説明

緩衝器

【課題】緩衝器において、減衰バルブの開弁時に油液の流れを円滑にして安定した減衰力を得る。
【解決手段】シリンダ内のピストンの摺動によって生じる副通路33の油液の流れを弁体35の弁座45Aへの離着座によって制御して減衰力を発生させる。弁体35の開弁圧力は、開弁方向に作用するコイルバネ58のバネ力に抗してコイル36への通電により弁体35を閉弁方向に付勢することによって調整する。弁座45Aが形成された突出部45の突出高さをコイルバネ58の座巻58Aの軸方向高さ以上とする。これにより、開弁時に副通路33の開口から流出する油液の流れが座巻58Aに衝突するのを防止することができ、油液の流れを円滑にして安定した減衰力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧を利用して減衰力を発生する緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のサスペンション装置に装着される筒型の油圧緩衝器は、一般的に、作動流体が封入されたシリンダ内にロッドが連結されたピストンが摺動可能に設けられ、ピストン部にオリフィス及びディスクバルブ等からなる減衰力発生機構が設けられた構造となっている。これにより、ロッドの伸縮に伴うシリンダ内のピストンの摺動によって生じる作動液の流れをオリフィス及びディスクバルブによって制御して減衰力を発生させる。
【0003】
この種の緩衝器において、例えば特許文献1の図14に示されたものでは、減衰力調整弁である圧力制御弁(ソレノイドバルブ)は、作動流体の流路の開口の周囲に形成された弁座部に、弁体の先端の環状のシート部を離着座させることにより、流路を開閉するようになっている。そして、流路の開口の周囲を取囲むように弁座側と弁体側との間に介装されたコイルバネ(圧縮バネ)のバネ力によって弁体を開弁方向に付勢し、ソレノイドの推力によってバネ力に抗して弁体を閉弁方向に付勢することにより、ソレノイドへの通電電流に応じて開弁圧力を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−281584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載された構造の圧力制御弁では、開弁時に、流路の開口から流出した作動流体は、開口を取囲むコイルバネの線間を通って下流側へ流れることになる。一方、コイルバネの端部には、取付時の安定性を高めるため、線材どうしを接触させた座巻が形成されている。このため、流路の開口から流出した作動流体がコイルバネの座巻に衝突して流通抵抗が生じる。圧力制御弁の開弁時には、弁座と弁体との間で流路が絞られているため、作動流体の流速が非常に高くなっており、この高速の流れがコイルバネの座巻に衝突することによって乱流が発生して、弁体に作用する圧力が不安定になる。その結果、弁体が振動して騒音を発生する等減衰力が不安定になるという問題を生じる。
【0006】
本発明は、減衰バルブの安定した減衰力を得るようにした緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る緩衝器は、作動流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に挿入されたピストンと、前記ピストンに連結されると共に前記シリンダの外部に延出されたロッドと、前記ピストンの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰バルブとを備え、
前記減衰バルブは、作動流体が流出する開口と、該開口の周囲に形成された弁座と、該弁座に離着座する弁体と、前記弁体側と前記弁座側との間に介装されて前記弁座及び前記弁体の周囲を取囲むように配置されたコイルバネとを含み、前記弁座は、前記コイルバネ内に、該コイルバネの前記弁座側の座巻の軸方向高さに対して同程度以上突出していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る緩衝器によれば、減衰バルブの開弁時に作動流体の流れを円滑にして安定した減衰力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る緩衝器の縦断面図である。
【図2】図1に示す緩衝器のソレノイドバルブを拡大して示す縦断面図である。
【図3】図2に示すソレノイドバルブの弁体及び弁座部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図3に示す弁体及び弁座部の開弁時の作動流体の流路を拡大して示す縦断面図である。
【図5】図2に示すソレノイドバルブの第1変形例に係る弁体及び弁座部を示す縦断面図である。
【図6】図2に示すソレノイドバルブの第2変形例に係る弁体及び弁座部を示す縦断面図である。
