説明

浸水量測定装置および浸水量測定方法

【課題】 熟練した点検員でなくとも効率的に点検作業を行うことができ、且つ点検作業時の安全性の大幅な向上を図ることが可能な浸水量測定装置および浸水量測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、電気機器(AS100)の外箱100a内部への浸水量を外箱の外から測定する浸水量測定装置200であって、外箱の底面100bの下方において、底面から所定間隔d離間し且つ底面に対して所定角θ1を有して配置され、非接触で外箱内に超音波202を入射する超音波発振部240、および超音波の反射波204を受信する反射波受信部250と、反射波受信部を外箱の底面に沿って超音波発振部に対して離接する方向に移動させる移動部260と、超音波発振部と反射波受信部の距離を算出する距離算出部220と、外箱内の浸水の有無および浸水量を算出する浸水量算出部222と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の外箱の内部への浸水量を外箱の外から測定する浸水量測定装置および浸水量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気事業者の配電設備から供給される電力は、配電系統を通じて需要家に送電される。配電系統には、変圧器や自動電圧調整器などの配電用変電設備等や、短絡や地絡といった事故時に高圧配電線による送電を停止(停電)するための開閉器や遮断器等、多数の設備が接続されている。以下、本願では上記の設備を総称して電気機器と称する。
【0003】
上記の電気機器のうち、例えば開閉器として、電柱上に設置される柱上気中開閉器(以下、単に開閉器と称する。)を例示すると、かかる開閉器に纏わる配電線事故の原因は、その外箱の内部への浸水が最も多い。この浸水の原因としては、経年によるパッキンの劣化や外箱の腐食等による、外箱の内部への雨水等の浸入が挙げられ、浸水を放置すると、動作不良や絶縁性能の低下により停電等の配電線事故が発生するおそれがある。
【0004】
そこで、配電線事故を未然に防ぐべく、従来から開閉器(電気機器)の内部への浸水の有無の点検が行われていた。しかしながら、開閉器は遮蔽構造であるため、内部に浸水が生じているか否かを外部から確認することは困難である。そこで、開閉器の点検方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、容器内(外箱内)に超音波を送信し、その反射波を受信して容器内の液体を検出していた。特に、特許文献1では、トランスデューサを容器の底面に接触させて超音波の送信および反射波の受信を行い、反射波の振幅方向の変動から容器内における液体の存在(有無)を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−43360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、点検装置であるトランスデューサを開閉器(電気機器)の底面に直接接触させる方法であると、仮に外箱の内部に浸水があった場合に、点検時の振動によってその水面が揺れてしまい外箱内部に収容されている機器に水が接触し、開閉器の内部短絡が起こるおそれがあった。そして、開閉器の外箱と点検装置とが接触しているため、万が一内部短絡が起きてしまった場合において、点検装置が故障するだけではなく、点検員の人身災害が発生することが危惧されていた。故に、特許文献1のような従来の点検方法では、熟練した点検員が極めて慎重に点検を行う必要があり、点検作業効率および安全性の向上が要請されていた。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、熟練した点検員でなくとも効率的に点検作業を行うことができ、且つ点検作業時の安全性の大幅な向上を図ることが可能な浸水量測定装置および浸水量測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる浸水量測定装置の代表的な構成は、電気機器の外箱の内部への浸水量を外箱の外から測定する浸水量測定装置であって、外箱の底面の下方において、底面から所定間隔離間し且つ底面に対して所定角を有して配置され、非接触で外箱内に超音波を入射する超音波発振部と、外箱の底面の下方において、底面から所定間隔離間して配置され、超音波の反射波を受信する反射波受信部と、反射波受信部を外箱の底面に沿って超音波発振部に対して離接する方向に移動させる移動部と、超音波発振部と反射波受信部の距離を算出する距離算出部と、反射波受信部が受信した反射波のピーク時の距離と既知の屈折率に基づいて外箱内の浸水の有無および浸水量を算出する浸水量算出部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、超音波発振部および反射波受信部は、電気機器の外箱においてその底面から所定間隔離間して配置される。