説明

発光素子の検査方法および発光素子の製造方法

【課題】フォトルミネッセンスを用いることにより、発光素子を容易かつ迅速に識別するための発光素子の検査方法などを提供する。
【解決手段】検査工程は、発光素子1に通電を行わずに、通電により発光する波長(第1波長)より波長が短い光(第2波長の光)を励起光として照射する光照射工程(ステップ201)と、第2波長の光の照射により発光素子1が出射する光を検出する検出工程(ステップ202)と、発光素子1が出射する第1波長の光の強度に基づき、発光素子1の電流リークの状態を判別する判別工程(ステップ203)とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の検査方法および発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)や有機EL(Electro Luminescence)デバイスなどの発光素子は、発光波長に対応するバンドギャップを備えた発光層を有している。そして、発光層において、バンドギャップの伝導帯の電子と価電子帯のホールとが再結合することにより発光する。
これらの発光素子では、発光は発光層に対して略垂直な方向に取り出される面発光である。
【0003】
特許文献1には、エピタキシャルウエハの表面に光エネルギを照射して光ルミネッセンスを発生させ、該光ルミネッセンスを光学的手段により検出してその検出特性より形成される予定の発光素子の良否を評価するエピタキシャルウエハの検査方法が記載されている。
特許文献2には、半導体基板上に活性層及びこの活性層を上下に挟む上層側及び下層側クラッド層からなるダブルヘテロ構造が形成されてなる発光素子製造用ウエハにおいて、前記上層側クラッド層で吸収されず且つ前記活性層で吸収される波長の光を含む照射光を前記発光素子製造用ウエハに照射し、照射に伴って生じる前記発光素子製造用ウエハからの二次光を観察することにより前記発光素子製造用ウエハの欠陥の有無を検査することを特徴とする発光素子製造用ウエハの検査方法や製造方法などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−250835号公報
【特許文献2】特開平6−97508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、製造工程において発光層等に損傷を受けるなどにより、予め定められた特性を有さないため、使用に適さない発光素子が生じることがある。
そこで、予め定められた特性を有する発光素子と、この特性を有しない発光素子とを容易かつ迅速に識別する検査方法が求められている。
本発明は、フォトルミネッセンスを用いることにより、発光素子を容易かつ迅速に識別するための発光素子の検査方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が適用される発光素子の検査方法は、通電により第1波長の光を出射する発光層と、発光層を挟み込んで設けられ発光層に電荷を注入する第1電荷注入層および第2電荷注入層と、発光層に電流を流すために第1電荷注入層に接続された第1電極および第2電荷注入層に接続された第2電極とを備える発光素子に対して、通電を行わずに第1波長よりも波長が短い第2波長の光を照射する光照射工程と、光照射工程における第2波長の光の照射に伴って、発光素子から出射される光を検出する検出工程と、検出工程にて検出された、発光素子から出射される光における第1波長の光の強度に基づき、発光素子における電流リークの状態を判別する判別工程とを有する。
このような発光素子の検査方法において、検出工程にて検出された、発光素子から出射される光における第1波長を除く光の強度に基づき、発光素子における第1電荷注入層または第2電荷注入層に存在する準位を判別する他の判別工程をさらに有することを特徴とすることができる。
また、第1電極または第2電極は、第1波長の光および第2波長の光を透過する透明電極を備えることを特徴とすることができる。
さらに、発光素子は、第1電荷注入層または第2電荷注入層のいずれか一方に対向して設けられた基板に取り付けられ、この基板は、第1波長の光および第2波長の光を透過するとともに、第2波長の光は基板を透過して照射され、第1波長の光は基板を透過して検出されることを特徴とすることができる。
【0007】
また、他の観点から捉えると、本発明が適用される発光素子の製造方法は、基板上に、第1電荷注入層、発光層、第2電荷注入層を順に積層する積層工程と、第2電荷注入層と発光層とを複数の領域に分離する分離工程と、発光層に電流を流すために、複数の領域ごとに第1電荷注入層に接続されるように第1電極を、第2電荷注入層に接続されるように第2電極をそれぞれ形成して発光素子とする電極形成工程と、通電により発光層が出射する第1波長の光の波長よりも波長が短い第2波長の光を、通電を行わずに、積層された第1電荷注入層、発光層、第2電荷注入層に照射する光照射工程と、光照射工程における第2波長の光の照射に伴って、第1電荷注入層、発光層、第2電荷注入層から出射される光を検出する検出工程と、検出工程にて検出された発光層から出射される第1波長の光の強度に基づき、発光素子における電流リークの状態を判別する判別工程とを有する。
このような発光素子の製造方法において、光照射工程、検出工程、判別工程は、基板が発光素子ごとに分割される前に行われることを特徴とすることができる。
また、検出工程にて検出された発光素子から出射される光のうち第1波長を除く光の強度に基づき、発光素子の第1電荷注入層または第2電荷注入層に存在する準位を判別する他の判別工程をさらに有することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の検査方法によれば、発光素子を容易かつ迅速に識別するための検査ができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態における検査方法が適用される発光素子の一例を説明する断面図である。
【図2】図1のII方向からみた、発光素子の上面図である。
【図3】基板上に複数の発光素子が形成された発光素子ウエハの平面構成の一例を説明する図である。
【図4】発光素子の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図5】発光素子の製造方法における各工程における断面の一例を示す図である。
【図6】第1の実施の形態における発光素子のエネルギバンド構造の一例を模式的に説明するための図である。
【図7】発光素子がフォトルミネッセンスにより出射する光の波長λ1、λ2と、光源に用いた超高圧水銀ランプの輝線スペクトルとを説明する図である。
【図8】検査工程をより詳細に説明するためのフローチャートである。
【図9】発光素子を検査する検査装置の一例を説明するための図である。
【図10】第1の実施の形態の検査方法における励起フィルタ、ダイクロイックミラー、取出フィルタの透過率の一例を説明する図である。
【図11】第1の実施の形態において、フォトルミネッセンスにより光を出射する発光素子を上面から観察した模式図である。
【図12】発光素子ウエハ上のすべての発光素子を一括して検査する方法を説明する図である。
【図13】発光素子ウエハの複数の発光素子をまとめて検査する方法を説明する図である。
【図14】複数の発光素子をまとめて検査する方法を説明する図である。
【図15】第2の実施の形態における発光素子のエネルギバンド構造の一例を模式的に説明するための図である。
【図16】第2の実施の形態の検査方法における励起フィルタ、ダイクロイックミラー、取出フィルタの透過率の一例を説明するための図である。
【図17】第2の実施の形態において、フォトルミネッセンスによる光を出射する発光素子を上面から観察した状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、本明細書では、III族窒化物化合物半導体により構成され、通電により第1波長の光を出射する発光素子1を発光素子の一例として説明する。
【0011】
<第1の実施の形態>
[発光素子1]
図1は本実施の形態における検査方法が適用される発光素子1の一例を説明する断面図である。図2は、図1のII方向からみた、発光素子1の上面図である。なお、図1は図2のI−I線での断面の概略図である。
発光素子1は基板110上に形成されている。発光素子1と基板110とをまとめて発光チップ10と表記する。
発光素子1は、化合物半導体にて構成されている。なお、発光素子1を構成する化合物半導体としては、特に限定されるものではなく、例えば、III−V族化合物半導体、II−VI族化合物半導体、IV−IV族化合物半導体等が挙げられる。
以下では、III族窒化物化合物半導体により構成された発光素子1を例として説明する。例として図1に示す発光素子1は短波長光である青色光を出射する。
