説明

木造建物の門型フレーム構造

【課題】高い変形性能を備え、終局時にも崩壊することがない木造建物の門型フレーム構造を提供する。
【解決手段】木造建物の門型フレーム構造1は、基礎2と、一対の柱部材3と、梁部材4と、基礎柱接合金具5と、柱梁接合金具6と、を備える。梁部材4は、柱部材3に対して梁勝ちに設置されている。基礎柱接合金具5は、複数のアンカーボルト23を介して基礎2に固定されるとともに、複数のラグスクリューボルト7を介して柱部材3の下端面31に固定され、柱梁接合金具6は、複数のラグスクリューボルト7を介して柱部材3の上端面32に固定されるとともに、複数のドリフトピン8を介して梁部材4に連結される。門型フレーム構造1は、ラグスクリューボルト7の最大耐力>ドリフトピン8の最大耐力、ラグスクリューボルト7の最大耐力>アンカーボルト23の最大耐力、及び、ドリフトピン8の降伏耐力>アンカーボルト23の降伏耐力、の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造耐力壁式構造の建物に併用して大開口や吹き抜け部等を構成する門型フレームの接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、梁に挿設したラグスクリューボルトに鋼板をボルトで締結するとともに、鋼板の両端部から立設した一対のせん断プレートを、柱部材の端部に形成したスリットに挿入し、柱部材とせん断プレートを貫通するようにドリフトピンを貫入することで、柱と梁を接合する柱梁接合構造が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、建物に大きな開口部を設けるための木質系ラーメン架構(門型フレーム)が開示されている。この木質系ラーメン架構は、布基礎と、その上面に立設される一対の壁柱と、一対の壁柱の頂部に架け渡される上段横架材としての胴差しとから構成されている。各部材の結合には、スクリュー部材(ラグスクリューボルト)が用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−092148号公報
【特許文献2】特開2006−118275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の木質系ラーメン架構は、合板耐力壁を組み合わせて構成された枠組壁工法を代表とする合板耐力壁構造に比べて、塑性域に入ってからの粘り強さ(靭性)に乏しい。また、柱脚部の破壊により、見かけ上靭性があるように見えても、柱脚部の強度がどの程度になっているかを評価することが困難であるため、塑性域〜終局状態での安全性を確認することができない。
そのため、平成19年度の改正建築基準法の下では、合板耐力壁構造とラーメン架構とを併用した木造建物の実例は殆ど見られていない。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、高い変形性能を備え、終局時にも接合部が破壊することがない木造建物の門型フレーム構造を提供することを第1の課題とする。
また、本発明は、塑性時〜終局時における基礎と柱部材と梁部材の接合耐力を評価することができる木造建物の門型フレーム構造を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、実物大実験を行った結果、柱部材に対して梁部材を梁勝ちとなるように接合するとともに、最初に基礎と基礎柱接合金具を固定するアンカーボルトが降伏し、次に梁と柱梁接合金具を固定するドリフトピンが降伏し、柱部材と基礎柱接合金具と柱梁接合金具とを固定するラグスクリューボルトが最大耐力に達することなく、これらが一体的に挙動するようにすれば、最大変形角が、木造建物の安全限界で巨大地震時の想定変形角である1/30radを超える1/15radに達しても、門型フレーム構造が崩壊しないという知見を得た。
【0008】
