説明

歩行支援装置、及び歩行支援プログラム

【課題】歩行アシストにおいて、より段差の高い階段をも上ることができるようにする。
【解決手段】通常階段を上る場合、太ももを持ち上げるとともに膝を曲げることで、膝から下の脛の部分を鉛直方向に垂らした状態で足を階段の上に乗せながら上っている(膝曲げ上り)。このため、足を最大上げた場合の高さh1が階段の段差Hよりも高く上がらないと階段を上ることができない。そこで股関節を限界角度θ1まで上げた状態でも足を階段の高さよりも高く上げられない場合には、膝を伸ばすことで足をより高く(h2)上げながら階段を上るようにする(膝伸ばし上り)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行支援装置、及び歩行支援プログラムに関し、例えば、装着者の歩行運動、特に階段や坂道を上る場合の歩行運動のアシストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、装着者の動作をアシストする装着型ロボットが注目を集めている。
装着型ロボットには、センサなどで体の動きを検知して装着者の身体動作を支援するものがあり、装着者の歩行運動等を補助することができる。
例えば、特許文献1の「装着式動作補助装置、装着式動作補助装置の制御方法および制御用プログラム」は、筋電センサにより装着者の動作意図を読み取って、装着者の運動を支援している。
【0003】
しかし、従来の装着型ロボットで歩行を支援する場合、階段の上りにおいて、段差以上に足を持ち上げることが可能であることを前提として設計されている。そして、歩行支援をする場合に、装着者の筋力のアシスト(支援)をすることができるが、体の柔軟性(特に、膝を限界まで上げた場合の股関節の限界角度θ1)を支援することはできない。
このため高齢者などに代表される柔軟性、特に股関節の稼働領域が衰えた装着者が使用すると、足を階段高さよりも高く上げることができず、結果的に階段を上ることができない場合が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−95561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、歩行アシストにおいて、より段差の高い階段も上ることができるように歩行支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1に記載の発明では、歩行支援対象者の少なくとも大腿部と脛部を含む脚部を保持する保持手段と、前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段と、前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御手段と、上り階段を検出する上り階段検出手段と、を具備し、前記制御手段は、前記検出した上り階段を上る際に、膝を伸ばした状態となるように、前記大腿部と脛部の移動をアシストする、ことを特徴とする歩行支援装置を提供する。
(2)請求項2記載の発明では、前記階段の段差Hを取得する段差取得手段と、階段に対して正面を向いた正対状態で、所定の基準位置から次に上る階段のステップ部分の手前側端部までの前方距離を取得する前方距離取得手段と、前記大腿部を上げた状態での足の高さが、前記取得した段差Hより高くなる股関節の必要最小角度を算出する必要最小角度算出手段と、前記股関節の必要最小角度まで前記大腿部を上げた状態での前記基準位置から足先までの足先距離を算出する距離算出手段と、を備え、前記制御手段は、前記算出した足先距離が前記前方距離より小さい場合、階段に対して斜め方向に上るように前記脚部の移動をアシストする、ことを特徴とする請求項1に記載の歩行支援装置を提供する。
(3)請求項3記載の発明では、前記必要最小角度算出手段は、膝を伸ばして前記大腿部を上げた状態での足の高さが、前記段差Hより高くなる股関節の必要最小角度θ2を算出し、前記距離算出手段は、前記股関節の必要最小角度θ2まで前記大腿部を上げ、膝を伸ばした状態での前記基準位置から足先までの足先距離m2を算出する、ことを特徴とする請求項2に記載の歩行支援装置を提供する。
(4)請求項4記載の発明では、前記歩行支援対象者における股関節の限界角度θ1まで前記大腿部を上げ、膝を曲げて前記脛部を鉛直にした状態での足の最大高さh1を取得する膝曲げ足高さ取得手段と、前記制御手段は、前記取得した足の最大高さh1が段差H以下の場合、前記検出した上り階段を上る際に、膝を伸ばした状態となるように、前記大腿部と脛部の移動をアシストする、ことを特徴とする請求項2、又は請求項3に記載の歩行支援装置を提供する。