【0012】
この発光素子1は、基板110上に積層される中間層120と、中間層120上に積層される下地層130と、下地層130上に積層される第1電荷注入層の一例としてのn型半導体層140と、n型半導体層140上に積層される発光層150と、発光層150上に積層される第2電荷注入層の一例としてのp型半導体層160とを備えている。
すなわち、基板110はn型半導体層140またはp型半導体層160に対向している。
ここで、n型半導体層140は、下地層130側に設けられるn型コンタクト層140aと発光層150側に設けられるn型クラッド層140bとを有している。また、発光層150は、障壁層150aと井戸層150bとが交互に積層され、2つの障壁層150aによって1つの井戸層150bを挟み込んだ構造を有している。さらに、p型半導体層160は、発光層150側に設けられるp型クラッド層160aと最上層に設けられるp型コンタクト層160bとを有している。なお、以下の説明においては、n型半導体層140、発光層150およびp型半導体層160を、まとめて積層半導体層100と表記する。
【0013】
発光素子1においては、p型半導体層160のp型コンタクト層160bの表面160cに透明電極170が積層され、さらにその上にp電極190aが形成されている。さらに、n型半導体層140のn型コンタクト層140aに形成された半導体層露出面140cに、n型半導体層140に電流を供給するための第1電極の一例としてのn電極190bが積層されている。ここでは、透明電極170およびp電極190aがp型半導体層160に電流を供給するための第2の電極の一例である。なお、透明電極170を備えなくともよい。
さらにまた、発光素子1は、p電極190aおよびn電極190bのそれぞれの表面の一部を除いて、透明電極170の表面、積層半導体層100の表面および側面、下地層130および中間層120の側面を覆う保護層180を備えている。
すなわち、基板110上の中間層120、下地層130、n型半導体層140、発光層150、p型半導体層160、透明電極170、p電極190a、n電極190bおよび保護層180が発光素子1を構成する。発光層150は、発光効率の高いGaInN(組成比を省略する。)からなることが望ましい。
【0014】
この発光素子1においては、図1に示したp電極190aとn電極190bとを介して積層半導体層100(より具体的にはp型半導体層160、発光層150およびn型半導体層140)に電流を流すことで、発光層150が青色光を出射するようになっている。なお、発光層150は、透明電極170側に加えて、基板110側および側方(発光層150の層方向)にも青色光を発する。
ここでは、基板110側からn型半導体層140、発光層150、p型半導体層160を順に積層したが、逆に基板110側からp型半導体層160、発光層150、n型半導体層140の順に積層し、n型半導体層140の表面に透明電極170を設けてもよい。すなわち、n型半導体層140に電流を供給するための第1電極(n電極190b)が透明電極170を備えていてもよい。
【0015】
以下では、発光素子1の構成を詳細に説明する。なお、以下では基板110についても説明する。
(基板110)
基板110は、III族窒化物化合物半導体とは異なる材料から構成され、基板110上にIII族窒化物化合物半導体結晶がエピタキシャル成長される。基板110を構成する材料としては、例えば、サファイア、炭化珪素(シリコンカーバイド:SiC)、酸化亜鉛(ZnO)、シリコン、ゲルマニウム、溶融石英(石英)などのガラス等が挙げられる。ここでは、基板110は、一例として、透明で、良好な結晶が得られるサファイアであるとして説明する。なお、基板にエピタキシャル成長後、他の材質の基板に貼り付け、エピタキシャル成長させた基板を除去することで、他の材質の基板である貼り付けた基板を基板110とすることもできる。
【0016】
(中間層120)
中間層(バッファ層とも呼ばれる。)120は、基板110上に好ましく形成され、中間層を介して後述する下地層130が形成される。中間層は、例えば、多結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)(代表的にはAlNが用いられる。)からなる厚さ0.01μm〜0.5μmのものとすることができる。また、中間層は、多結晶のほか、単結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)のものがより好ましい。中間層の厚みが0.01μm未満であると、中間層により基板110と下地層130との格子定数の違いを緩和する効果が十分に得られない場合がある。また、中間層の厚みが0.5μmを超えると、中間層としての機能には変化が無いのにも関わらず、中間層の成膜処理時間が長くなり、生産性が低下するおそれがある。なお、本発明においては、中間層の形成を行うことが好ましいが、必ずしも行わなくても良い。
【0017】
(下地層130)
下地層130に用いる材料としては、GaN系化合物半導体が用いられ、特に、GaN又はAlGaNを好適に用いることができる。
下地層130の結晶性をよくするためには、下地層130は不純物を添加されない方が好ましい。
【0018】
(n型半導体層140)
n型半導体層140は、n型コンタクト層140aおよびn型クラッド層140bから構成されている。
ここで、n型コンタクト層140aとしては、下地層130と同様にGaN系化合物半導体が用いられる。また、下地層130およびn型コンタクト層140aを構成するGaN系化合物半導体は同一組成であることが好ましく、これらの合計の膜厚を0.1μm〜20μm、好ましくは0.5μm〜15μm、さらに好ましくは1μm〜12μmの範囲に設定することが好ましい。
また、n型コンタクト層140aにはn型不純物がドープされていることが好ましく、n型不純物を1×1017/cm〜1×1020/cm、好ましくは1×1018/cm〜1×1019/cmの濃度で含有すると、n電極190bとの良好なオーミック接触を維持できる点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeが挙げられる。
【0019】
一方、n型クラッド層140bは、AlGaN、GaN、GaInN等によって形成することが可能である。なお、本明細書中には、AlGaN、GaInNについて、各元素の組成比を省略した形で記述する場合がある。また、これらの構造をヘテロ接合したものや複数回積層した超格子構造を採用してもよい。
n型クラッド層140bの膜厚は、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは5nm〜100nmの範囲である。n型クラッド層140bのn型不純物の濃度は1×1017/cm〜1×1020/cmが好ましく、より好ましくは1×1018/cm〜1×1019/cmである。n型不純物の濃度がこの範囲であると、良好な結晶性の維持および発光素子の動作電圧低減の点で好ましい。
【0020】
(発光層150)
発光層150は、GaN系化合物半導体からなる障壁層150aと、Inを含有するGaN系化合物半導体からなる井戸層150bとが交互に繰り返して積層され、且つ、n型半導体層140側及びp型半導体層160側にそれぞれ障壁層150aが配される順で積層して形成される。すなわち、発光層150は多重量子井戸構造(MQW:Multi−Quantum Well)により構成される。本実施の形態において、発光層150は、6層の障壁層150aと5層の井戸層150bとが交互に繰り返して積層され、発光層150の最上層及び最下層に障壁層150aが配され、各障壁層150a間に井戸層150bが配される構成となっている。
【0021】
井戸層150bには、Inを含有するGaN系化合物半導体として、例えば、Ga1−sInN(0<s<0.4)等を用いることができる。
また、障壁層150aとしては、例えば、井戸層150bよりもバンドギャップエネルギが大きいAlGa1−cN(0≦c≦0.3)等のGaN系化合物半導体を好適に用いることができる。
井戸層150bの膜厚としては、特に限定されないが、量子効果の得られる程度の膜厚であることが好ましい。
【0022】
(p型半導体層160)
p型半導体層160は、p型クラッド層160aおよびp型コンタクト層160bから構成される。p型クラッド層160aとしては、好ましくは、AlGa1−dN(0<d≦0.4)のものが挙げられる。p型クラッド層160aの膜厚は、好ましくは1nm〜400nmであり、より好ましくは5nm〜100nmである。p型クラッド層160aのp型不純物の濃度は、1×1018/cm〜1×1021/cmが好ましく、より好ましくは1×1019/cm〜5×1020/cmである。p型不純物の濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型半導体結晶が得られる。
