説明

触媒装置

【課題】触媒担体にマットを巻いて筒状の容器に収容してなる触媒装置の製造工程に支障を来すことなく、簡単な構成によって、容器内にマット及び触媒担体を固定できるようにする。
【解決手段】触媒装置1は、内燃機関の排気ガスを浄化する触媒を内部に担持したセラミックス製の触媒担体10と、触媒担体10を収容する外筒13と、外筒13と触媒担体10との間に介設される保持マット12と、を備え、外筒13の内表面の少なくとも一部に、内燃機関の排気ガス中においてステンレス材よりも酸化しやすい材料が配されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガスを浄化する触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハニカム構造を有する排気ガス浄化触媒の触媒担体を外筒に収容した触媒コンバータが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された構成では、触媒担体に緩衝材としてのセラミックスマットを巻き回して、これを筒状の容器に収めている。特許文献1に記載されたように、筒状の容器に触媒担体を収める方法としては、マットを巻いた触媒担体を、容器の一端から圧入する方法が考えられる。この方法によれば、圧入されたマットの反発力により、触媒担体とマットは容器内の定位置に固定される。
【特許文献1】特開平2−43955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、触媒装置を収容する筒状の容器としては、耐酸化性及び耐食性の観点から、ステンレス材(例えば、JIS SUS430等)を用いることが考えられる。ステンレス製の容器の内面においては面粗度が低く、この容器に触媒担体をマットとともに圧入する際には、摩擦による抵抗が小さくスムーズに圧入できる。その反面、ステンレスは耐酸化性及び耐食性が高いため、排気ガス浄化触媒として使用を開始してからも、その内面が滑らかな状態を保つので、容器の内面とマットとの摩擦係数は小さいままとなる。このため、容器内面とマットとの摩擦だけで、排気ガスの流れに抗してマット及び触媒担体を固定することが難しく、別途、固定手段を設ける等の配慮が必要である。
そこで、容器内面の面粗度を粗くして、容器内面とマットとの摩擦係数を大きくすることにより、摩擦によってマット及び触媒担体を固定する手法が考えられる。しかしながら、この手法を用いた場合、容器内面とマットとの摩擦による抵抗が大きくなるため、触媒担体をマットとともに圧入することが難しくなってしまう。
【0004】
そこで本発明は、触媒担体にマットを巻いて筒状の容器に収容してなる触媒装置の製造において、簡単な構成によって、容器内にマット及び触媒担体を固定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、内燃機関の排気ガスを浄化する触媒を内部に担持したセラミックス製の触媒担体と、前記触媒担体を収容する外筒と、前記外筒と前記触媒担体との間に介設されるマットと、を備え、前記外筒の内表面の少なくとも一部に、前記内燃機関の排気ガス中においてステンレス材よりも酸化しやすい所定材料が配されたこと、を特徴とする。
この構成によれば、マットと触媒担体とを収容する外筒の内面に、ステンレス材料よりも酸化しやすい所定材料が配されているので、この触媒装置の使用に伴って所定材料が酸化し、所定材料の表面における面粗度が粗くなる。このため、所定材料の表面の摩擦係数が高まるので、この所定材料とマットとの摩擦によって、マット及び触媒担体を定位置に固定することができる。また、上記所定材料は、使用開始前の酸化が進行していない状態では面粗度が高くないため、外筒にマットとともに触媒担体を圧入する工程では、スムーズに圧入を行うことができる。そして、上記触媒装置の使用開始後、外筒に配された所定材料は、排気ガスに晒されることで、排気ガス中の酸化性気体及び/又は排気ガスの高温の影響により速やかに酸化されて、面粗度が粗くなる。従って、使用開始後すみやかにマット及び触媒担体を固定できるようになる。このように、本発明の構成によれば、簡単な構成によってマットと触媒担体とを固定できる。
【0006】