(5)請求項5記載の発明では、歩行支援対象者の少なくとも大腿部と脛部を含む脚部を保持する保持手段と、前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段とを備えた歩行支援装置が有するコンピュータで用いられる歩行支援プログラムであって、前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御機能と、上り階段を検出する上り階段検出機能と、を前記コンピュータに実現させ、前記制御機能は、前記検出した上り階段を上る際に、膝を伸ばした状態となるように、前記大腿部と脛部の移動をアシストする、ことを特徴とする歩行支援プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、膝を伸ばした状態で階段を上るように支援するので、より段差の高い階段も上ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】階段を上る場合の歩行支援についての説明図である。
【図2】装着型ロボットの装着状態や装着ロボットシステムについての説明図である。
【図3】上り階段アシスト処理において、使用される階段情報の値を定義した説明図である。
【図4】上り階段アシスト処理において、使用される装着者Mと階段の関係を定義した説明図である。
【図5】歩行アシスト装置が行う上り階段アシスト処理の内容を表したフローチャートである。
【図6】股関節の角度と足の高さとの関係を模式的に表したものである。
【図7】膝曲げ上り処理の処理内容を表したサブルーチンである。
【図8】膝伸ばし上り処理の処理内容を表したサブルーチンである。
【図9】同一高さまで足を上げる場合の、股関節角度の関係を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)実施形態の概要
図1は、階段を上る場合の歩行支援について表したものである。
通常階段を上る場合、図1(a)に示すように、大腿部(太もも)を持ち上げるとともに膝を曲げることで、膝から下の脛の部分を鉛直方向に垂らした状態で足を階段の上に乗せながら上っている(以下、膝曲げ上りという)。
このため、大腿部最大上げた場合の足の高さh1が階段の段差Hよりも高く上がらないと階段を上ることができないことになる。この場合、大腿部の高さを上げることでより高く足を上げることができるが、装着者Mの股関節を痛めるため、柔軟性の限界を超えて上げることはできない。
そこで本実施形態では、股関節(大腿部)を最大の角度(股関節の限界角度θ1)まで上げたとしても足が階段よりも高く上がられない場合に、図1(b)に示すように、膝を伸ばすことで足をより高く上げながら階段を上るようにする(以下、膝伸ばし上りという)。
【0010】
一方、階段を上る場合には、通常は正対上り、すなわち図1(a)、(c)に示すように、階段の幅方向に対して直角な方向を向きながら上るのが通常である。
しかし、正対上りにおいて、本実施形態の膝伸ばし上りをしようとすると、足が段差にぶつかり膝を伸ばすことができず、従って、足を階段より上に上げることができない場合がある。
そこで、階段のステップ幅(階段1段の奥行き)が、膝伸ばし上りをするのに十分でない場合には、装着者の体の向きを制御することで、階段を斜め上りする。すなわち図1(b)、(c)に示すように、階段に対して体を斜め方向にオフセットすることで、軸足から段差までの十分な距離を確保しながら、斜めに階段を上っていくように制御、支援する。
このように、膝伸ばし上りと斜め上りとを組み合わせることで、股関節の角度が十分にとれない装着者でも段差の大きい階段を上れるように歩行支援することができる。
【0011】
なお、段差の高さは、通信によるデータやセンサなどで取得する。
また、装着者の柔軟性(股関節を上げられる限界角度θ1)を過去のアーカイブや入力値などから取得する。
【0012】
(2)実施形態の詳細
図2(a)は、歩行アシスト装置1の装着状態を示した図である。
歩行アシスト装置1は、装着者Mの腰部及び下肢に装着し、装着者Mの歩行を支援(アシスト)する歩行支援装置である。なお、例えば、上半身、下半身に装着して全身の動作をアシストするものであってもよい。
【0013】
歩行アシスト装置1は、腰部装着部7、歩行アシスト部2、連結部8、3軸センサ3、3軸アクチュエータ6、撮像カメラ5、光源装置4、撮像カメラ5と光源装置4を保持する撮像ユニット9、無線通信装置10、ナビゲーション装置12などを備えている。
