説明

水硬性組成物

【課題】 屋外環境下で施工でき、屋外での長期供用においても優れた耐久性・耐候性を保持し続ける水硬性組成物を提供することを目的とした。
さらに、速硬性・速乾性に優れるとともに、屋外環境下で施工でき、屋外での長期供用においても優れた耐久性・耐候性を保持し続ける水硬性組成物を提供することを目的とした。
【解決手段】 本発明は、水硬性成分と、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子とを含むことを特徴とする水硬性組成物と、該水硬性組成物を用いて得られるコンクリート構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外のコンクリート面に施工する水硬性組成物と、水硬性組成物を施工して得られるコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
耐透水性、耐凍結融解性ならびに耐薬品性などの耐久性と、基材付着性とに優れるセメント系塗装剤に関し、特許文献1にはセメント、微粒子無機粉末、分散剤及び乳化重合体を用い、さらに必要に応じて細骨材および水を含んで成る、水硬性のセメント系被覆組成物が開示されている。
【0003】
また、建物の床面や屋上面及びテニスコート、バレーコート等の運動場の床面に流して固化させて平坦な表層を形成する弾性表層材として、特許文献2には、セメント系のセルフレベリング性床面モルタル仕上げ材にカチオン系合成樹脂エマルジョンを添加してなる弾性表層仕上げ材が開示されている。
【0004】
耐凍害性に優れたコンクリート組成物の提供を目的として、特許文献3には水溶性セルロースエーテル、中空微小球及び消泡剤を含む水中不分離性コンクリート組成物が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−65427号公報
【特許文献2】特開昭62−187187号公報
【特許文献3】特開平7−206505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、屋外環境下で施工でき、屋外での長期供用においても優れた耐久性・耐候性を保持し続ける水硬性組成物を提供することを目的とした。
さらに、本発明は、速硬性・速乾性に優れるとともに、屋外環境下で施工でき、屋外での長期供用においても優れた耐久性・耐候性を保持し続ける水硬性組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究開発に取組んだ結果、水硬性成分と、樹脂粉末と特定の中空粒子とを含む水硬性組成物を用いることによって、屋外環境下で施工でき、屋外での長期供用においても優れた耐久性・耐候性を有するコンクリート構造体が得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、樹脂粉末と特定の中空粒子とを含む水硬性組成物を用いることによって、屋外環境下で施工できるとともに、優れた施工効率を達成でき、屋外での長期供用においても優れた耐久性・耐候性を有するコンクリート構造体が得られることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の第1は、水硬性成分と、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子とを含むことを特徴とする水硬性組成物である。
本発明の第2は、
前記本発明の水硬性組成物を用いて得られるコンクリート構造体である。
【0009】
本発明の水硬性組成物について好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合せることができる。
(1)ポリマー中空粒子は、ポリマー中空粒子表面が炭酸カルシウム微粉末で被覆されたポリマー中空粒子であること。
(2)ポリマー中空粒子は、平均粒子径が5〜300μmであること。
(3)樹脂粉末は、該樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合体の再乳化形樹脂粉末であること。
(4)アクリル共重合体は、アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体であること。
(5)樹脂粉末は、該樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであること。
(6)樹脂粉末は、該樹脂粉末100質量%中に、該樹脂粉末の1次粒子の粒径が0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含むこと。
(7)樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、1〜50質量部の割合で配合されること。
(8)水硬性成分は、ポルトランドセメントを含むこと。
(9)水硬性成分は、アルミナセメントを含むこと。
(10)水硬性成分は、ポルトランドセメント及びアルミナセメントを含むこと。
(11)水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏を含むこと。
(12)水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉末及び細骨材を含み、さらに凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも2種以上含むこと。
(13)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリー又は水硬性モルタルは、屋外のモルタル面又はコンクリート面に施工されること。
(14)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度は、スラリー又はモルタルを施工して6時間後に50以上であること。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子表面が炭酸カルシウム微粉末で被覆されたポリマー中空粒子とを含むものであり、本発明の水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体は、屋外環境で供用された場合でも卓越した耐久性・耐候性を有している。
さらに、本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用い、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子表面が炭酸カルシウム微粉末で被覆されたポリマー中空粒子と組合せて用いることで、本発明の水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリー又は水硬性モルタルは、屋外環境で供用された場合でも卓越した耐久性・耐候性を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子とを含む水硬性組成物である。
【0012】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分としてアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことが好ましい。
