説明

炭化ケイ素粉末の製造法

【課題】 本発明は、不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末を安価に得ることのできる改良された炭化ケイ素粉末の製造法を提供する。
【解決手段】 シリカ還元法における炭化ケイ素粉末の製造法において、出発原料としてシリカ粒子粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されていると共に該表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末が付着している複合粒子粉末を用いる炭化ケイ素粉末の製造法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末を安価に得ることのできる改良された炭化ケイ素粉末の製造法を提供する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素セラッミックスは優れた耐食性、耐酸化性を有し、殊に高温下での強度特性にも優れていることから、メカニカルシール、バルブ等の耐摩耗部品、耐食性部品をはじめとしてガスタービンエンジンなどの高温構造用材料として注目されている。また、高純度処理された炭化ケイ素は、半導体製造用部品や真空装置部品にも利用されている。
【0003】
炭化ケイ素セラミックスは、難燒結性物質であるり、原料となる炭化ケイ素粉末の純度、粒子サイズ及び粒度分布といった粉体特性が、焼結性に影響することが知られている。また、殊に、半導体用炭化ケイ素には超高純度化が求められている。
【0004】
炭化ケイ素粉末の製造法としては、1)ハロゲン化ケイ素化合物と炭化水素を加熱反応させる気相反応法、2)有機ケイ素化合物を熱分解反応させる気相熱分解法、3)シリカとカーボンとの反応によるシリカ還元法等が知られている。これらの製造法の中で、1)の気相反応法及び2)の気相熱分解法は、微粒子で且つ高純度の炭化ケイ素粉末を得ることができるが、出発原料として用いるハロゲン化ケイ素化合物や有機ケイ素化合物が、高価であると共に取り扱いが困難であることから、工業的には不利である。3)のシリカ還元法は、古くはAcheson法が知られているが、粉砕プロセスを必要とするため、微粒子化が困難であると共に、不純物の混入を避けられないという欠点を有している。
【0005】
近年、シリカ還元法による微粒子で且つ高純度の炭化ケイ素を得る製造法が提案されており、出発原料としてシリカと炭素粉末とを混合したものを用いる方法(特許文献1乃至4)、ケイ素源としてエチルシリケート等の液状ケイ素化合物を用い、炭素源としてノボラック型フェノール樹脂を用いて得られた前駆体を出発原料とする方法(特許文献5及び6)等が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−212213号公報
【特許文献2】特開昭63−170207号公報
【特許文献3】特開平2−267109号公報
【特許文献4】特開平5−132307号公報
【特許文献5】特開昭60−226406号公報
【特許文献6】特開平9−48605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
比較的安価な製造法でありながら、不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末を得ることのできる製造法は、現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0008】
即ち、特許文献1乃至4には、シリカ還元法による炭化ケイ素粉末の製造法の出発原料として、シリカと炭素粉末との混合物を用いているが、いずれの方法においても、シリカ粒子とカーボンブラック等の炭素成分を単に混合しただけであり、シリカ粒子の粒子表面に炭素成分が均一に存在していないため、下記反応式1に示すシリカ粒子からの炭素による脱酸素反応が不均一・不十分となり、高純度の炭化ケイ素粉末を得ることが困難である。
【0009】
<反応式1>
SiO+3C → SiC+2CO
【0010】
また、特許文献5及び6には、シリカ還元法による炭化ケイ素粉末の製造法の出発原料として、ケイ素源としてエチルシリケート等の液状ケイ素化合物を用い、ノ炭素源としてボラック型フェノール樹脂を用いて得られた前駆体を用いているが、出発原料として用いる有機ケイ素化合物は高価であり、また、反応が不均一であると共に多段熱処理の必要があるため工業的に不利である。
【0011】