腰部装着部7は、歩行アシスト装置1を装着者Mの腰部に固定する固定装置である。腰部装着部7は、装着者Mの腰部と一体となって移動する。
また、腰部装着部7は、歩行アクチュエータ17(図2(b))を備えており、装着者Mの歩行動作に従って連結部8を前後方向などに駆動する。
【0014】
連結部8は、腰部装着部7と歩行アシスト部2を連結している。
歩行アシスト部2は、装着者Mの下肢に装着され、歩行アクチュエータ17により前後方向などに駆動されて装着者Mの歩行運動を支援する。
なお、図2で、歩行アクチュエータ17が連結部8を介して歩行アシスト部2を駆動する構成としたが、これは、図と説明を簡略化するためであり、歩行アシスト部2は、装着者Mの股関節、膝関節、足首関節に対応した多関節構造を有しており、各関節は、それぞれの関節に設置されたエンコーダによって回転角度が検出され、それぞれの関節に設置された歩行アクチュエータ17の動力によって駆動されるようになっている。
【0015】
3軸センサ3は、腰部装着部7に設置され、腰部装着部7の姿勢などを検知する。3軸センサ3は、例えば、3次元ジャイロによる3軸角速度検出機能や3軸角加速度検出機能などを備えており、前進方向、鉛直方向、体側方向の軸の周りの回転角度、角速度、角加速度などを検知することができる。
なお、前進方向の軸の周りの角度をロール角、鉛直方向の軸の周りの角度をヨー角、体側方向の軸の周りの角度をピッチ角とする。
【0016】
3軸アクチュエータ6は、例えば、球体モータで構成されており、撮像カメラ5と光源装置4が設置された撮像ユニット9のロール角、ヨー角、ピッチ角を変化させる。
撮像ユニット9には、光源装置4と撮像カメラ5が固定されており、3軸アクチュエータ6を駆動すると、光源装置4の照射方向(光源装置4の光軸の方向)と撮像カメラ5の撮像方向(撮像カメラ5の光軸の方向)は、相対角度を保ったまま、腰部装着部7に対するロール角、ヨー角、ピッチ角を変化させる。
【0017】
撮像ユニット9で適切な画像を撮像するためには、撮像ユニット9を所定の角度で歩行基準面(歩行面)に向ける必要があるが、装着者Mが歩行アシスト装置1を装着した場合に、装着状態によって撮像ユニット9が傾くため、3軸アクチュエータ6によってこれを補正する。
【0018】
光源装置4は、例えば、レーザ、赤外光、可視光などの光を所定の形状パターンで照射する。本実施の形態では、光源装置4は、照射方向に垂直な面に対して円形となる形状パターンで光を照射するものとするが、矩形形状、十字、点など各種の形状が可能である。
【0019】
撮像カメラ5は、被写体を結像するための光学系と、結像した被写体を電気信号に変換するCCD(Charge−Coupled Device)を備えた、赤外光カメラ、可視光カメラなどで構成され、光源装置4が歩行基準面に照射した投影像を撮像(撮影)する。
光源装置4が所定の形状パターンで照射した光による投影像は、照射方向と歩行面の成す角度や、歩行面に存在する障害物(段差など)により円形から変形した(歪んだ)形状となるが、この形状を解析することにより前方の状態(例えば、下り坂の存在、平地の存在など)を検知することができる。
【0020】
無線通信装置10は、階段に関する各種情報や、エスカレータに関する踏板情報などの各種情報、その他歩行環境に関する各種を検出する。
無線通信装置10は、これら歩行環境に関する情報を、階段やエスカレータ等の各種設備周辺に配置されている照明100が発光する光や、図示しない情報送信装置から送信される情報から取得する。
歩行環境情報に階段や下り坂の始点や終点、平地の始点や終点を示す情報が含まれている場合、これによって、歩行アシスト装置1は、階段や下り坂の始点や終点、平地の始点や終点を認識することができる。
【0021】
本実施形態では、歩行環境情報として階段に関する各種情報(階段情報)を使用するが、この各種情報については、取得可能な場合には無線通信装置10で取得する。
また、無線通信装置10で取得できない場合には、撮像カメラ5で撮像した階段や、光学装置4で照射した光の画像を解析、認識することで取得することになる。
本実施形態で使用する階段情報としては、例えば、階段全体の幅(横方向の長さ)L0、ステップ幅P0、段差の高さH、装着者Mの位置に対する情報(階段左側の幅L1、右側の幅L2、軸足から次のステップまでの距離P1)等がある。
なお、装着者Mの位置に対する情報については、装着者Mの位置によって異なる情報なので、無線通信装置10ではなく撮像カメラ5の撮像画像により判断する。但し、階段の左右から装着者Mを認識して階段の両側から装着者Mまでの距離L1、L2が無線により提供される場合には、当該情報を使用することになる。
