説明

無線通信システムおよび無線通信システムにおける車載システムの製造方法

【課題】スマートシステムにおいて、車載システムから携帯機へのリクエスト信号の電波強度を所望の範囲内に抑えると共に、ノイズ耐性も悪化させないで、リクエスト信号の到達範囲を大きくする。
【解決手段】車載システムは、LF周波数帯を用いて携帯機へリクエスト信号を送信するLF送信部を備え、LF送信部は、所定のLFデータをスペクトラム拡散方式で拡散変調して拡散データ信号を生成する拡散処理部31と、拡散データ信号をLF波帯を中心とする変調信号へ変換すると共に増幅してリクエスト信号としてLF送信アンテナに出力する変調・ドライバ部33、35と、を備えたことを特徴とする無線通信システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムおよび無線通信システムにおける車載システムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される車載システムとユーザーが持つ携帯機とが双方向に通信する無線通信システムにおいて、車両近傍が通信エリアとなるよう、車載システムから携帯機へLF周波数帯を用いて車両側リクエスト信号を送信し、その応答として携帯機から車載システムへ携帯側信号を返信し、この携帯側信号を受信した車載システムが、車両内のアクチュエータ(ドアの解錠装置、ドアの施錠装置、灯具等)を作動させるスマートシステムの技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−104429号公報
【特許文献2】特開2010−001642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなスマートシステムの技術において、車両側リクエスト信号の到達範囲を広げたいというニーズがある。リクエスト信号の到達範囲の拡大を行うための方法としては、車載システム側でLF出力を拡大させる方法があるが、単にLF出力を拡大させると、送信させるリクエスト信号の強度が大きくなるので、リクエスト信号の電波強度を強めたくない場合(例えば、電波法法規によって或る上限を超える強度が禁止されている場合)には適用できない。
【0005】
また、携帯機側の受信感度を向上させることでリクエスト信号の到達範囲を拡大させるという方法もあるが、受信感度向上によってノイズ耐性が悪化してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、スマートシステムにおいて、車載システムから携帯機へのリクエスト信号の電波強度を所望の範囲内に抑えると共に、ノイズ耐性も悪化させないで、リクエスト信号の到達範囲を大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、車両に搭載される車載システム(10)とユーザーが持つ携帯機(20)とを備え、前記車載システムと前記携帯機とが双方向に通信する無線通信システムであって、前記車載システムは、LF周波数帯を用いて前記携帯機へリクエスト信号を送信する送信手段(3)を備え、前記携帯機は、前記リクエスト信号を受信したことに基づいて応答信号を前記車載システムに送信し、前記車載システムは更に、前記応答信号を受信し、前記応答信号を受信したことに基づいて、前記車両内のアクチュエータ(6)を作動させるスマート駆動手段(4、5、13)を備え、前記送信手段(3)は、所定のLFデータをスペクトラム拡散方式で拡散変調して拡散データ信号を生成する拡散処理手段(31、32)と、前記拡散データ信号をLF波帯を中心とする変調信号へ変換すると共に増幅して前記リクエスト信号としてアンテナ(2)に出力する変調・ドライバ手段(33、35)と、を備えたことを特徴とする無線通信システムである。
【0008】
