説明

走行型苗移植機

【課題】走行機体2の左右両側において当該走行機体を支持する走行輪体5を,前記走行機体に対して上下動する構成にし,前記走行機体に,苗を圃場面に対して植付ける苗植付け機構7を設け,更に,前記植付けた苗に対する灌水用の水タンク8(又は施肥用の肥料タンク)を設ける場合,前記走行機体を圃場面に対して昇降動する際に,前記水タンクによって,重心が高くなること及び昇降動の負荷が増大することを回避する。
【解決手段】前記灌水用水タンク8を,前記走行機体2に対して自在に上下動する構成にして,この灌水用水タンクを,前記走行輪体5に,当該走行輪体における前記走行機体に対する相対的な上下動と同時に前記走行機体に対して相対的に上下動するように連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば玉葱等の苗を,圃場面に対して植付けし,次いで,この植付けた苗に対して灌水又は施肥を行うように構成した走行型の苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,この種の走行型苗移植機は,例えば,先行技術としての特許文献1及び2等に記載されているように,走行機体の左右両側において当該走行機体を支持する左右一対の走行輪体を,前記走行機体に対して相対的に上下動可能に構成し,前記走行機体に,苗を圃場面に対して植付けるようにした苗植付け機構を設け,前記走行機体を走行しながら圃場面に対して前記苗植付け機構にて苗を一株ずつ植付けるという構成であり,前記走行機体を,圃場における畝の高さに応じて,又は苗の植付け深さの変更に応じて,或いは畝越え等に応じて,当該走行機体に対する走行輪体の相対的な上下動により圃場面に対して昇降動するという構成である。
【特許文献1】特開平9−65722号公報
【特許文献2】特開平11−318125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで,前記走行型苗移植機においては,前記走行機体に,水タンク又は肥料タンクを搭載して,植付けた苗に対して灌水又は施肥を行うように構成する場合があるが,従来は,前記灌水用の水タンク又は施肥用の肥料タンクを,前記特許文献1及び2に記載されているように,圃場面に対して昇降動する走行機体にて支持するという構成にしている。
【0004】
この構成によると,走行機体を圃場面に対して昇降動するときに,前記水タンク又は肥料タンクも同時に圃場面に対して昇降動することにより,前記走行機体の全体における重心が,当該走行機体における圃場面に対する上昇動に比例して高くなるから,圃場面からの高さを高くした場合に,不安定な走行を招来するという問題があった。しかも,前記水タンク又は肥料タンクにおける圃場面からの高さが,前記走行機体の圃場面に対する昇降動に応じて変化するから,植付け苗に対する水又は肥料の散布量が,前記走行機体における昇降動にて変化するおそれもあった。
【0005】
また,従来においては,前記水タンク又は肥料タンクの重量の全てを走行機体にて支持するように構成していることにより,前記走行機体の昇降動に,前記水タンク又は肥料タンクの重量が負荷になるから,走行機体における剛性のアップひいては重量のアップ,及び,走行機体を昇降動するための昇降動機構の大型化を招来するという問題もあった。
【0006】
本発明は,これらの問題を解消した走行型の苗移植機を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「走行機体の左右両側において当該走行機体を支持する走行輪体を,前記走行機体に対して相対的に上下動するように構成する一方,前記走行機体に,苗を圃場面に対して植付ける苗植付け機構を設け,更に,前記苗植付け機構にて植付けた苗に対する灌水用の水タンク又は施肥用の肥料タンクを備えて成る苗移植機において,
前記灌水用水タンク又は施肥用肥料タンクを,前記走行機体に対して自在に上下動する構成にして,この灌水用水タンク又は施肥用肥料タンクを,前記走行輪体に,当該走行輪体における前記走行機体に対する相対的な上下動と同時に前記走行機体に対して相対的に上下動するように連結した。」
ことを特徴としている。
【0008】
請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記水タンク又は肥料タンクを,前記走行機体に,リンク体を介して上下動自在に連結した。」
ことを特徴としている。
【0009】
請求項3は,
「前記請求項1の記載において,前記水タンク又は肥料タンクを,前記走行機体に,平行リンク機構を介して上下動自在に連結した。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
前記請求項1に記載した構成によると,走行機体における圃場面からの高さを,走行輪体の走行機体に対する相対的な下降動にて高くすると,水タンク又は肥料タンクは,走行機体に対して相対的に下降動することになり,また,走行機体における圃場面からの高さを,走行輪体の走行機体に対する相対的な上昇動にて低くすると,水タンク又は肥料タンクは,走行機体に対して相対的に上昇動することになり,これにより,前記水タンク又は肥料タンクにおける圃場面からの高さが,前記走行機体における圃場面に対する昇降動に応じて変化することを小さくでき,換言すると,前記走行機体における圃場面に対する昇降動にかかわらず,前記水タンク又は肥料タンクにおける圃場面からの高さを略一定に保持できるから,走行機体の昇降動に伴って,不安定な走行状態になること,及び,植付け苗に対する水又は肥料の散布量が変化することを確実に低減できる。