故に、点検作業時における電気機器の振動が生じることがなく、仮に外箱の内部に浸水があった場合であっても、その水面の揺れが抑制され、内部短絡を防止することが可能となる。また超音波発振部および反射波受信部が外箱の底面から離間して配置される、すなわちそれらは外箱の底面とは接触してないため、点検装置の故障や感電による点検員の人身災害が発生を防ぐことができる。したがって、熟練した点検員でなくとも効率的に点検作業を行うことができ、且つ点検作業時の安全性の大幅な向上を図ることが可能である。
【0010】
ここで、超音波発振部および反射波受信部を外箱の底面に接触させないと、入射した超音波の外箱内への透過率が低下し、ひいては反射波の受信率も低下すると想定される。そこで、本発明では、超音波発振部を、外箱の底面に対して所定角を有した状態で配置する。これにより、超音波発振部および反射波受信部を外箱の底面から所定間隔離間した場合であっても、外箱内への超音波の透過率を高めることができ、高い測定精度を確保することが可能となる。そして、反射波受信部が受信した反射波のピーク時の距離と既知の屈折率によって外箱内の浸水の有無を検出することができ、更に移動部によって反射波受信部を外箱の底面に沿って移動させることにより、同様のパラメータを用いて浸水量をも算出することが可能となる。
【0011】
上記の超音波の波長は、外箱の板厚よりも長いとよい。これにより、外箱の底面での反射や外箱の板内伝搬を抑制し、超音波を外箱内に高効率で入射(透過)させることが可能となる。
【0012】
上記の電気機器は、電柱の上方に設置され通電された柱上電気機器であるとよい。上述したように本発明にかかる浸水量測定装置は、電気機器の外箱の底面から所定間隔離間した位置に超音波発振部および反射波受信部を配置する。したがって、柱上に設置される電気機器、すなわち外箱の底面の下方にそれらを配置する空間を有する電気機器の浸水量測定に好適に用いることができる。また上述したように、浸水量測定装置は外箱に非接触であるため、通電状態の電気機器であっても感電等の人身災害が起きるおそれがなく、高い安全性が得られる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかる浸水量測定方法の代表的な構成は、電気機器の外箱の内部への浸水量を外箱の外から測定する電気機器の浸水量測定方法であって、非接触で外箱内に超音波を入射する超音波発振部を、外箱の底面から所定間隔離間し且つ底面に対して所定角を有した状態で底面の下方に配置し、超音波の反射波を受信する反射波受信部を、外箱の底面から所定間隔離間した状態で底面の下方に配置し、反射波受信部を外箱の底面に沿って超音波発振部に対して離接する方向に移動させ、超音波発振部と反射波受信部の距離を算出し、反射波受信部が受信した反射波のピーク時の距離と既知の屈折率に基づいて外箱内の浸水の有無および浸水量を算出することを特徴とする。
【0014】
上述した浸水量測定装置の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該浸水量測定方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熟練した点検員でなくとも効率的に点検作業を行うことができ、且つ点検作業時の安全性の大幅な向上を図ることが可能な浸水量測定装置および浸水量測定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態にかかる浸水量測定方法を適用する電気機器を示す図である。
【図2】本実施形態にかかる浸水量測定装置の概略構成を示す図である。
【図3】超音波発振部の所定角θ1を説明する図である。
【図4】超音波発振部によって入射される超音波の周波数の最適化を説明する図である。
【図5】超音波発振部と外箱との所定間隔dの最適化を説明する図である。
【図6】外箱への浸水の有無の測定について説明する図である。
【図7】外箱の浸水量の測定について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(電気機器(AS100))
図1は、本実施形態にかかる浸水量測定方法を適用する電気機器を示す図である。配電系統には、開閉器、自動電圧調整器(SVR、LVR)、変圧器等の多数の電気機器が接続されている。図1では、かかる電気機器の例として、柱上気中開閉器(AS:Air Switch以下、AS100と称する)を例示している。AS100は、柱上開閉器の一種であり、短絡や地絡といった事故時に高圧配電線による送電を停止(停電)する。図1に示すように、AS100は、電柱102の上方に設置(装柱)され、腕金104に引留装柱された電源側の高圧配電線106aと負荷側の高圧配電線106bが接続されている。本実施形態にかかる浸水量測定装置および浸水量測定方法では、このAS100の外箱100a内への浸水の有無および浸水量を測定する。
