説明

移植機

【課題】整地装置を備える移植機において、感知フロートの感知精度を低下させることなく、走行機体と植付作業機との間の距離を短くする。
【解決手段】走行機体1の後部に連結される植付作業機3を、該植付作業機3の下部に上下揺動自在に設けられる感知フロート8の姿勢変化に応じて自動的に昇降制御すると共に、走行機体1と植付作業機3との間に整地装置9を備える乗用型田植機において、感知フロート8を前側支点で上下揺動自在に支持すると共に、感知フロート8の揺動支点Sを整地装置9の上方に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型田植機などの移植機に関し、特に、走行機体と植付作業機との間に整地装置を備える移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗用型田植機などの移植機は、圃場に苗を植付ける植付作業機の下部に上下揺動自在な感知フロートを備えると共に、該感知フロートの姿勢変化に応じて植付作業機を自動的に昇降制御することにより、植付深さの変動を抑制している。
【0003】
また、走行機体と植付作業機との間に、整地ロータなどの整地装置を備える移植機も知られている(例えば、特許文献1参照)。このような移植機では、植付けと同時に整地ができるので、植付精度や作業効率の向上を図ることができ、特に、機体旋回によって田面が荒れやすい枕地では、整地装置による整地効果が顕著であり、植付精度を大幅に改善することができる。
【特許文献1】特開2004−147619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような移植機において、感知フロートの余分なバタつきを抑えて正確な田面検知を行うためには、図3及び図4に示すように、感知フロート101の揺動支点Sと感知ポイントP(感知フロート101の接地領域前端位置)との間に、ある程度の距離が必要であるが、この距離を従来の移植機で満たそうとすると、感知フロート101を前方に延長する必要があるため、走行機体102と植付作業機103との間の距離や、整地装置104と植付作業機103との間の距離が長くなるという問題があった。
【0005】
また、従来の移植機では、感知フロート101の揺動支点Sと感知ポイントPとの間の距離を長くしようとすると、感知ポイントPが苗植付位置Nから遠くなってしまうため、走行機体102が前後に傾いたとき、感知ポイントPと苗植付位置Nとで高さに差が生じ、別途その差を補正するための機構が必要になるという問題もあった。
【0006】
尚、図3及び図4において、符号の105は植付作業機昇降用油圧シリンダ(図示せず)の油圧作動状態(上昇、中立、下降)を切換えるコントロールバルブ、106はコントロールバルブ105と感知フロート101を連繋させる感知リンク機構、107は植付け深さ調整(フロート支点高さ調整)に応じて感知リンク機構106(コントロールバルブ105)の作動範囲をシフトさせるロッドである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行機体の後部に連結される植付作業機を、該植付作業機の下部に上下揺動自在に設けられる感知フロートの姿勢変化に応じて自動的に昇降制御すると共に、走行機体と植付作業機との間に整地装置を備える移植機において、前記感知フロートを前側支点で上下揺動自在に支持すると共に、感知フロートの揺動支点を整地装置の上方に配置したことを特徴とする。このようにすると、整地装置の上方空間を利用して、感知フロートの揺動支点と感知ポイントとの間に必要な距離を確保できるので、感知フロートの感知精度を低下させることなく、走行機体と植付作業機との間の距離を短くすることが可能になる。しかも、感知フロートが前側支点で揺動し、かつ、揺動支点が上方に位置するので、田面抵抗による感知フロートの揺動が円滑になり、その結果、感知フロートによる泥押しを抑制できるだけでなく、感知フロートが圃場面の土塊を容易に乗り越えることができる。
また、前記感知フロートの感知ポイントである接地領域前端位置を、苗植付位置近傍に配置したことを特徴とする。このようにすると、感知ポイントが苗植付位置に近くなるので、走行機体が前後に傾いても、感知ポイントと苗植付位置とで高さに差が生じ難くなり、その結果、高さの差を補正するための機構が不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は乗用型田植機(移植機)の走行機体であって、該走行機体1の後部には、昇降リンク機構2を介して植付作業機3が昇降自在に連結されている。走行機体1と昇降リンク機構2との間には、植付作業機昇降用油圧シリンダ(図示せず)が介設されており、該油圧シリンダの油圧伸縮作動に応じて植付作業機3が昇降されるようになっている。
