超音波モータ
【課題】 被駆動体を安定的に微細(あるいは微小)送りすること。
【解決手段】 電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子3と、前記超音波振動子3の出力端を被駆動体2に押し付ける押圧手段4とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子14と、前記超音波振動子3の長さ方向における略中央部に設けられた第2の摩擦接触子14aとを備える。
【解決手段】 電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子3と、前記超音波振動子3の出力端を被駆動体2に押し付ける押圧手段4とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子14と、前記超音波振動子3の長さ方向における略中央部に設けられた第2の摩擦接触子14aとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁型モータに代わる新しいモータとして超音波モータが注目されている。この超音波モータは、従来の電磁型モータに比べ以下のような利点を有している。
(1)ギヤなしで高トルクが得られる。
(2)電気OFF時に保持力がある。
(3)高分解能である。
(4)静粛性に富んでいる。
(5)磁気的ノイズを発生せず、また、ノイズの影響も受けない。
【0003】
従来の超音波モータとしては、特許文献1に開示された構造のものがある。この特許文献1に開示された超音波モータは、被駆動体と対向する弾性体の面に、少なくとも3つの駆動部を有する構成となっている。
【特許文献1】特開2001−258277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の超音波モータでは、すべての駆動部が同一方向に円運動または楕円運動するようになっており、被駆動体を微細(あるいは微小)送りするには、円運動または楕円運動の振幅を小さくすることが必要である。しかしながら、共振状態を保ちながら弾性体の振動の振幅をコントロールすることは困難であり、その結果、被駆動体を安定して微細送りすることが困難であるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、被駆動体を安定的に微細(あるいは微小)送りすることができる超音波モータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明は、以下の手段を提供する。
この発明は、電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における略中央部に設けられた第2の摩擦接触子とを備える。
この発明によれば、電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧が供給されることにより、第1の摩擦接触子には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、被駆動体が推進されることになる。このとき、第2の摩擦接触子は、第1の摩擦接触子と逆方向(他方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、第1の摩擦接触子により推進される被駆動体に制動力を与えることになる。
【0007】
また、この発明は、電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における両端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える。
この発明によれば、電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧が供給されることにより、第3の摩擦接触子には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、被駆動体が推進されることになる。このとき、第1の摩擦接触子は、第3の摩擦接触子と逆方向(他方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子により推進される被駆動体に制動力を与えることになる。
【0008】
さらに、この発明は、電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における一端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える。
この発明によれば、電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧が供給されることにより、第3の摩擦接触子には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、被駆動体が推進されることになる。このとき、第1の摩擦接触子は、第3の摩擦接触子と逆方向(他方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子により推進される被駆動体に制動力を与えることになる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、電気機械変換素子に備えられた複数の摩擦接触子の略楕円振動の振幅を調節する必要がなく、被駆動体を安定的に微細(あるいは微小)送りすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態に係る超音波モータについて、図1〜図7を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る超音波モータ1は、図1に示すように、被駆動体2に接触配置される超音波振動子3と、この超音波振動子3を被駆動体2に押し付ける押圧手段4とを備えている。
被駆動体2は、ベース5に固定された直動ベアリング6の可動部7に固定されている。また、被駆動体2には、超音波振動子3に接触する面に、例えば、ジルコニアセラミックスからなる摺動板8が接着されている。図中の符号9は、直動ベアリング6の固定部10をベース5に固定するためのネジである。
【0011】
超音波振動子3は、図2〜図4に示すように、矩形板状の圧電セラミックスシート(電気機械変換素子)11の片側面にシート状の内部電極12(図4参照)を設けたものを複数枚積層してなる直方体状の圧電積層体13と、この圧電積層体13の一側面に接着された第1の摩擦接触子(出力端)14および第2の摩擦接触子(出力端)14aと、これら摩擦接触子14,14aが設けられた側面に隣接する側面からピン15を突出させる振動子保持部材16とを備えている。
