説明

椅子

【課題】簡便に組立可能な構造で背凭れ面の変形機能を実現する。
【解決手段】背凭れ面を形成する変形可能な背凭れ部材6を支持体3に支持させ、背凭れ部材6の上方部位に、後背に前記支持体3を配する中間領域Cと、中間領域Cの左方に連なり支持体3と干渉することなく前後に変位可能な左方領域Lと、中間領域Cの右方に連なり支持体3と干渉することなく前後に変位可能な右方領域Rとを設定した椅子を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座者の身体の動きに追随して背凭れ面を変形させる機能を有した椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
左右両側に対をなすフレーム間に張材を架け渡して背凭れ面を形成した椅子が周知である。例えば、下記特許文献に開示されている椅子では、張材の上方部位を上部フレームに支持させ、張材の下方部位を下部フレームに支持させて、上部フレーム及び/または下部フレームの傾動操作を通じて背凭れ面の変形を惹起するようにしている。
【特許文献1】特開2002−119375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
日常では、椅子に着座したままで振り向いたり、手を伸ばしたり、身体をねじったりすることが少なくない。その契機は、他者に呼びかけられてそちらの方を向く、後ろにある物品を手に取る、ストレッチで身体をほぐす等様々である。
【0004】
上記例の如き椅子では、左右両側のフレームが横架材を介して相互に剛結され、これらフレームが一体的に前後動することから、背凭れ面の左側部のみ、または右側部のみを後方に変位させることができない。故に、着座者が後ろを振り向く等の動きに追随して背凭れ面を変形させることは難しく、着座者の所作を制限することにつながっていた。
【0005】
以上に鑑みてなされた本発明は、簡便に組立可能な構造で背凭れ面の変形機能を実現することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、背凭れ面を形成する変形可能な背凭れ部材を支持体に支持させ、前記背凭れ部材の上方部位に、後背に前記支持体を配する中間領域と、中間領域の左方に連なり支持体と干渉することなく前後に変位可能な左方領域と、中間領域の右方に連なり支持体と干渉することなく前後に変位可能な右方領域とを設定した椅子を構成した。このようなものであれば、背凭れ面の左方領域のみ、または右方領域のみを後方に変位させることが可能となる。そして、着座者が後ろを振り向く等の動きに追随して背凭れ面を変形させることができ、着座者の所作を徒に制限せずその身体を好適に支持し続ける良好な座り心地が実現される。背凭れ部材に特段の伸縮性は要求されず、背凭れ部材として樹脂成形部材や樹脂成形部材にウレタンクッションを取り付けたもの等を使用できる。従って、伸縮性に富む張材をフレームに張り付ける煩瑣な工程も省かれる。
【0007】
前記背凭れ部材と前記支持体とのうち一方に前後に離間した壁に挟まれ上下に拡張した空洞部を設け、他方に前記空洞部に挿入される挿入端を有した挿入部を設けて、これら空洞部と挿入部との係合により背凭れ部材と支持体との離反を阻むようにすれば、空洞部に挿入端を挿入する工数のみで、背凭れ部材の中間領域を支持体に支持させることができる。
【0008】
前記支持体が、前記背凭れ部材の下方部位を支持する下部支持体と、前記下部支持体とは独立に傾倒可能であり背凭れ部材の上方部位を支持する上部支持体とを備えており、前記背凭れ部材の下方部位を前記下部支持体に固定するとともに、前記背凭れ部材の上方部位と前記上部支持体とのうち一方に前記空洞部を設け、他方に前記挿入部を設けて、上部支持体の傾倒時に前記挿入端が空洞部内を摺動することを通じて両者の相対的なスライドを許容するスライド機構を構成するものであれば、背凭れのチルト等の傾倒機能を実現することができる。
【0009】