一方、p型コンタクト層160bとしては、AlGa1−eN(0≦e<0.5)等のGaN系化合物半導体層が挙げられる。p型コンタクト層160bの膜厚は、特に限定されないが、10nm〜500nmが好ましく、より好ましくは50nm〜200nmである。p型不純物を1×1018/cm〜1×1021/cmの濃度、好ましくは5×1019/cm〜5×1020/cmの濃度で含有していると、良好なオーミック接触の維持、クラック発生の防止、良好な結晶性の維持の点で好ましい。p型不純物としては、特に限定されないが、例えば好ましくはMgが挙げられる。
【0023】
(透明電極170)
透明電極170を構成する材料としては、例えば、IZO(In−ZnO)、ITO(In−SnO)、AZO(ZnO−Al)、GZO(ZnO−Ga)等の従来公知の材料が挙げられる。また、透明電極170の構造は特に限定されず、従来公知の構造を採用することができる。透明電極170は、p型半導体層160上のほぼ全面を覆うように形成しても良く、格子状や樹形状に形成しても良い。
【0024】
(p電極190a)
透明電極170上に形成され、透明電極170とオーミック接触するp電極190aは、例えば、従来公知のAu、Al、Ti、V、Cr、Mn、Co、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Ta、Ni、Cu等の材料から構成される。p電極190aの構造は特に限定されず、従来公知の構造を採用することができる。
p電極190aの厚さは、例えば100nm〜2000nmの範囲内であり、好ましくは300nm〜1000nmの範囲内である。
【0025】
(n電極190b)
n電極190bは、n型半導体層140のn型コンタクト層140aにオーミック接触している。すなわち、p型半導体層160、発光層150およびn型半導体層140の一部を除去し、n型コンタクト層140aが露出した半導体層露出面140cを形成し、この上にn電極190bが設けられる。
n電極190bの材料としては、p電極190aと同じ組成・構造でもよく、各種組成および構造のn電極が従来公知であり、これらのn電極を何ら制限無く用いることができ、この技術分野で従来公知の手段で設けることができる。
【0026】
次に、発光素子1の平面形状を説明する。
図2に示すように、発光素子1の平面形状は、例えば350μm×350μmの正方形である。なお、発光素子1の平面形状は、正方形に限らず、長方形など、他の形状であってもよい。
半導体層露出面140cは、図2に示すように、発光素子1の周縁を巡るように形成されている。なお、半導体層露出面140cは、発光素子1の1辺において、周縁から内側に向かって広がって設けられている。そして、n電極190bは、この広がって設けられた半導体層露出面140c上に設けられている。
なお、p電極190aおよびn電極190bの形状および配置は、図2に示したものに限らず、他の形状および配置であってもよい。
【0027】
[発光素子ウエハ20]
図3は、基板110上に複数の発光素子1が形成された発光素子ウエハ20の平面構成の一例を説明する図である。
発光素子ウエハ20では、例えば円形の基板110上に、複数の発光素子1が形成されている。そして、発光素子ウエハ20をy方向に分割する分割予定線V1〜V9とx方向に分割する分割予定線H1〜H9とで分割することで、それぞれが発光素子1を有する複数の発光チップ10に分割される。なお、基板110、中間層120、下地層130、n型半導体層140、発光層150、p型半導体層160等の表記は、発光素子1(図1、2参照)においても、発光素子ウエハ20においても用いる。
発光素子ウエハ20には、基板110の結晶方位を示すとともに、自動制御により発光素子ウエハ20の位置を定めるために用いられるオリエンテーションフラット(OF)が設けられている。なお、OFの代わりに切り込み(ノッチ)などが設けられていてもよい。
【0028】
[発光素子1の製造方法]
次に、本実施の形態における発光素子1の製造方法を説明する。
図4は、発光素子1の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
発光素子1の製造では、まず複数の発光素子1が形成された発光素子ウエハ20が製造される。
発光素子ウエハ20は、基板110上に、中間層120を形成する中間層形成工程(ステップ101)と、下地層130を形成する下地層形成工程(ステップ102)と、発光層150を含む積層半導体層100を形成する積層工程の一例としての積層半導体層形成工程(ステップ103)と、透明電極170を形成する透明電極形成工程(ステップ104)と、積層半導体層100の一部を切り欠いて半導体層露出面140cを形成する分離工程の一例としての半導体層露出面形成工程(ステップ105)と、透明電極170上にp電極190aを形成し且つ半導体層露出面140c上にn電極190bを形成する電極形成工程(ステップ106)とを含んで製造される。
なお、透明電極形成工程(ステップ104)と半導体層露出面形成工程(ステップ105)とはいずれが先であってもよい。
【0029】
さらに、積層半導体層100、p電極190a、n電極190bの表面を覆うように保護層180を形成する保護層形成工程を含んでもよい。なお、p電極190a上およびn電極190b上の保護層180を除去して設けられた開口部に回路基板等との接続のためのバンプを形成するバンプ形成工程を有していてもよい。
さらにまた、発光素子1の製造方法では、必要に応じて、電極形成工程(ステップ106)の後に熱処理を施すアニール工程をさらに有している場合がある。
そして、発光素子ウエハ20を分割する基板分割工程(ステップ107)により、発光素子ウエハ20が発光素子1ごとに分割される。次に、それぞれの発光素子1が使用に適するか否かを検査する検査工程(ステップ108)にて判別されて、使用に適する発光素子1が製造される。
【0030】
図5は、発光素子1の製造方法における各工程(ステップ101〜ステップ107)における断面の一例を示す図である。なお、図5においては、検査工程(ステップ108)は省略している。図5(a)〜(g)の順に工程が進む。
図5では、一の基板110上に製造される4個の発光素子1の断面図を示している。なお、4個の発光素子1のうち、両端の2つは一部のみを示している。
図5を参照しつつ、発光素子1の製造方法を図4のフローチャートに従って説明する。
【0031】
(中間層形成工程(ステップ101))
まず、基板110に中間層120を形成するために前処理を施す。前処理としては、例えば、スパッタ装置のチャンバ内に基板110を配置し、中間層120を形成する前にスパッタするなどの方法によって行うことができる。具体的には、チャンバ内において、基板110をArやNのプラズマ中に曝す事によって上面を洗浄する前処理を行なってもよい。ArガスやNガスなどのプラズマを基板110に作用させることで、基板110の上面に付着した有機物や酸化物を除去することができる。
【0032】
次に、図5(a)に示すように、基板110の上面に、スパッタ法によって、中間層120を積層する。
スパッタ法によって、単結晶構造を有する中間層120を形成する場合、チャンバ内の窒素原料と不活性ガスの流量に対する窒素流量の比を、窒素原料が50体積%〜100体積%の範囲で行なうことが望ましい。
また、スパッタ法によって、柱状結晶(多結晶)を有する中間層120を形成する場合、チャンバ内の窒素原料と不活性ガスの流量に対する窒素流量の比を、窒素原料が1体積%〜50体積%にすることが望ましい。なお、中間層120は、上述したスパッタ法だけでなく、MOCVD法で形成することもできる。
【0033】
(下地層形成工程(ステップ102))
次に、中間層120を形成した後、図5(b)に示すように、中間層120が形成された基板110の上面に、単結晶の下地層130を形成する。下地層130は、スパッタ法で形成してもよく、MOCVD法で形成してもよい。
【0034】
(積層半導体層形成工程(ステップ103))
積層半導体層形成工程は、n型半導体層形成工程と、発光層形成工程と、p型半導体層形成工程とからなり、図5(c)に示すように、中間層120上にn型半導体層、発光層、p型半導体層が形成される。
(n型半導体層形成工程)
下地層130の形成後、n型コンタクト層140aおよびn型クラッド層140bを積層してn型半導体層140を形成する。n型コンタクト層140aおよびn型クラッド層140bは、スパッタ法で形成してもよく、MOCVD法で形成してもよい。
【0035】
(発光層形成工程)
発光層150の形成は、スパッタ法、MOCVD法のいずれの方法でもよいが、特にMOCVD法が好ましい。具体的には、障壁層150aと井戸層150bとを交互に繰り返して積層し、且つ、n型半導体層140側およびp型半導体層160側に障壁層150aが配される順で積層すればよい。
【0036】
