説明

棒状部材の接合構造

【課題】柱の接合部の断面欠損を充填して、圧縮強度をはじめ接合部の強度を高める。
【解決手段】柱(第2の棒状部材)15の下面(接合端面)16から、接合金物1を収容できる収容部20、21を形成する。土台(第1の棒状部材)11の上面12に、接合金物1をビス28で固定する(a)。土台11の上面12に、柱15を載置して、収容部20、21に接合金物1(ビス28の頭部を含める)を納め、収容部20内に間隙26が形成される(b)。続いて、柱15のピン孔23を貫通したドリフトピン29を、接合金物1を貫通させる。続いて、収容部20内の間隙26に液状固化剤31を注入して、固化後に土台11と柱15の接合構造40を構成する(c)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に木造構造物に適用する土台と柱をはじめ、柱と梁、梁と桁などの棒状部材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土台の上面に柱の下面を接合する場合には、
(1) 土台を貫通したアンカーボルトに、土台上面で接続用の金物を固定する。あるいは、接続金物を貫通したスクリュービスを土台にねじ込み、土台に接続用金物を固定する。
(2) 柱の下面の中央部に、接続金物を収容する収容部を切り欠きを形成し、柱の側面から収容部を貫通する、貫通穴を形成する。
(3) 柱の下面を土台上面において、柱の収容部に接続金物を収容すると共に、柱の下面の周辺部を土台の上面に当接させる。
(4) 柱の側面の貫通穴からピンを挿入して、ピンを接続金物の透孔を貫通して、他側の貫通穴に至らせ、接続金物と柱とを固定する。
(5)以上のようにして、接続金物を介して、土台と柱が固定された(図1)。この場合、接続金物は様々な構造があった(例えば、特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2007−186954
【特許文献2】特開2002−303004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の技術の場合、接合金物を取り付けるボルトの頭部などを考慮して、接合金物の表面と収容部内面との間には、間隙が形成されていた。従って、間隙の分だけ断面欠損が生じるので、外力の作用によっては、収容部の周辺で応力集中が生じるおそれもあった。
【0004】
とりわけ、柱を土台に向けて下方に押圧する過大な外力が作用した場合、収容部周辺や貫通穴部分で柱に割れが生じるおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
然るにこの発明は、収容部内に液状硬化材を充填して固化させたので、前記問題点を解決した。
【0006】
即ちこの発明は、土台の上面に柱の下面を接合する構造であって、以下のように構成したことを特徴とする棒状部材の接合構造である。
(1) 前記土台の上面で柱接合位置に接合金物を固定する。
(2) 前記柱の下面を切り欠いて、前記接合金物を収容できる収容部を形成する。
(3) 前記柱の下面を、前記土台の上面に当接して、前記柱を立設するとともに、前記接合金物を前記収容部に収容する。
(4) 固定ピンを、前記柱を貫通させて、前記接合金物の貫通穴を挿通させる。
(5) 前記収容部内に液状固化剤を注入して、前記収容部と前記接合金物との間隙を埋める。
【0007】
また、前記において、以下のように構成したことを特徴とする棒状部材の接合構造である。
(1) 収容部は、土台の下面に固定して、少なくとも接続金物の上方を覆い、
(2) 柱の下面で収容部以外の面は、直接に又はパッキン材を介して、前記土台の上面に載置される。また、前記において、以下のように構成したことを特徴とする棒状部材の接合構造である。
(1) 収容部の上面と、土台の上面と、土台に固定される接続金物の下面に固定して、少なくとも接続金物の上方を覆い、
(2) 柱の下面で収容部以外の面は、直接に又はパッキン材を介して、前記土台の上面に載置される。
【0008】
更に、この発明は、第1の棒状部材の側面に第2の棒状部材の端面を固定する構造であって、以下のように構成したことを特徴とする棒状部材の接合構造である。
(1) 前記第1の棒状部材の側面で、第2の棒状部材の接合位置に、接合金物を固定する。
(2) 前記第2の棒状部材の接合端面を切り欠いて、前記接合金物を収容できる収容部を形成する。