ここで、ステンレス材料よりも酸化しやすい所定材料とは、例えば、ステンレス材の不動態皮膜が酸化・劣化しない条件において、酸化反応が進行する材料である。すなわち、ステンレス材の不動態皮膜が酸化・劣化する温度よりも低温で酸化する材料や、ステンレス材の不動態皮膜が安定した状態を保ち得る酸化性気体の雰囲気下において酸化が進行するような材料であり、具体的には鉄材等である。また、ここでいうステンレス材料とは、SUS430等である。
また、上記所定材料は外筒の内表面の少なくとも一部に露出しており、上記所定材料で外筒の全部を構成してもよいし、外筒の内表面に露出するように一部のみを上記所定材料で構成してもよい。
【0007】
上記構成において、前記所定材料は、前記内燃機関の排気ガス中においてステンレス材が酸化する温度よりも低温で酸化が進行する材料であってもよい。
この場合、排気ガス中において、より低温で酸化が進行する材料を上記の所定材料とすることにより、排気ガスに晒された場合に速やかに酸化されて面粗度が粗くなるので、排気ガスが高温になりにくい環境においても、排気ガスに晒されるようになってから速やかにマット及び触媒担体を固定できるようになる。
また、上記構成において、前記所定材料はSP(一般炭素鋼)材で構成されてもよい。
この場合、安価かつ加工性に優れた材料である炭素鋼を用いて、触媒担体及びマットを簡単に固定できる構成を、容易に実現できる。
【0008】
また、上記構成において、前記所定材料には、前記マットを構成する材料と同一の組成又は当該材料と共通する元素を含む組成の添加材料が添加されており、前記所定材料は前記外筒の内表面において前記マットに接する位置に配された構成としてもよい。
この場合、外筒の内面に配された所定材料に、マットを構成する材料と同一の組成又は当該材料と共通する元素を含む組成の添加材料が添加されており、この所定材料がマットに接している。このため、互いに接する外筒の内面とマットとの間の親和性が非常に高いので、マットと外筒の内面とを良好に付着させることができ、マット及び触媒担体を固定できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒装置の使用に伴って、外筒の内面に配された所定材料が酸化し、その表面における面粗度が粗くなるので、所定材料とマットとの摩擦によって、マット及び触媒担体を定位置に固定することができる。また、上記所定材料は、使用開始前の酸化が進行していない状態では面粗度が高くないので、外筒にマットとともに触媒担体を圧入する工程では、スムーズに圧入を行うことができる。従って、簡単な構成によってマットと触媒担体とを確実に定位置に固定できる。
また、排気ガスが高温になりにくい環境においても、排気ガスに晒されるようになってから速やかにマット及び触媒担体を固定できるようになる。
さらに、安価かつ加工性に優れる炭素鋼を用いて、触媒担体及びマットを簡単な構成で固定できる構成を、容易に実現できる。
さらにまた、外筒の内面に配された所定材料に、マットを構成する材料と同一の組成又は当該材料と共通する元素を含む組成の添加材料が添加されているので、互いに接する外筒の内面とマットとの間の親和性が非常に高く、マットを外筒の内面に良好に付着させ、マット及び触媒担体を強固に定位置に固定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る触媒装置1を備えた排気マフラ100を模式的に示す図である。排気マフラ100は、自動二輪車に設けられ、自動二輪車のエンジン(不図示)から延びる排気管110の後端に接続され、排気管110を通った高温・高圧の排気ガスを減圧して外部に排出するサイレンサとして機能する。
【0011】
排気マフラ100は、エンジンから延びる単一の排気管110が接続される筒状本体120を有し、筒状本体120内に、セラミックス製の触媒担体10を備える触媒装置1が支持されている。触媒装置1は、触媒を担持する触媒担体10と、触媒担体10を収容する外筒13と、触媒担体10と外筒13との間に狭持される緩衝機能を有する保持マット12とを備えている。触媒装置1は、保持マット12が巻き付けられた触媒担体10を、外筒13に収容して構成されている。
筒状本体120は、複数(本例では2枚)の隔壁131、132を介して内部空間が複数(本例では3つ)の膨張室A、B、Cに仕切られており、筒状本体120の前端部121を排気管110の端部110Aが貫通して膨張室B内に固定され、排気管110の端部110Aに最も近接する第1隔壁131に、触媒装置1が貫通して固定されている。