このように、無線通信システムの車載システムにおいて、LFデータをスペクトラム拡散方式で拡散変調することで、LFデータの信号が広帯域に分散されるので、LFデータを拡散変調しなかった場合に比べて、出力電力のピークレベルが下がる。したがって、LFデータを拡散変調しなかった場合よりも、信号の増幅率を上げることができ、その結果、車載システムから携帯機へのリクエスト信号の電波強度を所望の範囲内に抑えると共に、ノイズ耐性も悪化させないで、リクエスト信号の到達範囲を大きくすることが可能となる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信システムにおいて、前記アンテナ(2)から出力された信号の最大強度は、105dBuV/m未満であり、仮に、前記所定のLFデータを、前記拡散処理手段(31、32)を迂回させて前記変調・ドライバ手段(33、35)に入力した場合、それによって前記アンテナ(2)から出力される信号の最大強度は、105dBuV/mよりも大きいことを特徴とする。このようにすることで、電波法の制限を破ることなく、通信可能範囲が広げることができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の無線通信システムにおいて、前記変調・ドライバ手段(33、35)における増幅の増幅率は、前記拡散処理手段(31、32)における拡散変調の拡散率が大きいほど大きくなることを特徴とする。このように、拡散率に応じて増幅率を設定することで、拡散率に応じて適切に通信可能範囲を拡張することができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、車両に搭載される車載機(10)とユーザーが持つ携帯機(20)とを備え、前記車載機と前記携帯機とが双方向に通信する無線通信システムにおける、前記車載機を製造する方法であって、LF周波数帯を用いて前記携帯機へリクエスト信号を送信する送信手段(3)であって、所定のLFデータをスペクトラム拡散方式で所定の拡散率で拡散変調して拡散データ信号を生成する拡散処理手段(31、32)と、前記拡散データ信号をLF波帯を中心とする変調信号へ変換すると共に所定の増幅率で増幅して前記リクエスト信号としてアンテナ(2)に出力する変調・ドライバ手段(33、35)と、を備えた送信手段(3)を、を前記車載機に取り付ける工程と、前記リクエスト信号を受信した前記携帯機によって送信される応答信号を受信し、前記応答信号を受信したことに基づいて、前記車両内のアクチュエータ(6)を作動させるスマート駆動手段(4、5、13)を前記車載機に取り付ける工程と、前記変調ドライバ手段(33、35)の前記増幅率を、前記拡散処理手段(31、32)の前記拡散率に応じて設定する工程と、を備えたことを特徴とする製造方法である。このように、拡散率に応じて増幅率を設定することで、拡散率に応じて適切に通信可能範囲を拡張することができる。
【0012】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るスマートシステムの構成を示す図である。
【図2】LF送信部3およびLF受信部22の構成図である。
【図3】スマートECU1の車両側制御部13が実行する処理のフローチャートである。
【図4】携帯機20の制御部26が実行する処理のフローチャートである。
【図5】LF送信アンテナ2から送出される信号の電力レベルを示すグラフであり、(a)は拡散変調を行わない場合、(b)は拡散率が15の場合、(c)は拡散率が31の場合、(d)は拡散率が63の場合を示す。
【図6】横軸をLF送信アンテナ2からの距離dとし、縦軸を強度とするグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係るスマートシステム(無線通信システムの一例に相当する)の構成を示す。このスマートシステムは、スマート駆動として、お出迎え制御(ウェルカムライト点灯等)、車両のドアの解錠および車両駆動装置(例えばエンジン)の始動を行うものであり、車両に搭載される車載システム10と、ユーザーに携帯される携帯機20とを備えている。
【0015】
このシステムにおいては、車載システム10から携帯機20へは、LF波帯のリクエスト信号が送信され、携帯機20から車載システム10へはRF波帯の応答信号が送信される。
【0016】
ここで、LF帯通信距離について説明する。RF帯における通信の場合は、波長が短いために近距離における通信の場合でも、通信は放射電磁界の領域で通信が行われるが、スマートシステムのような近距離におけるLF帯の無線通信の場合は通信距離に比べて非常に波長が長く、通信は誘導電磁界の領域で行われる。RF帯での距離減衰は距離の2乗に反比例して減衰するが、LF帯での距離減衰は距離の3乗に反比例して減衰する。このためLF帯での通信は特定のエリアに限定した通信が可能になる。
【0017】