【0022】
ナビゲーション装置12は、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を受信したり、所定のサーバと通信したりして装着者Mの現在位置を特定したり、現在位置から目的地までの経路を探索したりなどのナビゲーション機能を有している。
探索した経路には、下り坂の区間、平地の区間などの歩行面の状態に関する情報も含まれている。
【0023】
図2(b)は、歩行アシスト装置1に設置された装着ロボットシステム15を説明するための図である。
装着ロボットシステム15は、歩行支援機能を発揮するように歩行アシスト装置1を制御する電子制御システムである。
【0024】
ECU(Electronic Control Unit)16は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、記憶装置、各種インターフェースなどを備えた電子制御ユニットであり、歩行アシスト装置1の各部を電子制御する。
【0025】
CPUは、記憶媒体に記憶された各種コンピュータプログラムを実行し、歩行アクチュエータ17を駆動し、階段を上る場合の上り階段支援を含む各種歩行支援を行う。
CPUは、光源装置4、撮像カメラ5、3軸アクチュエータ6、3軸センサ3、無線通信装置10、及びナビゲーション装置12とインターフェースを介して接続しており、光源装置4からの照射をオンオフしたり、撮像カメラ5から撮像データを取得したり、3軸アクチュエータ6を駆動したり、3軸センサ3から検出値を取得したり、無線通信装置10から階段情報を含む歩行環境情報を取得したり、ナビゲーション装置12から装着者Mの現在位置を取得したりする。
【0026】
ROMは、読み取り専用のメモリであって、CPUが使用する基本的なプログラムやパラメータなどを記憶している。
RAMは、読み書きが可能なメモリであって、CPUが演算処理などを行う際のワーキングメモリを提供する。
【0027】
記憶装置は、例えば、ハードディスクやEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)などで構成された大容量の記憶媒体を備えており、歩行支援を行うためのプログラムなどの各種プログラムや、歩行アシスト装置1の歩行情報をサンプリングにより検出して記憶するためのアーカイブなどを記憶している。
また記憶装置は、装着者Mに関する各種情報、例えば、股関節の上がる限界角度θ1、地面から股関節までの長さn0、大腿部(股関節から膝まで)の長さn1、脛部分(膝から足裏までの)長さn2、脛部から足先までの長さs等を記憶している。なお、これら装着者Mに関する情報は、図示しない入力装置からの入力や、外部からの通信により取得して記憶するが、上記情報n0、n1、n2については、歩行アシスト部2を装着した際の、股関節、膝関節、足首関節に設置されたエンコーダの各位置から取得して記憶するようにしてもよい。
【0028】
歩行アクチュエータ17は、ECU16からの指令に基づいて歩行アシスト部2を駆動する。
ECU16は、股関節、膝関節、足首関節の各関節に備えた歩行アクチュエータ17を個別に制御することにより、歩行アシスト装置1に一体として歩行支援動作を行わせる。
バッテリ18は、例えば、リチウムイオン電池などで構成された蓄電装置である。バッテリ18の供給する電力により歩行アクチュエータ17を駆動したり、ECU16を動作させることができる。
【0029】
次に以上のように構成された歩行アシスト装置1による上り階段アシスト処理について説明する。
図3、図4は、上り階段アシスト処理において、取得、算出により使用される階段情報の値と装着者Mの情報を定義したものである。
階段情報は、図3(a)に示すように、階段に向かって左右方向の幅(階段幅)をL0、階段の段差(高さ)をH、階段ステップQ1の奥行きをP0とする。
また、図3(b)に示すように、装着者Mの軸足から段壁Q2までの距離(前方距離)をP1とする。ただし、各階段ステップQ1の面が段壁Q2よりも手前に出ている場合には、装着者Mの軸足から次の階段ステップ(次に上る階段ステップ)Q1の手前側端面までの距離をP1とする。
【0030】
また、図4(a)に示すように、装着者Mの地面(足裏)から股関節までの長さをn0、股関節から膝までの長さをn1、膝から足裏までの長さをn2とする。
さらに、図4(b)、(c)に示すように、装着者Mにおける、股関節の上がる限界角度(膝を最大まで上げた場合の軸足に対する角度)をθ1とする。
