説明

木質化粧板の製造方法及び木質化粧板

【課題】導管開口部が意匠面に存在する突板が樹脂製の基材に固着されてなる木質化粧板を、導管開口部を潰すことなく、迅速且つ効率的に製造し得る技術を提供する。
【解決手段】突板12の意匠面22に、塗膜層36を、導管開口部を埋めない厚さで形成する一方、突板12の裏面24に、裏打ちシート20を貼着して、インサート品15を形成した後、かかるインサート品15を、突板12の意匠面22がキャビティ面48に接触位置するように、成形キャビティ52内に収容し、その後、成形キャビティ52内に、溶融樹脂材料62を射出、充填して、固化せしめることにより、基材を成形すると共に、それら基材と突板12とを、裏打ちシート20を介して固着するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質化粧板の製造方法及び木質化粧板に係り、特に、導管が開口する意匠面を備えた木質の突板が合成樹脂製の基材に固着されてなる木質化粧板を有利に製造する方法と、そのような製造方法によって得られた木質化粧板とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、木目等の美しい模様を有する木材(突板)を合成樹脂製の基材表面に固着して得られる木質化粧板は、高級な木質の表面を、手軽に且つ低コストに得ることが出来るところから、自動車用内装部品や家具、建築材、家電製品等の様々な製品として、或いはその表面材等として、広く利用されてきている。
【0003】
そのような木質化粧板を製造する方法の一つに、突板を含む突板シートをインサート品として用いた射出インサート成形手法がある(例えば、下記特許文献1参照)。この手法では、先ず、突板の意匠面とは反対側に、突板を補強するための不織布や天然織布、樹脂フィルム等の裏打ちシートが、接着や溶着等によって貼着されてなる突板シートが、インサート品として準備される。そして、そのようなインサート品が、射出成形用型の内部に形成される成形キャビティ内に収容されて、かかるインサート品の突板の意匠面が、射出成形用型のキャビティ面に接触位置せしめられた後、インサート品における裏打ちシートの突板側とは反対の背面側に存在する成形キャビティ部分内に、溶融樹脂材料が射出、充填されて、固化せしめられる。これによって、合成樹脂製の基材が成形されると同時に、基材に対して、突板が、裏打ちシートを介して固着され、以て、目的とする木質化粧板が得られる。その後、必要に応じて、かかる木質化粧板の突板の意匠面が、所望の色に着色された後、第一のシーラー層を介して、補色のための塗膜が形成され、更に、この塗膜の上に、第二のシーラー層を介して、突板の意匠面を保護するトップコート層が、透明な塗膜にて形成されることとなる。
【0004】
このように、射出インサート成形手法によって木質化粧板を製造する場合には、基材の成形操作と、成形された基材と突板シートとの固着操作とが、同時に且つ一挙に実施されるところから、例えば、射出成形手法等により基材を成形した後、この基材に対して、突板に裏打ちシートが貼着された突板シートを接着剤等を用いて接着することにより、木質化粧板を得る場合とは異なって、目的とする木質化粧板が、迅速且つ効率的に製造され得ることとなる。しかも、射出インサート成形手法によって得られた木質化粧板においては、突板シートと基材との間に接着剤層が、何等介在せしめられておらず、その分だけ、全体の厚さが薄くなるといった利点も得られる。
【0005】
ところで、木質化粧板の一種として、導管が開口する意匠面を備えた突板が基材に固着されてなるもの、所謂オープンポアタイプの木質化粧板が、知られている。このようなオープンポアタイプの木質化粧板においては、意匠面に、導管の開口部に対応した微小乃至は微細な凹部(凹溝を含む。以下同一の意味において使用する。)が形成され、それによって、深みのある陰影や凹凸感のある肌触りが得られるようになり、以て、更に優れた意匠性と、より自然で且つ重厚な木質感とが、効果的に発揮され得るのである。
【0006】
ところが、かかるオープンポアタイプの木質化粧板を得るべく、導管が開口する意匠面を有する突板を含む突板シートを用いた射出インサート成形を実施した場合には、製造される木質化粧板において、オープンポアタイプの木質化粧板特有の自然で且つ重厚な木質感を十分に得ることが出来なかった。何故なら、射出インサート成形では、成形キャビティ内に射出される溶融樹脂材料の射出圧が、通常、3.92×107 Pa(400kgf/cm2 )以上もの高圧であるところから、インサート品の突板が、そのような高圧の溶融樹脂材料とキャビティ面との間で挟圧されて、突板の意匠面が、溶融樹脂材料の射出圧に基づく大きな力でキャビティ面に押し付けられるようになり、そのために、インサート品の突板の意匠面において開口する導管の開口部の多くが潰されて、閉塞してしまい、その結果、最終的に得られる木質化粧板の意匠面に、導管の開口部に対応した凹部を形成することが、極めて困難となるか、若しくは不可能となってしまうからである。
【0007】
このため、オープンポアタイプの木質化粧板を製造する際には、多くの場合、別途に成形された基材に対して、導管が開口する意匠面を備えた突板を含む突板シートを接着剤にて接着するといった面倒で手間のかかる手法が採用されているのが、現状なのである。
【0008】
【特許文献1】特開平11−983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、導管が開口する意匠面を備えた木質の突板が合成樹脂製の基材に固着されてなる木質化粧板を、導管の開口部が潰されることなく、射出インサート成形によって、迅速且つ効率的に製造し得る方法と、そのような方法によって得られる木質化粧板とを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、上記した課題、又は本明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0011】