さらに、本発明の水硬性組成物は、水硬性成分としてアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏を含むことが、速やかな硬化特性と低収縮性を安定して得られることから特に好ましい。
【0013】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0014】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0015】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0016】
本発明では、水硬性成分としてアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことが好ましい。
さらに、本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが特に好ましい。
水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる場合には、水硬性成分の成分構成は、好ましくはアルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント5〜70質量部及び石膏5〜45質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント25〜70質量部、ポルトランドセメント10〜60質量部及び石膏10〜40質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、より好ましくはアルミナセメント30〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント30〜40質量部及び石膏20〜30質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られやすく、高耐久な硬化体を得る上で好ましい。
【0017】
本発明の水硬性組成物では、屋外環境下で水硬性組成物を用いた水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体が長期供用された場合にも、高い耐久性・耐候性を得るために、ポリマー中空粒子を選択して使用する。
ポリマー中空粒子を使用した場合の効果としては、凍結融解の過程で発生する水硬性組成物を用いた硬化体内部の微小領域の応力を、弾性に富むポリマー中空粒子が部分変形して吸収し、硬化体自体の構造的破壊を回避する効果を挙げることができる。
本発明の水硬性組成物は、ポリマー中空粒子として、ポリマー中空粒子表面が無機質微粉末で被覆されたものを好適に使用できる。中空粒子表面が無機質微粉末によって被覆されていることにより、水硬性成分や樹脂粉末などとプレミックス化する場合のハンドリング(取扱い性)が大幅に向上すると共に、ポリマー中空粒子を含む水硬性組成物と水とを混練してスラリーやモルタルを調製する場合に優れた分散性を安定して得ることができる。
ポリマー中空粒子表面を被覆する無機質微粉末は、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの無機質微粉末から適宜選択して用いることができる。中空粒子表面が無機質微粉末によって被覆されていることにより、ポリマー中空粒子を水硬性成分や樹脂粉末などとプレミックス化する場合のハンドリング(取扱い性)が大幅に向上すると共に、ポリマー中空粒子を含む水硬性組成物と水とを混練してスラリーやモルタルを調製する場合に優れた分散性を安定して得ることができる。
特に、炭酸カルシウム微粉末自体が化学的に安定性が高いため、炭酸カルシウム微粉末で被覆されたポリマー中空粒子は、耐候性や非凝集性(分散性)に優れることから好適に用いることができる。
【0018】
ポリマー中空粒子表面を被覆している無機質微粉末については、特に製法や結晶形態など限定されるものではなく市販のものを適宜選択して用いることができる。
ポリマー中空粒子表面を被覆している無機質微粉末の粒子径は、ポリマー中空粒子の粒子径に対応して適宜選択することができ、好ましくは0.1〜20μmの範囲、さらに好ましくは0.5〜10μmの範囲、特に好ましくは1〜5μmの範囲の粒子径を有するものを好適に使用することができる。
無機質微粉末によるポリマー中空粒子表面の被覆率は、好ましくはポリマー中空粒子表面の50%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上の表面を被覆していることが、上記のような良好なハンドリング性と優れた分散性とを安定して発揮する上で好ましい。
【0019】
ポリマー中空粒子について、その製造方法は特に限定されるものではなく、液相重合や気相重合などの方法を適宜選択してポリマー中空粒子を製造することができる。
ポリマー中空粒子のポリマーの種類は、特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ナイロン、エチレン酢酸ビニル系及びアクリル系樹脂など熱可塑性ポリマーやこれらを変性したものを使用することができ、特にポリアクリロニトリル樹脂を主成分とするポリマー中空粒子は、良好な耐圧性を有することから好適に用いることができる。
ポリマー中空粒子の粒子径は、ポリマー中空粒子を含む水硬性スラリーまたは水硬性モルタルの硬化体が凍結融解を繰り返す過程で発生する硬化体内部の応力を効果的に吸収するために、好ましくは1〜500μmの範囲、さらに好ましくは3〜300μmの範囲、より好ましくは5〜200μmの範囲、特に好ましくは10〜150μmの範囲の粒子径を有するものを好適に使用できる。
ポリマー中空粒子の平均粒子径は、ポリマー中空粒子を含む水硬性スラリーまたは水硬性モルタルの硬化体が凍結融解を繰り返す過程で発生する硬化体内部の応力を効果的に吸収するために、好ましくは5〜300μmの範囲、さらに好ましくは10〜200μmの範囲、より好ましくは50〜150μmの範囲、特に好ましくは80〜120μmの範囲の粒子径を有するものを好適に使用できる。
ポリマー中空粒子の外層を形成する膜厚は、ポリマー中空粒子を含む水硬性スラリーまたは水硬性モルタルの硬化体が凍結融解を繰り返す過程で発生する硬化体内部の応力を効果的に吸収するために、好ましくは0.01〜5μmの範囲、さらに好ましくは0.05〜3μmの範囲、特に好ましくは0.1〜2μmの範囲の膜厚を有するものを好適に使用できる。ポリマー中空粒子の外層を形成する膜厚が上記範囲であれば、ポリマー中空粒子にかかる外部圧力を適度に吸収できることから好ましい。
ポリマー中空粒子の耐圧性は、好ましくは50kg/cm以上、さらに好ましくは100kg/cm以上、特に好ましくは200kg/cm以上のものを用いることで、ポリマー中空粒子を含む水硬性組成物を用いた硬化体に、優れた凍結融解抵抗性を付与することができる。なお、ポリマー中空粒子の耐圧性とは、ポリマー中空粒子を水中に分散させた容器にエアレスポンプを用いて加圧後、開放して真比重を測定し、その回復率が90%以上を示す圧力とする。
