説明

研磨パッド及び研磨パッドの製造方法

【課題】被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド20は、湿式成膜法により連続的に形成され内部にセル3が形成されたウレタンシート12を備えている。ウレタンシート12は、湿式成膜後に成膜基材の成膜樹脂が形成された面の反対側の面を圧接ローラに圧接させ、スキン層側にバフ処理が施されている。スキン層はバフ処理により除去され研磨面Pに開孔5が形成されている。バフ処理時に使用されるサンドペーパは、PET等の可撓性のフィルム基材を有しており、フィルム基材の表面にはウレタン樹脂で砥粒が固定されている。バフ処理による砥粒の脱落が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに係り、特に、湿式成膜法で形成された発泡構造を有する樹脂シートを備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用基板、シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。このような被研磨物の研磨加工では、平坦性の向上を図るために一度研磨加工(一次研磨)した後に仕上げ加工(二次研磨)が広く行われている。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド間に研磨粒子を含む研磨液(スラリ)が供給される。
【0003】
一般に、仕上げ加工用研磨パッドには、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の樹脂シートが使用されている。湿式成膜法では、樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させる。製造された樹脂シートの表面には緻密な微多孔が形成された厚さ数μm程度の表面層(スキン層)が形成されている。緻密に形成された微多孔のため、スキン層の表面はミクロな平坦性を有している。このため、スキン層側が被研磨物の仕上げ加工に好適に使用されている。
【0004】
ところが、湿式成膜法では、樹脂溶液が粘性を有するため、成膜基材への塗布時に厚みバラツキが生じると共に、凝固再生時の有機溶媒と水系凝固液との置換により厚みバラツキが生じやすい。このため、樹脂シート自体の表面平坦性が損なわれ大きく波打った表面となる。厚みバラツキが生じた樹脂シートを使用した研磨パッドで被研磨物の研磨加工を行うと、樹脂シートの厚みの大きな部分で被研磨物にかかる圧力が大きくなるため、当該部分の加工面が大きく研磨されて平坦性を損なうこととなる。換言すれば、被研磨物の平坦性を向上させるためには、仕上げ加工に好適なスキン層のミクロな平坦性を残したまま樹脂シート自体の厚みバラツキを減少させてマクロな平坦性を向上させることが重要である。
【0005】
湿式成膜法で作製された樹脂シートの厚みバラツキを低減させ、またスラリの保持性を確保するために、略平坦な表面を有する支持体に樹脂シートの一面側を圧接させ他面側がバフ処理(表面サンディンング)されている。通常、バフ処理には、基材に砥粒が樹脂で固定され支持体に支持されたサンドペーパが用いられる。このサンドペーパでは、砥粒の一部が接着樹脂表面から突出しており、砥粒の突出した部分で樹脂シートの表面が削り取られる。サンドペーパに固定された砥粒の粒径やバフ処理で削り取るバフ量(研削量)を調整することで表面を平坦化することが可能となる。例えば、メモリーディスク用のニッケルリンメッキされたアルミニウム基板を仕上げ加工することを目的として、湿式成膜法で得られた樹脂シートの表面を常法で穴開けした後に仕上げバフ処理により表面粗さを50μm以下とした研磨パッドの技術が開示されている(特許文献1参照)。また、半導体基板の高い平坦度を達成することを目的として、湿式成膜法で得られた樹脂シートの表面をバフ処理により表面の‘けば’を平滑化させ、表面粗さRaを21μm以下とした研磨パッドの技術が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−335979号公報
【特許文献2】特開2007−44858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の技術では、いずれもサンドペーパに固定された砥粒の粒径や研削量を調整することで表面粗さを改善することができるものの、バフ処理に使用するサンドペーパの基材、その表面に固定される砥粒の大きさや接着剤については特に言及されていない。従来用いられているサンドペーパは、紙基材の上に一次接着剤(下引き)としてフェノール樹脂が塗工され、静電塗装方式でアルミナの砥粒が一様に直立状に塗装された後、二次接着剤(上引き)としてフェノール樹脂で固定されたものが一般的に使用されている。フェノール樹脂は耐水、耐熱、対脱粒性および、研削性に優れ、幅広く使用されているが、柔軟性に劣り硬くてもろい特性を有している。このため、特にサンドペーパの取り付け取り外し時に発生する折れ曲がりやねじれなどにより接着剤層にひび割れ等の脆弱な部分が生じ、バフ処理中に、ひび割れ等が生じた箇所でサンドペーパの砥粒が脱落しやすくなる。サンドペーパから脱落した砥粒は、バフ処理時に研磨パッドにかかる圧力により、樹脂シートのセル内に入り込むこととなる。砥粒がセル内に入り込んだ研磨パッドで被研磨物の研磨加工を行うと、研磨加工中に供給されるスラリがセル内を出入りするため、セル内に入り込んだ砥粒が樹脂シートの外に押し出される。