説明

減衰バルブ

【課題】温度変化による減衰力変化を抑制することができる減衰バルブを提供することである。
【解決手段】 上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、緩衝器の伸縮時に流体が通過する通路の途中に設けた環状の弁座1と、弁座1に離着座する弁体2とを備え、弁座1と弁体2との間の隙間あるいは弁座1から弁体2が離座する開弁圧を可変にする緩衝器の減衰バルブV1であって、軸方向に伸縮して弁座1と弁体2の一方を弁座1と弁体2の他方に対して駆動する磁歪素子3と、磁歪素子3に磁界を与えるコイル4と、磁歪素子3と並列されて弁座1と弁体2の他方を弁座1と弁体2の一方に対して位置決める位置決部材5とを備え、磁歪素子3と位置決部材5の線膨張係数と軸方向長さを略同じに設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰バルブの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種減衰バルブにあっては、たとえば、車両用の緩衝器のピストン部等に具現化され、ピストン部に設けたポートの出口端に環状のリーフバルブを積層し、このリーフバルブでポートを開閉するものが知られている。
【0003】
そして、この減衰バルブでは、リーフバルブの背面をピストンリテーナといわれる押圧部材で押圧しており、この押圧力を調節することによって、リーフバルブの撓み量の制御し、リーフバルブでポートを通過する作動油の流れに与える抵抗の大きさを変更して減衰力調整を行うことができるようになっている。
【0004】
この押圧部材の押圧力の調整には、押圧部材をリーフバルブに対して軸方向に遠近させることで行われ、この押圧部材の遠近駆動には磁歪素子が用いられている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−97748号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような減衰バルブにあっては、磁歪素子が緩衝器内に充填される作動油中に晒されるとともに、磁歪素子へ磁界を作用させるため外周至近に設けたコイルを励磁する構造となっていることから、緩衝器が伸縮を繰り返すことによるかコイルの励磁によって、磁歪素子の温度が変化しやすい、具体的には、温度上昇しやすい構造となっている。
【0006】
そして、磁歪素子の磁界の作用による伸縮量は、温度変化による伸縮量に匹敵するため、折角磁歪素子を伸縮させて減衰力調整をしようと試みても、磁歪素子の温度変化による伸縮量が大きいため、緩衝器に所望の減衰力を発生させることが難しい。
【0007】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、温度変化による減衰力変化を抑制することができる減衰バルブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、緩衝器の伸縮時に流体が通過する通路の途中に設けた環状の弁座と、弁座に離着座する弁体とを備え、弁座と弁体との間の隙間あるいは弁座から弁体が離座する開弁圧を可変にする緩衝器の減衰バルブにおいて、軸方向に伸縮して弁座と弁体の一方を弁座と弁体の他方に対して駆動する磁歪素子と、磁歪素子に磁界を与えるコイルと、磁歪素子と並列されて弁座と弁体の他方を弁座と弁体の一方に対して位置決める位置決部材とを備え、磁歪素子と位置決部材の線膨張係数を略同じに設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の減衰バルブによれば、弁体あるいは弁座の一方の駆動する磁歪素子と、弁体或いは弁座の他方を位置決める位置決部材の線膨張係数と軸方向長さが略同じであるため、緩衝器内に充填される流体の温度変化やコイルの発熱によって位置決部材と磁歪素子の温度が変化しても、弁体と弁座との相対位置は温度変化の前後で略同じとなるので、減衰力に対する温度の影響を少なくすることができ、温度変化による減衰力変化を抑制することができる。
【0010】
さらに、減衰力に対する温度の影響を排除するのに、コイルへの通電制御を要しないので、省電力で温度変化による減衰力変化を抑制する効果を安定的に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のバルブ構造を図に基づいて説明する。図1は、一実施の形態における減衰バルブが適用された緩衝器の縦断面図である。図2は、一実施の形態における減衰バルブが適用された緩衝器の一部拡大縦断面図である。図3は、他の実施の形態における減衰バルブが適用された緩衝器の一部拡大縦断面図である。図4は、他の実施の形態の変形例における減衰バルブが適用された緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【0012】