【図7】図2に示すソレノイドバルブの第3変形例に係る弁体及び弁座部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る筒側の緩衝器である減衰力調整式油圧緩衝器1は、シリンダ2の外側に外筒3を設けた二重筒構造となっており、シリンダ2と外筒3との間にリザーバ4が形成されている。シリンダ2内には、ピストン5が摺動可能に挿入されて、このピストン5によってシリンダ2内がシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に画成されている。ピストン5には、ロッド6の一端がナット7によって連結され、ロッド6の他端側は、シリンダ上室2Aを通り、シリンダ2及び外筒3の上端部に装着されたロッドガイド8及びオイルシール9を貫通してシリンダ2の外部へ延出している。シリンダ2の下端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを区画するベースバルブ10が設けられている。なお、ロッド6の下端をさらに延ばし、ボトム部から突出させ、所謂、両ロッドとしてもよい。
【0011】
ピストン5には、シリンダ上下室2A、2B間を連通させる油路11、12が設けられている。そして、油路11には、シリンダ下室2B側からシリンダ上室2A側への油液の流通のみを許容する逆止弁13が設けられ、また、油路12には、シリンダ上室2A側の油液の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをシリンダ下室2B側へリリーフするディスクバルブ14が設けられている。
【0012】
ベースバルブ10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通させる油路15、16が設けられている。そして、油路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への油液の流通のみを許容する逆止弁17が設けられ、また、油路16には、シリンダ下室2B側の油液の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをリザーバ4側へリリーフするディスクバルブ18が設けられている。シリンダ2内には、作動流体として油液が封入されており、リザーバ4内には油液及びガスが封入されている。
【0013】
シリンダ2には、上下両端部にシール部材19を介してセパレータチューブ20が外嵌されており、シリンダ2とセパレータチューブ20との間に環状油路21が形成されている。環状油路21は、シリンダ2の上端部付近の側壁に設けられた油路22によってシリンダ上室2Aに連通されている。セパレータチューブ20の側壁には、小径の開口23が設けられ、また、外筒3の側壁には、開口23と略同心に大径の開口24が設けられており、外筒3の側壁の開口24に減衰力発生機構25が取付けられている。
【0014】
減衰力発生機構25は、開口24に取付けられた円筒状のケース26内に、パイロット型(背圧型)の主減衰弁27及び主減衰バルブ27の開弁圧力を制御する圧力制御弁であるソレノイドバブル28が挿入されてナット29によって固定されている。主減衰バルブ27及びソレノイドバルブ28は、開口23に接続され、この開口23からリザーバ4への油液の流れを制御して減衰力を発生させるものである。
【0015】
主減衰バルブ27は、開口23側の油液の圧力を受けて撓んで開弁して、リザーバ4側へ流通させるメインバルブであるディスクバルブ30と、ディスクバルブ30の背面側に形成されて、その内圧をディスクバルブ30の閉弁方向に作用させる背圧室31とを備えている。また、開口23には、固定オリフィス32を介して副通路33が接続され、副通路33は、ソレノイドバルブ28に接続され、また、側壁の通路33Aを介して背圧室31に連通している。
【0016】
次に、ソレノイドバルブ28について、図2を参照して説明する。図2に示すように、ソレノイドバルブ28は、略円筒状のソレノイドケース34内に、弁体35、コイル36及びアーマチャ37を収容し、このソレノイドケース34をナット29によってケース26に固定している(図1参照)。ソレノイドケース34は、案内ボア38が形成され、案内ボア38の一端側に、段付円筒状のコア部材39の小径部が嵌合されている。案内ボア38の他端側には、アーマチャ37の前端部が挿入されている。ソレノイドケース34の一端側には、副通路33が開口する底部を有する円筒状のバルブ部材40が挿入され、バルブ部材40の端部がコア部材39に当接して、コア部材39を固定している。バルブ部材40内には、弁体35を収容する弁室41が形成されている。弁室41は、コア部材39の内部、コア部材39の大径部の側壁に設けられた通路42及びバルブ部材40とソレノイドケース34との間に形成された通路43を介してケース26内、すなわち、リザーバ4に連通している。
【0017】
