説明

移動式防音塀

【課題】建設・土木工事等に伴う多種多様の騒音を低減する騒音対策において、比較的簡易な防音塀で広範囲の防音に柔軟に対応でき、低周波域を含めた多種多様の騒音を確実に低減できる移動式防音塀において、防音パネルの遮音性能を比較的簡単な構成で効率良く高めることができるようにする。
【解決手段】小屋型や直線状・曲線状の移動式防音塀1において、防音パネル3を所定の間隔をおいて平行に対向配置することにより、2枚の防音パネル3、3と、これらパネル間の空気層4とから構成される二重構造の防音パネル版5を形成し、この防音パネル版5を支持フレーム2の外側の側面に吊りフレーム30を用いた吊り下げ手段やその他の手段で取り付け、空気層4を挟んだ二重構造の防音パネル3、3により、遮音性能を比較的簡単な構成で効率良く高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設工事や土木工事等に伴う騒音を低減するために用いられる移動式防音塀に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設工事や土木工事は、周辺地域住民等の生活環境を損なうことがないように十分な配慮のもとに施工されなければならないが、近年の工事の大型化・長期化、作業の機械化から、騒音は大きく、また多種多様の騒音が発生するようになっている。例えば、道路解体作業における舗装切削除去には、ショベル、ハンドブレーカ、切削機、ダンプトラック、定置機械(発電機・コンプレッサー・溶接機)等が用いられ、それぞれ騒音を発するため、多種多様の騒音を低減する必要がある。
【0003】
切削機では、エンジン音(99dB)、吸気音(107dB)、排気音、走行音、切削音(103dB)、土砂掻上音、コンベア音、積込み音などがある。ハンドブレーカでは、打撃音や破砕音(作業地点から5m離れた位置で102dB)がある。ショベルでは、エンジン音、排気音、掘削音、積込み音などがある。ダンプトラックでは、エンジン音、排気音、誘導者の呼子音などがある。定置機械では、エンジン音、排気音などがある。
【0004】
このような騒音のうち、エンジン音に対しては電動化など、排気音に対しては高性能マフラーの使用など、コンベア音に対しては低騒音コンベアやパッシブ防音材の使用など、個別対策が可能であるが、切削音や土砂掻上音、打撃音や破砕音などに対しては、個別対策よりも防音パネルを用いた全体的な防音が有効である。
【0005】
切削機については、切削機の外周を防音パネルで囲む防音パネルセット対策が考えられる。切削機の四方に防音パネルによる防音塀を配置し、切削機自体にブラケットを介してセットし、切削機の移動と共に移動させる。防音塀の上部には、騒音を逆位相の音で低減するいわゆるアクティブ消音装置を設置し、防音塀の上端を回折する騒音を低減する。防音塀の下部は、切削機本体に固定した固定防音パネルの下部にパネルガイド装置を介して遊動防音パネルを上下動自在に取付け、切削機本体の高さの変化に追随して遊動防音パネルを固定防音パネルに対して相対的に昇降させ、防音塀下部の隙間の遮音を行う。
【0006】
しかし、この切削機の防音パネルセット対策の場合、切削機の外周全体が防音塀で囲まれているため、切削機操作員の視界が悪く、操作性が悪い、遠隔操作の必要性があるなどの課題がある。また、前面の防音塀にはベルトコンベア部の開口部が形成されているため、この開口部にアクティブ消音装置を設け、開口部からの騒音放射を低減する必要がある。また、固定防音パネルの下部には、遊動防音パネルのガイド装置が必要であり、装置が複雑になる等の課題もある。
【0007】
ショベル及びダンプトラックについては、外周と上部を防音パネルからなる防音ハウスで覆う移動式防音ハウス対策が考えられる。防音ハウスの下端部には走行機構を設け、ショベルではショベル自体の移動により、ダンプトラックでは後方の切削機の駆動力を利用して、防音ハウスを移動させる。
【0008】