(3) 前記第2の棒状部材の接合端面を、前記第1の棒状部材の側面に当接して、前記第2の接合部材を立設するとともに、前記接合金物を前記第2の棒状部材の収容部に収容する。
(4) 固定ピンを、前記第2の棒状部材を貫通させて、前記接合金物の貫通穴を挿通させる。
(5) 前記収容部内に液状固化剤を注入して、収容部と接合金物との間隙を埋める。
【0009】
前記における第1の棒状部材と第2の棒状部材の組合せは、土台と柱の場合が効果的であるが、任意である。第1の棒状部材の側面(上面、下面を含む)に第2の棒状部材の接合端面が接合され、第1の棒状部材の側面に第2の棒状部材の接合端面から圧縮荷重が作用する仕口が好ましい。例えば、梁−柱の上端、梁−柱の下端、柱−梁、梁−小梁 等に適用することもできる。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、柱をはじめとする「第2の棒状部材」の下面を切り欠いて、土台をはじめとする「第1の棒状部材」に固定した接続金物を収容する収容部を形成する場合に、収容部内で接続金物以外の間隙に液状固化剤を注入固化させる。従って、収容部の断面欠損を補うことができるので、「第2の棒状部材」と、接合金物と、「第1の棒状部材」との一体性を高めるので、接合部の強度を高めることができ、取り分け、「第2の棒状部材」から「第1の棒状部材」に向けての圧縮強度を高めることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
接合金物1は、第1接合板2の略中央に第2接合板6を突設した略T字状に形成される。
柱(第2の棒状部材)15の下面(接合端面)16から、第1接合板2を収容できる第1収容部20と、第2接合板6を収容する第2収容部21とを形成する。土台(第1の棒状部材)11の上面12に、接合金物1の第1接合板2をビス28、28で固定する。土台11の上面12に、柱15を載置して、収容部20、21に接合金物1(ビス28の頭部を含める)を納める((図1(b))。この際、第1収容部20内に間隙26が形成される(図1(b))。
続いて、柱15のピン孔23を貫通したドリフトピン29を、第1接合板2を貫通させて、柱15と接合金物1とを固定する(図2(c)(d))。
続いて、第1収容部20内の間隙26に液状固化剤31を注入する。液状固化剤31が固化したならば、間隙26が埋められて、土台11と柱15の接合構造40を構成する(図1(c))。
【実施例1】
【0012】
[1]接合金物1
【0013】
接合金物1は、土台11の上面12に当接する第1接合板2の略中央に、柱15の下面から挿入される第2接合板6を突設した略T字状に形成される。第1接合板2で、第2接合板6を挟んだ両側にビス用の透孔4、4が穿設されている。また、第2接合板6にピンを挿通する貫通孔8を形成し、また一側を切り欠いてピンを貫通係止できる係止孔9(貫通孔)を形成する。
接合金物1は、第1接合板片3、3a、第2接合板片7、7aを有する鋼板を折り曲げて形成される。尚、接合金物1の構造、製造方法は任意である。
【0014】
[2]土台11(第1の棒状部材)
【0015】
土台1は、コンクリート基礎(図示していない)に埋設されたアンカーボルト等(図示していない)で、コンクリート基礎に連結されている(図示していない)。
【0016】
[3]柱15(第2の棒状部材)
【0017】
柱15は、下面16から上方に向けて、第1接合板2を収容できる平面形状の第1収容部20を形成し、第1収容部20から上方に向けて、第2接合板6を収容する第2収容部21を形成する。また、柱15の下面16で、第1収容部20の残余部分にパッキン24を貼り付ける(図2(a)(b))。
柱15の側面17から対向する側面17aに向けて、第2収容部6を貫通するピン孔23、23を形成する。ピン孔23、」23は接合状態で、それぞれ接合金物1の貫通孔8及び係止孔9と一致するように形成されている。
【0018】
[4]液状固化剤31
【0019】
液状固化剤31として、例えば、特殊膨張材を使用したセメント系の無収縮材で、試験温度20℃、練り混ぜ水量18%、で以下のような性質を有するものを採用する。
・軟度(J14漏斗による)8秒
・ブルージング率 0%
・圧縮強さ(1日) 26.8 N/mm
・圧縮強さ(7日) 51.1 N/mm
・圧縮強さ(28日)60.3 N/mm