【0012】
圧電積層体13は、図3に示すように、例えば、長さ18mm、幅4.4mm、厚さ2mmの外形寸法を備えている。
圧電積層体13を構成する圧電セラミックスシート11は、図4に示すように、例えば、厚さ約80μmのチタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックス素子(以下、PZTという。)である。PZTとしては、Qm値の大きなハード系材料を選択した。Qm値は約1800である。
また、内部電極12は、例えば、厚さ約4μmの銀パラジウム合金からなっている。この内部電極12は、積層方向の一端に配置される圧電セラミックスシート11aには設けられていない。一方、それ以外の圧電セラミックスシート11には、図4に示すような2種類の内部電極12のいずれか一つが設けられている。
【0013】
図4(a)に示す圧電セラミックスシート11は、そのほぼ全面に内部電極12を備えている。内部電極12は、圧電セラミックスシート11の長さ方向に約0.4mmの絶縁距離を開けて2つ配列されている。各内部電極12は、圧電セラミックスシート11の周縁から約0.4mmの隙間を空けて配置されるとともに、その一部が圧電セラミックスシート11の周縁まで延びている。
【0014】
図4(b)に示す圧電セラミックスシート11は、その幅方向の略半分に内部電極12を備えている。内部電極12は、圧電セラミックスシート11の長さ方向に約0.4mmの絶縁距離を開けて2つ配列されている。各内部電極12は、圧電セラミックスシート11の周縁から約0.4mmの隙間を空けて配置されるとともに、その一部が圧電セラミックスシート11の周縁まで延びている。
【0015】
これら内部電極12を備えた圧電セラミックスシート11は、図4(a)に示す内部電極12の大きいものと、図4(b)に示す内部電極12の小さいものとが交互に複数枚積層されることにより、直方体状の圧電積層体13を構成している。
【0016】
圧電積層体13の長さ方向の両端面には2個ずつ、合計4個の外部電極17が設けられている。各外部電極17には、同種の圧電セラミックスシート11の同一位置に配される全ての内部電極12が接続されている。これにより、同種の圧電セラミックスシート11の同一位置に配される内部電極12は、同一の電位とされるようになっている。なお、外部電極17には図示しない配線が接続されている。配線は、リード線、フレキシブル基板等、可撓性を有する配線であれば任意のものでよい。
【0017】
圧電積層体13は、例えば、以下の通りに製造される。
圧電積層体13を製造するには、まず、圧電セラミックスシート11を製造する。圧電セラミックスシート11は、例えば、PZTの仮焼粉末と所定のバインダとを混合して作成された泥しょうをドクターブレード法によってフィルム上にキャスティングした後に乾燥し、フィルムから剥離することにより製造する。
【0018】
製造された圧電セラミックスシート11にはそれぞれ内部電極12のパターンを有するマスクを用いて内部電極材料を印刷する。そして、最初に、内部電極12を有しない圧電セラミックスシート11aを配置し、次いで、内部電極12を下向きにして正確に位置決めしつつ、形状の異なる内部電極12を有する圧電セラミックスシート11を交互に積層していく。積層された圧電セラミックスシート11は熱圧着した後に、所定の形状に裁断され、1200℃程度の温度で焼成されることにより圧電積層体13が製造される。
【0019】
また、その後、圧電セラミックスシート11の周縁に露出している内部電極12を連結するように、それぞれ外部電極17となる銀を焼き付けて、外部電極17を形成する。
最後に、対向する内部電極12間に直流高電圧を加えることにより圧電セラミックスシート11を分極処理し、圧電的に活性化する。
【0020】
次に、このようにして構成された圧電積層体13の動作について説明する。
圧電積層体13の長さ方向の一端に形成された2つの外部電極17をA相(A+,A−)、他端に形成された2つの外部電極17をB相(B+,B−)とする。A相およびB相に同位相で共振周波数に対応する交番電圧を加えると、図5に示すような1次の縦振動が励起されるようになっている。また、A相とB相とに逆位相で共振周波数に対応する交番電圧を加えると、図6に示すような2次の屈曲振動が励起されるようになっている。図5および図6は、有限要素法によるコンピュータ解析結果を示す図である。
【0021】
第1の摩擦接触子14は、圧電積層体13の2次の屈曲振動の腹となる2カ所の位置に接着されている。また、第2の摩擦接触子14aは、第1の摩擦接触子14と第1の摩擦接触子14との間で、かつ圧電積層体13の長さ方向における略中央の位置に接着されている。これにより、圧電積層体13に1次の縦振動が発生したときには、第1の摩擦振動子14が圧電積層体13の長さ方向(図2に示すX方向)に変位させられるようになっており、第2の摩擦接触子14aは変位させられないようになっている。
一方、圧電積層体13に2次の屈曲振動が生じたときには、第1の摩擦接触子14が圧電積層体13の幅方向(図2に示すZ方向)に変位させられるようになっており、第2の摩擦接触子14aが略その位置で揺動運動させられるようになっている。
したがって、超音波振動子3のA相とB相とに、位相が90度ずれた共振周波数に対応する交番電圧を加えることにより、1次の縦振動と2次の屈曲振動とが同時に発生し、図2に示すように、第1の摩擦接触子14および第2の摩擦接触子14aの位置において時計回りまたは反時計回りの略円振動または略楕円振動が発生するようになっている。
【0022】
本実施形態において、第1の摩擦接触子14同士は180度の位相差を有しており、第2の摩擦接触子14aと第1の摩擦接触子14とは、それぞれ90度の位相差を有している。一方、第1の摩擦接触子14と第2の摩擦接触子14aとでは、その時間的軌跡が逆方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=4:1程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=2:1程度である。
【0023】
振動子保持部材16は、断面略コ字状に形成された保持部16aと、この保持部16aの両側面から垂直に突出する保持部16aと一体的なピン15とを備えている。保持部16aは、圧電積層体13の幅方向の一側から圧電積層体13を囲むようにして、例えば、シリコーン樹脂またはエポキシ樹脂により圧電積層体13に接着されている。保持部16aが圧電積層体13に接着された状態で、保持部16aの両側面に一体的に設けられた2つのピン15は、圧電積層体13の縦振動と屈曲振動の共通の節となる位置に同軸に配置されるようになっている。
