説明

研磨スラリーの供給方法及び供給装置、並びに研磨装置

【課題】ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来に比べて大幅に低減された、また、これによりウェーハの研磨時において、ウェーハ表面のナノオーダーの欠陥を低減できる研磨スラリーの供給方法及び供給装置、並びに研磨装置を提供することを目的とする。
【解決手段】スラリー原液と純水とを混合した研磨スラリーを研磨装置に供給する供給方法であって、計量された前記スラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら前記スラリー原液と前記純水とを混合する工程と、該混合された研磨スラリーを前記研磨装置に供給する工程とを含むことを特徴とする研磨スラリーの供給方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨装置に研磨スラリーを供給する供給方法及び供給装置、並びにその供給装置を具備した研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコン鏡面ウェーハ等の半導体ウェーハの製造方法は、単結晶製造装置によって製造された単結晶棒をスライスして薄円板状のウェーハを得るスライス工程と、該スライス工程で得られたウェーハの割れ欠けを防ぐためにその外周のエッジ部を面取りする面取り工程と、面取りされたウェーハをラッピングしてこれを平坦化するラッピング工程と、面取り及びラッピングされたウェーハ表面に残留する加工歪を除去するエッチング工程と、エッチングされたウェーハの表面を鏡面状に仕上げるポリッシュ工程と、ポリッシュされたウェーハを洗浄する洗浄工程からなる。
【0003】
半導体ウェーハの形状は最終の鏡面研磨加工によって決定されている。特に直径300mmのシリコンウェーハでは厳しい平坦度の仕様を満足するために両面研磨での一次研磨を行い、その後に表面のキズや面粗さの改善のために片面での表面二次及び仕上げ研磨を行っている。
片面の表面二次及び仕上げ研磨では両面一次研磨で作られた平坦度を維持あるいは改善するとともに表面側に欠陥の無い完全鏡面に仕上げることが要求されている。
【0004】
この両面研磨及び片面研磨では、研磨スラリーを供給しながら研磨装置の定盤に貼り付けられた研磨布にウェーハを摺接させることでウェーハが研磨される。
ここで、研磨スラリーを研磨装置に供給するための従来の研磨スラリーの供給装置を図6に示す。図6に示すように、研磨スラリーの供給装置101は、スラリー原液の計量のためのスラリー原液計量タンク102及びスラリー原液と純水を混合した研磨スラリーを貯蔵するためのスラリー貯蔵タンク103を有している。
【0005】
この供給装置101を用いて研磨スラリーを研磨装置に供給する際には、まず、スラリー貯蔵タンク103に所定量の純水を入れると同時にポンプ104により循環を開始する。スラリー貯蔵タンク103内の純水は計量センサー106によって計量される。次に、この純水の所定量に対してスラリー原液をスラリー原液計量タンク102内で計量し、スラリー貯蔵タンク103内の純水に加えて混合する。スラリー原液計量タンク102には計量センサー105が設置されており、スラリー原料の計量が正確に行われる。混合された研磨スラリーはポンプ104により循環させつつ一定時間保管された後、研磨装置へ供給される。
【0006】
このような従来の供給装置を用いて研磨スラリーを供給してウェーハの研磨を行うと、ウェーハ表面にナノオーダーの欠陥が発生してしまう。
近年では、半導体ウェーハの微細化に伴い、研磨後のウェーハの表面上の深さ数nmのスクラッチや高さ数nmの突起などのナノオーダーの欠陥がデバイス特性に影響を与える要因として注目されてきている。
このような微小欠陥を抑制するため、組成を工夫した研磨スラリーが開発されている(特許文献1参照)。特許文献1には、この研磨スラリーにより研磨中のウェーハ表面の濡れ性を向上させ、パーティクルの表面への付着を低減することで欠陥の発生を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−34509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このようなウェーハ表面の濡れ性を向上させ、パーティクルがウェーハ表面へ付着するのを低減する方法は、研磨スラリー中に存在するパーティクルを低減させるわけではないので、その効果は限定的である。そのため、欠陥低減対策としては不十分であり、ナノオーダーの欠陥の発生を低減するための更なる対策が求められている。
【0009】