あるいは、上下関係を逆転させても構わない。即ち、前記支持体が、前記背凭れ部材の下方部位を支持する下部支持体と、前記下部支持体とは独立に傾倒可能であり背凭れ部材の上方部位を支持する上部支持体とを備えており、前記背凭れ部材の上方部位を前記上部支持体に固定するとともに、前記背凭れ部材の下方部位と前記下部支持体とのうち一方に前記空洞部を設け、他方に前記挿入部を設けて、前記上部支持体の傾倒時に前記挿入端が空洞部内を摺動することを通じて両者の相対的なスライドを許容するスライド機構を構成してもよい。
【0010】
前記挿入端とこの挿入端が摺接する空洞部の前壁または後壁とのうち一方に、側面視他方に向けて膨出する曲面を成形しておけば、上部支持体の傾倒角度が変化するにつれて挿入端と空洞部の周壁との摺接点が変位し、適切に背凭れ部材がスライドするようになる。
【0011】
前記上部支持体を所定角度以上傾倒させたときに前記挿入部の一部が前記空洞部を囲う壁の一部に当接するならば、上部支持体の傾倒する範囲を規制するストッパとなる。また、そのようなストッパ機能を具現する専用の部品を必要とせず、部品点数の徒な増大を招かない。
【0012】
前記空洞部を前記背凭れ部材に設ける場合において、背凭れ部材よりも固く変形しにくい摺接部材を背凭れ部材に取り付け、この摺接部材により空洞部の前壁を形成しているならば、背凭れ部材が着座者の身体荷重を受けて撓み変形するとしても空洞部の前壁は保形され、挿入端の摺動を妨げない。
【0013】
スライド機構における挿入端の円滑な摺動を担保するには、前記他方よりも摩擦係数の低い摺接部材を前記他方に取り付け、この摺接部材により空洞部の前壁または後壁を形成することが好適である。
【0014】
前記摺接部材が、左右の側壁と、両側壁の上端同士または下端同士を連絡する底壁とを有し、それら側壁及び底壁がそれぞれ前記他方に接合しているならば、摺接部材の取り付けか強固になり、構造的に安定する。
【0015】
具体的には、前記空洞部を、前壁、後壁及び左右の側壁に包囲されかつその上端または下端が底壁により閉塞されたものとし、前記挿入部を、前記一方に連接し前記他方に向けて突出する基端と、基端を足場にして上下に伸長する挿入端とを有し、その挿入端が下方または上方から前記空洞部内に進入するものとする。
【0016】
前記空洞部の内形について前後寸法よりも幅寸法の方を大きく設定し、前記挿入部の挿入端の外形について前後寸法よりも幅寸法の方を大きく設定すれば、背凭れ部材が垂直軸回りに旋回するようなばたつき、がたつきを抑制できる。
【0017】
挿入部の挿入端が幅方向に間欠的に複数存在し、それら挿入端を挿入する一または複数の空洞部を設けるようにしても、背凭れ部材の旋回を抑制できる。
【0018】
スライド機構を露骨に表出させず、家具としての美観・格調を高めるには、前記空洞部及び前記挿入部が前記上部支持体または前記下部支持体により後方から隠蔽されることが望ましい。
【0019】
前記挿入部を前記他方に一体成形していれば、椅子の組立工数の削減に資する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡便に組立可能な構造で背凭れ面の変形機能を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。本実施形態の椅子は、図1ないし図5に示すように、脚11と、脚11に載置した支基12と、支基12の後端部に軸45回りに回動可能に軸支させた背支桿3と、前部を支基12に、後部を背支桿3にそれぞれ支持させた座受21と、座受21に取り付けた座部材22と、背支桿3に取り付けた背凭れ部材6とを備える。
【0022】
本実施形態では、背支桿3の下部4と上部5とが別個の部材となっており、背凭れ部材6の下方部位を背支桿下部4に固定する一方、背凭れ部材6の上方部位を背支桿上部5に上下スライド可能に支持させている。その上で、背支桿上部5を、背支桿下部4とは独立に傾倒可能としている。
【0023】