車載システム10は、スマートECU1、LF送信アンテナ2、LF送信部3、RF受信アンテナ4、RF復調部5、センサ6、アクチュエータ7を有している。
【0018】
LF送信アンテナ2は、LF波帯の信号(LF電波)を無線送信するためのアンテナである。LF送信部3は、スマートECU1から出力されたLFデータの信号をLF波帯の信号に変調してLF送信アンテナ2に出力する回路である。変調方式としては、スペクトラム拡散方式等を採用する。
【0019】
ここで、スペクトラム拡散方式について説明する。スペクトラム拡散方式は、データ信号に拡散符号を掛け合わせること(拡散処理)により信号を広帯域化し、受信の際は同じ拡散符号を同じタイミングで掛け合わせること(逆拡散)によりデータ信号を復元する通信方式である。本実施形態では、後述するように、車載システム10から携帯機20への信号を広帯域化することにより出力のピークレベルが下がることを活用することに着目して送信出力の補填をおこない通信距離の拡大を実現する。
【0020】
RF受信アンテナ4は、RF波帯の信号(RF電波)を無線受信するためのアンテナである。RF復調部5は、RF受信アンテナ4が受信したRF波帯の信号を復調してRFデータの信号としてスマートECU1に出力する回路である。
【0021】
センサ6は、車両のドアのドアハンドル部分等に取り付けられ、ユーザがドアに手をかける動作を検出し、検出結果をスマートECU1に出力するためのセンサであり、例えば、タッチセンサとして実現可能である。
【0022】
アクチュエータ7は、スマート駆動の対象となるアクチュエータであり、車両に搭載されたウェルカムライトの点灯、消灯、光軸を制御するウェルカムライトアクチュエータ、車両のエンジンのスタータモータ(またはスタータモータを制御するエンジンECU)、車両のドアの施錠および解錠を行うドアロック機構(ドアロック機構を制御するドアECU)等から成る。
【0023】
スマートECU1は、LF送信部3、RF復調部5、センサ6、アクチュエータ7と信号をやり取りすることで、携帯機20との通信に基づいてスマート駆動を行う電子制御ユニットである。このスマートECU1は、車両側制御部13等を備えている。
【0024】
車両側制御部13は、CPU、RAM、ROM、I/O等を備えたマイクロコンピュータとして実現されており、CPUがROMに記録されたプログラムを実行することで、RAMを作業領域として種々の処理を実現する。以下では、CPUが実行する処理を、車両側制御部13の処理として記載する。
【0025】
携帯機20は、LF受信アンテナ21、LF受信部22、RF送信アンテナ24、RF変調部25、および携帯側制御部26を有している。
【0026】
LF受信アンテナ21は、車載システム10から送信されたLF波帯の信号を受信するためのアンテナである。LF受信部22は、LF受信アンテナ21が受信したLF波帯の信号を復調してLFデータの信号として携帯側制御部26に出力する回路である。復調方式としては、スペクトラム拡散方式等を採用する。
【0027】
RF送信アンテナ24は、RF波帯の信号(RF電波)を無線送信するためのアンテナである。RF変調部25は、携帯側制御部26から出力されたRFデータの信号をRF波帯の信号に変調してRF送信アンテナ24に出力する回路である。
【0028】
携帯側制御部26は、CPU、RAM、ROM、I/O等を備えたマイクロコンピュータとして実現されており、CPUがROMに記録されたプログラムを実行することで、RAMを作業領域として種々の処理を実現する。以下では、CPUが実行する処理を、携帯側制御部26の処理として記載する。
【0029】
ここで、車載システム10のLF送信部3および携帯機20のLF受信部22について詳細に説明する。図2に、LF送信部3およびLF受信部22の構成を示す。
【0030】
LF送信部3は、拡散処理部31、バンドパスフィルタ32、1次変調部33、キャリア出力部34、LFドライバ35を有している。拡散処理部31は、車両側制御部13から入力されたデータ信号1a(上述のLFデータに相当する)に対し、あらかじめ記憶媒体に記録されている拡散符号3aを用いて、スペクトラム拡散方式による拡散変調を行い、拡散変調された信号(拡散データ信号)をバンドパスフィルタ32に入力する。バンドパスフィルタ32は、入力された拡散データ信号のうち所定の周波数帯域の成分のみを抽出して1次変調部33に入力する。
