説明

既存建物の補強方法及び既存建物の補強構造

【課題】既存建物の外周に新たな構造物を設けることなく、既存建物の下方の地盤が軟弱層である場合や、基礎構造の杭が十分な耐力を備えない場合でも適用することのできる既存建物の補強構造及び補強方法を提供する。
【解決手段】既存建物1の補強方法であって、アンカー20を、その一端がアンカーの定着地盤4に定着されように打設するアンカー打設工程と、前記アンカー20の他端を前記既存建物1の構造体2に定着するアンカー設置工程とを備え、アンカー20に緊張力が付与されない状態で該アンカー20の他端を既存建物1の構造体2に定着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の補強方法及び補強構造に関し、特に、既存建物の基礎をアンカーによりアンカーの定着地盤に定着させることにより補強を行う既存建物の補強方法及び既存建物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建物の耐震補強方法として、既存建物の外部に鉄骨部材からなるブレース架構を増設する方法が用いられている。かかる耐震補強方法によれば、地震時に既存建物に作用する引抜き力や押込み力に抵抗できる。しかしながら、既存建物の外部にブレース架構を増設するため、建物が密集するような場合には用いることができないという問題があった。
ところで、特許文献1には、基礎杭の内部にアンカーを打設して、基礎杭を引抜き方向に抵抗する抵抗体として機能させることにより、地震力に抵抗できるようにした杭基礎構造が記載されており、この杭基礎構造を耐震補強に適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10―82056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように耐震補強のためにアンカーを打設する場合には、地震荷重が作用した際にアンカーが伸びることを考慮して、予め緊張力を導入しておくため、基礎構造には鉛直方向荷重に対する十分な耐力が必要とされる。したがって、軟弱の地盤上に構築されたべた基礎を基礎構造とする場合や、杭基礎を有するものの杭基礎が十分な鉛直方向荷重に対する耐力を備えていない場合は、鉛直方向荷重に対する耐力が不足してしまい、アンカーを打設することができない。
また、基礎杭を新たに設けることも考えられるが、既存建物の下方に新たに基礎杭を構築することは難しく、既存建物の補強構造として用いるのには適していない。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、周囲に建物が密集しているような場合でも施工することができ、かつ、既存建物の下方の地盤が軟弱地盤である場合や、基礎構造の杭が十分な耐力を備えない場合でも適用することのできる既存建物の補強方法及び既存建物の補強構造及びを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、請求項1に係る発明は、既存建物の補強方法であって、アンカーを、その一端がアンカーの定着地盤に定着されように打設するアンカー打設工程と、前記アンカーの他端を前記既存建物の構造体に定着するアンカー設置工程と、を備え、前記アンカーに緊張力が付与されない状態で該アンカーの他端を前記既存建物の構造体に定着することを特徴とする。
【0007】
本発明による既存建物の補強方法によれば、アンカー打設工程において、アンカーを、その一端が定着地盤に定着されるように打設し、アンカー設置工程において、アンカーの他端を既存建物の構造体に定着することで、既存建物を補強することができる。また、アンカーに緊張力が付与されない状態で、アンカーの他端が既存建物の構造体に定着されることになる。
【0008】
請求項2に係る発明は、既存建物の補強構造であって、一端がアンカーの定着地盤に定着され、他端が緊張力が付与されない状態で前記既存建物の構造体に定着されたアンカーと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既存建物が軟弱地盤上に建てられた場合や既存建物の基礎杭が十分な耐力を備えていない場合でも、アンカーに緊張力を付与することができる。これにより、既存建物をアンカーによりアンカーの定着地盤に定着することができ、外部に新たな架構を設けることなく、周囲に建物が密集するような場合であっても、耐震補強を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】既存建物を本実施形態の耐震補強構造で補強した状態を示す図である。