一実施の形態における減衰バルブV1は、この実施の形態の場合、図1および図2に示すように、ユニフロー型に設定される緩衝器の減衰力発生用のバルブに具現化されており、緩衝器のシリンダ10内に設けたロッド側室R1とリザーバRとを連通する通路の途中に設けた環状の弁座1と、弁座1に離着座する弁体2と、軸方向に伸縮して弁座1を弁体2に対して駆動する磁歪素子3と、磁歪素子3に磁界を与えるコイル4と、磁歪素子3と並列されて弁座2を弁座1に対して位置決める位置決部材5とを備えて構成され、弁座1から弁体2が離座する開弁圧を可変にして緩衝器が発生する減衰力を調節するようになっている。
【0013】
なお、緩衝器は、たとえば、図1に示すように、シリンダ10と、シリンダ10内に摺動自在に挿入されるピストン11と、シリンダ10内に移動挿入されてピストン11に連結されるロッド12と、シリンダ10内に挿入したピストン11で区画したロッド側室R1とピストン側室R2と、シリンダ10の外周を覆ってシリンダ10との間に排出通路15を形成するパイプ13と、さらに、パイプ13の外周を覆ってパイプ13との間にリザーバRを形成する外筒14とを備えて構成されており、ロッド側室R1、ピストン側室R2およびリザーバR内には作動油等の流体が充填されるとともにリザーバRには作動油の他に気体が充填されている。なお、流体は、作動油以外にも、減衰力を発揮可能な流体であれば使用可能である。
【0014】
そして、この緩衝器の場合、リザーバRからピストン側室R2へ向かう流体の流れのみを許容する吸込通路16と、ピストン11に設けられてピストン側室R2からロッド側室R1へ向かう流体の流れのみを許容するシリンダ内通路17とを備え、排出通路15はピストン側室R1とリザーバRとを連通し、この場合、減衰バルブV1は、特許請求の範囲に言う通路としての排出通路15の途中に設けられている。
【0015】
この緩衝器は、圧縮作動する際には、ピストン11が図1中下方へ移動してピストン側室R2が圧縮され、ピストン側室R2内の流体がシリンダ内通路17を介してロッド側室R1へ移動する。この圧縮作動時には、ロッド12がシリンダ10内に侵入するためシリンダ10内でロッド侵入体積分の流体が過剰となり、過剰分の流体がシリンダ10から押し出されて排出通路15を介してリザーバRへ排出される。緩衝器は、ロッド側室R1から排出通路15を通過してリザーバRへ移動する流体の流れに減衰バルブV1で抵抗を与えることによって、シリンダ10内の圧力を上昇させて圧側減衰力を発揮する。
【0016】
反対に、緩衝器が伸長作動する際には、ピストン11が図1中上方へ移動してロッド側室R1が圧縮され、ロッド側室R1内の流体が排出通路15を介してリザーバRへ移動する。この伸長作動時には、ピストン11が上方へ移動してピストン側室R2の容積が拡大して、この拡大分に見合った流体が吸込通路16を介してリザーバRから供給される。そして、緩衝器は、ロッド側室R1から排出通路15を通過してリザーバRへ移動する流体の流れに減衰弁V1で抵抗を与えることによってロッド側室R1内の圧力を上昇させて伸側減衰力を発揮する。
【0017】
上述したところから理解できるように、緩衝器は、伸縮作動を呈すると、必ずシリンダ10内から排出通路15を介して流体をリザーバRへ排出し、流体がピストン側室R2、ロッド側室R1、リザーバRを順に一方通行で循環するユニフロー型の緩衝器に設定され、伸圧両側の減衰力を単一の減衰バルブV1によって発生するようになっている。なお、ロッド12の断面積をピストン11の断面積の二分の一に設定しておくことで、同振幅であればシリンダ10内から排出される流体量を伸圧両側で等しく設定できるため、減衰バルブV1が流れに与える抵抗を同じにしておくことで伸側と圧側の減衰力を同じに設定することができる。また、緩衝器の作動流体が気体であって体積補償が不要である場合にはリザーバの設置は任意であるが、この緩衝器の場合、ユニフロー型に設定されているため、リザーバを設けておくほうが好ましい。
【0018】
つづいて、減衰バルブV1は、外筒14の側方に設けた開口部14aに固定される中空なハウジング20と、パイプ13の開口部に設けたスリーブ13aに螺着されてハウジング20内に突出する軸21と、軸21の先端となる図2中右端外周に固定されてハウジング20の内周に当接するホルダ22と、ホルダ22に固定されるとともに軸21の外周に装着される円筒状の位置決部材5と、同じくホルダ22に固定されるとともに位置決部材5の外周側に配置される円筒状の磁歪素子3と、位置決部材5に積層されて内周が軸21の外周に固定される環板状の弁体2と、磁歪素子3の外周に配置されるコイル4とを備えて構成されている。
