説明

油圧緩衝器

【課題】 内圧保障手段を構成するフリーピストンの作動を設定通りに具現化させる。
【解決手段】 シリンダ体3の外方に筒体(1)を有する倒立型のダンパが筒体(1)の上端部に連結されるシリンダ体3におけるボトム端部3a内に内圧保障手段7を有し、この内圧保障手段7がボトム端部3a内に摺動可能に収装されて上流側となる前側と背後側となる気室A1とを画成するフリーピストン71を有してなる油圧緩衝器において、気室A1に押圧力を受けると反力を生じる弾性体9を有すると共に、フリーピストン71が前側における内圧に起因して後退すると共にこの前側をボトム端部3aの外方となるリザーバRに連通させるリリーフ作動時に弾性体9を押圧してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧緩衝器に関し、特に、二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動を吸収するフロントフォークとされる油圧緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動を吸収するフロントフォークとされる油圧緩衝器としては、特許文献1に開示の提案を含めて、従来から種々の提案がある。
【0003】
一方、近年、フロントフォーク内に収装のダンパにおける作動を保障するために、ダンパが内圧保障手段を有するとする提案があり、上記の特許文献1も同様の提案をしている。
【0004】
ところで、この内圧保障手段は、倒立型のダンパを形成するシリンダ体におけるボトム端部内に摺動可能に収装されるフリーピストンを有し、このフリーピストンが背後側からの附勢力で前進方向に附勢されることで、フリーピストンの上流側となるシリンダ体における本体部内を昇圧傾向に維持し、たとえば、この本体部内に摺動可能に収装されるピストン体が有する減衰手段をいわゆる遊びなくして設定通りに作動させる。
【0005】
一方、この内圧保障手段は、シリンダ体における本体部内が、たとえば、作動流体たる作動油の掻き込みなどで異常高圧になる場合に、フリーピストンを後退させてフリーピストンの上流側をシリンダ体の外となるリザーバに連通させ、上記の異常高圧をリザーバに解放して、ダンパにおけるシールの破損などを回避させるいわゆるリリーフ機能も具有する。
【0006】
それゆえ、近年のフロントフォークにあっては、内蔵される倒立型のダンパが内圧保障手段を有することがあるが、上記の特許文献1に開示の提案のように、この内圧保障手段がフリーピストンを前進方向に附勢する附勢力をコイルスプリングによって得ようとするとき、コイルスプリングの附勢力を均等にフリーピストンに作用させるのが容易でなく、フリーピストンの円滑な作動を保障し得ない危惧がある。
【0007】
そこで、フロントフォーク内に封入されるエア圧でフリーピストンを前進方向に附勢するとし、この場合に、封入されるエア圧をフロントフォークの最伸長時に大気圧以上にして、フリーピストンにおける通常の伸縮ストローク領域、すなわち、ダンパにおける通常の伸縮ストローク領域でフリーピストンの上流側となるシリンダ体における本体部内を昇圧傾向に維持する提案がなされるに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6‐147248号公報(要約,請求項1,図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フロントフォーク内に封入されるエア圧で内蔵されるダンパにおける内圧保障手段を構成するフリーピストンを前進方向に附勢する上記した提案にあっては、フリーピストンの上流側となるシリンダ体における本体部内を昇圧傾向に維持し得る点で、基本的に問題がある訳ではないが、利用の実際を鑑みると、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0010】
すなわち、フロントフォーク内に封入されるエア圧でダンパにおける内圧保障手段を構成するフリーピストンを前進方向に附勢する上記の提案にあっては、フリーピストンの背後側がダンパの外方となるリザーバに連通する場合に、シリンダ体における本体部内の異常高圧をフリーピストンが後退してリザーバに解放するリリーフ作動時に、フリーピストンの前側の内圧と、リザーバにおける内圧とが同一になる。
【0011】
そして、このフリーピストンのリリーフ作動時には、フリーピストンの背後側の気室がリザーバに連通するから、この気室における内圧もリザーバの内圧、すなわち、フリーピストンの前側の内圧と同じになる。
【0012】