そこで、本発明は、比較的安価な製造法でありながら、不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末を得ることのできる製造法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シリカ還元法における炭化ケイ素粉末の製造法において、シリカ粒子粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されていると共に該表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末が付着している複合粒子粉末を出発原料として用いることにより、不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末を安価に得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
即ち、本発明は、シリカ還元法における炭化ケイ素粉末の製造法において、出発原料としてシリカ粒子粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されていると共に該表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末が付着している複合粒子粉末を用いることを特徴とする炭化ケイ素粉末の製造法である(本発明1)。
【0014】
また、本発明は、複合粒子粉末のシリカと炭素粉末の重量割合が1.0:0.6〜1.0:1.0であることを特徴とする本発明1の炭化ケイ素粉末の製造法である(本発明2)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る炭化ケイ素粉末の製造法は、不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末を安価に得ることができるので、メカニカルシール、バルブ等の耐摩耗部品、耐食性部品、ガスタービンエンジンなどの高温構造用材料、半導体製造用部品や真空装置部品等に用いられる炭化ケイ素セラミックス用炭化ケイ素粉末の製造法として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0017】
先ず、本発明に係る炭化ケイ素粉末の製造法について述べる。
【0018】
本発明における不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末は、シリカ還元法における炭化ケイ素粉末の製造法において、シリカ粒子粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されていると共に該表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末が付着している複合粒子粉末を出発原料として用いることにより得ることができる。
【0019】
本発明におけるシリカ粒子粉末としては、無水ケイ酸、含水ケイ酸、無水ケイ酸塩及び含水ケイ酸塩等のホワイトカーボンや、シリカゲルのような、シリカを主成分としている物質であれば、いずれをも用いることができる。得られる炭化ケイ素の純度を考慮すれば、塩等を含まない無水ケイ酸及び含水ケイ酸が好ましい。
【0020】
シリカ粒子粉末の粒子形状は、球状、粒状、不定形、針状及び板状等のいずれの形状であってもよい。シリカ粒子表面への炭素粉末の処理の均一化を考慮すれば、粒子形状は球状もしくは粒状が好ましい。
【0021】
シリカ粒子粉末の粒子サイズは、平均粒子径が0.001〜1.0μm、好ましくは0.002〜0.5μm、より好ましくは0.003〜0.2μmである。
【0022】
平均粒子径が1.0μmを超える場合には、炭素粉末と接触していない粒子内部のSiOの割合が増えるため、得られる炭化ケイ素粉末の炭化率が低減する。平均粒子径が0.001μm未満の場合には、粒子の微細化による分子間力の増大により凝集を起こしやすくなるため、表面改質剤を介したシリカ粒子表面への均一な炭素粉末付着処理が困難となる。
【0023】
シリカ粒子粉末のBET比表面積値は3m2/g以上が好ましく、より好ましくは6m2/g以上であり、更により好ましくは15m2/g以上である。BET比表面積値が3m2/g未満の場合には、シリカ粒子が粗大であり、炭素粉末と接触していない粒子内部のSiOの割合が増えるため、得られる炭化ケイ素粉末の炭化率が低減する。表面改質剤を介したシリカ粒子表面への均一な炭素粉末付着処理を考慮すると、その上限値は800m2/gが好ましく、より好ましくは600m2/g、更により好ましくは400m2/gである。