本発明で使用するポリマー中空粒子は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.3〜12質量部、さらに好ましくは0.5〜10質量部、特に好ましくは1〜8質量部の範囲で配合することによって、良好な作業性と高耐久な硬化体特性を併せて得ることができる。ポリマー中空粒子の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、水硬性組成物に水を加えて得られる水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。また、配合割合が前記範囲より小さい場合には、水硬性スラリー硬化体又は水硬性モルタル硬化体の耐久性・耐候性の向上効果が十分に得られないことがあるため好ましくない。



【0020】
本発明の水硬性組成物では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましく、このため樹脂成分については、粉末状の再乳化形樹脂粉末を使用する。
樹脂粉末は、乾燥によって発生する収縮応力がひび割れ発生に繋がる過程で、ひび割れの発生に対する抵抗性を向上させる効果及び硬化体組織を緻密化する効果がある。
樹脂粉末としては、樹脂の粉末化方法などの製法については特にその種類は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に粉末樹脂の表面に付着しているものを用いることができる。
樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の樹脂粉末を用いることが好ましい。
樹脂粉末としては、アクリル共重合系、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のものを使用することができ、特に、屋外環境下で水硬性組成物を用いた水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体が長期供用された場合にも、高い耐久性・耐候性が得られることからアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を好適に使用できる。
アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を使用した場合の効果としては、前記の通り高い耐久性・耐候性が得られるほかに、水硬性スラリー又は水硬性モルタルを施工した場合の硬化体表面の乾燥に伴う皺や気泡跡の発生、又は、材料分離によるブリージング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果、さらには、硬化体の弾性を高めてひび割れの発生を防止する効果が挙げられる。
【0021】
本発明で好適に用いることができるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の製造方法については、特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを好適に用いることができる。
樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の樹脂粉末を用いる。
本発明では、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末として、保護コロイド系アクリルエマルジョンから製造されたアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができ、特に、保護コロイド系アクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができる。
本発明で特に好適に用いられるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、保護コロイド系アクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化型樹脂粉末であり、カチオンタイプのアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化型樹脂粉末もそのひとつとして好適に用いることができる。
本発明で特に好適に用いられるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは−10℃〜20℃の範囲、さらに好ましくは−5℃〜15℃の範囲、より好ましくは0℃〜12℃の範囲、特に好ましくは6℃〜10℃の範囲のものを好適に使用することができる。
【0022】
アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の1次粒子(エマルジョンの粒子)の平均粒径は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、さらに好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、より好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
【0023】
本発明では、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末100質量%中に再乳化型樹脂粉末の1次粒子の粒径が、好ましくは0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含み、さらに好ましくは、0.15〜0.9μmの粒子を95質量%以上含み、より好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含み、特に好ましくは0.3〜0.7μmの粒子を75質量%以上含むものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
前記範囲の粒径の1次粒子を前記の範囲で含む場合、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性スラリー又は水硬性モルタルでは、良好な施工性と作業性を得ることができる。
【0024】
本発明で好適に用いることができるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることが好ましい。
再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかに且つ均一にもとのエマルジョンの状態(樹脂粉末化前の状態)、すなわち、水硬性スラリー又は水硬性モルタル中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができる。
【0025】
本発明では、前記範囲の1次粒子径を前記範囲で含み、且つ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を選択して用いることによって、水硬性スラリー又は水硬性モルタルの施工時に優れた作業性が得られるとともに、水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体においては接着性や耐候性・耐水性に優れた特性を得ることができる。
【0026】
本発明で好適に用いることができるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、噴霧乾燥処理などの工程を経て、1次粒子が凝集した2次粒子の形態で用いられる。
アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の2次粒子の粒子径は、好ましくは20〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは30〜90μmの範囲であり、より好ましくは45〜85μmの範囲であり、特に好ましくは50〜80μmの範囲であることが、再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物と水とを混練してスラリー化する過程で、再乳化型樹脂粉末の2次粒子が水硬性組成物に含まれている細骨材によって解砕されて容易に再分散し、1次粒子が均一に分散した状態になりやすいことから前記範囲の2次粒子径を有する再乳化型樹脂粉末を用いることが好ましい。
【0027】
再乳化型樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜40質量部、さらに好ましくは3〜30質量部、特に好ましくは4〜20質量部の範囲で配合することによって、良好な作業性と高耐久な硬化体特性を併せて得ることができる。樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、水硬性組成物に水を加えて得られる水硬性スラリー又は水硬性モルタルの粘度が高くなり、施工性および作業性が低下することがあり、また、硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。また、配合割合が前記範囲より小さい場合には、水硬性スラリー硬化体又は水硬性モルタル硬化体の耐久性・耐候性の向上効果が十分に得られなかったり、弾性向上によるひび割れ抑制効果が十分得られず、スラリー硬化体又はモルタル硬化体の表面仕上りも悪くなる傾向があるため好ましくない。
【0028】
屋外のコンクリート床構造体のコンクリート床面に施工して用いる本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが好ましく、さらに樹脂粉末とポリマー中空粒子とを含むとともに、無機成分、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤を含むことができる。
【0029】
本発明の水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることや、低コストで長期強度を増進させることができる。
水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜180質量部、さらに好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは40〜120質量部とするのが好ましい。
【0030】
水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜180質量部、さらに好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは40〜120質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が少なすぎると、硬化体の乾燥収縮が大きくなることや長期強度が十分得られないことがあり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0031】
水硬性組成物は、必要に応じてさらに細骨材を含むことができる。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは150〜250質量部の範囲が好ましい。
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.075〜1.5mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.1〜1mmの骨材、特に好ましくは0.15〜0.6mmの骨材を主成分としていることが好ましい。
細骨材の種類は、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒、石灰石などの無機材料、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。
特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0032】
水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いることができる。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤を使用することができる。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜3.0質量部、さらに好ましくは0.05〜2.0質量部、特に好ましくは0.1〜1.5質量部を配合することができる。
特に、流動化剤は、ポリエーテル系、あるいは、ポリエーテルポリカルボン酸系の流動化剤を、水硬性成分に対して上記の適正範囲で配合することによって、自己流動性(セルフレベリング性)に優れる水硬性組成物を得ることができる。
【0033】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や水硬性組成物の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、水硬性組成物としての使用が非常に容易になるため好ましい。
【0034】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0035】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムや酒石酸二ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0036】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部、特に好ましくは0.25〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0037】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることが出来、例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩を好適に用いることが出来る。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
又、上記リチウム塩を使用し、リチウム塩と併用して硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、アルミン酸ナトリウム等の凝結促進成分を併用することができ、更に促進効果を高めることができる。
【0038】
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0039】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部、さらに好ましくは0.02〜0.3質量部、特に好ましくは0.02〜0.2質量部の範囲で用いることによって、水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性・速乾性が得られることから好ましい。