そして、図4(b)に示すように、限界角度θ1まで股関節を上げ、脛部分が鉛直方向になるように膝を曲げた状態(膝曲げ上りの状態)での足の高さ、すなわち、地面から足裏までの高さをh1とする。
また、図4(c)に示すように、限界角度θ1まで股関節を上げ、膝を伸ばした状態(膝伸ばし上りの状態)での足の高さをh2とする。
【0031】
図5は、歩行アシスト装置1が行う上り階段アシスト処理の内容を表したフローチャートである。
以下の処理は、ECU16のCPUがROMに格納された歩行支援プログラムのうち、上り階段アシストプログラムに従って行うものである。
【0032】
ECU16は、無線通信装置10で受信する情報及び/又は撮像カメラ5による撮像画像から、上り階段前に到着したか否かを常時監視している(ステップ11)。
上り階段前に到着した場合(ステップ11;Y)、ECU16は、階段の段差Hを検出する(ステップ12)。
さらにECU16は、階段ステップの奥行きP0を検出する(ステップ13)。
次いで、ECU16は、階段ステップの幅について、装着者Mの立ち位置から左側の幅L1と右側の幅L2を検出することで、幅L0を検出する(ステップ14)。
【0033】
そしてECU16は、撮像カメラ5による撮像画像から、装着者Mの立ち位置の軸足から段差までの距離(次のステップまでの距離)P1を取得する(ステップ15)。
本実施形態では撮像画像からP1を取得するが、膝関節と足首関節に装着した両歩行アシスト部を連結する連結部8に、距離センサを配設し、この距離センサの検出値から距離P1を検出するようにしてもよい。
なお、本実施形態の説明では、段差までの距離P1については、軸足の軸を所定の基準位置として説明するが、上げる側の足のつま先位置(上げる前)を所定の基準位置としてもよい。
【0034】
またECU16は、アーカイブなどから股関節の上がる限界角度θ1を取得する(ステップ16)。
そして、ECU16は、取得した股関節の上がる限界角度θ1から、膝を曲げた状態で足の上がる最大高さh1を取得する(ステップ17)。
【0035】
図6は、股関節の角度と足の高さとの関係を模式的に表したものである。
この図6(a)に示されるように、限界角度θ1で膝を曲げた状態の足の最大高さh1は次のように算出される。
h1=h0−n2=n0−n1cosθ1−n2
ここで、h0は、限界角度θ1における膝の高さである。
【0036】
ECU16は、膝を曲げた状態で足の上がる最大高さh1が段差Hよりも小さいか否かを判断する(ステップ18)。この判断は、膝曲げ上りで階段を上ることができるか否かについての判断である。
最大高さh1が段差H以上であれば(ステップ18;N)、ECU16は、サブルーチンである膝曲げ上り処理を実行する(ステップ19)。
【0037】
一方、最大高さh1が段差Hより低い場合(ステップ18;Y)、膝曲げ上りで階段を上ることはできないので、ECU16は、股関節の上がる限界角度θ1で膝を伸ばしたときの最大高さh2を算出する(ステップ20)。
この最大高さh2は、図6(a)に示されるように、h2=n0(1−cosθ1)により算出される。
【0038】
ついでECU16は、算出した最大高さh2が段差Hよりも小さいか否かを判断する(ステップ21)。この判断は、膝伸ばし上りで階段を上ることができるか否かの判断である。
最大高さh2が段差H以上である場合(ステップ21;N)、ECU16はサブルーチンである膝伸ばし上り処理を実行する(ステップ22)。
一方、最大高さh2が段差Hよりも低い場合(ステップ21;Y)、ECU16は、階段を上ることはできないと判断し(ステップ23)、メインルーチンにリターンする。
この場合ECU16は、階段を上ることができないので、図示しないスピーカから階段を上ることができない高さであることを音声や警告音、警告表示などにより装着者Mに報知する。
【0039】
図7は、膝曲げ上り処理(ステップ19)の処理内容を表したサブルーチンである。
この膝曲げ上り処理において、ECU16は、軸足から膝までの距離m1を算出する(ステップ31)。
この距離m1は、図6(a)に示されるように、m1=n1sinθ1である。
【0040】
ついでECU16は、膝までの距離m1が、ステップ15で取得した階段のステップまでの距離P1より小さいか否かを判断する(ステップ32)。
膝までの距離m1がステップまでの距離P1よりも小さい場合(ステップ32;Y)、普通に膝を上げた状態でステップに足先が当たることがないので、ECU16は、通常の正対による階段上り処理を行い(ステップ33)、メインルーチンにリターンする。