その結果、フリーピストンにおけるリリーフ作動が終了しフリーピストンがリリーフ作動前の状態に戻ろうとしても、フリーピストンの前側と背後側とが同圧になって差圧を生じないから、フリーピストンが前進状態に移行できなくなり、フリーピストンが前進状態になることで得られるシリンダ体における本体部内の昇圧化を具現化できなくなる危惧がある。
【0013】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、内蔵される倒立型のダンパがこのダンパを構成するシリンダ体のボトム端部内に内圧保障手段を構成するフリーピストンを有してなるとき、このフリーピストンの作動を設定通りに具現化でき、その汎用性の向上を期待するのに最適となる油圧緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するために、この発明による油圧緩衝器の構成を、基本的には、シリンダ体の外方に筒体を有する倒立型のダンパが上記の筒体の上端部に連結されるシリンダ体におけるボトム端部内に内圧保障手段を有し、この内圧保障手段が上記のボトム端部内に摺動可能に収装されて上流側となる前側と背後側となる気室とを画成するフリーピストンを有してなる油圧緩衝器において、上記の気室に押圧力を受けると反力を生じる弾性体を有すると共に、上記のフリーピストンが上記の前側における内圧に起因して後退すると共にこの前側を上記のボトム端部の外方となるリザーバに連通させるリリーフ作動時に上記の弾性体を押圧してなるとする。
【発明の効果】
【0015】
それゆえ、この発明にあっては、内圧保障手段におけるフリーピストンがこのフリーピストンの前側の内圧に起因して後退すると共に前側をシリンダ体におけるボトム端部の外方となるリザーバに連通させるリリーフ作動時にフリーピストンの背後側の気室に配設されて押圧力を受けると反力を生じる弾性体を押圧するから、リリーフ作動の終了時にフリーピストンが弾性体の反力によって前進方向に附勢されてリリーフ作動前の状態になり、フリーピストンの前側が連通するシリンダ体における本体部内を昇圧傾向に維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明による油圧緩衝器を原理的に示す縦断面図である。
【図2】この発明による油圧緩衝器の具体的な一実施形態を示す部分半截縦断面図である。
【図3】図2の油圧緩衝器における作動状態を図2と同様にして部分的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による油圧緩衝器は、二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動を吸収するフロントフォークとされる。
【0018】
ちなみに、この油圧緩衝器たるフロントフォークを二輪車の前輪側に架装するについては、図示しないが、左右となる二本のフロントフォークの上端側部をあらかじめブリッジ機構で一体化し、各フロントフォークの下端部を前輪の車軸に連結させて前輪を挟むようにして懸架する。
【0019】
そして、ブリッジ機構は、図示しないが、フロントフォークを構成する車体側チューブたるアウターチューブ1における上端部の上方側部に連結されるアッパーブラケットと、下方側部に連結されるアンダーブラケットとを有し、それぞれが両端部に形成の取り付け孔にアウターチューブ1における上端部を挿通させて一体的に把持する。
【0020】
また、このブリッジ機構は、同じく図示しないが、アッパーブラケットとアンダーブラケットとを一体的に連結する一本のステアリングシャフトを両者の中央に有し、このステアリングシャフトが二輪車における車体の先端部を構成するヘッドパイプ内に回動可能に導通され、これによって、ハンドル操作による二本のフロントフォークを介しての前輪における左右方向への転舵が可能になる。
【0021】
ところで、フロントフォークは、図1に示すところにあって、この発明に言う筒体とされる車体側チューブたるアウターチューブ1内に車輪側チューブたるインナーチューブ2がテレスコピック型に出没可能に挿通されて伸縮可能とされるフォーク本体(符示せず)を有し、このフォーク本体は、内部に封入されるエア圧で、あるいは、図示しないが、内装する懸架バネの附勢力で、アウターチューブ1内からインナーチューブ2が突出する伸長方向に附勢される。
【0022】
ちなみに、フロントフォークにあって、懸架バネを有せずして、フォーク本体内に封入されるエア圧によって、このフォーク本体を伸長方向に附勢する場合には、フォーク本体が最伸長状態にあるときに、大気圧以上となるエア圧を封入するのが良い。
【0023】