弁体35は、大径部35A及び小径部35Bを有する凸形状に形成され、アーマチャ37に連結された中空の作動ロッド44の先端部が摺動可能かつ液密的に挿入、貫通している。バルブ部材40の弁室41の底部には、副通路33が開口された円筒状の突出部45が突出し、突出部45の先端部の副通路33の開口の周囲に環状の弁座45Aが形成されている。弁体35の小径部35Bの先端部には、弁座45Aに離着座する環状のシート部46が突出されている。このシート部46は、小径部35Bの外径を先端に行くにし従い小径にすることで、シート部46を形成しており、シート部46の内部も抉った形状であり、シート部46の面積を最小として、着座性を高めている。そして、シート部46を弁座45Aに離着座させて副通路33と弁室41との間を開閉し、その開弁圧力によって副通路33の圧力を制御する。作動ロッド44は、コア部材39の小径部内に固定されたガイド部材47によって、軸方向に摺動可能に案内されている。
【0018】
弁体35の大径部35Bの端面外周縁部には、環状の当接部48が突出している。作動ロッド44の先端側には、止輪49が固定され、止輪49と弁体35の当接部48との間に、円板状の弁バネ50(板バネ)及びシート部材51が設けられている。弁バネ50は、弁体35を作動ロッド44に弾性的に支持している。また、シート部材51は、外周縁部にオリフィス51A(切欠)が形成されており、弁体35が後退して、その開弁方向にある閉止位置に達したとき、コア部材39に当接し、弁室41とコア部材39の内部、すなわち、通路42との間を閉止すると共に、これらの間をオリフィス51Aを介して連通させる。
【0019】
ソレノイドケース34内のコイル36の後端側に、有底円筒状のコア52が嵌合され、ソレノイドケース34の後端部に環状のリテーナ53が嵌合され、これらが、ソレノイドケース34の後端縁部を内側にかしめることによってコイル36と共に固定されている。コア52には、アーマチャ37の後端部が挿入されている。作動ロッド44は、アーマチャ37を貫通して、コア52内の底部に形成された弁体背圧室54内まで延ばされている。弁体背圧室54には、ガイド部材55が設けられて、作動ロッド44を摺動可能に案内している。そして、中空の作動ロッド44内に形成された連通路44Aによって副通路33と弁体背圧室54とが常時連通されている。アーマチャ37には、その両端側に形成された室を互いに連通させる流路である絞り通路56が設けられており、その移動に適度な減衰力を作用させるようになっている。コイル36には、導線57が接続されて外部へ延ばされている。
【0020】
弁体35の大径部35Aとバルブ部材40の弁室41の底部との間に圧縮バネであるコイルバネ58が介装されている。弁体35は、コイルバネ58のバネ力によって、その開弁方向であるコア部材39側に常時付勢されており、コイル36の非通電状態では、閉止位置まで後退してシート部材51がコア部材39に当接するようになっている。そして、コイル36への通電により、アーマチャ37に推力を発生させ、弁体35をコイルバネ58のバネ力に抗して前進させて弁座45Aに押圧し、通電電流に応じて弁体35の開弁圧力を調整する。なお、弁バネ50のバネ剛性は、コイルバネ58のバネ剛性よりも大きく、また、弁体35の質量は、アーマチャ37に比して充分小さくなっている。
【0021】
アーマチャ37の後端部には、減衰手段を構成するアーマチャ37と同径の円板状のダンピングプレート59が取付けられている。ダンピングプレート59は、一端部に小径の突出部59Aが形成されており、作動ロッド44を貫通させて突出部59Aをアーマチャ37に当接させて固定されている。これにより、絞り通路56の開口を有するアーマチャ37の端部との間に隙間を形成して、絞り通路56の流路を確保している。コア52のアーマチャ37を案内する案内ボア60は、アーマチャ37及びダンピングプレート59よりもやや大径で、これらとの間に隙間が形成されている。また、案内ボア60は、底部付近で徐々に縮径されて、底部にダンピングプレート59との隙間が小さいダンピング手段を構成する小径部60Aが形成されている。そして、弁体35が副通路33を開閉して、その圧力を制御する位置にあるとき、ダンピングプレート59が案内ボア60の開口側にあって案内ボア60との間に隙間を形成し、弁体35がコア部材39の付近まで後退したとき、ダンピングプレート59が小径部60Aに挿入されて、その隙間が小さくなるようになっている。
【0022】
コイル36の磁界の磁路の一部を構成するアーマチャ37及びコア52が強磁性体であるのに対して、ダンピングプレート59は、非磁性体であり、ステンレス鋼等で製造するとよい。また、図示の実施形態では、アーマチャ37及びダンピングプレート59は、ステーキング加工により塑性流動させて作動ロッド44に固定されている。
【0023】
次に、ソレノイドバルブ28の突出部45、弁座45A及び弁体35の構造について、図3及び図4を参照して更に詳細に説明する。
図3及び図4(A)に示すように、弁体35は、先端のシート部46の内周部に凹部46Aが形成され、凹部46Aの側壁が弁座45Aに対して略垂直で、シート部46の外周部がテーパ状に形成されている。これにより、シート部46の環状の先端部の受圧面積Aが充分小さくなっている。
【0024】