【0031】
1次変調部33は、バンドパスフィルタ32から入力された上記拡散変調信号に対し、キャリア出力部34から出力されたLFキャリア信号(134kHzの正弦波信号)を用いて1次変調する。変調方式としては、例えばPSKを採用する。1次変調部33で1時変調された信号は、LF波帯の信号としてLFドライバ35に入力される。
【0032】
LFドライバ35は、入力されたLF波帯の信号を所定の増幅率で増幅し、増幅された入力されたLF波帯の信号をLF送信アンテナ2に出力する。これにより、LF送信アンテナ2からLF波帯の信号が、リクエスト信号として送出される。
【0033】
また、LF受信部22は、バンドパスフィルタ22b、増幅器22c、キャリア出力部22d、1次復調部22e、逆拡散処理部22fを有している。LF受信アンテナ21がLF波帯の信号(車載システム10から送信された上記LF波帯の信号)を受信すると、バンドパスフィルタ22bはその信号の所定の周波数帯域の成分のみを抽出して増幅器22cに入力する。増幅器22cは、入力された信号を増幅して1次復調部22eに入力する。
【0034】
1次復調部22eは、増幅器22cから入力された信号に対し、キャリア出力部22dから出力されたLFキャリア信号(134kHzの正弦波信号)を用いて1次復調し、1次復調後の信号を逆拡散処理部22fに入力する。復調方式は、1次変調部33と同じ方式(例えばPSK)を採用する。
【0035】
逆拡散処理部22fは、1次復調部22eから入力された信号に対して、あらかじめ記憶媒体に記録されている拡散符号3a(LF送信部3の拡散符号3aと同じもの)を用いて逆拡散復調し、その逆拡散復調の結果得たデータ信号1a(LFデータ)を、携帯側制御部26に出力する。このデータ信号1aは、LF送信部3において拡散変調されたデータ信号1aと同じデータとなる。なお、逆拡散復調のために必要な同期捕捉処理も、この逆拡散処理部22fが行う。
【0036】
以下、このような構成のスマートシステムの作動について説明する。図3は、スマートECU1の車両側制御部13が実行する処理のフローチャートであり、図4は、携帯機20の携帯側制御部26が実行するフローチャートである。
【0037】
まず、車両側制御部13は、ステップ105で、送信タイミングが訪れるまで待機する送信タイミングとしては、定期的(例え1/4秒周期)に訪れるポーリングタイミング、および、センサ6がユーザがドアに手をかける動作を検出したタイミングがある。
【0038】
送信タイミングが訪れると、続いてステップ110に進み、所定のLFデータを作成してLF変調部3に出力する。これにより、LFデータがLF送信部3で拡散変調および1次変調され、LF送信アンテナ2からLF波帯の周波数を中心周波数とするリクエスト信号として無線送信される。ステップ110に続いては、ステップ120で、RF帯の信号の受信を待つ。
【0039】
すると、リクエスト信号の受信可能範囲内にある携帯機20において、携帯側制御部26は、ステップ210でLFデータの信号を受信するまで待機している状態から、受信したと判定し、ステップ220に進む。なお、ステップ210で受信するデータは、リクエスト信号がLF受信部22において1次復調および逆拡散復調された結果のLFデータである。
【0040】
続いてステップ220では、受信したリクエスト信号(LF波帯の周波数を中心周波数とする信号)に含まれるLFデータが正規のものであるか否かを、周知の方法で(例えば正規のデータと一致するか否かで)判定する。携帯機20が車載システム10に対応したものなので、車載システム10から送信されたLF波帯の信号に含まれるLFデータは、正規のものであると判定され、続いてステップ230に進むが、正規のものでない場合は、処理を終了する。
【0041】
ステップ230では、所定のRFデータを作成してRF変調部25に出力する。これにより、RFデータがRF変調部25で変調され、RF送信アンテナ24からRF波帯信号として無線送信される。RF波帯の信号は、LF波帯の信号に比べて遠くまで届くようになっている。ステップ240に続いては、処理をステップ210に戻す。
【0042】
上記のようにRFデータを含むRF波帯の信号が送信されると、車載システム10のRF受信アンテナ4が当該RF波帯の信号を受信し、RF復調部5が当該RF波帯の信号を復調してRFデータの信号として車両側制御部13に出力する。
【0043】
