説明

水和硬化体

【課題】 中性化が進みやすい環境下においても、鉄筋の腐食を抑制し、長期間の耐久性を有する構造部材として利用することのできる水和硬化体を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決するための水和硬化体は、鉄筋を内部に有する水和硬化体であって、該水和硬化体は、製鋼スラグ及び高炉スラグ微粉末と、更に、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及び消石灰の群から選択された1種または2種以上とを、下記の(1)式を満足する範囲で水と混合し、得られた混合物を硬化したものである。但し、(1)式において、Pは、混合物中におけるポルトランドセメントの含有量(kg/m3 )、Bは、混合物中における高炉セメントの含有量(kg/m3 )、Fは、混合物中におけるフライアッシュセメントの含有量(kg/m3 )、CHは、混合物中における消石灰の含有量(kg/m3 )である。
P+0.6×B+0.85×F+CH≧55 …(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋を内部に有する水和硬化体に関し、詳しくは、乾湿が繰り返される環境のように中性化が進みやすい環境下においても、内部の鉄筋の腐食を抑制し、長期間の耐久性を有する構造部材として利用することのできる、耐中性化に優れた水和硬化体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートは、コンクリート中のアルカリ成分によって鉄筋の表面に不動態皮膜が形成され、これによって鉄筋の腐食が防止され、長期にわたって強度と耐久性を発揮する構造部材である。従って、コンクリートが中性化すると、不動態皮膜が破壊されて鉄筋が腐食し、構造物部材として機能しなくなる。
【0003】
近年、コンクリート骨材の入手事情が悪化し、例えば、アルカリ骨材反応を生じる可能性のある安山岩などをコンクリート骨材として使用せざるを得ない場合がある。アルカリ骨材反応によってコンクリートにひび割れが生じた場合には、コンクリートの中性化が急速に進行し、鉄筋が腐食するなどの問題が発生する。また良質な骨材を使用したコンクリートの場合であっても、これを乾湿が繰り返されるなどの中性化が進みやすい環境下で使用した際には、コンクリートの中性化よって鉄筋表面の不動態皮膜が破壊されて鉄筋が腐食し、発生した錆に起因する体積膨張によってコンクリートが剥落するという問題が発生する。当然のことながら、鉄筋と外界との間に存在するコンクリートの厚み(「かぶり厚」という)を増大させることにより、鉄筋の表面までが中性化するまでの時間を遅延させることはできるが、コンクリートのかぶり厚の増大によって構造物が大型化するため、コストが増大するという問題が発生する。
【0004】
上記のようなコンクリートの中性化による鉄筋の腐食を防止する手段として、以下のような技術が提案されている。例えば、特許文献1には、コンクリート構造物の表面に炭酸ガスや水蒸気の透過率の低い有機高分子組成物の被膜を形成し、中性化の原因となる炭酸ガスや水蒸気をコンクリート構造物の内部に侵入させないようにする方法が提案されている。また、特許文献2には、低セメント比で混練・締固めを行い、コンクリートを緻密化して、中性化の原因となる炭酸ガスや水蒸気のコンクリートへの侵入を防止する方法が提案されている。また更に、特許文献3には、中性化したコンクリートの表面部に外部電極を設置し、コンクリート内部の鉄筋を内部電極とし、電流を印加するコンクリート部分を昇温しつつ、外部電極間または外部電極−内部電極間に電流を印加し、中性化したコンクリートのアルカリ度を回復させる方法が提案されている。
【0005】
しかし、これらの方法には、以下の問題点がある。即ち、特許文献1に開示された、コンクリート構造物の表面に炭酸ガスや水蒸気の侵入を遮断する被膜を形成する方法は、日光の照射などにより被膜が変質し、被膜に亀裂が生じたり皮膜が剥離したりして、長期間にわたって中性化を防止できないという問題点がある。特許文献2に開示された、水セメント比を小さくする方法は、アルカリ骨材反応を生じることがない良質な骨材を用いた場合には有効であるが、アルカリ骨材反応を生じる骨材を用いた場合には効果がなく、また、水セメント比を小さくすると高コストとなるばかりでなく、コンクリートの自己収縮が大きくなるという弊害も生じる。特許文献3に開示された、電流を印加する方法は、大掛かりの装置が必要であり、このような装置を長期間にわたって運転・維持することは非常にコスト高である。