コイルバネ58は、コイル径が略一定で、突出部45及び弁体35の小径部35Bの周囲を取囲むように配置されている。コイルバネ58は、突出部45又は弁体35の小径部35Bの少なくとも一方によって案内されて径方向に位置決めされるようにしてもよい。コイルバネ58のバルブ部材40の弁室41の底部に当接する端部には、線材どうしが密着した座巻58Aが形成されている。図4(A)に示すように、突出部45の弁室41の底部からの突出高さH1は、コイルバネ58の座巻58Aの高さH2と同程度以上(やや低い場合を含む)となっている(図示の例では、H1>H2としてある)。また、突出部45の外周は弁室41の底部から垂直に延びる構成を図示しているが、例えば底部から弁室41に向けて縮径するようにテーパ状に突出される構成としてもよい。テーパ状とした場合には加工性に優れるという効果を奏することができる。
【0025】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
ロッド6の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が閉じ、ディスクバルブ14の開弁前には、シリンダ上室2A側の油液が加圧されて、油路22及び環状油路21を通り、セパレータチューブ20の開口23から減衰力発生機構25へ流れる。減衰力発生機構25では、主減衰バルブ27のディスクバルブ30の開弁前においては、油液は、固定オリフィス32、副通路33及びソレノイドバルブ28を通ってリザーバ4へ流れる。そして、開口23の油液の圧力がディスクバルブ30の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ30が開弁して、油液は開口23からリザーバ4へ流れる。
【0026】
このとき、ピストン5が移動した分の油液がリザーバ4からベースバルブ10の逆止弁17を開いてシリンダ下室2Bへ流入する。なお、シリンダ上室2Aの圧力がピストン5のディスクバルブ14の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ14が開いて、シリンダ上室2Aの圧力をシリンダ下室2Bへリリーフすることにより、シリンダ上室2Aの過度の圧力の上昇を防止する。
【0027】
ロッド6の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が開き、ベースバルブ10の油路15の逆止弁17が閉じて、ディスクバルブ18の開弁前には、ピストン下室2Bの油液がシリンダ上室2Aへ流入し、ロッド6がシリンダ2内に侵入した分の油液がシリンダ上室2Aから、上記伸び行程時と同様の経路を通ってリザーバ4へ流れる。なお、シリンダ下室2B内の圧力がベースバルブ10のディスクバルブ18の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ18が開いて、シリンダ下室2Bの圧力をリザーバ4へリリーフすることにより、シリンダ下室2Bの過度の圧力の上昇を防止する。
【0028】
これにより、ロッド6の伸縮行程時共に、主減衰バルブ27の開弁前(ピストン速度低速域)においては、固定オリフィス32及びソレノイドバルブ28によって減衰力が発生し、主減衰バルブ27の開弁後(ピストン速度高速域)においては、その開度に応じて減衰力が発生する。そして、コイル36への通電電流によってソレノイドバルブ28の開弁圧力を調整することにより、ピストン速度にかかわらず、減衰力を直接制御することができる。このとき、ソレノイドバルブ28の開弁圧力によって背圧室31の内圧が調整されるので、主減衰バルブ27の開弁圧力を同時に調整することができ、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。
【0029】
ソレノイドバルブ28では、弁バネ50のバネ剛性がコイルバネ58のバネ剛性よりも高く設定され、また、弁体35の質量がアーマチャ37の質量よりも充分小さく、弁体35の固有振動数が充分高く設定されているので、アーマチャ37の慣性による応答遅れが生じにくく、オーバーシュートを防止して適切な減衰力制御を行なうことができる。そして、副通路33の圧力が急激に上昇した場合には、弁バネ50が撓んで軽量の弁体35のみが後退して、開弁した後、アーマチャ37が追従して後退するので、弁体35の開弁遅れによって背圧室31の圧力が過度に上昇することがなく、安定した減衰力制御を行なうことができる。また、弁体35の固有振動数が充分高く設定されているので、自励振動による異音の発生及び減衰力が不安定になるのを防止することができる。
【0030】
弁体35の閉弁時、すなわち、弁体35のシート部46が弁座45Aに着座した状態において、弁体背圧室54は、作動ロッド44の連通路44Aを介して副通路33に連通するので、副通路33に対する弁体35の受圧面積は、シート部46の内側の面積から作動ロッド44の断面積を差引いた面積となる。これにより、弁体35は、シート部46の径だけでなく、作動ロッド44の径によって副通路33に対する受圧面積を調整することができるので、弁体35の開弁特性の設定の自由度、延いては減衰力発生機構25の減衰力特性の設定の自由度を高めることができる。
【0031】