【0024】
シリカ粒子粉末としては、粒子粉末中の含水率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは7%以下であり、より好ましくは5%以下である。シリカ粒子粉末中の含水率が10%を超える場合には、未反応のシリカが残存し易くなり、純度が低下するため好ましくない。
【0025】
本発明における表面改質剤としては、シリカ粒子の粒子表面へ炭素粉末を付着できるものであれば何を用いてもよく、好ましくはアルコキシシラン、シラン系カップリング剤及びオルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、高分子化合物等が好適に用いられる。
【0026】
有機ケイ素化合物としては、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン及びデシルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ―メタクロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、等のシラン系カップリング剤、ポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、変性ポリシロキサン等のオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0027】
高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸−マレイン酸コポリマー、オレフィン−マレイン酸コポリマー等が挙げられる。
【0028】
表面改質剤の被覆量は、シリカ粒子粉末に対してC換算で0.01〜15.0重量%が好ましい。0.01重量%未満の場合には、シリカ粒子粉末100重量部に対して60重量部以上の炭素粉末を付着させることが困難である。0.01〜15.0重量%の被覆によって、シリカ粒子粉末100重量部に対して炭素粉末を60〜100重量部付着させることができるため、必要以上に被覆する意味がない。より好ましくは0.02〜12.5重量%、更に好ましくは0.03重量%〜10.0重量%である。
【0029】
本発明における炭素粉末としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びアセチレンブラック等のカーボンブラック粒子粉末及び黒鉛粉末を用いることができる。
【0030】
本発明における炭素粉末の付着量は、シリカ粒子粉末100重量部に対して60〜100重量部である。60重量部未満の場合には、シリカ粒子に対する炭素成分が少なすぎるため、カーボンによるSiOからの脱酸素反応が不十分となり、未反応のSiOが残存するため純度を低下させることとなる。また、100重量部を超える場合には、反応に寄与せず不純物として残存する炭素成分量が多くなり、高純度化に対して不利となるため好ましくない。得られる炭化ケイ素粉末の高純度化を考慮すれば、シリカ粒子粉末100重量部に対する炭素粉末の付着量は、62〜90重量部が好ましく、より好ましくは64〜80重量部である。
【0031】
本発明における複合粒子粉末は、シリカ粒子粉末と表面改質剤とを混合し、シリカ粒子粉末の粒子表面を表面改質剤によって被覆し、次いで、表面改質剤によって被覆されたシリカ粒子粉末と炭素粉末とを混合することによって得ることができる。
【0032】
シリカ粒子粉末の粒子表面への表面改質剤による被覆は、シリカ粒子粉末と表面改質剤又は表面改質剤の溶液とを機械的に混合攪拌したり、シリカ粒子粉末に表面改質剤の溶液又は表面改質剤を噴霧しながら機械的に混合攪拌すればよい。
【0033】
シリカ粒子粉末と表面改質剤との混合攪拌、炭素粉末と粒子表面に表面改質剤が被覆されているシリカ粒子粉末との混合攪拌をするための機器としては、粉体層にせん断力を加えることのできる装置が好ましく、殊に、せん断、へらなで及び圧縮が同時に行える装置、例えば、ホイール型混練機、ボール型混練機、ブレード型混練機、ロール型混練機を用いることができ、ホイール型混練機がより効果的に使用できる。
【0034】