<1> 導管が開口する意匠面を備えた木質の突板が、合成樹脂製の基材に固着されてなる木質化粧板を製造する方法であって、(a)前記突板の意匠面に、所定の塗料からなる塗膜層を、該意匠面における前記導管の開口部を埋めない厚さで形成する一方、該突板の該意匠面とは反対側の裏面に、裏打ちシートを貼着して、インサート品を形成する工程と、(b)内部に成形キャビティが形成される射出成形用型を用い、該射出成形用型の該成形キャビティ内に、前記インサート品を収容すると共に、該インサート品の前記突板の意匠面を該射出成形用型のキャビティ面に接触位置せしめた後、該インサート品における前記裏打ちシートの該突板側とは反対の面側に存在する該成形キャビティ部分内に、溶融樹脂材料を射出、充填して、固化せしめることにより、前記基材を成形すると共に、該基材と該突板とを、該裏打ちシートを介して固着する工程とを含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法。
【0012】
<2> 前記塗膜層を形成する前記塗料として、速乾性の塗料を用いることを特徴とする上記態様<1>に記載の木質化粧板の製造方法。
【0013】
<3> 前記突板の前記意匠面に、前記塗膜層を10〜100μmの厚さで形成することを特徴とする上記態様<1>又は<2>に記載の木質化粧板の製造方法。
【0014】
<4> 前記裏打ちシートが、少なくとも前記基材に対する固着側の面において開口する微細な凹部を多数有していることを特徴とする上記態様<1>乃至<3>のうちの何れか一つに記載の木質化粧板の製造方法。
【0015】
<5> 前記成形キャビティ内に射出される前記溶融樹脂材料の射出圧が、3.43×107 〜12.75×107 Paの範囲内の値であることを特徴とする上記態様<1>乃至<4>のうちの何れか一つに記載の木質化粧板の製造方法。
【0016】
<6> 上記態様<1>乃至<5>のうちの何れか一つに記載の製造方法によって製造されていることを特徴とする木質化粧板。
【発明の効果】
【0017】
すなわち、本発明に従う木質化粧板の製造方法にあっては、インサート品の形成に際して、突板の意匠面に、塗膜層が、導管の開口部を埋めない厚さで形成されるところから、突板の意匠面が、塗膜層によって固められて、意匠面の硬度が有利に高められると共に、突板の意匠面側の表層部分に、塗料が浸透し、それによって、かかる意匠面の導管の開口部の内壁面部分の強度が、効果的に高められ得る。それ故、そのようなインサート品が成形キャビティ内に収容された後、かかる成形キャビティ内に溶融樹脂材料が射出、充填されたときに、インサート品の突板が、高圧の溶融樹脂材料とキャビティ面との間で挟圧されて、突板の意匠面が、溶融樹脂材料の射出圧に基づく大きな力で、キャビティ面に押し付けられても、突板の意匠面に存在する導管の開口部が潰されて、閉塞してしまうようなことが、効果的に防止され得る。
【0018】
従って、かくの如き本発明に従う木質化粧板の製造方法によれば、意匠面に、導管の開口部に対応した微小乃至は微細な凹部が形成されて、更に一層優れた意匠性と、より自然で且つ重厚な木質感とが発揮される木質化粧板が、突板シートと基材とを接着する面倒で且つ手間のかかる作業を何等行うことなく、射出インサート成形によって、極めて迅速に且つ効率的に得られることとなる。しかも、突板シートと基材との間に接着剤層が介在せしめられることがなく、それによって、製造される木質化粧板の薄肉化が、効果的に実現され得るのである。
【0019】
また、本発明に従う木質化粧板にあっては、上記の如き特徴的な製造手法によって得られるところから、かかる製造手法によって奏される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が有効に享受され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従う木質化粧板の一例として、自動車用内装部品として用いられる木質化粧板の一部が、縦断面形態において概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態の木質化粧板10は、全体として、2.0〜10mm程度の厚さを有する矩形形状を呈し、突板12に複数の塗膜層が積層形成されてなる突板シート14が、合成樹脂製の基材16上に固着されてなっている。そして、かかる木質化粧板10にあっては、突板12に積層されるべき複数の塗膜層のうち、最外層(最上層)となる塗膜層を除く幾つかの塗膜層が積層形成された突板シート15をインサート品として用いた射出成形を行うことにより、基材16を成形すると同時に、基材16に対して突板シート15を固着した射出成形品を成形し、その後、かかる射出成形品の突板シート15に対して、上記最外層となる塗膜層を積層形成することによって、得られるものである。
【0022】
より具体的には、基材16は、硬質の合成樹脂、例えば、自動車用内装部品の形成材料として、多く用いられるABS樹脂やポリカーボネート/ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、ノリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性の樹脂材料を用いて形成されており、全体として、1.0〜10.0mm程度の厚さを有する矩形形状を呈している。
【0023】
また、突板シート14は、木質化粧板10の意匠面18側部分を構成する突板12と、基材16に固着される裏面側部分を構成する裏打ちシート20とを有している。突板12は、その厚さ方向の一方側の面が意匠面22とされており、この突板12の意匠面22にて、木質化粧板10の意匠面18が構成されている。そして、そのような突板12の意匠面22とは反対側の裏面24に、裏打ちシート20が、接着剤層26を介して接着されて、突板シート14が形成されているのである。