コイル36の断線等のフェイルの発生により、アーマチャ37の推力が失われた場合には、コイルバネ58のバネ力によって弁体35が閉止位置まで後退して、シート部材51がコア部材39に当接して弁室41と通路42との間の流路を閉じ、これらの間がシート部材51のオリフィス51Aによって連通される。そして、オリフィス51Aの流路面積に応じて減衰力が発生し、これにより、背圧室31の圧力すなわちディスクバルブ30の開弁圧力が調整されるので、フェイル時においても適度な減衰力を発生させることができる。
【0032】
このように、コイル36への低電流の通電により、一般的に使用頻度の高いソフト側の減衰力が得られるので、消費電力を低減することができ、また、非通電時には、ソフト側よりも大きな適度な減衰力が得られるので、車両の操縦安定性を確保して、フェイルセーフを実現することができ、更に、ハード側固定による車体への振動入力の増大の等の弊害が生じることもない。
【0033】
また、弁体35が開弁方向に移動する際、所定位置、例えば通常の制御範囲を超えたところから閉止位置まで後退して、シート部材51がコア部材39に当接する際には、ダンピングプレート59がコア52の案内ボア60の小径部60Aに挿入されることにより、ダンピングプレート59の後退に対して、小径部60A内からダンピングプレート59と小径部60Aとの間の隙間を通って流出する油液の流路が絞られることによって減衰力が作用する。これにより、コイル36への通電による弁体35の開弁圧力の制御中に、副通路33の圧力が急激に上昇し、弁体35が大きく後退した場合でも、弁体35の移動にダンピングプレート59による減衰力が作用してシート部51がコア部材39に当接して、不用意に減衰力が増大するのを防止することができる。
【0034】
また、ダンピングプレート59は、比較的大径のアーマチャ37を案内する案内ボア60に挿入しているので、小径部60Aとの隙間をあまり小さくしなくても充分な減衰効果を得ることができ、寸法精度を緩和しつつ、隙間に異物が詰まり難くなっている。ダンピングプレート59を非磁性体としたことにより、磁性体の摩耗粉の吸着、堆積を防止することができる。また、ダンピングプレート59をアーマチャ37と別体としたことにより、アーマチャ37の絞り通路56及びダンピングプレート59を容易に製造することができる。
【0035】
次にソレノイドバルブ28の開弁時の油液の流路について図4を参照して説明する。
図4(A)に矢印で示すように、ソレノイドバルブ28の開弁時には、副通路33の開口から弁室41へ流出した油液は、コイルバネ58の線間を通って下流側へ流れる。このとき、弁体35のシート部46と弁座45Aとの間で絞られて流速が高められた油液の流れは、弁座45Aの突出部45の突出高さH1がコイルバネ58の座巻58Aの軸方向高さH2と同程度以上となっているので、座巻58Aに衝突することなく、弁座45A及びシート部46のテーパ状の外周部46Bに沿ってコイルバネ58の線間を通って下流側へ円滑に流れる。これにより、ソレノイドバルブ28の開弁時の流路通抵抗の過度の増大及び乱流の発生を防止して、弁体35に作用する圧力が不安定になるの防止することができる。その結果、弁体35の振動及び減衰力の変動を抑制して安定した減衰力制御を行なうことができる。
【0036】
ここで、突出部45の突出高さH1がコイルバネ58の座巻58Aの軸方向高さH2と同程度以上とは、副通路33の開口から流出する油液の流れが、コイルバネ58の座巻58Aに妨げられず、コイルバネ58の線間を通って円滑に流れる程度であれば、突出高さH1が座巻58Aの軸方向高さH2よりもやや低くてもよいことを意味する。但し、座巻58Aの軸方向高さH2以上とすることにより、油液の流れをより円滑にすることができる。
【0037】
なお、図4(B)に示すように、突出部45の突出高さがコイルバネ58の座巻58Aの高さよりも低い場合には、シート部46と弁座45Aとの間で絞られて流速が高められた油液の流れが座巻58Aに衝突することになり、乱流が発生して、弁体35に作用する圧力が不安定なる虞がある。
【0038】
次に本実施形態の変形例について図5乃至図7を参照して説明する。
なお、以下の説明において、上述の図1乃至図4に示す実施形態に対して、同様の部分には同じ符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0039】
図5に示す変形例では、コイルバネとして、一端側が拡径した形状であるテーパ状のコイルバネ62を使用し、そのの小径側の端部を弁体35の小径部35Aの外周に係合し、大径側の端部を弁室41の底部に当接させている。これにより、大径側の端部の座巻62Aを副通路33の開口から径方向に離すことができるので、油液の流れをより円滑にすることができる。また、コイルバネ62を弁体35の小径部35Bによって案内することにより、コイルバネ62の位置を安定させることができる。
【0040】
図6に示す変形例では、コイルバネとして、テーパ状のコイルバネ62を使用し、その小径側の端部を突出部45の外周に係合し、大径側の端部を弁体35の大径部35Aの端面に当接させている。この場合、突出部45の突出高さH1がコイルバネ62の小径側の端部の座巻62Bの高さH2と同程度以上となっていることにより、上記実施形態と同様、油液の流れを円滑にすることができる。また、コイルバネ62を突出部45によって案内することにより、コイルバネ62の位置を安定させることができる。