押し出されたサンドペーパ由来の砥粒はスラリに含まれる研磨粒子等と比較すると粒子径が非常に大きいため、外に押し出された砥粒が被研磨物にスクラッチ等の欠陥を生じさせることとなり、高精度な平坦が難しくなる。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッド及び研磨パッドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、湿式成膜法により内部に多数のセルが形成され、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記樹脂シートは、可撓性を有するフィルム基材の表面に弾性樹脂材で砥粒が固定されたバフシートにより前記研磨面側がバフ処理され、前記セルのうち少なくとも一部のセルの開孔が形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
第1の態様では、樹脂シートを、可撓性を有するフィルム基材の表面に弾性樹脂材により砥粒が固定されたバフシートでバフ処理することで、弾性樹脂材がバフ処理に伴う砥粒の微小範囲での移動を許容しつつ砥粒を保持するため、弾性樹脂材に脆弱な部分が生じにくく、砥粒の脱落による研磨パッドへの混入が抑制されるため、研磨加工中に被研磨物へのスクラッチを低減し、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0011】
第1の態様において、バフシートは、表面と摩耗輪とを摺動させたときに、バフシートの重量減少量が150mg/1000回以下であることが好ましい。また、フィルム基材を少なくともポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニールから選択される1種としてもよい。弾性樹脂材を少なくともウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂から選択される1種としてもよい。バフシートの砥粒の粒径を20μm〜200μmの範囲とすることが好適である。また、樹脂シートをポリウレタン樹脂製としてもよい。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様の研磨パッドの製造方法であって、前記樹脂シートを湿式成膜法により連続的に作製し、前記樹脂シートの研磨面側を該樹脂シートの厚さがほぼ一様となるように前記バフシートを用いて連続的にバフ処理することを特徴とする。この場合において、バフシートのフィルム基材を少なくともポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニールから選択される1種としてもよい。また、前記弾性樹脂材を少なくともウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂から選択される1種としてもよい。更に、バフシートの砥粒の粒径は20μm〜200μmの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂シートを、可撓性を有するフィルム基材の表面に弾性樹脂材により砥粒が固定されたバフシートでバフ処理することで、弾性樹脂材がバフ処理に伴う砥粒の微小範囲での移動を許容しつつ砥粒を保持するため、弾性樹脂材に脆弱な部分が生じにくく、砥粒の脱落による研磨パッドへの混入が抑制されるため、研磨加工中に被研磨物へのスクラッチを低減し、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】本実施形態の研磨パッドを構成する樹脂シートのバフ処理に用いたバフ機を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0016】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド20は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有する樹脂シートとしてのウレタンシート12を備えている。
【0017】
ウレタンシート12は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されている。ウレタンシート12は、湿式成膜時に形成されたスキン層(緻密な微多孔が形成された表面層)側に、厚みが一様となるようにバフ処理が施されている。バフ処理にはバフシートとしてのサンドフィルムが用いられる。サンドフィルムは、可撓性を有するフィルム基材の表面に弾性樹脂材で砥粒が固定されている(詳細後述)。ウレタンシート12には、厚み方向に沿って丸みを帯びた断面三角状のセル3が略均等に分散した状態で形成されている。セル3は、研磨面P側の孔径が研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、セル3は研磨面P側で縮径されている。ウレタンシート12では、バフ処理によりスキン層が除去されており、セル3が開孔することで、研磨面Pに開孔5が形成されている。セル3の間のポリウレタン樹脂中には、セル3より小さい孔径の図示しない発泡が形成されている。ウレタンシート12のセル3および図示しない発泡は、不図示の連通孔で網目状に連通されている。すなわち、ウレタンシート12は連続状の発泡構造を有している。
【0018】