【0019】
ハウジング20は、図2に示すように、外筒14の開口部14aに固定されるハウジング内筒20aと、ハウジング内筒20aとの間に空間を形成する有底筒状のハウジング外筒20bとを備えている。ハウジング内筒20aの図2中左端の基部外周に設けた鍔20cをハウジング外筒20bの左端開口端に嵌合するとともに、ハウジング外筒20bの底部に設けた凹部20d内にハウジング内筒20aの図2中右端となる先端を嵌合して、ハウジング内筒20aとハウジング外筒20bとを一体化している。なお、ハウジング外筒20bの凹部20dの内周に設けたシールリング20eがハウジング内筒20aの先端外周に密着してハウジング内筒20aとハウジング外筒20bとの間がシールされ、ハウジング20内は密封状態に保たれている。
【0020】
さらに、ハウジング内筒20aとハウジング外筒20bとの間に形成される空間には、コイル4が収容され、コイル4はハウジング外筒20bに設けた切欠20f内に挿通される電力供給用のリード線4aを介して図示しない外部電源から電流供給されるようになっている。なお、ハウジング20は、内部が密封状態に保たれコイル4を直接的であるか間接的であるかにかかわらず装着することが可能であれば、その構成および形状は任意であり、上記したところに限定されない。
【0021】
そして、軸21は、中空であって基端となる図2中左端がスリーブ13aの内周に螺合され、先端となる図2中右端外周には鍔21aが設けられている。この軸21の外周には、図2中右から順に、ホルダ22、位置決部材5、弁体2、間座23およびウェーブワッシャ24が組みつけられ、これらの部材は、軸21をスリーブ13aに螺着することで、スリーブ13aと鍔21aとで挟持されるようになっている。
【0022】
また、ホルダ22、位置決部材5、弁体2および間座23は、ウェーブワッシャ24によって図2中右方となる鍔21a側へ向けて附勢され、軸方向に位置決められている。したがって、温度変化等によって位置決部材5の図2中左右方向となる軸方向の長さが変化をウェーブワッシャ24が吸収して、弁体2と位置決部材5との間に遊びを生じさせないようになっている。すなわち、弁体2は、位置決部材5によって軸21に対して位置決められるようになっている。
【0023】
なお、上記したところでは、弁体2および位置決部材5の附勢をウェーブワッシャ24によって行っているが、スプリングワッシャやゴム等、他の弾性体を用いてもよい。また、ウェーブワッシャ24やこれに変わる弾性体の挿入位置は、軸21の鍔21aとホルダ22との間であってもよい。
【0024】
ホルダ22は、軸21に組み付け可能なように環状とされ外周がハウジング20の内周となる内筒20aの内周に当接するとともに、外周に内筒20aに密着するシールリング22aを装着しており、ハウジング20内を、軸21内を介してシリンダ10とパイプ13との間の環状隙間に連通される部屋Aと、パイプ13と外筒14との間に形成されるリザーバRに通じる部屋Bとに仕切っている。
【0025】
これらホルダ22によって仕切られた部屋A,Bは、ホルダ22に設けたホルダ通路22bによって連通されている。また、ホルダ22は、リザーバR側端となる図2中左端に環状凸部22cを備えており、この環状凸部22cの外周には円筒状の磁歪素子3の図2中右端が嵌合しており、この磁歪素子3は、ホルダ22に固定されている。
【0026】
位置決部材5は、この場合、磁歪素子によって形成されており、コイル4が励磁されることによる磁界の発生や磁界の大きさの調節によって、伸長する正歪を生じて軸方向の長さを変更することができ、ウェーブワッシャ24の附勢によって位置決部材5の軸方向長さの変化に対して弁体2を当該変化に追随させて位置決部材5に接触状態に維持できるので、弁体2の軸方向位置を変更することができるようになっている。
【0027】
磁歪素子3は、位置決部材5の外周に所定隙間を空けて並列配置されており、位置決部材5との間で環状の通路を形成している。また、磁歪素子3は、図2中左端に、弁体2が離着座する環状の弁座1を備えており、コイル4が励磁されることによる磁界の発生や磁界の大きさの調節によって、伸長する正歪を生じて軸方向の長さを変更することができるようになっている。
【0028】
さらに、弁体2は、この場合、環状板を複数枚積層したリーフバルブとされており、内周が軸21に固定されて外周が自由端とされる、いわゆる、外開きに設定され、磁歪素子3の図2中左端に設けた弁座1に離着座するようになっている。すなわち、弁体2は、磁歪素子3と位置決部材5との間を介して作用するロッド側室R1内の圧力によって撓むと、上述の部屋Aと部屋Bとを連通させて排出通路15を開放し、シリンダ10内から排出される流体をリザーバRへ逃がすとともに、この流体の流れに抵抗を与えるようになっている。