【0024】
押圧手段4は、図1に示すように、超音波振動子3に対して、その幅方向(Z方向)に、摩擦接触子14とは逆方向に離れた位置においてベース5に固定されるブラケット18と、このブラケット18に対して、超音波振動子3の幅方向に移動可能に支持された押圧部材19と、この押圧部材19に対して押圧力を加えるコイルスプリング20と、このコイルスプリング20による押圧力を調節する調節ネジ21と、ブラケット18に対する押圧部材19の移動を案内するガイドブッシュ22とを備えている。符号23は、ブラケット18をベース5に固定するネジである。
【0025】
押圧部材19には、超音波振動子3を厚さ方向に挟む2つの保持板24が備えられている。各保持板24には、振動子保持部材16の2本のピン15をそれぞれ貫通させる貫通孔25が設けられている。押圧部材19に加えられる押圧力は、保持板24およびその貫通孔25に貫通するピン15を介して超音波振動子3に伝達されるようになっている。
【0026】
コイルスプリング20は、圧縮コイルスプリングであって、調節ネジ21と押圧部材19との間に挟まれている。したがって、ブラケット18に対する調節ネジ21の締結位置を変化させることで、弾性変形量を変化させて押圧部材19を超音波振動子3方向に付勢する押圧力を変化させることができるようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係る超音波モータ1の作用について説明する。
本実施形態に係る超音波モータ1を作動させるには、外部電極17に接続された配線を介して、位相が90°異なる高周波電圧(A相およびB相)を供給する。
これにより、超音波振動子3に接着された第1の摩擦接触子14には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向(図2において反時計方向)に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、被駆動体2が推進されることになる。このとき、超音波振動子3に接着された第2の摩擦接触子14aは、第1の摩擦接触子14と反対方向(図2において時計方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第1の摩擦接触子14により推進される被駆動体2に制動力が与えられることになる。
【0028】
本実施形態による超音波モータ1によれば、超音波振動子3に接着された第2の摩擦接触子14aが、第1の摩擦接触子14と逆方向に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第1の摩擦接触子14により推進される被駆動体2に制動力が与えられることとなるので、被駆動体2の送り量(移動量)を微細(あるいは微小)なものとすることができる。
このとき、共振状態にある超音波振動子3の振動を制限しないので、各摩擦接触子14,14aにおける略楕円振動が不安定になることがなく、被駆動体2を安定的に微細送りすることができるという利点がある。
【0029】
本発明による超音波モータの第2実施形態を、図7を用いて説明する。
図7に示すように、本実施形態による超音波モータは、第1の摩擦接触子14と第1の摩擦接触子14との間に、二つの第2の摩擦接触子14bを有する超音波振動子33を備えているという点で前述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0030】
本実施形態において、第1の摩擦接触子14同士は180度の位相差を有しており、第2の摩擦接触子14b同士は略同位相となっている。これら第2の摩擦接触子14bと第1の摩擦接触子14とは、それぞれ90度の位相差を有している。一方、第1の摩擦接触子14と第2の摩擦接触子14bとでは、その時間的軌跡が逆方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=4:1程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=2:1程度である。
【0031】
本実施形態による超音波モータによれば、第2の摩擦接触子14bと被駆動体2の摺動板8との接触面積が、前述した第1実施形態のものよりも小さくなり、被駆動体2に付加される制動力が弱まり、被駆動体2の送り量を第1実施形態のものよりも増加させることができる。
その他の作用効果は、前述した第1実施形態のものと同じであるのでここではその説明を省略する。
【0032】
本発明による超音波モータの第3実施形態を、図8を用いて説明する。
図8に示すように、本実施形態による超音波モータは、第1の摩擦接触子14と、第3の摩擦接触子(出力端)14cとを有する超音波振動子43を備えているという点で前述した実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0033】
第1の摩擦接触子14については、第1の実施形態のところで説明したのでここではその説明を省略する。
第3の摩擦接触子14cは、圧電積層体13の長さ方向(図8に示すX方向)における両端部に接着されており、圧電積層体13に1次の縦振動が発生したときには、圧電積層体13の長さ方向に変位させられるようになっており、圧電積層体13に2次の屈曲振動が生じたときには、圧電積層体13の幅方向(図8に示すZ方向)に変位させられるようになっている。
【0034】
本実施形態において、第1の摩擦接触子14同士は180度の位相差を有しており、また、第3の摩擦接触子14c同士も180度の位相差を有している。一方、第1の摩擦接触子14と第3の摩擦接触子14cとでは、その時間的軌跡が逆方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第3の摩擦接触子14c=1:2程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14c=1:1程度である。
【0035】
このように構成された本実施形態に係る超音波モータの作用について説明する。
本実施形態に係る超音波モータを作動させるには、外部電極17に接続された配線を介して、位相が90°異なる高周波電圧(A相およびB相)を供給する。