【0024】
そのような突板シート14において、突板12は、例えば、オバンコール、ブビンガ、バーズアイメープル、カーリーメープル、クラロウォールナット、ホワイトアッシュ、サペリマホガニー、タモ、スギ、ヒノキ、チェリー、チーク等の木目の美しい様々な天然木を、板目や柾目、杢目等の所望の木目が現われるように、0.1〜0.6mm程度の厚さでスライスして得られる平板材からなっている。なお、図1及び後述する図2乃至図4、図6乃至図8では、本実施形態の木質化粧板10の構造の理解を容易とするために、突板シート14を構成する突板12を始めとした各層の厚さが、基材16の厚さと比較して、実際とは異なる誇張された大きさで示されていることが、理解されるべきである。
【0025】
そして、図2から明らかなように、突板12の意匠面22には、そこにおいて開口する導管の開口部28が、多数存在している。これら多数の導管開口部28は、図2には明示されていないものの、意匠面22上において種々の長さや幅をもって延びる凹溝形態を呈するものや、種々の大きさの穴形態を呈するもの等、様々な種類のものからなっている。また、それら様々な種類の導管開口部28は、何れも、極めて小さな深さを有している。
【0026】
さらに、そのような導管開口部28が多数存在する突板12の意匠面22上には、着色層30と第一シーラー層32と補色層34と第二シーラー層36とトップコート層38とが、その順番で、下から順に積層形成されている。それら五つの層30,32,34,36,38は、何れも、各種の樹脂材料をマトリックスとして塗料を用いて形成された塗膜層からなっている。かくして、突板12の意匠面22が、それら五つの塗膜層30,32,34,36,38のうち、少なくとも、トップコート層38を除く四つの塗膜層30,32,34,36にて固められて、意匠面22の硬度が有利に高められると共に、突板12の意匠面22側の表層部分に、塗料が浸透して、それが固化されることで、意匠面22に存在する多数の導管開口部28の内壁面部分の強度が、効果的に高められている。
【0027】
そして、それら五つの塗膜層30,32,34,36,38のうち、意匠面22に直接に形成される最下層の着色層30は、突板12の意匠面22を着色して、意匠面22の色調等を整えるために、有色の塗料を用いて、意匠面22上に形成されている。なお、突板12の意匠面22に対して直接に行う最初の塗装は、一般に、ワイピングと称される塗装方法が採用される。このようなワイピングによって実施される意匠面22の最初の塗装では、多くの場合、明確な塗膜が形成されることなく、突板12の意匠面22の表層に、塗料が浸透せしめられて、意匠面22が着色されることとなる。しかしながら、ここでは、木質化粧板10の構造の理解を容易とするために、意匠面22の表層に浸透した塗料が、明確な塗膜の形態をもって意匠面22上に積層形成される着色層30として記載されていることが、理解されるべきである。勿論、吹付塗装等のワイピング塗装以外の一般的な塗装手法が採用される場合には、着色層30が、実際に、所定の厚さを有する塗膜として、形成される。そして、そのような着色層30を形成する有色の塗料の種類は、特に限定されるものではなく、木質化粧板10を所望の色に着色可能なものの中から適宜に選定され、例えば、染料系(塩基性・酸性)着色剤や顔料系(無機・有機)着色剤等が、挙げられる。
【0028】
また、かかる着色層30上に積層形成される第一シーラー層32は、無色透明な塗料を用いて形成されている。この第一シーラー層32は、着色層30と補色層34との密着性を高めるために、それら二つの層30,34の間に介在せしめられ、また、突板12の意匠面22への着色層30の形成によって生ずる毛羽立ちを除去するための研磨が、着色層30に対して直接に行われないようにして、かかる研磨による着色層30の剥離を防止することを目的として、着色層30上に積層されている。それ故、第一シーラー層32を形成する塗料は、無色透明で、少なくとも上記二つの目的を達成し得るものであれば、その種類が、特に限定されるものではなく、従来から一般に使用される塗料が、適宜に用いられる。かかる塗料としては、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、アミノアルキッド樹脂系塗料等のクリア塗料が例示され得る。
【0029】
さらに、補色層34は、着色層30にて着色された突板12の意匠面22の色ムラを修正する等のために、有色の塗料を用いて、第一シーラー層32上に積層形成されている。このような補色層34を形成する有色の塗料の種類も、特に限定されるものではなく、着色層30の色調等に応じた色を有するもの等が、適宜に使用される。例えば、この補色層34を形成する塗料としては、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、アミノアルキッド樹脂系塗料等が挙げられる。
【0030】
第二シーラー層36は、第一シーラー層32と同様に、無色透明な塗料を用いて形成されている。この第二シーラー層36は、補色層34とトップコート層38との密着性を高めるために、それら二つの層34,38の間に介在せしめられるように、補色層34上に積層されている。この第二シーラー層36を形成する塗料には、無色透明で、補色層34とトップコート層38の両方に対する密着性に優れたものが、公知の塗料の中から適宜に選択されて、用いられる。かかる塗料としては、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、アミノアルキッド樹脂系塗料等のクリア塗料が例示され得る。
【0031】
トップコート層38も、無色透明な塗料を用いて形成されている。このトップコート層38は、突板12の意匠面22の傷付き等を防止して、意匠面22を保護すると共に、かかる意匠面22に光沢や深みを付与する等の役割を有して、第二シーラー層36上に積層されて、木質化粧板10の意匠面18側部分の最外層(最上層)を形成している。このトップコート層38を形成する塗料としては、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、アミノアルキッド樹脂系塗料等のクリア塗料が例示され得る。