そこで、本発明者等は欠陥の発生の原因について調査、検討を行い、その結果以下のことを発見した。研磨スラリー中に存在するパーティクルは、そのほとんどが研磨スラリーの主成分であるシリカが純水中で凝集したものと考えられる。シリカはその表面に親水性のシラノール基(Si−OH)を持つため、粒子間水素結合やファンデルワールス力により、粒子(一次粒子)同士の凝集が起こり、単体粒子径よりも粒径の大きい凝集粒子(二次粒子)が形成される。この二次粒子は、一般的には一次粒子径の2〜3倍程度の粒子径となるが、純水と混合した研磨スラリー中には、二次粒子径よりも明らかに大きな粒子(粗大粒子)が多数観察される。
この粗大粒子が研磨中にウェーハ表面にマイクロスクラッチを発生させ、ウェーハ表面欠陥の原因となっている。
【0010】
このような粗大粒子を低減させるためには、研磨スラリーのフィルターによる濾過が効果的である。しかし、ウェーハ表面の濡れ性向上や、研磨面の粗さ低減を目的に、研磨スラリー中には高分子材が添加されていることが多く、特に最終の仕上げ研磨工程で用いられる研磨スラリーは、フィルターの目詰まりが激しく、濾過が困難である。
また、研磨スラリーとして混合調整される前に含有成分を個々に濾過する方法も異物低減効果が期待されるが、研磨スラリーと純水とを混合した際に新たな凝集物が発生するため、粗大粒子を十分に低減できない。
【0011】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来に比べて大幅に低減された、また、これによりウェーハの研磨時においてウェーハ表面のナノオーダーの欠陥を低減できる研磨スラリーの供給方法及び供給装置、並びに研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、スラリー原液と純水とを混合した研磨スラリーを研磨装置に供給する供給方法であって、計量された前記スラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら前記スラリー原液と前記純水とを混合する工程と、該混合された研磨スラリーを前記研磨装置に供給する工程とを含むことを特徴とする研磨スラリーの供給方法が提供される。
【0013】
このような供給方法であれば、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来に比べて大幅に低減されたものとなり、これによりウェーハの研磨時においてウェーハ表面のナノオーダーの欠陥を低減できる研磨スラリーを供給できる。
【0014】
このとき、計量された前記スラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに加える所定量を、前記スラリー原液1Lに対して3L/min以下とすることが好ましい。
このようにすれば、粗大粒子が従来に比べて大幅に低減された研磨スラリーを確実に供給できる。
【0015】
またこのとき、前記スラリー原液と前記純水とを混合する工程の終了時から8時間以内に前記研磨スラリーを前記研磨装置に供給することが好ましい。
このようにすれば、研磨スラリーを研磨装置に供給するまでの間に増加する粗大粒子数が十分に少ない研磨スラリーを供給できる。
【0016】
またこのとき、前記混合する工程における前記スラリー原液と純水との混合を、前記スラリー原液と純水とを循環させることにより行うことができる。
このようにすれば、比較的簡単にスラリー原液と純水とを混合できる。
【0017】
またこのとき、前記混合された研磨スラリーが1cc当たりに含まれる0.25μm以上の粗大粒子が5,000,000個以下のものを前記研磨装置に供給することが好ましい。
このようにすれば、ウェーハの研磨時においてウェーハ表面のナノオーダーの欠陥を確実に低減できる研磨スラリーを供給できる。
【0018】
また、本発明によれば、スラリー原液と純水とを混合した研磨スラリーを研磨装置に供給する供給装置であって、前記スラリー原液と前記純水とを混合するためのスラリー混合タンクと、該スラリー混合タンク内に前記純水を加える量を制御する制御手段と、混合後の前記研磨スラリーを貯蔵するためのスラリー貯蔵タンクとを有し、前記制御手段によって前記スラリー混合タンク内の計量された前記スラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら、前記スラリー原液と前記純水とを混合し、前記スラリー貯蔵タンク内に貯蔵された前記混合後の研磨スラリーを前記研磨装置に供給するものであることを特徴とする研磨スラリーの供給装置が提供される。
【0019】
このような供給装置であれば、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来に比べて大幅に低減されるとともに、これによりウェーハの研磨時においてウェーハ表面の特にナノオーダーの欠陥を低減できる研磨スラリーを供給できるものとなる。
【0020】
このとき、前記制御手段は、前記計量されたスラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに加える所定量を、前記スラリー原液1Lに対して3L/min以下になるように制御するものであることが好ましい。