(p型半導体層形成工程)
また、p型半導体層160の形成は、スパッタ法、MOCVD法のいずれの方法でもよい。具体的には、p型クラッド層160aと、p型コンタクト層160bとを順次積層すればよい。
【0037】
(透明電極形成工程(ステップ104))
スパッタ法などにより成膜し、フォトリソグラフィなどの公知の方法によって、図5(d)に示すように、透明電極170を形成する。
【0038】
(半導体層露出面形成工程(ステップ105))
図5(e)に示すように、積層半導体層100の一部をエッチングしてn型コンタクト層140aの一部を露出させ、半導体層露出面140cを形成する。
必要に応じて、例えば窒素などの還元雰囲気下において、500〜1000℃で熱処理する。この熱処理は、透明電極170を結晶化し、p型半導体層160と透明電極170との接合性を高めるために行われる。
【0039】
(電極形成工程(ステップ106))
次に、図5(f)に示すように、透明電極170上にp電極190aを、半導体層露出面140c上にn電極190bを形成する。
本実施の形態では、p電極190aとn電極190bとを同時に形成するとしたが、p電極190aの形成とn電極190bの形成とを個別に行ってもよい。
そして、中間層120、下地層130、積層半導体層100、半導体層露出面140c、p電極190a、n電極190bの表面および側面を覆うように保護層180(図1参照)を形成してもよい。
そして、保護層180を形成した場合には、保護層180上に図示しないレジストを塗布する。そして、p電極190aおよびn電極190bのそれぞれの上面の保護層180に開口部を設ける。
【0040】
(基板分割工程(ステップ107))
図5(g)に示すように、発光素子ウエハ20を、図3に示した分割予定線(V1〜V9、H1〜H9)に沿って、分割して発光素子1とする。
例えば、基板110を透過する波長のレーザ光を、基板110内に焦点を結ぶように設定して、分割予定線(V1〜V9、H1〜H9)に沿って照射することで、照射しない部分に比べて強度が低い脆弱領域を基板110内部に形成する。その後、分割予定線(V1〜V9、H1〜H9)に沿ってブレードを押圧することで、脆弱領域を核として、発光素子ウエハ20を切断する方法を用いることができる。
なお、脆弱領域は、ダイヤモンドポイントで罫書きすることにより、発光素子ウエハ20の表面または裏面(基板110の裏面)に形成してもよい。
また、公知のダイヤモンドブレードによって、発光素子ウエハ20を分割予定線(V1〜V9、H1〜H9)に沿って、機械的に切断してもよい。
【0041】
(検査工程(ステップ108))
上記のようにして製造された発光素子1には、製造工程(図4におけるステップ101〜ステップ107)において発光層150等に損傷が発生するなどにより、電流リークが生じて、予め定められた特性を有しないために使用に適さないものが混在する。
そこで、予め定められた特性を有し使用に適する(合格品)か、その特性を有せず使用に適しない(不良品)か、を検査工程において判別する。
【0042】
これまでは、発光素子1ごとに通電して(p電極190aとn電極190bとの間に電流を流して)、発光波長、光量およびリーク電流を測定することにより、発光素子1が使用に適するか否かを判断していた。このとき、発光素子1に通電するために、p電極190aおよびn電極190bのそれぞれにプローバ針を接触させて行っていた。
この方法では、プローブ針の接触により、金などで構成されたp電極190aおよびn電極190bの表面に大きな傷(凹凸)が生じる恐れがあった。これらの傷(凹凸)は、発光素子1をパッケージに搭載して、ボンディングワイヤでp電極190aおよびn電極190bとパッケージの電極とを接続するとき、良好な接着が阻害される恐れがあった。
【0043】
発明者は、発光層150の井戸層150bのバンドギャップエネルギEgよりも大きいエネルギの光(励起光、本明細書中では第2波長の光ともいう。)を、p電極190aおよびn電極190bを形成した発光素子1に、透明電極170を介して、積層半導体層100に照射すると、使用に適する発光素子1では、フォトルミネッセンスにより発光層150の井戸層150bのバンドギャップエネルギEgで決まる波長の光を出射し、使用に適しない発光素子1では、井戸層150bのバンドギャップエネルギEgで決まる波長の光を出射しないか、出射しても強度が小さいことを発見した。なお、発光素子1は、透明電極170の全面において、光を出射するかしないか、または出射する光の強度が大きいか小さいかであった。
【0044】
そして、このような使用に適さない発光素子1は、発光素子1内においてp電極190aとn電極190bとの間が短絡した状態(短絡状態)または抵抗の小さい状態(低抵抗状態)にあることが分かった。すなわち、使用に適さない発光素子1はp電極190aとn電極190bとの間において、電流がリークする状態(電流リークの状態)であった。
さらに、使用に適する発光素子1においても、p電極190aとn電極190bとの間を静電気破壊(ESD:electro−static discharge)試験により高い静電気を印加して短絡させる(電流リークの状態にする)と、使用に適しない発光素子1と同様に、井戸層150bのバンドギャップエネルギEgで決まる波長の光を出射しないか、出射しても強度が小さかった。
【0045】
すなわち、使用に適さない発光素子1とは、製造工程において、発光層150が損傷を受け、p電極190aとn電極190bとの間が短絡状態または低抵抗状態(電流リークの状態)になっていると考えられる。
このため、励起光が発光素子1に照射され、電子および正孔が励起されても、井戸層150bで再結合して、光を出射するよりも先に、短絡状態または低抵抗状態になっているp電極190aとn電極190bとの間を流れて失われてしまうと思われる。
そして、本実施の形態では、電気伝導度がp電極190aに比べて低い透明電極170をp電極190a上に設けている。よって、例え短絡状態または低抵抗状態が微小な範囲で生じていたとしても、その影響は透明電極170全面にわたって現れる。すなわち、光が出射するかしないか、または出射する光の強度が大きいか小さいかという現象は、発光素子1の透明電極170全面にわたって観察される。
【0046】
以上説明したように、フォトルミネッセンスにより発する光の波長および光量は、それぞれの発光素子1の状態、とくに発光層150の状態を反映しているので、発光素子1からのフォトルミネッセンスを検査工程(ステップ108)に使用できる。
つまり、フォトルミネッセンスにより、発光素子1が井戸層150bのバンドギャップエネルギEgで決まる光を予め定められた強度以上出射すれば、使用に適すると判断できる。一方、発光素子1が井戸層150bのバンドギャップエネルギEgで決まる光を出射しないか、予め定められた強度未満である場合には、発光素子1が電流リークの状態にあるので、使用に適さないと判断できる。
この方法は、光(励起光)を照射するだけであって、p電極190aおよびn電極190bに対して非接触で行える。これにより、プローバによってp電極190aとn電極190bとの間に電流を流すことが不要にでき、p電極190aとn電極190bとにプローバ針の接触による傷が付くことが抑制できる。
【0047】
以下では、本実施の形態におけるフォトルミネッセンスを用いて発光素子1を検査する検査工程(検査方法)をより詳細に説明する。
【0048】
(発光素子1のエネルギバンド構造)
ここで、発光素子1のエネルギバンド構造および発光素子1が出射する光との関係を説明する。
図6は、第1の実施の形態における発光素子1のエネルギバンド構造の一例を模式的に説明するための図である。
前述したように、発光素子1のn型半導体層140およびp型半導体層160は、GaN系化合物半導体層で構成されている。一方、発光層150は、GaN系化合物半導体からなる障壁層150aと、Inを含有するGaN系化合物半導体(GaInN)からなる井戸層150bとが交互に繰り返して積層された多重量子井戸構造(MQW)で構成されている(図1参照)。なお、図6では井戸層150bは5層として表記している。
図6では、発光素子1のn型半導体層140、p型半導体層160および発光層150の障壁層150aはGaNで構成されているとする。GaNのバンドギャップエネルギEg(以下では、Eg(GaN)と表記する。他のバンドギャップエネルギEgについても同様とする。)は3.4eVである。このバンドギャップエネルギEg(GaN)により決まる光の波長λ1(中心波長)は364nmである。
一方、発光層150の井戸層150bは、GaInNで構成されているとする。井戸層150bのバンドギャップエネルギEg(GaInN)は、GaInNの組成が若干変動するため、2.7eV〜2.8eVであるとする。よって、このバンドギャップエネルギEg(GaInN)により決まる光の波長λ2(中心波長)は440nm〜460nmの範囲にある。