【0012】
触媒装置1は、触媒担体10に形成された多数の細孔5を介して排気管110の端部110A側と膨張室Aとを連通させ、端部110Aから排出された排気ガスは、触媒担体10を通過する際に浄化される。ここで、触媒装置1の外径は、排気管110の外径よりも大径に形成され、触媒装置1の外形状を形成する外筒13の内面と端部110Aの外面との間に、端部110Aを、触媒担体10と略同軸上に位置決めするための略環状の位置決め部材105が介挿されている。
また、第1隔壁131には、触媒装置1からずれた位置に、第1連通管135と第2連通管136とが貫通して固定され、第1連通管135は、膨張室Aと膨張室Bとを連通し、第2連通管136は、膨張室Aを横断して第2隔壁132を貫通し、膨張室Bと膨張室Cとを連通させる。筒状本体120の後端部122には、テールパイプを構成する管部材138が貫通して固定され、管部材138が膨張室Cと排気マフラ100外の空間とを連通する。
【0013】
排気マフラ100では、排気管110の端部110Aから排出された排気ガスが、図1に矢印で示すように、触媒装置1を通過して排気マフラ100内の膨張室Aに流入し、流れ方向を反転して第1連通管135を通って膨張室Bに流入し、再び流れ方向を反転して第2連通管136を通って膨張室Cに流入し、テールパイプを構成する管部材138を通って外部へと排出される。
筒状本体120の断面積は、筒状本体120に挿入される排気管110よりも大きく形成されるため、排気ガスが各膨張室A〜Cに流入する際に減圧される。また、触媒装置1を排気マフラ100の筒状本体120内に配置したため、触媒装置1のレイアウトスペースが容易に確保される。また、触媒装置1を排気管110の端部110Aと略同軸上に配置したため、排気管110の端部110Aから排出された排気ガスをその流れ方向を変えることなく触媒装置1に流入させることができる。
【0014】
図2は、触媒装置1の構成を示した分解斜視図である。
触媒担体10は、円筒形状に形成され、その円筒形状の外郭の内部に、軸線方向に沿って延びる多数の細孔5を有するハニカム状の多孔構造体であり、内部の表面積が大きく構成されている。ここで、触媒担体10の断面形状は任意であり、断面形状は円形に限らず、例えば、楕円形や多角形等であっても良い。多孔質のセラミックスからなる各細孔5の壁には、排気ガス成分を分解する白金、ロジウム及びパラジウムが触媒として担持されている。
触媒担体10の基材としては多孔質のセラミックスが用いられているため、白金やロジウム等の触媒が担持され易い。ここで、セラミックスの材質の好ましい一例としては、コージェライト、ムライト、アルミナ、アルカリ土類金属のアルミネート、炭化ケイ素、窒化ケイ素等、或いはこれらの類似物を含む各種耐熱性セラミックスを用いることが可能である。
【0015】
保持マット12は、セラミックス製の繊維を圧縮又は集積して長尺のマット状に形成したものであり、触媒担体10の外表面11に巻き付けられる。そして、保持マット12の一端には凸形状の合わせ部が形成され、他端には凹形状の合わせ部が形成されているため、保持マット12を触媒担体10に巻き付ける際には、2つの合わせ部が噛み合わさることで確実に係合される。また、保持マット12は、繊維が絡み合った集合体であるため、比較的大きな弾性を有している。ここで、保持マット12の材質は、耐熱性及び弾性を有するものであれば良く、繊維状の金属を集積したものやグラスウール等を用いることもできる。さらに、保持マット12は、繊維が絡み合った集合体であって、その表面及び内部に微細な隙間が無数に形成されているので、保持マット12の表面は、細かい凹凸が無数に形成された状態にあり、面粗度が粗く、摩擦係数を比較的高くしている。
【0016】
外筒13を構成する材料としては強度及び耐熱性の高い金属が用いられ、特に、比較的酸化しやすい金属材料、例えば一般炭素鋼(いわゆるSP材)が用いられる。この外筒13の材料は、特に、SUS430等のステンレス材料よりも酸化しやすい材料であることが好ましく、より具体的には、ステンレス材の不動態皮膜が酸化・劣化しない条件において、酸化反応が進行する材料が好ましい。すなわち、ステンレス材の不動態皮膜が酸化・劣化する温度よりも低温で酸化する材料や、ステンレス材の不動態皮膜が耐え得る酸化性気体の雰囲気下において酸化が進行する材料が好ましい。