【0006】
ところで近年、製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを主原料とし、コンクリートの代替可能な水和硬化体が特許文献4及び非特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開昭61−236669号公報
【特許文献2】特開平2−208252号公報
【特許文献3】特開平7−291767号公報
【特許文献4】特開2001−49310号公報
【非特許文献1】鉄鋼スラグ水和固化体技術マニュアル、沿岸開発技術研究センター、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、鉄筋コンクリートの中性化を抑制する手段を種々検討した。その結果、中性化を抑制して鉄筋の腐食を防止するには、コンクリートの代替として、製鋼スラグ及び高炉スラグ微粉末を主原料とする水和硬化体を利用することが極めて効果的であるとの知見を得た。これは、製鋼スラグはスラグ組成のCaO/SiO2 (塩基度)が高く、長期間にわたって鉄筋の周囲が高アルカリに維持されるからである。また、この水和硬化体はコンクリートと同等の機械的強度を発現し、コンクリートの代替として問題がないからである。
【0008】
この観点から、特許文献4及び非特許文献1に開示された水和硬化体を検証した。しかしながら、特許文献4に開示される水和硬化体は用途が不明瞭であり、また、非特許文献1に開示される水和硬化体は、対象として鉄筋を含有しない無筋コンクリート代替を限定しており、耐中性化の性能自体が不明であった。
【0009】
そこで本発明者等は、これら水和硬化体の耐中性化性能を調査・測定した。その結果、これらの水和硬化体では、耐中性化性能のばらつきが極めて大きく、安定して使用することは困難であることが分かった。即ち、製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを主たる原料とした従来の水和硬化体では、中性化を抑止して鉄筋の腐食を防止することは困難であることが分かった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、乾湿が繰り返される環境のようにコンクリートなどの中性化が進みやすい環境下においても、内部の鉄筋の腐食を抑制し、長期間の耐久性を有する構造部材として利用することのできる、耐中性化に優れた水和硬化体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための第1の発明に係る水和硬化体は、鉄筋を内部に有する水和硬化体であって、該水和硬化体は、製鋼スラグ及び高炉スラグ微粉末と、更に、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及び消石灰の群から選択された1種または2種以上とを、下記の(1)式を満足する範囲で水と混合し、得られた混合物を硬化したものであることを特徴とするものである。但し、(1)式において、Pは、混合物中におけるポルトランドセメントの含有量(kg/m3 )、Bは、混合物中における高炉セメントの含有量(kg/m3 )、Fは、混合物中におけるフライアッシュセメントの含有量(kg/m3 )、CHは、混合物中における消石灰の含有量(kg/m3 )である。
【0012】
【数1】

【0013】
第2の発明に係る水和硬化体は、第1の発明において、前記混合物中における高炉スラグ微粉末の含有量が100〜600kg/m3 であることを特徴とするものである。
【0014】
第3の発明に係る水和硬化体は、第1または第2の発明において、前記混合物が更にフライアッシュを含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