【0019】
(浸水量測定装置および浸水量測定方法)
図2は、本実施形態にかかる浸水量測定装置200の概略構成を示す図であり、図2(a)は浸水量測定装置200の概略図であり、図2(b)は浸水量測定装置200の機能構成を示すブロック図である。なお、理解を容易にするために、図2以降の図面では、図1に示したAS100は、その外箱100aのみを模式的に示している。また図2(a)では、外箱100a内に水100cが浸水している場合の水面100dを例示しているが、これはあくまでも例示に過ぎず、必ずしも外箱100a内に水100cが浸水しているとは限らない。
【0020】
図2に示す浸水量測定装置(以下、測定装置200)は、電気機器であるAS100の外箱100aの内部への浸水の有無および浸水量を外箱100aの外から測定する。図2(a)に示すように、本実施形態にかかる測定装置200は、主に、測定端末210と、探触子である超音波発振部240および反射波受信部250と、移動部260とから構成される。測定端末210と、超音波発振部240および反射波受信部250とは、各々ケーブル240aおよび250aを介して有線で接続されている。また超音波発振部240および反射波受信部250は、共に移動部260上に配置されている。なお、これらの超音波発振部240および反射波受信部250は必ずしも両方が移動可能である必要はなく、いずれか一方が移動可能な状態であればよい。
【0021】
図2(a)に示す測定端末210は、図2(b)に示す各部を含んで構成され、後述する超音波発振部240による超音波202の入力を制御し、且つ反射波受信部250により受信された反射波204を計算処理する。以下、測定端末210が含む(機能する)各部について説明する。
【0022】
制御部212は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路により測定装置200全体を管理および制御する。また本実施形態では、制御部212は、パルサー214、レシーバ216、A/D変換部218、距離算出部220、浸水量算出部222としても機能する。
【0023】
パルサー214は、ケーブル240aを介して超音波発振部240に超音波202の波形に応じた電気信号(電流)を送信する。電気信号は超音波発振部240を駆動させるための所定の周波数および間隔で送信される。レシーバ216は、反射波受信部250が超音波202の反射波204を受けて生じたアナログ信号を増幅する。A/D変換部218は、レシーバ216によって増幅されたアナログ信号としての反射波204をデジタル信号に変換する。
【0024】
距離算出部220は、超音波発振部240と、後述する移動部260によって移動した反射波受信部250との距離を算出する。具体的には、エンコーダ(不図示)や、ステッピングモータ(不図示)のパルス数のカウント等の方法を例示することができる。浸水量算出部222は、反射波受信部250が受信した反射波204のピーク時の距離と既知の屈折率に基づいて外箱100a内の浸水の有無および浸水量を算出する。なお、これらの距離算出部220および浸水量算出部222の詳細については後に詳述する。
【0025】
記憶部224は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成され、制御部212で処理されるプログラムを記憶する。表示部226は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)、PDP(Plasma Display Panel)等で構成され、記憶部224に記憶されたアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)を表示することができる。入力部228は、キーボード、十字キー、ジョイスティック等の複数のキー(スイッチ)やマウス等から構成され、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0026】
超音波発振部240は外箱100a内に超音波202を入射する。超音波発振部240が入射する超音波202の波長は、外箱100aの板厚よりも長いとよい。これにより、超音波202を外箱100a内に高効率で入射(透過)させることが可能となる。
【0027】
反射波受信部250は、超音波発振部240によって入射された超音波202が、外箱100aによって反射して生じた反射波204、およびその内部に浸水した水100cの水面100dによって反射して生じた反射波204bを受信する。