【0017】
図3は、触媒装置1の断面図である。
図3に示すように触媒装置1は、保持マット12を介して外表面11が外筒13に保持された構成となっている。この触媒装置1を製造する過程においては、触媒担体10及び保持マット12を外筒13に収める工程で、触媒担体10に保持マット12を巻き付けた上で、これが予め筒形状に整形された外筒13に圧入される。従って、外筒13に収められた保持マット12は圧縮された状態となっており、保持マット12を構成する繊維の反発力によって、触媒担体10と保持マット12との間、及び、保持マット12と外筒13との間には押圧力が作用している。
触媒担体10は多孔質のセラミックス材料で構成されるため、その外表面11の面粗度は高く、保持マット12の表面も粗面である。従って、触媒担体10と保持マット12とは摩擦力により相互に移動しないよう保持される。また、保持マット12と外筒13も摩擦により保持されている。
【0018】
上述したように、外筒13は、その表面が比較的酸化しやすい材料で構成されている。このため、外筒13の内側の表面は酸化され易く、保持マット12と接しておらず露出した部分は特に酸化されやすい状態にある。また、保持マット12は繊維の集合体であって、完全に近い気密性を有するものではないので、外筒13の内面のうち保持マット12に接する部分も、同様に酸化され易い。
このため、触媒装置1を排気マフラ100に収め、自動二輪車又は自動車に取り付けた場合、使用開始により触媒装置1の内部を排気ガスが流通すると、外筒13の内面は排気ガスに含まれる酸化性の気体や排気ガスの熱の影響によって、酸化される。
【0019】
そして、外筒13の内面においては、触媒装置1の使用開始後すみやかに酸化物層13A、13Bが形成される。
酸化物層13Aは、図3中に符号Dで示す排気ガスの流れに対して上流側に位置し、外筒13の内面が未浄化の排気ガスに晒される箇所にある。未浄化の排気ガスは、NOx(窒素酸化物)や酸素等の酸化性気体を含んでおり、これらの酸化性気体によって外筒13の内表面が酸化され、酸化物層13Aが形成される。
また、符号Dで示す排気ガスの流れに対して触媒担体10の下流側は、触媒担体10を通って浄化された排気ガスに晒される箇所であるが、浄化済みの排気ガスにも酸素等の酸化性気体が含まれているため、これらの酸化性気体によって、外筒13の内表面が酸化され、酸化物層13Bが形成される。
【0020】
さらに、触媒装置1の内部は、排気ガスが持つ熱により相当の高温に達するので、外筒13の内面の酸化反応が促進される。触媒装置1の内部の温度は、内燃機関の排気量や形式、燃料の種類、排気経路における触媒装置1の位置によっても異なるが、上述した外筒13の材料の酸化を速やかに進行させる程度の温度には十分に達する。
このため、外筒13の内面において、特に露出している部分は、触媒装置1の使用開始後に速やかに酸化されて、酸化物層13A、13Bが形成される。
また、外筒13の内面においては、酸化物層13A、13Bだけでなく、保持マット12により覆われた箇所においても酸化が進行するので、酸化物層13A、13Bは、保持マット12と接する箇所にも広がって形成される。
【0021】
外筒13の内面における酸化は均一な条件で進行するものではなく、触媒装置1内部における温度ムラの影響を受ける上、排気ガスに含まれる酸化性気体の種類、濃度や組成比も一定ではない。このため、外筒13の内面ではムラのある酸化反応が進行し、酸化物層13A、13Bは面粗度が粗い表面となっている。
従って、保持マット12と酸化物層13A、13Bとの間の摩擦係数は極めて高くなっており、保持マット12と外筒13との位置をずらすことは容易ではない。言い換えれば、保持マット12は外筒13に対し、摩擦によって強く保持・固定されている。
【0022】
ここで、保持マット12の端部と外筒13とが接する部分に形成された酸化物層13A、13Bにより、強い摩擦が生じることで、保持マット12は触媒担体10とともに保持及び固定されるが、保持マット12に接しない部分のみに酸化物層13A、13Bが形成された場合であっても、保持マット12を保持及び固定できる。