【0049】
図7は、発光素子1がフォトルミネッセンスにおいて出射する光の波長λ1、λ2と、光源52(後述する図9参照)に用いた超高圧水銀ランプの輝線スペクトルとを説明する図である。
発光素子1にバンドギャップエネルギEg(GaN)よりもエネルギの大きい光、すなわち波長λ1よりも短い波長の光(図7の波長領域Iで示す光)を照射すると、フォトルミネッセンスにより、n型半導体層140、p型半導体層160、障壁層150aから波長λ1(364nm)の光と、井戸層150bから波長λ2(440nm〜460nm)の光とが出射される。
一方、発光素子1にバンドギャップエネルギEg(GaN)よりも小さく、バンドギャップエネルギEg(GaInN)より大きいエネルギの光、すなわち波長λ1を超えた波長の光であって、且つ波長λ2未満の波長の光(図7の波長領域IIで示す光)を照射すると、井戸層150bから波長λ2(440nm〜460nm)の光が出射される。
そして、発光素子1にバンドギャップエネルギEg(GaN)およびバンドギャップエネルギEg(GaInN)のいずれよりも小さいエネルギの光、すなわち波長λ2を超えた波長の光(図7の波長領域IIIで示す光)を照射しても、発光素子1からフォトルミネッセンスによる光は出射しない。
【0050】
図7に示すように、後述する光源52に用いる超高圧水銀ランプは、300nm〜600nmにおける波長範囲において、複数の輝線スペクトルを有するために、干渉フィルタなどにより波長領域I、IIに対応した光を取り出すことができる。よって、超高圧水銀ランプは、上記したフォトルミネッセンスによる発光素子1からフォトルミネッセンスを観察するのに用いうる。
【0051】
なお、上記の説明では、発光素子1はフォトルミネッセンスにより波長λ1と波長λ2の光を出射するとしたが、中間層120、下地層130、積層半導体層100などに、不純物や欠陥に起因する準位が存在する場合には、波長λ1および波長λ2以外の波長の光を出射することがある。これについては、第2の実施の形態において詳述する。
【0052】
図8は、図6に示した検査工程(ステップ108)をより詳細に説明するためのフローチャートである。
検査工程は、発光素子1に通電を行わずに、通電により発光する波長(第1波長)より波長が短い光(第2波長の光)を励起光として照射する光照射工程(ステップ201)と、第2波長の光の照射により発光素子1が出射する光を検出する検出工程(ステップ202)と、発光素子1が出射する第1波長の光の強度に基づき、発光素子1の電流リークの状態を判別する判別工程(ステップ203)とを含んでいる。
すなわち、通電により発光する波長(第1波長)より波長が短い(エネルギの大きい)光を励起光L2(後述する図9参照)として、発光素子1に照射し、発光素子1がフォトルミネッセンスにより出射する光L3(後述する図9参照)により、発光素子1の電流リークの状態を判別する。つまり、本実施の形態における発光素子1の検査方法では、フォトルミネッセンスを利用して発光素子1の電流リークの状態を検査する。
一般に、励起光L2の波長に比べ、発光素子1がフォトルミネッセンスにより出射する光L3の波長は長い。そして、発光素子1が正常であれば、フォトルミネッセンスにより出射する光L3の波長は、発光素子1が通電されたときに出射する第1波長の光と同じか、その波長を含んでいる。
【0053】
(検査装置50)
図9は、発光素子1を検査する検査装置50の一例を説明するための図である。検査装置50は、蛍光性を有する試料を観察するために用いられる落射型蛍光顕微鏡と同様の構成を有している。図9では、光の進む方向を矢印で示している。
検査装置50は、発光素子1が設けられた発光チップ10または発光素子ウエハ20などを保持できる保持台51と、発光素子1における発光層150の井戸層150bのバンドギャップエネルギEgより短い波長(エネルギの大きい)の光を含む光L1を出射する光源52とを備えている。
保持台51は、X方向、Y方向およびZ方向に移動可能であって、さらにθ方向(Z方向の周り)に回転可能になっている。なお、X方向およびY方向に、それぞれ予め定められた距離でステップ状に移動可能になっていてもよい。
【0054】
そして、検査装置50は、光源52が出射する光L1の光路上に設けられ、発光素子1を励起する励起光L2を取り出す励起フィルタ53と、取り出された励起光L2が45°の入射角で入射するダイクロイックミラー54と、ダイクロイックミラー54により90°方向に反射した励起光L2を集光して、保持台51上の発光素子1に照射する対物レンズ55とを備えている。
さらに、検査装置50は、発光素子1に照射された励起光L2により引き起こされるフォトルミネッセンスにより発光素子1が出射する光L3が、ダイクロイックミラー54を透過した後に入射する取出フィルタ56を備えている。そして、発光素子1が出射する光L3のうち、取出フィルタ56を透過した光L4を2つに分岐するハーフミラー57を備えている。そして、ハーフミラー57を透過した光L5を集光する接眼レンズ58を備え、接眼レンズによって集光された光L5を像として撮影するカメラ59を備えている。そして、ハーフミラー57によって反射された光L6を集光する集光レンズ61を備え、集光レンズ61により集光された光L6を分光する分光装置62を備えている。
【0055】
光源52には、例えば可視光から近紫外にいたる複数の輝線スペクトルを有し、光の強度が大きい超高圧水銀ランプを用いることができる(図7参照)。この他、キセノンランプ、紫外線LED、レーザ光を用いることができる。ここでは、超高圧水銀ランプを用いるとして説明する。
励起フィルタ53には、誘電体多層膜からなる干渉フィルタを用いることができる。励起フィルタ53は、予め定められた波長帯域のみを透過する帯域通過フィルタ(バンドパスフィルタ)であってもよく、予め定められた波長より短い光のみを透過する短波長透過フィルタ(ショートパスフィルタ)であってもよい。これらの波長は、誘電体多層膜の構成により容易に設定できる。
すなわち、励起フィルタ53により、光源52が出射した光L1から、予め定められた波長の光を励起光L2として取り出すことができる。
なお、誘電体多層膜からなる干渉フィルタは、光の吸収が少なく、透過率が高いとともに、透過しない光を反射する。
【0056】
ダイクロイックミラー54は、前述したように、励起フィルタ53を透過した励起光L2の光路に対して45°の角度で傾いて設置され、45°の角度で入射した励起光L2を高い反射率で反射するように構成されている。すなわち、ダイクロイックミラー54は、励起光L2の光路を90°曲げて、励起光L2が発光素子1を照射するようにしている。
そして、発光素子1に励起光L2が照射されると、発光素子1はフォトルミネッセンスにより光L3を出射する。
【0057】
光L3は、対物レンズ55を透過して、ダイクロイックミラー54に向かう。ここでは、ダイクロイックミラー54はフォトルミネッセンスにより発光素子1が出射する光L3を透過するように設定されているので、光L3はダイクロイックミラー54を透過して、取出フィルタ56に入射する。
なお、励起光L2は、一部は発光素子1の励起に使用されるが、他は発光素子1のp電極190aやn電極190bなどにより反射される。この反射された励起光L2は、再びダイクロイックミラー54に向かう。前述したように、ダイクロイックミラー54は励起光L2を反射するので、発光素子1で反射された励起光L2は、再びダイクロイックミラー54で反射されて、励起フィルタ53に向かう。すなわち、発光素子1で反射された励起光L2は、ダイクロイックミラー54を透過しない。
【0058】
以上説明したように、ダイクロイックミラー54は、波長の短い励起光L2は反射するが、発光素子1が出射した励起光L2より波長の長い光L3は透過するように設定されている。ダイクロイックミラー54は、長波長透過フィルタ(ロングパスフィルタ)となっている。このようなダイクロイックミラー54は誘電体多層膜による干渉フィルタで構成される。そして、反射と透過の境界の波長は、誘電体多層膜の屈折率や膜厚を調整することで設定されている。
なお、後述するように、ダイクロイックミラー54が励起光L2の一部を反射し、残りを透過するように構成されることもある。
【0059】
取出フィルタ56は、ダイクロイックミラー54を透過して、カメラ59や分光装置62に向かう光L4の波長を選択するフィルタである。取出フィルタ56は、帯域透過フィルタ、短波長透過フィルタ、長波長透過フィルタであってもよい。そして、取出フィルタ56は、励起フィルタ53と同様に、誘電体多層膜による干渉フィルタであるのが好ましい。
また、取出フィルタ56は、カメラ59や分光装置62に向かう光L4の強度を調整するための減光フィルタであってもよい。この場合、取出フィルタ56は、光L3の光のエネルギの一部を吸収して減光する。
【0060】