【0028】
本実施形態では、超音波発振部240および反射波受信部250は、外箱100aの底面100bの下方において、かかる底面100bから所定間隔d離間し且つ底面100bに対して所定角θ1を有して配置される(図2(a)参照)。すなわち、超音波発振部240は、外箱100aに接触することなく(非接触で)、かかる外箱100a内に入射角θ1の超音波202を入射し、反射波受信部250も外箱100aに非接触で反射波204を受信する。このように、超音波発振部240および反射波受信部250が外箱100aに非接触であることにより、点検作業時におけるAS100の振動が生じることがない。したがって、仮に図2(a)に示すように外箱100aの内部に浸水があった場合であっても、その水面100dの揺れが抑制されるため、内部短絡が防がれ、熟練した点検員でなくとも効率的に点検作業を行うことができる。
【0029】
また超音波発振部240および反射波受信部250が非接触であることにより、通電状態のAS100であっても感電等の人身災害が起きるおそれがない。故に、点検作業時の安全性の大幅な向上を図ることが可能である。
【0030】
しかしながら、超音波発振部240および反射波受信部250を外箱100aの底面100bから離間させた場合、超音波発振部240を外箱100aの底面100bに対して略垂直に配置して超音波202を入射すると、入射した超音波202のほとんどが外箱100aの底面100bによって反射されてしまうため、その内部の浸水を検出することが困難である。そこで、本実施形態では、上述したように超音波発振部240を外箱100aの底面100bに対して所定角θ1を有した状態で配置している。
【0031】
図3は、超音波発振部240の所定角θ1を説明する図であり、図3(a)は入射角検討時の設定を説明するための模式図であり、図3(b)は所定角θ1と超音波202の透過率の関係を示す図である。なお、以下の説明では、AS100の外箱100a(鋼材)の厚みを1mmの場合を例示して説明する。
【0032】
図3(a)に示すように、厚みが1mmの外箱100aに対して超音波202を入射するとき、図3(b)に示すように、入射した超音波202のうち、外箱100a内に透過する超音波202aの割合、すなわち超音波202の透過率は、所定角θ1(入射角θ1)を広げていき、それが10°を超えると急激に上昇する。そして、透過率は12°でピークに達した後、著しく低下する。したがって、最も高い効率で超音波202を外箱100a内に透過させる(入射する)ためには、厚みが1mmの場合、超音波発振部240の所定角θ1(入射角θ1)は、透過率のピーク近傍の角度である10°〜12°が最適であることが理解できる。
【0033】
なお、上述した超音波発振部240の所定角θ1(入射角θ1)の範囲は、外箱100aの厚みが1mmであった場合を例示したものであり、これに限定するものでない。外箱100aの厚みが異なる場合には、所定角θ1(入射角θ1)の範囲も変動することは言うまでもない。
【0034】
上記のように外箱100a内への超音波202の透過率を高めることにより、超音波発振部240および反射波受信部250を外箱100aの底面100bから所定間隔離間した場合であっても、反射波受信部250によって受信できる反射波204の量を増大させることができ、高い測定精度を確保することが可能となる。
【0035】
また測定装置200の測定精度を高めるためには、上述した超音波発振部240の設置時の所定角θ1を最適化して超音波の透過率を高めることとともに、超音波202の空気中での減衰を抑制することも重要である。そのために、本実施形態では、超音波202の周波数、および超音波発振部240と外箱100aの底面100bとの間隔である所定間隔の最適化を検討した。
【0036】
図4は、超音波発振部240によって入射される超音波202の周波数の最適化を説明する図であり、図4(a)は周波数の最適化の検討を説明するための模式図であり、図4(b)は超音波202の周波数と水面100dでの反射エコーの関係を示す図である。なお、水面100dでの反射エコーとは、反射波受信部250によって受信した反射波204の強度である。
【0037】
図4(a)では、厚みが1mmの外箱100aに対して、外箱100aの底面100bとの間の所定間隔が25mm離間した位置に配置した超音波発振部240から、入射角θ1(所定角θ1)の超音波202を、浸水量が30mmの外箱100a内に入射する場合を例示している。また図4(a)では、超音波の入射角θ1を10°、空気中での音速を343.7m/s、水中での音速を1483m/s、鉄中(外箱)での音速を5800m/sとしてスネルの法則を適用して算出し、すなわち既知の屈折率に基づいて超音波202の水中での入射角θ2を49°としている。