例えば、酸化物層13Bが、保持マット12に接していない部分にのみ形成されている場合に、保持マット12が符号Dで示す排気ガスの圧力によりずれようとした場合、保持マット12の端部はすぐに酸化物層13Bに接し、強い摩擦が生じる。このため、保持マット12は、実質的に殆どずれていない位置において摩擦力によって保持されてしまう。
従って、外筒13の内表面の少なくとも一部が酸化され、面粗度の粗い酸化物層が形成されることで、保持マット12は、触媒担体10とともに、外筒13に保持及び固定される。
【0023】
上述したように、保持マット12は外筒13に圧入され、外筒13に対する反発力が作用している。このため、外筒13が酸化して酸化物層13A、13Bとなることで摩擦係数が高まるのに加え、保持マット12と外筒13との間に力が作用することで、保持マット12と酸化物層13A、13Bとの間の摩擦力はますます大きくなる。従って、保持マット12は、外筒13に対して強く保持され、確実に固定される。
【0024】
また、外筒13を構成する上記材料は、物理的に面を粗くする加工が施されていなければ、触媒装置1として使用が開始される前は、比較的平滑な面である。このため、触媒装置1を製造する過程では外筒13の面粗度は低く、摩擦係数が低いので、この外筒13に保持マット12及び触媒担体10を圧入する工程では、支障なくスムーズに圧入できる。
【0025】
そして、外筒13に保持マット12及び触媒担体10が収められて触媒装置1となり、その使用が開始されると、外筒13の内面が速やかに酸化されて、面粗度の高い酸化物層13A、13Bが形成されることで、保持マット12が触媒担体10とともに外筒13に保持及び固定されるようになる。このため、触媒装置1においては、特別の操作をしなくても、保持マット12を外筒13に固定することができ、保持マット12と外筒13とのずれを防止できる。
外筒13の材料としては上述した条件を満たす種々のものが挙げられるが、強度、加工性、酸化しやすさ、触媒装置1の使用開始前における表面の平滑性、重量等を勘案すると、ステンレスよりも酸化されやすい材料の中で、例えば、一般炭素鋼(SP材)等の鉄材や、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。これらの材料は、酸化被膜等の不動態が表面に形成されていないことが望ましい。このような材料を用いれば、より低温でも酸化が速やかに進行して、酸化物層13A、13Bが形成されるという利点があるので、低排気量の内燃機関の排気管に触媒装置1を配設した場合や、排気温度がそれほど高くならない場合であっても、保持マット12を外筒13に固定できる。
なお、外筒13は、全てが上述したような酸化されやすい材料で構成されている必要はなく、例えば、図3に示す酸化物層13A、13Bの部分のみ、或いは、保持マット12の端部に接する部分や、この保持マット12の端部の近傍のみを、上記材料で構成してもよい。この場合も、保持マット12に接する部分又は保持マット12の端部の近傍に、酸化物層が形成されるので、保持マット12を外筒13に保持及び固定できる。
【0026】
ところで、自動二輪車においては、触媒装置を、パンチングメタルや、金属板を折り曲げてハニカム型に加工したメタルハニカム等のメタル担体を用いて構成することがある。このメタル担体は、セラミック担体の場合とは異なり、マットを介さずに、例えば外筒の内部に立設されたブラケット等を介して外筒に取り付けられる。また、メタル担体を収めた外筒は、本実施形態の触媒装置と同様にマフラの中に配置されるのが一般的である。この場合、メタル担体の中心と外筒部との間の温度差は小さく、具体的な温度差は、例えば、100℃〜150℃位であり、例えば担体の中心が900℃である場合には、外筒の温度は750℃〜800℃である。従って、外筒の材料としては、耐酸化性および高温強度の高い材料としてステンレス材が用いられることがある。
【0027】
これに対し、本実施形態においては、触媒装置1をセラミックス製の触媒担体10を用いて構成したので、外筒13と触媒担体10との間には保持マット12が介在することになる。この保持マット12は断熱材となるので、外筒13と触媒担体10との間の温度差は、例えば、250℃〜500℃と大きく、触媒担体10の中心の温度が1000℃を超えるような場合であっても、外筒13の温度は600℃程度である。従って、セラミックス製の触媒担体10と外筒13との間に保持マット12を介設させることにより、外筒13の熱を調整でき、酸化の進行を適度に抑制できる。このため、外筒13の材料として、アルミナイズド鋼板等のように、ステンレス以外の材料を適用することが可能になる。従って、製造コストを抑えることができるという効果が得られる。