【0032】
そして、本実施形態では、それら着色層30、第一シーラー層32、補色層34、第二シーラー層36、及びトップコート層38の五つの塗膜層の合計厚さが、突板12の意匠面22に存在する多数の導管開口部28のそれぞれの深さよりも十分に小さく、それら各導管開口部28を埋めない(閉塞させない)厚さとされている。これにより、五つの塗膜層の30,32,34,36,38のうちの最外層を形成するトップコート層38には、突板12の意匠面22の各導管開口部28に対応した位置に、第二シーラー層36側とは反対側の面において開口する微小乃至は微細な凹部40が、各導管開口部28に対応した形状をもって、多数形成されている。
【0033】
なお、それら五つの塗膜層30,32,34,36,38の合計厚さは、突板12の意匠面22に存在する多数の導管開口部28を埋めない厚さであれば、その具体的な厚さは、特に限定されるものではないものの、好ましくは10〜100μmの範囲内の値とされる。何故なら、かかる合計厚さが10μm未満の極めて薄い厚さとされる場合には、五つの塗膜層30,32,34,36,38の形成による意匠面22の硬度の向上が不十分なものとなって、意匠面22に存在する多数の導管開口部28の内壁面部分の強度を十分に高めることが困難となる恐れがあるからであり、また、五つの塗膜層30,32,34,36,38の合計厚さが100μmを超える厚さとされていると、意匠面22に存在する多数の微小な導管開口部28が、それら五つの塗膜層30,32,34,36,38にて埋まってしまう懸念が生ずるからである。そのように、導管開口部28が埋まらないようにして、意匠面22の硬度を十分に高める上では、五つの塗膜層30,32,34,36,38の合計厚さが、5〜100μmとされていることが、より好ましい。
【0034】
なお、五つの塗膜層30,32,34,36,38のそれぞれの厚さも、特に限定されるものでなく、あくまでも、合計厚さが、前記せる程度とされていることが、望ましいのである。また、本実施形態では、突板12の意匠面22上に、上記せる着色層30、第一シーラー層32、補色層34、第二シーラー層36、及びトップコート層38の五つの塗膜層が積層形成されていたが、場合によっては、それら五つの塗膜層30,32,34,36,38のうちの幾つかのものを省略したり、或いは五つの塗膜層30,32,34,36,38とは異なる塗膜層を更に加えても良い。しかしながら、突板12の意匠面22上に積層形成される塗膜層の数が変動しても、かかる塗膜層の合計厚さが、突板12の意匠面22に存在する多数の導管開口部28を埋めない厚さとされている必要がある。
【0035】
また、突板12の意匠面22上に積層形成される五つの塗膜層30,32,34,36,38を与える塗料の種類は、上記例示された各種のものが、それぞれ使用されるが、それらの中でも速乾性の塗料(例えば、第一及び第二シーラー層32,34とトップコート層38を形成する塗料としては、シリコン系アクリル樹脂からなる塗料が例示される)が、より好適に用いられる。何故なら、突板12の意匠面22上に積層形成される塗膜層の乾燥が遅いと、塗料の表面張力で、導管開口部28の開口周縁のエッジ部分に、膜厚が増大する額縁現象が発生してしまい、そのために、かかるエッジ部分がシャープに角張った形状とならず、その結果、突板12の意匠面22において、導管開口部28の存在による自然で重厚な木質感を、十分に得ることが困難となってしまう恐れがあるからである。換言すれば、突板12の意匠面22上に積層形成される五つの塗膜層30,32,34,36,38が、速乾性の塗料を用いて形成されることによって、導管開口部28の開口周縁のエッジ部分がシャープに角張った形状となり、以て、導管開口部28の存在による自然で重厚な木質感が、より十分に発揮され得るのである。
【0036】
一方、それら五つの塗膜層30,32,34,36,38が積層形成される突板シート14の意匠面18側とは反対の裏面側部分、即ち、基材16との固着側部分を構成する裏打ちシート20は、木綿からなる天然織布にて構成されている。この裏打ちシート20は、突板シート14をインサート品として用いた基材16の射出成形に際して、溶融樹脂材料の射出圧による突板12の損傷を防止すると共に、かかる射出成形によって形成される基材16と突板12との密着性を高めるために、突板12の裏面24に貼着されるものである。それ故、かかる裏打ちシート20の材質は、少なくともそれらの目的を達成し得るものであれば、特に限定されるものではない。従って、裏打ちシート20の形成材料には、例えば、ABS樹脂やPP等の熱可塑性樹脂フィルムや、木綿以外の天然織布や不織布等の布帛、天然木板等が、何れも使用可能となる。
【0037】
そして、ここでは、裏打ちシート20が、木綿からなる天然織布にて構成されているところから、図示されてはいないものの、突板12との接着面や基材16との固着面に、孔部や凹溝等からなる凹部が、それぞれ、多数形成されている。このため、かかる裏打ちシート20の突板12との接着面側では、そこに設けられる多数の凹部内や、かかる接着面において露呈する木綿繊維の内部に、接着剤層26を構成する接着剤の一部が入り込み、又は浸透し、それにより、接着剤のアンカー効果が発揮されて、裏打ちシート18と突板12との密着性が、有利に高められている。また、裏打ちシート20の基材16との固着面側でも、そこに設けられる多数の凹部内や、かかる固着面において露呈する木綿繊維の内部に、基材16を構成する樹脂材料の一部が、射出成形時において入り込み、又は浸透し、それによるアンカー効果が発揮されて、裏打ちシート18と基材16との密着性も、効果的に高められている。
【0038】