【0041】
図7に示す変形例では、コイルバネとして、上記実施形態のものよりも大径で一定のコイル径を有するコイルバネ63を使用し、弁体35の大径部の端部を段付形状とし、その段部64の外周にコイルバネ63の端部を係合させている。これにより、コイルバネの両端部は、弁座45Aから径方向に離間して配置されることになり、コイルバネ63の弁室41の底部に当接する端部に設けられた座巻63Aを副通路33の開口から離すことができるので、油液の流れをより円滑にすることができる。また、コイルバネ63を弁体35の段部64によって案内することにより、コイルバネ63の位置を安定させることができる。
【0042】
なお、上記実施形態では、一例として、パイロット型の主減衰バルブの開弁圧力を制御するソレノイドバルブについて、弁座の突出高さをコイルバネの座巻よりも高くした場合について説明しているが、本発明は、これに限らず、作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰バルブを有する緩衝器に適用することができる。つまり、本実施の形態では、減衰バルブは、メインバルブと並列に設けられ、副通路に配されるものを示したが、減衰バルブにより主通路を直接制御するものに採用してもよい。また、減衰力調整式緩衝器の作動流体は、油液に限らず、ガス等の他の流体でもよい。
さらに、減衰バルブは、アクチュエータにより制御されるものを示したが、他の機械的に制御されるもの、あるいは、手動制御されるものであってもよい。また、減衰バルブとして圧力制御弁を用いた例に挙げて説明したが、通電電流等によって背圧室の圧力を排出する流路面積を調整する流量制御弁であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 減衰力調整式油圧緩衝器(緩衝器)、2 シリンダ、5 ピストン、6 ロッド、28 ソレノイドバルブ(減衰バルブ)、35 弁体、45A 弁座、58 コイルスプリング、58A 座巻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に挿入されたピストンと、一端が前記シリンダの外部へ延出されて前記ピストンが取り付けられたロッドと、前記ピストンの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰バルブとを備え、
前記減衰バルブは、作動流体が流出する開口と、該開口の周囲に形成された弁座と、該弁座に離着座する弁体と、前記弁体側と前記弁座側との間に介装されて前記弁座及び前記弁体の周囲を取囲むように配置されたコイルバネとを含み、前記弁座は、前記コイルバネ内に、該コイルバネの前記弁座側の座巻の軸方向高さに対して同程度以上突出していることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記減衰バルブは、前記ピストンの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、該メインバルブの閉弁方向に内圧を作用させる背圧室と、前記メインバルブと並列に該メインバルブの上流側と下流側とを連通し、上流側の圧力を前記背圧室に導入するための副通路とを備え、
前記開口は、前記副通路の前記背圧室の下流側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記コイルバネは、一端側が拡径した形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記コイルバネは、両端部が前記弁座から径方向に離間して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記弁体はアクチュエータにより制御されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の緩衝器。
【請求項6】
前記弁体は圧力制御弁の弁体をであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の緩衝器。
【請求項7】
前記コイルバネは、前記アクチュエータの電流遮断時に前記弁体を開弁方向に移動させて下流側への流路を絞るものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の緩衝器。
【請求項8】
前記減衰バルブは、前記シリンダの側部に配置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−2336(P2012−2336A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140776(P2010−140776)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】