【0040】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテル等の化工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系、などの増粘剤を併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。
【0041】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0042】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系や植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、1種類の消泡剤を用いる場合、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.001〜3.0質量部、さらに好ましくは0.005〜2.5質量部、より好ましくは0.01〜2.0質量部、特に0.02〜1.7質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
また、2種類以上の消泡剤を併用する場合の消泡剤の添加量は、それぞれの消泡剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1.3質量部、特に0.02〜1.1質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0043】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と樹脂粉末とポリマー中空粒子とを含むものである。
さらに、本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏を含む水硬性成分と、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子とを含み、その他の成分として、無機成分、珪砂などの細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤を含むことができる。
本発明の水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、樹脂粉末、ポリマー中空粒子、無機成分、珪砂などの細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤を含むものである。
【0044】
本発明では、水硬性成分、樹脂粉末及びポリマー中空粒子と、無機成分、細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤などを混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0045】
水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状又はモルタル状の水硬性スラリー又は水硬性モルタルを製造することができ、その水硬性スラリー又は水硬性モルタルを硬化させて水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0046】
水硬性組成物は、水と混合・攪拌してスラリー又はモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、スラリー又はモルタルの流動性、可使時間、材料分離性、硬化体の強度などを調整することができる。
本発明の水硬性組成物は、水硬性組成物(C)と水(W)とを質量比(W/C)が、好ましくは0.10〜0.34の範囲、さらに好ましくは0.11〜0.32の範囲、
より好ましくは、0.12〜0.30の範囲、特に好ましくは0.13〜0.28の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0047】
本発明の水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性スラリー又は水硬性モルタルのフロー値が、好ましくは120〜270mm、さらに好ましくは140〜250mm、特に好ましくは160〜230mmに調整されていることが、施工の容易さ及び良好な作業性を確保しやすいという理由により好ましい。
【0048】
本発明の水硬性スラリー又は水硬性モルタルの施工厚さは、施工箇所や施工部位及び要求される特性に応じて適宜施工厚を選択することができる。
高耐久性な硬化体を得る場合、水硬性スラリー又は水硬性モルタルの施工厚さは、好ましくは施工厚さ0.5mm〜60mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ1.0mm〜40mmの範囲、より好ましくは施工厚さ1.5mm〜30mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ2mm〜20mmの範囲で施工することが好ましい。
【0049】
本発明の水硬性スラリー又は水硬性モルタルは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後に硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。
水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度はスラリー又はモルタルを打設してから、
好ましくは6時間後に50以上、
さらに好ましくは5時間後に40以上、
より好ましくは4時間後に10以上、
特に好ましくは3.5時間後に5以上であり、
スラリー又はモルタルの施工(打設)が終了した後、速やかに硬化が進行することによって、短期間の施工作業によってスラリー硬化体又はモルタル硬化体を形成させることができる。
【0050】
本発明の水硬性スラリー又は水硬性モルタルを硬化させて得られる水硬性スラリー硬化体又は水硬性モルタル硬化体は、JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」のA法(水中凍結融解試験方法)準じる凍結融解試験(5℃〜−18℃、1サイクル=3.5時間)を行った場合に、好ましくは90サイクル行った場合の相対動弾性係数が90%以上であること、さらに好ましくは180サイクル行った場合の相対動弾性係数が85%以上であること、特に好ましくは268サイクル行った場合の相対動弾性係数が85%以上であることが、屋外での供用において優れた耐久性・耐候性を得るために特に好ましい。
【0051】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と樹脂粉末とポリマー中空粒子とを含むものであり、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有することが好ましく、施工現場や施工箇所に応じて、適宜水硬性成分の構成成分の種類と配合割合を選択するとともに、水硬性成分と樹脂粉末とポリマー中空粒子以外の成分として、無機成分、細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤から有効な成分を適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0053】