詳述すると、下部支持体たる背支桿下部4は、支基12の両側面よりも外側方に位置する左右一対のフレーム体41と、両フレーム体41を剛結する複数の剛結軸44、46、47と、フレーム体41を直接外観できないよう被覆するカバー42とを要素とする。背支桿下部4は、側面視支基12に枢着する下端部から後上方に延伸し、その上端付近で前上方に屈曲した概形をなす。背支桿下部4の上端部には、背凭れ部材6の下方部位を取り付けるための被取付部43を設ける。この被取付部43には、ボルトやビス等の締着具76を螺入せしめるナット孔(図示せず)を形成してある。
【0024】
上部支持体たる背支桿上部5は、下端付近が背支桿下部4における左右のフレーム体41の間に収まり、その下端付近を背支桿下部4の上端部に軸48回りに回動可能に軸支させる。背支桿上部5は、側面視やや弓状に湾曲しながら上方に延伸している。下端部は、後下方に延出して背支桿下部4の後縁よりもオーバーハングする。
【0025】
背支桿上部5の上端部の前面側には、挿入部51を設ける。図6ないし図9に示すように、挿入部51は、背支桿上部5の前面側に連接し前方に突出する基端52と、基端52を足場にして上方に伸長する挿入端53とが側面視略L字形をなすものである。挿入端53は、前後の厚みよりも左右の幅の方が大きい扁平体であり、後述する背凭れ部材6の空洞部に差し入る。挿入端53の前面は、側面視前方に膨出している。背支桿上部5は、挿入部51を含めて高強度の素材、例えばガラスナイロン製の一体成形品とする。
【0026】
図2、図5に示しているように、背支桿下部4の下端部、支基12の直下に所在する剛結軸44は、支基12との間に介在して背支桿3全体の後傾動作に相対する反力を生み出すコイルばねやガススプリング等の弾性部材13の一端と連結する。背支桿下部4の中間付近の上縁側に所在する剛結軸46は、座受21の後部を回動可能に軸支する背座シンクロ軸となる。並びに、背支桿下部4の上端付近に所在する剛結軸47は、背支桿上部5との間に介在して背支桿上部5のみの後傾動作に相対する反力を生み出す弾性部材14の一端と連結する。この弾性部材14の他端は、背支桿上部5の下端部に連結する。
【0027】
背凭れ部材6は、着座者の背や腰を支える背凭れ面を形成し、着座者の身体荷重を受けて撓み変形し得る。背凭れ部材6は、構造部材であるアウターシェル7と、着座者の身体荷重を直接受けるインナーシェル8とを要素とする。
【0028】
図1、図3、図6等、図7に示しているように、アウターシェル7は、上端部及び下端部を高さ方向の中間よりも後退させ、左右両側端部を幅方向の中央よりも前進させた三次元形状の板状体である。高さ方向の中間部にあるランバーサポート71は、湾曲して前方に突き出す度合いが側面視背支桿上部5に比して大きい。ランバーサポート71には、幅方向に延伸するスリット72を穿設している。ランバーサポート71よりも上方の部位には、多数の肉抜き孔73を穿設している。アウターシェル7の一定面積内で肉抜き孔73が占める割合である開口率は、アウターシェル7の上端部及び側端部に向かって漸次大きくなる。アウターシェル7の下端部には、背支桿下部4の被取付部43に取り付けるための取付部74を設ける。取付部74は、背面よりも後方に大きく突出し、内空が前方に開口しているもので、その後壁には締着具76を挿通する挿通孔741を穿設してある。
【0029】
アウターシェル7の上方部位における中央、上端よりも所定寸法下がった箇所には肉抜き孔73を穿設せず、替わりに凹陥部75を成形する。図7ないし図9に示しているように、凹陥部75は、前方に凹み後方に開口した形状をなす。凹陥部75の左右の幅は、前後の奥行よりも大きい。凹陥部75の側壁751、上壁752及び下壁753の前縁、並びに前壁754は、凹陥部75の周囲の前面よりも前方に張り出す。凹陥部75の側壁751及び上壁752は、後面側においても縁取りをなすように後方に突き出しているが、下壁753はそうではない。凹陥部75の直下部分の後面は、凹陥部75の前壁754に近づくように傾斜した傾斜面としてある。凹陥部75の前壁754の後向面には、幅方向に亘って間欠的に複数本の突条755が存在する。突条755は、上下方向に延伸し、上方に向かって前後寸法が漸次小さくなるテーパ状をなす。前壁754の下方寄りの箇所には、締着具97を挿通する挿通孔756を穿設している。加えて、凹陥部75の上壁752と前壁754とが交差する入隅に、差込孔757を形成している。差込孔757は、凹陥部75の前壁754の上縁部に連なり、そこから凹陥部75の上壁752を上下に貫通する。