そして、フォーク本体にあっては、図示しないが、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間に上下となって離間配置とされる上方の軸受と下方の軸受とを有し、この離間配置される上下の軸受がアウターチューブ1とインナーチューブ2との間における同芯となる摺動性を保障する。
【0024】
また、このフォーク本体にあっては、同じく図示しないが、離間配置される上方の軸受と下方の軸受とでアウターチューブ1とインナーチューブ2との間に潤滑隙間を出現させ、この潤滑隙間にインナーチューブ2に開穿の連通孔を介してインナーチューブ2の内方の作動流体たる作動油の流入を許容し、この作動油を潤滑油にして、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間における潤滑を保障する。
【0025】
さらに、図示しないが、このフォーク本体にあっては、アウターチューブ1の下端部となる開口端部の内周に下方の軸受に直列してオイルシールとダストシールが配設され、オイルシールの配在でフォーク本体内を密封空間にする。
【0026】
そして、ダストシールは、インナーチューブ2の外周に付着する微小な砂粒などのダストを掻き落し、このダストが上記のオイルシール側に侵入することを阻止して、オイルシールにおけるシール機能を保障する。
【0027】
また、このフォーク本体にあっては、アウターチューブ1内にインナーチューブ2が大きいストロークで没入する最収縮作動時に、それ以上の収縮を阻止するべく、図示しないが、インナーチューブ2の上端がアウターチューブ1の上端部に当接される。
【0028】
なお、フォーク本体は、オイルロック機構を有し、このオイルロック機構によって最収縮作動時にクッション効果を発揮してフォーク本体の収縮速度を遅速化させると共に、オイルロック効果を発揮してフォーク本体の最収縮作動時における衝撃を緩和しても良い。
【0029】
そして、このフォーク本体にあっては、フォーク本体が最伸長するときに、図示しないが、ダンパが収装する伸び切りバネが最収縮し、ダンパにおける伸び切り時のいわゆる衝撃を吸収する。
【0030】
さらに、フォーク本体についてであるが、図示するところでは、アウターチューブ1が車体側チューブにされると共に、インナーチューブ2が車輪側チューブとされる倒立型に設定されるが、この発明が意図するところからすると、上記に代えて、図示しないが、アウターチューブ1が車輪側チューブとされると共に、インナーチューブ2が車体側チューブとされる正立型に設定されても良い。
【0031】
ただ、後述するダンパは、この発明にあって、シリンダ体3におけるボトム端部3aが筒体たる車体側チューブ、すなわち、アウターチューブ1に連結される倒立型に設定されるのを旨とするので、フォーク本体が正立型に設定されても、ダンパが倒立型から正立型には変更されない。
【0032】
ところで、このフォーク本体にあっては、上記のオイルシールの配設で密封空間となる内方、すなわち、後述するダンパの外方をリザーバRに設定し、このリザーバRは、所定量の作動流体たる作動油を収容すると共に、作動油の油面Oを境にして画成される気室Aを有し、この気室Aは、フォーク本体の伸縮作動時に膨縮して、その膨縮の際に所定のエアバネ力、すなわち、チューブ反力を発生する。
【0033】
ちなみに、上記の気室Aは、任意の圧力下に大気を封入してなるが、これに代えて、不活性ガスを任意の圧力下に封入するガス室とされても良く、また、気室Aであれ、あるいは、ガス室であれ、アウターチューブ1の上端部に配設されるバルブV(図2参照)を介して封入された内圧を高低し得るとしても良い。
【0034】
そして、上記の油面Oは、ダンパの伸縮作動に悪影響を与えない高さ位置になるように設定されるが、この油面Oを形成する作動油たる作動流体の総量を削減すべく、図示しないが、インナーチューブ2内に作動流体と分離されるサブ気室を設けるとしても良い。
【0035】
一方、このフォーク本体は、リザーバRとされる内方に作動流体たる作動油を収容すると共にダンパ(符示せず)を有し、このダンパは、アウターチューブ1の軸芯部に垂設されて上端側部材とされるシリンダ体3内にインナーチューブ2の軸芯部に起立されて下端側部材とされるロッド体4の図中で上端側となる先端側を出没可能に挿通させる倒立型に設定される。
【0036】
そして、このダンパにあっては、作動油を充満するシリンダ体3内、すなわち、後述するボトム端部3aとの対比で設定される本体部3b内にピストン体5が摺動可能に収装され、このピストン体5にはロッド体4の図中で上端部となる先端部が連結される。
【0037】