【0028】
また、本実施形態においては、触媒装置1が排気マフラ100の筒状本体120の内部に配置されているので、適度に触媒装置1の外筒13の酸化が進んでも、外観に現れることはない。これによって、自動二輪車等の小型車両に本実施形態で説明した触媒装置1を用いることにより、排気系をコンパクトにして、ステンレス材(上記のSUS430等)より低価格の材料を使いながら、セラミックス製の触媒担体10の支持を強める点で効果的である。
【0029】
以下、触媒装置1の製造方法について説明する。なお、以下の説明における温度や時間等の各種条件は、あくまで具体的な例を示すものであって、本発明の内容を限定するものではない。
まず、円筒形状に形成された触媒担体10の軸線方向の一端の一部を、白金、ロジウム及びパラジウムを含有する溶液に所定の長さ(深さ)だけ浸漬させる。次いで、一端が浸漬した状態の触媒担体10の他端に、溶液を吸上げ可能なポンプに接続されたチューブを接続する。このチューブは、全ての各細孔5から吸引を行えるように触媒担体10の他端に接続される。そして、ポンプにより上記チューブを介して吸引を行うことで、全ての細孔5から溶液が吸い上げられ、各細孔5の表面に溶液が接触し、各細孔5の表面に溶質である触媒が付着する。ここで、触媒担体10は、各細孔5の表面に溶液を付着させる工程において、一端が所定の長さだけ溶液に浸漬されるため、触媒担体10の外表面11の一部には所定の長さに亘って溶液が付着している。
【0030】
その後、触媒担体10を上記溶液から引き上げて100℃にて10分間の熱風乾燥した後、450℃にて1時間焼成し、触媒担体10に触媒を担持させる。
焼成の後、触媒担体10の外表面11に保持マット12を巻き付けて、この触媒担体10を保持マット12とともに外筒13に圧入することで、触媒装置1が形成される。
【0031】
上記の過程において触媒担体10にパラジウム、ロジウム、白金を担持させるための溶液は、これら金属を含む化合物を所定溶媒に溶解させたものである。パラジウムを担持させるために用いる材料としては、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、錯塩(ジクロロテトラアンミンパラジウム等)等が挙げられる。また、白金を担持させる材料としては、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、錯塩(ジニトロジアンミン白金、トリクロロトリアンミン白金等)等が挙げられる。また、触媒担体10にロジウムを担持させる材料としては、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、硫酸塩、錯塩(ペンタアンミンクロロロジウム、ヘキサアンミンロジウム等)等が挙げられる。そして、これらの材料の溶液を調整し、この溶液に上述した触媒担体10を含浸させることにより、触媒担体10にパラジウム、白金、ロジウムを担持させることができる。溶媒としては、水や有機溶媒を用いることが可能であるが、溶解度や廃液処理の容易性、入手容易性等を考慮すると水が好ましい。また、上記溶液に触媒担体10を含浸させた後、触媒担体10を、例えば250度程度に加熱して乾燥させることで、触媒担体10が有する多孔構造にパラジウム、ロジウム、白金が担持され、排気ガス中の窒素酸化物、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)等を分解浄化することができる。なお、要求される排気ガス浄化性能によっては、パラジウム、ロジウム、白金のいずれか1又は2種のみを触媒担体10に担持させて触媒を構成してもよい。また、パラジウム、ロジウム、白金の他に、触媒として機能する金属や金属化合物(例えば、セリウムやイリジウム、ジルコニウム又はこれらの酸化物等)等を触媒担体10に担持させてもよい。
【0032】