【0030】
インナーシェル8は、クッションを装着した上に張材でくるんであり、アウターシェル7の前面側に取り付ける。アウターシェル7、インナーシェル8はそれぞれ、弾性変形可能な素材、例えばポリプロピレン製の一体成形品とする。
【0031】
アウターシェル7の後面側には、背支桿上部5の挿入端53を受容する摺接部材9を取り付ける。図6ないし図9に示しているように、摺接部材9は、左右の側壁91、前壁94、後壁93及び上壁92を有し、上方が閉塞され下方が開通した箱形をなすものである。この摺接部材9の側壁91、前壁94、後壁93及び上壁92が、背支桿上部5の挿入端53を挿入するべき空洞部を囲う周壁となる。摺接部材9の内周面、特に前壁94の後向面は、挿入端53が摺動しやすいよう平滑な面とする。摺接部材9の外寸は、凹陥部75の内寸に略対応する。そして、摺接部材9の内寸は、前後の奥行よりも左右の幅の方が大きい。摺接部材9の後壁93の下端は前壁94の下端よりも上方にあり、側壁91の下端はそれらの下端同士を結ぶように傾斜している。前壁94の下方寄りの箇所には、締着具97を螺入せしめるナット孔95を形成している。ナット孔95の周壁は、ボス状に前方に突出する。加えて、上壁92と前壁94とが交差する出隅に、爪96を設けている。この爪96は、前壁94の上縁部において前方に若干突き出し、かつ上壁92よりも上方に延出している。摺接部材9は、アウターシェル7よりも固く、また摩擦係数の低い滑りのよい素材、例えばポリアセタール製の一体成形品とする。
【0032】
背凭れ部材6を背支桿3に取り付ける手順を述べる。まず、アウターシェル7に摺接部材9を取り付ける。摺接部材9の爪96を凹陥部75の上縁部に収め、差込孔757に下方から差し込むと、摺接部材9の側壁91の外側面が凹陥部75の側壁751の内側面に当接し、摺接部材9の上壁92の上向面が凹陥部75の上壁752の下向面に当接し、摺接部材9の前壁94の前向面が凹陥部75の突条755に当接する。同時に、摺接部材9の前壁94の下端が凹陥部75の下壁753の上向面に当接ないし近接し、摺接部材9のナット孔95が凹陥部75の挿通孔756に臨む。この状態で、締着具97を前方から挿通孔756に挿通し摺接部材9のナット孔95に螺合緊締すれば、摺接部材9がアウターシェル7に固定される。その後、既知の適宜の手法を用いて、アウターシェル7の前面側にインナーシェル8を取り付ける。
【0033】
次いで、背凭れ部材6の上方部位及び下方部位を、背支桿上部5、背支桿下部4にそれぞれ支持させる。背支桿上部5の挿入部51の挿入端53をアウターシェル7の上方部位の空洞部、換言すれば摺接部材9の内空に挿入し、背支桿下部4の被取付部43の前面にアウターシェル7の取付部74の後壁を臨ませた上、締着具76を前方から挿通孔741に挿通し被取付部43のナット孔に螺合緊締すれば、背凭れ部材6の背支桿3への取り付けが完了する。
【0034】
図3に示しているように、本実施形態の椅子では、背支桿3が背凭れ部材6の後背、両幅の中央に立設している。背凭れ部材6の上方部位における、背支桿3を後に控えた中間領域Cの左右の領域L、Rは、撓み変形を通じて背支桿3と干渉することなく前後に変位することができる。
【0035】