【0029】
そして、この実施の形態の場合、磁歪素子3と位置決部材5の温度が同じ状態で軸方向長さは略同じに設定されるとともに、線膨張係数も略同じに設定されている。また、この場合、コイル4の励磁によって同じ大きさの磁界が磁歪素子3と位置決部材5に作用すると、磁歪素子3の方が位置決部材5より長くなるようになっており、たとえば、磁歪素子3と位置決部材5が正歪みする場合には、磁界の大きさに対する歪量は、磁歪素子3より位置決部材5の方が小さく設定され、磁歪素子3と位置決部材5が負歪みする場合には、磁界の大きさに対する歪量は、磁歪素子3より位置決部材5の方が大きく設定されることになる。
【0030】
なお、磁歪素子3と位置決部材5の軸方向長さが略同じとしているのは、完全一致のみならず、本発明の効果、すなわち、温度変化による減衰力変化を抑制できる効果を奏する程度の範囲内での不一致が許容されるからである。このことは磁歪素子3と位置決部材5の線膨張係数についても同様である。
【0031】
すなわち、この実施の形態の場合、コイル4の通電量を変化させることによって、位置決部材5の図2中左端に対する磁歪素子3に設けた弁座1の図2中左右方向の相対位置を変更することができ、コイル4の通電量が大きくなればなるほど、弁体2が弁座1に着座した状態における撓み量を大きくすることができるようになっている。
【0032】
したがって、この減衰バルブV1にあっては、コイル4への通電量に応じて弁体2の初期撓み量を調節することで、開弁圧とともに上記したロッド側室R1内の圧力に対する開弁度合、つまり、ロッド側室R1内の圧力に対する弁座1と弁体2との間の隙間の大きさを調節して、緩衝器の発生減衰力を調節することができる。
【0033】
そして、この減衰バルブV1にあっては、弁体2の位置である図2中左右方向となる軸方向位置を位置決める位置決部材5と、弁座1の位置である図2中左右方向となる軸方向位置を位置決める磁歪素子3の線膨張係数と軸方向長さが略同じであるため、流体の温度変化やコイル4の発熱によって位置決部材5と磁歪素子3の温度が変化しても、弁体2が弁座1に着座した状態における弁体2の撓み量は温度変化の前後で略同じとなるので、減衰力に対する温度の影響を少なくすることができ、温度変化による減衰力変化を抑制することができる。
【0034】
さらに、減衰力に対する温度の影響を排除するのに、コイル4への通電制御を要しないので、省電力で温度変化による減衰力変化を抑制する効果を安定的に得られる。
【0035】
なお、上記したところでは、位置決部材5についても磁歪素子としていたが、位置決部材5を磁歪素子とせずに、磁歪素子3と線膨張係数を略同じにする材料で形成するようにしてもよく、また、弁体2の位置決めについて磁歪素子を用いて弁座の位置決めには磁歪素子を用いない構成としてもよい。
【0036】
また、この実施の形態の場合、磁歪素子3および位置決部材5は、磁界の作用によって正歪を生じるものとしているが、磁界の作用に対して収縮する負歪を呈するものをしてもよく、さらには、磁歪素子3が正歪を呈し、位置決部材5が負歪を呈するように設定してもよく、また、バイアス磁界を作用させるようにしておけば、磁歪素子3を負歪の磁歪素子とし、位置決部材5を正歪の磁歪素子とするようにしてもよい。またさらに、弁体2の初期撓み量を変更させる都合上、磁歪素子3と位置決部材5の磁界の大きさに対する歪量を異なるように設定していたが、予めバイアス磁界を作用させることによって、コイル4への通電量が同じでも磁歪素子3と位置決部材5の歪量が異ならしめることができるので、磁歪素子3と位置決部材5が同じ歪量を呈するものであってもよい。加えて、磁歪素子で弁体2の位置決めをして、弁座については磁歪素子ではない材料にて位置決めをしてもよい。このように、弁体2の位置決めと弁座1の位置決めについて少なくとも一方を磁歪素子で行うようにし、弁体2と弁座1を位置決めする部材の軸方向長さと線膨張係数を略同じにしておけば、両者は温度変化しても弁体2と弁座1の軸方向の相対位置に大きな変化が現れないので、上記効果を奏することが出来るのである。
【0037】
次に、他の実施の形態の減衰バルブV2について説明する。この減衰バルブV2は、一実施の形態と同様の緩衝器に適用されており、図3に示すように、パイプ13の開口部に設けられた有底筒状のスリーブ31と、スリーブ31の底部に設けた孔31a内に挿入される筒部32aと筒部32aの外周に設けた鍔32bとを備えた弁座部材32と、弁座部材32の鍔32aとスリーブ31の底部外面との間に介装された皿バネ33と、弁座部材32に離着座するポペット型の弁体34と、弁体34の外周側に並列配置されて弁座部材32の鍔32bの外周に当接する筒状の位置決部材35と、位置決部材35の外周に配置されるコイル36とを備え、これら部材は、全て外筒14の開口部14aに固定される中空なハウジング30内に収容されている。