しかし、この移動式防音ハウス対策の場合、屋根を設けるため、大掛かりな装置となり、また工事終了後、退避する際に仮置きするヤードが必要となる。また、ショベルのためのダンプトラックあるいはダンプトラックが出入する出入口を必要とし、この出入口にアクティブ消音装置を設け、出入口からの騒音放射を低減する必要がある。また、移動式の防音ハウスの下端部には、遊動防音パネルなどの遮音装置が必要となる。
【0009】
ハンドブレーカについても、簡易防音ハウスで覆う移動式防音ハウス対策が考えられるが、小型のハウスであっても、屋根があるため、比較的大掛かりな装置となり、またクレーンを用いて移動させる必要がある。
【0010】
さらに、上記のような対策に加えて、あるいは単独で、工事エリアの全体両側に固定式の防音塀を設置することも考えられるが、工事終了後、退避する際に撤去し仮置きするヤードが必要となる。また、特定建物側の片側にのみ固定式の防音塀を設置することもあるが、常設のため、工事終了後、退避する際に撤去することができない。
【0011】
なお、本発明に関連する先行技術文献として特許文献1〜4及び非特許文献1がある。特許文献1は、移動式防音ハウスに関するものであり、防音パネルを周囲と上面を囲んで防音ハウスを形成し、車輪と駆動装置で自走させ、ジャッキ装置により接地可能としている。特許文献2〜4、非特許文献1は、アクティブ消音装置に関するものであり、スピーカとマイクを用いてアクティブ制御で電気的にソフトな面(音圧ゼロ)を作り出すものであり、また壁上端にスピーカを取り付けて音圧干渉により低減させるものであり、これらは低周波音に効果的である。
【0012】
【特許文献1】特開平09−86264号公報
【特許文献2】特開2003−055918号公報
【特許文献3】特開2001−172925号公報
【特許文献4】特開平07−114390号公報
【非特許文献1】「音で音を消すアクティブ・ソフト・エッジ遮音壁」 三菱重工技報 Vol.39 No.2 (2002-3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の騒音対策の場合、前述したとおり、施工機械の操作性に支障をきたす、防音設備が大型化・複雑化する、仮置きのためのヤードを必要とする、などの課題がある。
【0014】
このような課題を解消すべく、本出願人は、建設工事や土木工事等に伴う多種多様の騒音を低減する騒音対策において、比較的簡易な防音塀により、作業員一人が作業する工事から大型の作業機械による工事まで広範囲の防音に柔軟に対応することができ、また低周波域を含めた多種多様の騒音を確実に低減することができ、さらに短時間に設置・撤去が可能であると共に、工事の進行に合わせて簡単に移動させて設置することができる移動式防音システム及び移動式防音塀を既に出願している(特願2005−169739)。
【0015】
本発明は、上記のような移動式防音システム及び移動式防音塀において、防音パネルの遮音性能を比較的簡単な構成で効率良く高めることができる移動式防音塀を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に係る発明は、騒音発生箇所の周囲の少なくも片側に配置され、防音パネルとこれを支持する移動可能な支持フレームとにより、移動する騒音発生箇所に応じて防音範囲を変化させることができる移動式防音塀において、防音パネルと防音パネルとを間隔をおいて対向配置することにより防音パネルと防音パネル間の空気層とから構成される多重構造の防音パネル版が立てた状態で支持フレームに支持されていることを特徴とする移動式防音塀である。
【0017】
本発明は、例えば図1に示すように、防音パネルを所定の間隔をおいて平行に対向配置することにより、2枚の防音パネルと、これらパネル間の空気層とから構成される二重構造の防音パネル版を形成し、この防音パネル版を支持フレームの外側の側面に吊りフレームを用いた吊り下げ手段やその他の手段で取り付け、空気層を挟んだ二重構造の防音パネルにより、遮音性能を比較的簡単な構成で効率良く高めることができるようにしたものである。二重構造に限らず、三重構造以上の多重構造とすることも可能である。
【0018】