【図2】永久アンカーの構成を示す図であり、(A)は鉛直断面図、(B)はアンカー自由長部であるA−A´断面図、(C)はアンカー定着長部であるB−B´断面図である。
【図3】本実施形態の既存建物の耐震補強構造を構築する方法を説明するための図である。
【図4】アンカーを斜め方向に傾斜するように設けた耐震補強構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の既存建物の耐震補強構造の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、既存建物1を本実施形態の耐震補強構造10で補強した状態を示す図である。同図に示すように、本実施形態の耐震補強構造10は、例えば軟弱層である地盤3と、この地盤3の下方のアンカーの定着地盤4(例えば、支持層)とを備えた地盤上に構築され、基礎構造としてべた基礎2を有する既存建物1を耐震補強するためのものである。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の耐震補強構造10は、既存建物1のべた基礎2の下方の地盤3の少なくとも一部を地盤改良することにより形成された地盤改良部30と、下端が定着地盤4に定着され、緊張力が導入された状態で又は緊張力が導入されない状態で(本実施の形態においては緊張力が導入された状態)上端が既存建物1のべた基礎2に固定された永久アンカー20とで構成される。
【0013】
地盤改良部30は、例えば、地盤3を削孔撹拌し、地盤3を削孔撹拌することにより生じた土砂にセメント系又はシリカ系の地盤改良剤を混合撹拌することにより、又は注入することにより構築される。土砂に混合撹拌するセメント系の地盤改良剤としては、恒久グラウトなどの長期耐久性に優れたグラウトが好適である。
【0014】
図2は、永久アンカー20の詳細な構成を示す図であり、(A)は鉛直断面図、(B)はアンカー自由長部であるA−A´断面図、(C)はアンカー定着長部であるB−B´断面図である。同図に示すように、永久アンカー20は、掘削孔29に挿入された、表面に螺旋状の凹凸を有する円筒状のコルゲートシース21と、コルゲートシース21内に充填されたインナーグラウト23と、インナーグラウト23内に埋設された複数のPC鋼より線22と、掘削孔29の内壁とコルゲートシース21の外周との間に充填されたアウターグラウト24と、PC鋼より線22をべた基礎2に固定する定着具25と、を備える。また、コルゲートシース21内には、グラウトを充填するためのグラウトホース26が挿通されており、インナーグラウト23に埋め殺しされている。
なお、定着具25を使用せずに、PC鋼より線22をグラウトによりべた基礎2に定着固定してもよい。
【0015】
図2(B)に示すように、アンカー自由長部のPC鋼より線22にはアンボンドチューブ27が囲繞されており、このアンボンドチューブ27は、PC鋼より線22とインナーグラウト23との付着を妨げている。
これに対して、図2(C)に示すように、アンカー定着長部のPC鋼より線22にはアンボンドチューブ27が囲繞されておらず、PC鋼より線22とインナーグラウト23との間で付着力が確保される。インナーグラウト23とアウターグラウト24の間には、コルゲートシース21が介装されているが、コルゲートシース21の表面に凹凸が設けられているため、インナーグラウト23と、周囲の地盤と一体となったアウターグラウト24との間で力の伝達が行われる。したがって、既存建物1のべた基礎2からPC鋼より線22に伝達された緊張力は、アンカー定着長部においてインナーグラウト23及びアウターグラウト24を介して定着地盤4に伝達され、これにより、この緊張力に抵抗することができる。
【0016】
既存建物1に地震動が発生し、建物の一部に浮き上がり荷重が作用した場合には、永久アンカー20に緊張力が作用するが、上記のように永久アンカー20が緊張力に抵抗するため、既存建物1の浮き上がりを防ぐことができる。また、既存建物1の一部に沈み荷重が作用した場合には、地盤改良部30がこの沈み荷重に抵抗するため、既存建物1の沈み込みを防止できる。このように、本実施形態の耐震補強構造10によれば、既存建物1に地震などにより荷重が作用した場合であっても、この荷重に対して抵抗することができる。
【0017】
なお、地震時に永久アンカー20に緊張力が作用した際、PC鋼より線22が伸びてしまう虞があるため、PC鋼より線22には予め緊張力が導入されている。このため、既存建物1のべた基礎2と定着地盤4との間の地盤3に圧縮荷重が作用するが、上記のように地盤3の少なくとも一部を地盤改良することにより地盤改良部30としたため、この圧縮荷重に抵抗することができる。
なお、例えば、PC鋼より線22の伸び量が小さい場合等には、PC鋼より線22に張力を導入しておかなくてもよい。