ハーフミラー57は、取出フィルタ56を透過した光L4を分岐する。すなわち、ハーフミラー57は、半透明な金属膜などがガラス等の基板表面に設けられ、光L4に対して波長選択的な反射特性や透過特性を有しないように構成されている。そして、半透明な金属膜の厚さなどを調整することで、透過する光の量と反射する光の量とが設定されている。ハーフミラー57を透過した光L5とハーフミラー57で反射した光L6とは、強度はことなるが、波長特性は同じになっている。
すなわち、ハーフミラー57は、光L4をカメラ59で観察するとともに、並行して分光装置62で分光するような場合に用いられる。
【0061】
そして、接眼レンズ58を介して、カメラ59により、発光素子1が出射した光L3のうち、取出フィルタ56およびハーフミラー57を透過した光L5を像として観察できる。また、集光レンズ61を介して、分光装置62に発光素子1が出射した光L3のうち、取出フィルタ56を透過しハーフミラー57で反射された光L6を導光することにより、光L6の波長および強度を測定することができる。
【0062】
なお、対物レンズ55、接眼レンズ58、集光レンズ61は、励起光L2、発光素子1が出射する光L3、取出フィルタ56を透過した光L5、L6に対して、波長選択的な反射特性や透過特性を有しないようになっている。
【0063】
図9では、対物レンズ55を用いて励起光L2を集光して発光素子1に照射し、接眼レンズ58を用いて光L5を観察している。また、集光レンズ61を用いて光L6を分光装置62に導光している。しかし、対物レンズ55を用いないで、平行光または発散光を発光素子1に照射してもよい。同様に、接眼レンズ58を用いないで、光L5を観察してもよい。さらに、集光レンズ61を用いないで、光L6を分光装置62に導光してもよい。
【0064】
図10は、第1の実施の形態の検査方法における励起フィルタ53、ダイクロイックミラー54、取出フィルタ56の透過率の一例を説明する図である。
図10は、図6に示したエネルギバンド構造を有する発光素子1を対象として、励起フィルタ53、ダイクロイックミラー54、取出フィルタ56を設定している。n型半導体層140、p型半導体層160および発光層150の障壁層150aはGaNで構成されている。そして、バンドギャップエネルギEg(GaN)は3.4eV、このバンドギャップエネルギEg(GaN)により決まる光の波長λ1(中心波長)は364nmである。
一方、発光層150の井戸層150bは、GaInNで構成されている。そして、井戸層150bのバンドギャップエネルギEg(GaInN)は、GaInNの組成が若干変動するため、2.7eV〜2.8eVとした。そして、このバンドギャップエネルギEg(GaInN)により決まる光の波長λ2(中心波長)は440nm〜460nmの範囲にある。
ここでは、発光素子1はフォトルミネッセンスにより波長λ1と波長λ2の光のみを出射するとする。
【0065】
励起フィルタ53は、波長390nm〜410nmの波長を透過する帯域透過フィルタである。ダイクロイックミラー54は、400nm以上の光を透過する長波長透過フィルタである。さらに、取出フィルタ56は、420nm以上の光を透過する長波長透過フィルタである。
【0066】
この例では、ダイクロイックミラー54は、390nm〜420nmの範囲で透過率が緩やかに変化し、励起フィルタ53の透過帯域と重なっている。
このため、光源52が出射する光L1(図7参照)から励起フィルタ53により励起光L2として取り出された波長390nm〜410nmの光の一部は、ダイクロイックミラー54により反射されて発光素子1に照射される。しかし、残りはダイクロイックミラー54を透過して失われる。
そして、発光素子1に照射され、発光素子1によって反射された励起光L2は、一部はダイクロイックミラー54で反射されて、励起フィルタ53に向かう。残りは、ダイクロイックミラー54を透過して、取出フィルタ56に向かう。しかし、取出フィルタ56は、420nm以上の光しか透過しないため、波長390nm〜410nmの励起光L2は透過しない。すなわち、励起光L2は、カメラ59および分光装置62に入射しない。
【0067】
励起光L2は波長390nm〜410nmの光であるので、フォトルミネッセンスにより発光素子1が出射する光L3は、波長λ2(440nm〜460nm)の光である。よって、これらの光は、ダイクロイックミラー54および取出フィルタ56を透過する。そして、カメラ59および分光装置62に入射する。すなわち、発光素子1がフォトルミネッセンスにより出射する光L3がカメラ59および分光装置62で観察できる。
【0068】
図11は、第1の実施の形態において、フォトルミネッセンスによる光L3を出射する発光素子1を上面から観察した模式図である。図11(a)は使用に適する発光素子1を、図11(b)は使用に適しない発光素子1を示している。ここでは、発光素子1を個別に検査している。
発光素子1の光を出射するp型半導体層160の表面160c(図1、2参照)の大部分は、透明電極170で覆われている。よって、図11(a)に示すように、使用に適する発光素子1の場合には、透明電極170を透過して、発光層150に励起光L2が照射され、透明電極170を透過してフォトルミネッセンスによる光L3を出射する。
なお、励起光L2は、透明電極170の部分ばかりでなく、透明電極170の周囲の透明電極170で覆われていないp型半導体層160の表面160cにも照射される。このため、フォトルミネッセンスによる光L3は、透明電極170で覆われていないp型半導体層160の表面160cからも出射する。よって、図11(a)においては、p型半導体層160の表面160cを白抜きにして、フォトルミネッセンスによる光L3が出射することを示した。
なお、半導体層露出面140cの部分には発光層150がないので、光L3を出射しない。また、p電極190aおよびn電極190bの部分は不透明なAuなどで構成されているので、光L3を出射しない。
【0069】
一方、製造工程において発光素子1の発光層150が損傷などを受け、使用に適さない発光素子1では、図11(b)に示すように、フォトルミネッセンスによる光L3(図7の波長λ2の光)を出射しないか、強度が小さい。そこで、p型半導体層160の表面160cを斜線で覆って、フォトルミネッセンスによる光L3(図7の波長λ2の光)を出射しなか、強度が小さいとした。
【0070】
ここでは、励起光L2の照射によるフォトルミネッセンスで、発光素子1における発光層150の井戸層150bから光L3(図7の波長λ2)が出射するとした。しかし、後述するように、n型半導体層140、発光層150の障壁層150a、p型半導体層160からもフォトルミネッセンスによる光が出射されることがある。この場合は、図11(a)、(b)において、p電極190aおよびn電極190bの部分を除く全面から光が出射されることになる。これについては第2の実施の形態において後述する。
【0071】
図11では、発光素子1を個別に検査するとして説明した。しかし、第1の実施の形態における検査方法は、励起光L2を発光素子1に照射し、発光素子1がフォトルミネッセンスにより出射する光L3を観察するものである。よって、複数の発光素子1をまとめて検査することもできる。
【0072】
図12は、発光素子ウエハ20上のすべての発光素子1を一括して検査する方法を説明する図である。図12は、発光素子ウエハ20を発光素子1ごとに分割する前の状態、すなわち図5(f)の状態を示している。
ここでは、励起光L2は、発光素子ウエハ20において発光素子1が形成された表面20aを一括して照射する。そして、それぞれの発光素子1からフォトルミネッセンスにより出射する光L3を観察する。なお、前述したように、発光素子1はp型半導体層160上に透明電極170を設けているので、透明電極170から出射する光L3を観察すればよい。
ここでも、励起光L2の照射によって、発光素子1における発光層150の井戸層150bからフォトルミネッセンスによる光L3(図7の波長λ2)が出射するとする。
【0073】
図中、透明電極170に斜線を施した発光素子1(α、β、γ、δで表記する発光素子1)は、フォトルミネッセンスによる光L3を出射しないか、強度が小さい(暗い状態にある)。
よって、この状態をカメラ59で撮影して記録してもよく、暗い状態の発光素子1にマークを付してもよい。また、暗い状態の発光素子1の座標を記録してもよい。このようにして、発光素子ウエハ20の発光素子1を一括して検査し、使用に適する発光素子1と使用に適さない発光素子1とを識別してもよい。
【0074】
このように、発光素子ウエハ20を発光素子1ごとに分割しなくても、検査ができるのは、発光素子1における発光層150が、発光素子1ごとに分離されていて、例え発光素子1における発光層150が損傷を受けて、短絡状態または低抵抗状態になっても、その影響が隣接する発光素子1に及ばないからである。すなわち、発光素子1からフォトルミネッセンスにより出射する光L3は、発光素子1ごとの発光層150の状態を反映することになる。