【0038】
以下、この他の実施の形態の減衰バルブV2の各部について詳細に説明する。ハウジング30は、筒状であって、外筒14の開口部14aに固定され、外筒14側が小径に設定されて小径部30aと大径部30bとを備えている。
【0039】
そして、ハウジング30の大径部30b内には、コイル36を保持するコイルケース37が収容され、当該コイルケース37は大径部30bの開口端を加締めることによってハウジング30内に固定されている。コイルケース37は、ケース内筒37aと、ケース内筒37aとの間に空間を形成するホルダ外筒37bとを備えて、当該空間内にコイル36を収容している。コイルケース37は、コイル36を収容可能なように、ケース内筒37aとケース外筒37bの二つの部品で構成されており、これらは、ハウジング30へ組み付け後、ハウジング30の開口端の加締め加工によって一体化されている。
【0040】
また、ハウジング30の大径部30bには切欠30cが設けられるとともに、ケース外筒37bにも切欠37cが設けられており、コイル36はこれら切欠30c,37cに挿通される電流供給用のリード線36aを介して図示しない外部電源に接続されて電流供給を受けることができるようになっている。
【0041】
なお、ケース内筒37aの図3中左端の外周にはケース外筒37bが嵌合される鍔37dが設けられており、当該鍔37dの外周にはコイルケース37とハウジング30との間をシールするシールリング38が装着されており、ハウジング30内は密封状態に保たれている。さらに、ケース内筒37aの図3中左端内周から径方向の途中までに架けて切欠37fが設けられている。
【0042】
また、ケース内筒30aの図3中右端には、内周側へ突出するフランジ37eが設けられており、当該フランジ37eの内周には、弁体34を保持するとともに筒状の位置決部材35の内周へ挿入されるホルダ39が螺着されている。
【0043】
ホルダ39は、有底筒状とされて、図3中右端となる底部外周をケース内筒37aのフランジ37eに螺着し、図3中左方の筒部外周を位置決部材35内に挿入してあり、筒部外周にはシールリング40が装着されて位置決部材35との間がシールされている。
【0044】
弁体34は、図3中左端にポペット型の弁頭34aを備えた磁歪素子とされてホルダ39の筒部内に収容固定されており、外周に配置されるコイル36が励磁されると、磁界の作用によって図3中左右方向となる軸方向の歪みを生じるようになっている。また、位置決部材35もこの場合、磁歪素子とされており、弁体34と同様にコイル36が励磁されると、磁界の作用によって図3中左右方向となる軸方向の歪みを生じるようになっている。そして、弁体34および位置決部材35は、軸方向長さおよび線膨張係数が略同じに設定され、磁界の大きさに対する歪量は異なるようになっている。
【0045】
スリーブ31は、有底筒状とされて図3中右端の底部外周に鍔31bが設けられ、当該鍔31bをハウジング30の小径部30aの内周に当接させてある。また、底部にはこれを貫く孔31aが設けられ、当該孔31aには、弁座部材32が摺動自在に挿入されている。また、鍔31bの外周には切欠31cが設けられている。
【0046】
弁座部材32は、スリーブ31の底部に設けた孔31a内に挿入される筒部32aと、筒部32aの外周に設けた鍔32bとを備え、筒部32の図3中右端の内縁にて環状の弁座32cを形成している。さらに、鍔32bの外周から径方向の途中までに架けて切欠32dが設けられている。なお、スリーブ31の孔31aと弁座部材32の筒部32aとの間は、スリーブ31に設けたリールリング41によってシールされ、流体がスリーブ31と弁座部材32との間を通過しないように配慮されている。
【0047】
また、弁座部材32の鍔32aとスリーブ31の底部外面との間には皿バネ33が介装されており、位置決部材35の図3中左端に鍔32bに当接させてある。したがって、位置決部材35は弁座部材32を介して皿バネ33によってコールケース37のケース内筒37aに設けたフランジ37eへ向けて附勢されており、フランジ37eに当接した状態に維持されている。すなわち、位置決部材35は、弁座部材32の図3中左右方向となる軸方向の位置を位置決めしている。
【0048】