このようなものであれば、粗大粒子が従来に比べて大幅に低減された研磨スラリーを確実に供給できるものとなる。
【0021】
またこのとき、前記スラリー混合タンク内における前記スラリー原液と前記純水との混合を、前記スラリー原液と純水とを循環させることによって行う循環手段を有するものとすることができる。
このようなものであれば、比較的簡単な構成でスラリー原液と純水とを混合できるものとなる。
【0022】
また、本発明によれば、研磨スラリーを供給しながらワークを定盤に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨する研磨装置であって、前記研磨スラリーを供給するための本発明の研磨スラリーの供給装置を具備するものであることを特徴とする研磨装置が提供される。
【0023】
このようなものであれば、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が低減された研磨スラリーを本発明の研磨スラリーの供給装置で供給できるので、ウェーハ表面のナノオーダーの欠陥が低減されたウェーハに研磨できる研磨装置となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、研磨スラリーの供給装置において、計量されたスラリー原液に対して純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながらスラリー原液と純水とを混合し、該混合された研磨スラリーを研磨装置に供給するので、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来に比べて大幅に低減された研磨スラリーを供給できる。また、これによりウェーハの研磨時においてウェーハ表面のナノオーダーの欠陥を低減できる。また、本発明の研磨装置はこのような本発明の研磨スラリーの供給装置を具備するので、ウェーハ表面のナノオーダーの欠陥が低減されたウェーハに研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の研磨スラリーの供給装置の一例を示した概略図である。
【図2】本発明の研磨装置の一例として片面研磨装置を示した概略図である。
【図3】本発明の研磨装置の一例として両面研磨装置を示した概略図である。
【図4】実施例1の結果を示す図である。
【図5】実施例2及び比較例の欠陥数の結果を示す図である。
【図6】従来の研磨スラリーの供給装置の一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記したように、本発明者等はウェーハの研磨中に発生するナノオーダーの欠陥の原因について検討したところ、研磨スラリー中に粗大粒子が多数存在し、これが研磨中にウェーハ表面にマイクロスクラッチを発生させ、ウェーハ表面欠陥の原因となることを発見した。
【0027】
さらに、本発明者等は研磨スラリー中の粗大粒子を低減して欠陥を抑制する方法に関して実験、検討を重ねた。
表1は、スラリー原液と純水を混合する際に、タンク内の純水に対しスラリー原液を加えていく上記した従来の方法で供給した研磨スラリー中の0.25μm以上の粗大粒子数を、スラリー原液と純水との混合比を変えて比較した実験結果を示すものである。ここで、表中の混合比は、スラリー原液の容量に対する純水の容量の倍率を示し、粗大粒子数はスラリー原液1cc当たりに含まれる粗大粒子数に換算した値である。
【0028】
表1に示すように、混合比が大きくなるに従って、スラリー原液1cc換算の粗大粒子数は増加した。この結果から、スラリー原液と純水を混合する際に、砥粒の分散効果を持つスラリー原液中のアルカリ成分の濃度が急激に変化することにより、その分散効果を失い、凝集が発生すると推定される。そのため、スラリー原液と純水を混合する際に、タンク内の純水に対しスラリー原液を加えていく従来の方法だとスラリー原液中のアルカリ成分の濃度が急激に変化するので、粗大粒子が多数発生すると考えられる。
【表1】

【0029】
以上の実験結果から、本発明者等はスラリー原液に対して、純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら少しづつ加えていくことで凝集による粗大粒子の発生を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0030】
図1は本発明の研磨スラリーの供給装置の一例を示した概略図である。
図1に示すように、本発明の研磨スラリーの供給装置1はスラリー原液と純水とを混合するためのスラリー混合タンク2と、該スラリー混合タンク2内に純水を加える量を制御する制御手段3と、混合後の研磨スラリーを貯蔵するためのスラリー貯蔵タンク4とを有している。スラリー混合タンク2にはスラリー原液を計量するための計量センサー5b、及び混合後の研磨スラリーを計量するための計量センサー5aが設けられている。