よって、本実施の形態における検査方法は、発光素子1に透明電極170、p電極190a、n電極190bが形成され、発光素子1ごとに分割される直前の状態でなくともよい。例えば図5(e)に示すように、半導体層露出面140cが形成され、発光層150がそれぞれの発光素子1ごとに分離されていれば適用できる。
また、発光素子1は、p型半導体層160上に透明電極170が設けられているので、発光層150の短絡状態または低抵抗状態が例え微小な範囲で生じていたとしても、その影響は、透明電極170全面に及ぶことなる。すなわち、発光層150の損傷の有無が極めて観察しやすい。
【0075】
図13は、発光素子ウエハ20の複数の発光素子1をまとめて検査する方法を説明する図である。図13では、発光素子ウエハ20の複数の発光素子1を含む領域(図13にL2で表記する。)に励起光L2を照射し、励起光L2が照射された領域の発光素子1がフォトルミネッセンスにより出射する光L3を観察して、発光素子1を検査する。保持台51をステップアンドリピートで移動させることで、励起光L2を照射する領域を移動させ、発光素子ウエハ20の全面を検査する。図13ではαと表記した発光素子1が暗い状態にある。そして、励起光L2が一部分でも照射された発光素子1は、透明電極170でp型半導体層160が同電位になっているので、透明電極170の全面からフォトルミネッセンスによる光L3を出射する(図13において、例えばαと表記した発光素子1の下側の発光素子1)。
なお、図13では、励起光L2の照射される領域は円形であるが、四辺形としてもよい。
【0076】
図14は、複数の発光素子1をまとめて検査する方法を説明する図である。ここでは、図5(g)に示すように、発光素子ウエハ20を発光素子1に分割した状態で検査を行う。
【0077】
なお、前記した基板分割工程(図4のステップ107)は、分割された発光素子1の飛散を抑制するために、発光素子ウエハ20はその表面20aがダイシングテープ15に貼り付けられて行われる。このとき、ダイシングテープ15の周囲には、発光素子ウエハ20を取り囲むように、ウエハリング16が張り付けられている。なお、図14は、発光素子1は、ダイシングテープ15を通して見た図である。
【0078】
ダイシングテープ15は、柔軟性を有するとともに常温または加熱状態において延伸(引き伸ばすことが)できるシート状の基材と、基材の一方の面上に設けられ、発光素子ウエハ20およびウエハリング16を固定することができる接着剤(糊)とから構成されている。ダイシングテープ15の基材は、塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン(PO)などの樹脂である。
そして、前記した基板分割工程(ステップ107)により、分割予定線(V1〜V9、H1〜H9)に沿って脆弱領域が形成され、発光素子1ごとに切断されると、ウエハリング16を固定した状態で、ダイシングテープ15の裏面から発光素子ウエハ20が押し上げられる。すると、図14に示すように、ダイシングテープ15が伸ばされ、発光素子1間が押し広げられ、距離Wとなる。
【0079】
発光素子1間が押し広げられた状態において、図12に示したと同様に、励起光L2をすべての発光素子1に照射して検査する。この場合、発光素子1は分割されているので、使用に適さないと判断された発光素子1を取り除いてもよい。
【0080】
なお、図14では、発光素子1の表面(透明電極170が形成された側)は、ダイシングテープ15で覆われている。しかし、ダイシングテープ15が励起光L2およびフォトルミネッセンスにより出射する光L3を透過すれば、ダイシングテープ15を介して励起光L2を照射し、ダイシングテープ15を介して、フォトルミネッセンスによる光L3を観察すればよい。
【0081】
また、本実施の形態ではサファイアを基板110として用いたが、サファイアは150nmから6μmまでの光を透過するので、基板110の裏面側から励起光L2を照射し、裏面側からフォトルミネッセンスにより出射する光L3を観察してもよい。
図11、図12、図13で示した検査方法においても、基板110の裏面側からら励起光L2を照射し、裏面側からフォトルミネッセンスにより出射する光L3を観察してもよい。
【0082】
また、図14で示した検査方法においても、図13に示したように、複数の発光素子1が含まれる領域に励起光L2を照射し、フォトルミネッセンスにより出射する光L3を観察してもよい。
【0083】
以上説明したように、第1の実施の形態の検査方法によれば、発光素子1が使用に適しているか否かが判別できる。これにより、使用に適さない発光素子1については、パッケージに実装することが抑制できる。
【0084】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態における検査方法では、図9に示す検査装置50の励起フィルタ53の透過帯域が異なっている。他の構成については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
第2の実施の形態では、検査工程(図4、図8参照)において、励起光L2の照射により発光素子1からフォトルミネッセンスにより出射される光のうち、第1波長を除く光の強度に基づき、発光素子1における第1電荷注入層(n型半導体層140)または第2電荷注入層(p型半導体層160)に存在する準位を判別する工程(他の判別工程)を含む。
【0085】
図15は、第2の実施の形態における発光素子1のエネルギバンド構造の一例を模式的に説明するための図である。
第2の実施の形態の検査方法を適用する発光素子1の一例を、第1の実施の形態における発光素子1と同様に、n型半導体層140、p型半導体層160および発光層150の障壁層150aはGaNで構成され、バンドギャップエネルギEg(GaN)(3.4eV)により決まる光の波長λ1(中心波長)は364nmとする。
一方、発光層150の井戸層150bは、GaInNで構成され、バンドギャップエネルギEg(GaInN)(2.7eV〜2.8eV)により決まる光の波長λ2(中心波長)は440nm〜460nmの範囲にあるとする。
【0086】
そして、n型半導体層140に、エネルギレベル差が2.07eV〜2.25eVの準位が存在するとする。図15では、n型半導体層140のエネルギバンド構造のなかに、2つのエネルギレベルE1、E2の準位が存在するとして表記した。よって、エネルギレベルE1とE2との差が2.07eV〜2.25eV(|E1−E2|=2.07eV〜2.25eV)である。そして、エネルギレベルE1の準位の電子と、エネルギレベルE2の準位の正孔とが再結合すると、波長λ3(550nm〜600nm)の光を放出するとする。
【0087】
図16は、第2の実施の形態の検査方法における励起フィルタ53、ダイクロイックミラー54、取出フィルタ56の透過率の一例を説明する図である。
励起フィルタ53は、波長330nm〜385nmの光を透過する帯域透過フィルタである。ダイクロイックミラー54は、第1の実施の形態と同様に400nm以上の光を透過する長波長透過フィルタである。さらに、取出フィルタ56は、第1の実施の形態と同様に420nm以上の光を透過する長波長透過フィルタである。
【0088】
この例では、光源52が出射する光L1(図7参照)から励起フィルタ53により励起光L2として波長330nm〜385nmの光が取り出される。そして、励起光L2はダイクロイックミラー54により反射されて発光素子1に照射される。
なお、第2の実施の形態では、励起光L2は波長330nm〜385nmであるので、ダイクロイックミラー54によって反射される。したがって、発光素子1により反射された励起光L2もダイクロイックミラー54で反射され、励起フィルタ53に向かう。
【0089】
そして、励起光L2は波長λ1より短い波長の光を含むので、図15から分かるように、井戸層150bに加え、n型半導体層140、障壁層150a、p型半導体層160を励起する。
【0090】
そして、励起光L2が照射された発光素子1からフォトルミネッセンスによって出射した光のうち、波長が420nm以上の光が取出フィルタ56を透過してカメラ59および分光装置62に入射する。
なお、発光素子1はフォトルミネッセンスにより波長λ1の光を出射するが、取出フィルタ56の遮光帯域であるので、カメラ59および分光装置62には入射しない。
【0091】
図17は、第2の実施の形態において、フォトルミネッセンスによる光L3を出射する発光素子1を上面から観察した状態の模式図である。図17(a)は使用に適する発光素子1を、図17(b)は使用に適しない発光素子1を示している。ここでは、発光素子1を個別に検査している。