そしてまた、ピストン体5は、シリンダ体3における本体部3b内にピストン体5の上方となるピストン側室R2とピストン体5の下方となるロッド側室R1とを画成すると共に、ロッド側室R1とピストン側室R2との連通を許容し、ロッド側室R1がピストン側室R2に連通するときに所定の減衰作用をする伸側減衰バルブ51と、この伸側減衰バルブ51に並列してピストン側室R2からの作動油のロッド側室R1への流入を許容する伸側チェックバルブ52とを有してなる。
【0038】
一方、シリンダ体3は、図中で上端部となり、図中で下方部となる本体部3bに比較して大径に形成されるボトム端部3aを有し、このボトム端部3a内に圧側減衰手段6と内圧保障手段7とを有し、さらには、ガイドロッド8と弾性体9とを有してなる。
【0039】
なお、シリンダ体3にあっては、ボトム端部3aの図中での上端部が上端連結部3d(図2参照)とされて筒体たるアウターチューブ1の上端部に連結され、本体部3bの図中での下端部がシリンダ体3におけるヘッド端部(符示せず)とされて、インナーチューブ2のボトム端(図示せず)から離れる。
【0040】
圧側減衰手段6は、シリンダ体3におけるボトム端部3a内に固定的に配設されて、シリンダ体3における本体部3b内側とボトム端部3a内側とを画成する隔壁体61を有する。
【0041】
そして、この隔壁体61は、本体部3b内からの作動油のボトム端部3a内への流出を許容して所定の圧側減衰力を発生する圧側減衰バルブ61aを有すると共に、この圧側減衰バルブ61aに並列されてボトム端部3a内からの作動油の本体部3b内への流入を許容する圧側チェックバルブ61bを有する。
【0042】
ちなみに、図示する圧側減衰手段6にあって、隔壁体61は、上端がアウターチューブ1側に連結されるガイドロッド8の下端に連結されて、所定の固定状態に配設されるが、これに代えて、図示しないが、隔壁体61がボトム端部3aの内周に連結されて、所定の固定状態に配設されても良い。
【0043】
それゆえ、このダンパにあっては、伸縮作動時に、ロッド体4の侵入体積部に相当する量の作動油が圧側減衰手段6を介して後述する内圧保障手段7の上流側に流出すると共に、ロッド体4の退出体積部に相当する量の作動油が内圧保障手段7の上流側から圧側減衰手段6を介して本体部3b内に補充される。
【0044】
つまり、このダンパにあっては、その伸縮に起因するシリンダ体3の本体部3b内における油量変化の際の減衰作用を具現化するのが上記の圧側減衰手段6であり、また、シリンダ体3の本体部3b内における油量変化を補償するのが後述する内圧保障手段7である。
【0045】
一方、内圧保障手段7は、シリンダ体3におけるボトム端部3a内に摺動可能に収装されるフリーピストン71を有し、このフリーピストン71は、ボトム端部3a内に上流側たる前側となり圧側減衰手段6との間となる油室R3を画成すると共に背後側となる気室A1を画成する。
【0046】
そして、この内圧保障手段7にあって、フリーピストン71の背後側の気室A1は、所定のエア圧、すなわち、前記したように、フォーク本体が最伸長状態にあるときに、封入される大気圧以上となるエア圧を具有し、フリーピストン71を図中で下降方向となる前進方向に附勢すると共に、その膨縮時にエアバネ力を発揮する。
【0047】
ところで、フリーピストン71の背後側の気室A1は、後述するようにシリンダ体3におけるボトム端部3aに開穿の連通孔3cを介してリザーバRに連通するが、上記したように、フォーク本体が最伸長状態にあるときに、大気圧以上、たとえば、ほぼ0.3MPa以上となる気体を封入する。
【0048】
すなわち、前記した特許文献1に開示されているように、また、たとえば、特開2005‐30534号公報に開示されているように、内圧保障手段を構成するこの種のフリーピストンにあっては、背後に附勢手段たるコイルスプリングからなる昇圧バネ(39あるいは4)を有してなるのが常態である。
【0049】
したがって、この発明にあっても、フリーピストン71の背後にコイルスプリングからなる昇圧バネを有するのが良いとも言い得るが、前記したように、凡そコイルスプリングにあっては、先端に隣接する被附勢部材に対して附勢力をコイルスプリングの巻き方向たる周方向に均等に作用することを困難にし、被附勢部材がフリーピストン71とされるとき、このフリーピストン71に齧り現象を発現し易くなる弊害がある。
【0050】
そこで、この発明では、フリーピストン71を背後から附勢するのにあって、昇圧バネを利用せず、背後側の気室A1における反力、すなわち、エアバネ力を利用することにし、少なくとも、昇圧バネを利用することによるフリーピストン71における齧り現象の発現をあらかじめ阻止する。
【0051】