(特性の評価方法)
(1)水硬性スラリーの流動性評価:
・フロー値の測定法:
JASS・15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの樹脂製パイプ(内容積100ml)を設置し、練り混ぜた水硬性スラリーを樹脂製パイプの上端まで充填した後、パイプを鉛直方向に引き上げる。スラリーの広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とし、スラリーの流動性を評価する。
・セルフレベリング性:
図3に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0ととする。
同様に成形後20分後、30分後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をそれぞれL20、L30とする。
【0054】
(2)水硬性スラリー硬化体の硬化特性と表面仕上りの評価:
・水引き :調製したスラリーを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、その後硬化が進行し、表面を軽く触れても、スラリーが付着しなくなるまでの時間とする。
・硬化体表面のショア硬度:
打設後からの所定の経過時間において、硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とする。
・硬化体表面の性状:
モルタル硬化体表面の仕上り状態は、調製したスラリーを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、24時間後に表面の粉化及び気泡発生を評価した。なお、表面仕上りの評価基準は、以下の通りとした。
3:良好、2:やや不良、1:不良。
【0055】
(3)水硬性スラリー硬化体の凍結融解抵抗性の評価:
・凍結融解試験方法:
JIS A 1171「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に準拠する。JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」のA法(水中凍結融解試験方法)に従って凍結融解試験を行う。
・相対動弾性係数の測定法:
JIS A 1127によりたわみ振動の一次共鳴振動数を測定する。測定は試験開始前及び凍結融解36サイクルを超えない間隔で行う。試験中における測定は、融解行程終了直後に行う。試験槽から取り出した供試体はその表面を軽くこすり、水洗い後表面の水を拭き取って、速やかにたわみ振動の一次共鳴振動数を測定して、供試体の上下を入れ替えて試験槽に戻す。試験体容器はよく洗い新鮮な水を入れておく。測定終了後は直ちに凍結行程を開始する。
相対動弾性係数は次式によって算出し、四捨五入によって整数に丸める。
【0056】
【数1】

【0057】
(使用材料):以下の材料を使用した。
1)水硬性組成物 : 下記の原材料を表1に示す配合割合で混合した水硬性組成物を使用した。
・アルミナセメント : フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・ポルトランドセメント : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・細骨材 : 珪砂:5号珪砂。
・無機成分 : 高炉スラグ微粉末、リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g。
・樹脂粉末 : アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステルの共重合体、1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたカチオンタイプの再乳化形樹脂粉末、ニチゴーモビニール社製、LDM7100P。
・中空粒子a : マツモトマイクロスフェアー(ポリマー中空粒子)、80CA、平均粒子径=90〜110μm、炭酸カルシウム被覆処理品、松本油脂製薬社製。
・中空粒子b : マツモトマイクロスフェアー(ポリマー中空粒子)、80GCA、平均粒子径=10〜30μm、炭酸カルシウム被覆処理品、松本油脂製薬社製。
・中空粒子c : セノライト(フライアッシュ・バルーン)、SA、平均粒径=93.9μm、巴工業社製。
・中空粒子d : ファインスフェアー(フライアッシュ・バルーン)、FS−150、平均粒径=66.5μm、巴工業社製。
・中空粒子e : シラックス(シラス・バルーン)、BP−03、平均粒径=10〜200μm、シラックス社製。
・中空粒子f : シラックス(シラス・バルーン)、BP−09L、平均粒径=50〜400μm、シラックス社製。
・中空粒子g : ファインセル(無機系特殊軽量フィラー)、SuperFine、平均粒径=100〜150μm、巴工業社製。
・凝結遅延剤a : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・凝結遅延剤b : L−酒石酸ニナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結促進剤 : 炭酸リチウム、本荘ケミカル社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
・増粘剤 : ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤、マーポローズMX−30000、松本油脂製薬社製。
・消泡剤a : ポリエーテル系消泡剤、サンノプコ社製、77P。
・消泡剤b : ADEKA社製、アデカネートB115F。
【0058】
(水硬性モルタルおよび水硬性モルタル硬化体の調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、表1に示す配合割合で調製した水硬性組成物と水とを、水硬性組成物100質量部に対して水16質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、水硬性モルタルを調製した。
水硬性モルタル硬化体は、JIS R 5201に示される4×4×16cmの型枠に水硬性モルタルを型詰めして、温度20℃、湿度100%の条件で24時間湿空養生した後、脱型し、さらに温度20℃、湿度65%の気中にて材齢14日まで養生して調製した。
【0059】
[実施例1及び実施例2、比較例1〜6]
表1に示す成分を配合した水硬性組成物を用いて水硬性モルタルを調製し、モルタルの流動性(フロー値)、セルフレベリング性を測定した。また、水硬性モルタルを型枠に流し込み、水引きまでの所要時間及び所定時間毎のモルタル硬化体表面のショア硬度を測定した。モルタル硬化体表面の表面状態を観察した。これらの結果を表2に示す。
水硬性モルタル硬化体について、凍結融解試験を行って所定サイクル数毎に相対動弾性係数と重量変化率を測定した結果を表3、図1及び図2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