なお、この正対による階段上り処理(ステップ33)では、装着者Mが足を上げる力をアシスト(支援)するだけでなく、膝を曲げた状態での足の高さh1が階段の高さHよりも高くなる位置まで股関節角度を調節するように制御する。
【0041】
一方、膝までの距離m1がステップまでの距離P1以上である場合(ステップ32;N)、正対上りだと足がステップに当たるので、ECU16は、階段を斜め方向に上る斜め上り処理を行う(ステップ34〜ステップ39)。
ECU16は、ステップ14で取得した、装着者Mの立ち位置からのステップ右幅L2とステップ左幅L1との大きさを比較する(ステップ34)。
ステップ左幅L1が、ステップ右幅L2よりも大きい場合(ステップ34;Y)、ECU16は、装着者Mを左へα度旋回させる(ステップ35)。
一方、ステップ右幅L2がステップ左幅L1以上の場合(ステップ34;N)、ECU16は装着者Mを右へα度旋回させる。
【0042】
なお、このα度の左右旋回は、例えば、ECU16が、装着者Mがその場でα度旋回するように足踏みさせるように歩行アクチュエータ17を制御することで実現する。
また、ECU16は、図示しないスピーカから「少し右方向に旋回して下さい」等の音声により案内したり、旋回とその方向を指示する表示と警告音とにより、装着者Mに旋回を促すようにしてもよい。
【0043】
α度だけ旋回した後、ECU16は、軸足からステップまでの距離P1を、撮像カメラ5の撮像画像から新たに算出する(ステップ37)。
そして、ステップ31で算出した膝までの距離m1が、新たに算出したステップまでの距離P1より小さいか否かを判断する(ステップ38)。
膝までの距離m1が新たな距離P1以上である場合(ステップ38;N)、まだ旋回角度が十分でないので、ECU16はステップ34に戻り、更なる左右方向(前回と同じ方向)への旋回(ステップ35、36)と、旋回後の新たな距離P1の算出(ステップ37)、比較(ステップ38)を行う。
【0044】
旋回によって膝までの距離m1が新たな距離P1よりも小さくなると(ステップ38;N)、ECU16は、旋回した角度だけ装着者Mが斜めになった状態において、膝を曲げた状態での通常階段上り処理を実行し(ステップ39)、メインルーチンにリターンする。
【0045】
次に、サブルーチンである膝伸ばし上り処理(ステップ22)について図8を参照しながら説明する。
ECU16は、膝を伸ばした状態で、ステップ12で検出した階段の段差Hよりも高く足を上げるための股関節の必要最小角度θ2を算出する(ステップ51)。
股関節の必要最小角度θ2は、図6(b)に示されるように、次の式から算出される。
h2=n0(1-cosθ2)>H
【0046】
次にECU16は、軸足から足先までの距離(足先距離)m2を算出する(ステップ52)。
この距離m2は、図6(b)に示されるように、m2=n0sinθ2+sである。
なお、sは脛からつま先までの長さであり、図6(b)では省略されている。
【0047】
ECU16は、足までの距離m2がステップ15で取得した階段のステップまでの距離P1よりも小さいか否かを判断する(ステップ53)。
足までの距離m2がステップまでの距離P1よりも小さい場合(ステップ53;Y)、装着者Mが階段方向を向いて膝を伸ばしてもステップに足先が当たることがないので、ECU16は、膝を伸ばしながら、通常の正対による階段上り処理を行い(ステップ54)、メインルーチンにリターンする。
【0048】
一方、足までの距離m2がステップまでの距離P1以上である場合(ステップ53;N)、正対上りを膝を伸ばし上りで行うと足がステップに当たるので、ECU16は、階段を斜め方向に上る斜め上り処理を行う(ステップ55〜ステップ60)。
ECU16は、ステップ14で取得した、装着者Mの立ち位置からのステップ右幅L2とステップ左幅L1との大きさを比較する(ステップ55)。
ステップ左幅L1が、ステップ右幅L2よりも大きい場合(ステップ55;Y)、ECU16は、装着者Mを左へα度旋回させる(ステップ56)。
一方、ステップ右幅L2がステップ左幅L1以上の場合(ステップ55;N)、ECU16は装着者Mを右へα度旋回させる(ステップ57)。
【0049】
α度だけ旋回した後、ECU16は、軸足からステップまでの距離P1を、撮像カメラ5の撮像画像から新たに算出する(ステップ58)。
そして、ステップ52で算出した足までの距離m2が、新たに算出したステップまでの距離P1より小さいか否かを判断する(ステップ59)。
足までの距離m2が新たな距離P1以上である場合(ステップ59;N)、まだ旋回角度が十分でないので、ECU16はステップ55に戻り、更なる左右方向(前回と同じ方向)への旋回(ステップ56、57)と、旋回後の新たな距離P1の算出(ステップ58)、比較(ステップ59)を行う。
