返して後退が終了していないかを繰り返し判定する。一方、S32において速度が0であると判定されると、制御部2は、変速機の位置が後退以外に設定されているか否かを判定する(ステップS34)。S34において、変速機の位置が「後退」に設定されていると判定された場合、制御部2は、車両MT1が引き続き後退を行っていると判定し、再びS32から処理を繰り返す。
【0032】
一方、S34において、変速機の位置が「後退」以外に設定されていると判定された場合、制御部2は、車両MT1の後退が終了したと判定して、制御部2は、ブレーキ及びスロットルに制御信号を出力し、ブレーキをONとするとともにスロットル制限をONとする(ステップS36)。制御部2は、制御モードを前進モードから後退モードへ切り替える(ステップS38)。具体的に後退モードは、制御部2がステアリングハンドル12の主な操作である回転操作による第一入力に基づいて第二操舵部6の制御を行い、ステアリングハンドル12の副次的な操作である揺動操作による第二入力に基づいて第一操舵部4の制御を行うモードである。次に、制御部2は、伝達比可変機構22へ制御信号を出力することによって、伝達比を1に設定する(ステップS40)。その後、制御部2は、ブレーキ及びスロットルに制御信号を出力し、ブレーキをOFFとするとともにスロットル制限をOFFとする(ステップS42)。S42の処理が終了すると、図4に示す処理が終了し、前進モードが維持された状態で再びS10から処理が開始される。
【0033】
次に、ステアリングハンドル12の操作に対して反力を付与する時における制御処理の処理内容について図5を参照して説明する。図5の処理は、ステアリングハンドル12の揺動操作によって第二操作部6が操舵され、反力アクチュエータ28が揺動操作に対して反力を付与する場合における処理である。更に、図5の処理は、指定時間経過後のヒッチ角を演算によって推定し、ヒッチ角が上限値を越えると推定した場合に反力を増加させる場合における処理である。図5の処理は、制御部2において所定のタイミングで実行される。
【0034】
なお、図4の処理において、S24において制御モードが先進モードから後退モードへ切り替わるとき、後退速度の上限値が設定される。更に、運転者が後退速度に上限値が設定されることを回避することを望む場合は、車内のスイッチなどの操作により、制御モードの切り替わりが行われないようにすることもできる。このスイッチ操作によって、後退速度の上限値を解除することができる。
【0035】
まず、図5に示すように、制御部2は、各種センサ29よりヒッチ角、車輪速度、ステアリング角、揺動角の各値を取得する(ステップS50)。また、制御部2は、車両MT1の車両モデルを取得する(ステップS52)。車両モデルは、制御部2内のメモリなどに格納されており、車両MT1の車両タイプや形状や大きさに関する情報が含まれている。制御部2は、S50で取得した各値及びS52で取得した車両モデルに基づいて、指定時間後におけるヒッチ角を演算する(ステップS54)。すなわち、制御部2は、現在のステアリングハンドル12の状態が維持された場合に、指定時間経過した後にヒッチ角がどの程度大きくなっているかを推定することができる。指定時間は、予め任意の値を設定することができる。
【0036】
一方、制御部2は、ヒッチ角の上限角度を取得する(ステップS56)。ヒッチ角の上限角度は、制御部2内のメモリなどに格納されている。次に、制御部2は、S54で演算した推定ヒッチ角がS56で取得した上限角度以上であるか否かを判定する(ステップS58)。S58において、推定ヒッチ角が上限角度以上となると判定された場合、制御部2は、カウンタが指定値以下となるか否かを判定する(ステップS60)。S60において、カウンタが指定値以下であると判定されると、制御部2は、反力アクチュエータ28に制御信号を出力し、揺動操作に対する反力を増加させるように制御を行う(ステップS64)。一方、S60において、カウンタが指定値より大きいと判定されると、制御部2は、警告音を発生した後(ステップS28)、S64の処理を行う。S64の処理が終了すると、カウンタの値を1つ増加させる(ステップS66)。このように、カウンタの値が大きくなった場合に警告音も発生させることによって、運転者は一層注意して揺動操作を行うことができる。S66の処理が終了すると、図5に示す処理は終了し、S50から再び処理が実行される。