【0018】
以下、本実施形態の既存建物の耐震補強構造10を構築する方法を説明する。
図3は、本実施形態の既存建物の耐震補強構造10を構築する工程を説明するための図である。同図(A)に示すように、まず、既存建物1のべた基礎2にコア抜きを行い、地盤3にまで到達するように貫通孔31を設ける。
次に、図3(B)に示すように、べた基礎2に設けられた貫通孔31より地盤3を削孔撹拌しながら恒久グラウトを注入することにより、べた基礎2の下方の地盤3の少なくとも一部に地盤改良を施し、地盤改良部30とする。
【0019】
次に、図3(C)に示すように、べた基礎2に設けられた貫通孔31より、定着地盤4に永久アンカー20を打設し、永久アンカー20の先端を定着地盤4に定着させる。永久アンカー20は、地盤3を削孔しながら掘削孔の外周面にケーシングを設置し、ケーシング内にPC鋼より線22が内部に挿通されたコルゲートシース21を挿入し、グラウトホース26を通してインナーグラウト23を注入し、アウターグラウト24を注入した後、ケーシングを引抜くことにより打設できる。
【0020】
次に、図3(D)に示すように、ジャッキなどを用いてPC鋼より線21に緊張力を付与した状態でPC鋼より線21に定着具25を取付け、PC鋼より線21の上端をべた基礎2に定着固定する。
以上の工程により既存建物の耐震補強構造10を構築できる。
【0021】
本実施形態の補強構造10によれば、既存建物1の外周に新たにブレース架構を設ける必要がなく、また、既存建物1のべた基礎2に設けた貫通孔より施工することができるため、建物が密集するような場合であっても既存建物1の耐震補強を行うことができる。また、地盤3を地盤改良することにより地盤の圧縮強度が向上するため、予め永久アンカー20に緊張力を導入することができ、地震動が作用した場合にも永久アンカー20に伸びが生じてしまうことを防止できる。
【0022】
なお、本実施形態では、べた基礎2を有する既存建物1に適用した場合について説明したが、これに限らず、杭基礎やフーチング基礎など他の基礎構造を有する既存建物に対しても適用することができる。
【0023】
また、本実施形態では、鉛直方向に永久アンカー20を打設する場合について説明したが、永久アンカー20を鉛直方向に打設することができないような場合には、図4に示すように、斜め方向に永久アンカー120を打設することも可能である。
【0024】
また、本実施形態では、永久アンカー20としてVSL−J1アンカーを用いた場合について説明したが、これに限らず、耐久性の高いアンカーであれば用いることができる。
また、本実施形態では、べた基礎2に貫通孔31を設け、貫通孔31より地盤改良及び永久アンカー20の打設を行ったが、これに限らず、既存建物1の下部に地盤3まで到達するような貫通孔を設け、この貫通孔より地盤改良及び永久アンカー20の打設を行っても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 既存建物
2 べた基礎
3 地盤
4 定着地盤
10 耐震補強構造
20、120 永久アンカー
21 コルゲートシース
22 PC鋼より線
23 インナーグラウト
24 アウターグラウト
25 定着具
26 グラウト注入ホース
27 アンボンドチューブ
29 掘削孔
30、130 地盤改良部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の補強方法であって、
アンカーを、その一端がアンカーの定着地盤に定着されように打設するアンカー打設工程と、
前記アンカーの他端を前記既存建物の構造体に定着するアンカー設置工程と、
を備え、
前記アンカーに緊張力が付与されない状態で該アンカーの他端を前記既存建物の構造体に定着することを特徴とする既存建物の補強方法。
【請求項2】
既存建物の補強構造であって、
一端がアンカーの定着地盤に定着され、他端が緊張力が付与されない状態で前記既存建物の構造体に定着されたアンカーと、
を備えることを特徴とする既存建物の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−43049(P2011−43049A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270283(P2010−270283)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2007−67455(P2007−67455)の分割
【原出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(504365799)株式会社特殊構工法計画研究所 (26)
【Fターム(参考)】