また、研磨パッド20は、ウレタンシート12の研磨面Pと反対側の面に、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製の支持材7を有している。支持材7のウレタンシート12が貼り合わされた面と反対側の面には、研磨機に研磨パッド20を装着するための両面テープ8(不図示)が貼り合わされている。両面テープ8の基材には、例えば、PET製フィルム等が用いられ、基材の両面にアクリル系接着剤等の接着剤層が形成されている。両面テープ8は、基材の一面側の接着剤層で支持材7と貼り合わされており、他面側の接着剤層が剥離紙9で覆われている。なお、両面テープ8は、基材を有することなく接着剤のみで構成されてもよい。
【0019】
(製造)
研磨パッド20は、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布する塗布工程、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄・乾燥させる洗浄・乾燥工程、厚みを均一化するバフ処理工程を経て作製される。以下、工程順に説明する。
【0020】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、セル3の大きさや数量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、発泡形成を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してウレタン樹脂溶液を得る。
【0021】
塗布工程では、準備工程で調製されたウレタン樹脂溶液が常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材(後の支持材7)に略均一に塗布される。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙を調整することで、ウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)が調整される。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、ウレタン樹脂溶液の塗布時に成膜基材内部へのウレタン樹脂溶液の浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。成膜基材としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、液体の浸透性を有していないため、前処理が不要となる。以下、本例では、成膜基材をPET製フィルムとして説明する。
【0022】
凝固再生工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたウレタン樹脂溶液が、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内される。凝固液中では、まず、塗布されたウレタン樹脂溶液の表面側に厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、ウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材の片面にシート状に凝固再生する。DMFがウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層の内側(ポリウレタン樹脂中)にセル3および図示しない発泡が形成され、セル3および図示しない発泡を網目状に連通する不図示の連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きなセル3が形成される。
【0023】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)が成膜基材上に成膜された後、水等の洗浄液中で洗浄されて成膜樹脂中に残留するDMFが除去される。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂は、成膜基材と共にロール状に巻き取られる。
【0024】
バフ処理工程では、乾燥後の成膜樹脂の厚みが一様となるように、スキン層側にバフ処理が施される。バフ処理にはバフ機が用いられる。図2に示すように、バフ機40は、成膜基材の成膜樹脂32が形成された面の反対側の表面(以下、裏面という。)に圧接し成膜樹脂32を略平坦に支持するために、表面が略平坦に形成された圧接ローラ24を備えている。圧接ローラ24の表層には、ゴム等の弾性材で弾性層24aが形成されている。圧接ローラ24の上流側には、洗浄乾燥工程でロール状に巻き取られた成膜樹脂32を送り出すための送出ローラ22が配置されている。
【0025】
また、圧接ローラ24の送出ローラ22と反対側には、成膜樹脂32を介して圧接ローラ24と対向するように、成膜樹脂32のスキン層側をバフ処理するためのバフローラ26が配置されている。すなわち、バフローラ26は成膜樹脂32を介して圧接ローラ24と対向配置されている。バフローラ26の表面には、バフシートとしてのサンドフィルム26aが貼付されている。圧接ローラ24、バフローラ26は、いずれも、成膜樹脂32の幅以上の長さを有しており、図示を省略した駆動モータ等で駆動される駆動ローラ(回転体)である。
【0026】
