説明

蓄電デバイス

【課題】蓄電デバイスのエネルギー密度をより高める。
【解決手段】本発明の蓄電デバイスは、X線回折測定での菱面体(101)ピークが六方晶(100)ピークより小さい黒鉛を含む正極と、フェノール樹脂、アントラセン、テトラセン及びペンタセンなど芳香族系高分子を焼成して得られたポリアセン構造を有する焼成体を含む負極と、正極と負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、出力密度の高い蓄電デバイスとして電気二重層キャパシタが知られている。しかしながら、この電気二重層キャパシタは、エネルギー密度が小さく、長時間の放電が必要とされる用途では設置スペースが大きくなるなど、不向きであり、高エネルギ密度化(高容量化)が検討されるようになった。高容量化の代表的な方法として、比表面積の増大が考えられ、例えば、活性炭を種々の方法で処理することにより容量の増大化が図られた。
【0003】
一方、このような蓄電デバイスとして、グラフェン層が発達した非多孔性電極と、プロピレンカーボネート(PC)の非水系溶媒に1mol/Lの濃度となるように電解質としてのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート((C254NBF4)を溶解した電解液とを用い、電解質イオンを電極へインターカレーションさせて高容量化を図ったものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、黒鉛電極と、プロピレンカーボネート(PC)の非水系溶媒に0.8〜1.5mol/Lの濃度となるように電解質を溶解した電解液とを用い、電解質イオンを電極へインターカレーションさせて高容量化を図ったものが提案されている(例えば、特許文献2)。また、黒鉛を電極に用いた電気二重層キャパシタが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。黒鉛を電極に用いたキャパシタは、特定の電位を越えると蓄電量の増加に対する電位変化が小さくなる領域が出現する。これは、この領域では静電容量が大きいことを意味し、この領域を利用すれば大容量の蓄電が可能となる。このような現象は、黒鉛へのイオンの高密度吸着及びインターカレーションに由来すると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−25867号公報
【特許文献2】特開2005−294780号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】electrochemistry communications 8(2006) 1481-1486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1、2の蓄電デバイスでは、電流密度が大きいときには効率よく充電できず、CCCV充電を行わなければならないほか、IRドロップが大きい、充放電効率が低い、高レートでの充電能力が低いという問題もあり、更なる改良が望まれていた。また、黒鉛を正極に用いた蓄電デバイスでは、静電容量を利用して蓄電量を高めてはいるが、蓄電電荷量は、負極の能力にも支配される為、エネルギー密度を向上させるにも限界があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、エネルギー密度をより高めることができる蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、負極に芳香族系高分子の焼成体を用い、正極の黒鉛の結晶相を好適なものとすることにより、エネルギー密度をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の蓄電デバイスは、黒鉛を含む正極と、芳香族系高分子の焼成体を含む負極と、前記正極と前記負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄電デバイスは、エネルギー密度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。例えば、正極に黒鉛を用いることにより、静電容量を利用して蓄電量を向上させることができる。一方、芳香族系高分子の焼成体は、活性炭などに比して蓄電電荷密度が高く、これを負極に用いることにより、エネルギー密度がより高まるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】黒鉛のX線回折測定結果。
【図2】芳香族系高分子由来の焼成体のX線回折測定結果。
【図3】蓄電デバイス10の構成を表す説明図。
【図4】実験例1〜3の充放電曲線。
【図5】実験例1,6の充放電曲線。
【図6】実験例9,10の充放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の蓄電デバイスは、黒鉛を含む正極と、芳香族系高分子の焼成体を含む負極と、正極と負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。また、本発明の蓄電デバイスにおいて、特に限定されないが、イオン伝導媒体は、アニオン及びカチオンのイオンを含んでおり、正極は、含まれる黒鉛によってイオン伝導媒体に含まれるアニオンを吸着及び/又はインターカレーションすることにより蓄電し、負極は、イオン伝導媒体に含まれるカチオンを吸着、インターカレーション及び電気化学反応のうち1以上により蓄電するものとしてもよい。即ち、本発明の蓄電デバイスは、電気二重層キャパシタや、ハイブリッドキャパシタ、リチウムイオンキャパシタとして構成してもよい。