【0037】
一方、S58において、推定ヒッチ角が上限角度より小さくなると判定された場合、制御部2は、警告音をOFFにする(ステップS68)。また、制御部2は、反力アクチュエータ28に制御信号を出力して、揺動操作に対する反力を通常値に設定し(ステップS70)、カウンタをリセットする(ステップS72)。このように、ヒッチ角が上限角度を越えるおそれがない場合は、制御部2は、反力を通常値に設定し、警告音を解除し、カウンタをリセットすることによって、運転者の操作の快適性を確保する。S72の処理が終了すると、図5に示す処理は終了し、S50から再び処理が実行される。
【0038】
以上によって、本発明の実施形態に係る操舵装置1は、車両前側における前側車輪T1の操舵を行う第一操舵部4と、車両後側における後側車輪T2の操舵を行う第二操舵部6とを備えているため、前側車輪T1の操舵を行うのみならず、後側車輪T2も操舵することができる。従って、操舵装置1は、一層運転者の意思に従った軌跡に沿って車両を走行させることができる。また、操舵装置1は、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドル12を有する入力部3を備えているため、一つのステアリングハンドル12で第一入力、及び第一入力を除く動作における第二入力を出力することができる。一方、第一操舵部4は、第一入力に基づいて操舵を行うと共に、第二操舵部6は、第二入力に基づいて操舵を行うことができる。従って、運転者は、一つのステアリングハンドル12の操作によって、第一操舵部4及び第二操舵部6を同時に操舵することができる。すなわち、運転者はステアリングハンドルを保持した状態で、後側車輪T2も操舵することができる。以上によって、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドル12を用いて、操作性を向上させることができる。
【0039】
また、本発明の実施形態に係る操舵装置1において、第一入力は、ステアリングシャフト11回りにおけるステアリングハンドル12の回転による入力であり、車両MT1の後退時において、第二操舵部6は、第一入力に基づいて操舵を行うことができる。第一入力がステアリングハンドル12の主たる操作である回転による入力であるため、第二入力はその他の副次的な操作による入力となる。後退時に第二操舵部6が第一入力に基づいて操舵を行う。従って、後退時において、運転者は、主たる操作であるステアリングハンドル12の回転操作によって後側車輪T2を操舵することができる。これによって、後退時において運転者の意思に従った操舵が行いやすくなり、後退時における操作性を一層向上させることができる。
【0040】
また、本発明の実施形態に係る操舵装置1において、制御部2は、少なくとも変速機が後退の位置に設定されているとき、車両の後退時であると判定することができる。制御部2は、少なくとも変速機が後退の位置に設定されていることを後退判定の条件としているため、例えば、変速機がニュートラルの位置に設定されている状態で坂道をずり落ちている場合に、誤って後退判定することを防止することができる。
【0041】
また、本発明の実施形態に係る操舵装置1において、制御部2は、反力アクチュエータを制御することによって、ステアリングハンドル12の操作に対して反力を付与することができる。また、制御部2及び反力アクチュエータは、第二入力が入力された場合、反力を付与すると共に、第二操舵部6による操舵量が大きいほど反力を大きくすることができる。反力を付与することによって、ステアリングハンドル12の操作感を向上させることができる。また、第二操舵部6による操舵量が大きいほど反力が大きくなるため、運転者はヒッチ角や第二操舵部6による舵角が上限値に近づいていることを気付き易くなる。
【0042】
また、本発明の実施形態に係る操舵装置1において、第二操舵部6は、車両の最後部に設けられた後側車輪T2の操舵を行うことができる。最後部における後側車輪T2は、後退時には最前部における車輪となる。従って、後退時において所望の軌跡を走行させやすくなる。