すると車両側制御部13は、ステップ120で、RFデータを受信したと判定してステップ125に進む。ステップ125では、受信したRFデータが正規のものであるか否かを判定するため、当該RFデータを所定の照合用データと照合する。
【0044】
続いてステップ130では、ステップ125の照合の結果に基づいて、当該RFデータが正規のものであるか否かを、周知の方法で(例えばRFデータが照合用データと一致するか否かで)判定する。
【0045】
RFデータを含むRF波帯の信号を送信した携帯機20は、車載システム10に対応したものなので、このRFデータは、正規のものであると判定され、続いてステップ140に進む。
【0046】
なお、受信したRF波帯の信号が携帯機20からのものでない場合は、ステップ130で、受信したRFデータが正規のものでないと判定し、ステップ140の実行を回避して処理をステップ105に戻す。これにより、スマート駆動が禁止される。
【0047】
ステップ140では、スマート駆動を開始する。具体的には、アクチュエータ7を制御することで、お出迎え制御等を行う。お出迎え制御においては、例えばアクチュエータ7を使用して、車両に搭載されたウェルカムライトを点灯させることで、車両のドア周辺を照らすようになっていてもよいし、あるいは、ウェルカムライトを点灯させ、更に、ウェルカムライトの光軸を変化させることで、照射先を、車両から離れた位置(例えば3m離れた位置)から車両に近づけるように移動させるようになっていてもよい。そして、次のイベント(例えば、ドライバがドアに触れるイベント、エンジン始動操作のイベント)があるまでスタンバイ状態に入る。なおドライバがドアに触れるイベントが発生すると、ドアを解錠し、エンジン始動操作のイベントが発生すると、エンジンを始動させる。
【0048】
ここで、携帯機20から送信されるLF波帯の信号の強度について説明する。本実施形態では、既に説明した通り、LF送信部3は、拡散処理部31、バンドパスフィルタ32において、所定のLFデータ(データ信号1a)を所定の拡散符号3aによって拡散変調して拡散データ信号を生成し、拡散データ信号を1次変調部33によってLF波帯の変調信号へ変換し、この変調信号を外部リード35aが増幅してリクエスト信号としてアンテナ2に出力する。
【0049】
この場合、仮に、当該所定のLFデータを、拡散処理部31、バンドパスフィルタ32を迂回させて、直接1次変調部33に入力した場合、それによってLFデータが1次変調部33で1次変調され、LFドライバ35で増幅され、LF送信アンテナ2から送出される。このようにしてLF送信アンテナ2から送出されたLF波帯の信号の周波数スペクトルは、拡散変調されていないので、図5(a)に示したようなものになる。なお、図5の各グラフでは、縦軸がLF送信アンテナ2から送出される信号の電力レベルであり、横軸が周波数(kHz単位)である。
【0050】
これに対し、図5(a)の例と同じLFデータを、本実施形態の通り拡散処理部31で拡散変調する場合、拡散率が15、31、63の拡散符号3aを用いると、それぞれ、図5(b)、(c)、(d)のような周波数スペクトルとなる。これらの場合は、図5(a)の場合に比べ、それぞれ、出力電力のピークレベルが8.76dB、12.3dB、14.47dBだけ下がる。
【0051】
このように、LFデータを拡散変調しなかった場合に比べて、拡散変調した場合の方が出力電力のピークレベルが下がる。したがって、LFデータを拡散変調しなかった場合よりも、電波強度を所望の範囲内に抑えつつも、信号の増幅率を上げることができ、その結果、車載システムから携帯機へのリクエスト信号の電波強度を所望の範囲内に抑えると共に、ノイズ耐性も悪化させないで、リクエスト信号の到達範囲を大きくすることが可能となる。
【0052】
日本の電波法によれば「線路からλ/2πの距離における電界強度が15μV/m(≒23.5dBμV/m以下)のもの。」であれば、使用許可を得る必要なく使用可能となる。本実施形態のように、LF波帯(134kHz帯)にピークを有する電波の場合、波長λ=2238mなので、上限15uV/m(≒23.5dBuV/m)の電界強度となる距離はλ/2π=356.49mとなる。この強度をLF送信アンテナ2から3m地点で換算すると約105dBuV/mとなる。通常は、LF送信アンテナ2から3mの地点で、リクエスト信号の電界強度が、この105dBuV/mという上限と同じかそれよりも小さくなるよう、車載システム10を設計および製造する。