そして、この弁座部座32に形成した弁座32cには、位置決部材35の内周側に配置される弁体34の弁頭34aが対向しており、弁座32cに弁体34が接触しておらず弁座32cと弁頭34aとの間に環状隙間が形成されている状態では、スリーブ31内、弁座部材32の筒部32a内、上記環状隙間、弁座部材32に設けた切欠32d、コイルケース37のケース内筒37aに設けた切欠37fおよびスリーブ31の鍔31bの外周に設けた切欠31cを介して、ロッド側室R1とリザーバRとが連通され、これに対して、弁座32に弁体34の弁頭34aが接触して弁座32と弁体34との間に環状隙間が形成されないとロッド側室R1とリザーバRとが遮断状態とされる。
【0049】
つまり、減衰バルブV2にあっては、弁座32と弁体34との間に環状隙間を生じさせて排出通路15を開放することで、シリンダ10内から排出される流体をリザーバRへ逃がすとともに、この流体の流れに抵抗を与えるようになっている。そして、この弁座32と弁体34の間の環状隙間の大きさは、コイル36へ供給する電流量によって調節することができるようになっており、これによって緩衝器の発生減衰力を調節することができるようになっている。
【0050】
この実施の形態の場合、位置決部材35も磁歪素子とされており、弁座32cを備えた弁座部材32が皿バネ33によって位置決部材35に接触状態に維持されているので、コイル36へ供給される電流量によって、弁座32c自体の図3中左右方向となる軸方向の位置を変更することができるようになっている。
【0051】
それゆえ、コイル36の励磁によって同じ大きさの磁界が弁体34と位置決部材5に作用すると、弁体34の方が位置決部材5より短くなるようになっており、たとえば、弁体34と位置決部材35が正歪みする場合には、磁界の大きさに対する歪量は、弁体34より位置決部材35の方が大きく設定され、弁体34と位置決部材35が負歪みする場合には、磁界の大きさに対する歪量は、弁体34より位置決部材35の方が小さく設定されることになる。
【0052】
すなわち、この実施の形態の場合、コイル36の通電量を変化させることによって、位置決部材35によって位置決めされる弁座32cの図3中右端に対するに弁体34の図3中左右方向の相対位置を変更することができ、コイル36の通電量が大きくなればなるほど、弁体34と弁座32cとの間の環状隙間の大きさを大きくすることができるようになっている。
【0053】
したがって、この減衰バルブV2にあっては、コイル36への通電量に応じて弁体34と弁座32cとの間の環状隙間の大きさ、つまり開弁度合を調節することで、緩衝器の発生減衰力を調節することができる。
【0054】
そして、この減衰バルブV2にあっても、弁座32cの位置である図3中左右方向となる軸方向位置を位置決める位置決部材35と、磁歪素子で形成される弁座34の線膨張係数と軸方向長さが略同じであるため、流体の温度変化やコイル36の発熱によって位置決部材35と弁体34の温度が変化しても、弁体34が弁座32cとの間の環状隙間の大きさが温度変化の前後で略同じとなるので、減衰力に対する温度の影響を少なくすることができ、温度変化による減衰力変化を抑制することができる。
【0055】
さらに、減衰力に対する温度の影響を排除するのに、コイル36への通電制御を要しないので、省電力で温度変化による減衰力変化を抑制する効果を安定的に得られる。
【0056】
なお、上記したところでは、位置決部材35についても磁歪素子としていたが、位置決部材35を磁歪素子とせずに、弁体34と線膨張係数を略同じにする材料で形成するようにしてもよく、また、弁体34の位置決めについて磁歪素子を用いて弁座32cの位置決めには磁歪素子を用いない構成としてもよい。
【0057】
また、弁体34および位置決部材35は、磁界の作用によって開弁度合を調節することが可能であれば、正歪の磁歪素子同士、負歪の磁歪素子同士の組み合わせ以外にも、一方を正歪の磁歪素子とし、他方を負歪の磁歪素子とするようにしてもよい。
【0058】
最後に、他の実施の形態の変形例における減衰バルブV3について説明する。この減衰バルブV3は、一実施の形態と同様の緩衝器に適用されており、図4に示すように、他の実施の形態の減衰バルブV2の構成によって開弁圧が制御される主弁50を追加したものである。この変形例における減衰バルブV3の説明に当たり、他の実施の形態の減衰バルブV2と同様の部材については、説明が重複するので、同じ符号を付すのみとしてその詳しい説明を省略することとする。
【0059】
この主弁50は、上記の他の実施の形態の減衰バルブV2の構成と同様の構成によってスリーブ54内に摺動自在に挿入された主弁体51の背面圧を調節して、主弁体51が主弁座52aから離座する開弁圧を制御するようにしている。
【0060】