そして、この発明にあっては、昇圧バネに代わるエアバネでフリーピストン71における齧り現象の発現を阻止し得るから、フリーピストン71の摺動性を安定させるために、たとえば、上記した特開2005‐30534号公報に開示されているように、フリーピストン71における摺動方向の寸法を大きく形成することを回避でき、重量の増大化を阻止し得る。
【0052】
それゆえ、このフロントフォークにあっては、最伸長時にもダンパ内を昇圧傾向に維持することが可能になり、また、フリーピストン71は、その前側、すなわち、圧側減衰手段6との間に画成される油室R3を昇圧傾向にし、シリンダ体3における本体部3b内を昇圧化させる。
【0053】
それゆえ、ダンパにあっては、ダンパが伸長作動するときにピストン側室R2において負圧化現象が発現されずして作動油中への気泡の発生が阻止され、したがって、ダンパが最伸長状態から反転して収縮作動を開始するときに、ピストン側室R2において作動油中の気泡が潰れるまでの間、所定の圧側減衰作用の発現を期待できなくなる「減衰作用のサボリ」現象の発現を阻止し得る。
【0054】
ちなみに、図示する内圧保障手段7にあって、フリーピストン71は、上記したガイドロッド8に摺動可能に介装されて、摺動時の安定性が保障されるとし、ボトム端部3a内を摺動するフリーピストン71がボトム端部3aに対して齧り現象を発現しないように配慮している。
【0055】
なお、この内圧保障手段7におけるフリーピストン71の作動を勘案すると、このフリーピストン71が上記のガイドロッド8に介装されることは必須ではなく、むしろ、ガイドロッド8に介装されない方が、摺動抵抗を減少し得てフリーピストン71の作動性を向上させ得るので、好ましい選択でもある。
【0056】
一方、上記したフロントフォークにあっては、フォーク本体が最伸長状態にあるときに、大気圧以上となる気体を封入するから、この気体が膨張する反力でフォーク本体を、すなわち、フロントフォークを伸長方向に附勢することが可能になり、したがって、特許文献1に開示などの従前からのフロントフォークにあって当然のようにフォーク本体内に収装されている懸架バネSの配設を省略できる。
【0057】
ちなみに、出願人が確認したところでは、シリンダ体3の径がほぼ25mmで長さが30mmとなるダンパが最伸長状態にあるときに、フォーク本体内に大気圧以上となるほぼ0.3MPaの気体を封入したとき、このダンパの最収縮状態時の内圧がほぼ2.0MPaとなり、したがって、懸架バネSを有せずしてフォーク本体を伸長方向に附勢することが可能になる。
【0058】
ところで、内圧保障手段7は、前記したことであるが、シリンダ体3における本体部3b内が、たとえば、作動油の掻き込みなどで異常高圧になる場合に、フリーピストン71が後退してフリーピストン71の上流側たる前側をシリンダ体3の外方となるリザーバRに連通させ、上記の異常高圧をリザーバRに解放する。
【0059】
そのため、この内圧保障手段7にあっては、図中に仮想線図で示すように、フリーピストン71が大きいストロークで後退するとき、ボトム端部3aに開穿の連通孔3cを介してフリーピストン71の前側をリザーバRに連通させる。
【0060】
一方、この発明にあっては、フリーピストン71の背後側となる気室A1にガイドロッド8の軸線方向に沿う軸方向の押圧力を受けると、すなわち、大きいストロークで後退するフリーピストン71で押圧されると、反力を生じる弾性体9を有してなる。
【0061】
このとき、弾性体9が発生する反力は、フォーク本体内に封入されたエア圧に起因する反力より大きくなるとし、したがって、フリーピストン71が大きいストロークで後退してフリーピストン71の前側をリザーバRに連通させるリリーフ作動が終了したときには、フリーピストン71が弾性体9からの附勢力で前進状態に移行し、リリーフ作動前の状態に戻れる。
【0062】
つまり、前記したように、フリーピストン71がリリーフ作動するときには、フリーピストン71の前側の内圧と気室A1の内圧がリザーバRの内圧と同一になり、それゆえ、フリーピストン71の前側と背後側との間に差圧を生じなくなり、リリーフ作動の終了後もフリーピストン71がリリーフ作動前の状態たる前進状態に戻れなくなる危惧があるが、上記の弾性体9がこれを回避させる。
【0063】
ちなみに、弾性体9は、基本的には、ゴム材からなるのが良く、弾性体9がこのゴム材からなる場合には、たとえば、安価となる点で有利となるが、この発明にあって、弾性体9がゴム材以外の材料あるいは部材からなるのを否定する趣旨はなく、したがって、たとえば、合成樹脂材が選択されたり、コイルバネあるいは皿バネが選択されたりすることは、任意である。
【0064】