本発明が適用される移動式防音塀は、位置と形状の両方あるいは位置のみを変えることにより、防音範囲を変化させる(防音範囲を移動させる、あるいは防音範囲を拡大・縮小させる)ことができるものである。例えば、図1に示すように、移動用の車輪により移動可能な軽量枠フレームに二重構造等の防音パネル版を添設したフレキシブルで簡易軽量な平面構造であり、騒音発生箇所の周囲の四方、三方、あるいは両側に配置される。この場合、位置と形状の両方を変えることができ、騒音発生箇所の移動に伴い、防音範囲を簡単に移動させることができ、また騒音発生箇所の種類に応じて防音範囲を簡単に拡大・縮小できる。また、作業員一人で組立・解体が可能であり、設置・撤去を簡単に行える。
【0019】
さらに、次のような直線状あるいは曲線状の移動式防音塀にも適用が可能である。例えば、(1) 直線状の蛇腹型防音塀…蛇腹状に連結された防音パネルと、この蛇腹状の防音パネルの下部に設けられる支持フレームとからなる。騒音発生箇所の周囲の少なくとも片側に配置される。(2)直線状のアコーディオン型防音塀…支持フレームで支持された部分的な防音パネルと、部分的な防音パネル同士を連結する蛇腹状の防音パネルとからなる。騒音発生箇所の周囲の少なくとも片側に配置される。(3)直線状のクローラ型防音塀…移動式防音塀であり、立てた状態で無端状に連結された防音パネルと、この無端状の防音パネルを防音塀長手方向に移動させる無端駆動機構と、走行機能を備えた支持フレームとからなる。騒音発生箇所の周囲の少なくとも片側に配置される。(4)平面視でU字状の蛇腹型防音塀…蛇腹状に連結された防音パネルと、この蛇腹状の防音パネルの各パネルの下部に設けられた移動用の車輪を備えた支持フレームとからなる。騒音発生箇所の周囲に配置される。
【0020】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の移動式防音塀において、少なくとも内側の防音パネルは吸音材パネルの表面に遮音シートを貼り付けて構成されていることを特徴とする移動式防音塀である。
【0021】
吸音材パネルは種々のものを用いることができるが、吸音材パネルと遮音シートから構成した場合である。空気層を挟んで内側と外側に吸音材パネルと遮音シートからなる防音パネルを配置してもよいし、外側は遮音シートのみとしてもよい。この防音パネルは、例えば、多孔質発泡ポリプロピレン製の吸音材パネルの外面に軟質遮音シートを貼り付けて構成するのが好ましい。比較的高周波域において良好な遮音特性・吸音特性が得られ、比較的高周波域の騒音を確実に遮音・吸音することができる。
【0022】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載の移動式防音塀において、防音パネル版の下部に防音パネル版の下端と地盤との隙間を隙間の大きさに追従して閉塞し得る遮音部材が設けられていることを特徴とする移動式防音塀である。
【0023】
防音パネル版の裾周りの遮音機構に遮音部材を用いた場合であり、例えば、図1に示すように、遮音シートホースの内部に空気袋を多数収納して構成することができる。この遮音シートホースの左右の側面をマジックテープ(登録商標)等を用いて防音パネル版の下端部の左右の側面に取付ける。支持フレームを上昇させて次の工事箇所に移動させた後、支持フレームを下降させて遮音部材を地盤上に押し付けて接地させ、地盤の不陸に追随させる。防音パネル版の下端の回折音が低減され、また低周波域の騒音が低減される。また、これに限らず、音源スピーカから騒音と逆位相の音を発することで防音塀の回折音を低減するアクティブ消音装置を用いることもできる。
【0024】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の移動式防音塀において、走行機構の上に四角枠状の支持フレームが立設され、この支持フレームの外面に四角枠状の吊りフレームが吊り下げ支持され、この吊りフレームの上部横材に防音パネル版のパネル上部連結材が支持され、吊りフレームの内面と外面に一対の防音パネルが振り分け配置されていることを特徴とする移動式防音塀である。
【0025】