上記構成の本発明に係る水和硬化体によれば、配合原料の製鋼スラグが中性化抑止材として作用するとともに、潜在水硬性を有する高炉スラグ微粉末の配合によって従来のコンクリートよりも緻密な組織を有する硬化物が形成されて、中性化の原因となる炭酸ガスや水蒸気の浸透・透過が抑制され、且つ、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、消石灰の1種または2種以上の所定量の配合により、水和硬化体の内部が長期間にわたりアルカリ性に保たれるので、水和硬化体の内部に配置される鉄筋の腐食を長期間にわたって防止することができる。即ち、本発明によれば、従来の鉄筋コンクリートでは中性化による鉄筋の腐食によって短期間で崩壊するような環境下においても長期間の使用が可能な構造物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者等は、水和硬化体の配合原料を最適化することにより、従来のコンクリートや製鋼スラグと高炉スラグ微粉末などとを原料とした従来の水和硬化体よりも耐中性化に優れた水和硬化体が得られ、これを鉄筋と組み合わせることで、乾湿が繰り返されるなどの中性化が進みやすい環境下においても、長期間の耐久性を有する構造物部材として使用できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
先ず、本発明に係る水和硬化体の配合原料について説明する。本発明に係る水和硬化体では、その配合原料として、製鋼スラグ及び高炉スラグ微粉末、更に、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及び消石灰の群から選択された1種または2種以上を使用する。また、これらに加えて更にフライアッシュを使用することが好ましい。当然ながら、水和硬化体の内部に配置される鉄筋も本発明に係る水和硬化体を構成する原料の1つであり、混錬用の水や混和剤なども配合原料である。本発明に係る水和硬化体は、これら配合原料を混合して混合物を形成し、この混合物を硬化させたものである。
【0018】
1.製鋼スラグ
本発明に係る水和硬化体の配合原料のうち、製鋼スラグは、骨材及び結合材、更には水和硬化体の中性化抑止材として作用する。骨材として作用させるための製鋼スラグの粒度分布は、コンクリート用の細骨材や粗骨材に相当するような粒度とし、粒径が0.075mm以上程度、また最大粒径が40mm以下程度とすることが好ましい。また、結合材として作用させるための製鋼スラグは微粉であることが好ましく、粒径が0.15mm未満程度であることが好ましい。従って、結合材としての粒径と骨材としての粒径とをそれぞれ満足するスラグ粒子が含まれている適当な粒度分布を有する製鋼スラグ(例えば、或る条件で粉砕処理した製鋼スラグや粉砕処理後に篩分した製鋼スラグ)を使用することが望ましい。
【0019】
中性化抑止材として作用させるための製鋼スラグは、スラグ組成のCaO/SiO2 が質量比で1.5以上またはスラグ中のCaO濃度が25質量%以上であることが好ましい。CaO/SiO2 が質量比で1.5以上またはCaO濃度が25質量%以上の製鋼スラグは、製鋼スラグ中のCaO成分が長期間にわたり水和硬化体中に含まれる水に溶解し、水和硬化体を弱アルカリ性に保ち、中性化を抑止する。従って、より好ましい製鋼スラグは、CaO/SiO2 が質量比で2.0以上またはCaO濃度が30質量%以上である。一般にCaO/SiO2 或いはCaO濃度が高くなると製鋼スラグ中の遊離CaO(free−CaO)による水和膨張性が大きくなるが、水和硬化体の膨張安定性が確保されれば問題がないことから、これらの上限値は特に規定しない。
【0020】
また、製鋼スラグは通常の砂利などの骨材と異なりアルカリ骨材反応を起こさないので、水和硬化体そのものの耐久性が優れるだけでなく、アルカリ骨材反応に起因するひび割れの発生も抑制できるので、ひび割れを介した中性化が起こらず、水和硬化体中の鉄筋の防食の観点からも好ましい。製鋼スラグの配合量は、水和硬化体を構成する配合原料の混合された混合物中で、500kg/m3 以上とすることが好ましい。
【0021】
2.高炉スラグ微粉末
本発明に係る水和硬化体の配合原料として高炉スラグ微粉末を用いるのは、潜在水硬性を有する高炉スラグ微粉末が、製鋼スラグによりアルカリ刺激を受け効率的に水和反応するためだけではなく、従来のコンクリートよりも硬化物が緻密な組織を有することから、水和硬化体の中性化の原因となる炭酸ガス及び水蒸気の浸透・透過を著しく抑制できるからである。また、高炉スラグ微粉末と製鋼スラグ中の遊離CaOとが反応し、製鋼スラグの水和膨張を抑制するからである。高炉スラグ微粉末としてはJIS A 6206:1997「コンクリート用高炉スラグ微粉末」を特に好ましく用いることができる。
【0022】