また、弾性体9は、図示するところでは、上記したガイドロッド8の上端部に介装された状態に配設されるが、このように配設されることで、第一には、フリーピストン71がリリーフ作動するとき以外は、フリーピストン71をこの弾性体9に干渉させないことが可能になり、第二に、ガイドロッド8の上端部がアウターチューブ1側に螺着される場合に、ガイドロッド8の上端部に形成される螺条(図示せず)に大きいストロークで後退するフリーピストン71を干渉させないことが可能になる。
【0065】
ちなみに、ガイドロッド8の配設が省略される場合には、弾性体9は、たとえば、アウターチューブ1の軸芯部側から下方に向けて突出する部位に嵌装されるなどして保持される。
【0066】
なお、弾性体9の軸方向の長さについては、フリーピストン71が大きいストロークで後退してこの弾性体9を押圧するときにも、フリーピストン71がアウターチューブ1側に干渉することを避け得る長さを有するように設定される。
【0067】
以上のように形成されたこの発明による油圧緩衝器たるフロントフォークにあっては、アウターチューブ1に対してインナーチューブ2が出没する伸縮作動に同期して内蔵するダンパが伸縮作動し、シリンダ体3に対してロッド体4が出没する。
【0068】
そして、シリンダ体3内からロッド体4が抜け出る伸長作動時には、ピストン体5が有する伸側減衰バルブ51によって所定の伸側減衰力が発生されると共に、ピストン側室R2において不足する量の作動油が圧側減衰手段6における圧側チェックバルブ61bを介して内圧保障手段7の上流側となる油室R3から補充され、フリーピストン71は、前進してこれを許容する。
【0069】
ちなみに、この発明にあっては、ダンパが内圧保障手段7を有するから、この内圧保障手段7を構成するフリーピストン71の作動で、シリンダ体3における本体部3b内が昇圧傾向に維持され、したがって、上記の伸長作動時にピストン側室R2に負圧化現象が発現されない。
【0070】
そして、シリンダ体3内にロッド体4が没入する収縮作動時には、ピストン側室R2で余剰となる量の作動油が圧側減衰手段6における圧側減衰バルブ61aを介して内圧保障手段7の上流側たる油室R3に流出し、フリーピストン71は、後退してこれを許容し、圧側減衰バルブ61aによって所定の圧側減衰力が発生される。
【0071】
ちなみに、この発明にあって、内圧保障手段7におけるフリーピストン71は、大きいストロークで後退するとき以外は、このフリーピストン71の前側となる油室R3をダンパの外方たるリザーバRに連通させないから、油室R3における内圧、すなわち、シリンダ体3における本体部3b内の昇圧された内圧を低下させない。
【0072】
そして、ダンパにあって、その伸縮作動の繰り返しによるシリンダ体3における本体部3b内への作動油の掻き込みで、あるいは、作動油における油温の上昇で、シリンダ体3内における本体部3b内が異常高圧となる場合には、内圧保障手段7におけるフリーピストン71が大きいストロークで後退して、シリンダ体3における本体部3b内に通じる油室R3の連通孔3cを介してのリザーバRへの連通を許容するリリーフ作動し、上記の異常高圧をリザーバRに解放する。
【0073】
このフリーピストン71のリリーフ作動時には、フリーピストン71の上流側となる油室R3の内圧と気室A1の内圧とがリザーバRの内圧と同一になり、それゆえ、フリーピストン71の前側と背後側との間に差圧を生じなくなり、フリーピストン71がリリーフ作動の終了後もリリーフ作動前の状態たる前進状態に戻れなくなり得る。
【0074】
しかしながら、この発明にあっては、内圧保障手段7にあって、フリーピストン71が大きいストロークで後退するときには、このフリーピストン71の背後側に配設の弾性体9をこのフリーピストン71が押圧して、この弾性体9からの附勢力を受けるとしており、したがって、フリーピストン71がリリーフ作動を終了したときには、フリーピストン71が前進状態に速やかに移行してリリーフ作動前の状態に戻り、フリーピストン71が作動不能状態に陥ることを未然に回避し得る。
【0075】
図2は、前記したところ、特に、フォーク本体内に内蔵されるダンパがシリンダ体3におけるボトム端部3a内に圧側減衰手段6と共に内圧保障手段7を有し、さらには、弾性体9を有するところを具体的に示すものであって、以下には、この実施形態について説明する。
【0076】
ちなみに、図示するところにおいて、その構成が前記した図1に示す構成と同様となるところについては、図中に同一の符号を付するのみとして、要する場合を除き、詳しい説明を省略する。
【0077】
先ず、図2において、シリンダ体3におけるボトム端部3aは、下方のシリンダ体3における本体部3bより大径に形成されて、厚肉に形成された上端連結部3dを筒体たるアウターチューブ1の上端部の内周に螺着させることで、アウターチューブ1の上端部に連結される。