背凭れ部材6の後面側に固定した摺接部材9と、背支桿上部5の前面側に突設した挿入部51との係わり合いは、背凭れ部材6の上方部位を上下スライド可能かつ前後離反不能に支持するスライド機構を構成する。図4、図5に示しているように、背支桿下部4を動かさず、背支桿上部5のみを軸48回りに傾倒させた場合、背凭れ部材6は側面視弓なりに撓み変形し、その上方部位と下方部位との間にあるランバーサポート71が前方に張り出す。この際、背凭れ部材6の上方部位は背支桿上部5に対して相対的に下方に変位し、挿入端53は空洞部内を摺動して相対的に上方に変位する。背支桿上部5をさらに傾倒させ、その傾倒角度が所定の大きさに達するとき、図9に示すように、挿入端53の上端が空洞部の底壁たる上壁92に当接してそれ以上摺動できなくなる。結果、背支桿上部5のそれ以上の傾倒が阻まれる。即ち、スライド機構の構成要素である挿入部51の一部と空洞部の周壁9の一部とが当接することで、背支桿上部5の傾倒を抑止するストッパ機能が営まれるのである。
【0036】
図3に示しているように、上記のスライド機構は、背支桿3により後方から隠蔽される。背支桿上部5は、上方に向かって両幅が徐々に狭まるが、凹陥部75の幅寸、摺接部材9の幅寸、挿入部51の幅寸は背支桿上部5の両幅よりも小さく、摺接部材9や挿入部51が背面視露骨に表出することはない。
【0037】
本実施形態によれば、背凭れ面を形成する変形可能な背凭れ部材6を支持体3に支持させ、前記背凭れ部材6の上方部位に、後背に前記支持体3を配する中間領域Cと、中間領域Cの左方に連なり支持体3と干渉することなく前後に変位可能な左方領域Lと、中間領域Cの右方に連なり支持体3と干渉することなく前後に変位可能な右方領域Rとを設定した椅子を構成したため、背凭れ面の左方領域Lのみ、または右方領域Rのみを後方に変位させることが可能となる。そして、着座者が後ろを振り向く等の動きに追随して背凭れ面を変形させることができ、着座者の所作を徒に制限せずその身体を好適に支持し続ける良好な座り心地が実現される。背凭れ部材6に特段の伸縮性は要求されず、背凭れ部材6として樹脂成形部材や樹脂成形部材にウレタンクッションを取り付けたもの等を使用できる。従って、伸縮性に富む張材をフレームに張り付ける煩瑣な工程も省かれる。
【0038】
前記背凭れ部材6に前後に離間した壁93、94に挟まれ上下に拡張した空洞部を設け、前記支持体3に前記空洞部に挿入される挿入端53を有した挿入部51を設けて、これら空洞部と挿入部51との係合により背凭れ部材6と支持体3との離反を阻むようにしており、空洞部に挿入端53を挿入する工数のみで、背凭れ部材6の中間領域Cを支持体3に支持させることができる。
【0039】
前記支持体3が、前記背凭れ部材6の下方部位を支持する下部支持体4と、前記下部支持体4とは独立に傾倒可能であり背凭れ部材6の上方部位を支持する上部支持体5とを備えており、前記背凭れ部材6の下方部位を前記下部支持体4に固定するとともに、前記背凭れ部材6の上方部位に前記空洞部を設け、前記上部支持体5に前記挿入部51を設けて、上部支持体5の傾倒時に前記挿入端53が空洞部内を摺動することを通じて両者の相対的なスライドを許容するスライド機構を構成しているため、背凭れのチルト等の傾倒機能を実現することができる。
【0040】
前記挿入端53に、側面視前記空洞部の前壁94に向けて膨出する曲面を成形しているため、上部支持体5の傾倒角度が変化するにつれて挿入端53と空洞部の前壁94との摺接点が変位し、適切に背凭れ部材6がスライドする。
【0041】
前記上部支持体5を所定角度以上傾倒させたときに前記挿入部51の一部が前記空洞部を囲う壁9の一部に当接するため、上部支持体5の傾倒する範囲を規制するストッパとなる。また、そのようなストッパ機能を具現する専用の部品を必要とせず、部品点数の徒な増大を招かない。
【0042】
前記空洞部を前記背凭れ部材6に設ける場合において、背凭れ部材6よりも固く変形しにくい摺接部材9を背凭れ部材6に取り付け、この摺接部材9により空洞部の前壁94を形成しているため、背凭れ部材6が着座者の荷重を受けて撓み変形するとしても空洞部の前壁94は保形され、挿入端53の摺動を妨げない。
【0043】