【0038】
図4(a)に示す状態で入射角θ1が10°の超音波202を超音波発振部240によって外箱100a内に入射すると、外箱100a内に透過した超音波202aは入射角θ2(49°)で水中を透過し、水面100dにおいて反射する。その反射により発生した波204aは、水面100dから外箱100aの底面100bに向かって水中を透過した後に、外箱100aの底面100bを透過して反射波204として反射波受信部250に受信される。この反射波204の反射エコーは、図4(b)に示すように、超音波発振部240によって入射される超音波202の周波数が250kHzから高周波数になるにしたがって強度が強くなり、380kHz近傍においてピークに達した後に急激に減衰する。したがって、反射波204の反射エコーを最も強い強度で受信するためには、超音波発振部240によって入射される超音波202の周波数は380kHz程度が最適であることが理解できる。
【0039】
図5は、超音波発振部240と外箱100aとの所定間隔dの最適化を説明する図であり、図5(a)は所定間隔dの最適化の検討を説明するための模式図であり、図5(b)は所定間隔dと水面100dでの反射エコーの関係を示す図である。
【0040】
図5(a)では、厚みが1mmの外箱100aに対して、超音波発振部240から、周波数380kHzの超音波202を入射角θ1(10°)で、浸水量が30mmの外箱100a内に入射する場合を例示している。そして、外箱100aの底面100bとの間の所定間隔dを変化させて、反射波受信部250が受信する反射波204の反射エコーの強度を測定した。
【0041】
図5(b)に示すように、超音波発振部240と外箱100aの底面100bとの間の所定間隔が10mm、すなわち測定したデータの中で、超音波発振部240と外箱100aの底面100bとが最も近接している場合において、反射波204の反射エコーの強度は最大である。そして、超音波発振部240と外箱100aの底面100bとを離間させて所定間隔dを広げていくと、反射エコーの強度は徐々に低下し、所定間隔が25mmを超えると反射エコーの強度が著しく低下する。このことから、浸水量の測定時における外箱100aの振動抑制および安全性向上の効果を最大限まで得つつ、測定装置200の高い測定精度を得るという2つの目的を両立するためには、超音波発振部240と外箱100aの底面100bを離間させることができる最大の所定間隔は25mmであることが理解できる。
【0042】
以上説明したように、超音波202の透過率における超音波発振部240の所定角θ1(入射角θ1)の最適値は約10°である。そして、反射波204の受信強度における超音波202の周波数の最適値は約380kHzであり、超音波発振部240と外箱100aの底面100bとの間の所定間隔は約25mmである。以下、これらの最適値を用いた外箱100aへの浸水の有無の測定について説明する。
【0043】
図6は、外箱100aへの浸水の有無の測定について説明する図であり、図6(a)は外箱100aへの浸水の有無の測定を説明するための模式図であり、図6(b)は測定時のエコー強度の波形を示す図である。なお、上述した超音波発振部240の所定角θ1、超音波202の周波数、超音波発振部240と外箱100aの底面100bとの所定間隔以外のパラメータは、図6(a)に示すように、外箱100aの厚みが1mm、外箱100aの浸水量が30mmと仮定する。
【0044】
図6(b)では、横軸を距離としている。この距離とは、超音波発振部240から入射された超音波が、反射波受信部250によって受信されるまでに進んだ距離であり、「距離(mm)=超音波速度(mm/s)×伝達時間(s)」の式から算出される。
【0045】
図6(b)に破線で示される波形は、図6(a)に示す設定において外箱100aに超音波202を入射して測定したエコー強度の波形である。このとき、波形にはまずピーク270aが現れる。このピーク270aは、外箱100aに入射された超音波202の一部が外箱に向かう超音波202cとなり、外箱100aの底面100bで反射することによって発生した反射波204c、すなわちノイズである。破線で示される波形では、ピーク270aに続いてピーク270bが現れる。このピーク270bは、外箱100a内に透過した超音波202aが水面100dによって反射することにより発生した反射波204aが外箱100aを透過した反射波204である。
【0046】
一方、図6(b)に実線で示される波形は、浸水がない外箱100aに図6(a)と同様に超音波202を入射して測定したエコー強度の波形である。すなわち、実線で示す波形はブランクデータである。この実線の波形では、上述したピーク270aは現れているもののピーク270bは現れていない。これは、外箱100a内において浸水がない場合は、超音波202c以外の、外箱100a内に透過した超音波202aは、そのまま外箱100a内の気中を透過し、水面100dに反射することがないためである。