前記ホイール型混練機としては、エッジランナー(「ミックスマラー」、「シンプソンミル」、「サンドミル」と同義語である)、マルチマル、ストッツミル、ウエットパンミル、コナーミル、リングマラー等があり、好ましくはエッジランナー、マルチマル、ストッツミル、ウエットパンミル、リングマラーであり、より好ましくはエッジランナーである。前記ボール型混練機としては、振動ミル等がある。前記ブレード型混練機としては、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、ナウターミキサー等がある。前記ロール型混練機としては、エクストルーダー等がある。
【0035】
シリカ粒子粉末と表面改質剤との混合攪拌時における条件は、シリカ粒子粉末の粒子表面に表面改質剤ができるだけ均一に被覆されるように、線荷重は19.6〜1960N/cm、好ましくは98〜1470N/cm、より好ましくは147〜980N/cm、処理時間は5分〜24時間、好ましくは10分〜20時間の範囲で処理条件を適宜調整すればよい。なお、撹拌速度は2〜2000rpm、好ましくは5〜1000rpm、より好ましくは10〜800rpmの範囲で処理条件を適宜調整すればよい。
【0036】
シリカ粒子粉末の粒子表面に表面改質剤を被覆した後、炭素粉末を添加し、混合攪拌して表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末を付着させる。必要により更に、乾燥乃至加熱処理を行ってもよい。
【0037】
炭素粉末は、少量ずつを時間をかけながら、殊に5分〜24時間、好ましくは5分〜20時間程度をかけて添加するか、もしくは、シリカ粒子粉末100重量部に対して5〜25重量部の炭素粉末を、所望の添加量となるまで分割して添加することが好ましい。
【0038】
混合攪拌時における条件は、炭素粉末が均一に付着するように、線荷重は19.6〜1960N/cm、好ましくは98〜1470N/cm、より好ましくは147〜980N/cm、処理時間は5分〜24時間、好ましくは10分〜20時間の範囲で処理条件を適宜調整すればよい。なお、撹拌速度は2〜2000rpm、好ましくは5〜1000rpm、より好ましくは10〜800rpmの範囲で処理条件を適宜調整すればよい。
【0039】
乾燥乃至加熱処理を行う場合の加熱温度は、通常40〜80℃が好ましく、より好ましくは50〜70℃であり、加熱時間は、10分〜6時間が好ましく、30分〜3時間がより好ましい。
【0040】
なお、表面改質剤としてアルコキシシランもしくはシランカップリング剤を用いた場合には、これらの工程を経ることにより、最終的にはアルコキシシランもしくはシランカップリング剤から生成するオルガノシラン化合物となって被覆されている。
【0041】
本発明における複合粒子の粒子形状や粒子サイズは、シリカ粒子の粒子形状や粒子サイズに大きく依存し、シリカ粒子に相似する粒子形態を有している。
【0042】
本発明における複合粒子粉末の粒子形状は、球状、粒状、不定形、針状及び板状等のいずれの形状であってもよい。
【0043】
本発明における複合粒子粉末の粒子サイズは、平均粒子径が0.001〜1.0μm、好ましくは0.002〜0.5μm、より好ましくは0.003〜0.2μmである。平均粒子径が1.0μmを超える場合には、炭素粉末と接触していない粒子内部のSiOの割合が増えるため、得られる炭化ケイ素粉末の純度が低下する。
【0044】
本発明における複合粒子粉末のBET比表面積値は3〜800m2/gが好ましく、より好ましくは6〜600m2/gであり、更により好ましくは15〜400m2/gである。BET比表面積値が3m2/g未満の場合には、シリカ粒子が粗大であり、炭素粉末と接触していない粒子内部のSiOの割合が増えるため、得られる炭化ケイ素粉末の純度が低下する。
【0045】
本発明における複合粒子粉末中のシリカ粒子に対する含水率は10%以下であることが好ましく、より好ましくは7%以下であり、より好ましくは5%以下である。複合粒子粉末中の含水率が10%を超える場合には、未反応のシリカが残存し易くなり、純度が低下するため好ましくない。
【0046】
本発明における複合粒子粉末の炭素粉末の脱離率は20%以下が好ましく、より好ましくは15%以下、更により好ましくは10%以下である。炭素粉末の脱離率が20%を超える場合には、シリカと接触することなく不均一に存在する炭素粉末が多くなるため、得られる炭化ケイ素粉末の純度が低下する。
【0047】
本発明における炭化ケイ素粉末は、前述のシリカ粒子粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されていると共に該表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末が付着している複合粒子粉末を出発原料として用い、非酸化性雰囲気下、所定の温度で加熱焼成することにより還元・炭化する。必要に応じて、酸化性雰囲気下600〜800℃で加熱することにより脱炭素処理及び/またはフッ酸等による残存シリカの溶解・除去処理を行ってもよい。