【0043】
本発明に係る操舵装置は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、図4に示す制御処理においては、前進時において、第一操舵部4が第一入力に基づいて操舵を行うと共に、第二操舵部6が第二入力に基づいて操舵を行っていた。また、後退時において、第一操舵部4が第二入力に基づいて操舵を行うと共に、第二操舵部6が第一入力に基づいて操舵を行っていた。しかし、これに代えて、前進時において、第一操舵部4が第一入力及び第二入力(あるいは第一入力のみ)に基づいて操舵を行い、後退時において、第一操舵部4が第一入力に基づいて操舵を行うと共に第二操舵部6が第二入力に基づいて操舵を行ってもよい。後退時に第二操舵部6が第二入力に基づいて操舵を行うため、運転者は、後退時においてステアリングハンドル12の回転以外の操作によって、後側車輪T2を操舵することができる。これによって、運転者は、ステアリングハンドル12を保持した状態で、所望の軌跡に沿った後退走行を車両にさせることができる。
【0045】
また、操舵装置1は、ヒッチHに設けられてトレーラM2を検出することのできるセンサを更に備え、制御部2は、当該センサの検出結果に基づいてトレーラM2が接続されたか否かを判定する接続判定手段として機能してもよい。また、制御部2は、トレーラM2が接続されていると判定した場合、車両の後退時において、第二入力あるいは第一入力に基づいて第二操舵部6の制御を行ってもよい。これによって、操舵装置1は、トレーラM2が接続されている場合、当該トレーラM2に設けられた第二操舵部6を制御することができ、トレーラM2が接続されていない場合、第一入力及び第二入力を他の用途に用いることができる。例えば、操舵装置1は、第一入力及び第二入力を用いて第一操舵部4を制御することができる。あるいは、メイン車両M1の後側車輪に更に操舵部が設けられている場合、第一入力あるいは第二入力をメイン車両M1における後側車輪の操舵部に用いることができる。
【0046】
また、操舵装置は、トレーラなどのように被牽引車両を有する車両MT1に適用されていたが、これに代えて図6に示すように、被牽引車両を有さないトラックなどの車両MT2に適用されてもよい。車両MT2は、メイン車両M1と、当該メイン車両M1の後部に設けられた荷台TRを備える。また、車両MT2は、上述の実施形態に係る操舵装置1と同様な構成を有する操舵装置100を備えている。操舵装置100の第一操舵部4は前側車輪T1の操舵を行い、操舵装置100の第二操舵部6は後側車輪T2の操舵を行う。適用すべき車両のタイプが異なること以外、操舵装置100は操舵装置1と同様な機能を有し、同様な制御を行うことができる。
【0047】
また、操舵装置1は操舵機構でシャフトを動かすタイプの操舵部を有する車両MT1,MT2に適用されていたが、他の操舵方式に係る操舵部を有する車両に適用されてもよい。例えば、図7に示すように、前輪駆動アクチュエータから構成される第一操舵部204と、後輪操舵アクチュエータから構成される第二操舵部206とを備える三輪車タイプの車両MT3に本発明に係る操舵装置200が適用されてもよい。車両MT3の第一操舵部204は、左右の前側車輪T3の間で回転速度の差をつけることによって、進行方向の向きを変える機能を有している。車両MT3の第二操舵部206は、後側車輪T4を回動させることで進行方向の向きを変える機能を有している。適用すべき車両のタイプが異なること以外、操舵装置200は操舵装置1と同様な機能を有し、同様な制御を行うことができる。操舵装置200は、前進時においては、ステアリングハンドル212の主たる操作である回転操作による第一入力に基づいて第一操舵部204を制御し、左右の前側車輪T3の回転速度の差を設けることで前側車輪T3の操舵を行い、ステアリングハンドル212の副次的操作による第二入力に基づいて第二操舵部206を制御し、車輪方向を変えることで後側車輪T4の操舵を行う。一方、操舵装置200は、後退時においては、第二入力に基づいて第一操舵部204を制御し、左右の前側車輪T3の回転速度の差を設けることで前側車輪T3の操舵を行い、第一入力に基づいて第二操舵部206を制御し、車輪方向を変えることで後側車輪T4の操舵を行う。