これにより、超音波振動子3に接着された第3の摩擦接触子14cには、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向(図8において時計方向)に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、被駆動体2が推進されることになる。このとき、超音波振動子3に接着された第1の摩擦接触子14は、第3の摩擦接触子14cと反対方向(図8において反時計方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子14cにより推進される被駆動体2に制動力が与えられることになる。
【0036】
本実施形態による超音波モータによれば、圧電積層体13の長さ方向における両端部に設けられた第3の摩擦接触子14cにより被駆動体2が推進されることになるので、被駆動体2の送り量を第1実施形態および第2実施形態のものよりも増加させることができる。
また、超音波振動子3に接着された第1の摩擦接触子14が、第3の摩擦接触子14cと逆方向に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子14cにより推進される被駆動体2に制動力が与えられることとなるので、被駆動体2の送り量(移動量)を微細(あるいは微小)なものとすることができる。
【0037】
本発明による超音波モータの第4実施形態を、図9および図10を用いて説明する。
図9および図10に示すように、本実施形態による超音波モータは、圧電積層体13の長さ方向における両端部に設けられていた第3の摩擦接触子14cのうちのいずれか一方が省略された超音波振動子53を備えているという点で前述した第3実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した第3実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0038】
本実施形態による超音波モータによれば、第1の摩擦接触子14による制動力は維持されたまま、第3の摩擦接触子14cによる推進力が減少されることになるので、被駆動体2の送り量(移動量)を第3の実施形態のものよりも微細(あるいは微小)なものとすることができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態のものに限定されるものではなく、所望の送り量を得るため、適宜必要に応じて摩擦接触子の位置や大きさ、あるいは材質等を変更することができる。
【0040】
また、上述した各実施形態においては、圧電セラミックスシートとしてPZTを用いたが、これに限定されるものではなく、圧電性を示すものであれば、PZT以外の任意の圧電素子を用いてもよい。
さらに、内部電極の材質として銀パラジウム合金を用いたが、これに代えて、銀、ニッケル、白金または金を用いてもよい。
さらにまた、被駆動体2の表面にジルコニアセラミックスからなる摺動板を接着する代わりに、ジルコニアセラミックスを溶射法により被駆動体2の表面に付着させることにしてもよい。
【0041】
さらにまた、図11に示すように、第1実施形態のところで説明した第2の摩擦接触子14a(図2参照)と、第3実施形態のところで説明した第3の摩擦接触子14c(図8参照)とを組み合わせて超音波振動子63を構成するようにすることもできる。
本実施形態において、第3の摩擦接触子14c同士は180度の位相差を有しており、第2の摩擦接触子14aと第3の摩擦接触子14cとは、それぞれ90度の位相差を有している。一方、第2の摩擦接触子14aと第3の摩擦接触子14cとでは、その時間的軌跡が同方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14a:第3の摩擦接触子14c=1:5程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=1:2程度である。
本実施形態による超音波モータによれば、超音波振動子3に接着された第2の摩擦接触子14aおよび第3の摩擦接触子14cが、同方向に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、被駆動体2が推進されることになる。すなわち、被駆動体2には推進力のみが与えられることとなるので、被駆動体2の送り量(移動量)を大幅に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波モータを示す全体構成図である。
【図2】図1の超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図3】図2の超音波振動子を構成する圧電積層体を示す斜視図である。
【図4】図3の圧電積層体を構成する圧電セラミックスシートを示す斜視図である。
【図5】図2の圧電積層体が1次の縦振動モードで振動する様子をコンピュータ解析により示す図である。
【図6】図2の圧電積層体が2次の屈曲振動モードで振動する様子をコンピュータ解析により示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図11】本発明の第6の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 超音波モータ
2 被駆動体
3 超音波振動子
4 押圧手段
11 圧電セラミックスシート(電気機械変換素子)
14 第1の摩擦接触子(出力端)
14a 第2の摩擦接触子(出力端)
14b 第2の摩擦接触子(出力端)
14c 第3の摩擦接触子(出力端)
33 超音波振動子
43 超音波振動子
53 超音波振動子
63 超音波振動子
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁型モータに代わる新しいモータとして超音波モータが注目されている。この超音波モータは、従来の電磁型モータに比べ以下のような利点を有している。
(1)ギヤなしで高トルクが得られる。
(2)電気OFF時に保持力がある。
(3)高分解能である。
(4)静粛性に富んでいる。
(5)磁気的ノイズを発生せず、また、ノイズの影響も受けない。
【0003】
従来の超音波モータとしては、特許文献1に開示された構造のものがある。この特許文献1に開示された超音波モータは、被駆動体と対向する弾性体の面に、少なくとも3つの駆動部を有する構成となっている。