尚、液状固化剤31は上記性質のものが好ましいが、これに限られない。また、セメント系、樹脂系に等任意である。
【0020】
[5]接合構造40
【0021】
(1) 土台11の上面12で、柱接合位置に合わせて、接合金物1を載置して、透孔4、4から土台1に向けてビス28、28を打ち込んで、土台11と接合金物1とを固定する。この状態で、ビス28の頭部が接合金物1の第1接合板2の上面から上方に突出している(図2(a)(b)、図1(a))。
【0022】
(2) 続いて、柱15を土台11の上方から下降して、収容部20、21に接合金物1が納まるように、柱15を土台11の上面12に載置する(図1(b))。この状態で、柱15の下面16(パッキン24)が土台11の上面12に載置され、接合金物1の第2接合板6が第2収容部21内に嵌挿収容される。また、接合金物1の第1接合板2及びビス28の頭部が第1収容部20内に収容され、第1接合板2の上面及びビス28の頭部の上方と、第1収容部20の内面との間に間隙26が形成される(図1(b))。
【0023】
(3) 続いて、第1接合板2の貫通孔8、係止孔9と柱15のピン孔23、23が連通するので、ピン孔23、23からドリフトピン29、29を挿入して、貫通孔8、係止孔9(第2収容部21)をそれぞれ貫通して、他側のピン孔23に至らせる。(図2(c)(d))。この状態で、接合金物1を介して、土台11と柱15とが接合される。
【0024】
(4) 続いて、第1収容部20内の間隙26に液状固化剤31を注入する。液状固化剤31が固化したならば、間隙26が埋められて、土台11と柱15の接合構造40を構成する(図1(c))。
【0025】
[6]試験例
【0026】
(1)試験体
表1に示すような材質で、
・120×120mmの土台11、
・120×120mmの柱15
を構成し、接続金物1の向き(即ち、土台11の軸11aに方向に対して、「収容部20、21が抜ける方向」が直交する構造を「縦」、並列する方向を「横」とする)の違いで、試験体HYC(図4(a))、HY2(図4(b))、PTC(図5(a))、PT(図5(b))の4種類を試験した。HYCとHYとの違い、PTCとPTとの違いは、液状固化剤の有無であり、従来例と本願発明の相違である。
接続金物1は、前記実施例(図2(a)(b))に示す構造である。
液状固化剤31は、前記実施例のセメント系の無収縮材を通常の水セメント比で使用した。
【0027】
(2)試験方法
柱15に、徐々に圧縮荷重(土台に向けて下方の荷重)を掛けて、柱15の下面16の変位を測定した。
【0028】
(3)試験結果
変位−荷重曲線を、図6(a)(b)、図7(a)(b)に示す。
本願発明の実施例である液状固化剤を注入したHY2、PTでは、液状固化剤が無い従来例に比して、最大荷重が大きく増加した。
とりわけ、変位が少ない段階(変位5mm程度)で大きな荷重を負担できる(図6、図7)。更に、例えば変位2mmの段階での荷重を比較すれば、液状固化剤15を注入すれば大きな荷重を負担できることが分かる(表1、図6、図7)。
【0029】
【表1】

【0030】
[7]他の実施例
【0031】
(1) 前記実施例において、接合金物1の構造は前記例に限られず、土台11に固定でき、かつ柱15に形成した収容部20内に収容される構造であれば、任意である(図示していない)。
【0032】
(2) また、前記実施例において、第1棒状部材として土台11、第2棒状部材として柱15に適用したが、他の接合部位に適用することもできる。例えば、接合金物1を固定する第1棒状部材として柱15を選定して、第2棒状部材を梁35とした例を図3に示す。
この場合、接続金物1は、柱15の側面17に固定される第1接合板2の略中央に、梁35の接合端面37に挿入される第2接合板6を突設した略T字状に形成される。梁35の接合端面37には、前記実施例同様に、接続金物1に対応した収容部20、21が形成されている(図3(a)(b))。
続いて、前記実施例と同様に、柱15の側面17にビス28、28で接続金物1を固定して、梁35の接合端面37を柱15の側面17に当接して、収容部20、21に接続金物1を収容する。続いて、梁35のピン孔36を貫通したドリフトピン29を接続金物1の貫通孔8を貫通させる(図3(a)(b))。続いて、収容部20(または、更に収容部21)に液状固化剤31を充填して、この発明の接合構造40を構成する(図3(c))。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施例の構築途中の概略した縦断面図で、(a)は土台に接合金物を固定した状態、(b)は土台に柱を載せた状態、(c)はドリフトピンを挿入して、液状硬化剤を注入した状態、をそれぞれ表す。