【0048】
また、上述の実施形態では、第二操舵部は、最後部における後側車輪T2やT4に対して設けられていたが、最後部に配置された車輪のみならず、最後部よりも前側に配置された車輪に対して設けられていてもよい。
【0049】
また、上述の実施形態では、ステアリングハンドルの主たる操作である回転操作による入力を第一入力として説明したが、ステアリングハンドルの副次的な操作である揺動操作、傾き操作、押し引き操作であってもよい。
【0050】
なお、車両後側の車輪を操舵するという第二操舵手段は、制駆動力により被牽引車の操舵を行うことも含む。
【符号の説明】
【0051】
1,100,200…操舵装置、2,202…制御部(後退判定手段、接続判定手段、反力付与手段)、3,203…入力部(入力手段)、4,204…第一操舵部(第一操舵手段)、6,206…第二操舵部(第二操舵手段)、11,211…ステアリングシャフト、12,212…ステアリングハンドル、28…反力アクチュエータ(反力付与手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドルを有する入力手段と、
車両前側における車輪の操舵を行う第一操舵手段と、
車両後側における車輪の操舵を行う第二操舵手段と、を備え、
前記第一操舵手段は、所定の動作における前記ステアリングハンドルの操作による第一入力に基づいて操舵を行い、
前記第二操舵手段は、前記第一入力を除く動作における前記ステアリングハンドルの操作による第二入力に基づいて操舵を行うことを特徴とする操舵装置。
【請求項2】
前記第一入力は、ステアリングシャフト回りにおける前記ステアリングハンドルの回転による入力であり、
前記第二操舵手段は、車両の後退時において、前記第二入力に基づいて操舵を行う、請求項1記載の操舵装置。
【請求項3】
前記第一入力は、ステアリングシャフト回りにおける前記ステアリングハンドルの回転による入力であり、
前記第二操舵手段は、車両の後退時において、前記第一入力に基づいて操舵を行う、請求項1記載の操舵装置。
【請求項4】
前記第二入力は、ステアリングシャフトと交差する軸線回りにおける前記ステアリングハンドルの回動による入力、あるいは前記ステアリングシャフトの延在方向における前記ステアリングハンドルの進退による入力である、請求項1〜3のいずれか一項記載の操舵装置。
【請求項5】
少なくとも変速機が後退の位置に設定されているとき、車両の後退時であると判定する後退判定手段を更に備える、請求項2〜4のいずれか一項記載の操舵装置。
【請求項6】
牽引車両に被牽引車両が接続されていることを判定する接続判定手段を更に備え、
前記第二操舵手段は前記被牽引車両に設けられ、
前記接続判定手段によって前記被牽引車両が接続されていると判定された場合、車両の後退時において、
前記第二操舵手段は、前記第二入力に基づいて操舵を行う、請求項1〜5のいずれか一項記載の操舵装置。
【請求項7】
牽引車両に被牽引車両が接続されていることを判定する接続判定手段を更に備え、
前記第二操舵手段は前記被牽引車両に設けられ、
前記接続判定手段によって前記被牽引車両が接続されていると判定された場合、車両の後退時において、
前記第二操舵手段は、前記第一入力に基づいて操舵を行う、請求項1〜5のいずれか一項記載の操舵装置。
【請求項8】
前記ステアリングハンドルの操作に対して反力を付与する反力付与手段を更に備え、
前記反力付与手段は、前記第二入力が入力された場合、反力を付与すると共に、前記第二操舵手段による操舵量が大きいほど反力を大きくする、請求項1〜7のいずれか一項記載の操舵装置。
【請求項9】
前記第二操舵手段は、車両の最後部に設けられた車輪の操舵を行う、請求項1〜8のいずれか一項記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−152830(P2011−152830A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14557(P2010−14557)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】