【特許文献1】特開2001−258277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の超音波モータでは、すべての駆動部が同一方向に円運動または楕円運動するようになっており、被駆動体を微細(あるいは微小)送りするには、円運動または楕円運動の振幅を小さくすることが必要である。しかしながら、共振状態を保ちながら弾性体の振動の振幅をコントロールすることは困難であり、その結果、被駆動体を安定して微細送りすることが困難であるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、被駆動体を安定的に微細(あるいは微小)送りすることができる超音波モータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明は、以下の手段を提供する。
この発明は、電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における略中央部に設けられた第2の摩擦接触子とを備える。
この発明によれば、電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧が供給されることにより、第1の摩擦接触子には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、被駆動体が推進されることになる。このとき、第2の摩擦接触子は、第1の摩擦接触子と逆方向(他方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、第1の摩擦接触子により推進される被駆動体に制動力を与えることになる。
【0007】
また、この発明は、電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における両端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える。
この発明によれば、電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧が供給されることにより、第3の摩擦接触子には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、被駆動体が推進されることになる。このとき、第1の摩擦接触子は、第3の摩擦接触子と逆方向(他方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子により推進される被駆動体に制動力を与えることになる。
【0008】
さらに、この発明は、電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における一端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える。
この発明によれば、電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧が供給されることにより、第3の摩擦接触子には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、被駆動体が推進されることになる。このとき、第1の摩擦接触子は、第3の摩擦接触子と逆方向(他方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子により推進される被駆動体に制動力を与えることになる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、電気機械変換素子に備えられた複数の摩擦接触子の略楕円振動の振幅を調節する必要がなく、被駆動体を安定的に微細(あるいは微小)送りすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態に係る超音波モータについて、図1〜図7を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る超音波モータ1は、図1に示すように、被駆動体2に接触配置される超音波振動子3と、この超音波振動子3を被駆動体2に押し付ける押圧手段4とを備えている。
被駆動体2は、ベース5に固定された直動ベアリング6の可動部7に固定されている。また、被駆動体2には、超音波振動子3に接触する面に、例えば、ジルコニアセラミックスからなる摺動板8が接着されている。図中の符号9は、直動ベアリング6の固定部10をベース5に固定するためのネジである。
【0011】
超音波振動子3は、図2〜図4に示すように、矩形板状の圧電セラミックスシート(電気機械変換素子)11の片側面にシート状の内部電極12(図4参照)を設けたものを複数枚積層してなる直方体状の圧電積層体13と、この圧電積層体13の一側面に接着された第1の摩擦接触子(出力端)14および第2の摩擦接触子(出力端)14aと、これら摩擦接触子14,14aが設けられた側面に隣接する側面からピン15を突出させる振動子保持部材16とを備えている。
【0012】
圧電積層体13は、図3に示すように、例えば、長さ18mm、幅4.4mm、厚さ2mmの外形寸法を備えている。
圧電積層体13を構成する圧電セラミックスシート11は、図4に示すように、例えば、厚さ約80μmのチタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックス素子(以下、PZTという。)である。PZTとしては、Qm値の大きなハード系材料を選択した。Qm値は約1800である。
また、内部電極12は、例えば、厚さ約4μmの銀パラジウム合金からなっている。この内部電極12は、積層方向の一端に配置される圧電セラミックスシート11aには設けられていない。一方、それ以外の圧電セラミックスシート11には、図4に示すような2種類の内部電極12のいずれか一つが設けられている。
【0013】
図4(a)に示す圧電セラミックスシート11は、そのほぼ全面に内部電極12を備えている。内部電極12は、圧電セラミックスシート11の長さ方向に約0.4mmの絶縁距離を開けて2つ配列されている。各内部電極12は、圧電セラミックスシート11の周縁から約0.4mmの隙間を空けて配置されるとともに、その一部が圧電セラミックスシート11の周縁まで延びている。
【0014】
図4(b)に示す圧電セラミックスシート11は、その幅方向の略半分に内部電極12を備えている。内部電極12は、圧電セラミックスシート11の長さ方向に約0.4mmの絶縁距離を開けて2つ配列されている。各内部電極12は、圧電セラミックスシート11の周縁から約0.4mmの隙間を空けて配置されるとともに、その一部が圧電セラミックスシート11の周縁まで延びている。
【0015】