【0047】
したがって、外箱100aに超音波202を入射して測定したエコー強度の波形と、浸水がない外箱100aに超音波202を入射して測定したエコー強度の波形(ブランクデータ)とを比較することにより、水面100dでの反射による反射波204aのピーク270bの有無によって外箱100aへの浸水の有無を検出することができる。
【0048】
上記説明したように、本実施形態にかかる測定装置200によれば、外箱100aへの浸水の有無を容易に検出可能になる。そして、上記の測定を、反射波受信部250を外箱100aの底面100bにおいて移動させながら行うことにより、外箱100aへの浸水量の測定が可能となる。
【0049】
以下、測定装置200を用いた浸水量の測定について説明する。図7は、外箱100aの浸水量の測定について説明する図であり、図7(a)は外箱100aの浸水量の測定を説明するための模式図であり、図7(b)は超音波発振部240および反射波受信部250の距離(以下、プローブ間距離と称する。)と、外箱100a内の浸水量との関係を示す図である。なお、以下の説明では、図7(a)に示すように、超音波発振部240の所定角θ1を10°、超音波202の周波数を380kHz、超音波発振部240と外箱100aの底面100bとの所定間隔dを25mm、外箱100aの厚みを1mm、外箱100aの浸水量を15mmと仮定する。
【0050】
外箱100aの浸水量の測定では、図7(a)に示すように、外箱100aの下方に、その底面100bから所定間隔d離間し且つ底面100bに対して所定角θ1を有した状態で配置された超音波発振部240および反射波受信部250のうち、反射波受信部250を、外箱100aの底面に沿って超音波発振部240に対して離接する方向(白抜き矢印の方向)に移動させる。
【0051】
反射波受信部250の移動は、移動部260(図1参照)によって行われる。上述したように超音波発振部240および反射波受信部250は移動部260上に配置されている。本実施形態において移動部260は、反射波受信部250を走行させるレールである。移動部260によって反射波受信部250が移動した距離、すなわち超音波発振部240および反射波受信部250のプローブ間距離は、距離算出部220によって算出される。
【0052】
レールである移動部260上において、不図示のモータまたは手動にて反射波受信部250を移動させることにより、反射波受信部250は、超音波発振部240に対して外箱100aの底面100bに沿って離接する方向に移動する。すると、図7(a)のように浸水量が15mmであった場合、実線で示す位置にある反射波受信部250、すなわちプローブ間距離が43mmにある反射波受信部250において、図6(b)に示すピーク270bが、それよりも短距離側において確認される。そして、実線の位置にある反射波受信部250を、超音波発振部240から更に離接するように白抜き矢印方向に移動させた破線の位置、すなわちプローブ間距離が78mmにある反射波受信部250では、水面100dが存在しないためそれによる反射波204は発生しない。したがって、図6(b)に示す位置でのピーク270bは確認されない。
【0053】
浸水量が50mm、60mm、70mm、80mm、100mmの外箱100aに超音波202を入射し、上述したように反射波受信部250を移動させて、エコー強度を測定した結果、浸水量とプローブ間距離との関係は図7(b)に示すようにプロットされ、理論値および実験値はほぼ近似している。そして、図7(b)からは外箱100aの浸水量と、プローブ間距離(反射波受信部250が受信した反射波204のピーク時の距離)とは比例関係にあることがわかる。したがって、浸水量算出部222は、水100cおよび外箱100aの材質等の既知の屈折率に基づいて、反射波受信部250が受信した反射波204がピークとなったときのプローブ間距離を参照することにより、外箱100a内の浸水量を算出することができる。
【0054】