【0031】
スラリー貯蔵タンク4と研磨装置との間の配管上にはポンプ7a及び方向切替弁8aが設けられている。方向切替弁8aはポンプ7aによってスラリー貯蔵タンク4から流出された研磨スラリーの流出方向を研磨装置方向とスラリー貯蔵タンク方向とで切り替えるものである。このポンプ7a及び方向切替弁8aによってスラリー貯蔵タンク4内に貯蔵された研磨スラリーを研磨装置に供給し、又は循環保管することができる。
【0032】
スラリー貯蔵タンク4には貯蔵する研磨スラリーの量を監視するために、Hセンサー6a、Lセンサー6b、LLセンサー6cが設けられている。Hセンサー6aは研磨スラリー量のオーバーフローアラーム用の計量センサーである。Lセンサー6bは研磨スラリー量の低下アラーム用の計量センサーである。LLセンサー6cは研磨スラリー量が所定以下となった際にポンプ7aを停止するためのポンプ保護用の計量センサーである。
【0033】
また、研磨スラリーの供給装置1は、スラリー混合タンク2に流入する純水の流量を調整する流量調整手段9を有している。この流量調整手段9は制御手段3と接続し、制御手段3によって純水を加える量を制御できるようになっている。
本発明の研磨スラリーの供給装置1では、スラリー原液と純水とを混合する際に、まず、センサー5bで計量しながらスラリー混合タンク2に所定量のスラリー原液を入れる。次に、制御手段3によってスラリー混合タンク2内の計量されたスラリー原液に対して純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら、スラリー原液と純水とを混合する。この単位時間当たりの所定量はスラリー原液と純水とを混合する際にスラリー原液中のアルカリ成分の濃度が急激に変化しないような量とする。
【0034】
スラリー貯蔵タンク4は、この混合後の研磨スラリーを研磨装置に供給するまでの間貯蔵しておく。この貯蔵の間には方向切替弁8aをスラリー貯蔵タンク4方向に切り替え、ポンプ7aを用いて研磨スラリーを循環させつつ保管できる。
その後、スラリー貯蔵タンク4内に貯蔵された混合後の研磨スラリーは、方向切替弁8aを研磨装置方向に切り替え、ポンプ7aを用いて研磨装置に供給される。
このような本発明の研磨スラリーの供給装置であれば、スラリー原液と純水とを混合する際にスラリー原液中のアルカリ成分の濃度が急激に変化することもなく、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が低減された研磨スラリーを供給できるものとなる。これによりウェーハの研磨時においてウェーハ表面の特にナノオーダーの欠陥の発生を低減できる。
【0035】
スラリー原液中のアルカリ成分の急激な濃度変化を確実に抑制するための具体的な純水を単位時間当たりに加える所定量は、例えば、スラリー原液1Lに対して0.5〜3.0L/minである。すなわち、制御手段3は純水をこのような範囲内の量加えるように制御するものであることが好ましい。
このようなものであれば、粗大粒子が大幅に低減された研磨スラリーを確実に供給できるものとなる。
【0036】
また、スラリー混合タンク2内におけるスラリー原液と純水との混合を、スラリー原液と純水とを循環させることによって行う循環手段を設けることができる。
図1に示す本発明の研磨スラリーの供給装置1では、この循環手段として、ポンプ7bと方向切替弁8bとを有している。方向切替弁8bによって研磨スラリーの流出方向をスラリー貯蔵タンク方向からスラリー混合タンク方向に切り替え、ポンプ7bによってスラリー混合タンク2内のスラリー原液と純水とを循環させて混合することができる。
なお、上記したポンプ7a、7bは例えばベローズポンプとすることができる。ベローズポンプはスラリーを圧縮する作用があるので低流量で使用することが好ましい。また、レビトロポンプであれば圧縮作用がないのでより好ましい。
或いは、スラリー原液と純水との混合を循環によって行うものではなく、スラリー混合タンク2内にスラリー原液と純水とを攪拌する手段を有するものであっても良い。
【0037】
次に、本発明の研磨スラリーの供給方法について説明する。ここでは、図1に示すような本発明の研磨スラリーの供給装置1を用いた場合について説明する。
まず、センサー5bで計量しながらスラリー混合タンク2に所定量のスラリー原液を入れる。次に、制御手段3によってスラリー混合タンク2内の計量されたスラリー原液に対して純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら、スラリー原液と純水とを少しづつ混合する。
【0038】
