説明

自己流動性水硬性組成物

【課題】ポルトランドセメントを水硬性成分の主成分とする自己流動性水硬性組成物において、十分に高い作業性及び硬化特性を有し、特に、低温下でも高い表面硬度と良好な硬化表面仕上りが得られる組成物を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメント40〜60質量%、アルミナセメント15〜40質量%及び石膏10〜30質量%からなる水硬性成分と、無機粉体と、細骨材と、流動化剤と、凝結調整剤と、を含有する自己流動性水硬性組成物であって、細骨材は、細骨材100質量%中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、かつ、吸水率が1.6%以下であり、ポルトランドセメント中のCA量が7質量%以下である自己流動性水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床構造体等の構造物の施工に用いられる自己流動性水硬性組成物に関する。特に、低温下でも高い表面硬度と良好な硬化表面仕上りが得られるセメント系の自己流動性水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルフレベリング材として使用される自己流動性水硬性組成物には、高い流動性や流動保持性(可使時間)、速硬性等が要求される。また、表面精度を確保するため、良好な硬化表面仕上りが要求される。
【0003】
自己流動性水硬性組成物は、大別すると石膏系とセメント系があり、特に後者では環境温度による物性の変化が問題となる。そこで、広い温度範囲において、作業性(高流動性、長可使時間)及び硬化特性(平滑性、寸法安定性、表面性状、強度発現性)に優れ、かつ、超速硬性を具備した組成物として、特許文献1には、アルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏及び高炉スラグよりなる水硬性成分と、リチウム塩及びホウ酸化合物よりなる凝結速度調整剤と、減水剤と、増粘剤とよりなる自己流動性水硬性組成物が開示されている。
【0004】
また、低温環境下で高い流動性と水平レベル性、表面仕上り性、硬化特性に優れ、ひび割れが発生しない組成物として、特許文献2には、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含み、凝結促進剤がアルミン酸塩(リチウム塩を除く)及びリチウム塩を含む自己流動性水硬性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3697921号
【特許文献2】特開2008−127250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記セメント系の自己流動性水硬性組成物では、水硬性成分として主にアルミナセメントやポルトランドセメントが使用されるが、材料コスト及び強度発現の面で、ポルトランドセメントの多い配合とすることが望まれる。しかしこの場合、硬化後の表面性状は温度の影響を大きく受けやすく、特に低温では、膨張による表面ひび割れが生じ易くなる。
【0007】
本発明は、ポルトランドセメントを水硬性成分の主成分とする自己流動性水硬性組成物において、十分に高い作業性及び硬化特性を有し、特に、低温下でも高い表面硬度と良好な硬化表面仕上りが得られる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ポルトランドセメントを水硬性成分の主成分とする自己流動性水硬性組成物において、水硬性成分の配合やセメントの種類、細骨材の粒度や吸水率、添加剤の種類や添加条件を変え、作業性や硬化特性、硬化表面仕上がりの温度依存性について詳細に検討した結果、これらをある特定の条件とすることにより目的とする組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポルトランドセメント40〜60質量%、アルミナセメント15〜40質量%及び石膏10〜30質量%からなる水硬性成分と、無機粉体と、細骨材と、流動化剤と、凝結調整剤と、を含有する自己流動性水硬性組成物であって、細骨材は、細骨材100質量%中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、かつ、吸水率が1.6%以下であり、ポルトランドセメント中のCA量が7質量%以下である自己流動性水硬性組成物を提供する。
【0010】
上記細骨材は、粗粒率が1.00〜1.40の範囲であり、単位容積質量が1.45〜1.70kg/Lの範囲であり、実績率が55.0〜61.0%の範囲であると、水硬性組成物の自己流動性をより一層向上することができる。
【0011】
また、本発明の自己流動性水硬性組成物は、組成物中に含まれる水硬性成分100質量部に対して無機粉体を35〜200質量部含有し、細骨材を85〜325質量部含有すると、本発明の効果をより確実に発現することができる。
【0012】
自己流動性水硬性組成物の強度発現性及び寸法安定性を向上する観点から、上記無機粉体は、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のアルミナセメントを水硬性成分の主成分とする自己流動性水硬性組成物よりも安価で強度発現に優れ、十分に高い作業性(高流動性、長可使時間)及び硬化特性(平滑性、寸法安定性)を有し、特に、低温下でも高い表面硬度と良好な硬化表面仕上りが得られる自己流動性水硬性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0015】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、ポルトランドセメント40〜60質量%、アルミナセメント15〜40質量%及び石膏10〜30質量%からなる水硬性成分と、無機粉体と、細骨材と、流動化剤と、凝結調整剤とを含有し、細骨材が、細骨材100質量%中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、かつ、吸水率が1.6%以下であり、ポルトランドセメント中のCA量が7質量%以下である。
【0016】
ここで、水硬性成分に用いられるポルトランドセメントとしては、CA量が少ないという観点で、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び耐硫酸塩ポルトランドセメントから選択し、単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
ポルトランドセメント中のCA量は、下記のボーグ式により算出する。
A量=(2.65×Al)―(1.69×Fe