また、前記せるように、かかる裏打ちシート20は、突板12の裏面24に、接着剤層26を介して接着されているのであるが、この接着剤層26を形成する接着剤は、何等限定されるものではなく、突板12の裏面24への裏打ちシート18の接着に際して、従来から一般に用いられる接着剤が、何れも用いられ得る。この接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤が挙げられる。
【0039】
ところで、かくの如き構造を有する木質化粧板10は、例えば、以下のような手順に従って、射出インサート成形を実施することにより、製造されることとなる。
【0040】
すなわち、先ず、目的とする木質化粧板10を製造するための射出インサート成形の実施に先立って、突板12の意匠面22に、前記五つの塗膜層30,32,34,36,38のうちのトップコート層38だけを除く四つの塗膜層30,32,34,36が積層形成される一方、裏面24に、接着剤層26を介して裏打ちシート20が貼着されてなる突板シート15を形成し、これをインサート品として準備する。
【0041】
それには、先ず、平板状の突板12を、所定の木材から切り出す等して、準備する。なお、この突板12は、意匠面22に、所望の木目が現れ、且つ多数の導管開口部28が存在するように、所定の木材から、0.1〜0.6mm程度の厚さで切り出される。その後、必要に応じて、かかる突板12に対して、乾燥処理が施される。
【0042】
また、かかる突板12とは別に、裏打ちシート18を準備する。ここでは、この裏打ちシート18として、突板12の裏面24の全面を覆い得る面積と0.03〜0.3mm程度の厚さとを有する木綿の布帛が、準備される。
【0043】
次いで、図3に示されるように、先に例示された有色の塗料を用いて、平板状の突板12の意匠面22に対して、例えばワイピング操作を行うこと等により、着色層30を形成する。その後、この着色層30の上に、先に例示されたクリア塗料を吹付塗装する等して、第一シーラー層32を積層形成し、更に、かかる第一シーラー層32の上に、先に例示された有色の塗料を吹付塗装する等して、補色層34を積層形成する。引き続き、補色層34の上に、先に例示されたクリア塗料を吹付塗装する等して、第二シーラー層36を積層形成する。
【0044】
なお、かくして突板12の意匠面22上に四つの塗膜層30,32,34,36を順次積層形成する際には、意匠面22に多数存在する導管開口部28が、各塗膜層にて埋まることがないように、第一シーラー層32が5〜20μm程度、補色層34が5〜20μm程度、第二シーラー層36が5〜20μm程度の厚さとされる。(着色層30は、ワイピングにより形成されているため、実質的には膜厚がゼロに近いものとなる)また、着色層30の形成後に、突板12の意匠面22において毛羽立ちが目立つような場合には、例えば、着色層30上に第一シーラー層32を積層形成した後、必要に応じて、突板12の意匠面22に対する研磨を、適当な研磨紙等を用いた公知の手法で実施して、毛羽立ちが除去される。
【0045】
その後、図4に示されるように、意匠面22上に四つの塗膜層30,32,34,36が積層形成された突板12の裏面24に、例えばウレタン系接着剤等の公知の接着剤を0.05〜0.15mm程度の厚さで塗布した後、先に準備された裏打ちシート20を重ね合わせ、そして、その状態で、接着剤を硬化せしめる。これにより、接着剤層26を形成すると共に、裏打ちシート20を、突板12の裏面24に貼着する。
【0046】
かくして、突板12の意匠面22上に、四つの塗膜層30,32,34,36が積層形成されて、意匠面22の硬度が高められて、意匠面22に多数存在する導管開口部28の内壁面部分の強度の向上が図られると共に、突板12の裏面24に、裏打ちシート20が貼着されて、かかる裏打ちシート20にて、後述する射出インサート成形で成形される基材16と突板12との密着性が高められた突板シート15が、形成されて、準備されるのである。
【0047】
次に、上記のようにして準備された突板シート15をインサート品として用いた射出インサート成形を実施するのであるが、その際には、例えば、図5に示される如き構造を有する射出成形用型42が、用いられる。
【0048】
この射出成形用型42は、図5に示されるように、例えば、位置固定の固定型44と、この固定型44に対して、左右方向において対向する状態で、相対的に接近乃至離隔可能に配置された可動型46とを備えた分割型構造を有している。また、この射出成形用型42の可動型46は、固定型44との対向面において開口する矩形のキャビティ形成凹所48を有している。一方、固定型44は、可動型46のキャビティ形成凹所48よりも一周り小さな大きさをもって、可動型46との対向面に突設された矩形のキャビティ形成凸部50を一体的に有している。そして、それら可動型46と固定型44との互いの型合せ(型閉め)状態下において、可動型46のキャビティ形成凹所48内に、固定型44のキャビティ形成凸部50が嵌入せしめられて、キャビティ形成凹所48の開口部が固定型44にて覆蓋されることにより、それら可動型46と固定型44との間に、目的とする木質化粧板10に対応した形状を有する成形キャビティ52が形成されるようになっている(図6参照)。
【0049】
また、固定型44には、図示しない射出成形機のノズル54が接触せしめられるスプルーブッシュ56と、このスプルーブッシュ56のスプルー58に連通するサブスプルー60とが設けられている。そして、固定型44と可動型46との型合せ状態下において、スプルー58が、サブスプルー60を通じて、成形キャビティ52内に連通せしめられるようになっている。
【0050】