このとき、計量されたスラリー原液に対して純水を単位時間当たりに加える具体的な所定量を、スラリー原液1Lに対して0.5〜3L/minとすることが好ましい。この所定量が小さいほど研磨スラリー中の粗大粒子の数をより低減できるが、混合工程の時間も増加するので、生産性に大きな影響を与えないような範囲にすることが望ましい。例えば、この所定量を、混合された研磨スラリー中の1cc当たりに含まれる0.25μm以上の粗大粒子が5,000,000個以下となるように設定することができる。さらに、生産性への影響を抑えるためにスラリー混合タンク2を複数設けても良い。
このようにすれば、スラリー原液中のアルカリ成分の急激な濃度変化を確実に抑制できるので、粗大粒子が大幅に低減された研磨スラリーを確実に供給できる。
【0039】
混合後の研磨スラリーはスラリー貯蔵タンク4内に貯蔵される。この貯蔵の間には、必要に応じて、方向切替弁8aをスラリー貯蔵タンク方向に切り替えてポンプ7aを用いて研磨スラリーを循環保管できる。この循環保管の際には、後述するようにポンプの圧縮作用により研磨スラリー中の粗大粒子が増加するので、保管期間をなるべく短くすることが好ましい。特に、スラリー原液と純水との混合終了時から8時間以内に研磨スラリーを研磨装置に供給することが好ましい。
【0040】
表2は、本発明の供給方法によって研磨スラリーを供給した際に、循環保管した時間によって粗大粒子の数がどのように変化するかを評価した結果である。ここで、スラリー原液と純水との混合比を20倍とした。また、混合の際の純水を単位時間当たりに加える所定量をスラリー原液1Lに対して5.0L/minとした。表2に示すように、循環保管の時間が長くなるほど粗大粒子の数は増加しているのが分かる。これは、循環の際に使用したポンプの圧縮作用により粗大粒子が増加したためと考えられる。
【0041】
循環保管が8時間以内、すなわちスラリー原液と純水との混合終了時から8時間以内であれば、混合直後からの粗大粒子の増加量が約13%以下となるので循環保管の影響を低く抑えることができ、研磨スラリーを供給するまでの間に増加する粗大粒子により研磨時の欠陥の発生が増加するのを十分に抑制できる。
また、循環保管する際には、循環をなるべく一定時間低流量で行うようにしてポンプの圧縮作用による影響を抑制することが好ましい。
【0042】
【表2】

【0043】
必要に応じて研磨スラリーを循環保管した後、スラリー貯蔵タンク4内に貯蔵された混合後の研磨スラリーを、方向切替弁8aを研磨装置方向に切り替えてポンプ7aを用いて研磨装置に供給する。
このような本発明の研磨スラリーの供給方法であれば、スラリー原液と純水とを混合する際にスラリー原液中のアルカリ成分の濃度が急激に変化することもなく、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来に比べ大幅に低減された研磨スラリーを供給できる。また、これによりウェーハの研磨時においてウェーハ表面の特にナノオーダーの欠陥を低減できる。
【0044】
またこのとき、上記した供給装置で説明したのと同様に、混合工程におけるスラリー原液と純水との混合を、スラリー原液と純水とを循環させることにより行うことができる。
この際、循環をなるべく一定時間低流量で行うようにしてポンプの圧縮作用による影響を抑制することが好ましい。
【0045】
次に、本発明の研磨装置について説明する。まず、研磨装置として片面研磨装置とした場合について図2を参照して説明する。
図2に示すように、研磨装置21は、研磨するウェーハを保持する研磨ヘッド22、研磨布24が貼り付けられた定盤23と、ノズル25と、本発明の研磨スラリーの供給装置1とを有している。この研磨スラリーの供給装置1の構成は上記と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0046】
この研磨装置21によってウェーハWを研磨する際には、研磨ヘッド22でウェーハWを保持し、本発明の研磨スラリーの供給装置1によってノズル25を介して研磨スラリーを供給しながら、定盤23と研磨ヘッド22をそれぞれ回転させてワークWの表面を研磨布24に摺接させて研磨する。
このような本発明の研磨装置21であれば、本発明の研磨スラリーの供給装置でウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来に比べ大幅に低減された研磨スラリーを供給できるので、ウェーハ表面のナノオーダーの欠陥が低減されたウェーハに研磨できる。特に、上記したような粗大粒子を濾過によって除去することが困難である仕上げ研磨用の研磨スラリーを用いた片面研磨を行う際に、本発明の研磨装置を好適に適用できる。
【0047】
次に、研磨装置として両面研磨装置とした場合について図3(A)(B)を参照して説明する。