前記他方よりも摩擦係数の低い摺接部材9を前記他方に取り付け、この摺接部材9により空洞部の前壁94及び後壁93を形成しているため、スライド機構における挿入端53の円滑な摺動を担保できる。
【0044】
前記摺接部材9が、左右の側壁91と、両側壁91の上端同士を連絡する底壁92とを有し、それら側壁91及び底壁92がそれぞれ前記背凭れ部材6の凹陥部75に接合しているため、摺接部材9の取り付けか強固になり、構造的に安定する。
【0045】
前記空洞部を、前壁94、後壁93及び左右の側壁91に包囲されかつその上端が上壁92により閉塞されたものとし、前記挿入部51を、前記上部支持体5に連接し前記背凭れ部材6に向けて突出する基端52と、基端52を足場にして上下に伸長する挿入端53とを有し、その挿入端53が下方から前記空洞部内に進入するものとしており、組立工程における手間が緩和される。
【0046】
前記空洞部の内形について前後寸法よりも幅寸法の方を大きく設定し、前記挿入部51の挿入端53の外形について前後寸法よりも幅寸法の方を大きく設定しているため、背凭れ部材6が垂直軸回りに旋回するようなばたつき、がたつきを抑制できる。
【0047】
前記空洞部及び前記挿入部51が前記上部支持体5により後方から隠蔽されるため、スライド機構を露骨に表出させず、家具としての美観・格調を高めることができる。
【0048】
前記挿入部51を前記上部支持体5に一体成形しているため、椅子の組立工数の削減に資する。
【0049】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。列挙すると、背凭れ部材6におけるインナーシェル8及びクッション等は必須ではない。図10に示す例は、アウターシェル7自体が直接着座者の身体を支持する背凭れ面を形成する実施態様である。この例では、背凭れ部材6の上方部位に成形している凹陥部75は専ら後方に突出し、前方には突出しない。凹陥部75は、側壁751、前壁754及び上壁752に加え、左右の側壁751の後縁同士を連絡する後壁758をも有している。凹陥部75の上壁752の下向面には、上方に凹む差込孔757を形成する。また、摺接部材9は、側壁91、前壁94、上壁92を有するが、後壁を有していない。摺接部材9を凹陥部75に取り付けたとき、摺接部材9の側壁91、前壁94、上壁92及び凹陥部75の後壁758が空洞部を囲う周壁となる。
【0050】
上部支持体5の傾倒する範囲を規制するストッパについても、上記実施態様とは異なる態様をとり得る。図11に示す例では、上部支持体たる背支桿上部5を所定角度以上傾倒させたときに、挿入部51の基部が空洞部の周壁93に当接してストッパ機能を営む。要するに、挿入部51の挿入端53と空洞部の底壁92とが当接してストッパとなるとは限られない。
【0051】
図12に示すように、挿入端79を有する挿入部77を背凭れ部材6に設け、挿入端79が挿入される空洞部を背支桿3に設けることもできる。この例における挿入部77は、背凭れ部材6の後面側に連接し後方に突出する基端78と、基端52を足場にして下方に伸長する挿入端79とが側面視略L字形をなすものである。挿入端79の後面は、側面視後方に膨出している。また、摺接部材9は、左右の側壁91、前壁94、後壁93及び下壁98を有し、下方が閉塞され上方が開通した箱形をなしており、背支桿上部5に設けた凹陥部54に固定する。この摺接部材9の摺接部材9の側壁91、前壁94、後壁93及び下壁98が、挿入端79を挿入するべき空洞部を囲う周壁となる。背支桿下部4を動かさず、背支桿上部5のみを軸48回りに傾倒させた場合、背凭れ部材6の上方部位は背支桿上部5に対して相対的に下方に変位し、挿入端79は空洞部内を摺動して相対的に下方に変位する。背支桿上部5をさらに傾倒させ、その傾倒角度が所定の大きさに達するとき、挿入端79の下端が空洞部の底壁たる下壁98に当接してそれ以上摺動できなくなる。
【0052】