【0009】
植付作業機3は、昇降リンク機構2の後端部に連結される作業機フレーム4、その上方に傾斜姿勢で設けられる苗載台5、作業機フレーム4から後方に延出する複数の植付伝動ケース6、各植付伝動ケース6の後端部に設けられる植付機構7、植付作業機3の下部左右中央位置に上下揺動自在に設けられる感知フロート(センターフロート)8、植付作業機3の下部左右側方位置に上下揺動自在に設けられるサイドフロート(図示せず)などを備えて構成されており、走行機体1側から供給される植付動力によって、苗載台5の横送り作動や植付機構7の苗植付作動が行われるようになっている。
【0010】
苗を植付ける圃場は、予め代掻き作業が行われており、平坦化された田面に対して植付機構7が苗を植付けるが、植付作業機3は、走行機体1の後方で植付作業を行う関係上、車輪跡などによる田面の荒れによって植付精度が低下する可能性がある。特に、機体旋回が行われる枕地は、車輪跡による田面の荒れが顕著であり、植付精度が低下しやすい箇所である。そこで、このような問題に対処するために、植付作業機3の前部には、整地装置9が設けられている。この整地装置9は、植付作業機3の前方で整地作業を行うことにより、車輪跡による田面の荒れなどを改善させるので、植付精度を高めることができ、特に、枕地において改善効果が顕著である。
【0011】
本実施形態の整地装置9は、植付作業機3の前端部に上下位置調整自在に設けられるロータフレーム10、該ロータフレーム10の下端部に回転自在に設けられるロータ軸11、該ロータ軸11に一体的に設けられる整地ロータ12、該整地ロータ12の上方を覆うロータカバー13などを備えて構成されており、走行機体1のリヤアクスルケース14から取り出した走行動力、又は植付作業機3から取り出した植付動力で整地ロータ12を所定方向に回転させることにより、圃場の整地を行うようになっている。
【0012】
次に、植付作業機3の自動昇降制御について、図1及び図2を参照して説明する。乗用型田植機では、通常、感知フロート8の姿勢変化に応じて植付作業機3を自動的に昇降制御することにより、植付深さの変動を抑制している。つまり、感知フロート8は、田面に対する植付作業機3の上下位置変動に応じて上下揺動するので、感知フロート8の上下変位量を感知リンク機構15を介して植付作業機昇降用油圧シリンダのコントロールバルブ16に入力することにより、植付作業機3を自動的に昇降させ、植付作業機3の田面に対する高さを略一定に保つことが可能になる。
【0013】
感知フロート8は、前端側が上方に湾曲したソリ形状を有しており、接地領域前端位置を感知ポイントPとして田面抵抗を受けることにより、上下揺動するようになっている。このような感知フロート8で正確な田面検知を行うには、感知フロート8のバタつきを抑えるために、感知フロート8の揺動支点Sと感知ポイントPとの間に、ある程度の距離が必要である。この距離を図3及び図4に示すような従来の乗用型田植機で満たそうとすると、感知フロート101を前方に延長する必要があるため、走行機体102と植付作業機103との間の距離や、整地装置104と植付作業機103との間の距離が長くなるという問題があった。
【0014】
本発明に係る乗用型田植機では、上記のような問題を解決するために、感知フロート8を前側支点で上下揺動自在に支持すると共に、感知フロート8の揺動支点Sを整地装置9の上方に配置している。このようにすると、整地装置9の上方空間を利用して、感知フロート8の揺動支点Sと感知ポイントPとの間に必要な距離を確保できるので、感知フロート8の感知精度を低下させることなく、走行機体1と植付作業機3との間の距離を短くすることが可能になる。しかも、感知フロート8が前側支点で揺動し、かつ、揺動支点Sが上方に位置するので、田面抵抗による感知フロート8の揺動が円滑になり、その結果、感知フロート8による泥押しを抑制できるだけでなく、感知フロート8が圃場面の土塊を容易に乗り越えることができる。
【0015】
また、図3及び図4に示す従来の乗用型田植機では、感知フロート101の揺動支点Sと感知ポイントPとの間の距離を長くしようとすると、感知ポイントPが苗植付位置Nから遠くなってしまうため、走行機体102が前後に傾いたとき、感知ポイントPと苗植付位置Nとで高さに差が生じ、別途その差を補正するための機構が必要になるという問題もあった。