また、外筒13に保持マット12及び触媒担体10を圧入した後で、さらに触媒装置1を加熱して、保持マット12と外筒13とを接合することも可能である。つまり、外筒13に保持マット12とともに触媒担体10を収容して触媒装置1を構成した状態で、触媒装置1を加熱してもよい。この場合、保持マット12と外筒13の内面とが密着した状態で加熱されることで、外筒13の内面と保持マット12との親和性がより一層高められ、所定の保持力を発揮する程度に密着、接着あるいは接合される。
そして、外筒13の内面に、保持マット12を構成する材料と同一の組成又は当該材料と共通する元素を含む組成の添加材料が添加されている場合には、保持マット12と外筒13との親和性が高いため、加熱する際の温度がそれほど高くなくても、保持マット12と外筒13を強く密着、接着あるいは接合できる。
【0033】
具体的な例としては、保持マット12が、セラミックスの一種であるアルミナ(酸化アルミニウム)製の繊維を圧縮又は集積して形成されたものである場合に、外筒13に、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金を用い、或いは、外筒13を鉄やステンレスや他の金属で構成した上で外筒13の内面にアルミニウムのメッキを施した構成とすれば、保持マット12と外筒13とが、互いに含まれるアルミニウム同士の親和力により、加熱温度が低くても、加熱時に強く密着、接着あるいは接合される。
【0034】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、内燃機関の排気ガスを浄化する触媒を内部に担持したセラミックス製の触媒担体10と、触媒担体10を収容する外筒13と、外筒13と触媒担体10との間に介設される保持マット12と、を備え、外筒13の内表面の少なくとも一部に、内燃機関の排気ガス中においてステンレス材よりも酸化しやすい材料が配されたので、触媒装置1の使用に伴って外筒13の内面における上記材料が酸化されて酸化物層13A、13Bが形成されて、面粗度が粗くなる。このため、外筒13の少なくとも一部で摩擦係数が高まるので、外筒13と保持マット12との摩擦によって、保持マット12及び触媒担体10を固定できる。
【0035】
また、外筒13の内面は、触媒装置1としての使用開始前は酸化が進行していないので面粗度が高くない。このため、外筒13に保持マット12とともに触媒担体10を圧入する工程では、スムーズに圧入を行うことができる。そして、触媒装置1の使用開始後、外筒13に配された上記材料は排気ガスに晒されることで、排気ガス中の酸化性気体及び/又は排気ガスの高温の影響により速やかに酸化されて酸化物層13A、13Bが形成され、面粗度が粗くなる。従って、使用開始後すみやかに保持マット12及び触媒担体10を固定できるようになる。このように、本実施形態の構成によれば、触媒担体10及び保持マット12を外筒13に収める工程に支障を来すことなく、簡単な構成によって保持マット12と触媒担体10とを外筒13に固定できる。
【0036】
さらに、外筒13の内面の少なくとも一部に配された酸化されやすい材料は、内燃機関の排気ガス中においてステンレス材(SUS430等)が酸化する温度よりも低温で酸化が進行する材料である。このため、排気ガス中において、より低温で酸化が進行する材料を外筒13の内面に配することにより、排気ガスに晒された場合に速やかに酸化されて面粗度が粗くなるので、排気ガスが高温になりにくい環境においても、排気ガスに晒されるようになってから速やかに保持マット12及び触媒担体10を固定できるようになる。また、外筒13の内面に配される材料として一般炭素鋼(SP)材を用いれば、安価かつ加工性に優れた材料である炭素鋼を用いて、触媒担体10及び保持マット12を簡単に固定できる構成を、容易に実現できる。
【0037】
そして、外筒13の内面に配される材料として、保持マット12を構成する材料と同一の組成又は当該材料と共通する元素を含む組成の添加材料が添加された材料を用い、この材料が外筒13の内面において保持マット12に接する位置に配された構成とすれば、保持マット12と外筒13との親和性が高まることで、保持マット12と外筒13とを互いに移動しないように固定できる。また、この場合に触媒装置1を構成した後に加熱することによって、保持マット12と外筒13の内面とを良好に付着させることができ、保持マット12及び触媒担体10を固定できる。