ここで、サンドフィルム26aについて説明する。サンドフィルム26aはバフローラ26に支持されている。サンドフィルム26aは、可撓性のフィルム基材を有している。フィルム基材としては、PET、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニールから選択される1種の可撓性フィルムを用いることができ、本例では、PET製フィルムが用いられている。フィルム基材の表面には、砥粒が弾性樹脂材により固定されている。弾性樹脂材は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の弾性接着剤から選択される1種を用いることができ、本例では、ウレタン樹脂が用いられている。砥粒の粒径は、20μm〜200μmの範囲とすることが好ましい。また、サンドフィルム26aは、日本工業規格(JIS K 6902)のテーバー摩耗試験に準じた方法に従い測定した重量減少量(砥粒の脱落量)が150mg/1000回以下の特性を有している。テーバー摩耗試験では、テーバーインダストリー社製の摩耗輪H−22が用いられる。
【0027】
圧接ローラ24の下流側には、バフ処理された成膜樹脂32および成膜基材、すなわち、ウレタンシート12および支持材7の搬送方向を変えるために従動ローラが配置されている。従動ローラの下流側には、ウレタンシート12および支持材7をロール状に巻き取るための巻取ローラ28が配置されている。バフ機40では、送出ローラ22および巻取ローラ28が、いずれも圧接ローラ24に対してバフローラ26と反対側に配置されている。
【0028】
バフ処理時には、送出ローラ22から引き出された成膜樹脂32および成膜基材が圧接ローラ24の方向(図2の矢印A方向)に搬送され、圧接ローラ24の表面に成膜基材の裏面を圧接させる。成膜樹脂32が圧接ローラ24の表面で略平坦に支持された状態で、スキン層側にバフローラ26でバフ処理が施される。このとき、圧接ローラ24が成膜樹脂32および成膜基材を下流側に送り出す方向(矢印a方向)に回転し、バフローラ26が圧接ローラ24と逆方向(矢印b方向)に回転することで成膜樹脂32のスキン層側にバフ処理が施されウレタンシート12が形成される。また、成膜樹脂はそのまま支持材7として残される。ウレタンシート12は支持材7と共に、圧接ローラ24から従動ローラを介して巻取ローラ28の方向(矢印B方向)に搬送され、巻取ローラ28に巻き取られる。従動ローラから巻取ローラ28までの搬送中に、バフ処理でウレタンシート12に付着したバフ屑が除去される。
【0029】
バフ処理を施すことで得られたウレタンシート12および支持材7では、厚みバラツキの低減が図られている。得られたウレタンシート12および支持材7では、基材を有する両面テープ8を貼り合わせること、または、研磨機に装着することで研磨面Pが略平坦となる。
【0030】
支持材7のウレタンシート12と反対の面側に、両面テープ8を一面側の接着剤層で貼り合わせる。そして、円形等の所望の形状に裁断した後、汚れや異物等の付着が無いことを確認する等の検査を行い、研磨パッド20を完成させる。
【0031】
得られた研磨パッド20で被研磨物の研磨加工を行うときは、例えば、両面研磨機の対向配置された2つの定盤にそれぞれ研磨パッド20が装着される。研磨パッド20の装着時には、剥離紙9を取り除き露出した両面テープ8の接着剤層で貼付する。2つの定盤に貼付された研磨パッド20では、いずれも研磨面Pが略平坦となる。被研磨物は、2枚の研磨パッド20の略平坦な研磨面Pに挟まれて両面が同時に研磨加工される。このとき、研磨粒子を含む研磨液(スラリ)が供給される。
【0032】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド20の作用等について説明する。
【0033】
従来、湿式成膜法で形成される樹脂シートを備えた研磨パッドでは、バフ処理工程で使用するサンドペーパは、紙や織布等の基材を有しているため、基材の厚みバラツキが大きい。また、基材の表面にフェノール樹脂等の高硬度の樹脂で砥粒が固定されている。このため、基材のバラツキがそのままサンドペーパのバラツキとして反映される。故に、サンドペーパの取り付け取り外し時に樹脂に折れ曲がりやひび割れ等が生じやすく、バフ処理中に、樹脂のひび割れ等で脆弱となった部分や基材やサンドペーパの厚みの大きな部分に過度の衝撃が掛かることでサンドペーパの砥粒が脱落し摩耗しやすくなる。脱落した砥粒はバフ処理時に研磨パッドにかかる圧力により、樹脂シートのセル内に入り込むこととなる。砥粒がセル内に入り込んだ研磨パッドで研磨加工を行うと、研磨加工中に供給されるスラリの研磨粒子(粒子径は数十nmから数μm)を含む溶液等がセル内を出入りするため、セル内に入り込んだサンドペーパから脱落した砥粒が樹脂シートの外に押し出される。サンドペーパから脱落した砥粒はスラリの研磨粒子と比較して粒子径が非常に大きいため、樹脂シートの外に押し出されると被研磨物にスクラッチ等の欠陥を生じさせることとなる。本実施形態は、これらを解決することができる研磨パッドである。
【0034】
本実施形態では、バフ処理工程において、バフ機のバフローラ26に支持されたサンドフィルム26aにより、成膜樹脂32がバフ処理される。サンドフィルム26aは、PET等の可撓性を有するフィルム基材を有しているため、従来サンドペーパに用いられている紙や織布と比べてフィルム基材の厚みバラツキが小さい。また、フィルム基材の表面にウレタン樹脂等の弾性樹脂材で砥粒が固定されている。すなわち、弾性樹脂材が砥粒の半分程度を覆いフィルム基材に密着している。そのため、バフ処理中のサンドフィルム26aの摩耗やサンドペーパ26aの取り付け取り外し時に発生する折れ曲がり等でも、弾性樹脂材が砥粒の微小範囲での移動を許容しつつ砥粒を保持するため、砥粒の脱落を抑制することができる。このため、研磨パッド20への砥粒の混入が抑制されるので、研磨加工中に被研磨物へのスクラッチを低減し、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態では、バフ処理工程で使用するサンドフィルム26aは、日本工業規格(JIS K 6902)のテーバー摩耗試験に準じた方法に従い評価した重量減少量(砥粒の脱落量)が150mg/1000回以下の特性を有している。そのため、サンドフィルム26aは、従来のサンドペーパより摩耗しにくく、砥粒の脱落が生じないため、バフ処理に長く使用することができ長寿命化を図ることができる。