【0011】
しかも,前記請求項1に記載した構成によると,前記水タンク又は肥料タンクにおける重量の一部又は全部を,圃場面に接地する走行輪体にて支持することができ,これにより,走行機体における圃場面に対する昇降動に,前記水タンク又は肥料タンクにおける重量の全てが負荷になることを低減できるから,走行機体における剛性の軽減,ひいては,軽量化を図ることができるとともに,走行機体を昇降動するための昇降動機構の小型化を図ることができる。
【0012】
次に,請求項2に記載した構成,又は,請求項3に記載した構成によると,前記水タンク又は肥料タンクが走行機体に対する相対的な上下動するときに,走行機体に対して前後方向に移動する距離を,前記リンク体又は平行リンク機構にて小さくするように規制できるから,前記走行機体における前後方向のバランスを略同じに維持できて,操作性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明の実施の形態を,図1及び図2の図面について説明する。
【0014】
図1は,第1の実施の形態による苗移植機を示す。
【0015】
この第1の実施の形態による苗移植機1は,後部に操縦ハンドル3を備えた走行機体2と,この走行機体2をその左右両側において圃場面4に対して支持する走行輪体5とで構成されている。
【0016】
前記左右両側における走行輪体5は,本実施の形態の場合,前記走行機体2の前進走行方向に対して前側に位置する前輪5aと,後ろ側に位置する後輪5bとによって構成されており,これら前後車輪5a,5bは,前記走行機体2に対して,基端を走行機体2に枢着した前後一対のリンク体6a,6bとこの両リンク体6a,6bの相互間を連結するリンク体6cとによって構成した平行リンク機構6を介して,上下動自在に装着され,更に,前記前後車輪5a,5bは,例えば,前記両リンク体6a,6bのうち一方と走行機体2との間に設けた油圧シリンダ等のような昇降動機構(図示せず)にて,前記走行機体2に対して相対的に昇降動するように構成されている。
【0017】
なお,前記走行輪体5は,走行クローラにして,これを前記平行リンク機構6等を介して走行機体2に上下動自在に装着するように構成しても良い。
【0018】
一方,前記走行機体2には,その後部に,前記圃場面4における畝4aとの間を上下方向に往復動することによって前記圃場面4における畝4aに苗の植付けを行うように構成した苗植付機構7が,その前部に,前記両走行輪体5の前後車輪5a,5bにおける一方又は両方と,前記苗植付機構7とを駆動するためのエンジン(図示せず)が各々設けられている。
【0019】
前記走行機体2のうち前記走行輪体5の略真上の部分には,前記圃場面4における畝4aのうち前記苗植付機構7にて植付けた苗に対して灌水を行うための水タンク8(又は,植付けた苗に対して施肥を行うための肥料タンク)が配設されている。
【0020】
この水タンク8(又は肥料タンク)は,その前端に,基端を前記走行機体2に枢着したリンク体9の先端を連結することにより,走行機体2に対して自在に上下動するように構成され,更に,この水タンク8の後端には,前記走行輪体5用平行リンク機構6における両リンク体6a,6bのうち後部リンク体6bの基端から上向きに一体に延びるリンク状レバー6b′の先端を連結することにより,当該水タンク8が,前記走行輪体5における前記走行機体2に対する相対的な上下動と同時に前記走行機体2に対して相対的に上下動するように構成されている。
【0021】
この構成において,走行機体2における圃場面4からの高さを,両走行輪体5の走行機体2に対する相対的な下降動にて,図1に実線で示す状態から二点鎖線で示すように,高くすると,水タンク8は,走行機体2に対して相対的に下降動することになり,また,走行機体2における圃場面4からの高さを,両走行輪体5の走行機体2に対する相対的な上昇動にて,図1に二点鎖線で示す状態から実線で示すように,低くすると,水タンク8は,走行機体2に対して相対的に上昇動することになる。
【0022】
これにより,前記水タンク8における圃場面4からの高さが,前記走行機体2における圃場面4に対する昇降動に応じて変化することを小さくでき,換言すると,前記走行機体2における圃場面4に対する昇降動にかかわらず,前記水タンク8における圃場面4からの高さを略一定に保持できる。
【0023】
また,前記水タンク8が,前記走行機体2における圃場面4に対する昇降動に応じて前後方向に移動する距離Lを,前記リンク体9における回動によって,小さい値に規制することができる。
【0024】
なお,前記した第1の実施の形態においては,前記水タンク8が,前記走行機体2を圃場面4に対して上昇動することに応じて後方に移動して,後車輪5bに近づくという構成であるから,走行機体2を高くした場合に,当該走行機体2を操縦ハンドル3によって所定の前後姿勢に保つことに要する保持力を軽減できる利点がある。
【0025】
次に,図2は,第2の実施の形態による苗移植機を示す。
【0026】
この第2の実施の形態による苗移植機11は,後部に操縦ハンドル13を備えた走行機体12と,この走行機体12をその左右両側において圃場面44に対して支持する走行輪体15とで構成されている。
【0027】