図13に示すように、背凭れ部材6の上方部位を上部支持体5に固定し、背凭れ部材6の下方部位を下部支持体4にスライド機構を介してスライド可能に支持させるようにしてもよい。この例における挿入部70は、背凭れ部材6のアウターシェル7の後面側に連接し後方に突出する基端701と、基端701を足場にして上方に伸長する挿入端702とが側面視略L字形をなすものである。また、摺接部材9は、左右の側壁91、前壁94、後壁93及び上壁92を有し、下方が閉塞され上方が開通した箱形をなしており、背支桿下部4の前面側に設けた凹陥部40に固定する。この摺接部材9の摺接部材9の側壁91、前壁94、後壁93及び上壁92が、挿入端53を挿入するべき空洞部を囲う周壁となる。背支桿下部4を動かさず、背支桿上部5のみを軸48回りに傾倒させた場合、背凭れ部材6の下方部位は背支桿下部4に対して相対的に上方に変位し、挿入端702は空洞部内を摺動して相対的に上方に変位する。背支桿上部5をさらに傾倒させ、その傾倒角度が所定の大きさに達するとき、挿入端702の上端が空洞部の底壁たる上壁92に当接してそれ以上摺動できなくなる。
【0053】
スライド機構を複数設けてもよい。図14に示す例では、背支桿上部5の上端部が幅方向に枝分かれし、その各枝と背凭れ部材6の上方部位との間にそれぞれスライド機構、即ち空洞部9と挿入部51との組を介設している。このようなものであっても、背凭れ部材6が垂直軸回りに旋回するようなばたつき、がたつきを抑制できる。
【0054】
あるいは、挿入部51の挿入端53を幅方向に間欠的に複数並列させ、これら挿入端53を同一の空洞部に挿入するようにしても構わない。
【0055】
挿入端53の前面(または、挿入端79の後面)を側面視空洞部の前壁94(または、後壁93)に向けて膨出させる替わりに、空洞部の前壁94(または、後壁93)を側面視挿入端53(または、挿入端79)に向けて膨出させてもよい。
【0056】
摺接部材9もまた必須ではない。背凭れ部材6または支持体3に空洞部(及びその前壁、後壁、底壁等の周壁)を一体的に形成することを妨げない。
【0057】
さらには、上部支持体5を下部支持体4とは独立に傾動可能とするチルト機能は必須ではなく、支持体3に対して背凭れ部材6を上下スライド可能とするスライド機構も必須ではない。
【0058】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態の椅子の側面図。
【図2】同椅子のリンク機構を示す(カバーを除いた)側面図。
【図3】同椅子の背面図。
【図4】同椅子のチルト動作を示す側面図。
【図5】図2に対応して、同椅子のチルト動作を示す側面図。
【図6】同椅子におけるアウターシェル、背支桿上部及び摺接部材を示す要部分解斜視図。
【図7】同椅子におけるアウターシェル、挿入端及び摺接部材を示す要部平端面図。
【図8】同椅子におけるアウターシェル、背支桿上部及び摺接部材を示す要部側断面図。
【図9】同椅子のチルト動作時の背凭れ部材の相対スライド移動を示す要部側断面図。
【図10】本発明の変形例の一を示す要部側断面図。
【図11】本発明の変形例の一を示す要部側断面図。
【図12】本発明の変形例の一を示す要部側断面図。
【図13】本発明の変形例の一を示す要部側面図。
【図14】本発明の変形例の一を示す背面図。
【符号の説明】
【0060】
3…支持体
4…下部支持体
5…上部支持体
51…挿入部
6…背凭れ部材
9…摺接部材、空洞部の周壁
C…中間領域
L…左方領域
R…右方領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形可能な背凭れ部材を支持体に支持させてなり、
前記背凭れ部材の上方部位に、後背に前記支持体を配する中間領域と、中間領域の左方に連なり支持体と干渉することなく前後に変位可能な左方領域と、中間領域の右方に連なり支持体と干渉することなく前後に変位可能な右方領域とを設定した椅子。
【請求項2】