【0078】
ちなみに、上記の上端連結部3dの内周にはキャップ部材11が螺着されて、シリンダ体3におけるボトム端部3aの開口を閉塞すると共に、上端連結部3dを介してであるが、結果的に、キャップ部材11がアウターチューブ1の上端開口を閉塞する。
【0079】
また、キャップ部材11は、フォーク本体内への大気圧以上のエアの封入を可能にし、また、この封入される大気圧の高低調整を可能にするバルブVを有する。
【0080】
なお、図示するところにあっては、シリンダ体3におけるボトム端部3aと本体部3bとが一体に形成されるが、要は、大径となるボトム端部3aと小径となる本体部3bとを有すれば良く、その限りには、図示しないが、ボトム端部3aが本体部3bと別体に形成されて、適宜の手段で一体的に連結されても良い。
【0081】
また、この発明にあっては、ダンパがシリンダ体3におけるボトム端部3a内に圧側減衰手段6と内圧保障手段7とを有すれば良いから、この観点からすれば、シリンダ体3におけるボトム端部3aがシリンダ体3における本体部3bより大径に形成される必要はなく、同径に設定されても良いことはもちろんである。
【0082】
そして、このシリンダ体3におけるボトム端部3aは、内方に内圧保障手段7を有する、すなわち、この内圧保障手段7を構成するフリーピストン71を摺動可能に収装し、また、フリーピストン71のリリーフ作動を許容するから、これに関連して以下のように形成される。
【0083】
すなわち、シリンダ体3におけるボトム端部3aは、フリーピストン71を液密状態下に収装させて摺動を許容する被摺動部3eと、この被摺動部3eに連続するテーパ部3fと、このテーパ部3fに連続する拡径部3gとを有し、この拡径部3gに前記した連通孔3cを開穿させる。
【0084】
なお、フリーピストン71は、外周にシール72を有しながらボトム端部3a、すなわち、被摺動部3eの内周に摺接すると共に、内周側にシール73あるいはおよびブッシュ(図示せず)を有しながらガイドロッド8の外周に摺接する。
【0085】
それゆえ、シリンダ体3におけるボトム端部3a内に収装されるフリーピストン71は、ダンパが通常のストロークで伸縮するとき、言わば通常の小さいストロークで摺動され、この限りにおいて、フリーピストン71が被摺動部3eを逸脱してテーパ部3fに至ることはなく、したがって、フリーピストン71の前側たる油室R3がリザーバRに連通しない。
【0086】
それゆえ、このフリーピストン71にあっては、フリーピストン71の背後に画成される背後側の気室A1における反力でシリンダ体3における本体部3b内を昇圧化する。
【0087】
それに対して、フリーピストン71がボトム端部3a内で大きいストロークで後退するときには、図3に示すように、フリーピストン71が、すなわち、フリーピストン71の外周に嵌装のシール部材72が被摺動部3eを逸脱してテーパ部3fに至る。
【0088】
それゆえ、フリーピストン71を構成するシール部材72の外周とテーパ部3fとの間に作動油の通過を許容する隙間(符示せず)が出現し、フリーピストン71の前側たる油室R3の内圧が連通孔3cを介してリザーバRに解放されるリリーフ作動が許容される。
【0089】
そして、このフリーピストン71のリリーフ作動時には、フリーピストン71が背後側に配設の、すなわち、ガイドロッド8の上端部に介装された弾性体9を押圧し、したがって、この弾性体9が具有する反力で、リリーフ作動の終了時にリリーフ作動前の状態、すなわち、図示しないが、上記のシール72が被摺動部3eに摺接することなって、フリーピストン71の前側たる油室R3がリザーバRに連通するのを阻止する前進状態になる。
【0090】
そして、フリーピストン71が前進状態になることで、以降のダンパにおける収縮作動時にフリーピストン71の背後側の気室A1における内圧が上昇する傾向になり、結果として、シリンダ体3における本体部3b内を昇圧傾向にする。
【0091】
ちなみに、この図2に示す実施形態にあって、ガイドロッド8は、基本的には、車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ部材11の軸芯部に垂設されて、ボトム端部3aの軸芯部に臨在される。
【0092】
なお、この図2に示すフロントフォークにあっても、ダンパの伸縮作動時に圧側減衰手段6による圧側減衰力の発生が可能とされるのはもちろんである。
【0093】