前記左右両側における走行輪体15は,本実施の形態の場合,前記走行機体12の前進走行方向に対して前側に位置する前輪15aと,後ろ側に位置する後輪15bとによって構成されており,これら前後車輪15a,15bは,前記走行機体12に対して,基端を走行機体12に枢着した前後一対のリンク体16a,16bとこの両リンク体16a,16bの相互間を連結するリンク体16cとによって構成した平行リンク機構16を介して,上下動自在に装着され,更に,前記前後車輪15a,15bは,例えば,前記両リンク体16a,16bのうち一方と走行機体12との間に設けた油圧シリンダ等のような昇降動機構(図示せず)にて,前記走行機体12に対して相対的に昇降動するように構成されている。
【0028】
一方,前記走行機体12には,その後部に,前記圃場面14における畝14aとの間を上下方向に往復動することによって前記圃場面14における畝14aに苗の植付けを行うように構成した苗植付機構17が,その前部に,前記両走行輪体15の前後車輪15a,15bにおける一方又は両方と,前記苗植付機構17とを駆動するためのエンジン(図示せず)が各々設けられている。
【0029】
前記走行機体12のうち前記走行輪体15の略真上の部分には,前記圃場面14における畝14aのうち前記苗植付機構17にて植付けた苗に対して灌水を行うための水タンク18(又は,植付けた苗に対して施肥を行うための肥料タンク)が配設されている。
【0030】
この水タンク18は,前記走行機体12に対して,基端を前記走行機体12に枢着した前後一対のリンク体19a,19bとこの両リンク体19a,19bの相互間を連結するリンク体19cとによって構成した平行リンク機構19を介して,上下動自在に装着され,更に,この水タンク18に対する前記平行リンク機構19と,前記走行輪体15用平行リンク機構16とを連結杆20を介して連結することにより,当該水タンク18が,前記走行輪体15における前記走行機体12に対する相対的な上下動と同時に前記走行機体12に対して相対的に上下動するように構成されている。
【0031】
この構成において,走行機体12における圃場面14からの高さを,両走行輪体15の走行機体12に対する相対的な下降動にて,図2に実線で示す状態から二点鎖線で示すように,高くすると,水タンク18は,走行機体12に対して相対的に下降動することになり,また,走行機体12における圃場面14からの高さを,両走行輪体15の走行機体12に対する相対的な上昇動にて,図2に二点鎖線で示す状態から実線で示すように,低くすると,水タンク18は,走行機体12に対して相対的に上昇動することになる。
【0032】
これにより,前記水タンク18における圃場面14からの高さが,前記走行機体12における圃場面14に対する昇降動に応じて変化することを小さくでき,換言すると,前記走行機体12における圃場面14に対する昇降動にかかわらず,前記水タンク18における圃場面14からの高さを略一定に保持できる。
【0033】
また,前記水タンク18が,前記走行機体12における圃場面14に対する昇降動に応じて前後方向に移動する距離L′を,前記平行リンク機構16における回動によって,小さい値に規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明における第1の実施の形態による苗移植機を示す側面図である。
【図2】本発明における第2の実施の形態による苗移植機を示す側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1,11 苗移植機
2,12 走行機体 4,14 圃場面
5,15 走行輪体
6 走行輪体の昇降用平行リンク機構
7,17 苗植付け機構
8,18 水タンク(又は肥料タンク)
9 リンク体
19 水タンク用平行リンク機構
20 連結杆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の左右両側において当該走行機体を支持する走行輪体を,前記走行機体に対して相対的に上下動するように構成する一方,前記走行機体に,苗を圃場面に対して植付ける苗植付け機構を設け,更に,前記苗植付け機構にて植付けた苗に対する灌水用の水タンク又は施肥用の肥料タンクを備えて成る苗移植機において,
前記灌水用水タンク又は施肥用肥料タンクを,前記走行機体に対して自在に上下動する構成にして,この灌水用水タンク又は施肥用肥料タンクを,前記走行輪体に,当該走行輪体における前記走行機体に対する相対的な上下動と同時に前記走行機体に対して相対的に上下動するように連結したことを特徴とする走行型苗移植機。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記水タンク又は肥料タンクを,前記走行機体に,リンク体を介して上下動自在に連結したことを特徴とする走行型苗移植機。
【請求項3】
前記請求項1の記載において,前記水タンク又は肥料タンクを,前記走行機体に,平行リンク機構を介して上下動自在に連結したことを特徴とする走行型苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−307001(P2008−307001A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159000(P2007−159000)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】