そのため、他の実施の形態の変形例における減衰バルブV3は、スリーブ54とパイプ13の開口部との間に主弁座52aを備えた主弁座部材52を介装し、この主弁座部材52に離着座可能な主弁体51をスリーブ54内に摺動自在に挿入し、主弁体51を主弁座52aへ向けて附勢するバネ53を主弁体51とスリーブ54の底部との間に介装してある。
【0061】
また、主弁座部材52は、パイプ13の開口部に挿入される筒部52bと、筒部52bの図4中右端外周に設けた鍔状の主弁座52aとを備えて構成され、ハウジング30に固定されるスリーブ54とパイプ13とによって挟持されて、緩衝器に固定されている。そして、スリーブ54の図4中左端には切欠54dが設けられており、この切欠54dを介してスリーブ54内とリザーバRとが連通されるようになっている。
【0062】
スリーブ54は、内部で図4中左右に動く主弁体51を収容するため、他の実施の形態における減衰バルブV2におけるスリーブ31より軸方向に長くされており、切欠54dが設けられるほかはスリーブ31と同様に、底部に設けた孔54aと、ハウジング30に当接する鍔54bと、鍔54bの外周に設けた切欠54cとを備えて構成されている。
【0063】
主弁体51は、有底筒状であって、筒部51aをスリーブ54の内周に摺接させており、スリーブ54内を主弁座52a側となる正面側の空間Cとスリーブ54の底部側となる背面側の空間Dとに仕切っている。また、主弁体51は、底部51bにオリフィス孔51bを備えており、正面側の空間Cと背面側の空間Dとを連通させるとともに、正面側の圧力と背面側の圧力とに差圧が生じるようになっている。
【0064】
そして、この背面側の空間Dの圧力は、他の実施の形態の減衰バルブV2と同様の構成のバルブによって調節されるようになっており、具体的には、弁体34と弁座32cとの間の環状隙間の大きさによって、当該環状隙間を通過する流体の流れに与える抵抗を変化させ、オリフィス孔51bと環状隙間との間の圧力、すなわち、上記した主弁体51の背面側に作用する背面側の空間D内の圧力を調節し、主弁体51が主弁座52aから離座する開弁圧を調節するようにしている。
【0065】
そして、正面側から作用するロッド側室R1の圧力によって主弁体51を図4中右方へ押す力が、背面側から作用する圧力とバネ53のバネ力によって主弁体51を図4中左方へ押す力に打ち勝つと、主弁体51が主弁座52aから離座して主弁座52aとの間に隙間を生じさせ、この隙間を通過した流体は切欠54dを介してリザーバRへ移動するようになる。そして、この隙間を通過する流体の流れに対して主弁体51と主弁座52aとで抵抗を与えることによって緩衝器が減衰力を発揮する。
【0066】
したがって、この他の実施の形態の変形例における減衰バルブV3にあっては、コイル36への通電量に応じて弁体34と弁座32cとの間の環状隙間の大きさ、つまり開弁度合を調節することで、主弁体51の背面側に作用する背面側の空間D内の圧力を調節し、主弁体51が主弁座52aから離座する開弁圧を調節して緩衝器の発生減衰力を調節することができる。
【0067】
そして、この減衰バルブV3にあっても、弁座32cの位置である図4中左右方向となる軸方向位置を位置決める位置決部材35と、磁歪素子で形成される弁座34の線膨張係数と軸方向長さが略同じであるため、流体の温度変化やコイル36の発熱によって位置決部材35と弁体34の温度が変化しても、弁体34が弁座32cとの間の環状隙間の大きさが温度変化の前後で略同じとなるので、減衰力に対する温度の影響を少なくすることができ、温度変化による減衰力変化を抑制することができる。
【0068】
さらに、減衰力に対する温度の影響を排除するのに、コイル36への通電制御を要しないので、省電力で温度変化による減衰力変化を抑制する効果を安定的に得られる。
【0069】
なお、位置決部材35については、弁体34と線膨張係数を略同じにする材料で形成されれば、磁歪素子とされてもよいし、されなくともよい。また、弁体34および位置決部材35は、磁界の作用によって開弁度合を調節することが可能であれば、正歪の磁歪素子同士、負歪の磁歪素子同士の組み合わせ以外にも、一方を正歪の磁歪素子とし、他方を負歪の磁歪素子とするようにしてもよい。
【0070】
また、上述したところから理解できるように、弁体や弁座を駆動する磁歪素子が自身に弁体や弁座を備えていてもよいし、弁体や弁座を備えた部材を磁歪素子で駆動するようにしてもよい。
【0071】
なお、緩衝器は、上述したところでは、ユニフロー型に設定されているので、一つの減衰バルブで伸圧の減衰力を調節することができ、経済性に優れるが、緩衝器の構成は上述したものに限定されるものではなく、また、減衰バルブは、緩衝器のピストン部に具現化されてもよい。