【0036】
更に、本実施形態では、サンドフィルム26aの砥粒の粒径が20μm〜200μmの範囲のため、成膜樹脂32がバフ処理される時に、成膜樹脂32の表面に形成される‘けば’を低減し平滑化することができる。バフ処理時に、サンドフィルムの砥粒の粒径が20μm以下の場合は、成膜樹脂に目詰まりが生じ、バフ処理が不十分となるが、砥粒の粒径が200μm以上の場合は、目詰まりが生じないものの、成膜樹脂が無理に引きちぎられて削られるため、表面を研削し平滑化するどころか、‘けば’が多く形成され、表面粗さが悪化するため好ましくない。
【0037】
なお、本実施形態では、湿式成膜時の成膜基材にPET製フィルムを使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、不織布や織布を使用してもよい。また、本実施形態では、ウレタンシート12の作製時に成膜基材を使用してウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離せずにバフ処理を施し、成膜基材をそのまま支持材7とする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、ウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離してバフ処理を施し、ポリ塩化ビニル(PVC)等の別の基材を支持材7として貼り合わせてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、成膜樹脂32のスキン層側のみにバフ処理を施す例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、スキン層と反対側にもバフ処理を施すようにしてもよい。スキン層と反対側にもバフ処理を施す場合、成膜基材がPETの時は、一度成膜樹脂を成膜基材から剥離し、スキン層と反対側の面にハブ処理を行い平滑化させた後、スキン層側をバフ処理することが好ましい。成膜基材が不織布や織布の場合は、成膜樹脂の剥離が困難なため、成膜基材側の面をバフ処理して平滑化させた後に、スキン層側をバフ処理して平滑化することが好ましい。得られるウレタンシート12の厚みの均一化精度を向上させることを考慮すれば、スキン層側のバフ処理の前に、スキン層と反対側にもバフ処理を施すことがより好ましい。
【0039】
更に、本実施形態では、バフ機40の圧接ローラ24が表層に弾性層24aを有する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、弾性層24aを形成しないようにしてもよい。成膜樹脂12を圧接することから、成膜樹脂32に対するキズや破損等を抑制することを考慮すれば、少なくとも表層に弾性層24aを有していることが好ましい。
【0040】
また更に、本実施形態では、バフ機40の圧接ローラ24およびバフローラ26をそれぞれ単一のローラで構成する例を示したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、圧接ローラおよびバフローラを、それぞれ2つの対向配置された駆動ローラに無端ベルトが張架されている構成としてもよい。無端ベルトの表面にサンドフィルムを貼付することで、広範囲の平坦面でバフ処理することができる。また、2つの駆動ローラ間に従動ローラを配するようにしてもよいことはもちろんである。
【0041】
更にまた、本実施形態では、研磨パッド20がポリウレタン樹脂製のウレタンシート12を備える例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。ポリウレタン樹脂に代えて、例えば、ポリエチレン等の樹脂を用いた研磨パッドにも適用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド20の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、ウレタンシート12の作製にポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を溶解させた30重量%溶液の100部に対して、溶媒のDMFの45部、顔料としてカーボンブラックを30%含むDMF分散液の40部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。得られたポリウレタン樹脂溶液を凝固液中で凝固再生させ成膜樹脂32を形成した後、洗浄・乾燥させた。研磨面P側にバフ処理を施すときは、PET製のフィルム基材に、粒径が120μmの砥粒がウレタン樹脂で固定されているサンドフィルム26aを使用した。得られたウレタンンシート12と両面テープ7とを貼り合わせることで実施例1の研磨パッド20を製造した。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、バフ処理に従来のサンドペーパを用いる以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。すなわち、比較例1は、紙の基材に、粒径が120μmの砥粒がフェノール樹脂で固定されている従来のサンドペーパをバフ処理に用いた。