【0013】
本発明の蓄電デバイスにおいて、負極は、芳香族系高分子の焼成体を含んでおり、イオン伝導媒体に含まれるカチオンを吸着、インターカレーション及び電気化学反応のうち1以上により蓄電するものとしてもよい。芳香族系高分子としては、例えば、フェノール樹脂、ポリアセン構造を有する有機化合物、ポリアセチレン及びポリ(p−フェニレンビニレン)などが挙げられ、このうち、フェノール樹脂及びポリアセン構造を有する有機化合物が好ましい。ポリアセン構造を有する有機化合物としては、芳香族環が3以上直線的に連結した構造を有する芳香族化合物が挙げられ、例えば、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びヘプタセンなどが挙げられる。また、芳香族環が直線的に連結した構造を有していれば、直線的でない部分を一部含んでいてもよく、例えば、クリセンやピセン、ナフト[2,3−a]ピレンなどとしてもよい。また、構造内に複素環を含んでいてもよいが、複素環を含んでいないものとすることが好ましい。即ち、窒素や硫黄を含有していないものとしてもよい。このポリアセン構造を有する焼成体としては、例えば、式(1)に示すアントラセン構造を基本骨格としたり、式(2)に示すペンタセン構造を基本骨格としたり、式(3)に示す構造を基本骨格としてもよい。ここで、例えば「アントラセン構造を基本骨格とする」とは、アントラセン、アントラセンに置換基が結合したアントラセン誘導体及びアントラセンに五員環化合物が結合したものなどを含むものをいう。置換基としては、アルキル基やヒドロキシル基、ハロゲンなどが挙げられる。なお、式(1)〜(3)のnは任意の整数である。この芳香族系高分子の焼成体は、燃焼法によって求めた水素原子/炭素原子の原子比H/Cが0.10以上0.50以下であることが好ましく、0.20以上0.40以下であることがより好ましい。この芳香族系高分子の焼成条件としては、有機高分子が炭化する条件であればよく、例えば、不活性雰囲気下において、200℃以上900℃以下で所定時間行うものとしてもよい。不活性雰囲気下としては、例えば、窒素雰囲気下、HeやArなどの希ガス雰囲気下、真空下などが挙げられ、このうち窒素雰囲気下がより好ましい。焼成温度は、芳香族系高分子の種別や蓄電量との兼ね合いで設定することができ、できるだけ低温である方が好ましく、例えば、400℃以上700℃以下がより好ましい。焼成時間は、芳香族系高分子の種別や蓄電量との兼ね合いで設定することができ、できるだけ短時間である方が好ましく、例えば、1時間以上10時間以下がより好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
本発明の蓄電デバイスの負極は、例えば上記芳香族系高分子の焼成体と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、負極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。負極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、芳香族系高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0016】
本発明の蓄電デバイスにおいて、正極は黒鉛を含んでいる。正極に含まれる黒鉛は、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などが好ましい。この黒鉛は、比表面積が20m2/g以下であることが好ましく、10m2/g以下であることがより好ましい。この黒鉛の比表面積は、作製の容易性から1m2/g以上であることが好ましい。なお、比表面積は、窒素吸着のBET法で測定した結果をいう。正極に含まれる黒鉛は、イオン伝導媒体に含まれるアニオンをインターカレーションして蓄電するものとしてもよい。また、黒鉛は、層間距離が0.325nm以上0.345nm以下であるものが好ましく、0.335nm以上0.340nm以下であることがより好ましい。層間距離が0.325nm以上0.345nm以下であれば、イオン伝導媒体に含まれるイオンをインターカレーションしやすい。また、本発明の蓄電デバイスにおいて、この正極は、X線回折測定での菱面体(101)ピークが六方晶(100)ピークより小さい黒鉛を含むことが好ましい。こうすれば、イオンの移動をより円滑とすることが可能であり、充放電容量をより高めることができる。この黒鉛は、水素中で熱処理することが好ましい。熱処理は、例えば500℃以上800℃以下において、数分〜5時間程度行うことが好ましい。正極は、例えば、黒鉛と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができる。正極の集電体には、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、芳香族系高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、負極と同様のものを用いることができる。