高炉スラグ微粉末の配合量は、水和硬化体を構成する配合原料が混合された混合物中に100〜600kg/m3 とすることが好ましい。100kg/m3 未満ではコンクリート代替として必要な18N/mm2 以上の圧縮強度が得られない場合があり、一方、600kg/m3 を超えると強度の増加はほとんど無く、不経済となるためである。高炉スラグ微粉末のより好ましい配合量は、200〜400kg/m3 である。
【0023】
3.ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、消石灰
本発明に係る水和硬化体は、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及び消石灰の群から選択された1種または2種以上を、下記の(1)式を満足する範囲で含有する。但し、(1)式において、Pは、水和硬化体を構成する配合原料が混合された混合物中におけるポルトランドセメントの含有量(kg/m3 )、Bは、前記混合物中における高炉セメントの含有量(kg/m3 )、Fは、前記混合物中におけるフライアッシュセメントの含有量(kg/m3 )、CHは、前記混合物中における消石灰の含有量(kg/m3 )である。
【0024】
【数2】

【0025】
これらのセメント原料及び消石灰は、アルカリ強度は異なるが何れもアルカリ性であるので、これらのセメント原料を(1)式を満足させて配合することにより、CaO/SiO2 が質量比で1.5未満またはCaO濃度が25質量%未満の製鋼スラグを用いた水和硬化体の場合でも、内部を長期間にわたりアルカリ性に保つことができる。つまり、水和硬化体の中性化を防止することができる。水和硬化体の内部を長期間にわたりアルカリ性に保つ観点からは、(1)式の左辺の和を70以上とすることが好ましい。(1)式の左辺の和の上限値は特に設定しないが、150を超えても耐中性化効果は飽和してそれ以上の向上はほとんど無い。(1)式の各原料の係数は、各原料のアルカリ強度に基づくものである。
【0026】
尚、本発明におけるポルトランドセメントとは、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に記載されている普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントのことである。また、高炉セメントとは、JIS R 5211:2003「高炉セメント」に記載されているA種、B種、C種のことである。また、フライアッシュセメントとは、JIS R 5213:1997「フライアッシュセメント」に記載されているA種、B種、C種のことである。
【0027】
4.フライアッシュ
本発明に係る水和硬化体は、更にフライアッシュを含有することが好ましい。水和硬化体の原料としてフライアッシュを用いるのは、製鋼スラグ中のCa成分とフライアッシュとが効率的に反応することにより、フライアッシュのポゾラン反応が進み、緻密な硬化体が形成され、水和硬化体の中性化の原因となる炭酸ガスや水蒸気の浸透・透過を抑制できるからである。また、フライアッシュと製鋼スラグ中の遊離CaOとが反応し、製鋼スラグの水和膨張を抑制するためでもある。更に、フライアッシュの適量の配合でワーカビリティを向上させる効果もある。フライアッシュとしてはJIS A 6201:1999「コンクリート用フライアッシュ」を用いることが好ましいが、原粉及び加圧流動床灰の使用なども可能である。
【0028】
フライアッシュの配合量は、特に限定しないが、水和硬化体を構成する配合原料が混合された混合物中において50〜300kg/m3 であることが好ましい。50kg/m3 未満では製鋼スラグの水和膨張を抑制する効果が低く、一方、300kg/m3 を超えると水を加えて練り混ぜた後のフレッシュな状態の粘性が高くなり、ワーカビリティが悪化するためであり、また製鋼スラグの水和膨張を抑制する効果も変わらず不経済であるためである。
【0029】
5.鉄筋
本発明に係る水和硬化体は内部に鉄筋を有することにより、構造物部材として必要な耐力を確保することができる。鉄筋としては、JIS G 3112:2004「鉄筋コンクリート用棒鋼」またはJIS G 3117:1987「鉄筋コンクリート用再生棒鋼」を用いることが好ましい。
【0030】
鉄筋の水和硬化体に占める割合は、鉄筋の長手方向に垂直な断面において、水和硬化体部分の断面積に対する鉄筋の断面積が0.2〜10%の面積率となるように配筋することが好ましい。鉄筋の断面積が0.2%未満の場合には、鉄筋配合による構造物部材の耐力の増強効果が得られにくく、また鉄筋の断面積が10%を超えると原料コストに見合った効果を得にくく、更に作業効率が低下する傾向となるからである。