図17(a)に示す使用に適する発光素子1のp型半導体層160の表面160cでは、波長λ2(440nm〜460nm)の青と波長λ3(550nm〜600nm)の黄とが混合した光L3(図17(a)ではB+Yと表記する。)が観測される。一方、半導体層露出面140cでは、波長λ3(550nm〜600nm)の黄の光L3(図17(a)ではYと表記する。)が観測される。
【0092】
一方、図17(b)に示す使用に適さない発光素子1では、発光素子1の全面において、波長λ3(550nm〜600nm)の黄の光L3(図17(b)ではYと表記する。)が観測される。
【0093】
使用に適する発光素子1において、フォトルミネッセンスにより波長λ2(440nm〜460nm)の青の光が出射し、使用に適しない発光素子1において、フォトルミネッセンスによる波長λ2(440nm〜460nm)の青の光が出射しないことは、第1の実施の形態と同様である。
しかし、第2の実施の形態では、使用に適する発光素子1および使用に適しない発光素子1のいずれにおいても、フォトルミネッセンスによる波長λ3(550nm〜600nm)の黄の光L3が観測される。
【0094】
第2の実施の形態の発光素子1に、励起光L2が照射されると、n型半導体層140において、伝導帯Ecに電子が励起され、価電子帯Evに正孔が励起される。伝導帯Ecに励起された電子がエネルギレベルE1の準位に移行し、価電子帯Evに励起された正孔がエネルギレベルE2の準位に移行する。そして、エネルギレベルE1の電子とエネルギレベルE2の正孔とが再結合して、波長λ3(550nm〜600nm)の黄の光L3を出射する。
n型半導体層140は、使用に適する発光素子1および使用に適さない発光素子1のいずれにおいても共通に存在する。よって、図17(a)、(b)のいずれにおいても、波長λ3(550nm〜600nm)の黄の光が観測される。
【0095】
なお、n型半導体層140におけるエネルギレベルE1、E2の準位は、不純物の混入または/および欠陥の発生に起因する。
ここでは、エネルギレベルE1、E2の準位はn型半導体層140に発生しているとしたが、p型半導体層160または/および発光層150の障壁層150aにエネルギレベルE1、E2の準位が存在するとしても同じである。これらの準位が、n型半導体層140、p型半導体層160、障壁層150aのいずれに存在しているかは区別できない。
このように、第2の実施の形態における検査方法によると、n型半導体層140、p型半導体層160、障壁層150aにおける不純物の混入や欠陥に起因する準位の存在も判別できる。準位の存在を判別することは他の判別工程に該当する。
【0096】
なお、準位E1と準位E2とのエネルギ差は、2.07eV〜2.25eVであるとした。このとき、励起光L2が、第1の実施の形態の場合の390nm〜410nm(3.02eV〜3.18eV)の光であっても、準位E1と準位E2との間で、電子および正孔を励起することができる。しかし、準位E1と準位E2との間での励起の確率は少ないので、これらの準位間での再結合による光の検出は容易ではない。
これに対し、n型半導体層140、p型半導体層160、障壁層150aのバンドギャップエネルギEgより大きいエネルギの励起光L2を用いると、伝導帯Ecおよび価電子帯Evに大量に電子または正孔を供給でき、再結合による光の強度が大きくなる。よって、不純物の混入や欠陥の発生によるn型半導体層140、p型半導体層160、障壁層150aのバンドギャップ内の準位を検出するには、n型半導体層140、p型半導体層160、障壁層150aのバンドギャップエネルギEgよりエネルギの大きい励起光L2を用いることが好ましい。
【0097】
第1の実施の形態および第2の実施の形態において、発光素子1は、III族窒化物化合物半導体により構成された発光素子として説明した。しかし、発光素子1は、III族窒化物化合物半導体により構成された発光素子に限らず、III−V族化合物半導体、II−VI族化合物半導体、IV−IV族化合物半導体等で構成された発光素子であってもよい。
さらに、発光素子1は、発光層に有機材料を用いた有機EL素子であってもよい。
【0098】
そして、第1の実施の形態および第2の実施の形態において示した励起フィルタ53、ダイクロイックミラー54、取出フィルタ56の透過波長は例示であって、検査する発光素子1が出射する波長などにより設定すればよい。
【符号の説明】
【0099】
1…発光素子、10…発光チップ、15…ダイシングテープ、16…ウエハリング、20…発光素子ウエハ、50…検査装置、51…保持台、52…光源、53…励起フィルタ、54…ダイクロイックミラー、55…対物レンズ、56…取出フィルタ、57…ハーフミラー、58…接眼レンズ、59…カメラ、61…集光レンズ、62…分光装置、100…積層半導体層、110…基板、120…中間層、130…下地層、140c…半導体露出面、140…n型半導体層、150…発光層、160…p型半導体層、170…透明電極、180…保護層、190a…p電極、190b…n電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により第1波長の光を出射する発光層と、当該発光層を挟み込んで設けられ当該発光層に電荷を注入する第1電荷注入層および第2電荷注入層と、当該発光層に電流を流すために当該第1電荷注入層に接続された第1電極および当該第2電荷注入層に接続された第2電極とを備える発光素子に対して、通電を行わずに当該第1波長よりも波長が短い第2波長の光を照射する光照射工程と、
前記光照射工程における前記第2波長の光の照射に伴って、前記発光素子から出射される光を検出する検出工程と、
前記検出工程にて検出された、前記発光素子から出射される光における前記第1波長の光の強度に基づき、当該発光素子における電流リークの状態を判別する判別工程と
を有する発光素子の検査方法。
【請求項2】
前記検出工程にて検出された、前記発光素子から出射される光のうち前記第1波長を除く光の強度に基づき、当該発光素子における前記第1電荷注入層または前記第2電荷注入層に存在する準位を判別する他の判別工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の発光素子の検査方法。
【請求項3】
前記第1電極または前記第2電極は、前記第1波長の光および前記第2波長の光を透過する透明電極を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子の検査方法。
【請求項4】
前記発光素子は、前記第1電荷注入層または前記第2電荷注入層のいずれか一方に対向して設けられた基板に取り付けられ、当該基板は、前記第1波長の光および前記第2波長の光を透過するとともに、当該第2波長の光は当該基板を透過して照射され、当該第1波長の光は当該基板を透過して検出されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の発光素子の検査方法。
【請求項5】
基板上に、第1電荷注入層、発光層、第2電荷注入層を順に積層する積層工程と、
前記第2電荷注入層と前記発光層とを複数の領域に分離する分離工程と、
前記発光層に電流を流すために、前記複数の領域ごとに前記第1電荷注入層に接続されるように第1電極を、前記第2電荷注入層に接続されるように第2電極をそれぞれ形成して発光素子とする電極形成工程と、
通電により前記発光層が出射する第1波長の光の波長よりも波長が短い第2波長の光を、通電を行わずに、積層された前記第1電荷注入層、前記発光層、前記第2電荷注入層に照射する光照射工程と、
前記光照射工程における前記第2波長の光の照射に伴って、前記第1電荷注入層、前記発光層、前記第2電荷注入層から出射される光を検出する検出工程と、
前記検出工程にて検出された前記発光層から出射される前記第1波長の光の強度に基づき、前記発光素子における電流リークの状態を判別する判別工程と
を有する発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記光照射工程、前記検出工程、前記判別工程は、前記基板が前記発光素子ごとに分割される前に行われることを特徴とする請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記検出工程にて検出された、前記発光素子から出射される光のうち前記第1波長を除く光の強度に基づき、当該発光素子の前記第1電荷注入層または前記第2電荷注入層に存在する準位を判別する他の判別工程をさらに有することを特徴とする請求項5または6に記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−38313(P2013−38313A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174829(P2011−174829)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】