前記背凭れ部材と前記支持体とのうち一方に前後に離間した壁に挟まれ上下に拡張した空洞部を設け、他方に前記空洞部に挿入される挿入端を有した挿入部を設けて、これら空洞部と挿入部との係合により背凭れ部材と支持体との離反を阻んでいる請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記支持体が、前記背凭れ部材の下方部位を支持する下部支持体と、前記下部支持体とは独立に傾倒可能であり背凭れ部材の上方部位を支持する上部支持体とを備えており、
前記背凭れ部材の下方部位を前記下部支持体に固定するとともに、
前記背凭れ部材の上方部位と前記上部支持体とのうち一方に前記空洞部を設け、他方に前記挿入部を設けて、上部支持体の傾倒時に前記挿入端が空洞部内を摺動することを通じて両者の相対的なスライドを許容するスライド機構を構成した請求項2記載の椅子。
【請求項4】
前記支持体が、前記背凭れ部材の下方部位を支持する下部支持体と、前記下部支持体とは独立に傾倒可能であり背凭れ部材の上方部位を支持する上部支持体とを備えており、
前記背凭れ部材の上方部位を前記上部支持体に固定するとともに、
前記背凭れ部材の下方部位と前記下部支持体とのうち一方に前記空洞部を設け、他方に前記挿入部を設けて、前記上部支持体の傾倒時に前記挿入端が空洞部内を摺動することを通じて両者の相対的なスライドを許容するスライド機構を構成した請求項2記載の椅子。
【請求項5】
前記挿入端とこの挿入端が摺接する空洞部の前壁または後壁とのうち一方に、側面視他方に向けて膨出する曲面を成形している請求項3または4記載の椅子。
【請求項6】
前記上部支持体を所定角度以上傾倒させたときに前記挿入部の一部が前記空洞部を囲う壁の一部に当接する請求項3、4または5記載の椅子。
【請求項7】
前記空洞部を前記背凭れ部材に設ける場合において、背凭れ部材よりも固く変形しにくい摺接部材を背凭れ部材に取り付け、この摺接部材により空洞部の前壁を形成している請求項3、4、5または6記載の椅子。
【請求項8】
前記他方よりも摩擦係数の低い摺接部材を前記他方に取り付け、この摺接部材により空洞部の前壁または後壁を形成している請求項3、4、5または6記載の椅子。
【請求項9】
前記摺接部材が、左右の側壁と、両側壁の上端同士または下端同士を連絡する底壁とを有し、それら側壁及び底壁がそれぞれ前記他方に接合している請求項7または8記載の椅子。
【請求項10】
前記空洞部が、前壁、後壁及び左右の側壁に包囲されかつその上端または下端が底壁により閉塞されたものであり、
前記挿入部が、前記一方に連接し前記他方に向けて突出する基端と、基端を足場にして上下に伸長する挿入端とを有し、その挿入端が下方または上方から前記空洞部内に進入するものである請求項2、3、4、5、6または7記載の椅子。
【請求項11】
前記空洞部の内形は前後寸法よりも幅寸法の方が大きく、
前記挿入部の挿入端の外形は前後寸法よりも幅寸法の方が大きい請求項2、3、4、5、6、7、8、9または10記載の椅子。
【請求項12】
挿入部の挿入端が幅方向に間欠的に複数存在しており、
それら挿入端を挿入する一または複数の空洞部を設けている請求項2、3、4、5、6、7、8、9または10記載の椅子。
【請求項13】
前記空洞部及び前記挿入部が前記上部支持体または前記下部支持体により後方から隠蔽されている請求項2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12記載の椅子。
【請求項14】
前記挿入部を前記他方に一体成形している請求項2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−207769(P2009−207769A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55623(P2008−55623)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000108627)タカノ株式会社 (250)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】