例えば、図1に示すような簡易軽量な移動式防音塀に適用され、吊りフレームを用いた吊り下げ方式の場合である。所定の間隔をおいて配置された2枚の防音パネルの上面同士をバンド状の上部連結材で連結しておき、2枚の防音パネルを吊りフレームの上から吊りフレームの内面と外面に振り分けて配置し、2枚の防音パネルの下面同士をバンド状の下部連結材で連結する。2枚の防音パネルと吊りフレームとによりパネル間に空気層を有する二重構造の防音パネル版が形成され、比較的簡単に二重構造の防音パネル版を有する移動式防音塀を組み立てることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
(1)建設工事や土木工事等に伴う多種多様の騒音を低減する騒音対策における防音パネルと移動式の軽量枠フレームによる簡易フレーム構造の移動式防音塀あるいは蛇腹式の防音パネル等によるフレキシブルな平面構造の移動式防音塀において、空気層を挟んだ二重構造等の防音パネル版により、遮音性能を比較的簡単な構成で効率良く高めることができる。
(2)遮音性能の良い二重構造等の防音パネル版と裾周りの地盤の不陸に追随できる遮音部材の組み合わせにより、低周波域を含めた多種多様の騒音を確実に低減することができる。
(3)二重構造等の防音パネル版を吊りフレームを用いて支持フレームに吊り支持させることにより、比較的簡単に遮音性能の良い二重構造等の防音パネル版を有する移動式防音塀を組み立てることができ、さらに簡易なフレーム構造や平面構造により、短時間に設置・撤去が可能であると共に、工事の進行に合わせて簡単に移動させて設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明する。この実施形態は、道路解体工事に適用した例であり、また小屋型の簡易な移動式防音塀に適用した場合である。図1は、本発明の小屋型の簡易な移動式防音塀の一例を示す斜視図と鉛直断面図である。図2〜図6は、図1の移動式防音塀の組立てを工程順に示す斜視図と鉛直断面図である。
【0028】
本発明の移動式防音塀は、次の条件を満たすものである。(1)解体作業箇所の移動に伴い防音塀を簡単に移動させる必要があるため、移動性に富んだ防音装置であること。(2) 工事範囲は工種・位置により変化することから、この変化に追随して形状を変えながらフレキシブルに対応でき、最小限の防音エリアを確保できるものであること。(3) 道路工事等の建設騒音が問題となる工事においては、工事設備の組立・解体作業は短時間で行う必要があり、防音装置の設置・撤去を迅速かつ容易に行えること。(4) 騒音はモータ・エンジン等に代表される周期音の他、コンクリート破砕等のランダム音が発生すると共に、パッシブ防音設備では対処しきれない低周波域の騒音が発生するため、これらの騒音を低減できること。(5) 工事環境としては、作業開始から終了まで不陸地盤上に防音装置を設置する必要があり、地盤と防音装置との間の隙間処理が必要であり、この隙間からの騒音を低減できること。(6) 屋外作業に対応できるように、風荷重等に耐えられる強度を有する構造と、直射日光・雨に対する耐候性を有すること。
【0029】
図1の小屋型の簡易な移動式防音塀1は、ハンドブレーカによる工事などに適用される基本的な移動式防音塀であり、工事範囲の少なくとも3方を取り囲む形状とされている。この移動式防音塀1の基本構造は、下端にキャスター2aが取付けられた軽量枠による支持フレーム2と、この支持フレーム2の側面に設けられた防音パネル3から構成され、解体作業箇所の移動に伴い簡単に移動できるようにしている。また、フレキシブルな平面構造である軽量枠フレームを継ぎ足し、取り外すことで、工種・位置により変化する工事範囲(防音範囲)に対してフレキシブルに対応することができ、また最小限の防音エリアとすることができる。また、支持フレーム2及び防音パネル3とも、軽量仕様であるため、作業員一人で組立・解体が可能であり、設置・撤去を短時間に簡単に行うことができる。
【0030】