前記したところでは、フリーピストン71がシリンダ体3におけるボトム端部3a内を大きいストロークで後退して被摺動部3eに連続するテーパ部3fに到達するとき、このフリーピストン71の前側たる油室R3がフリーピストン71の外周を交わして連通孔3cに連通するが、このフリーピストン71の機能するところを勘案すると、これに代えて、図示しないが、フリーピストン71の内周側、すなわち、フリーピストン71の内周とこれが対向するガイドロッド8の外周との間に上記の連通孔3cに連通する流路が出現するとしても良く、この場合には、ボトム端部3aに対する上記のテーパ部3fの形成を省略できる。
【0094】
そして、前記したところでは、筒体がフロントフォークを構成するアウターチューブ1からなるとしたが、ダンパが複筒型の油圧緩衝器を形成する場合には、筒体がシリンダ体3との間にリザーバRを画成する外筒とされても良く、その場合の作用効果が異ならないのはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
内装される倒立型のダンパがこのダンパを構成するシリンダ体のボトム端部内に内圧保障手段を構成するフリーピストンを有してなるとき、このフリーピストンの作動を設定通りに具現化するのに向く。
【符号の説明】
【0096】
1 筒体たるアウターチューブ
2 インナーチューブ
3 シリンダ体
3a ボトム端部
3b 本体部
3c 連通孔
3d 上端連結部
3e 被摺動部
3f テーパ部
3g 拡径部
4 ロッド体
5 ピストン体
6 圧側減衰手段
7 内圧保障手段
8 ガイドロッド
9 弾性体
11 キャップ部材
32 ロッドナット
51 伸側減衰バルブ
52 伸側チェックバルブ
61 隔壁体
61a 圧側減衰バルブ
61b 圧側チェックバルブ
71 フリーピストン
72 シール
A,A1 気室
O 油面
R リザーバ
R1 ロッド側室
R2 ピストン側室
R3 油室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ体の外方に筒体を有する倒立型のダンパが上記の筒体の上端部に連結されるシリンダ体におけるボトム端部内に内圧保障手段を有し、この内圧保障手段が上記のボトム端部内に摺動可能に収装されて上流側となる前側と背後側となる気室とを画成するフリーピストンを有してなる油圧緩衝器において、上記の気室に押圧力を受けると反力を生じる弾性体を有すると共に、上記のフリーピストンが上記の前側における内圧に起因して後退すると共にこの前側を上記のボトム端部の外方となるリザーバに連通させるリリーフ作動時に上記の弾性体を押圧してなることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
上記の弾性体が上記の筒体の上端部側に隣設されて上記のフリーピストンの背面に対向してなる請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
上記のフリーピストンが上記の筒体の上端部側に基端が連結されるガイドロッドに摺動可能に介装されると共に、上記の弾性体が上記のガイドロッドの基端部に介装されて上記のフリーピストンの背面に対向してなる請求項1または請求項2に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
上記のフリーピストンが上記の筒体内に封入されるエア圧で背後側から附勢されてなる請求項1,請求項2または請求項3に記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
上記のシリンダ体におけるボトム端部内であって、上記の内圧保障手段の上流側に圧側減衰手段を有してなる請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載の油圧緩衝器。
【請求項6】
上記の筒体がアウターチューブからなると共に、このアウターチューブ内にインナーチューブが出没可能に挿通され、上記のシリンダ体におけるボトム端部が上記のアウターチューブの軸芯部に垂設され、上記のシリンダ体内に上記のインナーチューブの軸芯部に起立するロッド体が出没可能に挿通され、このロッド体に上記のシリンダ体に収装されて減衰手段を有するピストン体が保持されてなる請求項1,請求項2,請求項3,請求項4または請求項5に記載の油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−117533(P2011−117533A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275421(P2009−275421)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】