式中の「Al」及び「Fe」は、それぞれ、セメント中のAl及びFeの含有割合(質量%)である。これらの含有割合は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」又はJIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」により測定することができる。CA量が7質量%を超えると、低温下での膨張が抑制されず、ひび割れを完全に防ぐことができず好ましくない。CA量の範囲は、より好ましくは0〜6質量%であり、更に好ましくは0.1〜6質量%であり、特に好ましくは1〜5質量%である。
【0018】
低温下でも良好な硬化表面仕上がりを得るためには、CAが所定量以下であるポルトランドセメントが必要である。この原因は不明であるが、本発明者らは、低温下ではポルトランドセメントのCA量から微細なエトリンガイトが生成しやすく、これが膨張ひび割れの原因になっていると推測している。したがって、アルミナセメントの配合量を調整するよりも、ポルトランドセメントのCA量をある量以下に規定することで、膨張性のエトリンガイトの生成を効果的に抑制していると推察される。
【0019】
水硬性成分に用いられるアルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知ら
れ市販されている。これらの市販品は、いずれも主成分がモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0020】
水硬性成分に用いられる石膏としては、例えば、二水石膏や半水石膏及び無水石膏が挙げられ、排煙脱硫やフッ酸製造工程等で副産される石膏、又は天然に産出される石膏のいずれも使用することができる。作業性(高流動性、長可使時間)の観点から、無水石膏の使用が好ましい。
【0021】
本発明では、水硬性成分として、ポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることにより、優れた自己流動性を有し、適正な可使時間と、優れた速硬性とを有する自己流動性水硬性組成物が得ることができる。
【0022】
水硬性成分は、その質量を100質量%とした場合に、ポルトランドセメント、アルミナセセメント及び石膏を上記範囲で含む必要がある。これにより、材料コストが安価で、自己流動性、速硬性を有し、硬化中の体積変化が少ない硬化体を得ることが容易となる。
【0023】
水硬性成分の配合割合は、好ましくはポルトランドセメント42〜58質量%、アルミナセメント20〜36質量%及び石膏14〜30質量%であり、より好ましくはポルトランドセメント45〜55質量%、アルミナセメント23〜33質量%及び石膏17〜27質量%であり、特に好ましくはポルトランドセメント47〜53質量%、アルミナセメント25〜31質量%及び石膏19〜25質量%である。
【0024】
無機粉体としては、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定される高炉スラグ微粉末、JIS R 5212「シリカセメント」で規定されるシリカ質混合材、JIS A 6207「コンクリート用シリカフューム」で規定されるシリカフューム、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」で規定されるフライアッシュ、石灰石微粉末を利用することができる。ここで、石灰石微粉末は、石灰石を粉砕したものが好適に使用できるが、炭酸カルシウムを主成分とする無機質の粉末状物質であれば、廃コンクリート等を粉砕したものや、化学的に精製した炭酸カルシウム等も代用することができる。中でも、無機粉体として、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末を用いることで、強度発現性や寸法安定性を高めることができる。
【0025】
また、これらの無機粉体は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い測定されるブレーン比表面積が3000cm/g以上であることが好ましく、3000〜8000cm/gであることがより好ましく、3200〜5200cm/gであることが更に好ましい。
【0026】
本発明に係る細骨材は、細骨材100質量%中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、吸水率が1.6%以下である。このような細骨材として、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類、スラグ細骨材、再生細骨材のほか、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカー、ウレタン砕、EVAフォーム及び発砲樹脂などの樹脂粉砕物から適宜選択して用いることができる。特に細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末及びアルミナクリンカーから選択したものを好適に用いることができる。
【0027】
本発明において、細骨材の粒子径は、JIS Z 8801:2006に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本発明において、「600μm以上の粒子径を有する粗粒分」とは、600μm篩いを用いたときの残分の粒子の質量割合のことをいう。また、細骨材の吸水率は、JIS A 1109:2006に規定されている骨材の吸水率(単位:%)の測定方法に準じて測定した値をいう。
【0028】
細骨材中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%以上含む場合、又は、細骨材の吸水率が1.6%を超える場合、自己流動性水硬性組成物の自己流動性が低下する傾向にある。上記粗粒分の下限値は特に制限がなく、0質量%であってもよい。優れた自己流動性を得るため、細骨剤中の同粗粒分は0〜3質量%が好ましく、0〜0.5質量%がより好ましく、0〜0.2質量%が更に好ましく、0.01〜0.15質量%が特に好ましい。また、上記吸水率の下限値は特に制限がなく、0%であってもよい。細骨剤の吸水率は0〜1.50%が好ましく、0〜1.40%がより好ましく、0〜1.30%が更に好ましく、0.1〜1.28%が特に好ましい。
【0029】
本発明の自己流動性水硬性組成物において、前記細骨材の粗粒率が1.00〜1.40の範囲であり、細骨材の単位容積質量が1.45〜1.70kg/Lの範囲であり、細骨材の実績率が55.0〜61.0%の範囲であることが好ましい。これにより、より優れた自己流動性を得ることができる。
【0030】
ここで、「粗粒率」とは、JIS A 1102:2006に規定される骨材の粗粒率をいう。また、「単位容積質量」とは、JIS A 1104:2006に規定される骨材の単位容積質量(単位:kg/L)をいう。また、「実績率」とは、JIS A 1104:2006に規定される骨材の実績率(単位:%)をいう。
【0031】