これら内部電極12を備えた圧電セラミックスシート11は、図4(a)に示す内部電極12の大きいものと、図4(b)に示す内部電極12の小さいものとが交互に複数枚積層されることにより、直方体状の圧電積層体13を構成している。
【0016】
圧電積層体13の長さ方向の両端面には2個ずつ、合計4個の外部電極17が設けられている。各外部電極17には、同種の圧電セラミックスシート11の同一位置に配される全ての内部電極12が接続されている。これにより、同種の圧電セラミックスシート11の同一位置に配される内部電極12は、同一の電位とされるようになっている。なお、外部電極17には図示しない配線が接続されている。配線は、リード線、フレキシブル基板等、可撓性を有する配線であれば任意のものでよい。
【0017】
圧電積層体13は、例えば、以下の通りに製造される。
圧電積層体13を製造するには、まず、圧電セラミックスシート11を製造する。圧電セラミックスシート11は、例えば、PZTの仮焼粉末と所定のバインダとを混合して作成された泥しょうをドクターブレード法によってフィルム上にキャスティングした後に乾燥し、フィルムから剥離することにより製造する。
【0018】
製造された圧電セラミックスシート11にはそれぞれ内部電極12のパターンを有するマスクを用いて内部電極材料を印刷する。そして、最初に、内部電極12を有しない圧電セラミックスシート11aを配置し、次いで、内部電極12を下向きにして正確に位置決めしつつ、形状の異なる内部電極12を有する圧電セラミックスシート11を交互に積層していく。積層された圧電セラミックスシート11は熱圧着した後に、所定の形状に裁断され、1200℃程度の温度で焼成されることにより圧電積層体13が製造される。
【0019】
また、その後、圧電セラミックスシート11の周縁に露出している内部電極12を連結するように、それぞれ外部電極17となる銀を焼き付けて、外部電極17を形成する。
最後に、対向する内部電極12間に直流高電圧を加えることにより圧電セラミックスシート11を分極処理し、圧電的に活性化する。
【0020】
次に、このようにして構成された圧電積層体13の動作について説明する。
圧電積層体13の長さ方向の一端に形成された2つの外部電極17をA相(A+,A−)、他端に形成された2つの外部電極17をB相(B+,B−)とする。A相およびB相に同位相で共振周波数に対応する交番電圧を加えると、図5に示すような1次の縦振動が励起されるようになっている。また、A相とB相とに逆位相で共振周波数に対応する交番電圧を加えると、図6に示すような2次の屈曲振動が励起されるようになっている。図5および図6は、有限要素法によるコンピュータ解析結果を示す図である。
【0021】
第1の摩擦接触子14は、圧電積層体13の2次の屈曲振動の腹となる2カ所の位置に接着されている。また、第2の摩擦接触子14aは、第1の摩擦接触子14と第1の摩擦接触子14との間で、かつ圧電積層体13の長さ方向における略中央の位置に接着されている。これにより、圧電積層体13に1次の縦振動が発生したときには、第1の摩擦振動子14が圧電積層体13の長さ方向(図2に示すX方向)に変位させられるようになっており、第2の摩擦接触子14aは変位させられないようになっている。
一方、圧電積層体13に2次の屈曲振動が生じたときには、第1の摩擦接触子14が圧電積層体13の幅方向(図2に示すZ方向)に変位させられるようになっており、第2の摩擦接触子14aが略その位置で揺動運動させられるようになっている。
したがって、超音波振動子3のA相とB相とに、位相が90度ずれた共振周波数に対応する交番電圧を加えることにより、1次の縦振動と2次の屈曲振動とが同時に発生し、図2に示すように、第1の摩擦接触子14および第2の摩擦接触子14aの位置において時計回りまたは反時計回りの略円振動または略楕円振動が発生するようになっている。
【0022】
本実施形態において、第1の摩擦接触子14同士は180度の位相差を有しており、第2の摩擦接触子14aと第1の摩擦接触子14とは、それぞれ90度の位相差を有している。一方、第1の摩擦接触子14と第2の摩擦接触子14aとでは、その時間的軌跡が逆方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=4:1程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=2:1程度である。
【0023】
振動子保持部材16は、断面略コ字状に形成された保持部16aと、この保持部16aの両側面から垂直に突出する保持部16aと一体的なピン15とを備えている。保持部16aは、圧電積層体13の幅方向の一側から圧電積層体13を囲むようにして、例えば、シリコーン樹脂またはエポキシ樹脂により圧電積層体13に接着されている。保持部16aが圧電積層体13に接着された状態で、保持部16aの両側面に一体的に設けられた2つのピン15は、圧電積層体13の縦振動と屈曲振動の共通の節となる位置に同軸に配置されるようになっている。
【0024】
押圧手段4は、図1に示すように、超音波振動子3に対して、その幅方向(Z方向)に、摩擦接触子14とは逆方向に離れた位置においてベース5に固定されるブラケット18と、このブラケット18に対して、超音波振動子3の幅方向に移動可能に支持された押圧部材19と、この押圧部材19に対して押圧力を加えるコイルスプリング20と、このコイルスプリング20による押圧力を調節する調節ネジ21と、ブラケット18に対する押圧部材19の移動を案内するガイドブッシュ22とを備えている。符号23は、ブラケット18をベース5に固定するネジである。
【0025】
押圧部材19には、超音波振動子3を厚さ方向に挟む2つの保持板24が備えられている。各保持板24には、振動子保持部材16の2本のピン15をそれぞれ貫通させる貫通孔25が設けられている。押圧部材19に加えられる押圧力は、保持板24およびその貫通孔25に貫通するピン15を介して超音波振動子3に伝達されるようになっている。
【0026】
コイルスプリング20は、圧縮コイルスプリングであって、調節ネジ21と押圧部材19との間に挟まれている。したがって、ブラケット18に対する調節ネジ21の締結位置を変化させることで、弾性変形量を変化させて押圧部材19を超音波振動子3方向に付勢する押圧力を変化させることができるようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係る超音波モータ1の作用について説明する。
本実施形態に係る超音波モータ1を作動させるには、外部電極17に接続された配線を介して、位相が90°異なる高周波電圧(A相およびB相)を供給する。