図3(A)(B)に示すように、本発明の研磨装置31は上下に相対向して設けられた上定盤32と下定盤33を備えており、上下定盤32、33には、それぞれ研磨布34が貼付されている。そして上下定盤32、33の間の中心部にはサンギヤ37が、周縁部にはインターナルギヤ38が設けられている。キャリア35にはウェーハWを保持するための保持孔36が設けられ、複数のキャリア35が上下定盤32、33の間に挟まれるようになっている。
【0048】
サンギヤ37及びインターナルギヤ38の各歯部にはキャリア35の外周歯が噛合しており、上下定盤32、33が上回転軸39、及び下回転軸40により所定の回転速度でそれぞれ回転されるのに伴い、それぞれのキャリア35は自転しつつサンギヤ37の周りを公転する。
【0049】
この研磨装置31によってウェーハWを研磨する際には、本発明の研磨スラリーの供給装置1によってノズル41を介して研磨スラリーを供給しながら、キャリア35の保持孔36に保持されたウェーハWを、上下の研磨布34と摺接させて両面を同時に研磨する。
このような本発明の研磨装置31であれば、ウェーハ両面のナノオーダーの欠陥が低減されたウェーハに研磨できる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
図1に示すような本発明の研磨スラリーの供給装置を用い、本発明の研磨スラリーの供給方法に従って研磨スラリーを研磨装置に供給し、供給された研磨スラリー中の粗大粒子数を測定した。ここで、混合工程において、スラリー原液と純水との混合比を20倍とし、スラリー原液1Lに対して純水を加える所定量を0.5〜5L/minで変化させた。ここで、スラリー原液としてフジミインコーポレーテッド製の仕上げ研磨用スラリーFGL−3900を用いた。また、混合後の研磨スラリーは1時間以内に研磨装置に供給した。
粗大粒子はAccuSizer FX(PPS社製)を用いて測定した。
【0052】
その結果を図4に示す。図4に示すように、単位時間当たりに加える純水の所定量を小さくするほど研磨スラリー中の粗大粒子数が低減されることが分かった。特に所定量が3L/min以下の場合、粗大粒子数が5,000,000個以下まで低減されており、非常に良好な結果となっていた。これに対し、後述する比較例の結果では、粗大粒子数は101,000,000個程度と非常に多く、スラリー原液を単位時間当たりに加える所定量を調整してもこの粗大粒子数を改善できなかった。このことにより、スラリー原液に対して純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながらスラリー原液と純水とを混合することが粗大粒子数を抑制する上で重要であると言える。
このように、本発明の研磨スラリーの供給方法及び供給装置は、ウェーハの研磨時に欠陥の原因となる粗大粒子が従来と比べ大幅に低減された研磨スラリーを供給できることが確認できた。
【0053】
(実施例2)
図2に示すような本発明の片面研磨装置21を用い、実施例1と同様の条件で純水を加える所定量を2L/min、3L/minとし、研磨スラリーを供給しながら直径300mmのシリコンウェーハを仕上げ研磨し、研磨後のウェーハの欠陥数を評価した。研磨装置本体としてPNX−332(岡本工作機械社製)を用いた。
この仕上げ研磨の際に片面研磨装置21の研磨布として、POLYPAS(フジボウ社製)のスウェードタイプのものを用いた。また、研磨条件として、研磨荷重を100g/cm、定盤回転数及び研磨ヘッド回転数を30rpm、研磨装置への研磨スラリーの供給量を1L/minとした。また、混合後の研磨スラリーを1時間以内に研磨装置に供給した。
【0054】
仕上げ研磨したシリコンウェーハは両面研磨での一次研磨後のウェーハを本発明の片面研磨装置21を用いて事前に片面二次研磨しておいた。この片面二次研磨の際に片面研磨装置21の研磨布として、Suba−400(ニッタハース社製)を用いた。スラリー原液としてフジミインコーポレーテッド製の一次研磨用スラリー原液(FGL−1103)を用い、スラリー原液と純水との混合比を10倍とした。また、研磨条件として、研磨荷重を140g/cm、定盤回転数及び研磨ヘッド回転数を60rpm、研磨装置への研磨スラリーの供給量を2L/minとした。
【0055】
研磨後のシリコンウェーハの欠陥をMAGICS(レーザーテック社製)を用いて測定した。その結果を図5に示す。ここで、欠陥数は、純水を加える所定量が3L/minの欠陥数を1とした場合の比率で示される。図5に示すように、スラリー原液1Lに対して純水を加える所定量が小さい方が欠陥数が少なくなっていることが分かった。また、これら実施例2のどちらの場合も、後述する比較例の結果と比べ欠陥数が低減されていることが分かった。
このように本発明の研磨スラリーの供給方法及び供給装置、並びに研磨装置はウェーハの研磨時において、ウェーハ表面のナノオーダーの欠陥を低減できることが確認できた。
【0056】
(比較例)