本発明は、複数のアンカーボルトが埋設された基礎と、前記基礎の上に互いに間隔を隔てて立設されるとともに、上端面及び下端面に複数のラグスクリューボルトがそれぞれ埋設された一対の柱部材と、前記一対の柱部材の上端面に梁勝ちとなるように架け渡された梁部材と、前記基礎と前記柱部材との間にそれぞれ設置された基礎柱接合金具と、前記柱部材と前記梁部材との間にそれぞれ設置された柱梁接合金具と、を備える木造建物の門型フレーム構造であって、前記基礎柱接合金具は、前記複数のアンカーボルトを介して前記基礎に固定されるとともに、前記複数のラグスクリューボルトを介して前記柱部材の下端面に固定され、前記柱梁接合金具は、前記複数のラグスクリューボルトを介して前記柱部材の上端面に固定されるとともに、複数のドリフトピンを介して前記梁部材に連結され、前記複数のアンカーボルトの降伏耐力よりも、前記複数のドリフトピンの降伏耐力の方が大きく、かつ、前記複数のアンカーボルトの最大耐力よりも前記複数のラグスクリューボルトの最大耐力の方が大きく、かつ、前記複数のドリフトピンの最大耐力よりも前記複数のラグスクリューボルトの最大耐力の方が大きいことを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、本発明に係る木造建物の門型フレーム構造は、門型フレームに外力が作用した場合に、最初に、基礎と基礎柱接合金具とを固定する複数のアンカーボルトが降伏し、次に、梁部材と柱梁接合金具とを固定する複数のドリフトピンが降伏することとなる。そのため、少ない伸び量で大きな変形角を得ることができる。
【0010】
そして、ドリフトピンが降伏した時点では、柱部材と基礎柱接合金具はラグスクリューボルトを介して固定されているとともに、柱部材と柱梁接合金具もラグスクリューボルトを介して固定されており、柱部材と基礎柱接合金具と柱梁接合金具は一体的に挙動する。すなわち、終局時においても、柱部材と基礎柱接合金具との固定部、及び、柱部材と柱梁接合金具との固定部は破壊せず、基礎と基礎柱接合金具との固定部及び柱梁接合金具と梁部材との固定部で塑性化が進行することとなる。
【0011】
そして、柱梁接合金具と梁部材との固定部は、「梁勝ち」となっているので、この部分の崩壊が進んでも、梁が崩落することがない。そのため、終局時の安全性を確保することができる。
【0012】
また、基礎と基礎柱接合金具を連結するアンカーボルトは、SNR鋼で構成されているのが好ましい。
【0013】
ここで、SNR鋼とは、JISG3138に規定される「建築構造用圧延棒鋼」のことであり、地震時に必要となる伸び能力を備える鋼材をいう。
かかる構成によれば、SNR鋼は、降伏した後も、所定の強度を保ちながら伸び続ける特性を有しているので、アンカーボルトが降伏して塑性状態となっても、所定の強度を見込むことができる。そのため、塑性域〜終局時においても、柱脚部の強度を評価することができる。
【0014】
なお、前記基礎柱接合金具は、前記基礎の上面に当接する基礎当接部と、前記柱の下端面に当接する柱下当接部と、前記基礎当接部と前記柱下当接部との間に空間を形成しつつ前記基礎当接部と前記柱下当接部とを連結する基礎柱連結部と、を有する構造とするのが好ましい。
【0015】
また、前記梁部材の両端部には、長手方向に沿ってスリットが形成されるとともに、前記ドリフトピンの挿入孔が幅方向に貫通形成され、前記柱梁接合金具は、前記柱部材の上端面に当接する柱上当接部と、前記梁部材の下端面に当接する梁当接部と、前記柱上当接部と前記梁当接部との間に空間を形成しつつ前記柱上当接部と前記梁当接部とを連結する柱梁連結部と、前記梁当接部の上面に立設され、前記スリットに挿入される平板状のせん断プレートと、を有し、前記せん断プレートには、前記梁部材の挿入孔に対応する位置に、前記ドリフトピンと係合する係合孔が貫通形成されている構成とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い変形性能を備え、終局時にも崩壊することがない木造建物の門型フレーム構造を提供することを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る木造建物の門型フレーム構造(以下、単に「門型フレーム構造」という。)について図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、第1実施形態に係る門型フレーム構造の斜視図である。図2は、図1のA部を拡大して示した斜視図である。図3は、図2のI−I矢視断面図である。図4は、基礎柱接合金具を示す図面であり、(a)は斜め上方からみた斜視図、(b)は(a)のII−II矢視断面図である。図5は、図1のB部を拡大して示した斜視図である。図6は、図5のIII−III矢視断面図である。図7は、柱梁接合金具を示す図面であり、(a)は斜め上方からみた斜視図、(b)は(a)のIV−IV矢視断面図である。
【0018】