このような構造とされた射出成形用型42を用いて、目的とする木質化粧板10の射出インサート成形を実施する際には、先ず、図6に示されるように、可動型46のキャビティ形成凹所48内に、先に準備された突板シート15を収容せしめた状態で、固定型44と可動型46とを型合せすることにより、それら固定型44と可動型46との間に成形キャビティ52を形成する。このとき、突板12の意匠面22上に積層形成された四つの塗膜層30,32,34,36のうち、最外層を形成する第二シーラー層36の意匠面22側とは反対側の面が、可動型46のキャビティ形成凹所48の内面(キャビティ面)に接触せしめられる一方、裏打ちシート20の突板12側とは反対側に存在する成形キャビティ52部分に、裏打ちシート20の突板12との接着面側とは反対側の面が露呈せしめられた状態で、突板シート15が、成形キャビティ52内に配置される。
【0051】
なお、図6から明らかなように、ここでは、突板シート15の全体が、可動型46のキャビティ形成凹所48の内側形状に対応した形状とされた状態で、成形キャビティ52内に収容位置せしめられているが、これは、例えば、突板シート15を、キャビティ形成凹所48の内側形状に対応した形状に、予め賦形した後、キャビティ形成凹所48(成形キャビティ52)内に収容せしめることによって、容易に実現される。そうすることで、第二シーラー層36の意匠面22側とは反対側の面の全面が、キャビティ形成凹所48の内面に密接せしめられ、以て、後述する溶融樹脂材料(62)の成形キャビティ52内への射出充填時に(図7参照)、溶融樹脂材料(62)が、第二シーラー層36の意匠面22側とは反対側の面上に回り込むようなことが、有利に防止され得る。また、図6においては、便宜上、突板12の意匠面22上に積層形成された四つの塗膜層30,32,34,36のうち、それらの最外層を形成する第二シーラー層36のみが示されていることが理解されるべきである。
【0052】
そして、突板シート15が成形キャビティ52内に収容配置されたら、図7に示されるように、図示しない射出成形のノズル54から、溶融樹脂材料62を射出して、スプルー58とサブスプルー60とを通じて、溶融樹脂材料62を、裏打ちシート20の突板12側とは反対側に存在する成形キャビティ52部分に、充填する。
【0053】
このとき、前記成形キャビティ52部分内に、高い射出圧で充填される溶融樹脂材料62と、可動型46のキャビティ形成凹所48の内面との間で、突板シート15が挟圧されて、突板12の意匠面22が、キャビティ形成凹所48の内面に、溶融樹脂材料62の射出圧に基づく大きな力で押し付けられる。しかしながら、かかる突板12の意匠面22に積層形成される四つの塗膜層30,32,34,36にて、意匠面22の硬度が高められて、意匠面22に存在する多数の導管開口部28の内壁面部分の強度が高められているため、キャビティ形成凹所48の内面への押付け力によって、多数の導管開口部28が潰れて、閉塞してしまうようなことが、効果的に防止される。また、その一方で、そのような押し付け力をもって、突板12の意匠面22が、平滑なキャビティ形成凹所48の内面に押し付けられるところから、意匠面22、具体的には、それに積層形成された四つの塗膜層30,32,34,36のうちの最外層を形成する第二シーラー層36の平滑度が、有利に高められるようになる。
【0054】
なお、上記せるように、突板12の意匠面22に積層形成される四つの塗膜層30,32,34,36にて、意匠面22の硬度が高められて、意匠面22に存在する多数の導管開口部28の内壁面の強度が高められてはいるものの、成形キャビティ52内に射出される溶融樹脂材料62の射出圧が、余りに大きいと、導管開口部28が潰れてしまう可能性も否定出来ない。それ故、溶融樹脂材料62の射出圧は、12.75×107 Pa(1300kgf/cm2 )以下とされていることが、望ましい。また、溶融樹脂材料62の射出圧が余りに小さいと、今度は、成形される基材16の成形収縮が過大となって、成形不良の原因ともなりかねないため、溶融樹脂材料62の射出圧は、好適には、3.43×107 Pa(350kgf/cm2 )以上とされる。
【0055】
その後、かかる成形キャビティ52部分に充填された溶融樹脂材料62を冷却、固化せしめる。それによって、図8に示されるように、基材16を、成形キャビティ52部分に対応した形状をもって成形する。また、それと同時に、かかる基材16を、突板シート15における裏打ちシート20の突板12側とは反対側の面に固着する。このとき、裏打ちシート20が木綿の布帛にて構成されて、裏打ちシート20の突板12側とは反対側の面に、微小な穴部や微細な凹溝等の凹部が多く存在しているため、溶融樹脂材料62が、それらの凹部内に入り込み、或いは木綿繊維の内部に浸透し、それによって、固化された樹脂材料が、各凹部や木綿繊維に係合するようなアンカー効果が発揮され、以て、裏打ちシート18と基材16との密着性が、効果的に高められる。
【0056】
かくして、意匠面22上にトップコート層38を除く四つの塗膜層30,32,34,36が積層形成されてなる突板シート15の突板12が、裏打ちシート20を介して、合成樹脂製の基材16に固着された射出成形品64を得る。
【0057】
その後、図示されてはいないものの、得られた射出成形品64を射出成形用型42から離型した後、第二シーラー層36とトップコート層38との密着性を高めるために、必要に応じて、突板シート15の最外層を形成する第二シーラー層34を研磨して、かかる第二シーラー層36の平滑度を高める。なお、上記せるように、第二シーラー層36は、基材16の射出成形時に、平滑度が効果的に高められているため、そのような第二シーラー層36に対する研磨を行うにしても、面倒な手間を要することなく、迅速に行われ得る。
【0058】
そして、かかる射出成形品64における突板シート15の第二シーラー層36の上に、先に例示されたクリア塗料を吹付塗装する等して、トップコート層38を積層形成する。このトップコート層38の積層形成に際しては、意匠面22への前記四つ塗膜層30,32,34,36の積層形成によっても埋められずに多数存在する導管開口部28が、トップコート層38にて埋まることがないように、例えば、トップコート層38の厚さが5〜100μm程度とされる。