【0050】
旋回によって足までの距離m2よりも新たな距離P1が大きくなると(ステップ59;Y)、ECU16は、旋回した角度だけ装着者Mが斜めになった状態において、膝を曲げた状態での通常階段上り処理を実行し(ステップ60)、メインルーチンにリターンする。
【0051】
以上説明した、上り階段アシスト処理では、膝を曲げた状態、伸ばした状態、及び階段に対して正対方向、斜め方向の何れの場合においても(ステップ23以外の場合)、階段を上る際には、装着者Mが足を上げる力をアシスト(支援)するだけでなく、足の高さhが階段の高さHよりも高くなる位置まで股関節角度を調節(股関節の歩行アクチュエータ17を制御)することで確実に階段を上るようにアシストする。
【0052】
以上最適な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく各種変形が可能である。
例えば、膝伸ばし上り処理を行う場合(ステップ54、60)、通常の膝曲げ状態による階段の上りと異なる姿勢となるので、ECU16は、装着者Mに対してその旨の報知を行うようにしてもよい。この場合、各段毎に毎回報知しても良く、また、階段を上り始める最初に1回、又は数階毎に報知するようにしてもよい。
【0053】
また、斜め上りをする場合(ステップ34〜39、ステップ55〜60)、本実施形態では、装着者Mの立ち位置から階段の端までの左右の幅が大きい方に向くように体を旋回させるようにしたが、この場合には、階段の中央付近で1段上る毎に左右の向きを変更することになるので次の何れかの方法で階段を上るようにしてもよい。
第1の方法としては、階段の幅全体を使ってジグザグに上る方法である。この場合、例えば、左端から右方向に階段を斜めに上っていき、進行方向の端にたどり着いた場合に反対方向へ旋回する。進行方向の端にたどり着いたか否かについては、階段1段を上がることで左右に移動する距離L3よりも、現在の立ち位置から階段の端までの距離L4の方が小さい場合に、ECU16は階段の端にたどり着いたと判断する。
【0054】
なお、階段を上り始める場合に左右のどちらの方向を向いて上り始めるかについては、左右方向のステップ幅L1、L2の大きい方向を向き始めるようにしてもよく、その逆向きでもよい。但しステップ幅の小さい方向に向かって上り始める場合には、1歩の移動距離L3よりも、端までの距離L4の方が大きいことを条件とする。
【0055】
第2の方法としては、現在いる状態から左右交互に向きを変えて階段を上る方法である。この場合は、階段全体の幅L0を使用しないので、狭い範囲で階段を上ることができる。
【0056】
説明した実施形態では、階段に対して斜め上り(ステップ39、60)をする場合に、体の幅を考慮していない。従って、体の中央を基準とした値(例えば、軸足からステップまでの距離P1)を検出(取得)し、実際の体の幅による距離の誤差分を考慮した値に補正するようにしている。
これに対して、左右の足のうち、上げる側の足からの距離を測定するようにしてもよい。
【0057】
どちら側の足を上げるかについては、斜めに向いた装着者Mの体で外側の足(階段に向かった右方向斜めの場合には右足、左方向斜めの場合には左足)の方がステップまでの距離P1が長くなるので、常に外側の足を上げるようにしてもよい。
この場合、同一方向を向いたまま階段を上り続けると同じ足を連続して上げる事になるため、一段毎に向きをかえることで、左右の足を交互に上げるように制御してもよい。
逆に、同一方向を向いたまま階段を上り続ける場合(上記変形例の場合を含む)、には、次に上げる足が外側の足か、内側(階段側)の足か否かを判断し、当該上げる側の足について、ステップまでの距離P1を測定するようにしてもよい。
【0058】
説明した実施形態では、最大高さh1が段差H以上である場合には(ステップ18;N)、常に膝曲げ上り処理を実行する(ステップ19)場合について説明した。
しかし、図9に示すように、同じ高さH1まで足を上げる場合、膝を曲げた場合の股関節角度β1よりも、膝を伸ばした場合の股関節β2の方が小さくすることができる。
このため、使用者の好みによっては、常に膝伸ばしによる階段上り処理を行うようにしてもよい。
また、股関節角度に対する閾値β3(<θ1)を設け、この角度β以下で膝を曲げた足の高さが階段の高さH以上になる場合には膝曲げ上りを行い、閾値β3以上では常に膝伸ばしにより階段を上るようにしてもよい。閾値β3は、装着者Mが設定する場合の他、股関節の限界角度θ1に対する所定割合とすることも可能である。また所定割合を装着者Mが設定できるようにしてもよい。