【0048】
出発原料としての複合粒子粉末は、必要に応じて予め造粒体を形成しておいてもよい。造粒体を形成しておくことで、得られる炭化ケイ素のハンドリング性を改善することができる。造粒の方法は、圧縮造粒、押出し造粒、転動造粒、噴霧造粒等が挙げられる。
【0049】
造粒体を形成する際に用いるバインダーとしては、得られる炭化ケイ素中に不純物として残存しないものが好ましい。具体的には、でんぷん、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂等を用いることができる。
【0050】
窒素雰囲気を形成するためのガスとしては、HeガスもしくはArガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0051】
非酸化性雰囲気下の加熱焼成温度は、1500〜2000℃の範囲が好ましく、より好ましくは1550〜1950℃、更により好ましくは1600〜1900℃である。加熱焼成温度が1500℃以下の場合は、炭化ケイ素粉末の生成反応が起こりにくく、また、未反応のシリカや炭素が残存し易くなるため好ましくない。2000℃以上の場合には、粒子成長が進み粉砕が困難になると共に、α型炭化ケイ素が生成しβ型炭化ケイ素と混在するため好ましくない。
【0052】
非酸化性雰囲気下の加熱焼成による還元窒化反応の終点判定は、反応炉内のCO発生量をモニタリングすることにより行い、CO発生量が好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更により好ましくは10ppm以下となった時点を終点とした。
【0053】
本発明における炭化ケイ素粉末は、必要により、上述の還元炭化処理後冷却したものを、脱炭素処理のために、更に酸化性雰囲気下、600〜800℃の温度範囲で1時間以上、好ましくは3時間以上加熱処理を行う。
【0054】
本発明の製造法によって得られる炭化ケイ素の結晶形はβ型であり、粒子形状としては、製造条件により、粒状、不定形及び針状等、様々な粒子形状のものを得ることができる。
【0055】
本発明の製造法によって得られる炭化ケイ素粉末の粒子サイズは、0.001〜10μmであり、好ましくは0.005〜8μm、より好ましくは0.01〜5μmである。
【0056】
本発明の製造法によって得られる炭化ケイ素粉末のBET比表面積値は、0.1〜200m/gが好ましく、より好ましくは0.5〜150m/gである。
【0057】
本発明の製造法によって得られる炭化ケイ素粉末の粒度分布は、粒子径の幾何標準偏差値が2.5以下であり、好ましくは2.3以下、より好ましくは2.0以下である。粒子径の幾何標準偏差値が2.5を超える場合には、存在する粗大粒子によって成形体焼結時の燒結特性が低下するため好ましくない。
【0058】
本発明の製造法によって得られる炭化ケイ素粉末の残留シリカは1%以下であり、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.6%以下である。
【0059】
本発明の製造法によって得られる炭化ケイ素粉末の残留炭素は1.5%以下であり、好ましくは1.3%以下、より好ましくは1.1%以下である。
【0060】
<作用>
本発明において最も重要な点は、シリカ還元法における炭化ケイ素粉末の製造法において、シリカ粒子粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されていると共に該表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末が付着している複合粒子粉末を出発原料として用いることにより、不純物が少なくシャープな粒度分布を有すると共に、優れた成形性を有する炭化ケイ素粉末を安価に得ることができるという事実である。
【0061】
本発明に係る製造法によって得られた炭化ケイ素粉末不純物が少ない理由として、本発明者は次のように考えている。シリカ還元法による炭化ケイ素粉末の生成は下記式2に示す反応であり、最初に、炭素によりSiOが還元され、次いで窒化反応が起こることが知られている。本発明の製造法によれば、炭素供給源となる炭素粉末がシリカ粒子粉末の粒子表面に表面改質剤を介して均一に付着している複合粒子粉末を出発原料として用いることにより、従来のシリカ粒子粉末とカーボンブラック等の炭素成分とを単に混合したものに比べて、シリカ粒子からの炭素による還元反応が均一に起こることにより、残留シリカ及び残留炭素の少ない炭化ケイ素を得ることができたものと推定している。また、複合粒子粉末中のシリカ粒子の含水率が低いものを選ぶことによっても、反応率を向上させることができる。