門型フレーム構造1は、図1に示すように、例えば、木造建物に吹き抜けなどの大きな開口部Sを形成するための部材であり、木質系の部材を組み合わせていわゆる門型に構成されている。図示は省略するが、門型フレーム構造1の周囲には、木造建物の壁(耐力壁)や床を構成する面部材が連結されている。
木造建物の門型フレーム構造1は、図1に示すように、鉄筋コンクリート製の基礎2と、基礎2の上に互いに間隔を隔てて立設された一対の柱部材3,3と、この柱部材3,3の上端面32(図5参照)に架設された梁部材4と、を主に備えている。そして、門型フレーム構造1は、基礎2と各柱部材3,3との間に、両者を接合するための基礎柱接合金具5,5をそれぞれ備えると共に、各柱部材3,3と梁部材4との間に、両者を接合するための柱梁接合金具6,6をそれぞれ備えている。以下、各部材について説明する。
【0019】
基礎2は、鉄筋コンクリート製の部材からなり、例えば、図1に示すように、木造建物の壁面に沿って延設された地中梁部21と、地中梁部21から上方に突出して形成された一対の短柱部22,22と、を備えている。1対の短柱部22,22は、互いに離間して形成されている。
地中梁部21は、梁として機能するように配筋されており、曲げに強い構造となっている。また、短柱部22,22は、柱(短柱)として機能するように配筋されており、軸力に強い構造となっている。これにより、大スパンの開口部に対応することができる。
なお、基礎2の形状及び構造はこれに限定されるものではなく、門型フレーム構造1に作用する荷重を考慮して適宜設定することができる。
【0020】
図2、図3に示すように、短柱部22には、複数のアンカーボルト23,23・・・が埋設されている。本実施形態では、一つの柱部材3に対応する位置に、基礎2の長手方向に互いに離間して2本ずつ、合計4本のアンカーボルト23が配置されている。各アンカーボルト23の上端部23aは、短柱部22の上面22aから突出している。アンカーボルト23の上端部23aには、ねじ溝が形成されている。
【0021】
アンカーボルト23は、SNR鋼で構成されている。SNR鋼とは、JISG3138に規定される「建築構造用圧延棒鋼」のことであり、地震時に必要となる伸び能力を備える鋼材をいう。SNR鋼は、降伏した後も、所定の強度を保ちながら伸び続ける特性を有している。
【0022】
一対の柱部材3は、図1に示すように、木製の長尺部材であり、基礎2の上部に互いに間隔を隔てて立設されている。
図2に示すように、柱部材3の下端面31には、後記するラグスクリューボルト7を埋設するための複数の埋設孔31a,31a…が形成されている。また、柱部材3の下端面31には、後記する基礎柱接合金具5のダボ57,57を挿入するためのダボ穴31b,31bが形成されている。
なお、柱部材3は、無垢材であってもよいし、合成材(エンジニアリングウッド)であってもよい。
【0023】
図2、図3に示すように、柱部材3の下端面31には、複数のラグスクリューボルト7が設置されている。ラグスクリューボルト7は、円柱状の金属部材であり、外周面に雄ねじ部71が形成されている。本実施形態では、基礎2の長手方向に互いに離間して4本ずつ、合計8本のラグスクリューボルト7が、柱部材3の下端面31に形成された埋設孔31aに埋設されている。ラグスクリューボルト7の外周面に形成された雄ねじ部71は、埋設孔31aの内周面に強固に係合している。ラグスクリューボルト7の端面は、柱部材3の下端面31と面一になっている。ラグスクリューボルト7の端面には、ボルトBを螺合するためのボルト孔72が形成されている。
【0024】
基礎柱接合金具5は、図1、図2に示すように、基礎2と柱部材3との間に介在して両者を接合する鋼製の部材である。
基礎柱接合金具5は、図3、図4に示すように、基礎2の上面22aに当接する平板状の基礎当接部51と、柱部材3の下端面31に当接する平板状の柱下当接部52と、基礎当接部51と柱下当接部52とを連結する4つの基礎柱連結部53,53・・・と、を有している。
基礎当接部51及び柱下当接部52は、平面視で長方形状を呈している。4つの基礎柱連結部53,53・・・は、基礎当接部51及び柱下当接部52の長手方向に互いに離間して一対ずつ配置されている。
【0025】
基礎当接部51と、柱下当接部52と、一対の基礎柱連結部53,53と、で囲まれて形成される2つの中空部54の内側の端部54a,54aには、それぞれ、隔壁55,55が互いに間隔を隔てて垂直に立設されている。それぞれの隔壁55の周囲は、基礎当接部51と柱下当接部52と一対の基礎柱連結部53,53とに当接している。