【図2】同じくこの発明の実施例で、(a)は柱を接合する前の概略した縦断面図、(b)は(a)のA−A線における縦断面図、(c)は柱を接合した後の概略した縦断面図、(d)は(c)のB−B線における縦断面図である。
【図3】この発明の他の実施例で、(a)は液状硬化剤を注入する前の概略した縦断面図、(b)は液状硬化剤を注入する前の概略した横断面図、(c)は液状硬化剤を注入した後の概略した横断面図である。
【図4】この発明の試験例の試験体の斜視図を表し(a)は従来例、(b)は本願発明である。
【図5】この発明の他の試験例の試験体の斜視図を表し(a)は従来例、(b)は本願発明である。
【図6】この発明の試験例のグラフ(変位−荷重)で、(a)は図4(a)の試験体、(b)は図4(b)の試験体の場合をそれぞれ表す。
【図7】この発明の他の試験例のグラフ(変位−荷重)で、(a)は図5(a)の試験体、(b)は図5(b)の試験体の場合をそれぞれ表す。
【符号の説明】
【0034】
1 接合金物
2 接合金物の第1接合板
4 第1接合板の透孔
6 接合金物の第2接合板
8 第2接合板の貫通孔
9 第2接合板の係止孔(貫通孔)
11 土台
11a 土台の軸
12 土台の上面
15 柱
16 柱の下面
17 柱の側面
20 柱の第1収容部
21 柱の第2収容部
23 柱のピン孔
24 柱のパッキン
26 間隙
28 ビス
29 ドリフトピン
31 液状固化剤
35 梁
36 梁のピン孔
37 梁の接合端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土台の上面に柱の下面を接合する構造であって、以下のように構成したことを特徴とする棒状部材の接合構造。
(1) 前記土台の上面で柱接合位置に接合金物を固定する。
(2) 前記柱の下面を切り欠いて、前記接合金物を収容できる収容部を形成する。
(3) 前記柱の下面を、前記土台の上面に当接して、前記柱を立設するとともに、前記接合金物を前記収容部に収容する。
(4) 固定ピンを、前記柱を貫通させて、前記接合金物の貫通穴を挿通させる。
(5) 前記収容部内に液状固化剤を注入して、前記収容部と前記接合金物との間隙を埋める。
【請求項2】
以下のように構成したことを特徴とする請求項1記載の棒状部材の接合構造。
(1) 収容部は、土台の下面に固定して、少なくとも接続金物の上方を覆い、
(2) 柱の下面で収容部以外の面は、直接に又はパッキン材を介して、前記土台の上面に載置される。
【請求項3】
以下のように構成したことを特徴とする請求項1記載の棒状部材の接合構造。
(1) 収容部の上面と、土台の上面と、土台に固定される接続金物の下面に固定して、少なくとも接続金物の上方を覆い、
(2) 柱の下面で収容部以外の面は、直接に又はパッキン材を介して、前記土台の上面に載置される。
【請求項4】
第1の棒状部材の側面に第2の棒状部材の端面を固定する構造であって、以下のように構成したことを特徴とする棒状部材の接合構造。
(1) 前記第1の棒状部材の側面で、第2の棒状部材の接合位置に、接合金物を固定する。
(2) 前記第2の棒状部材の接合端面を切り欠いて、前記接合金物を収容できる収容部を形成する。
(3) 前記第2の棒状部材の接合端面を、前記第1の棒状部材の側面に当接して、前記第2の接合部材を立設するとともに、前記接合金物を前記第2の棒状部材の収容部に収容する。
(4) 固定ピンを、前記第2の棒状部材を貫通させて、前記接合金物の貫通穴を挿通させる。
(5) 前記収容部内に液状固化剤を注入して、収容部と接合金物との間隙を埋める。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−133093(P2010−133093A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307607(P2008−307607)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000133135)株式会社タナカ (15)
【Fターム(参考)】