なお、常に膝伸ばしによる階段上り処理をするか場合や、閾値βにより判断する場合については、好みによるため装着者Mが何れかのモードを選択することができるようにしてもよい。
【0059】
実施形態では、股関節の限界角度θ1における、膝曲げによる最大の高さh1と、膝伸ばしによる最大高さh2について毎回算出するようにしたが、限界角度θ1、股関節までの長さn0、股関節から膝までの長さn1、膝から下部分の長さn2は既知なので、これらの値を取得した際に予め算出して記憶手段に記憶しておくようにし、使用する際には記憶手段から読み出すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 装着型ロボット
2 歩行アシスト部
3 3軸センサ
4 光源装置
5 撮像カメラ
6 3軸アクチュエータ
7 腰部装着部
8 連結部
9 撮像ユニット
10 無線通信装置
12 ナビゲーション装置
15 装着ロボットシステム
16 ECU
17 歩行アクチュエータ
18 バッテリ
100 照明

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行支援対象者の少なくとも大腿部と脛部を含む脚部を保持する保持手段と、
前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御手段と、
上り階段を検出する上り階段検出手段と、
を具備し、
前記制御手段は、前記検出した上り階段を上る際に、膝を伸ばした状態となるように、前記大腿部と脛部の移動をアシストする、ことを特徴とする歩行支援装置。
【請求項2】
前記階段の段差Hを取得する段差取得手段と、
階段に対して正面を向いた正対状態で、所定の基準位置から次に上る階段のステップ部分の手前側端部までの前方距離を取得する前方距離取得手段と、
前記大腿部を上げた状態での足の高さが、前記取得した段差Hより高くなる股関節の必要最小角度を算出する必要最小角度算出手段と、
前記股関節の必要最小角度まで前記大腿部を上げた状態での前記基準位置から足先までの足先距離を算出する距離算出手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記算出した足先距離が前記前方距離より小さい場合、階段に対して斜め方向に上るように前記脚部の移動をアシストする、
ことを特徴とする請求項1に記載の歩行支援装置。
【請求項3】
前記必要最小角度算出手段は、膝を伸ばして前記大腿部を上げた状態での足の高さが、前記段差Hより高くなる股関節の必要最小角度θ2を算出し、
前記距離算出手段は、前記股関節の必要最小角度θ2まで前記大腿部を上げ、膝を伸ばした状態での前記基準位置から足先までの足先距離m2を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の歩行支援装置。
【請求項4】
前記歩行支援対象者における股関節の限界角度θ1まで前記大腿部を上げ、膝を曲げて前記脛部を鉛直にした状態での足の最大高さh1を取得する膝曲げ足高さ取得手段と、
前記制御手段は、前記取得した足の最大高さh1が段差H以下の場合、前記検出した上り階段を上る際に、膝を伸ばした状態となるように、前記大腿部と脛部の移動をアシストする、
ことを特徴とする請求項2、又は請求項3に記載の歩行支援装置。
【請求項5】
歩行支援対象者の少なくとも大腿部と脛部を含む脚部を保持する保持手段と、前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段とを備えた歩行支援装置が有するコンピュータで用いられる歩行支援プログラムであって、
前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御機能と、
上り階段を検出する上り階段検出機能と、を前記コンピュータに実現させ、
前記制御機能は、前記検出した上り階段を上る際に、膝を伸ばした状態となるように、前記大腿部と脛部の移動をアシストする、
ことを特徴とする歩行支援プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−200319(P2012−200319A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65523(P2011−65523)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】