また、2つの隔壁55,55の間には、これらの隔壁55と直交する方向に沿って、補強壁56が垂直に立設されている。補強壁56の周囲は、基礎当接部51と柱下当接部52と一対の隔壁55,55とに当接している。
基礎柱接合金具5は、これらの隔壁55及び補強壁56によって、潰れにくくなっている。
【0026】
図4に示すように、基礎当接部51のうち、中空部54内に位置する部分には、基礎2に設置されたアンカーボルト23に対応する位置に、アンカーボルト23を挿通するための貫通孔51aが2つずつ穿設されている。基礎当接部51は、図3に示すように、この貫通孔51aにアンカーボルト23を挿通した状態で、座金Zを設置してナットNを螺合することにより、基礎2に締結されている。
【0027】
また、図4に示すように、柱下当接部52のうち、中空部54内に位置する部分には、柱部材3の下端面31に設置されたラグスクリューボルト7,7…に対応する位置に、ボルトBを挿通するための貫通孔52aが4つずつ穿設されている。柱下当接部52は、図3に示すように、貫通孔52aにボルトBを挿通してラグスクリューボルト7のボルト孔72に螺合することにより、柱部材3の下端面31に締結されている。
【0028】
また、図4に示すように、柱下当接部52の柱部材3側の面には、2つのダボ57が例えば溶接固定されている。ダボ57は、柱部材3と基礎柱接合金具5との間に作用するせん断力を受け持つ部材であり、円柱状を呈している。ダボ57の直径は、柱部材3のダボ穴31bの直径に略等しく形成されており、ラグスクリューボルト7と貫通孔52aの位置決め部材としても機能する。ダボ57の先端部にはテーパが形成されており、ダボ穴31bに挿入し易くなっている。
【0029】
図5、図6に示すように、柱部材3の上端面32には、埋設孔32aが形成されており、各埋設孔32aには、ラグスクリューボルト7が埋設されている。本実施形態では、基礎2の長手方向に互いに離間して4本ずつ、合計8本のラグスクリューボルト7が埋設されている。ラグスクリューボルト7の構造は、前記と同様であるので説明を省略する。
また、柱部材3の上端面32には、後記する柱梁接合金具6のダボ67,67を挿入するための2つのダボ穴32b,32bが形成されている。
【0030】
梁部材4は、図1に示すように、木製の長尺部材であり、一対の柱部材3の間に架設されている。梁部材4は、柱部材3の上端面32の上方に梁部材4の下面が位置するように配置されて、柱部材3に対していわゆる梁勝ちとなる状態で固定されている。
図5に示すように、梁部材4の両側の端部41には、後記する柱梁接合金具6のせん断プレート68を挿入するためのスリット42が、梁部材4の長手方向に沿って鉛直に形成されている。また、梁部材4のうち、スリット42が形成されている部分には、後記するドリフトピン8を挿入するための複数の挿入孔4a,4a…が、幅方向に貫通形成されている。複数の挿入孔4aは、略環状に配列されている。
【0031】
柱梁接合金具6は、図6、図7に示すように、柱部材の上端面32に当接する柱上当接部61と、梁部材4の下面に当接する梁当接部62と、柱上当接部61と梁当接部62とを連結する4つの柱梁連結部63,63・・・と、梁当接部62の上面に立設され、スリット42に挿入される平板状のせん断プレート68と、を有している。
柱上当接部61及び梁当接部62は、平面視で長方形状を呈している。4つの柱梁連結部63,63・・・は、柱上当接部61及び梁当接部62の長手方向に互いに離間して一対ずつ配置されている。
【0032】
柱上当接部61と、梁当接部62と、一対の柱梁連結部63,63と、で囲まれて形成される2つの中空部64の内側の端部64a,64aには、それぞれ、隔壁65,65が互いに間隔を隔てて垂直に立設されている。それぞれの隔壁65の周囲は、柱上当接部61と梁当接部62と一対の柱梁連結部63,63とに当接している。
また、2つの隔壁65,65の間には、これらの隔壁65と直交する方向に沿って、補強壁66が垂直に立設されている。補強壁66の周囲は、柱上当接部61と梁当接部62と一対の隔壁65,65とに当接している。
柱梁接合金具6は、これらの隔壁65及び補強壁66によって、潰れにくくなっている。
【0033】
図7に示すように、柱上当接部61のうち、中空部64内に位置する部分には、柱部材3の上端面32に設置されたラグスクリューボルト7,7…に対応する位置に、ボルトBを挿通するための貫通孔61aが4つずつ穿設されている。柱上当接部61は、図6に示すように、貫通孔61aにボルトBを挿通してラグスクリューボルト7のボルト孔72に螺合することにより、柱部材3の上端面32に締結されている。