【0045】
実施例1および比較例1に使用したバフシートの構成および特性を表1に示した。実施例1のバフシートの基材がPETであり、基材の厚み精度が高まったため、表面粗さRaが低下している。また、摩耗輪を使用して評価したテーバー摩耗量において、実施例1の方が比較例1より少ない値を示した。
【0046】
【表1】

【0047】
(評価)
次に、実施例1及び比較例1について、バフ処理後のウレタンシートの表面粗さRaを評価した。表面粗さRaの測定では、表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ社製、サーフテストSV400)を用い、日本工業規格(JIS B0601−1994)に基づき測定した。表面粗さRaの評価結果を下表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、従来のサンドペーパを使用した比較例1のウレタンシートでは、表面粗さRaが7.3μmであった。これに対して、実施例1のウレタンシート12では、サンドフィルム26aを使用したため、表面粗さRaが6.4μmであった。これは、実施例1ではサンドフィルム26aのフィルム基材をPETとしたため、従来の紙を基材としたサンドペーパでバフ処理を行った比較例1と比較して、ウレタンシート12の平坦性が向上したためと考えられる。また、サンドフィルム26aは砥粒がフィルム基材に弾性樹脂材で固定されているため、サンドフィルム26aの取り付け取り外し時に、弾性樹脂材にひび割れ等の欠陥が生じにくく、研磨加工中に砥粒が脱落しにくい。そのため、研磨パッド20への混入を抑制できるため,研磨加工時に被研磨物のスクラッチを低減し、被研磨物の平坦性を向上させることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッド及び該研磨パッドの製造方法を提供するため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0051】
3 セル
12 ウレタンシート(樹脂シート)
20 研磨パッド
26a サンドフィルム(バフシート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により内部に多数のセルが形成され、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記樹脂シートは、可撓性を有するフィルム基材の表面に弾性樹脂材で砥粒が固定されたバフシートにより前記研磨面側がバフ処理され、前記セルのうち少なくとも一部のセルの開孔が形成されたものであることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記バフシートは、摩耗輪と前記バフシートの表面とを摺動させたときに、重量減少量が150mg/1000回以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記バフシートは、前記フィルム基材が少なくともポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニールから選択される1種であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記バフシートは、前記弾性樹脂材が少なくともウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂から選択される1種であることを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記バフシートは、前記砥粒の粒径が20μm〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記樹脂シートは、ポリウレタン樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
請求項1に記載の研磨パッドの製造方法であって、
前記樹脂シートを湿式成膜法により連続的に作製し、
前記樹脂シートの研磨面側を該樹脂シートの厚さがほぼ一様となるように前記バフシートを用いて連続的にバフ処理する、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記バフシートは、前記フィルム基材が少なくともポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニールから選択される1種であり、前記弾性樹脂材が少なくともウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂から選択される1種であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記バフシートは、前記砥粒の粒径が20μm〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−16169(P2011−16169A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160476(P2009−160476)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】