【0053】
例えば、LF送信アンテナ2から3mの地点で、リクエスト信号の電界強度のピーク値が、この105dBuV/mと同じか僅かに小さい電界強度になるように、本実施形態の車載システム10を設計および製造する。
【0054】
この場合、リクエスト信号の各地点での電界強度のピークレベルは、図6の実線51に示すようになる。なお、図6において、横軸はLF送信アンテナ2からの距離d(単位はm)であり、縦軸は強度(単位はdBuV/m)である。
【0055】
しかし、このリクエスト信号は、携帯機20のLF受信部22内で、逆拡散処理部22fによって逆拡散され、その結果、広帯域への拡散が収斂するので、実質的に実際の強度51よりも高い強度で受信したことと同じになる。なぜなら、拡散変調および逆拡散復調の拡散率が15、31、63である場合、それぞれ、スペクトラム拡散方式を採用しなかったとすれば(つまり、所定のLFデータを、拡散処理部31、バンドパスフィルタ32を迂回させて、直接1次変調部33に入力した場合)図6の実線52、53、54のように、LF送信アンテナ2から3mの地点でリクエスト信号が105dBuV/mのような強度となっているはずだからである。
【0056】
したがって、携帯機20側において受信可能なリクエスト信号のLF波帯強度の最低値が110dBuV/mであった場合、スペクトラム拡散方式を採用すればLF送信アンテナ2から2.5mまでの範囲内で受信可能だったものが、拡散率が15、31、63のスペクトラム拡散方式を採用すれば、アンテナ2からそれぞれ約3.4m、約3.9m、約4.2mまでの範囲内で受信可能となり、電波法の制限を破ることなく、通信可能範囲が広がる。
【0057】
なお、拡散率が63よりも大きくなると、リクエスト信号の帯域幅の下限が実効的に0Hzに到達してしまうので、拡散率は63以下に抑えることで、高い効果を得ることができる。
【0058】
ここで、本実施形態の無線通信システムにおける車載システム10を複数個製造する場合の増幅率の設定について説明する。本実施形態では、1つの製品(車載システム10)内では、拡散処理部31における拡散率およびLFドライバ35における増幅の増幅率は固定されている。しかし、複数個の車載システム10の製造の段階では、各車載システム10の拡散処理部31における拡散率は、製品間で異なるようにしてもよい。具体的には、LF送信アンテナ2の設置場所に応じて拡散率を異なるようにしてもよい。
そして、LFドライバ35は、同じ製品内の拡散処理部31における拡散率に応じて、拡散率が大きくなるほど増幅率も大きくするようになっている。このようにするのは、拡散率が大きいほど、中心周波数のピークレベルが下がる傾向にあるので、電波法の制限を破ることなく信号を増幅できる幅が増えるからである。
【0059】
つまり、LF送信部3を車載システムに取り付けると共に、LFドライバ35の増幅率を、拡散処理部31の拡散率に応じて設定する。このように、拡散率に応じて増幅率を設定することで、拡散率に応じて適切に通信可能範囲を拡張することができる。
【0060】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。例えば、以下のような形態も許容される。
【0061】
上記実施形態においては、1個の車載システムにおいては、拡散処理部31の拡散率およびLFドライバ35の増幅率は固定であったが、必ずしもこのようになっておらずともよい。例えば、拡散処理部31の拡散率を(例えばユーザーの変更操作に従って)可変とするようになっていてもよい。その場合、LFドライバ35の増幅率も、拡散率の変化に応じて、拡散率が大きくなるほど当該増幅率が自動的に大きくなるような構成になっていてもよい。具体的には、拡散処理部31がLFドライバ35に対して、現在使用している拡散率(使用する拡散符号によって決まる)の信号を入力し、LFドライバ35は、入力された拡散率が大きくなるほど増幅率を大きくするように回路が構成されていればよい。
【0062】
また、上記実施形態では、スマートECU1とは別体のLF送信部3内でLFデータを拡散変調するようになっているが、必ずしもこのようになっておらずともよく、例えば、スマートECUの制御部13が、拡散処理部31の機能を実現するようになっていてもよ。
【0063】