【0034】
また、柱上当接部61の柱部材3側の面には、2つのダボ67が例えば溶接固定されている。ダボ67は、柱部材3と柱梁接合金具6との間に作用するせん断力を受け持つ部材であり、円柱状を呈している。ダボ67の直径は、柱部材3のダボ穴32bの直径に略等しく形成されており、ラグスクリューボルト7と貫通孔61aの位置決め部材としても機能する。ダボ67の先端部にはテーパが形成されており、ダボ穴32bに挿入し易くなっている。
【0035】
また、梁当接部62の梁部材4側の面には、梁部材4の長手方向に沿って、せん断プレート68が立設されている。せん断プレート68は、梁部材4の挿入孔4aに対応する位置に、ドリフトピン8と係合する複数の係合孔68a,68a…を有している。
せん断プレート68は、図6に示すように、梁部材4のスリット42に挿入された状態で、梁部材4の挿入孔4a及びせん断プレート68の係合孔68aにドリフトピン8を挿入することにより、ドリフトピン8を介して梁部材4に固定されている。
【0036】
ドリフトピン8は、梁部材4と柱梁接合金具6とを連結する鋼製の円柱状部材である。ドリフトピン8は、図6に示すように、梁部材4に形成された挿入孔4aと、せん断プレート68に形成された係合孔68aに挿通されている。ドリフトピン8は、挿入孔4aから抜け落ちないように、例えば表面に目荒しが施されている。なお、本実施形態では、18本のドリフトピン8を用いているが、ドリフトピン8の本数はこれに限定されるものではない。
【0037】
本実施形態に係る門型フレーム構造1は、基礎2と基礎柱接合金具5とを締結するアンカーボルト23の降伏耐力よりも、梁部材4と柱梁接合金具6とを連結するドリフトピン8の降伏耐力のほうが大きく設定されている。また、柱部材3と基礎柱接合金具5とを固定するラグスクリューボルト7の最大耐力はアンカーボルトの最大耐力よりも大きく設定され、柱部材3と柱梁接合金具6とを固定するラグスクリューボルト7の最大耐力は、ドリフトピン8の最大耐力よりも大きく設定されている。
【0038】
ちなみに、SNR鋼製のアンカーボルト23の降伏耐力及び最大耐力は、日本建築学会編「鋼構造接合部設計指針」に基づいて設定することができる。
また、ドリフトピン8の降伏耐力及び最大耐力は、日本建築学会編「木質構造設計規準・同解説」に基づいて設定することができる。
また、ラグスクリューボルト7の最大耐力は、ラグスクリューボルト研究会編「LSB設計施工指針」に基づいて設定することができる。
【0039】
つづいて、本実施形態に係る門型フレーム構造1の動作(作用)について、図8を参照して説明する。
図8は、門型フレーム構造の変形状態を段階的に示す模式図であり、(a)は弾性域、(b)はアンカーボルト降伏時、(c)はドリフトピンのヒンジ変形時、(d)はドリフトピンの塑性変形時、(e)は荷重−変位関係を表すグラフ、である。
【0040】
図8(a)及び(e)に示すように、例えば地震などにより、門型フレーム構造1に外力が作用した場合、その外力による荷重がアンカーボルト23の降伏耐力Fを超えるまでは、門型フレーム構造1の各接合部は、全体的に弾性変形する。そのため、各部材同士の接合部は殆ど開いておらず、また、仮に開いても元に戻る。
【0041】
そして、外力による荷重が大きくなり、アンカーボルト23の降伏耐力Fを超えると、図8(b)に示すように、ドリフトピン8より先にアンカーボルト23が降伏(塑性変形)し、アンカーボルト23が伸び始める。そのため、基礎2と基礎柱接合金具5との間が開いて、柱部材3が傾斜(回転)し始める。このとき、ドリフトピン8は降伏しておらず、ラグスクリューボルト7は、まだ最大耐力に達していない。
【0042】
さらに荷重が大きくなり、ドリフトピン8の降伏耐力Fを超えると、ドリフトピン8が曲げ変形を起こすことにより、柱梁接合金具6に対して梁部材4が回転(ヒンジ変形)する。このときも、ラグスクリューボルト7は最大耐力に達していない。
【0043】
さらに荷重が大きくなり、ドリフトピン8の降伏強度Fを超えると、ドリフトピン8が塑性変形し、梁部材4と柱梁接合金具6の開き(回転角)がさらに大きくなる。このときも、ラグスクリューボルト7は最大耐力に達しておらず、柱部材3と基礎柱接合金具5と柱梁接合金具6は、実験限界である変形量1/15radまで一体的に挙動し、決して柱崩壊しない構造になっている。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る門型フレーム構造によれば、始めにアンカーボルト23が降伏耐力に達し、次にドリフトピン8が降伏耐力に達するが、ラグスクリューボルト7は最大耐力以下となるので、構造上の安定性を確保しつつ高い変形能力(靭性)を発揮することができる。