図6に示すような、スラリー原液と純水を混合する際にタンク内の純水に対しスラリー原液を加えていく従来の研磨スラリーの供給装置を片面研磨装置を用いた以外、実施例2と同様の条件で直径300mmのシリコンウェーハを仕上げ研磨し、供給された研磨スラリー内の粗大粒子数と研磨後のウェーハの欠陥数を評価した。
その結果、供給された研磨スラリー内の粗大粒子数は101,000,000個程度と非常に多かった。また、欠陥数の結果を図5に示す。図5に示すように、欠陥数は実施例2の結果と比べ増加していた。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0058】
1…研磨スラリーの供給装置、 2…スラリー混合タンク、 3…制御手段、
4…スラリー貯蔵タンク、 5a、5b、6a、6b、6c…計量センサー、
7a、7b…ポンプ、 8a、8b…方向切替弁、 9…流量調整手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー原液と純水とを混合した研磨スラリーを研磨装置に供給する供給方法であって、
計量された前記スラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら前記スラリー原液と前記純水とを混合する工程と、
該混合された研磨スラリーを前記研磨装置に供給する工程とを含むことを特徴とする研磨スラリーの供給方法。
【請求項2】
計量された前記スラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに加える所定量を、前記スラリー原液1Lに対して3L/min以下とすることを特徴とする請求項1に記載の研磨スラリーの供給方法。
【請求項3】
前記スラリー原液と前記純水とを混合する工程の終了時から8時間以内に前記研磨スラリーを前記研磨装置に供給することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の研磨スラリーの供給方法。
【請求項4】
前記混合する工程における前記スラリー原液と純水との混合を、前記スラリー原液と純水とを循環させることにより行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の研磨スラリーの供給方法。
【請求項5】
前記混合された研磨スラリーが1cc当たりに含まれる0.25μm以上の粗大粒子が5,000,000個以下のものを前記研磨装置に供給することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の研磨スラリーの供給方法。
【請求項6】
スラリー原液と純水とを混合した研磨スラリーを研磨装置に供給する供給装置であって、
前記スラリー原液と前記純水とを混合するためのスラリー混合タンクと、該スラリー混合タンク内に前記純水を加える量を制御する制御手段と、混合後の前記研磨スラリーを貯蔵するためのスラリー貯蔵タンクとを有し、
前記制御手段によって前記スラリー混合タンク内の計量された前記スラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに所定量加えるように制御しながら、前記スラリー原液と前記純水とを混合し、前記スラリー貯蔵タンク内に貯蔵された前記混合後の研磨スラリーを前記研磨装置に供給するものであることを特徴とする研磨スラリーの供給装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記計量されたスラリー原液に対して前記純水を単位時間当たりに加える所定量を、前記スラリー原液1Lに対して3L/min以下になるように制御するものであることを特徴とする請求項6に記載の研磨スラリーの供給装置。
【請求項8】
前記スラリー混合タンク内における前記スラリー原液と前記純水との混合を、前記スラリー原液と純水とを循環させることによって行う循環手段を有するものであることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の研磨スラリーの供給装置。
【請求項9】
研磨スラリーを供給しながらワークを定盤に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨する研磨装置であって、
前記研磨スラリーを供給するための請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の研磨スラリーの供給装置を具備するものであることを特徴とする研磨装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−110201(P2013−110201A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252585(P2011−252585)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】