【0017】
本発明の蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体としては、特に限定されるものではないが、支持塩を含む極性有機溶媒やイオン性液体などの非水系電解液を用いることができる。支持塩としては、例えば、(C254NBF4(TEA−BF4とも称する)、(C253(CH3)NBF4(TEMA−BF4とも称する)、(C494NBF4、(C254NPF6、(C253(CH3)NPF6、(C494NPF6などや、LiPF6,LiClO4,LiBF4,Li(CF3SO22Nなどの公知の支持塩を用いることができる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.8Mであることがより好ましい。極性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、イオン性液体としては、特に限定されないが、カチオンとして四級アンモニウムを含むものとしてもよい。イオン性液体に含まれるカチオンとしては、ジエチル−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウム(DEMEとも称する)、トリメチル−プロピルアンモニウムなど、炭素鎖を有する官能基を4つ備えこのうち炭素数2以上の炭素鎖を有する官能基を少なくとも1以上備える四級アンモニウムカチオンや、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム(PP13とも称する)などのピペリジニウム構造を有するカチオン、ブチルピリジニウムなどのピリジニウム構造を有するカチオン、メチル−プロピルピロリジウムやブチル−メチルピロリジウムなどのピロリジウム構造を有するカチオンなどが挙げられる。イオン性液体に含まれるアニオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSIとも称する)などのイミド構造を有するアニオン、テトラフルオロボレート(BF4とも称する)などのホウ素を有するアニオン、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメタンスルホニルアニオンなどの硫黄を有するアニオンなどが挙げられる。これらのうち、イオン性液体としてのより好適な組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、ジエチル−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ジエチル−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウム−テトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチル−プロピルアンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メチル−プロピルピロリジウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ブチル−メチルピロリジウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ブチルピリジニウム−テトラフルオロボレート、ブチルピリジニウム−トリフルオロメタンスルホニル、1−エチルピリジニウムヘキサフルオロボレート、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。また、これらのイオン性液体を有機溶媒に溶解混合して用いることもできる。
【0018】
本発明の蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0019】
本発明の蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0020】
以上詳述した本実施形態の蓄電デバイスは、例えば、X線回折測定での菱面体(101)ピークが六方晶(100)ピークより小さい黒鉛を含む正極と、フェノール樹脂、アントラセン、テトラセン及びペンタセンなど芳香族系高分子を焼成して得られたポリアセン構造を有する焼成体を含む負極と、正極と負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた、キャパシタとして構成されている。このため、例えば、正極に菱面体の少ない黒鉛を用いることにより、静電容量を利用して蓄電量をより向上させることができる。また、芳香族系高分子の焼成体は、活性炭などに比して蓄電電荷密度が高く、これを負極に用いることにより、エネルギー密度をより高めることができる。
【0021】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0022】
以下には、本発明の蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。
【0023】
[黒鉛電極の作製]
黒鉛粉体A,Bを700℃、水素気流中で熱処理したあと、この黒鉛粉体と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのPTFE粉末を85:5:10の重量割合で混合し、乳鉢で混練し、成形装置を用いてシート化したあと、パンチで打ち抜き、それぞれ直径14mmの円板シート型の黒鉛電極A,Bとした。