このような構成の移動式防音塀1において、本発明においては、図1に示すように、防音パネル3を所定の間隔をおいて平行に対向配置することにより、2枚の防音パネル3、3と、これらパネル間の空気層4とから構成される二重構造の防音パネル版5を形成し、この防音パネル版5を支持フレーム2の外側の側面に後述するような吊りフレーム30を用いた吊り下げ手段やその他の手段で取り付ける。空気層4を挟んだ二重構造の防音パネル3、3により、遮音性能を比較的簡単な構成で効率良く高めることができる。
【0031】
防音パネル3は、例えば、多孔質発泡ポリプロピレン製の吸音材パネル3aの外面に軟質遮音シート3bを貼り付けて構成されており、比較的高周波域において良好な遮音特性・吸音特性を有しており、比較的高周波域の騒音を確実に遮音・吸音することができる。また、耐候性のあるものを用いる。このような防音パネル3を内側と外側の両方に配置してもよいし(図1(b)、(c))、外側の防音パネル3は遮音シート3bのみとしてもよい(図1(d))。なお、吸音材パネル3aに、気泡がラクビーボール状に縦方向に連続しているポリプロピレンを主原料とする無架橋の独立発泡体のオレフィン系硬質発泡体を用いれば、厚さ方向の圧縮強さと曲げ方向に対しての柔軟性を併せ持つパネルが得られる。
【0032】
吊りフレームを用いた吊り下げ方式の場合は、後述するように、所定の間隔をおいて配置された2枚の防音パネル3、3の上面同士をバンド状の上部連結材6で連結しておき、2枚の防音パネル3、3を吊りフレーム30の上から吊りフレーム30の内面と外面に振り分けて配置し、2枚の防音パネル3、3の下面同士をバンド状の下部連結材7で連結する。2枚の防音パネル3、3と吊りフレーム30とによりパネル間に空気層4を有する二重構造の防音パネル版5が形成される。これに限らず、2枚の防音パネル3、3をスペーサーを介して取り付けるなどの方法で二重構造の防音パネル版5を形成することもできる。
【0033】
支持フレーム2の上面は屋根用の防音パネル3で覆い、防音パネル版5で対処することができない低周波域の騒音や防音パネル版5の上端を回折する騒音を遮断する。なお、このような屋根用の防音パネル3に限らず、防音パネル版5の上部にアクティブ消音装置(ANB)を設置して音源スピーカから騒音と逆位相の音を発することで防音塀の回折音を低減することもできる。
【0034】
また、防音塀1は移動式であるため、防音パネル版5の下端と地盤との間には隙間があり、また地盤は切削等により不陸があるため、隙間の大きさが変化する。このような隙間からの騒音に対して、図1に示すように、防音パネル版5の下部に、防音パネル版5と不陸地盤との間の隙間を隙間の大きさに追従して閉塞し得る遮音部材8を設け、パッシブ消音を図る。この裾周りの遮音部材8は、例えば、移動式防音塀1の長手方向に沿う遮音シートホース9の内部に空気袋10を多数収納して構成することができる。遮音シートホース9の左右の側面をマジックテープ(登録商標)11等を用いて防音パネル版5の下端部の左右の側面に取付ける。
【0035】
支持フレーム2の下部の内側には、キャスター2aによる走行機構20がボルト・ナット方式等の昇降装置21を介して設けられており、支持フレーム2を上昇させて次の工事箇所に移動させた後、支持フレーム2を下降させて遮音部材8を地盤上に押し付けて接地させ、地盤の不陸に追随させる。防音パネル版5の下端の回折音が低減され、また低周波域の騒音が低減される。
【0036】
なお、遮音部材8はウレタンゴムなどでもよい。また、アクティブ消音装置を防音パネル版5の下部に設置し、アクティブ消音を図ることもできる。この場合も、防音パネル版5の下端の回折音が低減され、また低周波域の騒音が低減される。
【0037】
支持フレーム2は、図2の一例に示すように、4本の縦材22と上下の横材23から構成されている。なお、4面のうち3面には、上下にそれぞれ2本の横材23が配置され、他の1面は作業員の出入口とされている。下部の4本の横材23から構成される四角フレームの四隅部にそれぞれ昇降装置21を介して走行機構20が取り付けられている。4本の縦材22の上部は所定長さだけ突出しており、その上端には外側向かって水平に突出するブラケット24が取り付けられ、このブラケット24の先端に吊りフレーム30を吊り下げる吊りロッド25が貫通状態で取り付けられている。