細骨材の粗粒率として、好ましくは1.00〜1.40であり、より好ましくは1.10〜1.35であり、更に好ましくは1.11〜1.32であり、特に好ましくは1.12〜1.30である。また、細骨材の単位容積質量として、好ましくは1.45〜1.70kg/Lであり、より好ましくは1.50〜1.60kg/Lであり、更に好ましくは1.51〜1.57kg/Lであり、特に好ましくは1.52〜1.55kg/Lである。また、細骨材の実績率として、好ましくは55.0〜61.0%であり、より好ましくは56.0〜60.0%であり、更に好ましくは56.5〜59.5%であり、特に好ましくは57.0〜59.0%である。
【0032】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して無機粉体を35〜200質量部含有し、細骨材を85〜325質量部含有することが好ましい。これにより、作業性や硬化特性をより向上できる。
【0033】
無機粉体の含有割合は、水硬性成分100質量部に対して40〜180質量部であることがより好ましく、60〜150質量部であることが更に好ましく、70〜130質量部であることが特に好ましい。細骨材の含有割合は、水硬性成分100質量部に対して100〜300質量部であることがより好ましく、150〜275質量部であることが更に好ましく、165〜250質量部であることが特に好ましい。
【0034】
セルフレベリング材は、通常、材料分離を抑えて高強度の硬化体を得るために、少ない練混ぜ水量で使用される。したがって、本発明の自己流動性水硬性組成物は、水/水硬性成分比が小さくとも高い流動性を確保するため、減水効果を有する流動化剤が必須成分である。
【0035】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸系等の市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸等の市販の流動化剤を用いることが好ましい。
【0036】
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、より好ましくは0.05〜1.0質量部、更に好ましくは0.07〜0.7質量部、特に好ましくは0.1〜0.5質量部を配合することができる。流動化剤の添加量が少なすぎると好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず、単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合がある。
【0037】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、可使時間(流動保持性)と速硬性を調整するため、凝結調整剤を必須成分として含有する。凝結調整剤には、凝結促進剤と凝結遅延剤があり、使用する水硬性成分の配合に応じてこれらの成分や添加量を適宜選択する。
【0038】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる凝結遅延剤としては、公知のものを用いることができる。一例として、オキシカルボン酸類等の有機酸や、グルコース、マルトース、デキストリン等の糖類、重炭酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等を、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0039】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシ酸を挙げることができる。
【0040】
オキシカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩等)を挙げることができ、ナトリウム塩がより好ましい。また、特に、酒石酸ナトリウムが、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から好ましく、重炭酸ナトリウムと併用することが更に好ましい。
【0041】
凝結遅延剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.1〜1.5質量部、更に好ましくは0.2〜1.2質量部、特に好ましくは0.2〜1質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できる。さらに、凝結遅延剤の添加量を、上記好ましい範囲に調整することにより、自己流動性(セルフレベリング性)を有し、好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を有するモルタルを得ることができる。
【0042】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができる。例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩、硫酸アルミニウム及び塩化カルシウムを好適に用いることができ、これらを数種組み合わせて使用することができる。
【0043】
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩や、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム等の有機酸有機リチウム塩を挙げることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
【0044】
凝結促進剤としては、自己流動性水硬性組成物の特性を妨げない粒子径のものを用いることが好ましく、粒子径は50μm以下にすることが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒子径は50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下であることが好ましい。リチウム塩の粒子径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0045】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部、更に好ましくは0.02〜0.4質量部、特に好ましくは0.04〜0.3質量部の範囲で用いることによって、自己流動性水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性が得られることから好ましい。凝結促進剤の添加量を、前記の好ましい範囲に調整することにより、自己流動性(セルフレベリング性)を有し、良好な可使時間を確保したのち、好適な速硬性を発現するモルタルを得ることができるため好ましい。
【0046】
本発明の自己流動性水硬性組成物には、上記の必須成分に加えて、必要に応じて増粘剤、消泡剤、収縮低減剤、樹脂粉末等を添加することができる。