【0045】
また、アンカーボルト23は、SNR鋼で構成されているので、所定の強度を保ちながら、変形量を大きくすることができる。
【0046】
また、梁部材4は、柱部材3に対して梁勝ちとなるように接合されているので、ドリフトピン8が降伏しても、柱部材3の上端面32から落下することがない。
【0047】
また、一般に、ラーメン構造よりも合板耐力壁構造の方が高い変形特性(靭性)を有しているが、本実施形態に係る門型フレーム構造1は、合板耐力壁構造の壁と同程度の変形特性(靭性)を有しているので、合板耐力壁構造の木造建物に組み合わせて適用することができる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【0049】
例えば、本実施形態では、基礎柱接合金具5を筒状部材を用いて構成したが、これに限定されるものではなく、基礎当接部51と柱下当接部52との間にボルトやナットを取り付けるための空間を確保することができれば、どのような形状の部材でもよい。例えば、断面I型の部材を用いてもよい。
【0050】
また、アンカーボルト23、ラグスクリューボルト7、及び、ドリフトピン8の本数は、特に限定されるものではなく、(1)ラグスクリューボルト7の最大耐力>ドリフトピン8の最大耐力、(2)ラグスクリューボルト7の最大耐力>アンカーボルト23の最大耐力、及び、(3)ドリフトピン8の降伏耐力>アンカーボルト23の降伏耐力、の3つの関係が同時に得られる範囲で、適宜変更することができる。
【実施例】
【0051】
つづいて、実施例について説明する。
図1に示す構造の実物大試験体を三体作製し、水平荷重を繰り返し作用させて、層間変形角を測定する実験を行った。
【0052】
<第1実施例>
柱部材3の高さを2.7mとし、スパンを8mとした。また、オウシュウアカマツ集成材(E105−F300)で、柱部材3及び梁部材4を構成した。
ドリフトピン8は、直径16mm、長さ145mmとし、材質は一般構造用圧延鋼材のSS400を使用した。
ラグスクリューボルト7は、柱脚及び柱頭共に直径25mm、長さ400mmとし、材質は機械構造用炭素鋼鋼材のS45Cを使用した。
アンカーボルト23は、直径14mm、長さ520mmとし、材質はSNR鋼(SNR490B)を使用した。
【0053】
<第2実施例>
柱部材3の高さを5.6mとし、スパンを6mとした。また、オウシュウアカマツ集成材(E105−F300)で、柱部材3及び梁部材4を構成した。
ドリフトピン8は、直径12mm、長さ145mmとし、材質は一般構造用圧延鋼材のSS400を使用した。
ラグスクリューボルト7は、柱脚及び柱頭共に直径25mm、長さ400mmとし、材質は機械構造用炭素鋼鋼材のS45Cを使用した。
アンカーボルト23は、直径18mm、長さ520mmとし、材質はSNR鋼(SNR490B)を使用した。
【0054】
<第3実施例>
柱部材3の高さを5.6mとし、スパンを8mとした。また、オウシュウアカマツ集成材(E105−F300)で、柱部材3及び梁部材4を構成した。
ドリフトピン8は、直径16mm、長さ145mmとし、材質は一般構造用圧延鋼材のSS400を使用した。
ラグスクリューボルト7は、柱脚及び柱頭共に直径25mm、長さ460mmとし、材質は機械構造用炭素鋼鋼材のS45Cを使用した。
アンカーボルト23は、直径16mm、長さ520mmとし、材質はSNR鋼(SNR490B)を使用した。
【0055】
図9は、実施例における荷重と層間変位角との関係を示すグラフであり、(a)が第1実施例、(2)が第2実施例、(3)が第3実施例を、それぞれ示している。
図9(a)に示すように、第1実施例では、荷重が約200kNに達したときに、層間変形角が実験限界である1/15rad(≒66×10−3rad)を超えていることを確認したため、実験を終了した。
【0056】
また、図9(b)に示すように、第2実施例では、荷重が約80kNに達したときに、層間変形角が実験限界である1/15rad(≒66×10−3rad)を超えていることを確認したため、実験を終了した。第2実施例は、第1実施例に比較して柱部材3の高さが高く、ドリフトピンの径が小さいため、アンカーボルト23の降伏後、ドリフトピン8が降伏するまでの変形が小さいが、その後のグラフの傾きが緩やかであり、ドリフトピン8が最大耐力に向けて粘り強く変形して靭性を高めていることがわかる。