【0031】
これらの原料を用いて本発明に係る水和硬化体を製造する。つまり、上記の原料を配合し、更に水を加えて混合物とし、この混合物を混練して、所定の型枠などに打ち込んで養生して製造する。打ち込みの際に鉄筋を配筋して硬化させ、鉄筋を有する水和硬化体とする。
【0032】
水和硬化体の養生方法は、所定の強度が確保できれば、水中養生、現場養生、蒸気養生などの通常用いられる何れの方法をも用いることができる。また、鉄筋の表面から水和硬化体外面までの厚さであるかぶり厚は20mm以上とすることが好ましい。かぶり厚が20mm未満の場合には、中性化の原因となる炭酸ガスや水蒸気の外部からの浸透・透過を十分に遮断できない場合があるからである。
【0033】
以上説明したように、本発明に係る水和硬化体によれば、配合原料の製鋼スラグが中性化抑止材として作用するとともに、潜在水硬性を有する高炉スラグ微粉末の配合によって従来のコンクリートよりも緻密な組織を有する硬化物が形成されて、中性化の原因となる炭酸ガスや水蒸気の浸透・透過が抑制され、且つ、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、消石灰の1種または2種以上の所定量の配合により、水和硬化体の内部が長期間にわたりアルカリ性に保たれるので、水和硬化体の内部に配置される鉄筋の腐食を長期間にわたって防止することができる。
【実施例1】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。
【0035】
製鋼スラグは表1に示す化学成分、物性値(最大寸法、粗粒率、細骨材率、表乾密度)のものを用いた。粗粒率とは、JIS A 0203:1999「コンクリート用語」に規定される番号3115の粗粒率のことである。細骨材率とは、製鋼スラグ全容量に対する粒径5mm以下の製鋼スラグ量の絶対容積を百分率で表した値である。
【0036】
【表1】

【0037】
高炉スラグ微粉末はJIS A 6206:1997「コンクリート用高炉スラグ微粉末」における高炉スラグ微粉末4000を、フライアッシュはJIS A 6201:1999「コンクリート用フライアッシュ」におけるII種を使用した。ポルトランドセメントは、JIS R 5201:2003「ポルトランドセメント」に適合する普通ポルトランドセメントを用いた。高炉セメントは、JIS R 5211:2003「高炉セメント」に適合するB種を用いた。フライアッシュセメントは、JIS R 5213:1997「フライアッシュセメント」に適合するB種を用いた。消石灰は、JIS R 9001:1993に適合する工業用消石灰・特号を使用した。混和剤は、JIS A 6204:2000に適合するポリカルボン酸系の高性能AE減水剤を使用した。
【0038】
これらの水和硬化体の原料を、表2に示す配合でミキサに装入し、この混合物をミキサにより練り混ぜ、直径100mm、高さ200mmの型枠に流し込み、養生して配合No.1〜12の圧縮強度測定用のテストピースを製作した。圧縮強度の測定は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて行った。養生条件は標準養生28日とした。また、同時に縦100mm、横100mm、高さ400mmの中性化促進試験用のテストピースを製作した。養生条件は標準養生28日とした。中性化促進試験は、JIS A 1153:2003「コンクリートの促進中性化試験方法」に準拠し、テストピースをCO2 濃度5容量%、温度20℃、相対湿度60%の条件で26週間暴露後、60mmピッチで切断したものについて、中性化深さを測定し、その平均値で評価した。中性化深さの測定は、フェノールフタレイン1質量%水溶液噴霧法によって、無変色部を中性化部とした。圧縮強度の測定結果及び中性化促進試験の結果を表2に併せて示す。尚、表2の備考欄には、本発明の範囲を満足する配合割合の水和硬化体は「発明例」と表示し、それ以外の水和硬化体は「比較例」と表示している。
【0039】
【表2】

【0040】