【0024】
[芳香族系高分子の焼成体1を有する電極1の作製]
フェノール樹脂分散水溶液を、100℃で1時間加熱処理し、硬化させたあと、シリコニット電気炉を用いて、窒素雰囲気中、670℃、5時間、加熱焼成した。得られた焼成体1を粉砕機で粉砕し、電極粉を得た。電極粉、アセチレンブラック、PTFE粉末を90:5:5の重量割合で混合、乳鉢で混練、成形装置を用いてシート化したあと、パンチで打ち抜き、直径14mmの焼成電極1とした。
【0025】
[芳香族系高分子の焼成体2を有する電極2の作製]
シリコニット電気炉を用いて、ペンタセンを、窒素雰囲気中、450℃、3時間、加熱焼成した。得られた焼成体2を、粉砕機で粉砕し、電極粉を得た。電極粉、アセチレンブラック、PTFE粉末を90:5:5の重量割合で混合、乳鉢で混練し、成形装置を用いてシート化したあと、パンチで打ち抜き、直径14mmの焼成電極2とした。
【0026】
[芳香族系高分子の焼成体3を有する電極3の作製]
シリコニット電気炉を用いて、アントラセンを、窒素雰囲気中、450℃、3時間、加熱焼成した。得られた焼成体3を、粉砕機で粉砕し、電極粉を得た。電極粉、アセチレンブラック、PTFE粉末を90:5:5の重量割合で混合、乳鉢で混練し、成形装置を用いてシート化したあと、パンチで打ち抜き、直径14mmの焼成電極3とした。
【0027】
[XRD測定]
上記水素処理後の黒鉛A,黒鉛B及び焼成体1のX線回折測定を行った。図1は、黒鉛のX線回折測定結果であり、図2は、芳香族系高分子由来の焼成体1のX線回折測定結果である。図1に示すように、黒鉛A,B共に、主ピークは同じ位置に観察され、層間距離は約0.33nmとほぼ同じであることがわかった。しかし、2θ=40〜50°付近に観察されるピークは、両者に大きな違いが観察された。黒鉛Bでは、菱面体の(101)面に由来するピークが得られ、六方晶のみならず、菱面体構造が混在していることがわかった。一方、黒鉛Aでは、菱面体に由来するピークは観察されなかった。即ち、黒鉛Bは、2θ=43°近傍に現れる菱面体(101)のピークが、2θ=42°近傍に現れる六方晶(100)ピークより大きく、黒鉛Aは、2θ=43°近傍に現れる菱面体(101)のピークが、2θ=42°近傍に現れる六方晶(100)ピークより小さいプロファイルが得られた。また、焼成体1は、図2に示すようなピークが得られた。詳細は明らかではないが、焼成体1は、直鎖状に芳香環が配列したポリアセン構造、例えば上記式(3)の構造を有する炭化物であると推察された。
【0028】
[H/C原子比]
炭素原子に対する水素原子の原子比を検討した。全自動元素分析装置(エレメンタール社製、VarioEL)による燃焼法によってCHNの元素分析を行った。その結果、焼成体1の水素原子/炭素原子の原子比H/Cは、0.32であった。
【0029】
[活性炭電極の作製]
活性炭粉体(クレハケミカルRP20)を700℃、水素気流中で熱処理したあと、この活性炭粒子、アセチレンブラック、PTFE粉末を90:5:5の重量割合で混合し、乳鉢で混練し、成形装置を用いてシート化したあと、パンチで打ち抜き、直径14mmの円板シート電極とした。
【0030】
[蓄電デバイスの作製]
蓄電デバイスは、次のように作製した。図3は、3電極セルとして構成された蓄電デバイス10の構成を表す説明図である。まず、集電部材32が接続された導電体であるアルミニウム製の円筒基体12の上面中央に設けられたキャビティ14に、負極16と、セパレータ18と、正極20とを各極が非接触状態となるようにこの順に積層する。次に、キャビティ14の内周に密接する絶縁リング22を配置し、更にこの絶縁リング22の内周に押圧バネ34が設けられた円柱状の導電部材である押圧部材33を挿入した。次に、所定の電解液36をキャビティ14に注入し、円筒基体12の上面にパッキン28及び絶縁体である絶縁リング29を配置した。この円筒基体12の上方に、集電部材37が接続され参照極42が挿入された導電体である蓋26を配置した。このとき、参照極42の先端を電解液36に接触させた。そして、円筒基体12と蓋26とを上下から加圧した状態で固定し、蓄電デバイス10とした。この蓄電デバイス10では、集電部材32と円筒基体12と負極16とが一体化されて負極側となり、集電部材37と蓋26と押圧部材33と正極20とが一体化されて正極側となり、参照極42が参照極側となる。なお、蓄電デバイス10は、負極16と正極20と参照極42とが絶縁リング22及び絶縁リング29により絶縁されている。正極、負極、及び電解液を以下に説明する組み合わせとして蓄電デバイスを作製した。ここでは、集電体にはSUSシート又はアルミニウムシートを、セパレータにはポリエチレンメンブランを、参照極にはAg+/Agを用いた。検討に用いたセルの仕様を表1に示す。この表1には、後述する放電容量も記載した。
【0031】
【表1】

【0032】
(実験例1〜5)