【0038】
吊りフレーム30は、図3の一例に示すように、4本の縦材31と、出入口を除く3面に配置される上下に間隔をおいて3本の横材32から構成され、1面おいては2本の縦材31と3本の横材32により四角フレームが形成される。4本の縦材31の上部に吊りロッド25の下端部を挿入して取り付けることにより、吊りフレーム30が支持フレーム2の3面の外側に所定の間隔をおいて吊り下げ支持される。
【0039】
以上のような構成の移動式防音塀1を次のような手順で組み立てる。
(1)図2に示すように、支持フレーム2を組み立てる。
(2)図3に示すように、支持フレーム2の出入口を除く3面の外側に吊りフレーム30を組み立て、吊りロッド25により吊り下げる。
(3)図4に示すように、上部連結材6で上部が連結された一対の防音パネル3、3を吊りフレーム30の上から吊りフレーム30を挟み込むように取り付け、吊りフレーム30の内面と外面に振り分け配置する。上部連結材6が吊りフレーム30の上部の横材32の上面に支持されることにより、一対の防音パネル3、3が吊りフレーム30を挟んで吊り下げ支持される。一対の防音パネル3、3の下端部同士を下部連結材7で連結することにより、3面を取り囲む二重構造の防音パネル版5が組み立てられる。なお、防音パネル3は塀の長手方向に複数に分割されており、分割パネルの縦の接合部は適宜の手段で隙間が生じないように接合される。
(4)図5に示すように、3面を取り囲む防音パネル版5の下部に裾周りの遮音部材8を取付ける。
(5)支持フレーム2の上面に屋根用の防音パネル3を設置し、端部を横材23で支持する。3方の側面が二重構造の防音パネル版5で取り囲まれ、屋根が防音パネル3で覆われ、3方の裾周りが遮音部材8で遮音された移動式防音塀1が完成する。
【0040】
なお、以上はハンドブレーカのための小型の移動式防音塀1の場合を例示したが、支持フレーム2を拡大することで、種々の工事に対応することができる。さらに、次のような直線状あるいは曲線状の移動式防音塀(図示省略)にも本発明の二重構造の防音パネル版5を用いることができる。
【0041】
(1)蛇腹型の移動式防音塀…防音塀長手方向に沿って蛇腹状に連結された防音パネル版と、この蛇腹状の防音パネル版の下部に設けられ、防音塀長手方向に伸縮可能なリンクと移動用の車輪を備えた支持フレームとから構成される直線状の移動式防音塀。騒音発生箇所の両側あるいは特定建物側等の片側に設置される。例えば、防音塀長手方向の両端部の防音パネル及び支持フレームを交互に伸縮させるなどして前方に移動させ、騒音発生箇所の移動に対応させる。また、騒音発生箇所の種類に応じて伸縮させ、防音範囲を拡大・縮小させることもできる。
【0042】
(2)アコーディオン型の移動式防音塀…走行支持フレームで支持された部分的な防音パネルと、防音塀長手方向に間隔をおいて配置された部分的な防音パネル同士を連結する蛇腹状の防音パネルとから構成される直線状の移動式防音塀。騒音発生箇所の両側あるいは特定建物側等の片側に設置される。例えば、防音塀長手方向の両端部の防音パネルを伸縮させるなどして前方に移動させ、騒音発生箇所の移動に対応させる。また、騒音発生箇所の種類に応じて伸縮させ、防音範囲を拡大・縮小させることもできる。
【0043】
(3)縦のクローラ型の移動式防音塀…防音塀長手方向に沿って立てた状態で無端状に連結された防音パネルと、この無端状の防音パネルを防音塀長手方向に移動させる無端駆動機構が設けられ、走行機能を備えた支持フレームとから構成される直線状の移動式防音塀。騒音発生箇所の両側あるいは特定建物側等の片側に設置される。例えば、内側の防音パネルの一部を地盤に対して固定し、無端駆動機構を駆動すれば、外側の防音パネルが繰り出され、走行機能により全体が前方に移動し、騒音発生箇所の移動に同調させて移動させることができる。
【0044】