上記説明したように、本実施形態にかかる測定装置200および測定方法によれば、超音波発振部240および反射波受信部250は、AS100(電気機器)の外箱100aの底面100bから所定間隔離間して配置されるため、点検作業時におけるAS100の振動、ひいてはそれによる水面の揺れが抑制される。したがって、内部短絡を防止することができ、高い安全性が得られる。また超音波発振部240および反射波受信部250が外箱100aの底面100bとは接触してないため、感電による点検員の人身災害が発生を防ぐことができ、点検作業の効率および点検作業時の安全性の大幅な向上を図ることが可能である。そして、外箱100aの底面100bに対して所定角を有した状態で超音波発振部240を配置することにより、超音波発振部240および反射波受信部250が外箱100aの底面100bに非接触であっても、超音波202の透過率を高めることができる。これにより、高い測定精度を確保しながら、外箱100a内の浸水の有無および浸水量を算出することが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態にかかる浸水量測定装置および浸水量測定方法は、図1に示したAS100のように、電柱102の上方に設置され通電された柱上電気機器に特に好適に適用することができる。これは、電柱102上に設置される柱上電気機器(AS100)では、外箱100aの底面の下方に開放空間を有するため、その外箱100aの底面100bから所定間隔d離間した位置に超音波発振部240および反射波受信部250を好適に配置可能だからである。
【0056】
なお、本実施形態においては、浸水量の測定対象となる電気機器として、AS100を例示したが、かかる例に限定するものではなく、本実施形態にかかる浸水量測定装置および浸水量測定方法は、AS100以外の他の電気機器に対しても適用可能である。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、電気機器の外箱の内部への浸水量を外箱の外から測定する浸水量測定装置および浸水量測定方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
100…AS、100a…外箱、100b…底面、100c…水、100d…水面、102…電柱、104…腕金、106a…高圧配電線、106b…高圧配電線、200…測定装置、202…超音波、202a…超音波、202c…超音波、204…反射波、204a…反射波、204c…反射波、210…測定端末、212…制御部、214…パルサー、216…レシーバ、218…A/D変換部、220…距離算出部、222…浸水量算出部、224…記憶部、226…表示部、228…入力部、240…超音波発振部、240a…ケーブル、250…反射波受信部、250a…ケーブル、260…移動部、270a…ピーク、270b…ピーク、d…所定間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の外箱の内部への浸水量を該外箱の外から測定する浸水量測定装置であって、
前記外箱の底面の下方において、該底面から所定間隔離間し且つ該底面に対して所定角を有して配置され、非接触で該外箱内に超音波を入射する超音波発振部と、
前記外箱の底面の下方において、該底面から所定間隔離間して配置され、前記超音波の反射波を受信する反射波受信部と、
前記反射波受信部を前記外箱の底面に沿って前記超音波発振部に対して離接する方向に移動させる移動部と、
前記超音波発振部と前記反射波受信部の距離を算出する距離算出部と、
前記反射波受信部が受信した反射波のピーク時の前記距離と既知の屈折率に基づいて前記外箱内の浸水の有無および浸水量を算出する浸水量算出部と、
を備えることを特徴とする浸水量測定装置。
【請求項2】
前記超音波の波長は、前記外箱の板厚よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の浸水量測定装置。
【請求項3】
前記電気機器は、電柱の上方に設置され通電された柱上電気機器であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の浸水量測定装置。
【請求項4】
電気機器の外箱の内部への浸水量を該外箱の外から測定する浸水量測定方法であって、
非接触で前記外箱内に超音波を入射する超音波発振部を、該外箱の底面から所定間隔離間し且つ該底面に対して所定角を有した状態で該底面の下方に配置し、
前記超音波の反射波を受信する反射波受信部を、前記外箱の底面から所定間隔離間した状態で該底面の下方に配置し、
前記反射波受信部を前記外箱の底面に沿って前記超音波発振部に対して離接する方向に移動させ、
前記超音波発振部と前記反射波受信部の距離を算出し、
前記反射波受信部が受信した反射波のピーク時の前記距離と既知の屈折率に基づいて前記外箱内の浸水の有無および浸水量を算出することを特徴とする浸水量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−173018(P2012−173018A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32765(P2011−32765)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】