【0072】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】一実施の形態における減衰バルブが適用された緩衝器の縦断面図である。
【図2】一実施の形態における減衰バルブが適用された緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【図3】他の実施の形態における減衰バルブが適用された緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【図4】他の実施の形態の変形例における減衰バルブが適用された緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1,32c 弁座
2,34 弁体
3 磁歪素子
4,36 コイル
4a,36a リード線
5,35 位置決部材
10 シリンダ
11 ピストン
12 ロッド
13 パイプ
13a,31,54 スリーブ
14 外筒
15 排出通路
16 吸込通路
17 シリンダ内通路
20,30 ハウジング
20a ハウジング内筒
20b ハウジング外筒
20c ハウジング内筒における鍔
20d ハウジング外筒における凹部
20e,22a,40,41 シールリング
20f ハウジング外筒における切欠
21 軸
21a 軸における鍔
22,39 ホルダ
22b ホルダにおけるホルダ通路
22c ホルダにおける環状凸部
23 間座
24 ウェーブワッシャ
30a ハウジングにおける小径部
30b ハウジングにおける大径部
30c ハウジングにおける切欠
31a,54a スリーブにおける孔
31b,54b スリーブにおける鍔
31c,54c,54d スリーブにおける切欠
32 弁座部材
32a 弁座部材における筒部
32b 弁座部材における鍔
33 皿バネ
34 弁体
34a 弁頭
37 コイルケース
37a ケース内筒
37b ケース外筒
37c ケース外筒における切欠
37d ケース内筒における鍔
37e ケース内筒におけるフランジ
37f ケース内筒における切欠
50 主弁
51 主弁における主弁体
51a 主弁体における筒部
51b 主弁体におけるオリフィス孔
52 主弁における主弁座部材
52a 主弁座
52b 主弁座部材における筒部
53 主弁におけるバネ
A,B 部屋
C,D 空間
R リザーバ
R1 ロッド側室
R2 ピストン側室
V1,V2,V3 減衰バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器の伸縮時に流体が通過する通路の途中に設けた環状の弁座と、弁座に離着座する弁体とを備え、弁座と弁体との間の隙間あるいは弁座から弁体が離座する開弁圧を可変にする緩衝器の減衰バルブにおいて、軸方向に伸縮して弁座と弁体の一方を弁座と弁体の他方に対して駆動する磁歪素子と、磁歪素子に磁界を与えるコイルと、磁歪素子と並列されて弁座と弁体の他方を弁座と弁体の一方に対して位置決める位置決部材とを備え、磁歪素子と位置決部材の線膨張係数と軸方向長さを略同じに設定したことを特徴とする減衰バルブ。
【請求項2】
円筒状の位置決部材と、位置決部材に外周に配置される円筒状の磁歪素子とを備え、環状板でなる弁体を位置決部材へ向けて附勢して位置決部材に積層させ、弁体の外周を自由端として磁歪素子の端部に形成した弁座に離着座させてなる請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項3】
一端に弁体を備える磁歪素子と、磁歪素子の外周に配置される円筒状の位置決部材と、位置決部材へ向けて附勢されて位置決部材の一端に当接する弁座を備えた弁座部材とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項4】
位置決部材は、磁歪素子とされ、磁界の発生に対して弁座と弁体の一方を駆動させる磁歪素子とは異なる長さの歪を呈することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の減衰バルブ。
【請求項5】
位置決部材あるいは磁歪素子のいずれかにバイアス磁界を掛けることにより、磁界の発生に対して異なる長さの歪を呈することを特徴とする請求項4に記載の減衰バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−25185(P2010−25185A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185656(P2008−185656)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】