(4)平面視で騒音発生箇所を取り囲むU字状の移動式防音塀…防音塀長手方向に沿って蛇腹状に連結された防音パネルと、この蛇腹状の防音パネルの各パネルの下部に設けられ、互いに水平方向に揺動自在に連結された走行支持フレームとから構成される曲線状の移動式防音塀。騒音発生箇所の周囲の三方を取り囲むように設置される。例えば、円弧部分の片側の直線部分を前方に移動させ、次いで反対側の直線部分を前方に移動させることにより、全体を前方に移動させ、騒音発生箇所の移動に対応させる。全体形状を変えることで、防音範囲を変えることもできる。
【0045】
以上のような直線状あるいは曲線状の移動式防音塀の場合、二重構造の防音パネル版5の上部には、アクティブ消音装置を設置すればよい。下部には、遮音裾周りの遮音部材8あるいはアクティブ消音装置を設ける。
【0046】
なお、以上は道路解体工事に適用した例を示したが、これに限らず、その他の建築工事・土木工事等の騒音発生箇所にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の小屋型の簡易な移動式防音塀の一例であり、(a)は斜視図、(b)、(c)、(d)は鉛直断面図である。
【図2】本発明の移動式防音塀の支持フレームの一例であり、(a)は斜視図、(b)は鉛直断面図である。
【図3】本発明の移動式防音塀の吊りフレームの一例であり、(a)は斜視図、(b)は鉛直断面図である。
【図4】本発明の移動式防音塀の防音パネルの組立方法の一例であり、(a)は斜視図、(b)、(c)は鉛直断面図である。
【図5】本発明の移動式防音塀の裾周りの遮音の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の移動式防音塀の屋根防音パネルの取付けの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1…移動式防音塀
2…支持フレーム
2a…キャスター
3…防音パネル
3a…吸音材パネル
3b…遮音シート
4…空気層
5…防音パネル版
6…上部連結材
7…下部連結材
8…遮音部材
9…遮音シートホース
10…空気袋
11…マジックテープ(登録商標)
20…走行機構
21…昇降機構
22…縦材
23…横材
24…ブラケット
25…吊りロッド
30…吊りフレーム
31…縦材
32…横材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音発生箇所の周囲の少なくも片側に配置され、防音パネルとこれを支持する移動可能な支持フレームとにより、移動する騒音発生箇所に応じて防音範囲を変化させることができる移動式防音塀において、
防音パネルと防音パネルとを間隔をおいて対向配置することにより防音パネルと防音パネル間の空気層とから構成される多重構造の防音パネル版が立てた状態で支持フレームに支持されていることを特徴とする移動式防音塀。
【請求項2】
請求項1に記載の移動式防音塀において、少なくとも内側の防音パネルは吸音材パネルの表面に遮音シートを貼り付けて構成されていることを特徴とする移動式防音塀。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の移動式防音塀において、防音パネル版の下部に防音パネル版の下端と地盤との隙間を隙間の大きさに追従して閉塞し得る遮音部材が設けられていることを特徴とする移動式防音塀。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の移動式防音塀において、走行機構の上に四角枠状の支持フレームが立設され、この支持フレームの外面に四角枠状の吊りフレームが吊り下げ支持され、この吊りフレームの上部横材に防音パネル版のパネル上部連結材が支持され、吊りフレームの内面と外面に一対の防音パネルが振り分け配置されていることを特徴とする移動式防音塀。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−284946(P2007−284946A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111817(P2006−111817)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】