これにより、超音波振動子3に接着された第1の摩擦接触子14には、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向(図2において反時計方向)に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、被駆動体2が推進されることになる。このとき、超音波振動子3に接着された第2の摩擦接触子14aは、第1の摩擦接触子14と反対方向(図2において時計方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第1の摩擦接触子14により推進される被駆動体2に制動力が与えられることになる。
【0028】
本実施形態による超音波モータ1によれば、超音波振動子3に接着された第2の摩擦接触子14aが、第1の摩擦接触子14と逆方向に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第1の摩擦接触子14により推進される被駆動体2に制動力が与えられることとなるので、被駆動体2の送り量(移動量)を微細(あるいは微小)なものとすることができる。
このとき、共振状態にある超音波振動子3の振動を制限しないので、各摩擦接触子14,14aにおける略楕円振動が不安定になることがなく、被駆動体2を安定的に微細送りすることができるという利点がある。
【0029】
本発明による超音波モータの第2実施形態を、図7を用いて説明する。
図7に示すように、本実施形態による超音波モータは、第1の摩擦接触子14と第1の摩擦接触子14との間に、二つの第2の摩擦接触子14bを有する超音波振動子33を備えているという点で前述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0030】
本実施形態において、第1の摩擦接触子14同士は180度の位相差を有しており、第2の摩擦接触子14b同士は略同位相となっている。これら第2の摩擦接触子14bと第1の摩擦接触子14とは、それぞれ90度の位相差を有している。一方、第1の摩擦接触子14と第2の摩擦接触子14bとでは、その時間的軌跡が逆方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=4:1程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=2:1程度である。
【0031】
本実施形態による超音波モータによれば、第2の摩擦接触子14bと被駆動体2の摺動板8との接触面積が、前述した第1実施形態のものよりも小さくなり、被駆動体2に付加される制動力が弱まり、被駆動体2の送り量を第1実施形態のものよりも増加させることができる。
その他の作用効果は、前述した第1実施形態のものと同じであるのでここではその説明を省略する。
【0032】
本発明による超音波モータの第3実施形態を、図8を用いて説明する。
図8に示すように、本実施形態による超音波モータは、第1の摩擦接触子14と、第3の摩擦接触子(出力端)14cとを有する超音波振動子43を備えているという点で前述した実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0033】
第1の摩擦接触子14については、第1の実施形態のところで説明したのでここではその説明を省略する。
第3の摩擦接触子14cは、圧電積層体13の長さ方向(図8に示すX方向)における両端部に接着されており、圧電積層体13に1次の縦振動が発生したときには、圧電積層体13の長さ方向に変位させられるようになっており、圧電積層体13に2次の屈曲振動が生じたときには、圧電積層体13の幅方向(図8に示すZ方向)に変位させられるようになっている。
【0034】
本実施形態において、第1の摩擦接触子14同士は180度の位相差を有しており、また、第3の摩擦接触子14c同士も180度の位相差を有している。一方、第1の摩擦接触子14と第3の摩擦接触子14cとでは、その時間的軌跡が逆方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第3の摩擦接触子14c=1:2程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14c=1:1程度である。
【0035】
このように構成された本実施形態に係る超音波モータの作用について説明する。
本実施形態に係る超音波モータを作動させるには、外部電極17に接続された配線を介して、位相が90°異なる高周波電圧(A相およびB相)を供給する。
これにより、超音波振動子3に接着された第3の摩擦接触子14cには、縦振動モードと屈曲振動モードとがミックスされた略楕円振動が一方向(図8において時計方向)に発生し、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、被駆動体2が推進されることになる。このとき、超音波振動子3に接着された第1の摩擦接触子14は、第3の摩擦接触子14cと反対方向(図8において反時計方向)に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子14cにより推進される被駆動体2に制動力が与えられることになる。
【0036】
本実施形態による超音波モータによれば、圧電積層体13の長さ方向における両端部に設けられた第3の摩擦接触子14cにより被駆動体2が推進されることになるので、被駆動体2の送り量を第1実施形態および第2実施形態のものよりも増加させることができる。
また、超音波振動子3に接着された第1の摩擦接触子14が、第3の摩擦接触子14cと逆方向に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、第3の摩擦接触子14cにより推進される被駆動体2に制動力が与えられることとなるので、被駆動体2の送り量(移動量)を微細(あるいは微小)なものとすることができる。
【0037】
本発明による超音波モータの第4実施形態を、図9および図10を用いて説明する。
図9および図10に示すように、本実施形態による超音波モータは、圧電積層体13の長さ方向における両端部に設けられていた第3の摩擦接触子14cのうちのいずれか一方が省略された超音波振動子53を備えているという点で前述した第3実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した第3実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0038】