【0062】
<式2>
SiO+C → SiO+CO …(1)
SiO+2C → SiC+CO …(2)
【実施例】
【0063】
以下、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0064】
シリカ粒子粉末、炭素粉末、複合粒子粉末及び炭化ケイ素粉末の平均粒子径は、いずれも電子顕微鏡写真に示される粒子350個の粒子径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0065】
炭化ケイ素粉末の粒子径の粒度分布は、下記の方法により求めた幾何標準偏差値で示した。
【0066】
即ち、上記拡大写真に示される粒子の粒子径を測定した値を、その測定値から計算して求めた粒子の実際の粒子径と個数から統計学的手法に従って対数正規確率紙上に横軸に粒子径を、縦軸に所定の粒子径区間のそれぞれに属する粒子の累積個数(積算フルイ下)を百分率でプロットする。そして、このグラフから粒子の個数が50%及び84.13%のそれぞれに相当する粒子径の値を読みとり、幾何標準偏差値=積算フルイ下84.13%における粒子径/積算フルイ下50%における粒子径(幾何平均径)に従って算出した値で示した。幾何標準偏差値が1に近いほど、粒子の粒度分布が優れていることを意味する。
【0067】
比表面積値は、BET法により測定した値で示した。
【0068】
シリカ粒子粉末及び複合粒子粉末中のシリカ粒子粉末の含水率は、1000℃で2時間灼熱前後のシリカ粒子粉末の重量を測定し、下記数1に従って求めた値で示した。なお、複合粒子粉末の場合は、予め、後述する方法により付着している炭素粉末と表面改質剤の量を測定し、複合粒子粉末の重量から差し引くことによって複合粒子粉末中のシリカ粒子の重量を算出しておくことによって求める。
【0069】
<数1>
シリカ粉末の含水率(%)={(Wa−We)/Wa}×100
Wa:シリカ粒子粉末の重量
We:1000℃で2時間灼熱後のシリカ粒子粉末の重量
【0070】
シリカ粒子粉末の粒子表面に被覆されている表面改質剤の被覆量及びシリカ粒子粉末に付着している炭素粉末の付着量は、「堀場金属炭素・硫黄分析装置EMIA−2200型」(株式会社堀場製作所製)を用いて炭素量を測定することにより求めた。
【0071】
複合粒子粉末に付着している炭素粉末の脱離率(%)は、下記の方法により求めた値で示した。炭素粉末の脱離率が0%に近いほど、粒子表面からの炭素粉末の脱離量が少ないことを示す。
【0072】
複合粒子粉末3gとエタノール40mlを50mlの沈降管に入れ、20分間超音波分散を行った後、120分静置し、比重差によって複合粒子粉末と脱離した炭素粉末を分離した。次いで、この複合粒子粉末に再度エタノール40mlを加え、更に20分間超音波分散を行った後120分静置し、複合粒子粉末と脱離した炭素粉末を分離した。この複合粒子粉末を100℃で1時間乾燥させ、前述の「堀場金属炭素・硫黄分析装置EMIA−2200型」(株式会社堀場製作所製)を用いて炭素量を測定し、下記数2に従って求めた値を炭素粉末の脱離率(%)とした。
【0073】
<数2>
炭素粉末の脱離率(%)={(Wa−We)/Wa}×100
Wa:複合粒子粉末の炭素粉末付着量
We:脱離テスト後の複合粒子粉末の炭素粉末付着量
【0074】
炭化ケイ素粉末の結晶相の確認は、「X線回折装置 RINT 2500」(理学電機株式会社)を用いて粉末X線回折により行った。
【0075】
炭化ケイ素粉末の残留シリカ(重量%)は、「O/N分析計 TC−436」(LECO株式会社製)を用いて酸素含有量を測定することにより求めた。
【0076】
炭化ケイ素粉末の残留炭素(重量%)は、「堀場金属炭素・硫黄分析装置EMIA−2200型」(株式会社堀場製作所製)を用いて全炭素量を測定し、上記残留シリカ量より求められる反応シリカ量(全シリカ量より未反応の残留シリカ分の除いたシリカ量より算出)から反応に要する必要炭素量を算出し、全炭素量から反応に用いられた炭素量を引いた値で示した。
【0077】
<複合粒子1:複合粒子粉末の製造>