【0059】
これによって、図1及び図2に示されるように、意匠面18に、突板12の導管開口部28に対応した形状の微小乃至は微細な凹部40が多数形成された、所謂オープンポアタイプの木質化粧板10が、得られることとなるのである。
【0060】
このように、本実施形態の木質化粧板10においては、突板シート15をインサート品として用いた射出インサート成形によって、基材16の成形と同時に、突板シート15が基材16に固着されて、製造されるようになっており、しかも、そのような射出インサート成形時において、突板12の意匠面22に存在する多数の導管開口部28が潰されて、閉塞されることが、効果的に防止されている。
【0061】
従って、かくの如き本実施形態の木質化粧板10にあっては、意匠面18に、導管開口部28に対応した微小乃至は微細な凹部40を多数備えたオープンポアタイプの構造を有し、それによって、更に一層優れた意匠性と、より自然で且つ重厚な木質感とが発揮され得るのであり、しかも、突板シート15と基材16とを接着する面倒で且つ手間のかかる作業を何等行うことなく、射出インサート成形によって、極めて迅速に且つ効率的に製造され得るのである。その上、かかる木質化粧板10では、突板シート15と基材16との間に接着剤層が介在せしめられることがないため、全体の薄肉化が、効果的に実現され得るのである。
【0062】
また、本実施形態では、突板シート15をインサート品として用いた射出インサート成形によって、突板シート15における突板14の意匠面22上に積層形成された四つの塗膜層30,32,34,36のうちの最外層を形成する第二シーラー層36の表面平滑度が効果的に高められるところから、かかる第二シーラー層36と、それに積層形成されるトップコート層38との間の密着性を高めるための第二シーラー層36に対する表面研磨が、省略されるか、或いは短時間に済ませることが可能となる。これによって、目的とする木質化粧板10の製造作業における時間の短縮化と効率化とが、有利に実現され得る。
【0063】
さらに、本実施形態の木質化粧板10は、射出インサート成形によって所定形状に賦形される前の平板形状を呈する突板14の意匠面22に対して、四つの塗膜層30,32,34,36が積層形成されるようになっている。それ故、例えば、突板14の裏面24に裏打ちシート20が貼着されただけの突板シートをインサート品として用いた射出インサート成形を実施して、所定の形状に賦形された突板シートにおける突板14の意匠面22に、上記四つの塗膜層30,32,34,36を積層形成する場合に比して、それら各塗膜層30,32,34,36の形成が容易となるばかりでなく、各塗膜層30,32,34,36の形成材料たる塗料の使用量も、可及的に少なくされ、以て、各塗膜層30,32,34,36の形成作業、ひいては木質化粧板10の製造作業における作業性の向上と低コスト化とが、効果的に達成され得る。
【0064】
更にまた、本実施形態の木質化粧板10においては、裏打ちシート20が、突板14の裏面24や基材16に対して、アンカー効果により、優れた密着性をもって貼着乃至は固着されているところから、長期の使用によっても、突板14と基材16とが剥離するようなことが効果的に防止され、以て、耐久性の向上が、有利に図られ得る。
【0065】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0066】
例えば、前記実施形態では、突板シート15をインサート品として用いた射出インサート成形を実施して、射出成形品64を成形した後、この射出成形品64の突板12の意匠面22上の第二シーラー層36に対して、トップコート層38が積層形成されていたが、突板12の意匠面22上にトップコート層38を含む前記五つの塗膜層30,32,34,36,38を積層形成してなる突板シート14をインサート品として用いた射出インサート成形を実施して、目的とする木質化粧板10を製造することも、可能である。
【0067】
また、突板12の意匠面22上に、着色層30のみが形成された突板シートや、着色層30と第一シーラー層32とが積層された突板シート、或いは着色層30と第一シーラー層32と補色層34とが積層形成された突板シートの何れかを、インサート品として用いて、射出インサート成形を実施しても良い。
【0068】
さらに、突板12の意匠面22上に積層形成される塗膜層の数は、例示のものに、何等限定されものではない。即ち、本発明では、突板の裏面に裏打ちシートが貼着される一方、その意匠面上に、少なくとも一つの塗膜層が積層形成されてなる突板シートが、インサート品として用いられるのである。
【0069】
また、前記実施形態では、射出インサート成形の実施に先立って、突板12の意匠面22上に各塗膜層30,32,34,36を積層形成した後、突板12の裏面24に、裏打ちシート20を貼着して、突板シート15が形成されていたが、その反対に、突板12の裏面24に、裏打ちシート20を貼着した後、突板12の意匠面22上に各塗膜層30,32,34,36を積層形成して、突板シート15を形成しても、何等差し支えない。或いは、突板12の意匠面22上に各塗膜層30,32,34,36を積層形成する作業の間に、突板12の裏面24に、裏打ちシート20を貼着する作業を行っても、勿論良い。
【0070】
さらに、突板シート15,14の形成に際しては、突板12の意匠面22への各塗膜層30,32,34,36,38の積層作業と、その裏面24への裏打ちシート20の貼着作業の実施に先立って、例えば、所定の大きさの不織布等の連結シートに、複数の突板12を裏面24側において重ねて縦横に並べた状態で、接着剤にて接着して、複数の突板12を相互に連結した後、かかる連結シートに接着された複数の突板12の全部の意匠面22及び裏面24に対して、各塗膜層30,32,34,36,38を積層形成する作業や裏打ちシート20を貼着する作業を行って、複数の突板シート14を一挙に作製することも可能である。これによって、複数の突板シート14の作製作業の効率化が、効果的に図られ得る。なお、連結シートを介して相互に連結された複数の突板シート14は、一つずつ切り取られて、射出インサート成形のインサート品として使用されることとなる。