また、上記実施形態では、車載システムが送信するリクエスト信号の電波強度を強めたくない理由として、電波法法規によって上限が定められているという理由を例にとって説明したが、リクエスト信号の電波強度を強めたくない理由として、リクエスト信号の送信用のコイルアンテナを大きくしたくないという理由も考えられる。
【符号の説明】
【0064】
1 スマートECU
2 LF送信アンテナ
3 LF送信部
4 RF受信アンテナ
5 RF復調部
6 センサ
7 アクチュエータ
10 車載システム
13 車両側制御部
20 携帯機
21 LF受信アンテナ
22 LF受信部
24 RF送信アンテナ
25 RF変調部
26 携帯側制御部
3a 拡散符号
1a データ信号
22b バンドパスフィルタ
22c 増幅器
22d キャリア出力部
22e 1次復調部
22f 逆拡散処理部
31 拡散処理部
32 バンドパスフィルタ
33 1次変調部
34 キャリア出力部
35 LFドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車載システム(10)とユーザーが持つ携帯機(20)とを備え、前記車載システムと前記携帯機とが双方向に通信する無線通信システムであって、
前記車載システムは、LF周波数帯を用いて前記携帯機へリクエスト信号を送信する送信手段(3)を備え、
前記携帯機は、前記リクエスト信号を受信したことに基づいて応答信号を前記車載システムに送信し、
前記車載システムは更に、前記応答信号を受信し、前記応答信号を受信したことに基づいて、前記車両内のアクチュエータ(6)を作動させるスマート駆動手段(4、5、13)を備え、
前記送信手段(3)は、
所定のLFデータをスペクトラム拡散方式で拡散変調して拡散データ信号を生成する拡散処理手段(31、32)と、
前記拡散データ信号をLF波帯を中心とする変調信号へ変換すると共に増幅して前記リクエスト信号としてアンテナ(2)に出力する変調・ドライバ手段(33、35)と、を備えたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記アンテナ(2)から出力された信号の最大強度は、105dBuV/m未満であり、仮に、前記所定のLFデータを、前記拡散処理手段(31、32)を迂回させて前記変調・ドライバ手段(33、35)に入力した場合、それによって前記アンテナ(2)から出力される信号の最大強度は、105dBuV/mよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記変調・ドライバ手段(33、35)における増幅の増幅率は、前記拡散処理手段(31、32)における拡散変調の拡散率が大きいほど大きくなることを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
車両に搭載される車載機(10)とユーザーが持つ携帯機(20)とを備え、前記車載機と前記携帯機とが双方向に通信する無線通信システムにおける、前記車載機を製造する方法であって、
LF周波数帯を用いて前記携帯機へリクエスト信号を送信する送信手段(3)であって、所定のLFデータをスペクトラム拡散方式で所定の拡散率で拡散変調して拡散データ信号を生成する拡散処理手段(31、32)と、前記拡散データ信号をLF波帯を中心とする変調信号へ変換すると共に所定の増幅率で増幅して前記リクエスト信号としてアンテナ(2)に出力する変調・ドライバ手段(33、35)と、を備えた送信手段(3)を、を前記車載機に取り付ける工程と、
前記リクエスト信号を受信した前記携帯機によって送信される応答信号を受信し、前記応答信号を受信したことに基づいて、前記車両内のアクチュエータ(6)を作動させるスマート駆動手段(4、5、13)を前記車載機に取り付ける工程と、
前記変調ドライバ手段(33、35)の前記増幅率を、前記拡散処理手段(31、32)の前記拡散率に応じて設定する工程と、を備えたことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−32648(P2013−32648A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169367(P2011−169367)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】