本実施形態による超音波モータによれば、第1の摩擦接触子14による制動力は維持されたまま、第3の摩擦接触子14cによる推進力が減少されることになるので、被駆動体2の送り量(移動量)を第3の実施形態のものよりも微細(あるいは微小)なものとすることができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態のものに限定されるものではなく、所望の送り量を得るため、適宜必要に応じて摩擦接触子の位置や大きさ、あるいは材質等を変更することができる。
【0040】
また、上述した各実施形態においては、圧電セラミックスシートとしてPZTを用いたが、これに限定されるものではなく、圧電性を示すものであれば、PZT以外の任意の圧電素子を用いてもよい。
さらに、内部電極の材質として銀パラジウム合金を用いたが、これに代えて、銀、ニッケル、白金または金を用いてもよい。
さらにまた、被駆動体2の表面にジルコニアセラミックスからなる摺動板を接着する代わりに、ジルコニアセラミックスを溶射法により被駆動体2の表面に付着させることにしてもよい。
【0041】
さらにまた、図11に示すように、第1実施形態のところで説明した第2の摩擦接触子14a(図2参照)と、第3実施形態のところで説明した第3の摩擦接触子14c(図8参照)とを組み合わせて超音波振動子63を構成するようにすることもできる。
本実施形態において、第3の摩擦接触子14c同士は180度の位相差を有しており、第2の摩擦接触子14aと第3の摩擦接触子14cとは、それぞれ90度の位相差を有している。一方、第2の摩擦接触子14aと第3の摩擦接触子14cとでは、その時間的軌跡が同方向となっている。また、発生する振動振幅に関しては、縦振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14a:第3の摩擦接触子14c=1:5程度であり、屈曲振動の振幅比が、第1の摩擦接触子14:第2の摩擦接触子14a=1:2程度である。
本実施形態による超音波モータによれば、超音波振動子3に接着された第2の摩擦接触子14aおよび第3の摩擦接触子14cが、同方向に略楕円振動するようになっており、その楕円振動の接線方向に沿って被駆動体2の摺動板8との間に生ずる摩擦力により、被駆動体2が推進されることになる。すなわち、被駆動体2には推進力のみが与えられることとなるので、被駆動体2の送り量(移動量)を大幅に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波モータを示す全体構成図である。
【図2】図1の超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図3】図2の超音波振動子を構成する圧電積層体を示す斜視図である。
【図4】図3の圧電積層体を構成する圧電セラミックスシートを示す斜視図である。
【図5】図2の圧電積層体が1次の縦振動モードで振動する様子をコンピュータ解析により示す図である。
【図6】図2の圧電積層体が2次の屈曲振動モードで振動する様子をコンピュータ解析により示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【図11】本発明の第6の実施形態に係る超音波モータの超音波振動子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 超音波モータ
2 被駆動体
3 超音波振動子
4 押圧手段
11 圧電セラミックスシート(電気機械変換素子)
14 第1の摩擦接触子(出力端)
14a 第2の摩擦接触子(出力端)
14b 第2の摩擦接触子(出力端)
14c 第3の摩擦接触子(出力端)
33 超音波振動子
43 超音波振動子
53 超音波振動子
63 超音波振動子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、
前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における略中央部に設けられた第2の摩擦接触子とを備える超音波モータ。
【請求項2】
電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、
前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における両端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える超音波モータ。
【請求項3】
電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、
前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における一端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える超音波モータ。
【請求項1】
電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、
前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における略中央部に設けられた第2の摩擦接触子とを備える超音波モータ。
【請求項2】
電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、
前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における両端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える超音波モータ。
【請求項3】
電気機械変換素子を備え、該電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧手段とを備え、
前記出力端が、屈曲振動の略腹となる位置に設けられた第1の摩擦接触子と、前記超音波振動子の長さ方向における一端部に設けられた第3の摩擦接触子とを備える超音波モータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−254627(P2006−254627A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69303(P2005−69303)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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