正極を黒鉛A電極とし、負極を焼成体1電極とし、電解液を1M−TEMA−PF6/PCの電解液としたものを実験例1(A1)の蓄電デバイスとした。また、電解液を1M−TEA−BF4/PCとした以外は実験例1と同様の構成として得られたものを実験例2(A2)の蓄電デバイスとした。また、電解液を1M−LiPF6/PCとした以外は実験例1と同様の構成として得られたものを実験例3(A3)の蓄電デバイスとした。また、正極を黒鉛A電極とし、負極を焼成体2電極とし、電解液を1M−TEMA−PF6/PCの電解液としたものを実験例4(A4)の蓄電デバイスとした。また、正極を黒鉛A電極とし、負極を焼成体3電極とし、電解液を1M−TEMA−PF6/PCの電解液としたものを実験例5(A5)の蓄電デバイスとした。
【0033】
(実験例6〜8)
正極を黒鉛B電極とし、負極を焼成体1電極とし、電解液を1M−TEMA−PF6/PCの電解液としたものを実験例6(B1)の蓄電デバイスとした。また、電解液を1M−TEA−BF4/PCとした以外は実験例6と同様の構成として得られたものを実験例7(B2)の蓄電デバイスとした。また、電解液を1M−LiPF6/PCとした以外は実験例6と同様の構成として得られたものを実験例8(B3)の蓄電デバイスとした。
【0034】
(実験例9,10)
正極を黒鉛A電極とし、負極を活性炭電極とし、電解液を1M−TEMA−PF6/PCの電解液としたものを実験例9(C1)の蓄電デバイスとした。また、正極を黒鉛B電極とし、負極を活性炭電極とし、電解液を1M−TEMA−PF6/PCの電解液としたものを実験例10(C2)の蓄電デバイスとした。
【0035】
[充放電試験]
作製した蓄電セルを、充放電装置に接続し、充放電試験を行った。その際に、参照極と正極及び負極の電位差を同時に測定し、各極の挙動をモニターした。充電電圧は、3.0V〜4.0Vの範囲で任意に設定し、1mAで定電流充電を行ったあと、1mAで0Vまで、放電を行った。
【0036】
(結果と考察)
図4は、実験例1〜3の充放電曲線であり、図5は、実験例1,6の充放電曲線であり、図6は、実験例9,10の充放電曲線である。図4,6に示すように、充電電圧が同じ3.5Vであるにも係わらず、放電容量が、実験例1(セルA1)では23mAh/g、実験例2(セルA2)では22mAh/gであり、実験例9(セルC1)の14mAh/gや実験例10(セルC2)の12mAh/gよりも大きな容量を示した。なお、容量の算出には、両極重量を用いた。この結果から、焼成体を負極に用いると、従来構成の蓄電セルよりも大きな容量の蓄電デバイスが得られることがわかった。また、同様の実験を焼成体2、3についても行ったが、焼成体1と同様、活性炭使用時より高い放電容量が得られた。これらのことからポリアセン骨格をもった芳香族系高分子の焼成体を電極に用いると蓄電容量が向上することがわかった。
【0037】
また、Li塩を溶解させた電解液系における蓄電デバイスの挙動を評価した(実験例3,8)。図4に示すように、電解液の塩にアンモニウム塩を用いた時と同様に、充放電が可能であり、蓄電デバイスとして動作することがわかった。このことから、電解液中のカチオンとしてLiイオンを用いても蓄電デバイスとして動作することがわかった。
【0038】
また、黒鉛種を変えて蓄電特性を評価し、正極の黒鉛が充放電特性に与える影響を検討した(実験例1〜3,6〜8)。図5に示すように、実験例1(セルA1)では、3.8Vまで充電しても、放電特性は滑らかで、特に充放電切り替え時のIR損は小さかった。一方、実験例6(セルB1)では、充電電圧を大きくするに従い、充放電切換え時のIR損は大きくなり、放電容量も低下した。両セルは、電解液、負極材が共に同じであることから、この特性の違いは、黒鉛材料に起因すると考えられた。このように、黒鉛材料の菱面体の存在が、充放電特性に影響を与えることがわかった。ここで、本発明で扱う黒鉛電極は、黒鉛へのイオンの高密度吸着及びイオンの挿入により蓄電現象を発現していることから、菱面体の混在は、イオンの挿入脱離のし易さに影響を与えていると推察された。即ち、菱面体が混在していない方が、蓄電デバイス特性としてよいことがわかった。
【符号の説明】
【0039】
10 蓄電デバイス、12 円筒基体、14 キャビティ、16 負極、18 セパレータ、20 正極、22 絶縁リング、26 蓋、28 パッキン、29 絶縁リング、32,37 集電部材、33 押圧部材、34 押圧バネ、36 電解液、42 参照極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛を含む正極と、
芳香族系高分子の焼成体を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項2】
前記負極は、ポリアセン構造を有する前記焼成体を含む、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極は、フェノール樹脂、アントラセン、テトラセン及びペンタセンを焼成して得られた焼成体を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記正極は、X線回折測定での菱面体(101)ピークが六方晶(100)ピークより小さい黒鉛を含む、請求項1〜3いずれか1項に記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−190929(P2012−190929A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51989(P2011−51989)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】