【0038】
ここで、本実施形態の触媒装置1を、図1に示したように排気マフラ100内に固定して自動二輪車に取り付ける場合の、触媒装置1の長さと径の比について説明する。
図4は、外筒13の高温耐力及びクリープ強度と触媒担体10の形状との相関を示す図表である。
図4中、Dは触媒担体10の径であり、Lは触媒担体10の軸方向の長さである。また、グラフは外筒13の高温耐力及びクリープ強度を示す。
この図4に示すように、外筒13のクリープ強度は、触媒担体10の径Dと長さLとの比に応じ変動し、径Dに対して長さLが短いほど高い。そして、外筒13のクリープ強度としては、図中に示すようにL/D=1.5の場合の基準値以上であることが好ましいので、径Dと長さLとがL/D≦1.5を満たすことが好ましいといえる。反対に、1.5<L/Dとなる領域では、外筒13における高温耐力及びクリープ強度が低くなるため、触媒装置1が、このような領域に該当しないようにすることが好ましい。
つまり、本実施形態の触媒装置1を、図1に示したように排気マフラ100内に固定して自動二輪車に取り付ける場合には、触媒担体10の径Dと長さLとが上記の要件を満たし、例えばD=40mmとした場合に、L=60〜120mmであることが好ましい。
【0039】
なお、上記実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されない。
例えば、上記実施の形態では、外筒13の全部又は一部が、一般炭素鋼等の、ステンレス材より酸化されやすい材料により構成されるものとして説明したが、外筒13を複数の層からなる構成として、保持マット12側に露出する層のみが上記材料で構成されてもよい。さらに、上記実施の形態では、白金、ロジウム及びパラジウムを触媒担体10に担持するものとして説明したが、イリジウムやセリウム酸化物等のその他の触媒物質を担持しても良い。外筒13の形状は円筒形に限定されず、中空の管であれば、楕円や多角形の断面形状を有する形状としてもよい。また、保持マット12は触媒担体10の外表面11の全てを覆うものに限らず、外表面11の一部が保持マット12に覆われずに露出していてもよい。その他の細部構成についても任意に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る触媒装置を備えた排気マフラを模式的に示す図である。
【図2】触媒装置の構成を示した分解斜視図である。
【図3】触媒装置の断面図である。
【図4】触媒装置の外筒の高温耐力を示す図表である。
【符号の説明】
【0041】
1 触媒装置
5 細孔
10 触媒担体
11 外表面
12 マット
13 外筒
13A、13B 酸化物層
100 排気マフラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスを浄化する触媒を内部に担持したセラミックス製の触媒担体と、
前記触媒担体を収容する外筒と、
前記外筒と前記触媒担体との間に介設されるマットと、を備え、
前記外筒の内表面の少なくとも一部に、前記内燃機関の排気ガス中においてステンレス材よりも酸化しやすい所定材料が配されたこと、
を特徴とする触媒装置。
【請求項2】
前記所定材料は、前記内燃機関の排気ガス中においてステンレス材が酸化する温度よりも低温で酸化が進行する材料であること、を特徴とする請求項1記載の触媒装置。
【請求項3】
前記所定材料はSP材で構成されたこと、を特徴とする請求項1又は2に記載の触媒装置。
【請求項4】
前記所定材料には、前記マットを構成する材料と同一の組成又は当該材料と共通する元素を含む組成の添加材料が添加されており、
前記所定材料は前記外筒の内表面において前記マットに接する位置に配されたこと、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の触媒装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−243383(P2009−243383A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91849(P2008−91849)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】