【0057】
また、図9(c)に示すように、第3実施例では、荷重が約105kNに達したときに、層間変形角が実験限界である1/15rad(≒66×10−3rad)を超えていることを確認したため、実験を終了した。
【0058】
図9(a)〜(c)に示すように、いずれの実施例においても、最初にアンカーボルト23が降伏し、その後にドリフトピン8が降伏していることが確認された。また、ドリフトピン8が降伏した後も、荷重が増加していることが確認された。そして、層間変形角が、実験限界である1/15rad(≒66×10−3rad)に達しても崩壊せず、その時点で最大耐力を示していることも確認された。さらに、試験終了後、目視により、柱部材3とラグスクリューボルト7の一体性が保たれていることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1実施形態に係る門型フレーム構造の斜視図である。
【図2】図1のA部を拡大して示した斜視図である。
【図3】図2のI−I矢視断面図である。
【図4】基礎柱接合金具を示す図面であり、(a)は斜め上方からみた斜視図、(b)は(a)のII−II矢視断面図である。
【図5】図1のB部を拡大して示した斜視図である。
【図6】図5のIII−III矢視断面図である。
【図7】柱梁接合金具を示す図面であり、(a)は斜め上方からみた斜視図、(b)は(a)のIV−IV矢視断面図である。
【図8】門型フレーム構造の変形状態を段階的に示す模式図であり、(a)は弾性域、(b)はアンカーボルト降伏時、(c)はドリフトピンのヒンジ変形時、(d)はドリフトピンの塑性変形時、(e)は荷重−変位関係を表すグラフ、である。
【図9】実施例における荷重と層間変位角との関係を示すグラフであり、(a)が第1実施例、(2)が第2実施例、(3)が第3実施例を、それぞれ示している。
【符号の説明】
【0060】
1 門型フレーム構造
2 基礎
23 アンカーボルト
3 柱部材
4 梁部材
5 基礎柱接合金具
6 柱梁接合金具
7 ラグスクリューボルト
8 ドリフトピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンカーボルトが埋設された基礎と、
前記基礎の上に互いに間隔を隔てて立設されるとともに、上端面及び下端面に複数のラグスクリューボルトがそれぞれ埋設された一対の柱部材と、
前記一対の柱部材の上端面に梁勝ちとなるように架け渡された梁部材と、
前記基礎と前記柱部材との間にそれぞれ設置された基礎柱接合金具と、
前記柱部材と前記梁部材との間にそれぞれ設置された柱梁接合金具と、を備える木造建物の門型フレーム構造であって、
前記基礎柱接合金具は、前記複数のアンカーボルトを介して前記基礎に固定されるとともに、前記複数のラグスクリューボルトを介して前記柱部材の下端面に固定され、
前記柱梁接合金具は、前記複数のラグスクリューボルトを介して前記柱部材の上端面に固定されるとともに、複数のドリフトピンを介して前記梁部材に連結され、
前記複数のアンカーボルトの降伏耐力よりも、前記複数のドリフトピンの降伏耐力の方が大きく、かつ、前記複数のアンカーボルトの最大耐力よりも前記複数のラグスクリューボルトの最大耐力の方が大きく、かつ、前記複数のドリフトピンの最大耐力よりも前記複数のラグスクリューボルトの最大耐力の方が大きいことを特徴とする木造建物の門型フレーム構造。
【請求項2】
前記アンカーボルトは、SNR鋼で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の木造建物の門型フレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−106516(P2010−106516A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279080(P2008−279080)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000174884)三井ホーム株式会社 (87)
【出願人】(500460690)銘建工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】