【0016】
これに対して本発明に係る乗用型田植機では、感知フロート8の揺動支点Sと感知ポイントPとの間の距離を長くしようとすると、感知ポイントPが苗植付位置Nに近くなるので、感知フロート8の感知精度を犠牲にすることなく、感知ポイントPを苗植付位置Nの近傍に配置することができる。これにより、走行機体1が前後に傾いても、感知ポイントPと苗植付位置Nとで高さに差が生じ難くなるので、高さの差を補正するための機構が不要になる。
【0017】
本実施形態の感知リンク機構15は、第一ロッド17、第一揺動アーム18、第二ロッド19、第二揺動アーム20及び第三ロッド21を備えて構成されている。第一ロッド17は、感知フロート8の前端部と第一揺動アーム18の一端部との間に設けられ、第二ロッド19は、第一揺動アーム18の他端部と第二揺動アーム20の一端部との間に設けられ、第三ロッド21は、第二揺動アームの他端部とコントロールバルブ16との間に設けられる。
【0018】
また、第一揺動アーム18の揺動支点18aは、植付け深さ調整(感知フロート8の揺動支点高さ調整)に応じて変動するようになっている。つまり、植付け深さ調整アーム22の操作に基づいて感知フロート8の揺動支点高さを変更すると、ロッド23及びアーム24を介して第一揺動アーム18の揺動支点18aが変動し、感知リンク機構15(コントロールバルブ16)の作動範囲がシフトするようになっている。
【0019】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行機体1の後部に連結される植付作業機3を、該植付作業機3の下部に上下揺動自在に設けられる感知フロート8の姿勢変化に応じて自動的に昇降制御すると共に、走行機体1と植付作業機3との間に整地装置9を備える乗用型田植機において、感知フロート8を前側支点で上下揺動自在に支持すると共に、感知フロート8の揺動支点Sを整地装置9の上方に配置したので、整地装置9の上方空間を利用して、感知フロート8の揺動支点Sと感知ポイントPとの間に必要な距離を確保できる。これにより、感知フロート8の感知精度を低下させることなく、走行機体1と植付作業機3との間の距離を短くすることが可能になる。
【0020】
しかも、感知フロート8は、前側支点で揺動し、かつ、揺動支点Sが上方に位置するので、田面抵抗による揺動が円滑になり、その結果、感知フロート8による泥押しを抑制できるだけでなく、感知フロート8が圃場面の土塊を容易に乗り越えることができる。
【0021】
また、感知フロート8の感知ポイントPである接地領域前端位置を、苗植付位置Nの近傍に配置したので、走行機体1が前後に傾いても、感知ポイントPと苗植付位置Nとで高さに差が生じ難くなり、その結果、高さの差を補正するための機構が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る乗用型田植機の後部側面図である。
【図2】本発明に係る乗用型田植機の要部側面図である。
【図3】従来例に係る乗用型田植機の後部側面図である。
【図4】従来例に係る乗用型田植機の要部側面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 走行機体
3 植付作業機
8 感知フロート
9 整地装置
15 感知リンク機構
16 コントロールバルブ
N 苗植付位置
P 感知ポイント
S 揺動支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に連結される植付作業機を、該植付作業機の下部に上下揺動自在に設けられる感知フロートの姿勢変化に応じて自動的に昇降制御すると共に、走行機体と植付作業機との間に整地装置を備える移植機において、
前記感知フロートを前側支点で上下揺動自在に支持すると共に、感知フロートの揺動支点を整地装置の上方に配置したことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記感知フロートの感知ポイントである接地領域前端位置を、苗植付位置近傍に配置したことを特徴とする請求項1記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−125480(P2008−125480A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316770(P2006−316770)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】