シリカ粒子粉末(シリカ粒子1)(粒子形状:球状、平均粒子径:0.012μm、BET比表面積値:209.5m/g、含水率0.4%)10kgに、メチルハイドロジェンポリシロキサン(商品名:TSF484:GE東芝シリコーン株式会社製)400gを、エッジランナーを稼動させながらシリカ粒子粉末に添加し、588N/cmの線荷重で40分間混合攪拌を行った。なお、この時の攪拌速度は22rpmで行った。
【0078】
次に、炭素粉末(種類:カーボンブラック、粒子形状:粒状、粒子径0.022μm、BET比表面積値133.5m2/g)6.4kgを、エッジランナーを稼動させながら10分間かけて添加し、更に588N/cmの線荷重で90分間混合攪拌を行い、メチルハイドロジェンポリシロキサン被覆にカーボンブラックを付着させた後、乾燥機を用いて105℃で60分間乾燥を行い、複合粒子粉末を得た。なお、この時の攪拌速度は22rpmで行った。
【0079】
得られた複合粒子粉末は、平均粒子径が0.016μmの粒状粒子であった。BET比表面積値は132.6m2/gであり、複合粒子粉末中のシリカ粒子の含水率は0.21重量%、炭素粉末の脱離率は5.6%、SiOとCの重量配合割合は1.0:0.638であった。電子顕微鏡写真の観察結果より、カーボンブラックがほとんど認められないことから、カーボンブラックのほぼ全量がメチルハイドロジェンポリシロキサン被覆を介してシリカ粒子粉末の粒子表面に付着していることが認められた。
【0080】
<実施例1:炭化ケイ素粉末の製造>
前記複合粒子粉末を出発原料として黒鉛製容器に入れ、Arガスを流しながら1650℃で5時間加熱焼成を行い、還元窒化処理を行った。反応終了時のCO濃度は9ppmであった。得られた粉末を、空気中700℃で3時間加熱処理を行い、未反応炭素を燃焼除去して炭化ケイ素粉末を得た。
【0081】
得られた炭化ケイ素粉末は、平均粒子径が0.72μmの粒状粒子であった。幾何標準偏差値は1.96、BET比表面積値は14.6m2/gであり、結晶形はβ形、残留シリカは0.4重量%、残留炭素は0.81重量%であった。
【0082】
前記複合粒子1〜実施例1に従って出発原料としての複合粒子粉末及び炭化ケイ素粉末を作製した。各製造条件及び得られた複合粒子粉末及び炭化ケイ素粉末の諸特性を示す。
【0083】
シリカ粒子1〜3:
シリカ粒子粉末として表1に示す特性を有するシリカ粒子粉末を用意した。
【0084】
【表1】

【0085】
炭素粉末A〜C:
炭素粉末として表2に示す特性を有する炭素粉末を用意した。
【0086】
【表2】

【0087】
<複合粒子>
複合粒子2〜3、比較複合粒子1:
シリカ粒子粉末の種類、表面改質剤による被覆工程における添加物の種類、添加量、エッジランナー処理の線荷重及び時間、炭素粉末の付着工程における炭素粉末の種類、添加量、エッジランナー処理の線荷重及び時間を種々変化させた以外は、前記複合粒子1と同様にして複合粒子粉末を得た。
【0088】
このときの製造条件を表3に、得られた複合粒子粉末の諸特性を表4に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
<炭化ケイ素の製造法>
実施例2〜3、比較例1:
出発原料の種類、種晶の配合割合、還元窒化処理における反応温度及び反応時間、脱炭素処理における加熱温度及び加熱時間を種々変化させた以外は、前記実施例1の炭化ケイ素の製造と同様にして炭化ケイ素粉末を得た。
【0092】
このときの製造条件を表5に、得られた炭化ケイ素粉末の諸特性を表6に示す。
【0093】
【表5】

【0094】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ還元法における炭化ケイ素粉末の製造法において、出発原料としてシリカ粒子粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されていると共に該表面改質剤被覆シリカ粒子表面に炭素粉末が付着している複合粒子粉末を用いることを特徴とする炭化ケイ素粉末の製造法。
【請求項2】
複合粒子粉末のシリカと炭素粉末の重量割合比が1.0:0.6〜1.0:1.0であることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素粉末の製造法。


【公開番号】特開2006−256941(P2006−256941A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80073(P2005−80073)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】