【0047】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、十分に高い作業性(高流動性、長可使時間)及び硬化特性(平滑性、寸法安定性)を有する。本発明の自己流動性硬化性組成物は、これらの特性を生かしてセルフレベリング材として、学校、マンション、コンビニエンスストア、病院、ベランダ、工場、倉庫、駐車場、ガソリンスタンド、厨房及び屋上などの床下地や床仕上げ材に用いることができる。また、本発明の自己流動性硬化性組成物は、低温下でも良好な硬化表面仕上りが得られることから、季節、地域を問わず安定してこれらの用途に供することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0049】
[使用材料]
実施例及び比較例で使用した材料を以下に記す。
(1)水硬性成分
・ポルトランドセメント[PC]
(早強ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製、CA=9質量%)
(普通ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製、CA=9質量%)
(中庸熱ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製、CA=5質量%)
(耐硫酸塩ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製、CA=1質量%)
・アルミナセメント[AC](フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g)
・石膏[GG](天然無水石膏、ブレーン比表面積4500cm/g)
【0050】
上記それぞれのポルトランドセメントについて、アルミナセメント及び石膏を表1に示す割合で配合し、水硬性成分を調製した。
【表1】

【0051】
(2)無機粉体
・高炉スラグ微粉末[BFS](リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積440
0cm/g)
(3)細骨材
・珪砂[S](600μm以上の粒子径を有する粗粒分=0.1質量%、吸水率=1.25%、粗粒率1.15、単位容積質量=1.53kg/L、実績率=57.5%)
(4)流動化剤
・ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)
(5)凝結遅延剤
・酒石酸Na:L−酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)
(6)凝結促進剤
・炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)
【0052】
[モルタルの調製]
上記の材料(総量:1.5kg)を表2に示す配合割合で混合し、ケミスタラーを用いて混練して水硬性組成物を作製した。次いで、得られた水硬性組成物に水390gを加えて3分間混練してモルタルを得た。モルタルの調製は、温度5℃の恒温室内で行った。
【0053】
[表面硬度の評価]
調製したモルタルを13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、材齢24時間におけるショア硬度を測定した。すなわち、スプリング式硬度計タイプD((株)上島製作所製)を用いて、任意の4箇所の表面硬度を測定し、ゲージの読み取り値の平均値を求め、ショア硬度とした。評価は、温度5℃の恒温室内で行った。評価結果を表2に示す。
【0054】
[硬化表面仕上がりの評価]
調製したモルタルを13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、各材齢における表面仕上りを目視で観察し、ひび割れの有無を確認した。評価は、温度5℃の恒温室内で行った。評価結果を表2に示す。
【0055】
表2の比較例1及び2に示すように、CA量が9質量%のポルトランドセメントを使用したモルタルの場合、材齢2日で硬化体の表面にひび割れが発生した。なお、このひび割れは、20℃の環境では発生しないことや、ショア硬度と無関係であることが確認されている。これに対して、表2の実施例1及び2に示すように、所定のCA量を有するポルトランドセメントを使用した本発明の自己流動性水硬性組成物は、ショア硬度が大きく、かつ、硬化体表面のひび割れも認められなかった。
【0056】
【表2】

【0057】
以上の結果より、環境温度の影響を受けやすい、ポルトランドセメントを水硬性成分の主成分とする自己流動性水硬性組成物においても、水硬性成分の配合、細骨材の粒度及び吸水率を適正にし、特定のCA量を有するポルトランドセメントを使用することで、十分に高い作業性及び硬化特性を有し、特に、低温下でも表面硬度が高く、かつ、良好な硬化表面仕上りとなる組成物を得ることができることが確認された。本発明の自己流動性水硬性組成物は、従来のアルミナセメントを水硬性成分の主成分とする自己流動性水硬性組成物よりも安価で強度発現に優れ、幅広い用途に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント40〜60質量%、アルミナセメント15〜40質量%及び石膏10〜30質量%からなる水硬性成分と、無機粉体と、細骨材と、流動化剤と、凝結調整剤と、を含有する自己流動性水硬性組成物であって、
前記細骨材は、該細骨材100質量%中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、かつ、吸水率が1.6%以下であり、
前記ポルトランドセメント中のCA量が7質量%以下である、自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
前記細骨材は、粗粒率が1.00〜1.40の範囲であり、単位容積質量が1.45〜1.70kg/Lの範囲であり、実績率が55.0〜61.0%の範囲である、請求項1に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
前記水硬性成分100質量部に対して、前記無機粉体を35〜200質量部含有し、前記細骨材を85〜325質量部含有する、請求項1又は2記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
前記無機粉体は、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。

【公開番号】特開2011−195342(P2011−195342A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60719(P2010−60719)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】