(水硬性モルタルおよび水硬性モルタル硬化体の調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、表4に示す配合割合で調製した水硬性組成物と水とを、水硬性組成物100質量部に対して水16質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、水硬性モルタルを調製した。
水硬性モルタル硬化体は、JIS R 5201に示される4×4×16cmの型枠に水硬性モルタルを型詰めして、温度20℃、湿度100%の条件で24時間湿空養生した後、脱型し、さらに温度20℃、湿度65%の気中にて材齢14日まで養生して調製した。
【0064】
[実施例3〜5]
表4に示す成分を配合した水硬性組成物を用いて水硬性モルタルを調製し、モルタルの流動性(フロー値)、セルフレベリング性を測定した。また、水硬性モルタルを型枠に流し込み、水引きまでの所要時間及び所定時間毎のモルタル硬化体表面のショア硬度を測定した。モルタル硬化体表面の表面状態を観察した。これらの結果を表5に示す。
水硬性モルタル硬化体について、凍結融解試験を行って所定サイクル数毎に相対動弾性係数と重量変化率を測定した結果を表6及び表7に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
(1)樹脂粉末とポリマー中空粒子とを用いた実施例1〜5の場合、スラリー調製直後から30分経過時点まで良好な流動性を維持していた。また、水引きまでの所要時間はいずれも200分未満で速やかに硬化を開始し、3時間経過時点のショア硬度は10以上、6時間経過時点のショア硬度は50以上であり、極めて優れた速硬性を示した。
(2)樹脂粉末を用い、中空粒子として無機系中空粒子を用いた比較例1〜6の場合、凍結融解試験で122サイクルの相対動弾性係数は、いずれも80%を下回っており、180サイクルでは全ての供試体が崩壊した。
(3)樹脂粉末を用い、中空粒子としてポリマー中空粒子を用いた実施例1〜5の場合、凍結融解試験で90サイクルまで殆ど相対動弾性係数は低下が見られず、優れた耐候性・耐久性を示した。
(4)特に、中空粒子として平均粒子径が90〜110μmのポリマー中空粒子を、水硬性成分100質量部に対して2質量部以上配合した実施例1及び実施例3の場合、凍結融解試験においてほぼ300サイクルまで高い相対動弾性係数が得られ、卓越した耐候性・耐久性を得ることができることが明らかになった。
【0070】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子とを選択して用いることにより、水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリーを硬化させて得られる水硬性モルタルの硬化体は、屋外環境で供用された場合にも卓越した耐久性・耐候性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】水硬性モルタル硬化体の凍結融解試験による相対動弾性係数の変化を示す図である。
【図2】水硬性モルタル硬化体の凍結融解試験による供試体の重量変化を示す図である。
【図3】SL測定器を用いた、モルタルのセルフレベリング性評価の概略を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性成分と、樹脂粉末と、ポリマー中空粒子とを含むことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
ポリマー中空粒子は、ポリマー中空粒子表面が炭酸カルシウム微粉末で被覆されたポリマー中空粒子であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
ポリマー中空粒子は、平均粒子径が5〜300μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
樹脂粉末は、該樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合体の再乳化形樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
アクリル共重合体は、アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
樹脂粉末は、該樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
樹脂粉末は、該樹脂粉末100質量%中に、該樹脂粉末の1次粒子の粒径が0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、1〜50質量部の割合で配合されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
水硬性成分は、ポルトランドセメントを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
水硬性成分は、アルミナセメントを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項11】
水硬性成分は、ポルトランドセメント及びアルミナセメントを含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項12】
水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項13】
水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉末及び細骨材を含み、さらに凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも2種以上含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項14】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリー又は水硬性モルタルは、屋外のモルタル面又はコンクリート面に施工されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項15】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリー又は水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度は、スラリー又はモルタルを施工して6時間後に50以上であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の水硬性組成物を用いたスラリー硬化体層またはモルタル硬化体層を表層に有するコンクリート構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−227563(P2009−227563A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209438(P2008−209438)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】