また、比較のための従来例としてコンクリートの原料を表3に示す配合でミキサにより練り混ぜ、直径100mm、高さ200mmの型枠、及び、縦100mm、横100mm、高さ400mmの型枠に流し込み、養生して、圧縮強度測定用テストピース及び中性化促進試験用テストピースを製作した(配合No.13)。養生条件は圧縮強度測定用テストピース及び中性化促進試験用テストピースともに、標準養生28日とした。圧縮強度試験及び中性化促進試験は上記と同一方法で行なった。尚、コンクリート用原料の骨材はJIS A 1145:2001「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法)」による試験で「無害」と判定された良質なものを用いた。圧縮強度の測定結果及び中性化促進試験の結果を表3に併せて示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表2及び表3からも明らかなように、製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを含有し、且つ、前述した(1)式を満足する範囲でポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及び消石灰の群から選択された1種または2種以上を含有した混合物を硬化させた水和硬化体(配合No.1〜8)は、良質な骨材を用いた水結合材比50%の普通コンクリート(配合No.13)よりも中性化深さが小さく、優れた耐中性化を示した。一方、本発明に該当しない水和硬化体(配合No.9〜12)は、良質な骨材を用いた水結合材比50%の普通コンクリート(配合No.13)よりも耐中性化が劣った。
【0043】
また、表2及び表3の配合による水和硬化体の原料混合物に、鉄筋を、鉄筋の長手方向に垂直な断面において、水和硬化体の断面積に対する鉄筋の断面積が2%となるような条件でかぶり厚を30mmとして配し、縦100mm、横100mm、高さ400mmの型枠に打ち込んだ。鉄筋は、JIS G 3112:2004「鉄筋コンクリート用棒鋼」に適合する丸棒 SR235 D13を用いた。脱枠後20℃の水中で材齢28日まで養生を行い、かぶり厚を制御した面を残し、他の面を全てエポキシ樹脂で被覆して供試材とした。
【0044】
この供試材に対して、60℃、50%の相対湿度、4日間の乾燥条件と、60℃、3質量%NaCl水溶液に3日間浸漬の湿潤条件とを1サイクルとする乾湿繰り返し試験を行った。この乾湿繰り返し試験を30サイクル実施した後に、水和硬化体を破壊して鉄筋を取り出し、鉄筋を10質量%の二水素クエン酸アンモニウム水溶液で徐錆し、腐食面積率とマイクロメーターでの計測による最大腐食深さとを測定した。測定結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4に示すように、配合No.1〜8の本発明に係る水和硬化体中の鉄筋では腐食は認められなかった。これに対して、配合No.13の普通コンクリート中の鉄筋では、腐食面積率が22%、最大侵食深さが350μmであった。一方、本発明に該当しない配合No.9〜12の水和硬化体中の鉄筋は、水和硬化体の中性化により腐食が認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を内部に有する水和硬化体であって、該水和硬化体は、製鋼スラグ及び高炉スラグ微粉末と、更に、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及び消石灰の群から選択された1種または2種以上とを、下記の(1)式を満足する範囲で水と混合し、得られた混合物を硬化したものであることを特徴とする水和硬化体。
P+0.6×B+0.85×F+CH≧55 …(1)
但し、(1)式において各記号は以下を表すものである。
P:混合物中におけるポルトランドセメントの含有量(kg/m3
B:混合物中における高炉セメントの含有量(kg/m3
F:混合物中におけるフライアッシュセメントの含有量(kg/m3
CH:混合物中における消石灰の含有量(kg/m3
【請求項2】
前記混合物中における高炉スラグ微粉末の含有量が100〜600kg/m3 であることを特徴とする、請求項1に記載の水和硬化体。
【請求項3】
前記混合物が更にフライアッシュを含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水和硬化体。


【公開番号】特開2007−210848(P2007−210848A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33647(P2006−33647)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】