【0071】
また、突板12の意匠面22への各塗膜層30,32,34,36,38の形成方法も、例示されたワイピングによる塗装や吹付塗装等に、何等限定されるものではなく、その他、ロールコーターやフローコーターによる塗装方法等も、適宜に採用可能である。
【0072】
さらに、突板12の裏面24への裏打ちシート20の貼着方法も、接着剤を用いて接着する方法以外に、例えば溶着等による方法も、適宜に採用可能である。
【0073】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用内装部品として用いられる木質化粧板とその製造方法とに適用したものの具体例を示したが、本発明は、他の自動車用内装部品や自動車用内装部品以外の部品乃至は部材を構成する木質化粧板とその製造方法の何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0074】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に従う構造を有する木質化粧板の一実施形態を示す部分断面説明図である。
【図2】図1に示された木質化粧板の要部拡大説明図である。
【図3】本発明手法に従って、図1に示された木質化粧板を製造するに際して、インサート品を形成する際の一工程例を示す説明図であって、突板の意匠面に塗膜層を形成した状態を示している。。
【図4】図3に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、突板の裏面に裏打ちシートを貼着した状態を示している。
【図5】本発明に従って、図1に示された木質化粧板を製造する際に用いられる射出成形用型を示す縦断面説明図である。
【図6】図5に示された射出成形用型を用いて、図4に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、射出成形用型の成形キャビティ内に、インサート品を収容配置した状態を示している。
【図7】図6に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、インサート品が収容配置された成形キャビティ内に、溶融樹脂材料を射出、充填した状態を示している。
【図8】図7に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形キャビティ内に射出、充填した溶融樹脂材料を固化せしめて、射出成形品を成形した状態を示している。
【符号の説明】
【0076】
10 木質化粧板 12 突板
14,15 突板シート 16 基材
18,22 意匠面 20 裏打ちシート
28 導管開口部 30 着色層
32 第一シーラー層 34 補色層
36 第二シーラー層 38 トップコート層
40 凹部 42 射出成形用型
52 成形キャビティ 62 溶融樹脂材料
64 射出成形品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導管が開口する意匠面を備えた木質の突板が、合成樹脂製の基材に固着されてなる木質化粧板を製造する方法であって、
前記突板の意匠面に、所定の塗料からなる塗膜層を、該意匠面における前記導管の開口部を埋めない厚さで形成する一方、該突板の該意匠面とは反対側の裏面に、裏打ちシートを貼着して、インサート品を形成する工程と、
内部に成形キャビティが形成される射出成形用型を用い、該射出成形用型の該成形キャビティ内に、前記インサート品を収容すると共に、該インサート品の前記突板の意匠面を該射出成形用型のキャビティ面に接触位置せしめた後、該インサート品における前記裏打ちシートの該突板側とは反対の面側に存在する該成形キャビティ部分内に、溶融樹脂材料を射出、充填して、固化せしめることにより、前記基材を成形すると共に、該基材と該突板とを、該裏打ちシートを介して固着する工程と、
を含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜層を形成する前記塗料として、速乾性の塗料を用いることを特徴とする請求項1に記載の木質化粧板の製造方法。
【請求項3】
前記突板の前記意匠面に、前記塗膜層を10〜100μmの厚さで形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木質化粧板の製造方法。
【請求項4】
前記裏打ちシートが、少なくとも前記基材に対する固着側の面において開口する微細な凹部を多数有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の木質化粧板の製造方法。
【請求項5】
前記成形キャビティ内に射出される前記溶融樹脂材料の射出圧が、3.43×107 〜12.75×107 Paの範囲内の値であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載の木質化粧板の製造方法。
【請求項6】
前記請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載の製造方法によって製造されていることを特徴とする木質化粧板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−94827(P2010−94827A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265013(P2008−265013)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【出願人】(591150281)小栗木工株式会社 (2)
【Fターム(参考)】